八幡と艦娘達の平和な鎮守府生活   作:38ノット

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初回(説明回)特有の文量になってしまいました。出来る限り設定に違和感の無いようにしたつもりです。
誤字脱字、ここ変じゃね? 等々ありましたら感想欄までお願いします。



1.俺、提督になります。(拒否権無し)

  2限の終わりを告げるチャイムが講堂に鳴り響く。俺を含め、学生達は皆億劫そうに立ち上がり、礼をした。

  礼をしたせいでよく見える風通しの良さそうな(婉曲表現)教授の頭を見ながら、禿げにだけはなりたくねぇな、などと失礼極まりない事を考える。幸いにして、うちの家系の毛根は強い方らしいのであまり神経質になり過ぎることは無いと思いたい。

 

「っべー、まじつかれたっしょー!」

 

「次の講義サボらね?」

 

「それ、っべーわー! まじっべー!」

 

  がやがやと騒ぎ立てるリア充共を尻目に講堂を出て、俺は駅へと向かった。今日の講義は終わりだ! 俺は家に帰らせてもらうぞ!

  てか、戸部みたいな喋り方してる奴は結局サボるの? サボらないの? 情報が疲れたとやばいの2つしか無くて何も分からなかったんだけど……。

 

  高校生活を3年間、順当にやってきた俺こと比企谷八幡は、無事某国立文系大学に合格し、4月からのキャンパスライフを満喫……満喫? いや、まぁ、ぼっちなりに楽しんで…………楽しんで? ……い、いや別に周りにリア充しかいなくて肩身が狭いとかじゃ無いし? そんなの高校で慣れっこだし? ぜ、全然平気だし? まじよゆう(震え声)。

 

  兎にも角にも、俺が大学生となってそろそろ1週間が経過しようとしていた。相変わらず友達は出来ないけどね! まぁ作ろうとも思ってないので別にいいのだが。

  ちなみに、雪ノ下は流石と言うかなんと言うか、最難関の大学に首席で入学した。由比ヶ浜はと言えば、あいつはあいつなりに頑張っていたようで、それなりのレベルの私立大学に合格出来たようだ。

  ……俺はどうしてこんな説明口調で近況の整理なんてしているんだろう。

 

(八幡……聞くのです……それ以上考えてはいけません……)

 

  ……なんだろう。女神みたいな声が聞こえた気がする。頭の中に直接響くような……。

 

(考える事をやめるのです……)

 

  俺は考える事をやめた。

 

  その時、右ポケットに無造作につっこまれた暇潰し機能付き目覚まし時計が振動を始めた。電話である。俺は何も考えずに、つまり相手の名前も確認せずに、電話に出た。

 

「もしもし、比企谷です」

 

「ひゃっはろ〜!! 比企谷くん、元気〜?」

 

  その瞬間俺の意識は一気に戻った。同時に、20秒前に考える事をやめた自分をぶん殴ってでも正気に戻してやりたい衝動に駆られる。タイムマシンの発明はまだだろうか? というかさっきの声は女神じゃなくて確実に魔王の手先じゃねえかよ。くそ、それっぽい雰囲気と言い方に騙されたわ。

 

「お〜い、聞いてる〜??」

 

  電話口の向こうで魔王、陽乃さんがこちらを窺ってくる。

 

「……えぇ、聞いてますよ。さっきまではわりと元気あったんすけどね、一気に亡くなりました」

 

  誤字に非ず。魔王の暴虐によって俺の元気はみな殺されてしまったのだ。

 

「ふーん。まぁなんでもいいや」

 

  相変わらずの魔王っぷりである。俺の精一杯の皮肉なぞ何処吹く風といった様子で彼女は続けた。

 

「比企谷くん、今からおねーさんとドライブしない?」

 

  なんだか猛烈に嫌な予感がする。俺の秘められし第6感(シックスセンス)がとうとう覚醒してしまったのだろうか……。いや、中二病を再発してる場合じゃねえ。

  果たして、その言葉を聞いた直後、俺の横に見覚えのある黒塗りのベンツが音も無く横付けされた。

 

