パーシヴァルの物語   作:匿名

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今回は早く投稿できたと思います。
それはそうと、前回ケイ卿と絡ませると言っていたのですが、先にモードレッドと絡ませました。期待していた人はすみません。次回こそは必ず絡ませますので。

あと、予想に反して文字数が多くなりました。それに比例して誤字脱字矛盾等も増えていると思います。一応こちらでも読み直して確認はしましたが、もし誤字脱字矛盾等がありましたら御手数ですが御報告の方を宜しくお願いします。




13━モードレッドとパーシヴァル

 

 けたたましい音があちこちから上がる。それに混じるのは、人と人の怒声や雄叫び、悲鳴だ。

 ジャキンッと剣が交差する。ガシャガシャと、身に纏う鎧が声を上げる。

 これは紛れもない戦争だ。どうしようも無く戦争だ。どんな大義名分を唱えても、人と人が殺し合う醜い戦争なのだ。

 戦場の至る所で(けむり)が空に伸び、鉄の匂いが蔓延る。足元には、血の付いた武具と、それを扱っていたとおぼしき兵士達の亡骸。

 そんな死が平然と大量に転がる戦場を、パーシヴァルは駆け抜ける。

 

 「ギァァッ!」

 「あがっ!」

 

 自軍の騎士達とは違い、その身は鎧など着ておらず軽装で、防具をつけたとしても胸当てと籠手、そして脛当てのみの動き易さに重きを置いた姿だった。

 手には槍ではなく、二振りの剣。一つは故郷の村に居た時から使っていた物。然し、その剣は長年、異形の魔物の血を帯びることで半ば魔剣と化していた。

 そしてもう一つは、円卓の騎士として迎え入れられた時に、彼の騎士王より賜った無名の剣。

 付けられた名は無いがその剣は大凡、人間の領域を超えたパーシヴァルの力や技量に耐えられる程の名剣であった。

 

 「ひっ! い、いや……だ……」

 

 縦横無尽に戦場を駆け回っては、二振りの剣を用いて、すれ違いざまに敵を一撃で屠る。

 先程から聞こえていた断末魔や叫びは、パーシヴァルによって殺された敵軍の兵士達のものだ。

 その身を崩し倒れる兵士に目もくれず、パーシヴァルはひたすらに戦場を駆ける。自軍の被害が少なく済むように。

 

(敵の大将は何処だ?)

 

 彼を体現した様な、美しい朱色の瞳で戦場を見渡す。

 そんな、敵軍の頭を潰して勢いを弱めたいと考えているパーシヴァルの瞳には、今まさに殺されそうになっている自軍の騎士が映る。

 

 「くっ……」

(ここまでか……)

 「死ねぇぇ!!」

 

 地に尻餅を付く騎士は己の死期を悟り、その瞼を閉じた。

 思い浮かぶのは、ログレスの都に残した妻と娘の笑顔。ああ悲しませてしまうな、と諦めにも似た笑いが漏れ出す。

 然し、いつまで経っても痛みが襲って来ない。何故だ、と不思議に思っていると。

 

 「何か諦めている所悪いが、貴殿はまだ死なんぞ」

 

 戦場に響く轟音に混じり、明るい声が耳に聞こえた。

 閉じた目を開けてみると、太陽の炎をそのまま閉じ込めたかの様な、()髪をした朱い騎士がこちらを見下ろしていた。

 

 「パ、パーシヴァル卿!?」

 

 見下ろしていたのは、イーテルの指南のお陰で僅か一年で礼節と作法を身に付け、今では騎士の鑑と迄言われるようになったパーシヴァル卿だった。

 男はパーシヴァルの足元に転がる死体を見て、助けられたのだと理解する。

 

 「立てるか?」

 「は、はい」

 「そう畏まるなって。ここは戦場だ、そんな事ではまた直ぐに死にかねねぇぞ」

 

 はは、と軽く笑うパーシヴァルは一年前とは比べ物にならない程大人びていた。それも全て、礼節を身に付けた事から来る精神的成長の落ち着き故だろう。

 騎士の男はパーシヴァルより年上にも関わらず、彼の出すその雰囲気から恐縮してしまうのだから、この一年イーテルがどれ程頑張ったのかが伺える。

 

