かの雄々しきヴィクトールに祝福を! 作:ばくねつしゃいにんぐ
「ヴィクトールよ。雄々しきヴィクトールよ。我が愛し子、勇敢なるアバロンの戦士、ヴィクトールよ。」
ヴィクトールは聞きなれぬ女の声に目が覚める。温かな声だ。母のような慈愛に満ちた温かな声だ。
「勇敢なるアバロンの戦士よ。ヴィクトールよ。お前がこのまま輪廻の果てに消えゆくのは実に惜しい。なれば、おまえの願いを叶えるとともに今一度の生を与えよう。勇敢なるアバロンの戦士よ。ヴィクトールよ。お前の望みはなんだ。」
ぼんやりとする意識の中でなおもヴィクトールが願うはひとつ。アバロンの行く末だ。父は、弟は、アバロンは。ただそれだけがヴィクトールの中に燻っていた。
「アバロンは如何に。」
女がどのような存在であれ気にはしまい。ただあるがままの流れを受け容れる。ヴィクトール生来の気質だ。女は問うた。ならばヴィクトールは返すのみ。アバロンは、と。
「ああヴィクトールよ。お前の無念は心得ている。だが私の口からアバロンを語るには、語るべきことが多すぎる。」
「語れないというのであれば仕方がない。なれば我が望み、一度の生があるというのなら、なにとぞアバロンに。アバロンでの生を望む。」
「そうではない。そうではないのだヴィクトールよ。三千年。三千年だヴィクトールよ。お前がクジンシーの邪法に斃れ、こうして私の元に導かれるのに三千年だ。そしてアバロン。かの麗しきアバロンは四千年だ。まさに今、歴代の皇帝の悲願を果たさんと、悲しき歴史にピリオドを打たんと、剣を振るっているのだ。」
ヴィクトールの眼前に映しだされるは、アバロンの勇者達。勇者達に対するは、語るにも悍ましい化生、七英雄。勇者達は自らの命を削りながらも、膝をつくことなくアバロンの歴史が生み出した絶技の数々を絶え間なく繰り出していた。
銀河が煌めき、龍が舞い、神を宿した拳が七英雄を縫い止める。
月。どこか弟に似た女が月を思わせる片手半剣を掲げる。
太陽。どこか父に似た男が太陽を思わせる両手剣を掲げる。
「あぁ、アバロンは確かに。アバロンは確かに受け継がれていた。」
知らず、ヴィクトールの双眸から涙が溢れる。ヴィクトールただ一つの無念は晴れた。彼らこそがアバロンである。
アバロンの兄妹は感じていた。七英雄の内には、確かに息づくアバロンがあると。
偉大なるレオン、優しきジェラールは自らに。では雄々しきヴィクトールは。
感じるのだ。雄々しきヴィクトールを、憎き七英雄の内に。
呼んでいるのだ。父を。弟を。アバロンの兄妹に迷いはなかった。
月は雪を呼ぶ。飽和した闘気が結実し、白く輝く雪となり、七英雄に吹き荒ぶ。月は駆け、月は欠ける。音もなく振り下ろされた剣閃はさながら月光。軌跡は三日月を描き、深く七英雄を傷付ける。
飛沫く血は花が如く。太陽は動かじ。未だ夜は開けず、月の夜。
太陽は動かじ。未だ夜明けにあらず。ただ目を閉じ夜明けを待つ。
かの雄々しきヴィクトールの声を聞く。今暫し、今暫し。夜明けはすぐそこに。
太陽は動かじ。夜明けはすぐそこに。ただ目を閉じ暁を待つ。
かの雄々しきヴィクトールの声を聞く。声はもうない。閉じた目に映る光こそ暁。
無明を照らす光は、かの雄々しきヴィクトールの楔、未完の大剣、悲しみの剣の一欠片。月光に照らされ静かに光るアバロンの魂。
太陽は歩む。アバロンへ。
祈るように太陽の大剣を掲げる。
帝国の礎となり散っていた先帝。そして、偉大なるレオン、優しきジェラール、そして雄々しきヴィクトール。彼らの無念はここで晴れる。彼らの悲願はここで果たす。
太陽は吠える。
「アバロンは、ここにあり!」
太陽は夜を切り裂いた。