  そして、魔王が降臨する。

 

「や、久しぶりだね」

 

  彼女の声が、正面と右から同時に聞こえてくる。洗脳でもされそうな錯覚を覚え、俺は電話を切った。願わくば正面の実体の方との縁を切りたかったのだが。

 

「……お久しぶりです」

 

「うんうん、元気そうだね〜」

 

  どこがだよ。

 

「んじゃ、乗って?」

 

「はぁ……」

 

  この人に抵抗しても無駄な事はこの2年間で嫌になるほど理解させられている。

  俺は大人しく車に乗り込んだ。

 

 

 ――――――――――

 

「んで、どこ行くんすか?」

 

  車が発進してから、俺は尋ねた。

 

「横須賀〜」

 

「……横須賀? なんでまた」

 

  俺が聞くと陽乃さんは急に真面目な顔をしてこう言った。

 

「横須賀鎮守府に行くの」

 

「鎮守府ぅ??」

 

  鎮守府ってアレか、深海棲艦に対抗する為の施設、みたいなやつだったか? 確か一般人は中に入る事すら出来ないはずだが……あ、隣の人は一般人とはかけ離れた人でしたね。八幡うっかり! てへぺろ! ……気持ち悪くなってきた。車酔いかな?

 

「……なんでですか?」

 

  同じような問いを繰り返すのは子供みたいで少し恥ずかしいものがある。なんだか陽乃さんにいいように踊らされている感じがした……それはいつもの事でしたね!

 

「君には、提督になってもらいたいの」

 

  は?

 

「は?」

 

  今なんと?

 

「提督って……あの?」

 

「その提督よ。比企谷くんには、深海棲艦に対抗する、艦娘達の指揮を執って欲しいの」

 

  ……いきなり何を言い出すのだろうかこの(魔王)は。

 

「……や、無理でしょ。普通に考えて」

 

  脳内スレッドにやらない夫のAAが流れていく。本当に何を言い出すんだ。常識的に考えてもさっぱりわからない。

  陽乃さんは真面目な顔をやめて続けた。

 

「うーん、普通だったら確かにそうなんだけどね? 君の配属先ってのがちょーっと特殊な所でさ」

 

  なんだか思わせぶりな言い方だ。もっと言えば確実にちょっとどころではない事情がありそうな言い方。

 

「や、でもいい所だよ? 近海で深海棲艦はほとんど目撃されないから素人の君でも大丈夫だし、仕事は1日の報告書類くらいでちゃんとお給料はでるし、周辺に君と艦娘達以外の人間は居ないし、あと……自然豊かだし?」

 

  何故疑問形……。それは置いておくとして、それだけ聞けばなかなかに好条件だ。特に仕事がそれだけで金が出るってのは八幡的にポイント高い。8万ポイントあげちゃうよ。八幡だけに。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「ちょーーっと遠いんだよね〜」

 

「ちょっと、遠い……」

 

「うん……」

 

「……どのくらいですか」

 

「横須賀鎮守府から300kmくらい離れてるから……片道5時間はかかるね……」

 

「えっ」

 

  それはつまり。

 

「うん……離島、だね」

 

  ミステリー小説が涎を垂らして飛びついてくるレベルの完璧な離島だった。台風でも来ようものならクローズドサークルの完成である。

  陽乃さんは珍しく申し訳なさそうな顔をして、目線を外している。試しに前に回り込んで視線を合わせ……あ、そっぽ向いて逃げた。

  仕方が無いので姿勢を戻して話を続ける。

 

「……それの、どこがちょっとなんすか」

 

「うぅ……ごめんなさい……」

 

「や、まぁいいんすけど……いや良くないけど」

 

  どっちだよ、俺。

 

「素人でいいのは分かりましたけど、なんで俺なんすか?」

 

「見込みのある若い子を連れてきてくれって頼まれちゃって……」

 

「断れなかったんですか?」

 

「うーん。その人には恩があったしね〜。それに国レベルの話だから軽々しく断る訳にもいかなかったんだよね」

 

  なるほど。魔王は魔王で苦労されているようだ。

 