 「時に、あんたは敵の大将を見かけなかったか?」

 

 聞かれた男は数秒固まった後、我に返り慌てて答えた。

 

 「は、はい! 先程ここより西の方面にそれらしき人影を見ました!」

 「そうか、ありがとう。礼を言う。 ……あ、それと! 死にそうだからって簡単に諦めんなよ。それじゃ、()()()()()! 」

 「ッ!」

 

 男の答えに笑顔で返すと、パーシヴァルはそのまま尋常では無い速さで疾走した。

 また会おう、それはつまり生きて帰るぞと言う意思を表す言葉。

 パーシヴァルの一言に励まされた騎士は、既にパーシヴァルが消えた方向に一瞬だけ視線を向け、落ちていた剣を拾い握り、ある事を決意する。

 ああ、必ず生きて帰って今度は礼を言おう、と。

 

 助けた騎士と離れたパーシヴァルは、あいも変わらずすれ違いざまに敵を殺していた。

 西の方面に走って暫く、それでも敵将の姿は見当たらない。既に別の所に行ってしまったのか、探せど探せど見つからない。

 諦めて別の所に向かおうとした時、超人的な視力を持って視線の遥か先にその姿を捉えた。

 

 「見つけた!」

 

 一人馬に乗り、周りの兵士達に指示を出している男。恐らく、あの者が此度の戦いの指揮を執る男だろう。

 情報通りだと、パーシヴァルは口角を釣り上げる。

 この戦が始まる前、アグラヴェインから、恐らく敵将は前線に赴くと言う情報をパーシヴァルは伝えられていた。

 その情報を頼りに探し回って、漸く見つけた敵軍の指揮官。だが、正面から突破するには、些か敵が多すぎた。

 

 「固められてるな」

 

 指揮官を護るようにして、一定数の兵が周りを囲んでいた。

 指揮官を中心に、バームクーヘン状に何層も陣形が上手く組まれている。

 外側は屈強な兵で固めており、さしずめ壁の役割を担っているのだろう。そして中心に向かうに連れ弓兵や槍兵等の中遠距離隊。成程、厄介だ。

 やろうと思えば、パーシヴァル一人でも突破出来るだろう。然し、時間を食う上に面倒だ。

 どうしようか、と頭を回転させ思案していると、ふと足元に視線を落とした。

 

 「ラッキー」

 

 そこには、血が張り付き汚れた一つの弓が落ちていた。パーシヴァルは再び口角を釣り上げる。

 二振りの剣を鞘に納め、近くに落ちていた矢を、弓と共に拾い構えた。ここから狙撃をしようと言うのだ。

 その距離、約2km弱。ふざけた距離だ。これがトリスタンの持つ宝具、フェイルノートの様な宝具(妖弦)ならば可能性はあったかもしれないが、パーシヴァルの手にあるのは何の加護も無ければ特殊な力も宿さない、何処にでもある弓。

 その程度の代物で、2km近く先の的を射る等、普通ならば到底不可能だった。

 

 「……ふぅ」

 

 息を吐き、精神を整える。

 周りの気配に気を付けながらも、目先の獲物に神経を集中させる。

 ギギギと壊れそうな程、弦を引き絞り狙いを定める。

 今一度言おう、この距離で点にも等しい的を射る事は、普通なら不可能である。

 

 ━━━━そう、()()()()()

 

 「……っ!」

 

 生憎だが、狙撃手は普通と言う言葉とは掛け離れたパーシヴァルだ。

 弓の壊れる寸前まで引き絞ってから放った矢は、放物線ではなく一直線に、的目掛けて飛翔する。運動エネルギーは減少する事なく、馬鹿げた速さを維持して、一条の流星の如く宙を奔る。

 

 そして彼の放った矢は、敵将の頭を━━━━砕いた。

 

 比喩にあらず。

 刺さったのでもなければ、貫通でもない。上記通り読んで字の如く、矢は人間の頭を粉々に粉砕した。

 誰が真似しても、仮にこの距離で矢が届いたとしても、パーシヴァルの様に人の頭蓋を粉々にすると言う、驚愕を通り越し一周回って失笑の領域に至る神業(芸当)は出来ないだろう。

