ロクでなしTS転生者と禁忌教典 作:男の子に、オレはなる!
レーンside
想像以上にヒューイ先生が良い人だった件について。
元より事前知識として知っていたとはいえ、現実に会話して一個人として付き合って改めて理解した。ヒューイ先生はええ人や。ちょっと流されやすい感じはあるが、それでも教師としてクラスのために心を砕く姿。このレーン=グレダス、感服致しました。
なので先生の苦労を少しでも取り除かんため、微力ながらお力添え致そう。具体的にはイヴたんの性格をどうにかマイルドにしてみせよう。
イヴ=イグナイト。強い貴族主義の思想を持つイグナイト公爵家に私生児として生を授かり、その後姉が事故によって魔術能力を失ったことで次期当主に繰り上げられ、平民の血が混じっていることを理由に肩身の狭い想いをし続けた結果、色々拗らせて鉄の女なんて呼ばれるようになっちゃった残念な美女。今は美少女だけどね。
始業式の時点で見覚えがあるなぁとは思っていたが、名前を知って本当に驚いた。手柄を欲するあまりまんまと敵の策に嵌り、挙句傀儡にされてしまうイヴたんである。その微妙なドジっぷりがまたイイ……。
まあお巫山戯はここまでにして、既に色々拗らせてクラスでも浮いちゃっているイヴたん。他者を見下し駒のように見做す態度から時折他の生徒と衝突し、その度に実力で捻じ伏せクラスを牛耳ろうとしている。女王様もかくやの君臨ぶりですな。
ヒューイ先生も手を焼いてるらしく、かなりお困りの様子だった。オレとしてもちょっかいを掛ければいい感じのリアクションを返してくれる今のイヴたんが、原作の高飛車冷徹女王様になってしまうのは忍びない。それに彼女の采配が原因で将来的にグレンが心に傷を負うことを思うと、このまま放置するという選択はなくなった。
朝早く、誰よりも早く登校しているイヴたんに開口一番で宣戦布告を叩きつける。黴の生えた魔術師同士の決闘儀礼、左手の手袋を投げ放った。
オレからの決闘申し込み、イヴたんは受ける理由もないとごねていたが、軽〜く煽ってやったら予想通り乗ってきた。うーん、ちょろいわこの子。煽り耐性低いところとか、またぐっとくる。
決闘のルールを決める権利は受理側にある。イヴたんが提示したルールは致死性の魔術は禁止、それ以外は何でもありの魔術戦。参ったと言わせた方が勝ちというものだった。この子、本気でオレを叩き潰すつもりですね……。
ともあれ決闘である。日時は今日のお昼休み、場所は中庭。そこでガチガチに固めた虚勢を根刮ぎ引っ剥がしてやる。グレンには無謀にもほどがあるとか散々文句を言われたが、今回に関しては見逃してくれ。大丈夫、勝機はある。ただちょっとグレン君にもお力添えをお願いしたいことがありまして……。
オレからのお願い事にグレンは渋い顔をしながらも頷いてくれた。やはり持つべきものは優しい家族だね。ありがとう、グレン。
オレとイヴたんが決闘するという情報は瞬く間に学院中に広まり、決闘が始まる前には数多くのギャラリーが集っていた。どうやら彼の高名なイグナイト公爵家の次期当主が戦うとあって多くの生徒と講師陣が一目見ようと訪れているらしい。と言っても結果が分かり切った決闘に見る価値なしと考えている輩も多いようだが。
衆人環視に囲まれる中、オレとイヴたんの決闘の幕が切って落とされた。
イヴたんが余裕の表情で先手必勝とばかりに仕掛けようとして、その表情が凍りつく。恐らくお得意の
イグナイト公爵家が代々と受け継ぐ
イヴたんは己の十八番たる【第七圏】を使うために決闘が始まる少し前に仕込みを確かに行っていた。それでも魔術が起動しなかったのは、オレがその仕込みをグレンの手を借りながら潰したからだ。卑怯と言うなかれ、イヴたんだって決闘前に仕込みをしようとしたのだからおあいこだろう。文句は言わせない。
さあ、これで得意技は封じた。ここから先はオレと彼女の地力が物を言う魔術戦。
なんて調子に乗って挑んだはいいものの、イヴたん普通に強いわ。
イグナイト公爵家の次期当主たる彼女は帝国魔導師団特務分室室長の座につくことが決まっているのだから、実戦訓練だって受けていて当然。なるほど、これだけの実力があれば他の生徒達を見下し自身の駒扱いしてしまうのも仕方ない。加えて手柄や功績を上げなければという脅迫観念に囚われているのでは拗らせてしまうのも無理ないだろう。
だが、オレだって負けるつもりは毛頭ない。圧倒的な実力差? それこそ引っ繰り返してやる。こちとらセリカに実践演習という名の実戦演習で何度も地面を転がされてきたのだ。この程度の劣勢で屈するような弱気は当の昔に置いてきたわ!