「見込みのある子って言ったら比企谷くんくらいしか思いつかなくてね〜。私、これでも比企谷くんには期待してるからさ」

 

「……そっすか」

 

  ……っぶねー。俺が訓練されたぼっちじゃ無かったら今の一言で好きになってフラれる所だった……フラれちゃうのかよ。ぼっちは期待に弱い。これ豆な。

 

 

「あの、ところで俺に拒否権は……?」

 

「あると思う?」

 

「アッハイ」

 

  やはりいつもの陽乃さん(魔王)であった。

 

 ――――――――――

 

「でけえ……」

 

  初めて見た横須賀鎮守府はそれはもう立派な建物だった。国防に関わってんだから当たり前っちゃ当たり前なんだろうが。

 

「なにしてんの〜? 置いてくよ〜」

 

  そう言いながら彼女はどんどん奥へと歩いていく。こんな憲兵さんがうろうろしている所で置いていかれたりしたら牢獄エンド待ったなしなので慌てて後を追った。

  門番らしき人に何かの紙――許可証とかだろうか――を見せた陽乃さんに続いて中へ入ると、軍服を着た男が数人こちらを見て、慌てて敬礼した。この人顔覚えられてんのかよ……。本人はひらひら手を振って返してるし。すげえなオイ。

 

  そんなやり取りを見ること数回、執務室とプレートのある部屋に辿り着いた。他の部屋とは扉の作りからして違う。明らかに偉い人がいる部屋感がある……。やべえ、ちょっと緊張してきた。よ、よし、1回深呼吸して落ち着……あ、ちょ、待ってノックしないで! 心の準備まだ出来てないから! ぼっちがテンパると「あっ……う……あ、え……」としか言えなくなっちゃうから! あの時の教室内の何とも言えないお通夜ムードと早くしろよ的な空気は一生忘れられそうにない。

 

  俺がトラウマ想起に勤しんでる間に部屋からは「どうぞ」と返ってきていて、俺は陽乃さんと共に部屋に入る。

 

  執務室には、椅子に掛けて机で手を組み人の良さそうな笑みを浮かべている初老の男性と、その隣でこれまたニコニコとしながら立っている活発そうな女の子がいた。え、てかあの犬耳みたいなのどうなってんの……。髪っぽいのに明らかにパタパタ動いてるんだけど……。

 

「失礼します。件の男子を連れてきました」

 

「うむ、わざわざすまんね陽乃ちゃん」

 

  陽乃……ちゃん!? この人がちゃん付けされてるとものすごく違和感あるな……。

 

「いえ、元帥の頼みですもの、断りませんよ〜」

 

  元帥? 総帥じゃなくて? 総帥ならわかるんだけどなー。レッド総帥とか。あとは……特に知らんな、うん。

 

「して、そちらが比企谷くん……かね?」

 

「あ、はい。比企谷八幡です。よろしくお願い致します」

 

  やや緊張しながら頭を下げる。

 

「ははは、なに、そう畏まらんでもいいさ。元帥なんてやってても、所詮はただの老いぼれじゃからの。……あぁ、こっちの子は夕立、艦娘じゃ。秘書艦をしてもらっている」

 

「夕立っぽい〜。よろしくおねがいするっぽい〜?」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

  ぽいって何だよぽいって。ほんとはよろしくしたくない感じなのん? 初対面の子に言われると軽く泣きそうなんだけど。というか艦娘なのか。普通の女の子にしか見えんな。

 

「夕立、先に昼にしてよいぞ。儂は彼と話があるからの」

 

「は〜い、了解っぽい〜」

 

  そう言って夕立? は出ていった。

 

「さて……陽乃ちゃんから聞いとるとは思うが、君には青碧(せいへき)島、青碧鎮守府で提督をやってもらいたい」

 

  脳内に『青碧島連続殺人事件』なるタイトルがやたらとゴテゴテした安っぽいフォントと共に出現したが、頭を振って消した。お、起きないよね? 大丈夫だよね?