 

 敵の兵は、いきなり主の頭が吹き飛んだ事に何が起きたのか分からず、慌てふためいている。状況を理解出来ずに混乱する様はまさに滑稽だ。

 

 「腕は鈍ってないな」

 

 一仕事を終えたパーシヴァルは、手をグーパー握っては開く動作をして、自身の弓術が衰えていないのを実感した。

 握る弓をその場に捨て、パーシヴァルは自陣のテントに走って帰る。その際に、大声で敵将を討ち取ったことを広めるのも忘れない。

 余談だが、この馬鹿げた弓術も、旅の最中に身に付けたものだったりする。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 天高く(そび)える白亜の門が音を立てて開く。門の外からは、遠征より帰ってきたアーサー王率いる騎士達が、馬に跨り城に向かってゆっくりと進む。

 その様を民達は讃え、凱旋の騎士達に歓声を上げる。天に轟かんばかりの民衆の声は、地を震わせている錯覚さえする。

 建物と建物の間の脇道から、民衆に讃えられる騎士達を遠目に眺める少女が居た。

 

 「アーサー……」

 

 視線の先に映る騎士王の名をポツリと呟く。

 少年の様な少女の名は、モードレッド。アーサー王と瓜二つの顔を持つ人物(ホムンクルス)

 モードレッドは生みの親であるモルガンに、初めてこの都に連れてこられ凱旋を目にした時以来、度々都に訪れては遠巻きに騎士達を眺める。

 いつも目に追うのは、白馬に乗り騎士達の先を行くアーサー王だった。

 

 「……?」

 

 アーサー王の姿が見えなくなり、用は済んだとこの場を離れようとするモードレッドは、偶然にも彼の姿が目に入った。

 開く門から最後に入ってきた騎士。彼は見た事も無いような馬鹿でかい黒馬に跨り、少し疲れた顔で民達に手を振っていた。

 何だあいつと、少し眉を顰めるモードレッドの耳にある会話が聞こえた。

 

 「相も変わらず、パーシヴァル卿は目立つね〜」

 「そりゃ、あんな馬に乗っていれば目立つさ」

 

 自分の前に居る二人組の男。

 彼等の会話からして、あのでかい馬に乗る男はパーシヴァルと言うらしい。

 彼等の会話に少し興味を持ったモードレッドは、耳を傾ける。

 

 「それはそうと聞いたかい? 今回の戦も、またパーシヴァル卿の働きで勝利を収めたらしい」

 「かぁ〜。流石は円卓随一の実力なだけある。おまけに礼節も正しく、まさに騎士の鑑」

 

 その後も彼等は、パーシヴァルに着いて色々と語っていたが、モードレッドは途中から興味を無くし、その場を去った。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 「お疲れ様。いやぁ〜今回も大活躍だったね」

 

 呑気な声音でパーシヴァルに語りかけるのは、宮廷魔術師のマーリン。パーシヴァルはマーリンに視線を少しだけ向け、お前なぁ〜と恨めしそうに呟く。

 この男マーリンは、パーシヴァルやランスロット達が最前線で奮闘しているのに、魔術師だからと言う理由で自陣のテントに引きこもっていたのだ。それも本当に最低限の助言しかせずに。

 その癖、テントに帰ってきた前線の騎士達を煽る煽る。パーシヴァルが怒りとも呆れともつかない呟きを垂らすのは当然の事だった。

 

 「仕方ないだろう? 私は生粋の魔術師で荒事は苦手なんだ」

 「生粋の魔術師は剣なんて振らねーし、詠唱を面倒臭いなんて言わねーよ」

 

 マーリンの巫山戯た言い訳に、パーシヴァルは正論で返した。

 パーシヴァルの言葉を、いつもの胡散臭い笑みで流しながら、マーリンはそそくさと退散した。

 やっと邪魔者が居なくなったと、パーシヴァルはため息を吐き。気分転換に城下町に赴いた。

 

