ロクでなしTS転生者と禁忌教典 作:男の子に、オレはなる!
レーンside
目が覚めたら既に色々と終わっていた。
ニーナはウィーナス商会の輩とフェジテを出てしまっており、アルド爺さんからはこっ酷く叱られてと散々である。もう踏んだり蹴ったりだ。
一応、ニーナからは置き手紙が残っていたがろくに別れの挨拶もできず終い。手紙にはごめんだとかボクのせいだとか今までありがとうだの、やたら悲壮感漂う文面ばかり。何がさよならだ、今度ウィーナス商会に乗り込んでやるぞこんちくしょう。
まあ、なんだ。別に今生の別れというわけでもないのである。会おうと思って会えるわけではないが、二度と顔も見れないなんてことはないはずだ。また会える。だから、この目から溢れ出す汗もすぐ止まるさ。
さて、問題が一つ解決したところでオレの問題だ。未だオレは野望を諦めたわけではない。何が何でも魔術の世界に踏み込むのだ。そのためにもグレン君にはこれからも孤児院に通ってもらいたいところだが、来てくれるだろうか?
グレンのヤツ、ニーナ目当てで来ていた節があったからなぁ……オレ一人のために貴重な時間を割いてまで貧民街の奥地まで足を運びはしないか……。
なんて一人で勝手に落ち込んでいたら普通に来てくれた。しかも驚くべき人物を伴って。というか、オレが会いたくて会いたくて震えていたセリカ=アルフォネア当人である。
ご本人登場の時点で既に一杯一杯であったが、更なる急展開がオレを襲う。なんとセリカ=アルフォネアがオレを引き取りたいと申し出たのだ。どうやらオレが気を失っている間にアルド爺さんとは話をつけていたらしく、爺さんもニーナの時のように否定はしない。オレの好きにしていい、と何時になく優しい笑顔で言ってくるものだからオレはもう大混乱である。
いや、セリカ=アルフォネアに引き取っていただけること自体は嬉しいのだ。彼女の下に行けば予てからの望みである魔術に触れることができる、ひいては野望の成就に格段と近づけるだろう。この機を逃す手はない……ないのだが。
何分話が急すぎる。本当にオレの居ない間に話が進んでいて、こちらはまだ理解がこれっぽっちも追いついていない。ニーナのことで手一杯というのもあるがちょっと落ち着いて考える時間を頂けないだろうか。
オレの申し出は特に異を唱えられることなく受け入れられた。
今日のところは帰っていくグレンとセリカ=アルフォネアを見送る。グレンは終始無言、複雑な表情であったが何を言いたいのか察せた。要は孤児院のちびっこ共をどうするのかというところだろう。
そんなこと、言われなくとも分かっている。ニーナが居なくなった今、ちびっこ共は不安がっている。ここでオレまで抜けてしまえばちびっこ共がどうなるか分かったものではない。仮にセリカ=アルフォネアの下へ行くにしてもちびっこ共が落ち着くのを待たなければならないだろう……でも、相手が待ってくれるとも限らない……。
そもそも、何だって唐突にオレを引き取る気になったのか。そのあたりをアルド爺さんに尋ねると、何でもオレの
何でもオレの怪我を治療したのがセリカ=アルフォネアであり、その時にちょろっと検査して判明したそうだ。なるほど、あまりにも違和感の一つもなかったから忘れていたが、肩の傷を治してくれたのは彼女だったのか。これはまたお礼を言っておかないとならないな。
ともあれ、どうしたものか……。
正直言えば、今すぐにでも飛びつきたい案件である。オレの野望云々もあるが、孤児院への負担が軽減されるのも思えば悪くない申し出だ。問題があるとすればちびっこ共への対応、これに限る。
一人部屋に篭って悩み込んでいるとアルド爺さんが話があるとやってきた。話の内容は勿論、先の件について。どうやらオレがちびっこ共を理由に躊躇っているのを察していたらしく、ちびっこ達のことは大丈夫だから後悔しない選択をしろとのお言葉を頂いた。
大丈夫だなんて言って今も昔も火の車、何時潰れてもおかしくない自転車操業を続けている癖に見え透いた強がり言うなよ。まったく……。
翌日、オレは今回の話を受けることにした。ただし、幾つかの条件付きで。
引き取ってもらう側のオレが相手に条件を提示する。大胆不敵を通り越して失礼千万ものであったが、セリカ=アルフォネアは快く全て了承。むしろ「気に入った!」とか呵々大笑していらっしゃる。
グレンはグレンで唖然としている。これは脳内処理が追いついていないパターンですね。しばらくは現実に戻ってこないだろう。
アルド爺さんはオレの選択に否はなし。ちょっと困ったような、それでいて嬉しそうに微笑みながらやたらめったら頭を撫でてくる。いつもなら跳ね除けるところだろうが、今日は甘んじて受け入れようではないか。好きなだけ撫でくり回すがよい!
