GATE~ヴァンツァー、彼の地にて、斯く戦えり~ 作:のんびり日和
国会に到着した伊丹達のバスは裏手へと回され停車した。
「それじゃあ富田、お姫様達の事頼むな」
「分かりました」
そう言いピニャとボーゼス以外の特地メンバーと富田と栗林以外はバスからぞろぞろと降りて行く。
降りて行く伊丹達にピニャは近くに居た富田に口を開く。
「妾達は降りないのか?」
「殿下は此処とは違う場所へとお連れします。殿下は今日本に来日していないことになっておりますので」
そう言われピニャはそうか。と言い椅子に深々と座り直す。
バスから降りた伊丹達は国会の警備隊、衛視たちの護衛と案内の元それぞれ待合室へと連れられて行く。
部屋に連れて来られると、伊丹とカズヤは更衣室へと入り伊丹は常装冬服を纏い、カズヤはアーミーグリーン・サービスユニフォームと呼ばれる冬季勤務服を身に纏い、頭にグリーンのベレー帽を被った。
因みにダンは護衛として来ている為、正装はせず何時もの戦闘服に腕に『要人警護』と書かれた腕章を付けた格好で、そして腰にはSIG M18をホルスターに挿していた。
服を着替え終え更衣室から出てくると、待機室の扉が開きスタッフが現れた。
「お待たせしました。どうぞご案内いたします」
そう言われ伊丹とカズヤを先頭に部屋から退出する。
スタッフの案内の元参考人招致が行われる議事堂の扉前へと連れて来られた伊丹達。
部屋の前に到着したスタッフは無線機で到着したことを報告すると返信があったのか、それに耳を傾けた後了承の言葉を口にし伊丹達の方へと体を向ける。
「それではお入りください」
そう言い扉が開かれた。
開かれた扉に伊丹が先頭に立って歩き、その後カズヤ達が続いて入っていく。議事堂の中には多くの議員が座っており、二階にはカメラを持った多くの記者がカメラを入って来た伊丹達やレレイ達の写真を撮っていた。
そして6人は席へと座り、ダンは議事堂の入り口付近で休めの姿勢で立つ。
6人が席へと座ると、委員長が口を開く。
「これより参考人招致を行います。幸原議員」
「はい」
そう言いこじわが若干目立つ女性議員が立ち、フリップをもって演説台へと立ちばッとフリップを見せてきた。
其処にはコダ村の死者数と元々いた村人の人数が書かれていた。
「単刀直入にお尋ねします。避難民に150人もの犠牲が出たのは何故でしょうか?」
「伊丹耀司参考人」
呼ばれた伊丹は椅子から立つと応答する演説台へと立つ。
「はい。え~それはドラゴンが強かったからです」
その答えに幸原は、は?と唖然とした声を漏らす。
「な、何を他人事のように返すのです‼ 自衛隊の対応、そして政府の方針について聞いているのですよ⁉ 貴方は現場指揮を執ったにもかかわらず犠牲者が出たという事にどう受け止めているのですか! そんな事も分からないのですか! だから大勢の犠牲者を出したんじゃないんですか!」
そう伊丹を馬鹿にする様な言い方をする幸原。流石の伊丹も少しイラっとしたが、心の中で我慢する。
「……イラ大勢の方が亡くなった事は本当に残念に思います。あと力不足も感じましたね」
そう言うと、幸原は伊丹が自衛隊に非があると言ったと思いそのまま圧を加えようとした。が
「―――銃の威力に」
「「「「は?」」」」
最後に伊丹の口から出た言葉に幸原のみならずその後ろにいた野党議員達も、一瞬唖然とした表情を浮かべた。
「7.62㎜や5.56㎜といったライフル弾や、重機関銃の12.7㎜がまるで豆鉄砲の様に弾き返されましたしね。おまけに護衛に付いていてくれたWAPが装備していた武器の15㎜砲弾も同様でした。あの時レーザー銃だとか粒子咆とかそういったものがあればよかったと感じました」
そう言うと野党側からは、不謹慎だ。ふざけた答弁をするな。等怒号が飛んできた。
するとスッと与党側の議員が手を挙げ発言許可を求めると、委員長がそれを了承した。
「委員長、伊丹二等陸尉が提出した特定害獣 通称【ドラゴン】の鱗はタングステン並かそれ以上の強度を有する事が判明しました。モース硬度で言うと硬度は9。これはダイヤモンドの次に硬い強度を誇っております。その上ダイヤモンドの7分の1程度の重さです。このような鱗を持ったドラゴンはもはや空飛ぶ戦車と言って過言ではなく、そんな生物と戦って犠牲者無しでという事自体不可能であると思います。したがって伊丹二等陸尉に対する幸原議員の発言は問題あると進言いたします」
そう言うと今度は与党側の議員はうんうんと頷き伊丹を擁護した。議員の報告に野党側は何も言えなくなり不機嫌そうな顔を浮かべ、幸原も顔を歪める。
