GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~   作:のんびり日和

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25話

イタリカから出発し、見渡す限りの平原の中に作られた道を暫し走り続けている第3合同偵察隊。

伊丹やダン達は行きと変わらない光景を眺めつつ走っているが、ヴァンツァー用の輸送トラックに居たカズヤ達は別だった。

 

「す、凄いですニャ。馬車よりも早く、その上この様な快適な椅子に座れるなど思ってもいなかったですニャ」

 

「そうですか? このトラックよりも前を走っている車の方が快適だと思いますよ」

 

「そうなのですかニャ? このトラック、という乗り物が一番快適だと思いましたニャ」

 

「いやいや。見た目通りのデカ物ですから、快適とは若干程遠いですよ」

 

異世界の乗り物に初めて乗ったペルシアは馬車以上に快適な事に驚きが隠せず若干興奮した様子で話しており、カズヤとアステックはその姿に笑みを零しながら応対を続けた。

談笑を続けていたカズヤはふと外の光景を見てそろそろか。と思いペルシアの方に顔を向ける。

 

「ペルシアさん、そろそろアルヌスに到着しますよ」

 

「えっ!? もうなのですかニャ? まだ、半日も経っておりませんニャ」

 

そう言いながらペルシアは窓に顔を近づけ外を眺めると、其処は確かにアルヌスの丘ではあったが、地面は掘り起こされ、岩などでデコボコだった丘が開けた平地になっており、その奥には巨大な建造物が建てられていた。

 

「た、確かにアルヌスの丘ですニャ。ですが、あの要塞は何ですニャ?」

 

「あれが俺達遠征団の駐屯地です」

 

カズヤの説明にピニャは息を呑むような光景に驚いた。遠征団がやってきてまだ1年も経っていないにも拘らず、其処には頑丈な壁や物見櫓の様な物が出来ていた。

自分達の世界ではここまで立派な要塞を立てるには到底不可能だと思ったからだ。

ペルシアのみならず、伊丹が乗っている高機動車に乗っていたピニャ達も驚きの顔を浮かべていた。

 

「こ、この様な要塞を何時の間に…」

 

「それほど、彼等の技術は上だというのか?」

 

ピニャ達は驚きの表情で外を見ていると、ある光景が目に留まった。

それは海兵隊員と自衛隊員がそれぞれライフルを構え射撃訓練などを行っている光景だった。音が鳴ったと同時にその先にあった人型の的に穴が開く。

その光景に思わず向かいに座っていたレレイの方に顔を向ける。

 

「え、エンセイダンの者達は皆、魔導士なのか?」

 

「違う。彼等が持っているのは銃。又は小銃と呼んでいる武器」

 

「ぶ、武器だと?」

 

「そう。原理は簡単、炸裂の魔法を筒に封じ鉛の塊をハジキ飛ばす。エンセイダンはジュウを使った戦い方を工夫し、今に至っている。だから帝国軍も連合諸王国軍も敗戦した」

 

レレイの説明にピニャは難しい顔を浮かべるも、頭では別の事を考えていた。

 

(…武器であるならば、我々も扱える。強大な敵(遠征団)と同等の戦いに持ち込むには、やはりジュウとやらを…)

 

遠征団が有している銃を何とか手に入れることが出来ないか。そんな考えを浮かべていたピニャであったが、それを見透かしていたのか、レレイが口を開く。

 

「ちなみに、ショウジュウのショウとは小さいと言う意味。つまり大も存在する」

 

レレイが言ったと同時突然地響きのような音が鳴り響き、ピニャ達は再度窓へと慌てて向けると其処には

 

「て、鉄の…象」

 

昔、帝国で行われたある催し物で現れた像と言われる巨大な生物に似ていると思い、ピニャは思わず口からそう零した。

ピニャが鉄の像と零したもの。それは自衛隊の90式戦車とアメリカのM1A2エイブラムスが共に丘から登り出てきて行進していたのだ。

ピニャ達は驚き固まっていると、更に驚愕な物が目に飛び込んできた。

それはピニャ達にとっては巨人と呼ばれるもので、カズヤ達からはヴァンツァーと呼ばれる機体だった。

ズシン、ズシンと一定のリズムの地響きを起こしつつ、ヴァンツァーは伊丹達の車両とすれ違って行く。

 

