パーシヴァルの物語   作:匿名

7 / 21
面白そうな作品を探していたら、何とルーキーの方でランキングに載っていました。

これも皆さんのお陰です。
こんな作者と作品ですが、良くなるよう精進しますので、今後ともよろしくお願い致します。

あと、花笠肴様 サカヤ様 ひまじ〜ん様ご評価ありがとうございます。


パーシヴァルの母親について分からないことがあったから、捏造しちゃったけど、大丈夫だよね! タグにあるもんね!



05━母の想い

 ━━私があの人の子供を宿した時から、何れこうなる事は予感していた。

 

 私の前に座り、真剣な眼差しを向けてくる赤髪の少年。

 私の愛しい子、パーシヴァル。

 

 

 思えばこの子は、言葉を話し始める小さな頃から何処か、遠くを見据えていた。

 走り回れるようになってからは、頻繁に森に行っては遊び。

 危険だから、と諭しても目を離した隙には森にいる。そんな事を1年も続ければ、私も折れざるを得なかった。

 最終的には、条件付きで森に行くことを許可するとパーシヴァルは目に見えて喜んだ。

 

 その翌年、剣を手に森に行くパーシヴァルを私は見かけた。

 慌てて私はその後を追いかけると、ひたすらに剣を振り続ける我が子を見つけた。

 その姿を見た私は、パーシヴァルに一つの影が重なるのを感じた。

 

『ぺリノア』

 

 嘗て私が愛した人。

 あの人は女好きで、私以外にも妻を持っている。

 そんな人を愛しても、向こうから与えられる愛は高が知れている。

 女としての真の喜びを得られない、女の喜びとは愛した男を独占する事。

 それが出来ない事を承知で私は、あの人を愛しその子供を宿した。

 

 でも結局、私があの人と添い遂げる事は不可能だと理解……いえ改めて分かって。

 あの人の元から去り、自分の村に帰ってきた。

 それからパーシヴァルを産むにあたって、ある決意を決めた。

 それは、パーシヴァルを『騎士』にしない事。

 私は如何しても、これから生まれてくる子が、騎士となりその騎士同士の軋轢や因縁に息子が巻き込まれるのが嫌だった。

 

 ……だから、剣を振るうパーシヴァルを見た時は酷く動揺した。

 

 ━━何故? どうして? なんであの子は剣を持っているの?

 

 気付くと私は、パーシヴァルから剣を取り上げ叱っていた。

 聞けばこの剣は、お婆様から貰ったものだと言う。

 全くお婆様も余計な事を、前から私の教育方針は言っておいた筈なのに。孫のように可愛がってるお婆様の事だ、パーシヴァルにおねだりされて、仕舞ってあった剣をあげたに違いない。

 一人でそう納得すると、今後は一切剣に触れないように言い聞かせた。

 

 だけど、そんな事で諦める我が子では無かった。

 次の日には私が隠した剣を探し回って、見つからないと分かると必死に私を説得に掛かった。

 朝昼晩、ご飯時も就寝時も関わずひたすらに説得しにくるパーシヴァル。

 そんな事が暫く続き、またもや私は折れる事となった。

 パーシヴァルの熱意に押されてか、それとも単に私が甘いだけなのか、定かではないが。

 嬉しそうに剣を持つあの子を見て、何処か腑に落ちる自分がいた。

 

 

 

 ━━━━それから数年後、成長したパーシヴァルはあの子の運命を決定付ける、一人の魔術師を連れてきた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 夕焼けの空が一面に広がる見慣れた光景。

 その空の下で、パーシヴァルとマーリンは修行を終え、少し休んでいた。

 

 「ハァ……ハァ……あ“〜辛れぇ」

 

 パーシヴァルの息は上がっているものの、ここ数ヶ月で体力が付き僅かばかりの余裕が感じれる。

 勿論、体力だけでなくそれに比例して戦闘技能や魔術知識も相応のものとなっていた。

 

 「お疲れ様。にしても随分と成長したね。たかだか数ヶ月でそこまでになるなんて、正直に予想外だったよ。」

 

 マーリンの言う通り、パーシヴァルの成長は目を見張るものだった。

 確かな才能があったとは言え、それを抜きにしてもパーシヴァルの今の力は、妥協する事無き、絶え間無い努力の賜物であろう。

 円卓の騎士程ではないが、それに迫る実力がパーシヴァルにはあった。

 

 「……パーシヴァル」

 

 何時に無く、真剣な眼差しでマーリンはパーシヴァルを見ていた。

 その顔は笑っているものの、感じられる雰囲気はそれとは真逆の真面目なものだった。

 

 「なんだよ」

 「私は数ヶ月、ここに滞在し君を鍛えてきた。だけど、それも今日迄だ。いい加減戻らないと、アルトリア……アーサー王にどやされてしまうからね」

 

 実はそんな事は無く。

 キャメロット城にいるアルトリアは逆に、マーリンと言うある意味での疫病神(トラブルメーカー)が居ない事で、少し清々していた。

 と言っても、マーリンがアーサー王付きの宮廷魔術師なのは事実。

 数ヶ月も空けていたのだ、いい加減城に戻らなければ、アーサー王は魔術師マーリンに見放された等と噂を立てられ権威に関わる。

 

 「ふうん、で?」

 「意外と軽いな君は!」

 

 あまりの素っ気ない態度に、マーリンは大声を出してしまう。

 