 

「まあ仕事は基本的に哨戒任務、つまり周辺警戒じゃから安心してくれ。提督としての知識はあまり必要にはならんが、書類を書く時は向こうにいる任務艦の大淀に手伝ってもらうとよい。他に任務があればこちらから無線で連絡をいれる。何か質問はあるかの?」

 

「……どうして俺なんですか? もっとマシな人材だって居たはずでしょう」

 

  いくらなんでもズブの素人をいきなり提督にするのは不自然すぎるように思えた。士官学校とかもあるしな。

 

「つまり?」

 

「……何か裏でもあるんじゃないんすかって事です」

 

  って、こんな台詞吐いて、俺はエスパーか何かかよ。ぼっち! エスパーだよ! これでなんにもありませんでしたとかだったら黒歴史確定だぞ。恥ずいなんてレベルじゃねえ。発言を取り消そうと口を開きかけた瞬間。

 

「ぬわっはっは!!」

 

  豪快な笑い声が部屋に響いた。ちょうびびった……。急に大声だしたりしたらぼっちがビビって逃げちゃうでしょーが。ぼっちは警戒心が強い、野生動物と同じだ。そう、社会に順応すること無く常に警戒を忘れない。まさに野生だ。のけものフレンズだ。すごーい! 君は友達がいないフレンズなんだね! いや、友達いないのにフレンズって複数形なのはおかしいだろ。

 

「流石陽乃ちゃんの見込みじゃな」

 

「でしょう? 彼、なかなかのもんじゃない?」

 

「うむ。……お察しの通り、この件には裏があってな。あの島にはある兵器があっての。それを儂らはひた隠しにしてきたんじゃ。深海棲艦の手に渡らないのはもちろん、現地の艦娘や、他の鎮守府にさえバレないようにの。前任の男はその監視役だったと言うわけじゃ。が、前任はもう歳でな。先日引退したので、代わりが必要になったという訳じゃ」

 

「俺みたいな素人を選んだ理由は……敵を騙すにはまず味方からってとこですか」

 

「そういうこと〜。君が何も知らなければ万が一があってもバレる心配は無くなる、でしょ?」

 

「なるほど」

 

  納得の理由だ。リスクを最低限に抑えたやり方、実に合理的と言える。

 

「まぁ君にはバレてしまったがの」

 

「はぁ……なんか、すんません」

 

「よいよい。隠しておくにしても相応のデメリットはあったわけじゃしな。前のような体制で続けられると考えれば寧ろ良い事じゃろ」

 

「ですね〜。……比企谷くんはリスクリターンの計算ちゃーんとできるもんね?」

 

  例えるなら原作10巻表紙のような蠱惑的な笑みでこちらを見つめてくる。いや、それはもはや例えてねーよ。渡先生、12巻待ってます。……その笑顔の裏にはお前バラしたらどうなるかわかってんだろうな的な脅しが含まれてる事をわからない程俺は馬鹿ではない。

 

「……ええ」

 

「陽乃ちゃん、そんなに脅してやるな。なに、君は島に兵器が隠されてるんだなーくらいに頭の片隅にでも留めておいてくれていればいいんじゃよ」

 

  いや、んな適当な…。

 

「事情を知ったからと言って特に仕事が増えるわけでもない。さっき言ったとおり、毎日の哨戒と書類の提出。何かあった場合は書いて出すこと。何も無ければ特になしでよい。必要な資材や何か欲しいものがあればいつでもこちらに要求するといい。金は払ってもらうがの。食糧は3日おきに届く手筈になっとるが、資材は必要な分がわからんからの。給料もしっかりでる。月末の食料と一緒に送っておこう」

 

  随分と世話を焼いてくれるものだ。その好意を無下にするほど俺はもう子供ではない。素直に甘えて礼を言う。

 

「うっす。ありがとうございます」

 

「うむ。これで話は終わりじゃ。あの島の事、頼んだぞ」

 

「はい」

 

  俺は一礼して陽乃さんと共に部屋をでた。

 

 ――――――――――

 

 

「そろそろお昼にしよっか」

 

  気がつけば太陽はだいぶ天辺に近づいていた。当然その提案に乗って、俺達は敷地内の立ち食いそば屋に入った。

 

「らっしゃーせー!」

 

  威勢のいい兄ちゃんである。お仕事ご苦労様です。

 

「あ、さっきの人っぽい!」

 

  威勢のいいお嬢ちゃん……ん?