こうしてオレは念願叶ってセリカ=アルフォネアと接触、更には彼女に引き取られ魔術の世界に踏み込む足掛かりを得られたのだった。
セリカside
新たに家族の一員となった少女──レーン=グレダスとグレンと並んで孤児院を後にする。遠くなっていく孤児院の玄関では孤児院の運営をするアルド殿が微笑みながら小さく手を振っており、レーンも応じるように元気よく手を振っていた。
その様子を微笑ましく思いながら、内心で少しだけ罪悪感を募らせる。彼ら彼女らの絆を引き裂くようなことをしてしまって良かったのかと、この選択が果たして正しいのか、正直言って私にも分からない。
だが、これで良いのだと思う。家族は余程の理由がない限り一緒にいた方が良いに決まっているとアリスは言っていたし、グレンとレーンを取り巻く事情を説明したらアルド殿もそれがいいと賛同してくれた。たとえ血の繋がった家族であることを忘れてしまっていても、二人が正真正銘の家族であることに変わりはないのだから。
それに、レーンと孤児院との絆が完全に途絶えるわけでもない。彼女はこれから先もここに通い、子供達との絆を継続し続ける腹積りなのだ。それはレーンが提示した条件を思えば容易に想像がつく。
私が引き取るにあたってレーンは大胆にも条件を幾つか突きつけてきた。
一つに魔術を教えること。これに関しては元からその予定であったので構わないと頷いておいた。何故か隣でグレンが「あちゃー……」と言わんばかりに顔を覆っていたが、どうしたんだ?
二つにバイトによる小遣い稼ぎ。これに関しては小遣いが欲しいのなら出すぞ、と言うと「自分で稼いだもんじゃねぇとダメなんだよ」とのこと。その時点では意味が分からなかったが、次の条件でレーンの意図を悟った。
三つに孤児院に通うことを認めること。ここに来て私はレーンが何を企んでいるのか把握した。
レーンはこの孤児院を離れることになっても関係を断つ気は毛頭ない。自分で金を稼いでその給金を孤児院に回し、ついでに子供達の面倒もできる限り見るつもりなのだろう。
底抜けなまでに家族想いな少女。路地裏での言動からしてその一端は垣間見えていたが、ここまでとはな。しかも当人に自覚はこれっぽっちもなく、如何にも図々しいこと言ってやったぜ! みたいな顔をしている。正直、どの条件もわざわざ言わなくとも良いくらいのものなのだが……。
面白いというか、見ていて撫でくり回したくなる。実際、アルド殿にこれでもかと頭を撫でくり回されて誇らしげにしていた。なんかもう見ていて面白くて、はっきり言って気に入った。
レーンを引き取るにあたって色々と不安を抱えていたわけだが、彼女の人柄からして要らぬ心配だろう。問題があるとすればやはりグレンとの関係性か……。
レーンの傷を治療した際にその血液を採取してこっそり魔術で検査した結果、レーン=グレダスとグレン=レーダスは紛うことなく血の繋がった姉弟であることが判明した。しかしその事実を私は二人に伏せ、レーンを引き取る理由はレーンの特殊な
まだ二人は子供であり、突然に「お前達は血の繋がった姉弟だ」と明かすのはあまりにも急が過ぎる。もう少し二人が心身ともに成長し、冷静に事実を受け止められるようになるまでは黙っておく。この選択が吉と出るか凶と出るかは分からないが、まあ多分大丈夫だろうと思う。レーンの
そう、レーンの
とりあえずグレンが二年になると同時に学院に編入できるよう、今日から只管勉強漬けだな。なに、何やら意欲だけは矢鱈とあるようだから大丈夫だろう。ズブの素人をたった二ヶ月で魔術学院一年生レベルまで上げるくらい、私の手に掛かれば造作もない。
ん? どうしたレーン。そんなブルブルと青い顔で背筋を震わせたりなんてして。グレンはグレンで何故十字なんて切っているんだ? 最近の子供はよく分からんな。
グレンside
ニーナが孤児院を去り一人孤独な戦いに出たと思ったら何故か家族が増えた。言わずもがな、レーンである。急転直下過ぎる展開に流石の僕も困惑を隠せない。