 「賑やかだなぁ」

 

 堅っ苦しい装備を家に置いていき、何処の下町にも居そうなラフな服装をしたパーシヴァルは、飛び交う人々の声を聞きながら微笑む。

 やはり賑やかなのはいい事だ、と心で思いながら。

 

 「……うぉっ!」

 「……うっ!」

 

 行き交う人達に気を取られていたパーシヴァルは、角から出てきた小さな人影に気付かずぶつかってしまう。

 鍛えられた肉体を持つパーシヴァルは僅かな衝撃だけで済んだが、ぶつかった方の人物は尻餅を付いてしまう。パーシヴァルは慌てて、大丈夫か、と手を差し伸べた。

 見た目は14歳程の子供、ローブのフードを被っている為顔はよく見えないが、僅かに見える骨格からして少女だろう。

 

 「……いってぇ〜」

 

 差し出された手を取り、立ち上がった少女は、尻についた埃を払いながらそう言った。

 

 「悪い。こちらの前方不注意だった。怪我は無いか?」

 「大丈……!」

 

 少女、モードレッドは顔を上げてみると、ぶつかった人物が誰なのかを理解した。

 赤い髪が特徴で、大きな黒い馬に乗っていた騎士。パーシヴァルだ、間違いない。

 

 「どうかしたか?」

 「いや、何でもねえ。大丈夫だ」

 

 異変を感じたのか、モードレッドの顔を覗き込むパーシヴァル。その事に、モードレッドは顔を逸らし慌てて答えた。

 モードレッドは自分の顔がアーサーに似ている事を自覚していた、その為顔を覗かれては不味い、今ここで正体がバレる訳にはいかないと。

 そう考え、急いでこの場を去ろうとするが、パーシヴァルはそれを呼び止めた。

 

 「ちょっと待ってくれ」

 「……何だ?」

 「本当に大丈夫なのか? さっきから慌ててるみたいだが……我慢してないか?」

 

 モードレッドの慌てる姿は、パーシヴァルには怪我を我慢している様に見えたようだ。

 見知らぬ他人に、怪我をしたことを言うのを我慢しているかもしれない。子供ならそういう事もあるだろうと、パーシヴァルなり心配しているのだ。

 実際はそんな事は無く、モードレッドはこの場から直ぐに逃げたいだけなのだが。

 

 「いや、オレは大丈夫だって……」

 「……本当か?」

 

 ジト目でジリジリと距離を詰めてくるパーシヴァル。別角度から見れば、危ない場面に見えなくもない。

 パーシヴァルの視線を気不味く感じ、視線を逸らし黙ってしまう。それがいけなかった。

 パーシヴァルは何を勘違いしたのか、やっぱりなと、息を吐きモードレッドを見据えた。

 

 「少しじっとしてろ」

 「何を……!」

 

 暖かい何かを感じる。モードレッドは、これが魔術だと瞬時に理解した。ならばこれは治癒の魔術だろうか、大丈夫だと言っているのにモードレッドに治癒魔術を掛けるパーシヴァルを見て、変な奴と心中で零した。

 

 「良し。これで大丈夫だろ」

 「……ありがとう……」

 

 素直に礼を言う。パーシヴァルは笑顔で頷き、返した。

 さて、もう用は無いだろうと、今度こそこの場を離れようとするモードレッドだが、又してもパーシヴァルに引き止められた。

 

 「あ、待ってくれ!」

 「何だよ。何かまだあるのか?」

 「君は今暇か?」

 「は、はあ?」

 「良ければ、この町を案内しようか? と言うか、俺の暇潰しに付き合っておくれよ」

 

 ナンパであった。紛うことなきナンパであった。

 いや、実際にはパーシヴァルはモードレッドの事を気遣ってこんな事を言い出しているのだ。

 モードレッドは顔がバレないように、常に顔を伏せ気味に会話をしている。パーシヴァルはモードレッドのそれを、元気が無いのだと再度勘違い。

 よしならば()()()()()()()()、とお節介を焼く事にしたのだ。

 

 「断る。オレは暇じゃ……っておい!」

 