オレを三流魔術師と侮ったのが貴様の敗因だ、イヴ=イグナイト。見せてやる、我が秘奥の数々を──!
イヴside
私はイヴ=イグナイト。《
成績は常に首席、周囲の人間は私が手柄を上げるための『駒』に過ぎない。他者との馴れ合いなんて以ての外。私は何時如何なる時も上を目指し続けなければならないのだから、足枷になりかねないものは捨てていく。そうやって生きてきた、そうやって生きなければ認めてもらえないから──
躓いてなんていられない。立ち止まってなんていられない。それなのに……それなのに! 私は今、何故こんな三流魔術師一人を倒すのに手間取っているのよ!?
レーン=グレダス。二年次からの途中編入で学院に入学してきた女生徒。他の生徒達と大して変わらない、路傍の石も同然。矢鱈とクラス内外問わず騒動を引き起こし私に鬱陶しいちょっかいを掛けてくる喧しいだけの女。取るに足らない存在と認識していた。
それがどうしたことか、今朝になって突然私に決闘を申し込んできたのだ。
今までに決闘を申し込まれたことはゼロではない。腕試しだとかイグナイト公爵家の次期当主たる私を下して名誉欲を満たそうだとか、下らない理由で挑まれたことは間々ある。そんな奴らも私が決闘のルールを提示すれば殆どが恐れをなして逃げていく。本当、下らない。
この女もそんなところだろうと当たりをつけ、一々相手をしてやるのも面倒だから最初は突っ撥ねようとした。けれどこの女は有ろうことか「おんやぁ〜? もしや天下に名高いイグナイト公爵家の次期当主が、三流魔術師程度の決闘に怖気づいていらっしゃるのかなぁ〜?」なんて巫山戯たことを抜かしてきた。
たとえ見え透いた挑発行為であってもその態度は度し難い。いいわ、どうせ決闘のルールを提示したら怖気づくのはあちら。自分から決闘の申し込みを引っ込めるに決まってる。そう考えていつもの如く実戦形式に近い、下手をすれば大怪我を負っても文句を言えない魔術戦を提案したのに、レーン=グレダスは二つ返事でそれを受けてしまった。
これには私も驚いた。クラスの生徒達も、そして彼女とよく似た容姿の持ち主であり、いつも一緒にいるグレン=レーダスも目を剥いて止めに掛かっていた。けれども彼女は誰の制止も聞かず、自信満々に場所と日時を決めてしまった。
彼我の実力差も測れない愚か者。誰もが彼女のことをそう評しただろう。私も決闘が始まるまでは身の程知らずの愚物だと高を括っていた。
だが現実はどうか? 決闘前に仕込んでいた
レーン=グレダスは魔術の撃ち合いになるや否や、目まぐるしくフィールドを駆け回り、私に狙いを絞らせないよう立ち回る。そうすることで詠唱速度で負けていながらもどうにか耐え凌ぎ均衡を保つ。泥臭い戦い方だ。魔術師としての格が知れる。
それなのに私が攻め切れないのは、認めたくはないが彼女の方が戦闘に於ける読み合いで一枚上手だから。誰が見ても付け焼き刃の域を出ない魔術の腕でここまで上手く立ち回れるのは、恐らく何かしらの武術を嗜んでいるからだろう。でなければ魔術師とは言えたかが学生がここまで食らい付けるはずがない。
