パーシヴァルの物語   作:匿名

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アルトリアの口調が難しい。
可笑しなところがありましたら、御報告お願いします。

─追記─ PM8︰41
今、思ったんだけどこれ亀更新詐欺だよなぁ。



09━帰還

 天を雲が覆い激しい雷が轟く。

 遮る雲のせいで陽の光は無く、薄暗い世界が何処までも続く。

 その中、天を駆ける影があった。

 

 結われた赤い髪を靡かせながら、岩のような体格と浅黒い肌をした馬が戦車(チャリオット)を引き空を走る。

 その速さは、天に響く雷よりも速く肉眼で見る事は困難である。

 

 「……天気わりぃ。雨が降る前に此処を出なきゃな」

 

 戦車(チャリオット)に乗った青年、パーシヴァル。

 影の国より出て数年。

 背と髪は伸び、その顔は僅かな幼さだけを残し整った顔付きへと変わった。

 少し低くなった声も、顔と相俟って男らしく然し男にしては美しいものとなった。

 

 「行くぞスレイ……!」

 

 握る手網に力を入れ、長年共にしてきた相棒と暗き天を駆け抜ける。

 師と交わした約束を果たす為に。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 場所は変わり、ブリテン島。

 平原に張られた無数のテントの一つ、その中で一人の王とそれに仕える騎士達が話し合っていた。

 

 「アグラヴェイン、現在の状況はどうなっている?」

 「はっ、現在最前線にてガへリス卿率いる騎士達が応戦中、向こうの地の利と敵数の多さに苦戦しておりますがこちらが押しているとの事」

 「そうか、他は」

 「特には。左右からの敵はガウェイン卿並びにトリスタン卿が向かい壊滅、念のため現地に少数の騎士を残し状況を見ておりますが、攻めてくる様子は無いとのこと。残る敵は正面の……」

 

 アグラヴェインと呼ばれた黒き鎧を纏う騎士が、青き鎧を纏った美しき金髪の王、アーサー(アルトリア)に戦況報告をしていると、それを遮るようにして一人の騎士がテントに入ってきた。

 

 「大変です! 至急王に御報告が……!」

 

 テントに入ってきた名も知らぬ一人の騎士、その様子を見れば焦燥しきっており、その場にいた者達全員がただ事でない事を感じた。

 

 「何事だ!」

 

 王の傍ら、一歩引い場所に佇んでいたアグラヴェインが問う。

 

 「はっ! ……後方より敵の軍勢が攻めて来たと、戦場より一人の騎士が知らせてきました!」

 「……そうか、戦況の方はどうなっている?」

 

 再度、アグラヴェインが問い質す。

 

 「それが……」

 「どうした?」

 「その……後方部隊がほぼ壊滅状態との事です!」

 「なんだと!?」

 

 告げられた戦況に、テント内では騎士達が息を呑み、緊張を張り巡らせ、アグラヴェインは王の前だということを忘れ大声をあげる。

 仕方の無いことだ、後方には攻められないようかなりの戦力を回していた。部隊は武勇や戦に優れた騎士で固められており、それを率いるのは円卓でも最強に名高いランスロット。

 その部隊が壊滅状態という事は、それ程迄に敵が手練ばかりと言う事。

 「ほぼ」と言っているあたりランスロットが孤軍奮闘の戦いをしているのだろう、しかし多勢に無勢。

 あのランスロット卿と言えども限界は来る。

 

 「……そうか、では私が出よう」

 

 それ迄、沈黙を貫き聞いていたアーサー王が口を開きそう言った。

 

 「なっ!? 王よお言葉ですが、王自身が向かわれる必要は……」

 「アグラヴェイン卿、何か問題でも? 後方部隊には力を入れ、手練た騎士達とランスロット卿を配備した。しかし、その部隊がランスロットを残し壊滅した、と報告があったのだ。それはつまりそれ程迄に敵は強敵だという事だ」

 「し、しかしガウェイン卿やトリスタン卿がこちらに向かっております、彼らを向かわせれば……」

 

 アグラヴェインはアーサー王を止める。

 アーサー王自身が向かう、その必要性が無いと思っているからだ。

 実際、アーサーが自ら出ずともこちらに向かっているガウェインやトリスタン、ラモラック等に任せればいい。

 それに此処は戦場、アグラヴェインはアーサーのその強さを理解しているが万が一が起こり得無いとも限らない。

 王に仕えている身では、その万が一を無くしたかった。

 

 「では、それまで待てと? アグラヴェイン卿、貴公が最悪を想定している事は重々承知だ。しかしガウェイン卿達を待っている間にランスロット卿が倒され、瞬く間に攻められないとも限らん。ならばランスロット卿一人で食い止めている間に私が率いる増援を向かわせ、敵を叩くべきだ」

 「……」

 

 アーサーに言われ、アグラヴェインは黙り込む。

 王の言う通り敵の強さを考えると、ガウェイン達は間に合わないかもしれない、それで円卓最強のランスロット卿がやられれば大きい損害だ。

 ならば、増援を出し迅速に敵を叩いた方がいい。

 