  声のした方を見れば夕立が蕎麦を啜っていた。

 

「あぁ、ども」

 

「ひゃっはろ〜」

 

  軽く挨拶を交わしてから、少し間を開けてカウンターにつき、注文をする。

 

「あなたも提督さんになるっぽい?」

 

  料理を待っていると、夕立が再び声をかけてきた。フレンドリーな子である。

 

「ん、らしいな」

 

  我ながらぶっきらぼうな返しだと思う。そんなんだから隣の席の上田さんと「消しゴム貸して?」「……はい」以降2度と言葉を交わさないようになるんだぞ?

 

「何処の配属っぽい?」

 

  奇跡かはたまた夕立のコミュ力が高いのか会話は続いた。十中八九後者だろうが。こんなとこに奇跡を使われてたまるか。

 

「青碧鎮守府って所だ」

 

「青碧? 時雨のいるとこっぽい!」

 

  時雨?

 

「誰だ?」

 

「友達っぽい!」

 

「…………誰だ?」

 

  友達……? なんだそれは……うっ、頭が。

 

「友達は友達っぽい……。提督さんは友達いないっぽい?」

 

  無邪気に聞いてくる夕立。悪気のない無邪気さって時に無視より残酷よね……。

 

「まあな」

 

「なんでちょっと誇らしげに言ってるっぽい……。なら時雨と友達になればいいっぽい! 仲良くしてほしいっぽい!」

 

  俺が誰かと仲良くしている光景なんて想像もできない。が、さっきの話を聞く限り俺は定年になるまで青碧島で暮らすことになるっぽいし、何よりこの無垢な笑顔を曇らせるわけにもいかないっぽい……。あ、感染した。

 

「ん、まぁ、善処するわ」

 

「っぽい!!」

 

  夕立は満面の笑みを浮かべて、店を去っていった。

 

「比企谷くんも変わったねえ〜」

 

  ずっと黙って聞いていた陽乃さんがからかうような口調で言ってくる。

 

「……コミュ力の話っすか? まあ初対面の女の子とあれだけ話せれば変わったと言えるかもしれませんね」

 

「……そういう事じゃないんだけどな〜」

 

  変わった。陽乃さんの言う通り、俺は確かに変わったのかもしれない。不変を信条としていた筈なのに、いつの間にか、いや、あの3年間で俺は変わってしまった。だが不思議と嫌な気分ではなかった。変化を恐れていたあの頃を思うと、驚くべき心変わりだ。

 

「ま、いい変化かもね」

 

  そう言って彼女は笑った。嫌な笑いではない。いつもの魔王がすっかりなりを潜めた笑い方だった。

 

 ――――――――――

 

 

  腹ごしらえをした俺達は港へと歩を進めた。港には大型のクルーザーが1台泊まっていた。なんでも軍艦はもう使わないから泊めさせてもらっているのだとか。

 

「深海棲艦には普通の軍艦じゃ勝てないからね〜」

 

  深海棲艦には既存の軍艦ではろくにダメージが与えられない。そのために艦娘がいる。今や一般常識である。

 

  すぐにあちらへ向かうとの事で、食糧や着替え等の生活用品は既に積んでいるらしい。……え、なんで服のサイズとか知ってるの。怖い、怖いよ。そういう類のホラーは平塚先生の担当じゃないのかよ。

 

「大学は当たり前だけど退学になるわ。ご家族には国から連絡がいくから安心してね〜」

 

「あの行く前に小町に電話しても大丈夫っすか?」

 

「うん? 全然構わないよ〜」

 

「提督になる事は話しても?」

 

「もちろん。知るのが早まるだけだしね〜」

 

「どもっす」

 

  定年になるまで、仮にも国防なのだから軽々しくは家に戻れないのだと考えると、あちらに行く前に小町成分を補給しておかなければいけない。

 