「きょ、巨人…」

 

「エンセイダンが使役している巨人達も皆、同じようにジュウを持っている。ジュウ以外にもメイスの様な殴打武器も使用している」

 

レレイの説明にピニャとボーゼスの顔色は悪かった。

巨人を使役する調教師は育成には時間を要する。誰彼構わずなれるようなモノではないからだ。

だが、遠征団には巨人を使役する調教師が大勢いる。それだけで帝国と派遣団の間には埋まらない程の戦力の差があった。

 

「な、何故このような者達が攻めてきたんだ」

 

悔しそうな顔で零すピニャ。するとレレイが

 

「帝国はグリフォンの尾を踏んだ」

 

「ッ! 帝国が危機に瀕しているというのに何という言い方ですの!」

 

レレイの言い方にボーゼスは食って掛かった。帝国の危機は自業自得といういい方に怒ったのだ。

 

「私は流浪の民、ルルドの一族だから帝国とは何の関係はない」

 

「私はエルフでーす!」

 

「ふふん♪」

 

3人の態度にピニャは俯き、ボーゼスは苦渋に満ちた顔を浮かべる。

 

(例え帝国領として支配しても、人心までは無理か…)

 

そんな事を浮かべながら俯く中、車両は駐屯地内へと入って行った。

ピニャとボーゼスは降りるよう言われ2人は降り、辺りを見渡す。帝都で見た様なレンガ造りではない建物や巨大なドームなどが見えた。

 

「それじゃあ、後はあそこにおられる女性士官が案内致しますので…」

 

「ちょ、ちょっと待って欲しい伊丹殿! 少し話が「では、失礼いたします~!」あ、ちょっ!?」

 

伊丹はピニャの声を遮る様に叫び、何処かに走り去っていった。その姿にトラックに乗っていたカズヤ達は苦笑いを浮かべていた。

 

「逃げたな、あの人」

 

「逃げましたね」

 

「逃げましたニャ」

 

伊丹が走り去っていった方向を眺めていると、アステックが思い出したような顔でカズヤの方に顔を向ける。

 

「そうだ大尉。イタリカでの騒動で報告をし忘れていたのですが、ゼフィールの修理が終わったらしいですよ」

 

「そうか。それじゃあ格納庫に、と言いたいところだけどペルシアさんを先に降ろさないと」

 

そう言いペルシアの方に顔を向けるカズヤ。

 

「えっと、今から避難民達が住んでいる居住区にご案内しますね。ペルシアさんのこれから住んでもらう部屋もそちらにありますので」

 

「畏まりましたニャ」

 

そう言いペルシアとカズヤはトラックから降り、避難民の居住区に向かう車両を探し一緒に乗せてもらい住居に向かった。

 

 

その頃ピニャ達は女性士官に案内され連れて来られた部屋でソファーに座りながら固まっていた。

此処で選択を間違えれば帝国は滅ぶ。そんな考えがピニャの頭を占めていた。すると扉をノックする音が鳴り響き、2人はソファーから立ち上がる。そして3人の男性とレレイが入室してきた。

 

「遅れて申し訳ない。私が遠征団の全権を任せられております、狭間と言います」

 

「アメリカ軍特別任務群指揮官、レイモンドと言います」

 

「遠征団幕僚、そちらで言う参謀をしております、柳田です」

 

レレイの翻訳の元、挨拶が行われた。

こうしてピニャの戦いが始まった。




次回予告
ペルシアを部屋へと案内したカズヤ。その後格納庫で修理されて帰って来たゼフィールの組み立てを眺めていると、その傍に一人の女性士官が現れた。

次回
元上司参上~ほぉ、こんなところに居たか愚弟~

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