ロクでなしTS転生者と禁忌教典   作:男の子に、オレはなる!

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ヒューイ先生がただのええ先生になっとる……いや、悪い人じゃないんだけどね?


涙流れて地固まる

 レーンside

 

 

 対美少女固有魔術(オリジナル)【擽り地獄】でイヴたんを気絶まで追い込み、さてここからがお楽しみというところで後頭部に強烈な衝撃。気がついたら全身を魔術で拘束されてヒューイ先生の実験室に転がされていた件について。

 

 何が起きたのかさっぱり分からず疑問符を上げていると待っていたのはグレンとヒューイ先生二人掛かりによるお説教タイム。何故だ、オレはきちんと決闘のルールに則った上で戦ったはずである。何処かの誰かさんと違って決闘前に交わした約束を反故するような真似もしていないというのに、理不尽だ。

 

 だがそれも研究室の隅で膝を抱えてギャン泣きするイヴたんを見ると、全面的にオレが悪いような気がしてくるから困る。

 

 ガチガチに固めた虚勢を一度引っ剥がして本心を曝け出すのが目論見だったとはいえ、まさかここまで見事にメンタルが木っ端微塵に砕け散るとか、誰が予想できるか。流石のレーンさんも予想だにしなかったぞ。

 

 オレ達の目があることも構わず本音を吐き出しながらわんわん泣き散らすイヴたん。幸いヒューイ先生が研究室に遮音結界を張っているそうで彼女の醜態が他の生徒に知れ渡ることはないが、果たしてどう収拾をつけたものか。え? 既にあられもない姿を不特定多数に見られている? もうお嫁に行けないだって? あら可愛いことをおっしゃる。

 

 ふっ、心配するなよイヴたん。嫁の貰い手がなくなったら、その時はオレが貰ってやるからよ……あの、グレン君? 何故に拳を握り締めていらっしゃるのでせうか? ぼ、暴力反対! オレはそんな暴力を振るうような子に育てた覚えはありませんっ! って、あふん……。

 

 本日二度目の気絶から復活すると既にイヴたんは泣き止んでいた。気絶前からどれだけ時間が経ったのかは知れないが、落ち着いてくれたのなら重畳。いつの間にかヒューイ先生とグレンとも何だか仲が良くなったみたいだし、これにて一件落着というところか。

 

 だからイヴたん、「やられたらやり返す、倍返しよ」とか言いつつ躙り寄ってくるのは止めてくれませんか。ヒューイ先生とグレンも、早く拘束を解いてくださいお願いします。あっ! 待って二人とも! そんな、あとはごゆっくりとばかりに研究室から出ていかないでぇ!?

 

 ま、待ったイヴたん。冷静に話をしようじゃないか? 報復なんて何も生まない。お互いに許し合い、歩み寄ることで人は明日へ進めるのだから。反省してます、ほんと。だからこしょぐりだけは止めてくれええええええ!!

 

 その後、オレはイヴたんが満足するまで一方的に擽られ続けるのだった。うぅ、もうお婿に行けない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒューイside

 

 

 レーンさんがついにやらかしてくれましたよ。よりによってイグナイト家の次期当主に決闘を挑み、有ろうことか倒してしまった。擽りという魔術のまの字もない決まり手であったことに関しては魔術師の端くれとして物申したいことが山ほどありますが、レーンさんは気絶させてしまったのです。

 

 この結果に野次馬として集まっていた生徒や講師陣は動揺を隠し切れない。僕自身も、このような結果になるとは思ってもいなかっただけに驚愕が先立ってしまう。しかし現状を放置するのも不味いと悟り、すぐに事態の収拾に乗り出す。

 

 とりあえず、同じく決闘の行く末を見守っていたグレン君とアイコンタクトを取り、気を失ったイヴさんにいかがわしい手つきで迫るレーンさんを鎮圧する。驚くほどに滑らかな手腕で意識を刈り取りましたね、グレン君。容赦のなさにちょっと驚きましたが、今はこの場から離脱することが先決でしょう。

 

 意識のないイヴさんを僕が抱え、白目を剥いてぐったりとするレーンさんをグレン君が引き摺る。あの、一応はレーンさんも女性ですから引き摺るのは止めてあげてください。公序良俗的にも問題になりかねませんから。

 