  俺は暇潰し(以下略)を取り出し、小町に電話を掛けた。

 

「ほいほ〜い。もしもしお兄ちゃん? 」

 

  うむ、俺の妹は今日も可愛いな。

 

「おう、小町。あのな、お兄ちゃんちょっと小町ちゃんに話さなきゃいけない事あるんだわ」

 

「なになに、どったの。真面目な声出して。目と挙動が不審すぎて遂に補導でもされた?」

 

  どうしてそれが真っ先に出てくるんだ、妹よ。

 

「されてねーよ。いや、あのな、お兄ちゃん……提督になるんだわ」

 

「えっ? 提督ってあの提督? お兄ちゃんすごーい! ……あ、でも何か危ないお仕事なんだっけ……?」

 

「んな不安そうにしなくても大丈夫だ。お兄ちゃんが配属されんのは深海棲艦の襲撃がほとんど来ない所らしいから、安心しろ」

 

「あ、そーなの? なら安心だ!」

 

「ただな、安全なんだけどな。……片道5時間くらいかかる離島なんだわ。しかもあと40年くらい家に帰れそうにない」

 

「えっ……それって……」

 

  ……すまん、お兄ちゃん暫く会えそうに無いわ。

 

ゴミいちゃん(厄介物)をやっと処分出来るって事!? いや〜助かるぅ〜」

 

「おいコラ」

 

  返して! 俺の申し訳無く思った気持ちを返して!

 

「あははっ。じょーだんだよじょーだん。……お仕事、頑張ってきてね、お兄ちゃん」

 

「……おう」

 

  そこで通話は切れた。

 

「ん、終わった? ささ、乗って乗って〜」

 

「……はい」

 

  俺は暫く画面を見つめていたが、顔を上げ、船に乗り込んだ。

 

  最後に聞こえた小町の声は震えていた。

  ……いつかは帰らねえとな。

 

 

「はい、これ」

 

  船に乗ると陽乃さんに紙の束を手渡された。

 

「なんすかこれ?」

 

  表紙には『提督の心得』と書かれている。

 

「あっちで比企谷くんが困らないようにと思ってね〜。艦娘の事とか、君の仕事の事とか、いろいろまとめといたからさ〜。移動中に読んどくといいよ〜」

 

  なんと。魔王からの餞別だったか。仮称『はるのんレポート』と名付けよう。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「じゃ、おねーさんは運転してくるから、暇だろうけど我慢してね?」

 

「はい。なんか色々すんません」

 

「いーのいーの。こっちの都合で大学生活とかぶち壊しにしちゃったんだから、これ位はしてあげないと。ね? 多少は申し訳なさを感じてるのよ」

 

  彼女は操縦席へ行ってしまった。意外だ。心の無い悪魔かと思っていたのだが、人の心があったんだな。

 

「今すごーく失礼な事考えなかったー?」

 

「い、いえ考えてないです」

 

  読心術までできるとは。マジでなんでも出来るなこの人……。船の運転とかどこで覚えるんだよ。ハワイで親父に習ったのん?

 

「じゃ、出すよ〜」

 

  俺達は広大な海へと旅立った。色々な意味で長い旅路になりそうである。

 

 ――――――――――

 

 

  島につく頃には既に日は傾いていた。西日が目に眩しい。俺は手で庇を作った。

 

  波止場では1人の女性が両手を振っていた。出迎えに来てくれたのだろうか。少々申し訳ない。

  陽乃さんはピタリと船を横付けすると、荷物を抱えて船を降りていった。俺も食糧の入った重たいダンボールをなんとか抱え、えっちらおっちらと船を降りる。

 

  先ほどの女性が綺麗な敬礼をして立っていた。

 

「長旅お疲れ様でした。私、当鎮守府の任務艦を務めています、大淀と申します。ようこそ青碧島へ、比企谷八幡提督。よろしくお願いしますね」

 

「お、おう……出迎えありがとうございます。えと、き、今日からここに配属されました、比企谷八幡でしゅ。…………よろしくお願いします」

 

  ファーストコンタクトでいきなり噛んだ。恥ずかしい。なんだろう、今すぐヘルパー無しで海に飛び込みたくなってきた。変わったってのはなんだったんだよ……。羞恥心を抑えながら1時間ほど前に船上で陽乃さんに口頭で叩き込まれた敬礼をした。きちんと出来ているだろうか? 大淀の顔を見ると、少なくとも表面上は変な顔はしていなかった。まあ、変な顔されても敬礼に対してなのか噛んだことに対してなのか、はたまたその両方なのか分からないんですけどね!

