ロクでなしTS転生者と禁忌教典 作:男の子に、オレはなる!
いやぁ、大学のテストも終わって夏休みなんで取り敢えず書き上げました。皆さんは夏休みを如何お過ごし? ちなみに私はバイトと車校です、はい。リア充したい……。
レーンside
さあさあ近づいて参りました、魔術競技祭の季節である。アルザーノ魔術学院において一、二を争うビッグイベント。学年ごとに開催する期間をずらし、学院生徒同士が魔術の技を競い合う、魔術師バージョンの体育祭といえば分かりやすいだろうか。違う? 似たようなもんでしょ、うん。
放課後の二年次生二組の教室、そこでは今誰がどの競技に出るかを決めていた。壇上に立つは我らがイヴたんとオレである。チョーク片手に黒板の前に立つのは、何故かオレである。
イヴたんの頼みとあらば協力は惜しまないけども、オレが前に出る意味あるのかね? 今だって意欲に欠けるクラスメイト達に『如何にすれば二組が優勝できるか』を理路整然と語っているし、正味な話オレ要らなくない?
まあ理屈で説明されたからといって納得できるかはまた別問題で、これまでのイヴたんの態度に反感を覚えている者もちらほらといる。その辺りの面々の賛同を得られず、イヴたんもなかなかに苦戦している様子だ。
イヴたんなりに誠意を込めて頼み込んでいるが相手方も意地になっているらしく、話は遅々として進まない。こればっかりは今まで積み重ねてきた信用とか人徳が物を言うため一筋縄ではいかないだろう。
ふむ、彼らもイヴたんの作戦を真っ向から否定しているわけではない。ただ魔術師としてのプライドが今まで散々他者を見下してきた相手、それも歳下の思惑に乗せられることを許さないというところか。大半はイヴたんが提示した具体的なメリット、来賓やお偉方にアピールできるチャンスであるとかに靡きそうなものなんだが、あと一手足りない……。
仕方あるまい、ここはオレが一肌脱ぐぜイヴたん。なに? オレに任せると悪化する? 何を仕出かすか不安で不安で仕方ない? でぇ〜じょうぶだ、オレの作戦に穴はない。大船に乗ったつもりで見守っていてくれ。
文句を垂れるイヴたんを押し退け壇上に立つ。席についてこちらに注目するクラスメイト達の顔を見渡し、一つ咳払いをして彼ら彼女らに“餌”を与える。
二組紳士諸君! 此度の魔術競技祭、なんと我らがイヴたんがチアコスをして応援してくれるそうだ! 美少女が恥じらいながら必死に応援してくれるシチュエーション、逃す手はなかろう?
男子達が雄々しい雄叫びと共に拳を天に突き上げた。よし、半分の同意を獲得だ。続いて女性陣だな。
二組淑女諸君! 此度の魔術競技祭、栄えある優勝を獲得した暁にはヒューイ先生が一人ずつ放課後デートに付き合ってくれるそうだ! イケメン優男教師との甘い一時、逃す手はなかろう?
女子達が黄色い声と共に諸手を上げて立ち上がった。うむ、そういう欲望に忠実なところはうちのクラスの良いところだと思うわ。
さて、勉強になったかねイヴたん。これが『駒』ではない、『人』の使い方だ。使えるものは自分でも使う、これ鉄則。だからその握り締めた拳を下ろしてね、ね? あとヒューイ先生、いつからそこにいたんですか? 最初から?
待ちたまえ二人とも。これは必要な犠牲なのだよ。皆して意固地になってしまっていたから、思い切って真剣路線の真反対に舵を振り切らせて開き直させる。そうして柵も要らないプライドも取っ払って一致団結を図ってだな……え? ならオレも体張れ? オレもチアコス? 女子達と放課後デート?
