最初から悪ふざけ全開ですが反省はしていません。
今回の話に伴いほんの少しですがプロローグを書き直しました。
校門をくぐると、まず目の前に広がったのは壮観な学園……ではなく、腕を組んだ一人の男性だった。
校舎の前で仁王立ちしていたその男性はこちらに気づくと、足元にあるダンボールの中から一つの封筒の様な物を持って近くに寄ってきた。
「おはよう。早いな小島」
「おはようございます、西村先生」
この人は
趣味のトライアスロンで鍛えたその身体はスーツの上からでもはっきりと存在感を主張している。その身体と趣味もあいまって、生徒からは鉄人と呼ばれ恐れられている。本人は呼ばれることを嫌っているようだが、この人のことを恐れている生徒が呼ぶのをやめる事はない。
そんなにも生徒から恐れられている先生だが、実際は気さくで生徒の悩み事なども親身になって聞いてくれる良い先生である。前世でも根強い人気があり、数ある攻略対象でも彼を選ぶ女性は少なくなかった。
もっとも彼とのルートに入るためには教師と生徒という関係に加え、まず自分自身が問題児になる必要がある。
問題児になった上で、彼のテリトリーである進路指導室で二人っきりで補習を受けることがルート開放の条件である。
「ほら受け取れ」
そう言って差し出してきた封筒を受け取り中身を確認する。
この学園では振り分け試験というものがあり、二年に上がる段階でテストを行いその点数で自分の所属するクラスを決めるのだ。クラスはAからFまであり上から順に教室の設備に格差がある。
今回私はちゃんと勉強もしたしAクラスも夢ではない、そう考え祈るように封筒の中身を開いた。
「……あれ?」
「残念だったな……途中から解答欄がずれてたんだ」
「そんな……」
取り出した紙に書かれていたのはFという文字。まだ信じられないがどうやら私はFクラスらしい、別に問題はないのだけどあれだけ頑張った結果がこれだとかなりショックだ。
「因みにもし解答がずれてなかったら、私はどのクラスだったんですか?」
「ん? あーここでは正確にはわからんが確かギリギリでAクラスに届かないくらいだったはずだ」
なんと、ではBクラス入りしていたかもしれないのか。その設備は魅力的ではあるが、確かあのクラスはFクラスによって散々な目に会わせられたはずだ。そう考えるとBクラスでなくて良かった。
「まぁ気を落とすな、何かあったら指導室に来い相談くらいには乗るぞ」
振り分け試験の結果で落ち込んでいると思ったのか、肩に手を置きながら笑顔でそう語りかけた西村先生。こういうところが女性に人気なんでしょうか……。
「わかりました。ありがとうございます」
「おう。遅刻する前に教室に行けよ」
西村先生に返事を返し校舎の方へ歩き始める。
☆
靴も履き替えFクラスの教室に向かうため廊下を歩いている。
Fクラスは旧校舎にあるため、まずは旧校舎へ向かう必要がある。下駄箱から結構離れているため少し歩かなくてはならないのが難点だと思う。
「(Aクラスなんかはすぐ到着するのになぁ……)」
心の中で文句を言っていると、新校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下で一人の生徒がキョロキョロと辺りを見回しているのが見えた。
「(どうしたんだろう……ひょっとして迷子なのかな)」
このまま無視して進むのも気が引けるので、思い切って声をかけることにした。
「あのー、どうかしました?」
「ん? おお! 丁度良いところに、すまんがFクラスへの道を教えてくれんかのう……恥ずかしながら迷ってしまったのじゃ」
やっぱり迷子のようだった。
というかこの人って
木下秀吉というのは女の子みたいな容姿を持ち、文月学園の男子から熱烈な好意を受けていているれっきとした男の子である。演劇部のホープであり、それもあって学内の人気は高い。
勿論彼もゲームの中に攻略対象として存在していた。その容姿のため常に男らしく振舞おうとするのだけど、周りからは女の子扱いされてしまうので少し不憫な子である。
「(まぁそこが可愛いのだけど……)」
どうせ自分もそこへ向かうのだし、それなら一緒に行くのも悪くないかもしれない。
そう考え相手の目を見て返事をする。
「良いですよ、私もそこに行く途中でしたから」
「助かったのじゃ……ん? お主もFクラスに行くのかのう?」
私がそう応えるとホッとした表情をして、疑問に思ったのかそんなことを聞いてきた。
「はい。まぁ色々ありまして……」
情けないので、解答欄のことは黙っていることにする。
「そうか、おおっと自己紹介がまだじゃったな……わしは木下秀吉じゃ。これからよろしく頼むぞい」
知っていますとは言えないですね……。
それを表に出さずに初めて知ったという体でこちらも自己紹介する。
「あ、小島有希といいます。こちらこそよろしくね」
私も挨拶すると、うむと言い残し歩いて行ってしまう木下君。迷いなく歩いているけど、道がわからないから私に声をかけたんじゃなかったかな……。
そんなことを思っていると、彼は踵を返して戻ってきてしまう。その顔は耳まで真っ赤になっている。
本人は男らしく先頭を歩いていったんだと思うけど、本来の目的を思い出して戻ってきたのかな?