 「では、増援部隊を即刻準備させよ」

 「……はっ」

 

 そう言って、アーサーは戦の準備を始める。

 そんな暗い雰囲気の中、一人の魔術師がテントに入ってきた。

 

 「おや、アーサー王よ戦場にお向かいに?」

 「マーリンか……」

 

 数年前、何処かで遊び呆けていた宮廷魔術師マーリンだ。

 

 「貴様! 今まで何処に!」

 

 突然現れたマーリンに、アグラヴェインは吠える。

 数年前の事もそうだが、このロクでなし魔術師はどこかしらフラフラと居なくなっては突然現れる。

 ましてや此処は戦場の真っ只中だ、王に仕えている魔術師ならば王の傍らで助言なりなんなりするのが普通であり、マーリンの様に場所も告げず何処かへ行くと言うのは論外だった。

 

 「まぁまぁ、アグラヴェイン落ち着いてくれ。少し確認をしていただけだよ」

 「……確認だと?」

 「そうだよ。……どうやら約束は忘れていなかったみたいだね。うんうん」

 「……?」

 

 マーリンの言う事が理解出来ないアグラヴェインはイライラを募らせていく。

 

 「と、アル……アーサー王よ。ランスロット卿が戦う戦地に向かうのなら、どうかこの私を同伴させてもらえないだろうか?」

 「何?」

 

 アグラヴェインが声を漏らし、元々威圧感のあった顔は強張り、更なる重圧を生んでいる。

 アーサーも声を出さずとも、マーリンの言葉を不審に思ってか少し眉間に皺を寄せた。

 

 「……理由を聞こう」

 「あー、うん、ほら。偶には身体を動かさないと、それと黙ってどっか行っちゃっただろ? そのお詫びとしてさ」

 

 絶対嘘だ! この場にいる者全ての心が揃った瞬間だった。

 この男が身体を動かす? お詫び? それが本当なら明日は隕石が降ってくるに違いない。

 それかもしくは凄い厄介事の前兆だ。

 

 「兎に角、行くなら早くしないと」

 

 皆の不審そうな顔を察して、マーリンは話題を切り替える。

 そして、色々思いながらもアーサー達は準備を整えてランスロット卿が居る戦場に赴いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 無数の雄叫びが響き渡る。

 剣と剣が打ち合い、甲高い音を鳴らしながら、火花を散らす。

 紫の鎧を纏う騎士、ランスロット。

 たった一人でこの場を防衛しながら、無数の敵をなぎ倒し、その闘志は枯れることなく剣を振り続けた。

 だが、彼の騎士は焦っていた。

 

(くっ! 何とか持たせてはいるが、それも時間の問題……)

 

 身体中に傷を負い、四肢を動かす度に血が流れ激痛が走る。

 突きそうになる膝を踏ん張り、それでも倒れぬのは、己が仕えている騎士王の為。

 星の聖剣、その姉妹剣たるアロンダイトを握りしめ迫り来る敵を切り伏せる。

 

 「……ここまでか……」

 

 そうして一時間、耐え抜いた。

 自陣には既に状況は伝わっている筈、後は……。

 諦め掛けた、刹那。

 

 「風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 荒れ狂う暴風が、鋭き一撃となり敵を吹き飛ばした。

 

 「良くぞ持ち堪えたランスロット卿」

 「王!」

 

 ランスロットは喜び、先の一撃、その主の方に視線を移す。

 そこには、星の剣を携え騎士達を従えた騎士王が君臨していた。

 

 「やれるか?」

 「無論です。王の命とあらば、例え四肢を失おうと立ち塞がる敵を切り伏せましょう!」

 

 痛みの残る身体に力と熱が再び注ぎ込まれる。

 ランスロットの言葉を聞いたアーサー王は、剣の切っ先を敵軍に向け。

 

 「行くぞォ!!」

『オォォ!!!』

 

 後方の戦場、その2ラウンド目の幕が切って落とされた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 地上より遥か上空。

 轟音を響かせながら、黒き戦車は雷より早く、天を駆ける。

 

 「見えた……」

 

 目的地を肉眼で確認すると、その口角は自然と釣り上がっていった。

 懐かしき故郷、己が始まった場所、始点にして終点。

 気分が向上するのを感じながら、パーシヴァルはその島を見据え瞳を輝かせた。

 

 「さぁ向かうはログレスの都!」

 

 マーリンが居るであろう場所を目指し、手綱を打つ。

 それに呼応するように、スレイはヒヒィーンと一際大きく鳴いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「はぁ! ヤァア“ッ!」

 

 流れる様な剣戟が敵を切り刻む。

 火山の噴火の様に荒々しく、されど的確に急所目掛けて伸びる繊細や剣筋はさながら風の様だ。

 黄金の光と圧倒的な存在感を放つ聖剣で、敵陣を殲滅する。

 

(埒が明かない!)