ぐ、ぐぬぅ……お二人がそれで納得するのなら……良かろう。不肖レーン=グレダス、身を切る思いで承諾致す。……オレ、ちゃんと男に戻れるのか心配になってきた今日この頃。
そもそもオレのチアコスとデートに需要があるのか。試しにちょっと聞いてみたら男子達からは渋い顔、女子達からは困ったような表情が返ってきた。オイ、やっぱオレが身を切る必要ないじゃないか。
しかし二人の承諾も得ずに作戦を実行したのは事実である以上、オレに拒否権など認められない。需要がないのに供給するという悲しく虚しい構図に心の内で涙を流しつつ、勢いで乗り気になってくれたクラスメイト達と魔術競技祭に向けて団結するのだった。
ヒューイside
そろそろレーンさんの問題行動に対して厳しい罰を与えるべきではないかと考え始めた今日この頃、魔術競技祭を三日後に控えた放課後に私の担当クラスである二組は中庭にて魔術の練習に打ち込んでいた。
担当講師として僕は生徒達の監督をしているわけですが、正直な話、僕がいなくとも上手く回っている。イヴさんが主導して生徒達に練習内容を指示し、グレン君が効率的な練習方法を丁寧に教え、レーンさんが高い士気を保つべく声かけを行う。それぞれが伸ばすべき能力の向上に努め、優勝を目指して一致団結しています。
僕が出しゃばるまでもなく、二組は全員が全員一つの目標に向けて足並みを揃えている。素晴らしいことです。払われた犠牲は決して小さくありませんが……。
レーンさんにも困ったものです。クラスの団結を促すためとはいえ、よりによって教師の僕に女生徒とのデートを強要するとは、流石に黙ってはいられませんよ。教師と生徒がそのような行いをするなど、公私混同も甚だしい。もし本当に放課後デートなどしようものなら僕は世間から白い目で見られることになってしまいます。
一応、女生徒の大半はその場のノリだから本気にしていないと仰っていましたが、一部本気にしかけていた方々の説得が大変だこと。おかげでデートまではいかずとも女子会なるものに強制参加を決定されてしまいました。一応言っておきますが、僕は男ですし生徒とそのような間柄になるつもりはありませんので。
イヴさんはイヴさんで競技祭当日にチアコスなるものでクラスを応援することが決定してしまい、連日僕のもとに訪れては「本番は休もうかと思うわ……」と本気とも冗談ともつかぬ愚痴を零している。いや、あの目は八割近く本気でした。こうして練習の際には真面目に誰よりも真剣に取り組んでいますが、一旦冷静になると羞恥が押し寄せてくるのでしょう。
イヴさんを上から指図するだけの存在ではなく、彼女自身にも体を張らせることで生徒達に受け入れさせた。その目論見自体は悪くありませんが、仮にもイグナイト家の貴族子女に露出の多い衣装で応援させるとは……怖いもの知らずなのか向こう見ずなのか。それともただのお馬鹿なのか。
貸衣装屋から借りてきた衣装片手にイヴさんを追いかけ回す姿を見る限り、ただのお馬鹿にしか見えませんね……あっ、例によっていつもの如くグレン君に鎮圧されて引き摺られていきましたか。もう見慣れた光景ですね。生徒達も一頻り笑った後に何事もなかったかのように練習を再開しています。
僕も半笑いで練習風景を眺めていると、一仕事終えたと言わんばかりの清々しい顔でグレン君が校舎の裏から出てきました。校舎の陰から女生徒の足が伸びているように見えますが、僕の見間違いでしょう。
「ご苦労様です、グレン君」
「いや、ほんとうちの
「ははっ、相変わらず仲がよろしいですね。まるで本当の姉弟のようだ」
何気なく放った僕の言葉に一瞬、グレン君は表情を強張らせた。しかしすぐに鼻で笑うとないないとばかりに首を横に振る。
「冗談はよしてくださいよ、先生。レーンと姉弟とかないない。実際、家族みたいな関係ですけど、俺とあいつに血の繋がりなんてないですって」
「そうでしたね」
グレン=レーダスとレーン=グレダスの間に血の繋がりはない。それは入学書類にも明記されている。吃驚するほどに容姿が似通っているものの、当人達も違うと否定するので周囲もただ似ているだけと認識している。
「ちょっと、グレン。手が空いてるのだったら手伝ってくれる? あっちの子達からお呼びがかかってるのよ」