「幸原議員、発言には注意して行ってください」
「……はい。では次はアメリカ陸軍の方を」
「カズヤ・ハミルトン参考人」
「はい」
そう言いカズヤは席を立ち、伊丹と入れ替わる様に答弁の演説台へと立つ。
「まず所属と名前をお願いします」
「アメリカ陸軍第42機動中隊第2小隊所属、レイブン隊指揮官カズヤ・ハミルトン大尉です」
「ではお尋ねします。避難民が襲われていた際、貴方は最後尾とお聞きしてますが、どうお考えなのでしょうか?」
「どう、とはどういう事でしょうか?」
「米軍と自衛隊が民間人を盾にして自分達だけ助かろうとしなかったかと聞いているんです」
「我々はその様な事は決してありません。現場にいた自衛隊と海兵隊、そして自分は一人でも多くの民間人を救うべく奮戦しました」
「では、何故民間人に被害が出たのですか」
「先程伊丹さんがご説明されました通り、ドラゴン襲撃時に自分が搭乗していたWAPに装備されていたアサルトマシンガンではドラゴンの鱗を貫通することはできませんでした。ですので相手の気を逸らし注意をこちらに向ける事しか出来ませんでした」
「此方の調べによりますと、貴方が搭乗されておりましたWAPの装備にアサルトマシンガン以外に、肩にミサイルを発射する装置があるとありましたがどうして撃たなかったのですか? 撃てば此処に書いてある数よりも多くの民間人が救われたはずなんですよ!」
「…」
そう叫んぶ幸原に口を閉ざすカズヤ。幸原は内心伊丹では無理だったが、カズヤから自衛隊や米軍の非を追及してやろうと考えていた。だが
「あの、逆に質問良いですか?」
「なんですか?」
「襲撃してきたドラゴンに向かってミサイルを撃て、というのは分かります。しかし「しかしもへったくりもありません! 撃つのを躊躇ったばかりに、多くの民間人に犠牲者が出たのですよ! それを何も考えてないんですか貴方は!」いや、此方の質問がまだ途中なんですが」
「……では早くしてください」
「……ハァ。襲撃してきたドラゴンにミサイルを撃てば確かにもっと早くドラゴンを撃退できたかもしれません。ですが、その被害は考えられたのですか?」
「何を言っているんですか!? 被害など此処に書かれている人数よりも少なく済んだに決まっているでしょう! 何を分かり切っている事を言っているのですか!」
「…えぇ、ドラゴンによる被害者数は。ですが、其処に
そう言われ幸原はなっ!?。と言葉を詰まらせる中、カズヤは反論させまいと怒気を含めながら説明し始めた。
「確かにミサイルをドラゴンに撃てばもっと早く撃退できたかもしれません。ですが、ドラゴンが襲撃してきたところは、丁度民間人達が居る場所でしかも未だに襲撃の混乱であちこちに民間人がいる状態でした。
そんなところにミサイルなんて爆風や破片などが飛び散る物を撃ち込めば貴女が提示されている被害者数よりももっと多くの被害者が出たかもしれなかったんです。その為私はドラゴンの周囲に民間人が居ない事を確認できるまでは、ミサイルの発射を行わなかったのです」
若干怒気を込めながら言い終えたカズヤはもう受け付けんと言わんばかりに席へと戻って行った。
席に戻ったカズヤはふぅー。と肺に入っていた重い空気を吐き出す。
「お疲れ」
「あの阿保議員、よく議員になれましたね」
「あんまり大声で言うなよ。めんどい事になるから」
「あんな奴と二度と関わり合いたくないですから言いませんよ」
そう言い次に呼ばれたレレイの質疑応答を見守るカズヤと伊丹。
演説台に立ったレレイに幸原は質問をする。
「では日本語は話せますか?」
「はい、少しだけなら」
「今お住まいはどちらでしょうか」
「今は避難民達と避難キャンプで共同生活をしている」
「では何か不自由な事はありますか?」
「不自由の定義が理解不明。自由ではないという意味合いならばそれは当たり前。ヒトは生まれながらにして自由ではない」
「では言い方を変えましょう。生活する際に何か不足しているものはありますか?」
「衣・食・住・職・礼。全てにおいて必要は満たされている。質を求めたらキリがない」
「…………結構です」
そう言い幸原はレレイから自分が求めている回答が求められず内心募らせた苛立ちをまた積み上げつつも次の参考人を呼んだ。
「次、テュカ・ルナ・マルソー参考人前へ」
「はい」
そう言い次はテュカが席を立つ幸原の前に立った。幸原はエルフとか言っているが、明らかに人の様に見えるテュカに疑念を浮かべていた為、ある質問をする事に。
「ではまず自己紹介をお願いします」
「私はエルフ。ロドの森部族マルソー氏族。ホドリュー・レイの娘、テュカ・ルナ・マルソーです」