 断るモードレッドの腕を引きながら、いいからいいからと近くにあった店による。

 

 「おじさん! これ二つ!」

 

 パーシヴァルは、露店に並べられた果実を二つ手に取る。

 店主とパーシヴァルは知り合いなのだろうか、軽い世間話をしては盛り上がると、店主に礼を言ってパーシヴァルは買った果実をモードレッドに差し出した。

 

 「何だよそれ」

 「リンゴって言う果実さ」

 「リンゴぉ?」

 

 モードレッドは差し出された林檎を、訝しげに眺める。

 

 「いいから食ってみろよ。甘いぜ?」

 

 渋々ながらも、パーシヴァルから林檎を受け取り、口に運ぶ。

 

 「……なんだこれ、美味い!」

 「だろ!」

 

 何故か胸を張るパーシヴァルを他所に、夢中で食べ続ける。

 そして直ぐに完食すると、ニヤニヤ笑うパーシヴァルの視線に気付き気恥しさを覚えた。

 

 「そんなに美味しかったなら、もう一個買ってやろうか?」

 「いらねぇよ! ……それより、何だってあんなもんがあんだよ。今は戦時中な筈だ」

 

 パーシヴァルの視線が何処と無くムカつき、勢いに任せて断った事を後悔しつつ、話題を切り替えた。

 確かにモードレッドの言う通り、戦時中の今、普通ならば果物等そうそう手に入らない。

 それに、見渡せばあの店以外の露店も、豊富に品が並べられている。どういう事か、モードレッドは気になった。

 

 「……俺もよくは知らない。けれど、多分農園を開いているどっかの優しいお兄さんが、親切心で作った農作物をこの国に輸出(まわ)してるんだよ、きっと」

 

 どっかの優しいお兄さんって誰だよ、とモードレッドは突っ込んだが、パーシヴァルは知らぬ存ぜぬと答えた。

 ……真実は、パーシヴァルが作った異常なスピードで成長した作物を、物価が高騰も低落もしない程度にこの国に入れているのだ。何故か急に食糧難に困る事が無くなった事に、当然上の連中は疑問を持ったが、アルトリアとマーリンそしてアグラヴェイン協力の元、その疑問は納得(有耶無耶に)されている。

 まぁ、マーリンが協力している時点で碌でもない方法をしている事は確かだ。

 

 「さ、そんな事より、もっと色々と回ろう」

 「だから引っ張んなって……たく!」

 

 もうこれはどうしようもないと、モードレッドは諦める事にした。

 それからと言うもの、パーシヴァルはモードレッドを彼方此方に連れ回し、行く先々で食べ物等を食べ続け、時にパーシヴァルの知り合いの子供達と遊んだりもした。

 空は茜色に染まり、気が付けば夕暮れ。

 

 「いやぁ、楽しかったな」

 「……おい」

 「ん、どうした?」

 「お前騎士なんじゃないのか? 良いのかよこんな事して」

 

 今現在、二人が居るのは物見の塔の上。

 本来ならば、騎士しか立ち入ることの出来ない場所にモードレッドは連れられていた。

 

 「今日は戦帰りで仕事も無いし暇で」

 「そういう事じゃねえよ。オレをここに連れてきてよかったのかって聞いてんだ」

 

 終始フードを被っていたから、その顔はよく見れないが、パーシヴァルの心配をしているのだろう。

 男勝りな口調に、雑な態度だが、可愛い所もあるじゃないかと、パーシヴァルは笑った。

 

 「駄目だろうな。バレたら叱られるじゃすまん」

 「じゃあなんで……!」

 「言っただろ、バレたらって。ならばバレないようにすればいい」

 

 ここに来るまでに人祓いの魔術は施した。マーリンやアルトリア辺りは気付くかもしれないが、何かしら理由があると理解してくれるはずだ。

 だから、見られる心配は無い。

 

 「は、お前見たいな奴が騎士の鑑だなんて、世も末だな」

 「違いない。……人目がある所ならちゃんとするけどな」

 

 そう言ってくつくつ笑うパーシヴァルの顔は、夕日に照らされ、整った美形な顔も相俟り、まるで一枚の絵のように美しかった。

 僅かな間、モードレッドはその横顔に自覚がないまま見惚れていた。

 