 不承不承といった感じでレーンさんを背中に背負ったグレン君と共に一先ず僕の研究室へ向かう。研究室であれば僕の許可なく踏み込んでくる者もいませんし、遮音結界でも張れば余程のことがない限り室内でのやり取りも漏洩しないでしょう。まあ約一名ほど、突撃してくる女生徒がいますが、その方も今は白目を剥いて気絶していらっしゃるので問題ないですね。

 

 研究室に到着して僕はイヴさんを壁際に凭れかけさせ、すぐさま遮音結界を施す。念の為に鍵も施錠しておきますか。ところでグレン君、何故レーンさんを【マジック・ロープ】で縛り上げているのですか? それもそんな過剰なまでにきつく縛り、【スペル・シール】まで施して……お仕置き、ですか。意図は理解できましたがやけに手つきが手慣れているような気がするのは気のせい……いえ、何でもありません。

 

 やり切ったとばかりに額の汗を拭うグレン君を見て、彼も彼で色々と闇を抱えているのだと悟った。担任講師である僕にできるのは、彼が危ない趣味に目覚めないことを祈るだけでしょう。

 

 一段落ついたところでイヴさんが目を覚ました。イヴさんは茫洋とした様子で研究室の天井を見つめていましたが、やがて決闘の勝敗を思い出したのかポロポロと涙を零し嗚咽を洩らし始めました。

 

「負けた……私が、あんな巫山戯たヤツに……あんな屈辱的な負け方……っ」

 

 僕達の目があることも憚らずイヴさんは涙を流す。人前では攻撃的な態度を貫く彼女の醜態に僕もグレン君も顔を見合わせて言葉を失ってしまいますが、すぐにそれも仕方ないのかと思い直す。

 

 今日までずっと家族から抑圧され、自ら本音を抑圧してきたイヴさん。きっと計り知れないほどの苦悩や不満があったはず。それが決着の仕方はどうあれ決闘で格下の魔術師に負けてしまい、張り続けた虚勢の防壁が崩れてしまった。今のイヴさんは自分でも本音を抑圧できないほどに心が弱り切ってしまっているのでしょう。

 

 年相応の少女のように咽び泣くイヴさん。その泣き声に気を失っていたレーンさんが意識を取り戻し、パチパチと目を瞬かせる。どうやら自身を取り巻く状況を理解できていないようですね。

 

「んぁ? 何でオレ、こんな所にいるんだ? っつか、何で縛られてんの? しかもすげぇキツイし……」

 

 はてなと首を傾げるレーンさん。取り敢えず状況の説明ついでに教師として注意をしますか。

 

「ここは僕の研究室ですよ。貴女がイヴさんに良からぬことを仕出かしそうな気がしましたので、横槍を入れさせて頂きました」

 

「べ、別に良からぬことなんて企んでないしぃ? ……それで、オレは何で縛られてるわけ? もしかして婦女子を縛って喜ぶ趣味……」

 

「断じて違います。下手人はグレン君です」

 

 隣で素知らぬ顔をしているグレン君を指し示す。するとレーンさんは顔を引き攣らせた。

 

「流石はグレン、数々の外道魔術師を社会的に抹殺するだけはある……」

 

「なんか言った?」

 

「イエ、ナンデモアリマセン……」

 

 冷ややかな微笑を浮かべるグレン君に身の危険を感じたのかレーンさんは大人しくなる。ふむ、レーンさんを御するにはグレン君と懇意にしておけばいいようですね。

 

「レーンさん。貴女が何を考えてイヴさんに決闘を挑んだのか知れませんが、何事にも限度があります。今回ばかりはやりすぎですよ。反省してください」

 

「反省しろって言われても、オレはきちんと決闘のルールに則ってイヴたんと戦ったはずだぜ? 悪いことなんてしてないはずだろ?」

 

「あれを見ても同じことが言えますか?」

 

 いつの間にか部屋の隅に移動し膝を抱えて泣き散らすイヴさんを指し示す。途端にレーンさんは罰が悪そうに口をへの字に曲げた。

 

「いや、うん。ちょっとやりすぎたかなぁ、とは思うよ?」

 

「ちょっと? あれ、軽くトラウマになってるぞ。普通にやりすぎなんだよ、レーンは」

 

 流石のグレン君もレーンさんの擁護をするつもりはないようで、むしろ大泣きするイヴさんの擁護に回っている。

 

「ぐぬぬ……まあ、確かにこればっかりはオレが悪かったよ。反省してます……」

 

 僕とグレン君から説教されてレーンさんも分が悪いと悟ったのか、若干不服げではあるものの自身の非を認めた。

 