何でもレーンを治療した際に彼女が稀有な
【変化の停滞・停止】より厄介なものって、そうそうないような気がするんだけど。でもセリカが嘘を言うとも思えない以上、レーンを守るためなら仕方ないと僕は納得した。
そのレーンは今、朝から晩までセリカにマンツーマンでありとあらゆる知識を叩き込まれている。学院でもここまで超過密スケジュールはやらないよ、セリカ。加えてレーンたっての希望でバイトまでしているのだから、ハードスケジュールを超えてもはや拷問に近い日々を送っている。正直、レーンが完全に無学な子供だったら挫折するだろうこと請負だろう。
レーンも毎日辞書並みの本と睨み合い、時に目を血走らせながら呪文を暗記し、時に発狂したように叫び出しては屋敷を駆けずり回り、時に泣きが入っては僕に助けを求めてくる。あまりにも可哀想だから僕もちょくちょく教えてあげているけど、その度に「流石は将来のロクでなし魔術講師」だとか失礼なことを言うのは止めてほしい。もう教えてやらないぞ。
ともあれレーンが新しい家族になってから既に一ヶ月近い。セリカと僕の二人暮らしだった屋敷は良くも悪くも賑やかなレーンの加入によって前よりも明るく騒がしくなった。その点は本当に感謝している。でも、だからって指導の手を抜いたりはしないよ。
机に羽根ペン片手に向かうレーンに魔術で使うルーン語について懇切丁寧に教えていく。ニーナが言っていた通り、レーンはそこそこに頭が良かったので今の所は問題なく理解が追いついている。でも、既に朝から勉強漬けでいたレーンの集中力は限界間近。そろそろ爆発する頃合いかな?
「うがあああ!? もう無理だあああ! 頭が割れちまう!?」
案の定、集中力が切れたレーンは頭を抱えて一頻り文句を垂れると、例によっていつもの如く隠してあった靴を取り出して部屋の窓に手を掛ける。ついでに僕も付き合えとばかりに手招きし、窓から飛び降りていった。
仕方ないと嘆息しながら僕も玄関から外に出る。その際にセリカとばったり出会し、「またいつものヤツか?」と苦笑交じりに訊かれたからその通りと答えた。レーンが部屋を抜け出すことは既にセリカも周知の事実である。だって何処に行っても居場所が分かるように魔術的なマーキングを施されているからね。当人は知らないけど。
既に今日の分のノルマは終わっていることを伝えると、ならいいとセリカは黙認。遅くならないようにと送り出してくれた。
レーンの姿はもう見えない。僕がセリカと話している間に一人で先に行ってしまったのだろう。行き先は知っているので問題ないけど、あいつは自分がどうしてセリカに引き取られたのかを忘却していないだろうか?
レーンの後先考えず向こう見ずな行動に頭を痛めつつ歩みを進める。目指す場所は貧民街の奥地にひっそりと佇む孤児院。僕が到着した時には既に、レーンは庭で子供達を相手にはしゃぎ回っていた。お前、それでも年長か……。
レーンは勉強に行き詰ったり集中力が切れると決まってここに来る。その度に子供達と一頻り笑って遊び回り、日が落ちる前には帰っていく。レーンなりに子供達のことを気に掛けているのだ。
子供達もちょくちょく遊びに来るレーンを楽しみにしている。最初こそニーナとレーンがお金持ちの家に行った裏切り者と責める子供もいたけれど、レーンが言葉で巧みに騙くらか……誘導して、ニーナは悪いヤツらを倒しに一人で旅立ったことにし、自分は野望を成就するためとか矢鱈滅多に難しい言葉を多用して誤魔化し抜いた。こいつ、魔術師より詐欺師の方が向いているんじゃないのかな……。
でも、レーンのお陰でニーナが子供達から嫌われることは避けられた。そこだけは誉めてあげてもいいと思う。やってることは純粋無垢な子供を言葉で騙すというロクでもないことであるが。
しばらくレーンが子供達とじゃれ合っている様子を見守っていると、いつの間にか寄ってきた子供達に手を引かれ遊ぼうとせがまれる。特に断る理由もなかったので頷き、僕も子供達の輪に交ざるのだった。