「…失礼を承知で聞きますが、その耳は自前ですか?」
そう幸原が聞くと、通訳のレレイがテュカに質問を翻訳して伝えると耳付近の髪をかき上げ見せた。其処には長く尖った人とは違う形の耳があった。
「はい、自前です。触ってみますか」
そう言いピコピコと動く耳に報道陣のカメラが一斉にフラッシュを焚き、更に野党与党問わず多くの議員が手持ちの携帯カメラなどでとり始めた。騒乱とする議会に委員長が大声をあげる。
「静粛に! 静粛にぃ‼」
委員長の声に少しずつ鎮静化する議会。
「で、ではテュカさん。貴女がドラゴンに襲われた際の事をお話しいただけますか?」
「よく……覚えてない。その時気を失ってたから…」
「……結構です」
テュカの返答に自分の思っていた答えじゃなかったと思い、言葉遣いが雑になる幸原。
「ペルシア・ティ・ホーリン参考人」
そう言われ次はペルシアが前へと立つ。エルフのテュカに続いて今度は猫耳をし、更にはメイド服を着た女性が現れた事にまたしても浮き間つ議内。
「……お名前をお願いします」
「私はペルシア・ティ・ホーリン。フォルマル伯爵領イタリカの当主、ミュイ様にお仕えしているキャットピープルのメイドでございますにゃ」
そう言い綺麗にお辞儀するペルシア。その際に腰下付近に揺らめく尻尾に幸原が口を開く。
「し、失礼ですが、その腰付近から出ている尻尾は飾りですか?」
「飾りではございませんよ」
そう言いペルシアは頭から生えている耳をピコピコと動かし、腰の尻尾をゆらゆらと動かした。
その動きにまたしても議内がフラッシュで一杯となった。
「……やっぱり騒ぎになりますね」
「……だな。おまけにペルシアさんはメイド服。誰だって騒ぐだろ」
後ろの席で見守っていたカズヤと伊丹は騒然とする議内でそんな事を零していると
「静粛にぃ! 静粛にぃ‼」
とまたも大声をあげ鎮静化させる委員長。何とか鎮静化した後、幸原が質問を投げる。
「ではペルシアさん、質問ですが自衛隊や米軍が貴女に対して不当な扱いや、非人道的な事をされましたか?」
「私はまだ難民キャンプに来て日は浅い方ですが、自衛隊や海兵隊の方々は避難民が困っている事があれば親身になって助けて下さったり、危険な事に対しても己の身を顧みないで手を差し伸べて下さいますにゃ」
「……それは自衛隊や米軍から言えと強要されておられるのではないですか?」
「申し訳ありませんが、全て私の本心からの発言でございますにゃ。逆に一体何も持って私が自衛隊や海兵隊の方々から強要されているように見えるのか理解しがたいですにゃ。貴女がされる質問全てカズヤ様や皆様の不利になるような発言を強要している様に感じますので、此処で打ち切らせていただきますニャ」
そう言い不機嫌そうな顔で質問を打ち切り席へと戻って行った。
此処まで何一つ自分の求める答えが無い事に内に溜めていた苛立ちが溢れんばかりになっていた幸原。次に立ったのはロゥリィだった。
彼女は黒服に黒のベールで顔を覆い隠しながら演説台に立った。その姿に幸原は内心笑みを浮かべた。
(黒服に、黒のベール……。喪服ね。大方、被害に遭った中に身内が死体にでもなったのね。自衛隊や米軍に非がある様に適当に誘導すればこっちのものよ)
そう思いながら口を開く。
「それでは名前からお願いします」
「ロゥリィ・マーキュリー」
「では、キャンプでの生活についてお聞かせください」
「簡単よ。朝、目を覚ましたら生きる。祈る。命を頂く。祈る。そして夜になったら眠る。エムロイに使える使徒として信仰に従った生活よぉ」
「い、命を頂く?」
「そう。食べる事、生き物を殺す事、エムロイの供儀とかねぇ」
「な、なるほど。……ではあなたは見たところ大事な人を失ったようですが、その原因に自衛隊や米軍の対応に問題があったのではないでしょうか?」
幸原の質問に通訳のレレイは首を傾げながらロォリィに伝える。ロォリィは質問の意味が分からないとレレイを通じて伝えると、幸原は口早に口を開く。
「避難民には150名もの犠牲者が出たにも関わらず、身を挺して戦わなければならない自衛官や米軍側には死者どころか怪我人すら出ていません。これは自身の命を最優先にし、その結果として民間人を見捨てたのではないのですか?」
そう言うと、ロォリィが僅かばかり驚いた様な動作を取る。その行動に幸原はやはり。と確信を得たと感じ声を上げる。
「さぁ話して下さい‼︎ あなたの大事な人を死へ導いた無能で臆病な自衛隊や米軍の悪行を‼︎」
もはや隠す気も無いのかあくどい笑みを浮かべながら告げる幸原にロォリィはそっとマイクを手に取ると
「貴女、おバカぁ?」
次回
常識の違い