ロクでなしTS転生者と禁忌教典 作:男の子に、オレはなる!
レーンside
燃え尽きたぜ……真っ白にな……。
割と冗談抜きで燃え尽きた。始業式真っ只中だとか知らん。今のオレは今日まで続けた勉強地獄を乗り越えた達成感に浸っているのだ。だからグレン、肩を揺するな。学院長の話とか知らんわ。
セリカに引き取られてからの毎日は比喩抜きで地獄だった。元よりこの世界の魔術師に求められる基礎学力の水準がべらぼうに高いのもあって、今日までの日々はまさしくデスマーチであった。お陰で無事、アルザーノ帝国魔術学院に編入できたものの、オレじゃなかったら心がぽっきり折れていたからね?
だがこれで勉強漬けの日常も終わりだ。今日からオレは魔術学院二年生。一年生飛んでるけど、その分はセリカに文字どおり叩き込まれたから問題ない。編入試験もきちんと受けて合格したからな。自分で言うのもなんだが、今のオレはそこそこ優秀な生徒に分類されるのではないのだろうか? ……え? 良くも悪くも平均的なレベル? パッとしない感じだと? 酷いなグレン、折角人が盛大な学院デビューを思い描いていたというのに……。
まあ世の中そんな上手いこといくわけないわな。学院に編入できたからと胡座をかけばすぐに勉強面で置いていかれかねないだろうし、魔術もより研鑽しなければ成長しない。分かってますぅ、どうせオレには便利なチートも何もありませんからー。
セリカによる詳しい魔術検査によってオレの稀有な
お分り頂けるだろうか? オレは自身の
これを聞かされた時のオレの絶望と言ったらない。だって考えてみろ、原作の女体化は一体何の魔術を応用したものだった? 白魔【セルフ・ポリモルフ】。
いやぁ、ほんと……この時ばかりはキレちまったよ。女体化の時点で張っ倒すことは誓っていたが、もう許さん。
不幸中の幸いなのは白魔術が使えないわけではないこと。やりようによってはまだ望みがある点だろう。それでも野望成就が格段と遠退いたのは言うまでもないが。
まあ大丈夫大丈夫、ロクアカ世界の魔術は良くも悪くも自由度が高いからな。やりようによっては男体化も可能なはずだ。諦めなければ夢は必ず叶うと、オレは信じているのだァ!
ともあれ、これで晴れてオレの魔術学院ライフが幕開けるわけだ。右を見れば野に咲く可憐な花のような少女達、左を見れば燃えるような真紅の髪を三つ編みにしてサイドテールにした策士っぽいけどどこかでポカやらかしそうな美少女……なんだ? ものっそい見覚えがあるんだが……まあ可愛いからどうでもいいか。
いやぁ、しかし誰も彼も可愛くて眼福ものですなぁ……男? 生憎と当方の眼球は不要なものは映さない主義である。
無駄に露出度の高い女生徒の制服を設計した誰とも知れぬ人間に感謝の祈りを捧げていると何やら生徒達が騒めき始めた。どうやら担当講師の発表が始まったようだ。異世界でもこういう時は興奮するもんなんだな。
ところでグレン君よ、オレ達の担当講師は何方? 彼処に立っている優男っぽい金髪の若い男? ほうほう、彼がオレのクラス、二年次生二組の担当講師か。名前はヒューイ=ルイセンとな……なんだろうなぁ、凄く聞き覚えがあるなぁ……。
前にもこんな展開あったなぁと隣に座るグレンを見やりつつ、さてどうしたものかと思案する。
──ヒューイ=ルイセン。
魔術学院に王族ないし政府要人の身内が入学した際に自爆テロで殺害するために、天の智慧研究会が十年以上も前から仕込んでいた人間爆弾。ただし当人は教師という職業にそこそこ生き甲斐を感じていて、計画が頓挫した際にはむしろホッとしていたという人物である。
テロの黒幕でありかつ天の智慧研究会の魔術師でありながら比較的まともな人柄の人間。正直、天の智慧研究会になんて所属さえしていなければ生徒にも慕われる有能な教師として生きていられただろう不憫な人だ。
そんな男がオレの担任……何だかフラグがバリバリ乱立している気がしてなりませんわ。
いや待て……これはむしろチャンスなのでは?
ヒューイ=ルイセンは生徒からの信頼も厚く、かつ教師としての能力も『講師泣かせのシスティーナ』が認めていたほどのもの。加えてセリカですら舌を巻くほどの空間系魔術の天才。上手く取り入ればオレの学院ライフも安泰なのでは?