 一応の反省を引き出せたところで、話はイヴさんをどう宥めるかに変わる。日頃の鬱憤を涙と共に吐き出し続けているイヴさん。止めるか、いっそこのまま吐き出せるもの全て吐き出させてしまうか。

 

「全部吐き出させた方がオレはいいと思うけどな。中途半端に溜め込んだらそれはそれで体の毒だしな」

 

「まあ、俺もそれがいいと思いますよ。吐き出した内容は俺達が黙っていればいいだけだし」

 

「……そうですね。自然に落ち着くのを待ちましょうか」

 

 二人の意見も取り入れ僕達はイヴさんが自然と落ち着くのを待つことになりました。

 

 待ちの態勢に入った我々は無言。そうなると研究室内に響く声はイヴさんのものだけとなり、必然的に彼女の本音を聞くことになる。吐き出される内容は支離滅裂だったりすることもあるが、そのどれもが自身の境遇に対する嘆きだ。

 

「平民の血が流れてるからって……どれだけ努力しても認めてもらえない。でも諦めきれなくて……友人だって捨てて……夢すらも捨てて……ただ認められるためだけに頑張ってきたのに……それなのにっ……!」

 

 十五にも満たない少女が抱え込んできた苦しみは、相当に深いものだった。その吐露を聞くレーンさんとグレン君は苦い表情。きっと僕も似たような顔をしているのでしょう。担任講師として不甲斐ない限りです。

 

 やがて吐き出すものを出し切ったのか声が収まり始める。嗚咽は止まりませんが、それでも最初よりは大分落ち着いてきたのでしょう。

 

 そんなイヴさんが最後の一言とばかりに呟く。

 

「うぅ……もういやぁ……お嫁に行けない……」

 

 イヴさんらしからぬ随分と可愛らしい台詞。本日何度目か、僕はまたもグレン君と顔を見合わせて目を丸くしてしまいます。確かに、決闘の最後の方ではかなりあられもない格好になっていましたので心配してしまうのも無理はありませんが、イヴさんにもそういったことを気にする心があったのですね。

 

 夢見がちな少女らしいことを宣うイヴさんに応える声。縛り上げられた格好のレーンさんがやけにキリッとした表情で口を開いた。

 

「ふっ、心配するなよイヴたん。嫁の貰い手がなくなったら、その時はオレが貰ってやるからよ」

 

「グレン君」

 

「うっす。取り敢えず小一時間くらい昏倒さ(寝か)せときます」

 

「待て待て待て待て! ステイステイっ! ちょっと小粋なジョークでしょうが──あっ……」

 

 まるで反省していなかったようなのでレーンさんにはしばらく休んでいただきましょう。これ以上話をややこしくされてもかないませんからね。あとイヴさん……そこで顔を赤らめるのは教師としてコメントに困るので止めていただけませんか。

 

 問題児達の扱いに頭の痛みを覚えながら、平静とまではいかずとも落ち着いたイヴさんに声を掛ける。

 

「落ち着かれましたか?」

 

「…………」

 

 返ってきたのは無言の視線。膝に顔を埋めながら僅かに目線だけを上げてこちらを睨む様は不貞腐れた子供以外の何ものでもない。

 

「……笑いなさいよ。いつも偉そうに威張ってるくせに、あんな情けない負け方するなんて、所詮は平民の子供だって馬鹿にしてるんでしょ」

 

「笑いませんよ」

 

「嘘よ。どうせ心の中では嘲笑しているに決まってるわ。そこの二人だってそうに決まってる。家の人達はそうだった……」

 

 興味なさげな態度のグレン君と床に倒れ伏すレーンさんを横目で見やり、くしゃりと顔を歪める。決着の仕方はどうあれ、レーンさんに敗北したことが余程堪えたようですね。

 

 放っておいたらどこまで沈んでいきそうなイヴさんの前に膝をつき、目線を合わせて語りかける。

 

「僕は決して、イヴさんを笑うような真似はしません。貴女が人より何倍も努力し、その頑張りに見合うだけの実力を持っていることを知っていますから」

 

 事実である。イヴさんはこの学校の誰よりも魔術と直向きに向き合い、魔術の腕を磨き上げている。それが公爵家の方々に認められたいがためであっても、彼女が今日まで積み上げてきた努力と頑張りは紛うことなき本物です。

 

「でも、負けたら意味ない……」

 

「確かに、今回は負けてしまいました。ですがその敗北に意味がないとは、僕は思いません」

 