 

「んじゃ、私は行くね〜。比企谷くん、まったね〜」

 

「あ、はい。色々ありがとうございました」

 

  後ろ手にひらひらと手を振りながら彼女は去っていった。それを見送り、大淀が口を開く。

 

「では、鎮守府まで案内しますね……と言っても、既に見えていますが」

 

  大淀の言う通り、赤茶色の建物が右奥に見えていた。他に大きな建物は無いし、あれが鎮守府なのだろう。

 

「まあ、そうだな。よろしく頼む。……っとと」

 

  食糧を持ち上げようとしたが予想以上に重くてよろけてしまった。

 

「あっ、荷物は私が持ちますので大丈夫ですよ」

 

「え? あ、いや、でも……」

 

  ぼっち特有のキョドり静止を聞き流した大淀はいとも簡単に食糧の入ったダンボールを持ち上げた。

 

「私達艦娘は、人間の何倍も強い力を持ってるんです。聞いた事ありませんか?」

 

「あ、ああ。確かに聞いた事はある」

 

  そうだった。はるのんレポートに書いてあった事の一つだ。艦娘は人よりもずっと強い力がある。直接戦うのだから当然といえば当然だ。

 

「では、気を取り直して、行きましょうか」

 

「おう」

 

  俺達は鎮守府へ向かって歩き出した。鎮守府への道は舗装がされておらず、田舎道のように土を固めただけの簡素なものとなっていた。街灯もぽつぽつ見うけられる。

 

  3分ほど歩くと、鎮守府に着いた。目測だが一軒家5軒分くらいの大きさだろうか。目立った外傷は無いが、全体的に古い印象を受ける。扉の横には『青碧鎮守府』と恰好いい書体で書かれたえーと……表札? が取り付けられていた。

 

「こちらが青碧鎮守府になります。中をご案内しますね」

 

  重たい扉を開けて中に入る。

  横須賀鎮守府は縦横バランスよく広かったが、こちらは横に長い設計になっているようだ。あちらのような豪華さは無く、床や内装は木製のものが多い。潮の香りに混じってほんのり木の匂いがする。茶色を基調として落ち着いた色合いに整えられていた。

 

「広いな……」

 

「こちらです」

 

  大淀に従って廊下の交差する所まで進む。

 

「まっすぐ進むと2階への階段。入って左右がそれぞれ夕張と明石の工廠。階段向かって右側通路の先が食堂及び食糧倉庫、左側通路の先が大浴場。階段の右が応接室、左が会議室となっています」

 

  大淀はそこで言葉を区切り、持っていた食糧を廊下の隅に置いた。

 

「では2階へ行きましょう」

 

  俺は頷きを返して、彼女に付いて2階に上がった。階段の窓からは広い海が見えた。随分近くに建っているようだ。

 

「2階は主に艦娘寮となっています。それ以外は、左側通路の右手奥から資料室、司令室。私は大抵司令室にいるので何かあれば声をかけてください。そして目の前の部屋が執務室です」

 

  横須賀のそれよりはやはり簡素だが、それなりの装飾がされた扉を開け、中を確認する。

  俺の部屋の2倍はありそうな広さだ。目の前には横長の机と革張りの椅子があり、その向こう側には大きな窓が付いていて、つい先程通った田舎道が見えた。机の端に花の生けられた花瓶が置かれていた。あれはコブシだろうか。枝ごと生けているようだ。右手にはほぼ空の本棚がある。

 

「左のドアは寝室、バスルームに繋がっています」

 