ふむ、我ながら悪くない考えだ。天の智慧研究会が狙う対象もいないだろう現状ならばヒューイ先生はただの優男な魔術講師。よほど怪しいことでもしない限り問題ないだろう。
よし決めた。オレはヒューイ=ルイセンに取り入る。そしてあわよくば自爆テロなんて阿呆な真似に踏み切らないよう説得してみるか。後々の禍根は摘み取っておいた方が良いに決まっているからな。
しかし如何にして近づくか。担任講師なのだから接触自体は簡単だろうが、オレとしてはより懐に踏み込んだ関係を目指したい。だからと言って下手な接近の仕方をすれば警戒されかねない。
思い切って隣のグレンに何か妙案はないかと尋ねると、微妙な顔をしながらも素晴らしい案を授けてくれた。よし、その手で行こう。
グレンに礼を述べつつオレはこれからの行動方針を固めていくのだった。
ヒューイside
天の智慧研究会からの指令で僕がこの学園に在籍することになって既に数年近く。最初の頃は非常勤講師として教職に携わってきましたが、今年度になって常勤講師と認められてクラスを受け持つまでに至りました。
担当クラスは二年次生二組。初の担任とあって僕も最初は緊張なんてしていましたが、一ヶ月も経つと良くも悪くも個性的な生徒達のせいでそんなものは吹っ飛んでいきましたね。
──イヴ=イグナイト。
近距離魔術戦において最強と恐れられ、代々帝国魔導師団特務分室室長を務めてきたイグナイト公爵家の私生児であり、事故によって魔術能力を失った姉に代わり次期当主に繰り上がった女生徒。
魔術師としての能力・成績はとても優秀な生徒なのですが如何せん性格に難があり……彼女の生い立ちを思えば仕方ないのかも知れませんが、他人を見下し常に攻撃的な態度を取り続けるためにクラスで浮きがち。なまじ実力があり、本人はむしろそれでいいとばかりの姿勢なために
どうにか改めさせようと努めているのですが、なかなか上手くいかないものです。
──グレン=レーダス。
難関と名高い魔術学院の入学試験を僅か十一歳で通り抜け、入学史上最年少記録を叩き出した少年。素晴らしい才覚の持ち主だと入学の時点では騒がれたものの、その後の成績が極めて平凡なものであったことから様々なやっかみなどを受けてしまっている男子生徒だ。
成績が伸びなかった原因はグレン君の稀有な
むしろそれでも成績平凡をキープしているあたり座学の面ではクラス内でも追随を許さないのですが、それがまたやっかみの種になってしまっているようで。時折見るグレン君は非常に肩身が狭そうな様子でした。それも今では過去形ですが……。
──レーン=グレダス。
二年次から新たに魔術学院に編入してきた女生徒であり、グレン君と姉弟と言っても過言ではないほどに似通った容姿の少女。そして何より、イヴさんとグレン君をも超える問題児です。
レーンさんは二年次からの編入でありながらもあっという間にクラスに馴染むと、何故か一部男子達と結託して『第一回二年二組チキチキミスコンテスト!』なるものを開催したり、事あるごとに女生徒に絡んではグレン君に張っ倒されて引きずられていったり、クラスで浮きがちなイヴさんにちょっかいを掛けたり、魔術学院二大変態教授ことツェスト男爵とオーウェル教授と時折怪しげな会合を開いたりと、次から次へと問題を引き起こしてくれます。えぇ、本当に手が焼けますよ。
加えてレーンさん、何処で聞きつけたのか私が学生向けアルバイトとして用意した実験助手の募集に応募、もとい乗り込んできてくれまして。何故あそこまでぐいぐい押してくるのかは理解できませんでしたが、認めないと地の果てまで追ってきそうだったので渋々認めることとなりました。幸いというか、仕事の時だけは問題も起こさずきちんと働いてくださるので安心できますけど……。
新任講師である僕に三人の問題児。学院側も意図的に集めたわけではないのでしょうが、荷が重いと言わざるを得ない。果たして僕に彼らの先生がきちんと務まるのか不安でしかたない。
僕が自身の研究室でこれからの一年に思いを馳せて胃を痛めていると、無遠慮に入り口のドアがスライドされる。行儀悪く足でドアを開けたのは僕の胃を痛めてくれている原因の一人、大きな木箱を抱えたレーン=グレダスさんだった。
「ん、おぉヒューイ先生。言われた通りに素材倉庫から必要なもん持ってきたぜ」
「ありがとうございます。運んできた物は其方の机に置いて、先に指示した通りに仕分けてください」