 

 斬っても斬っても湯水の如く現れる敵兵は、向こうが増援を出し続けているのだろう。

 思った以上に辛く、戦いが長引いている。

 しかし一つの国にしては余りにも数が過ぎる、恐らく敵対する11人の王──正確には一人死んでいる為10人──、それらが兵を出し合い合併させ一つの軍としているのだろう。

 ━━厄介だ。他の円卓の騎士もこちらに向かっているが、自分は持っても他は駄目だ、体力だけが無駄に消耗されていく。

 

 アーサーは一瞬、星の聖剣その力を使う事を考えるが、今は敵味方が入り乱れる戦場と化している。

 そんな事をすれば、間違いなく少なくない味方が巻き添えを食らうことは必然であった。

 

(今ここで最善の策を……)

 

 思考を巡らせる中、視界の端からマーリンの姿が見える。

 マーリンは適当に敵を倒しつつ、何故か空を見上げては微かに微笑んでいる。

 適当とは言え、珍しく働いている事に僅かな感心を抱きながら、普段とは種類の違って見える笑みに気味の悪さを感じる。

 

 「マーリ……っ!?」

 

 刹那、凄まじい轟音と衝撃が発生した。

 マーリンを呼ぼうとした声は、それにより掻き消され。

 衝撃により吹き飛ばされそうになる身体を、剣を地面に突き刺し耐える。

 

 「何……が……」

 

 突き刺した剣を引き抜き、何が起きても対処出来るように聖剣を構える。

 更なる敵かとも考えるが、自身の直感がそうではないと告げる。

 やがて舞い上げられた砂塵が止むと、一つの影がその姿を現した。

 

 「ゲホッ……ゲホッ。あ、イテッ、目に砂が!」

 

 そんな事を言いながら、砂塵から姿を見せたのは、有り得ない程巨大な浅黒い馬とそれに負けぬ程の紅と黒の装飾がされた戦車(チャリオット)、そしてそれに乗る主と思わしき赤髪赤眼の青年だった。

 

 「そこの者に問おう、貴様は何者だ!」

 

 アーサーは周りに注意しながら、得体の知れない青年に話し掛けた。

 敵か味方か、敵だった場合には迅速に切り捨てられるよう剣を構える。

 そんな(彼女)に声を掛けたのは、青年ではなく意外にもマーリンであった。

 

 「アーサー王よ、そう警戒する必要は無い。彼は私の知人だ」

 

 知人だと? このロクでなしの? ある意味でアルトリア(アーサー)の警戒心は高まった。

 

 「マーリン、それは本当ですか?」

 

 その疑わしさから、思わずアーサーとしてでは無くアルトリアとしての口調が出てしまう。

 

 「勿論だとも。それでもって彼は味方だ。この私が保証しよう」

 

 いや、お前だから信用出来ないんだよ。

 アルトリアはそんな言葉を飲み込んだ。

 

 「もっと静かに着陸出来ないのかよスレイ。たくって……あ! おいマーリン! 漸く見つけたぞ!」

 「やぁ、久しぶりだねパーシヴァル」

 「ホントだなぁ、何年ぶりだ?」

 「5年ぶりくらいかな?」

 

 此処が戦場である事を忘れてしまいそうな程、二人は呑気に会話をしている。

 見れば衝撃で吹き飛ばされた、敵兵達が体勢を立て直しつつある。

 

 「マーリン! 話はそこまでです!」

 

 アーサーの言葉がマーリンを戦場に引き戻す。

 

 「おっと、そうだった」

 「どうした?」

 「さて、再会して早々悪いが手を貸してもらうよ」

 「はっ、ほざけ。微塵も悪いとは思ってねぇ癖に」

 「ははは」

 「まぁいいや。……と、そこのアンタ!」

 

 パーシヴァルは戦車から降りると、腰にある剣を引き抜き、アーサーの隣まで歩いてくる。

 

 「手を貸すぜ!」

 「感謝します」

 

 パーシヴァルは剣を敵に向けながら、マーリンから先程聞いた隣の人物、アーサー王に一瞬だけ目を向けるとニヤリと口を釣り上げ獰猛に笑った。

 隣に立つだけで理解したのだ。アーサーの強さを、その身が発する覇気を。

 

 「んじゃあ、行くぞっ!」

 

 パーシヴァルは、凄まじい殺気を放ちながら敵陣に切り込んだ。

 

 

 

 




時系列敵には、ぺリノア王が死んで少し経ったぐらいのところ、ていう設定です。
10人の王と書いてあるのはロット王が死んでるからです。

後、これは言い訳なのですが。作者はアーサー王伝説を大雑把にしか理解していません。
細かい知識はWikipediaやその他のサイトで調べて勉強しています。
なので今回の話は、おかしな部分とか、アーサー王伝説を詳しく知っている人には「あれ?なんか違くね?」と思われる事もあるかもしれません。

ですから、そういうのがありましたら教えて下さると嬉しいです。

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