「どういうことよ……?」

 

 僕の言葉に少しだけイヴさんが顔を上げる。

 

「イヴさんはレーンさんに負けた。それは貴女に足りないものがあったからです。私見ですが、それは人を知ることではないかと思います」

 

「そんなこと、言われなくても分かっているわ」

 

 少しばかりムキになってイヴさんが言い返してくる。確かに、彼女は人を『駒』として見做すだけあって相手のスペックデータなどはきちんと把握するよう心掛けているだろう。情報収集を疎かにしないのは大切なことです。ですが、僕が言いたいこととは少しばかり違う。

 

「他人を取るに足らない、より高みを目指すためだけの駒として見ていたのでは気づけないこともある。今回、レーンさんに負けてしまったのがその証左ではないかと」

 

「それは……」

 

 レーンさんは魔術師としてはまだまだ未熟であり、対してイヴさんは公爵家で受けた英才教育もあって既に実力は学生の域を飛び越えている。にも関わらず彼女が負けたのはレーンさんがこと戦闘においてはイヴさんより一枚上手であったこと、そして何よりレーン=グレダスという少女を見誤ったことが敗因だ。

 

「人を知ること。それもまた、貴女が成長するための糧となるはずです。もう少しだけ、周囲の人を見ること僕はお勧めしますよ、イヴさん」

 

「……でも、もう遅いわ。負けちゃったんだもの」

 

「いいえ、遅くなんてありません。まだこれからではないですか。チャンスだって沢山ある。近くで言えば魔術競技祭。そこで良い結果を出すないし、クラスを優勝に導くようなことができれば、それは立派な功績ですよ」

 

 直接的な魔術の比べ合いの機会が少ない学院において大々的に魔術の腕を競い合う魔術競技祭。魔道省に勤める官僚や、帝国宮廷魔導師団の団員の方々が数多く来賓としていらっしゃるこの行事で優秀な成績を残せば、それは間違いなくイヴさんの大きな功績となる。公爵家の方々も認めざるを得ないはずでしょう。

 

 ですがイヴさんの反応はあまり宜しくない。

 

「それこそ無理な話よ。貴方だって分かってるでしょ? うちのクラスは他クラスと比べて中途半端な成績のヤツばっかり。私一人じゃ去年は勝てなかった以上、二組で優勝なんて夢のまた夢よ」

 

「そうでしょうか? 僕はそうは思っていません。確かに、二組は他クラスと比べて突き抜けた成績優秀者は少ない。ですが、それで敗北が決まるわけではありませんよ」

 

 ここから先はイヴさんが自力で答に辿り着くべきでしょう。僕はあくまで教え導く者。あまり出過ぎた真似をしてはイヴさんの成長をかえって妨げかねませんからね。

 

 イヴさんは僕の言葉に思うところがあったのか少しばかり思案顔になって熟考する。

 

「……やっぱり無理よ。たとえ人の見方を変えたところで、私には協力してくれる人なんていない。こんな嫌な女に力なんて貸してくれるヤツ、いないわよ」

 

「それはこれからのイヴさん次第でいくらでも変わりますよ。僕も協力します。グレン君も、どうか彼女に力を貸して上げてください」

 

「え、俺っすか?」

 

 唐突に話の矛先を向けられてグレン君は目を丸くする。僕から頼まれ、イヴさんから見つめられてグレン君は困ったように頭を掻くと、やがて短く吐息を零した。

 

「あー、まあ身内が迷惑掛けたのもあるから協力するのは全然いいんですけど。俺なんかが役に立つか? 去年とか、役立たずだからって一切関わることなかったぞ、俺」

 

「……まだ分からないわ。これから知っていかないと、何一つ分からないもの」

 

 イヴさんのその発言にグレン君が驚いたように目を見開く。今までだったら間違いなく役立たずと断じていたでしょうが、今のイヴさんは人を知ろうとしている。とても良い傾向ですね。

 

「そうかよ……まあ、こんな落ちこぼれでよければ上手く使ってくれよ。こっちのレーン(バカ)も、あんたから頼めば協力は惜しまないだろうからな。つか、嫌でも責任取らせる」

 

 げしげしと床に転がるレーンさんを足蹴にしながら言う。段々扱いが雑になっているのは気のせいでしょうか。

 

 ところでレーンさん、いつまで気絶しているのですかね。もうそろそろ目が覚めてもおかしくない頃合いだと思うのですが。

 