「あいよっと」
レーンさんは運んできた荷物を机の上に置くと、僕の指示通りに仕分けを始めた。仕事をしている時だけは真面目なので本当に助かります。できればそれを普段から心がけて頂きたいものですが……。
「そういやヒューイ先生。今日の錬金術のところでちょっと分かんねえとこがあってさ、教えてくれない?」
「僕で答えられる範囲で良ければ構いませんよ。何処が分かりませんでしたか?」
「あー、確か教科書の──」
仕分けの手は止めないままレーンさんは理解が及ばなかった部分を挙げた。僕も実験作業を続けながら彼女の疑問に答える。こうやって教師への質問をするあたり、決して不真面目な生徒ではないのだ。ただちょっと、いやかなりはっちゃけ癖が酷い。もう少し我慢とか自重というものを覚えて頂きたいです。
数分ほどの解説を行うとレーンさんは理解できたのか、すっきりとした表情で笑う。
「いやぁ、助かったわ、ヒューイ先生。グレンも教えるのは上手いけど、先生も負けないくらいに分かりやすかったぜ」
「それは良かったです。しかし、グレン君はそんなに教え上手なのですか?」
「おう。あいつの教え方はちょっとスパルタ入るけどスラスラ頭に入ってくるんだよな。ぶっちゃけ言うと、セリカより教え方は上手い」
「それは凄いですね……」
グレン君、実技では散々な成績でしたが教える側の才能があったということでしょうか。少し気になりますね。今後の指導方針の参考にするためにも、今度少し話を伺ってみましょうか。
「うっし、仕分け終わり。これで今日の仕事はもうないのか?」
「ええ、あとは僕一人の仕事なのでレーンさんは帰ってくださって構いませんよ」
この先の作業はまだ学生の域を出ないレーンさんには荷が重い。僕一人でも明日までには十分間に合いますし、彼女を帰しても何ら問題ないでしょう。
しかしどうしたことか、帰っていいと言ったはずなのにレーンさんはその場から動かず、それどころか適当な椅子を引っ張り出して完全に居座る姿勢に入ってしまった。
じぃーっと僕が作業する様子を眺めるレーンさん。眺めたところで何も面白くはないでしょうに、一体何のつもりでしょうか?
「どうかしましたか、レーンさん?」
「いや、思ったよりちゃんと教師してんだなって思ってさ。それ、次の授業で使う触媒作りだろ?」
「よく分かりましたね」
「まぁ、そのあたりの知識は二ヶ月で叩き込まれたしな……」
そう言うレーンさんの目は死んで二ヶ月経った魚のようになっていた。一体この二ヶ月で彼女の身に何があったのか、気になるところですが下手を打つと傷口を抉るような気がしたので止めておきます。
「ところで話は変わるけどさ。ヒューイ先生、なんかやつれてない? 始業式の時はもっと元気に満ち溢れていたような気がしたんだけど」
「……そうですね。少し、クラスの問題児の扱いに悩んでいまして」
「あぁ、イヴたんのこと?」
「イヴたん……?」
まさかとは思いますが、イヴたんとはイヴ=イグナイトさんのことでしょうか。帝国でも有数の大貴族の娘相手にそのようなあだ名を付けるあたり、流石はレーンさん。恐れを知らないですね。
「確かに、あの協調性のなさとか威張りっぷりは不味いよなぁ。鉄の女ルートまっしぐらだぞ……」
さも自分は問題児ではないかの如くイヴさんの心配をしていますが、貴女は貴女でイヴさんとは別ベクトルで問題児ですからね。むしろ日常における諸悪の根源と言っても過言ではありません。
そんなレーンさんが珍しく真剣な表情で悩み始め、ややあって名案を閃いたとばかりに手を鳴らす。何故でしょう、凄まじく嫌な予感がしますね……。
「よっし、決めた。先生の頑張りに応えてオレも一肌脱いじゃうぞっ!」
「い、一体何をするつもりですか……?」
震え声で尋ねるとニヤリと笑みの返答。あぁ、これはロクでもないことを企んでいる顔ですね。一ヶ月も担任講師として付き合っていれば分かります。
「まぁ任せとけって。サクッと解決してやるからさ」
気負いなく言ってレーンさんは足取り軽く研究室を去っていく。これほどまでに不安を掻き立てられる後ろ姿を僕は初めて見ました。事実、僕の不安は物の見事に的中したのですが。
翌日、レーンさんがイヴさんに決闘を申し込んだとの報が飛び込んできて、僕の胃は更なる痛みに襲われるのでした。
グレン「ハッ!? 新たな