僕がグレン君と話していると不貞腐れた表情のイヴさんが割って入ってきた。
「なんだよ、助けてやったんだから少しくらいいいだろ。つか、俺のこと扱き使いすぎだっての」
「仕方ないでしょ。貴方の教え方が上手なのが悪いわ」
「褒めてんのか貶してんのかどっちだよ」
疲労感の滲む溜め息を洩らすグレン君。
レーンさんのタレコミによって実技こそ芳しくないものの教える才能があることを買われたグレン君は、練習期間が始まってからずっとあっちへ引っ張られこっちへ引っ張られと大忙しだ。今までグレン君を馬鹿にしていた生徒達も、彼の比類なき知識量と教え方の上手さを素直に認め、イヴさん同様に仲間として受け入れ始めている。
グレン君自身は魔術の腕ではない別の才能を買われたことで複雑そうであったが、認められること自体は嬉しかったらしく頼られたら断ることはない。そうして片っ端から応え続けたことで今ではすっかりクラスの一員として競技祭優勝を目指して頑張っている。
クラスメイト達に呼ばれてやれやれとばかりにそちらへ向かうグレン君。言動とは裏腹に以前までよりも表情が明るく感じられるのは僕の気のせいではないでしょう。それもこれも全部、レーンさんのおかげと言っても過言ではない。本人に言えばまず間違いなく調子に乗るので言いませんが。
「いい傾向ですね」
「如何にも教師っぽいこと呟いているところ悪いけど、ヒューイ先生も暇なら生徒達の指導に手を貸してください。グレン一人じゃ手が足りないのよ」
「そうですね。このままではグレン君にお株を奪われてしまいますから、僕ももう少し教師らしいことをしましょうか」
具体的にはグレン君の手が回らず困っている生徒達のフォローへ。これでも現役魔術講師ですから、知識量と魔術の腕でグレン君に負けるわけにはいきません。それに僕も二組の優勝に少しでも力添えがしたいですから。
しかし僕が生徒達のアドバイスに向かおうとしたところで校舎の陰から這い出てくる人影が視界の端に映った。人影は奇妙な呻き声を上げながらゆっくりと立ち上がると、カッ! と両眼を光らせてイヴさんへ目掛けてダッシュする。
「イ〜ヴ〜た〜ん〜!」
「ひぃ!? 何か来たあああああ!?」
「待てコラ、イヴたん! 頼むから採寸だけさせてくれって! でないとサイズ合わせができないんだって!?」
本気で困っているらしくレーンさんは両手を合わせて頭を下げた。
「嫌よ! 採寸とか言って手付きが厭らしいのよっ!? ぜったい必要以上に触るつもりでしょ!!」
「……そ、そんなことしないしぃ?」
「今思いっきり間があったわ! それに目も逸らしてる! 信用ならないにもほどがあるのよ!?」
身の危険を感じたイヴさんは採寸を拒否。恐らく採寸されなければ本番に衣装を着ることもないという魂胆もあるのでしょう。レーンさんに背を向けると一目散に逃走を始めました。
「くっ……! 逃げられると捕まえたくなるのが人間の性。いいぜ、きっちり捕まえてやる。そんでもってもう逃げられないようきっちり縛り上げて……」
「ほどほどにしてくださいね、レーンさん。あまりおいたが過ぎますと本当に怒りますからね?」
僕が笑顔でそう言うとレーンさんは顔を強張らせて後退りする。
「あははっ、やだなぁ先生。冗談、冗談ですとも。だからその笑顔は止めてください、すっげぇ怖いです」
何のことでしょうか。僕の表情筋はいつもと変わらず平常運転ですよ。ところでグレン君はどこにいますかね。手が空いているようでしたら問題児の確保を手伝ってもらおうかと思ったのですが。
そそくさと僕から距離を取って逃げるイヴさんを追いかけるレーンさん。意地でも採寸されまいとイヴさんも本気で逃げ回っている。今のところはただの追いかけっこに留まっているのでいいですが、魔術が飛び交うようになったら止めに入りましょうか。流石に危険ですから。
イヴさんの真に迫る悲鳴を聞き流しながら僕は困っている生徒達の指導にあたった。
そんな賑やかしくも有意義な練習を一週間、可能な限りの手を尽くして二組は魔術競技祭当日を迎えるのだった。
今作のグレン君は原作よりも学生時代をエンジョイできます、はい。