GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~ 作:のんびり日和
伊丹達連合遠征団の事を知るべく、二ホンに行く伊丹達に同行したピニャ。そして門を抜け、その先にある光景にピニャは小さく「摩天楼か?」と零す。
隣にいたボーゼスは言葉が出ないのか口を開け驚いていた。
レレイ達も自分達の世界では見た事ない程、背の高い建物に見上げていた。
「レレイ達、驚いてますね」
「そりゃあ中世の時代から未来に来たんだ。驚くでしょそりゃあ」
カズヤの言葉にそう言いながら伊丹は門近くにある警備所にて手続きをしに向かう。すると
「伊丹二尉?」
そう声を掛けられ、伊丹とカズヤ、そしてダンがそちらに顔を向ける。
其処にはスーツ姿でジャケットを羽織った男性が居た。その男性の顔を見た伊丹は怪訝そうな顔を浮かべる。
「情報本部から参りました、駒門です。皆さんのエスコートと案内を仰せつかりました」
」
そう言って来る男性に伊丹のみならずカズヤとダンも怪訝そうな顔を浮かべる。
そして伊丹が最初に口を開く。
「お宅、公安の人?」
「おや、分かりますか? 流石、英雄ですなぁ」
「たまたまだよ」
「たまたま、ですか」
そう言いながら駒門は懐から手帳を取り出し開く。
「あなたには悪いが、少し調べさせてもらいました」
「面白い物なんか無かったでしょ」
「いやいや、なかなか興味深い物でしたよ。一般幹部候補生過程の成績は同期にけが人が出たおかげでブービー。三尉任官後の勤務成績は不可にならない程度に可。業を煮やした上官から幹部レンジャーに放り込まれて何とか修了して、その後なぜか習志野に異動。やんわりと三尉に留め置かれていたが例の事件で二尉に昇進した」
「良くお調べで」
「伊丹、お前中々の軍歴だな」
「ははは、本当改めて聞くと伊丹さんの経歴凄いですね」
「同期等からは“月給泥棒”“オタク”などコテンパンに言われている。……だが、そんな奴が何故“S”に選ばれたんだ?」
駒門の口から出たSと言う言葉にカズヤ達は目を見開く。当の伊丹はそこまで知ってんのかよ。と面倒そうな表所を浮かべていた。
S、正式名称はSpecial Force Group.日本語訳で特殊作戦群と呼ばれる部隊で、特戦群、SFGpとも呼ばれる。
その実力は、アメリカ陸軍特殊部隊『グリーンベレー』、アメリカ海軍特殊部隊『SEALs』と互角もしくはそれ以上の実力を有した日本唯一の特殊部隊なのである。
駒門の説明に栗林は目を真ん丸にし、口をあんぐりと開ける。
「え? うそ、ええええ?」
「た、隊長が元特戦群!?」
「伊丹さん、特戦群だったんですか?」
「お前、本当にすごい軍歴だな」
「……たまたま上官に叱られた時に屁理屈でこう言ったんだ。『蟻たちがせっせと働いているが、中には怠けている者が居ます。そいつを取り除いたら今度は別の奴が怠けるんです』とな」
「怠けている奴が必要と?」
「あぁ。そしたら特戦群に放り込まれたんだよ」
「クックック、なるほど。あぁ、そうだ。実はハミルトン大尉の事も調べさせてもらいました」
「…俺もかよ」
「アメリカ陸軍入隊後、新兵教育課程でそれまでの最高成績を塗り替えた。特にWAPの操縦技術が他よりも群を抜いており、その腕を買われアメリカ海軍第11特殊機甲強襲連隊“ストライク・ワイバーンズ”に参加。テロ組織殲滅から要人救出など様々な戦闘経験を積み、大尉に任官。その後、日米共同開発のWAPプロジェクトに引き抜かれた」
「……どうやって調べたんです、そんな個人的なことまで」
「フッフフフ、ソースは内緒です」
そう言われげんなりとした表情を浮かべるカズヤ。そして溜息を吐きそっと口を開く。
「大方姉上だったりして」
「私がそんなに口が軽い人間と思っていたのか、貴様」
「っ!?」
突然背後から掛けられた言葉にカズヤは背筋をピンッと伸ばし、背中から流れる冷や汗を感じながら、ギチギチと錆びた歯車の様に首を後ろへと向けると、鋭い眼光で睨みつけるリンが其処にいた。
「な、なんで中佐が此方に」
「向こうでの調査等が終わったから、送る隊員を選抜する為戻るところだ。ところでカズヤ」
「ヒッ!?」
「ちょっと向こうで話をしようか」
「え? あ、いや。バスの時間が「なぁに、数分で済ませる。伊丹二尉、少し愚弟を借りる」い、伊丹さん時間無い「あ~、まだ時間があるぞ」そ、そんな訳が「行くぞ」いやぁ~~~~!!??!」
リンに首根っこを掴まれそのまま引き摺られる形で近くに停まっていたトラック裏に連れて行かれるカズヤ。