相手の実力を見誤った私の落ち度。えぇ、認めてあげるわ。
「《雷精の紫電よ》──!」
左手の人差し指から紫電が迸る。直撃すればほぼ確実に対象を行動不能に陥らせる黒魔【ショック・ボルト】。それを続けざまに二度三度と
流石に間を空けずの三連撃にここまで持ち堪えてきたレーンも崩れる。一撃目は自身の【ショック・ボルト】で相殺し、二撃目は地面を転がって回避。三撃目は破れかぶれに巻き上げた土塊に当たって霧散した。
悪運の強いこと。でももう終わり。地面を転がるなんて隙の大きい回避行動をすれば、次の行動が遅れる。その隙を私は逃さない。
蹲るレーンに照準を合わせて呪文を唱える。既に勝ち筋は定まり、私の勝ちは揺るぎない。それなのに、目の前の少女は何故笑っている……?
その謎は、私の魔術が発動するより一瞬早く炸裂した眩い閃光によって氷解した。
「ぐぅ……!?」
これは……黒魔【フラッシュ・ライト】!? 護身用の初等呪文で殺傷力は皆無の目眩しの魔術。それをあの土壇場で発動したというの!?
「くっ、こんな子供騙しの技で私を出し抜いたつもり!?」
使い所によっては非常に有効な魔術であり、視覚を潰す戦法自体は悪くない。でも私だって散々肩身の狭い思いをしながら、必死に努力してきたのよ。視覚を奪われたくらいで止まるほど柔な鍛え方はしてないわッ!
役に立たない視覚を放棄し、残された五感の一つである聴覚でレーンの位置を把握する。音と気配からしてレーンは私目掛けて突貫しているらしい。身動きの取れないこの機に私を倒すつもりなのでしょうけど、甘いわ。
音と直感を頼りに左手人差し指を構え、躊躇わずに【ショック・ボルト】を放つ。するとバリバリと電撃が炸裂する音とレーンの苦痛に塗れた悲鳴が耳朶を叩いた。狙い過たず私の魔術がレーンを直撃したのだ。
これで決闘は私の勝ち。さて、勝者として敗者にどんな要求をしてやろうかしらと笑みを零しながら瞼を開くと、してやったりと言わんばかりの表情を浮かべたレーンがすぐ目の前まで迫っていた。
「なっ──!?」
何が起きた? 確かに私の魔術は直撃したはず。でもレーン=グレダスは電撃など浴びてないかの如く平然としている。一体全体何が起きたというのよ!?
混乱する私の視界に、レーン=グレダスの背後の地面に舞い落ちた黒焦げのケープ・ローブが映る。瞬間、私はレーンが弄した小細工の正体を看破した。
彼女は私が視覚が利かないのを利用し、ケープ・ローブを身代わりにしてさも電撃を食らったかのように悲鳴を上げた。視覚が利かず音で状況を判断するしかなかった私はその演技にまんまと騙されたのだ。
やられた、なんて悔しがる暇もない。既に彼我の距離は五歩もない。呪文の一節詠唱でももう間に合わない距離だ。この決闘は、私の負け……?