 「なあ、なんでお前はそこまでオレに構うんだよ」

 

 今日一日ずっと思っていたことを吐き出す。

 街角でぶつかっただけでこんなに構ってくれるとは思えない、他に別の理由があるようにモードレッドは感じたのだ。

 

 「…………純粋な人じゃないだろ、お前さん」

 「っ!?」

 

 幾許か考えて、パーシヴァルはそう言った。

 何故気付かれたと、モードレッドは冷や汗を流した。若しかしたら、自分の正体すらバレているかもしれない、内心で酷く焦る。

 

 「そういう奴は大体複雑な事情があるのは理解してるから、深くは聞かないさ。……でも、ぶつかった時のお前、自分は()とは違います、みたいな雰囲気出てたからさ。つい構いたくなったんだよ、お前も()と同じだって」

 

 数年間の旅の間、何人もそういう人物をパーシヴァルは目にしてきた。そして決まってそういう人達は、やがて己を否定し始める、下手をすれば破滅する事もまた知っていた。

 赤の他人ではあるが、目の前の少女がそうなってしまったらと考えると、パーシヴァルは居ても立っても居られなかったのだ。

 モードレッドを見据える朱き双眸は、否応無くモードレッドを惹き付けた。

 

 「いつから気付いていた」

 「ぶつかって、手を差し伸べた時から」

 「初めからかよ」

 

 つまり、この男はモードレッドが人で無いのを理解した上で、散々振り回していたのだ。怪我を心配していた事や、元気付けてやろうとしていた事も本当だろうが、性格に反してなんとも抜け目の無い事だ。

 パーシヴァルの言う通り、モードレッドは人間ではない自分を恥じていた。何故人に産まれなかったのか、他とは違う世界にいるのではないか。

 そんな不安がモードレッドの中に存在していた。それをこの男は見破ったのだ。

 旧知の中でもなければ、さっき知り合ったばかりの赤の他人が。

 やっぱり変な奴だ、とモードレッドは思った。

 

 「お、来たぞ……。あれ見てみろよ」

 

 パーシヴァルはモードレッドから視線を外し、夕日に指を指す。

 モードレッドが、指された方向に視線を向けると、そこには美しい絵画が出来上がっていた。

 地平線に沈む太陽は、空を赤く化粧し、橙色の世界を作り出す。

 

 「綺麗だ……」

 

 無意識にそんな言葉が零れた。

 パーシヴァルにはその呟きが聞こえており、だろ! と夕日に負けない程の明るい笑顔をモードレッドに向けた。

 彼がモードレッドをここに連れてきたのは、この夕日を見せるためだった。

 この赤一色に染まる世界は、どんな不安も吹き飛ばしてくれる。パーシヴァルは、モードレッドの不安もきっと吹き飛ばしてくれると思い、お気に入りの場所であるここに引っ張ってきたのだ。

 

 「そうだ。……俺はパーシヴァル。お前の名前を教えてくれよ」

 

 今思い出したと、声を上げ名乗るパーシヴァル。

 今更か、と思いながら被るフードを脱ぎながら、モードレッドも己が名を名乗った。

 

 「オレは……オレは、モードレッドだ」

 

 顕になる顔に、パーシヴァルは驚愕する。

 フードのしたから出てきた顔は、夕日に照らされて輝く、アルトリアと瓜二つのモードレッドの笑顔だった。

 

 

 




今回の内容は、モードレッドがメインでした。
まだ自らの出生の秘密を知らない頃の純粋なモードレッド……いいですよね!
というか、モードレッドのキャラが変わってないといいんですけど、アレで大丈夫でしたか?
それと話の中で出てきたリンゴですが、ヨーロッパに来るのは本来は16世紀で、本格的にイギリスで栽培されるのは19世紀からですが、当作品ではパーシヴァルが旅で持ち帰り育てている事にします。


あと私事なのですが、プレゼントできた30個の石でマーリンとオルトリア(セイバー)が来ました。やったぜ!
書けば出るって言うのは、本当かも知れませんね。

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