暫くドカッ、バキッと言う音が鳴った後またカズヤを引き摺りながら戻ってくるリン。
「済まんな」
そう言って足と脛を抑えるカズヤを放り投げるリン。そしてリンは迎えに来ていた車両に乗り込み去って行った。
「だ、大丈夫かカズヤ?」
「な、何とか」
そう言いながら痛みをこらえながら立ち上がるカズヤ。
「さっきのがカズヤの姉、リン・ハミルトン中佐。ストライク・ワイバーンズ隊の隊長だ」
「カズヤ大尉のお姉さん!?」
「しかも強襲連隊の隊長!?」
ダンの説明に富田と栗林が驚きの声を上げる。
色々な衝撃事実に栗林は頭を抱え、奇声を上げ始めた。
その光景に皆、何とも言えない表情を浮かべる。
「クックック。やっぱりあんたは只者じゃない。働き蟻の中で怠け者を演じる精神を俺は尊敬するよ」
そう言い駒門が敬礼をすると、伊丹とカズヤは反射的に敬礼を返す。
そして公安の警護を受けながらバスへと乗り込む伊丹達。
因みに一番後ろの座席では
「……ううぅぅうぅ、嘘よぉ。カズヤ大尉は納得できるとして、なんであんな人がレンジャーの上に、特戦群なのよぉ。世の中不条理よぉ」
と頭を抱えながらめそめそとなく栗林が座っていた。
その様子に誰も声を掛けることなくバスは走り出した。
バスの中では窓の外から見える街の景色に、レレイ達は興味津々であった。
「凄い賑わってるわねぇ、もしかして此処って市場?」
「なんか装飾されているけど、お祭りでもあるのかな?」
「あら、あのドレス素敵ですわ」
そんな街の景色に見ているレレイ達をよそに伊丹達は次の事を話し合っていた。
「それで隊長、次はどうするんですか?」
「とりあえず飯にしよう」
「飯、ですか? この辺にありましたか?」
富田は首を傾げつつも伊丹の行動を見守る。そしてバスはある店の前で停まった。そこは
「え? 伊丹さん、此処って、牛丼屋?」
そう、バスが停まった先にあったのは庶民に慕われている牛丼屋であった。
茫然とした表情を浮かべながらも、伊丹の後に続くカズヤ達。中へと入りそれぞれ席に着き注文する。
注文した牛丼が来るとそれぞれ割り箸を手に取る。そして富田が口を開く。
「それで、隊長。どうして牛丼屋に?」
「……参考人招致の間は出張扱いで、食費は500円までなんだよ」
「そ、そう言う事でしたか」
「世知辛いっすねぇ」
伊丹の言葉に、富田と栗林はそう返したのち、牛丼を食べ始めた。
隣の席ではカズヤとダンが牛丼に舌鼓を打っていた。
「ん~、やっぱり日本の牛丼は美味い」
「初めて食うが、本当にうまいな。嫁にも食わせてやりたいな」
「確か此処の店、冷凍の牛丼が通販で販売してたはずですよ」
「そうなのか? じゃあ今度注文しておくか」
そう言いながら牛丼を食べるダン。
レレイやペルシア達も向こうで、一度出された事がある牛丼に箸を上手に使って食べていた。
そんな中、ピニャとボーゼスは初めて見た牛丼にどう食べればいいのか、分からず目をきょろきょろさせながら辺りを見渡す。
「殿下、大丈夫ですか?」
「う、うむ。兎に角、食べるぞ」
そう言いピニャとボーゼスは意を決してレンゲを手に取り、牛丼をすくい口へと運ぶ。
「「っ!? お、美味しい!」」
初めて食べた牛丼に2人はその美味さに感極まり、黙々と牛丼を食べるのであった。
食事を終え次に伊丹達が来たのは、礼服などが売られているスーツ店であった。
「すいません、この子に合う一番安いスーツをお願いします」
「えっと、あ、はい」
店に入るなり、伊丹はテュカを店員の前に連れて行き、スーツを注文した。
暫くして試着室からスーツ姿のティカが現れた。
「おぉ、似合って似合ってる」
「そう? でも少し動きづらいかな?」
「まぁ、スーツだし仕方ないわ。そう言えばレレイ達は良いの?」
「私のはこれが神官の正装よぉ」
「不要」
「私もメイド服が正装ですので、不要でございますニャ」
3人の言葉に栗林はそっか。と返す。
その頃ピニャ達はと言うと、売り場に置かれているスーツに驚きの表情を浮かべていた。
「こ、この生地と仕立て、妾達の物より数段上だ。相当高価な物だぞ」
「そ、それをこれ程まで並べるとは…。余程の豪商でしょうか?」
そんな会話をするピニャ達。その姿にカズヤと富田は苦笑いを浮かべていた。
「姫様達が見ておられる個所って…」
「…はい、一番安いスーツの所です」
「ま、まぁ向こうとこっちとじゃ技術に差がありますからね」
「そ、そうですね」
スーツを買い終え、伊丹達はバスへと乗り込みまた走り出した。暫くして遂に日本の国会へと到着した。
次回予告
国会に到着した伊丹達。
正装に着替え、参考人招致へと向かった。
次回
参考人招致part4