少しばつが悪そうに頬をかいている。ドジなところもやっぱり可愛いな……。
☆
そのまま私が先頭を歩いてFクラスへとたどり着いた。
教室に入ると朝が早いこともあってまだ人がまだらだ。既にいる人も机に突っ伏したり、ケータイを弄くっていたり、ゲームに興じたり、皆思い思いに過ごしている。
「どうしたのじゃ? 入らんのか?」
「あ、ごめんなさい」
木下君に促されて教室に入る。席は決まっていないので適当に座る。廊下側から二列目の後ろから二番目の席にした。私が座ったのを確認してから木下君も席に着く、私の右隣に……。
確かに知ってる人が近くになってくれると嬉しいけど、席はあるんだから別のところでも良かったのに。
「それにしても酷い教室じゃのう……」
座るや否や教室を見渡し、ため息混じりにそう零す木下君。
Fクラスは最低クラスという名前に負けず劣らず劣悪な環境になっている。去年までは机と椅子で授業を受けていたんだけど、この教室はそれがない。その代わりにちゃぶ台と座布団が並べられていた。床も畳が敷いてある。
私は最初から覚悟していたことなのでそこまで悲観していないけど、やっぱり悪環境で勉強する気にはなれないので少しでも良い場所を選んだ。というのもゲームではそこまで詳しく描写されてなかったけど、何個かのちゃぶ台は壊れてるし、教卓近くの畳に至っては腐っていたからだ。
「そうですね、ちょっとこれは……」
「何とかならんものかのう」
教室の状況から始まり、時間があったので木下君とずっと喋っていた。何やら視線を感じたので振り返ると何名かの男子がこちら笑いながら見ていた。そこでやっと思い出したけど、そういえばこういう人達だったな……。
眺めてくる人達を極力無視しながら話していると、いつの間にか時間が経っていて教室の扉の前で騒ぎながら一人の男子とスーツ姿の男性が入ってくる。
「えー皆さん席に着いて下さい……。私がこのクラスの担任の……
この人はFクラスの最初の担任である福原先生だ。男性教師なのでこの人も攻略対象だと思いきや、何故かこの人へのルートは確立されてない。風の噂でフラグが立った人もいるというのを聞いたことがあるけど、その方法は私を含め大半の人が知らない。所謂隠しキャラ的な存在なのか、そもそもルート自体がないのかもしれない。
「え~まずは自己紹介でもしてもらいましょうか、では廊下側の人から……」
「はい。えっと……元一年B組の――」
先生の言葉に従って最初の人が自己紹介を始めた。
「(にしても自己紹介かぁ……正直言って苦手だなぁ。普通に名前だけでいいかなー、……そんなわけにもいかないですよね、うーん趣味とかでいいや)」
「はい、ありがとうございます。じゃあ次は小島さんお願いします」
考え込んで内側に向いていた意識がその言葉によって外側に引っ張られる。
「あっはい。えーっと……小島有希です。趣味は料理などです。これから一年仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします。」
言い終わると、教室中から野太い声で歓声があがる。中には結婚してくれとか愛してるなどといったことも言い放つ猛者もちらほら見受けられた。
「(思った以上に濃いクラスメイトだなぁ……)」
これからのことが不安になりながらも仕事は終わったとばかりに自分の座布団に座る。
「(これ……どうにかならないかなぁ、お尻痛くなりそう)」
下に敷いてる座布団の端を摘みながら、ため息をつきそうな気持ちで考える。教室内でもマシな場所を選んだつもりではあったが、どうやら座布団はハズレを引いたらしい、綿が殆ど入っていないのでただの布に座っているようなものである。
「…………土屋康太」
気になる名前が聞こえてきたので顔を上げる。
名前だけ告げると、声の主はスッと座ってしまう。
「(名前だけでも良かったんだ……)」
自己紹介を必死とは言わないまでもそれなりに考えてた自分にとってはそれは聞きたくなかった事実であり、出来ることならもっと前に言って欲しかったことでもある。
また関心のない相手やそれに付随する相手にはとことん興味を抱かない。
ここまで言うと、ただ運動神経の良い冷たい人間と思われがちだが、彼の本性はそんなことではない。
この文月学園には、
勿論彼も攻略対象だ。彼と仲良くなるのは簡単、彼のお店を手伝うか写真のモデルになるのが早い。他にも方法は色々とあるけどこの二つが確実である。
「――気軽にダーリンって呼んでください♪」
『ダァーリーンッ!!』
「……うぷっ、失礼忘れてください」
「(そんなに気持ち悪いのなら最初からやらなきゃいいのに……)」
呆れながらも席についた彼の方に視線をやると、向こうも気づいたみたいだ。彼と目が合うとその手を振って無邪気な笑顔を向けてくる。
振り返すか迷ったが、結局手を振ってそれに応える。その瞬間どこからともなく大量の文房具が彼に向かって飛んできた。辺りを伺うと一部を除いたクラス中で奇妙な覆面人間が奇声を上げている。
「(忘れてた、このクラスはそういうクラスだったんだ……)」
またもクラスの様子に呆れる。
文房具による襲撃を受けた彼はというと、無傷とは言えないが何とか無事のようだ。制服の至る所がボロボロになっているが……。
「(あれは……やっぱり私のせいなのかな?)」
少し心を痛めながらも彼の様子をこっそり伺う、
彼の名前は
しかし、彼の長所はそのバカという短所を補って余りあるほどである。
まず底抜けに優しい、少し子供っぽくもあるがその無邪気な物腰にやられたお姉さま方は前世では多かった。しかも偶に魅せる男らしい行動という二段構えで落とされた女性は数多いだろう、何でもそのギャップが堪らないのだとか……。
「(……うん、あれはカッコいいよね)」
攻略対象の中でも彼の人気は群を抜いており、全攻略対象の中で一、二を争う人気である。
だが彼を狙うライバルは多く主人公は様々な障害と闘わなくてはならない。その中でも彼の姉は手ごわく一番の強敵と言える。仲良くなれば心強い味方になるがそこに持って行くまでが苦労する。
「……シナリオが違う…………」
小さな声で呟かれたその言葉は誰にも聞かれることはなかった。
主人公のキャラが定まりません、どうしよーかな…