 僕がそう考えたからか、はたまたグレン君に爪先で小突かれたからか、レーンさんの閉じられていた瞼が徐ろに開く。気怠げな様子で体を起こす。

 

「あぁ、いっつつ……ちょっとは加減しろよな、グレン。で? 話はついたっぽい?」

 

 泣き止んだイヴさんを見て、一件落着したと考えるレーンさん。事実、一先ずは収拾がついた状況ではありますが、必ずしもレーンさんが無事に済むとは限りませんよ。

 

「そう言えば……さっきはよくもやってくれたわね、レーン=グレダス。おかけでとんだ恥をかかされたわ……」

 

 ゆらりと幽鬼の如くイヴさんは立ち上がると、恨めしい目つきのままレーンさんに躙り寄る。何となくこの先の展開が読めた僕はレーンさんの名誉のためにもこの場から立ち去ることを決めた。

 

 ちなみにグレン君も同じ結論に至ったようで、既に研究室のドアを開けて外に出ている。一応はレーンさんの危機なのですが、薄情ですねグレン君。

 

「ま、待ったイヴたん。話し合おう。争いは何も生まない。歩み寄りこそが人類史において最も大切なことだと、オレは思うんだ」

 

「聞く耳持たないわ。やられたらやり返す、倍返しよ」

 

「ちょっ、何故イヴたんがその台詞を……って、待って! 何でさり気なく出て行こうとしてんの二人とも!? お願いだから拘束解いてから行って──」

 

 ピシャリ、と研究室のドアを外から閉じる。せめてもの情けに遮音結界は張っておきましたから、安心してください。レーンさんの痴態が学院中に知れ渡ることはありませんよ。

 

「さて、これからどうしましょうか」

 

 お二人の決闘は我々が横槍を入れたために勝敗は有耶無耶なまま。やりようによっては双方にとってダメージが少ない場所に落ち着けることもできましょう。ただ下手に勝敗を誤魔化すとそれはそれでイヴさんが文句を言いそうですね……。

 

「…………」

 

「どうかしましたか、グレン君?」

 

「いや……先生って、大変なんだって思っただけっす。んじゃ、俺は行きますんで。あと、決闘の勝敗はレーンの反則敗けでいいと思いますよ」

 

 言いたいことだけ言うとグレン君は教室へと戻っていく。心なしか、その横顔は楽しそうに笑っていたように見えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イヴside

 

 

「ぜぇ……はぁ……もう無理ぃ、お婿に行けない……」

 

 ヒューイ先生の研究室に大の字になって荒い息を吐くレーン。既に私の手で拘束は解いてあるけれど、それまでに加えられた私の擽りによって立つ気力もないようね。かくいう私も、柄にもなくムキになり過ぎて息が切れてしまっているけど。

 

「はぁ……もう疲れたわ」

 

 ぱたんと私も仰向けに寝転がる。こんなバカに付き合うだけ時間の無駄だって分かっていた癖に、何をしているのかしら。それに、もうすぐ昼休みも終わって午後の授業が始まってしまう。このままここに居座っていたら授業をサボってしまうことになる。でも、どうしてか今すぐにここを離れる気が起きない。

 

 ぼうっと天井を見つめているとレーンの方から声が聞こえてきた。

 

「悪かったな……」

 

「……悪いと思っているなら、力を貸しなさい」

 

 つっけんどんな言い草。こんな態度で上から言われて頷いてくれる人なんていないことぐらい分かっている。でも今の私にはこれが精一杯だった。

 

 内心で不安を抱きながら返事を待っていると、レーンが上体だけ起こしてこちらに顔を向ける。男の子みたいに朗らかに笑ってレーンは首を縦に振った。

 

「いいぜ。オレはイヴたんの味方だ。何でもドン! と任せてくれよ。なんたってオレはイヴたん親衛隊の隊長だからな!」

 

「──っ……ほんと、口が減らないのね、貴女は……」

 

 私の味方。何の衒いもなく言い切られたその言葉に、私の心はかつてなく高揚していた。だけどその感情を表に出すことはしない。いつものように憎まれ口を叩いて、平静を装った。

 

 だからニヨニヨと気味の悪い笑みを浮かべながら生温かい目を向けるんじゃないわよ! もうっ……!

 

 

 

 

 

 




本作品のイヴたんはマイルド仕様、かつ苦労人仕上がりになります。無論、誰のせいかは言うまでもない。
ところでグレン君、知らないとは言え実の姉を縛り上げるとは業が深いですな。
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