……いや、いやよそんなの。私が今日まで、何のために頑張ってきたと思っているの? 夢も何もかも捨てて、ただ次期当主として認められるためだけに努力して努力して積み上げてきたものを、こんなところで崩されるなんて、絶対に──
「《いやああああああっ!!》」
最早呪文とは言えないただの悲鳴。けれど即興の改変により拙いながらも魔術は発動。眼前まで肉迫していたレーンの体を【スタン・ボール】の激しい音と振動が襲う。ここまで一歩も引かなかったレーンの猛進が止まった。
「や、やった……?」
目の前で仰向けに倒れていくレーン。このまま倒れてくれれば今度こそ私の勝ち。けれど……、
「ぐ、っはぁ……!!」
【スタン・ボール】の直撃を受けながらレーンは踏み止まった。手負いの獣みたいに歯を剥き出しにしながら笑って、何やら訳の分からないことを口走る。
「セリカ直伝【
ガバッ! とレーンが躍り掛かってくる。反射的に逃れようと後退したけれどレーンの方が僅かに早く、私はレーンに組みつかれたまま中庭の地面に倒れ込んでしまった。
「くっ、このっ……! 離れなさい!」
ジタバタと必死にもがくけれど引き剥がせない。完全に寝技を極められてしまっている。父の方針で格闘術を叩き込まれている私でも抜け出せないなんて、この子一体何者なのよ……ッ。
完全に私を抑え込んだレーンはわざわざ耳元に顔を寄せると、いやにねちっこい口調で囁く。
「さぁて、どこまで耐えられるかな? オレ考案、対美少女
「な、なにを──ひゃあっ!?」
完全に身動きを取れない状態で制服の構造上剥き出しになっている脇腹を指で撫ぜられる。更には畳み掛けるように指を細かく動かされ、私は堪らず上擦った声を上げた。
「あっ、ちょっ、どこ触って……!?」
「ふぇっへっへっ、ここか? ここがええのかぁ?」
「やめ、てっ……ひぃやああぁぁぁん」
このままでは色々不味い。イグナイト公爵家の次期当主としての威厳とか女としての尊厳とか諸々が失われてしまう。それ以前に私の貞操が危ない気がしてならない。だってこの子、さっきから擽りと称して服の中にまで手を突っ込もうとしてるのよ! あっ! ちょっとそこはダメだって……いやあああああ!? 誰かこの変態を除けてえええ!!
「ふっふっふっ。さあ、早く参ったと言いたまえイヴたん」
「──ッ!? お、お断りよ、この魔術師の面汚しっ! こんな卑怯な手に私は屈したりなん、てぇ……」
「いや、そんなこと言われても。ルール上、イヴたんが降参してくれんとこのままエンドレス擽り地獄が続くんだけど……」
諦めの悪い私に困ったように眉根を寄せるレーン。そんなことを言われても、私は決して負けを認めたりなんてしない。こんな下らないところで私の経歴に詰まらない傷を付けるわけにはいかないのよ!
キッと精一杯の気力を振り絞って睨め上げると、「なるほど、これが俗に言うくっころ……ヤッベ、なんかヤバイ性癖に目覚めそう」などと意味の分からない呟きを零す。言葉の意味は全く理解できないけど、ロクでもないことであるのは確信できた。
「仕方ねえなぁ、じゃあここからは加減抜きで──」
「えっ」
私が驚きの声を上げるのも束の間、今まで以上に激しく容赦ない擽りが脇腹などの敏感な箇所を襲う。最初の擽りが手抜きだったのか、恐ろしいほどに手慣れた指捌きから叩き込まれる擽りはいとも容易く私の限界を破り、堪え切れなくなって笑い声が洩れ出た。
ま、不味い……! 一度決壊するともう我慢が……だ、ダメえぇぇぇぇえっ!!
それから一分と経たずして私の意識は強制的にブラックアウトした。意識が途切れる寸前、私の目に映ったのは怪しい目つきをしたレーン=グレダスと、その背後に青筋を浮かべて仁王立つグレン=レーダスとヒューイ先生だった。
ジュースで雰囲気酔いして泣きながら愚痴るイヴたんまじかわいい。
普通に見た目も可愛いし、ヒロイン属性持ってると思うんだよ、うん。