SIREN(サイレン)/小説/異界入り2017記念編 作:ドラ麦茶
はじめましての方も、いつもお世話になってますな方も、お久しぶりな方も、ようこそ異界へ。物書き屍人のドラ麦茶です。
今作は、SIRENクラスタの年に一度のお祭りイベントである『異界入り2017』に合わせ、二〇一七年三月に完結した『SIREN(サイレン)/小説』を時系列順に並べ、ゲーム時間とリンクして投稿した特別バージョンです。
内容は変わりないですが、前書きあとがき欄で執筆時の思い出などを語っています。
本来、私は前書きやあとがき等は書かない主義なのですが、「異界入り時、SIRENクラスタは各々好きに荒ぶれ」という神のお告げ(?)に従い、いろいろと語りたかったことを書き連ねてみました。中には、自画自賛で独りよがりな内容も含まれているもしれませんが(というより、たっぷり含まれていると思います^^;)、異界入りはお祭りということで、大目に見てください。
読む際の注意点ですが、本来時系列バラバラの話を時系列順に投稿していますので、話が前後することが多々あります。特に、この小説での第一話は原作のラストに出現する隠しムービーに当たる話であり、かなり壮大なネタバレとなっています。原作未プレイの方はお気を付けください(基本的に原作未プレイの方は、本編である『SIREN(サイレン)/小説』をお読みいただくことを推奨します)。
では、最後までよろしくお付き合いください。
村を、酷い飢饉が襲っていた。
春から、ずっと、雨が降らない。もう、一〇〇日を超える。村に蓄えていた食料はとうに底をつき、田畑で育てていた作物は枯れ、家畜は死に、山や森の木々も枯れ、川は干上がり、熊も、鹿も、猪も、兎も、魚も、全て、死に絶えた。
村人も死んだ。わずかばかりの食料を奪い合って死に、食料とも言えぬ枯草や腐臭を放つ死骸のために争って死に、そして、村人の死体すらも奪い合って、死んだ。食べられるものは全て食べた。それでも、雨は降らない。
多くの人々が暮らしていた村は、今や、二人の男と、一人の女だけとなった。
天から、巨大な三角錐の岩と共に、異形の生物が降ってきたのは、そんな時だった――。
男の一人は、神の恵みだ、と言った。天の神が、我らを救うために、食べ物を授けてくれたのだ。食べるべきだ、と。
もう一人の男は、この異形の生物こそが神だ、と言った。神が、我らを助けるためこの地に降りたのだ。食べるなど、とんでもない、と。
女は何も言わず、ただ、異形の生物を見つめた。
身体が、まるで炎で焼かれたかのように赤くただれていた。死んではいないが、かろうじて息をしているだけだった。放っておくと、すぐに死ぬだろう。
殺して食べるべきだ、と、一人は言う。
治療して崇めるべきだ、と、もう一人は言う。
女は――。
どちらでもなかった。食べ物かもしれないし、神かもしれない。どちらであろうと関係ない。ただ、食べなければいけないと思った。食べるしかないと思った。自分が、生きるために。
女は、異形の生物の腹に顔を近づけると。
その、丸く膨らんだ肉に喰らい付き、噛み千切った。
異形の生物が、森の奥に潜む鳥のような鳴き声を上げる。
構わず、女はさらに手を伸ばす。腹の中に手を入れ、柔らかい内臓を引きずり出し、そして、喰らいついた。
言い争っていた男たちも、女が手を付けると、先を争って、異形の生物を食べ始めた。一度食べたら、もう、神であろうとなかろうと、どうでも良かった。
腹を喰い、足を喰い、首を喰い、背中を喰った。
異形の生物が、ひときわ高い鳴き声を上げた。
男が、頭をおさえ、うめき声を上げた。
もう一人の男も、同じように苦しみ始める。
頭が痛い、割れる、悲鳴を上げる。
女も、頭を引き裂かれるような痛みに襲われた。
やがて、男たちは、目から、鼻から、耳から、口から、血を吹き出し、息絶えた。
女は――。
それでも、異形の生物を食べ続けた。死ぬことはなかった。死ぬわけにはいかなかった。
ただ、食べなければいけなかった。
愛する者を、護るために。
生まれてくる者と、生きるために。
☆
――――。
――ああ。
神よ。お許しください。
罪深き私を、お許しください。