  自室も確認。執務室の半分程の広さだが1人部屋なら充分だろう。窓際にベッドが置かれている。俺はベッドの近くに、陽乃さんが用意してくれた荷物を置いてから外に出た。

 

「いい所だな」

 

  本心だ。豪華すぎず、全体的に質素な感じが気に入った。横須賀のは俺の目には優しくない。

 

「気に入って頂けて良かったです」

 

  大淀は微笑みながら続けた。

 

「食堂に艦娘達を集めています。行きましょう」

 

「ああ」

 

  みんないるって事は自己紹介とかしなきゃいけないんだろうなぁ……。嫌だなぁ……。なんかもう自己紹介って単語を聞くだけで憂鬱になってくるのは俺だけでしょうか?

  ちょっぴりダウナーになりながら食堂へ。ドアの向こうから小学生くらいの女の子達の無邪気な喋り声が聞こえる。深呼吸を1つしてからドアを開けた。

 

  中には10人強の女性達がテーブルに付いていた。女性、と一口に言っても、小学生くらいのちびっ子から大人っぽい人までそれぞれだった。ただ、全員に言える事がある。皆、美少女だった。……俺はこの先やっていけるだろうか。少し不安だ。

  ドアの音に反応したのだろう。彼女達は一斉にこちらを向き俺の姿を認めると、すぐさま俺の前に整列し、敬礼した。 皆、大淀と同じく綺麗な敬礼だ。右から左までぴったり揃っていた。女の子と言ってもやはり軍の人間なのだな、と何となく思った。

  最後に大淀が俺の後ろから端に並び、敬礼して口を開いた。

 

「では改めましてご挨拶を。私、任務艦の大淀です。艦隊指揮、運営はお任せ下さい。よろしくお願いしますね」

 

「扶桑型航空戦艦の山城よ。よろしくお願いするわ」

 

「航空母艦、鳳翔です。食堂を担当しています。不束者ですが、よろしくお願い致します」

 

「給糧艦、間宮です。同じく食堂の担当をしています。どうぞよろしくお願い致しますね?」

 

「工作艦、明石です! 兵器開発はお任せ下さい! よろしくお願いしますね!」

 

「兵装実験軽巡、夕張よ。明石同様、兵器開発の担当をしてるわ。じゃんじゃん注文しちゃってね?」

 

「重雷装艦、北上だよ〜。まーよろしくー」

 

「同じく重雷装艦、大井です。どうぞよろしくお願い致しますねー」

 

「こ、こんにちは。軽巡洋艦、阿武隈です。よ、よろしくお願いします」

 

「駆逐艦、暁よ! 1人前のレディーとして扱ってちょうだい! よろしくね!」

 

Очень приятно. (はじめまして)駆逐艦の響だよ。よろしくお願いするよ」

 

「駆逐艦、雷よ! かみなりじゃないわ! そこも含めてよろしくね!」

 

「駆逐艦、電なのです。どうか、よろしくお願いいたします!」

 

「僕は駆逐艦、時雨だよ。これからよろしくね、提督」

 

  俺は彼女達に向けて小さな拍手を送った。総勢14名。一般的な鎮守府としては少ないのかもしれないが、俺にとっては充分すぎるほど多い。なにせ、俺はこれから彼女達の命を預かる身なのだ。提督とはそういうものだろう。命の重さを確かめながら敬礼をし、乾いた口を開いた。

 

「本日付けで青碧鎮守府の提督になりました、比企谷八幡です。至らぬ点もあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します」

 

  皆それぞれの笑顔を浮かべ、拍手で迎えてくれた。どうやら第一印象で拒否される事は無かったようで一安心だ。

 

  夕日が射し込み、オレンジに染まった食堂で俺は心を決めた。

 

  親父、お袋、小町。

 

  俺、提督になります。

 




大淀「ところで会った時から気になっていたんですけど」

八幡「なんだ?」

大淀「その眼は加工でもされたんですか?」

八幡「うるせー天然物だよ」

艦娘達「えっ」

八幡「せっかくの雰囲気が台無しだよ」

――――――――――
魔王レポートの方が良かったかもしれない(真剣)
次回から多分文字数ぐっと減ります。
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