天から降臨されたあなた様は、まぎれもなく、神。
神の御身に、我々下賤の者が手を付ける。なんと罪深いことでしょう。
ですが、お許しください。
私は、死ぬわけにはいかないのです。
我が身に宿った、新たな命のために。
生まれてくる、この子のために。
私は、生きなければなりません。
だから、お許しください。
あなたの身体に手を付けることを、お許しください。
それがどんなに罪深いことでも、許されないことでも。
私は、母として、その罪を犯さなければなりません。
私は、あなたを食べなければなりません。
例え、神の命を糧にしてでも。
私は、生きなければなりません。
――その代わり。
もし、無事に、この子が生まれ、育ち、私の手を離れたら。
神よ。私はその後、あなたのために生きましょう。
神よ。私は、残りの命を、あなたのために捧げます。
私は、ご恩を忘れません。
我が子を救ってくれたご恩を、決して、忘れません
だから、私は、あなたのために生きましょう。
あなたの恩に報いるために
あなたの偉業を称えるために。
あなたの存在を伝えるために。
この罪を、償うために。
私は、あなたのために、生きていきます。
命が続く限り、この罪を償い続けます。
犯した罪の大きさは、私のような短い命では、償いきれないかもしれません。
私の命で足りぬのならば、私の子孫の命も捧げます。
たとえ何十年、何百年、何千年かかろうとも、この罪を償い続けます。
私は、今日、あなたから頂いた恩を、決して忘れない。
我が子を救ってくれた恩を、決して忘れない。
ああ、神よ。
ありがとうございます――。
☆
女は食べる。
神の身体を。
生きるために。
我が子のために。
神に、感謝の祈りを捧げながら。
神が悲鳴を上げた。命が尽きる時の、最後の叫び。断末魔の悲鳴が、空に響き渡る。
☆
村に、サイレンが鳴り響く――。
SIRENの始まりとなるエピソードにして最後を飾る話ですね。
本来は堕辰子のエピソードとなっていますが、小説の中では堕辰子の名前は出さず、『神』という呼び名で統一していたことと、何より原作未プレイの人へネタバレを避けるために(笑)、人物不定のタイトルにしました。
さらに、このエピソードの視点は堕辰子ではなく八尾比沙子にしています。
投稿時にTwitterでもちょっとつぶやいたんですが、『SIREN(サイレン)/小説』では、八尾比沙子を真の主人公として描いてきました。その集大成とも言えるエピソードであり、私がSIRENで一番書きたかったシーンでもあります。
SIRENをプレイした多くの人が「八尾比沙子が何をしたいのか判らない」という疑問を持っていました。原作で、比沙子は恭也や美耶子、知子等を助ける一方で、その知子を屍人に襲わせたり、結局美耶子を捕えて生贄にしたり、最終的に自分を実として神に捧げたりと、支離滅裂な行動をとっています。
SIRENの公式考察本『SIRENマニアックス』によると、最初は呪いを解いて神を復活させ、楽園へと導いてもらうために儀式を行っていたけれど、千年以上続けているために最初の目的や自分が何者であるのかを忘れ、盲目的に儀式を行っており、その救われない状況こそが比沙子にかけられた呪いの本質である、とあります。
また、比沙子の本性は、飢餓で死なないために神の肉を食べて呪いの原因を作り、呪いを解くために多くの村人を犠牲にした、自分勝手で残忍な性格とされています。
ですが、私は、「一三〇〇年前の飢饉の時、比沙子が妊娠していたのなら、堕辰子を食べるという行為は母親として当然なのでは?」と思いました。
だから私は、八尾比沙子を『慈愛に満ちた求導女』や『儀式を遂行するための手段を選ばない残忍な女』だけでなく、『一人の母親』として描いてみたかったんです。
そこには、『呪いから解放されたい』とか『永遠の命を得たい』とか『楽園に導いてほしい』とかいったよこしまな思いは無く、ただ純粋に我が子を想い、ただ純粋に神に感謝し、ただ純粋に罪を償い、ただ純粋に神を復活させようとした。そういった姿を八尾比沙子の本来の姿として設定してみました。
感想欄にて「八尾比沙子の印象が一変した」との、非常に嬉しいお言葉を頂きました。ありがとうございます^^