 「要するに、そろそろ帰らないと王様に怒られちゃうよー、って事だろ?」

 「うん、それであっているよ」

 「で、いつ出るんだよ」

 「明日の朝かな」

 「そりゃまた、随分と急なことで」

 「そう急だ。明日の朝、君が起きた時には私はいないだろう。━━そこで私から君に、言いたい事がある」

 

 パーシヴァルとの会話で緩みかけていた雰囲気を、一息ついて元に戻す。

 

 「言いたい事か……なんだ今更、魔術師らしく予言でもしようってか?」

 「……そうだね、ある意味でこれは予言だ」

 

 マーリンが真面目な空気を解かない事から、その真剣さが伺える。

 それを察したパーシヴァルは、今度こそ黙って花の魔術師(マーリン)言葉(予言)を待った。

 

 「幼き赤髪の剣士パーシヴァルよ、旅に出なさい。陸を歩き、海を渡り、人と関わり、世界を知りなさい。それが君を、高みへと押し上げる」

 

 語るマーリンの顔からは、一切の笑みは無く。

 それはまさに、魔術師と呼ぶべき一面だった。

 

 「……」

 

 パーシヴァルは黙って聞いていた。

 何か考えるでもなく、何か思うでもなく、ただただ黙って聞いていた。

 

 「じゃあ堅苦しいのはこれで終わり、柄でも無い事はするべきじゃないなぁ、……さて帰ろうか」

 「……」

 「ん? どうしたんだいパーシヴァル?」

 

 柄でもない事をしたせいか、少し気疲れしたマーリンはそうそうに帰ろうとするが、黙ったまま動かないパーシヴァルを変に思い立ち止まる。

 

 「我が師、魔術師マーリン」

 

 今度はパーシヴァルが、柄になく真面目にそう言った。

 

 「……なんだい?」

 

 マーリンもそれに答える。

 

 「俺は、貴方に恩を返したい。俺が強くなれたのは貴方のお陰だ。……何か出来る事は無いだろうか?」

 

 驚愕に目を見開く、まさかこの子からこんな事を言い出すとは。

 マーリンからの主観でパーシヴァルと言う少年は、そんなに義理堅い人物ではなかった。

 確かに恩を仇で返す様な子では無い、しかし他人から求められなければ、その恩を返す様な事はしない子の筈だった。

 それだけ、パーシヴァルは強くしてくれたマーリンに恩を感じているという証拠だった。

 

 「どうしたマーリン?」

 

 固まったマーリンに問いかける。

 

 「あ、あぁ。何でもないよ。そうだね、ならば君が旅をして成長した時━━━━我等が、円卓の騎士に入ってくれないかな?」

 

 旅の最中、夢に出ては勧誘に誘おうと思っていたのが、向こうから申し出てくるとは、マーリンに取っては僥倖の極みだった。

 それに、元々はその為にこの子を鍛えて居たんだし、とそう心の中でマーリンは呟く。

 

 「承知した」

 

 そう言ったパーシヴァルを見ながら、マーリンは喜んでいた。

 パーシヴァルがいずれ、円卓の騎士になる事を誓ってくれた事、それが嬉しかった。

 そして使い捨てではあるが、この『歓喜』と言う感情はやはりいいものだと、そう思いながらマーリンはパーシヴァルと家に帰った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 さて、パーシヴァルが旅に出て、騎士になる為にはまず乗り越えなければいけないものがある。

 それが、母親だった。

 その教育方針から、騎士どころかそれに僅かでも関する話をしたがらない母を、パーシヴァルはどうにかしないと行けなかった。

 

 そこで、パーシヴァルは母親を説得する為、早朝マーリンが居なくなった事を確認すると母親の部屋に向かった。

 

 そして話は冒頭に戻る。

 

 

 「頼む母さん!」

 

 パーシヴァルは、目の前に座っている母親に土下座をしていた。

 この時代に土下座何てものは無い為、誰も知らないのだが母のアンナは例外だった。

 

 「もう土下座はやめなさい!」

 「嫌だ! 認めてくれる迄やめねぇよ!」

 

 小さい頃から、アンナを説得する為にパーシヴァルは土下座を行っていた為、アンナも土下座の意味は知らずとも、それがどう言うものであるかは何となく理解していた。

 

 「ぐぬぬぬっ」

 「ぬぐぐぐっ」

 

 唸る母子、その姿は違えど似通ったものがあった。

 

 「大体、アンタは自分が何を言っているのか分かってるの!」

 「分かってるよ! だからこうして土下座迄して、頼んでんだろ!?」

 「く、この頑固息子!」

 「な!? ならアンタは束縛母親だ!」

 

 親子の言い合いは段々とヒートアップ、最早説得の体をなしていなかった。

 

 「不良息子!」

 「この若作りバ……ぶべらァっ!」

 

 言い終わる前に、パーシヴァルは家の外に吹き飛ばされた。

 パーシヴァルは痛む頬を抑え、殴り飛ばしたであろう張本人を見ると。

 

 「何す……っ!?」

 

 泣いていた。

 その姿に、パーシヴァルは胸が痛み困惑した。

 

 「かあさ……」

 「なんで!? なんで貴方は私の気持ちを理解してくれないの!?」

 

 生まれてこの方、自分の母が泣く姿などパーシヴァルは一度たりとも見た事がなかった。

 大声を上げることはあれど泣く事は無かった、怒鳴ることはあれど喚く事はなかった。

 ましてや、自分に訴え掛けるようにその思いをぶちまけるなど初めてだった。

 そしてこの光景には覚えがあった、前世で唯一後悔する事となった家族との喧嘩別れ、その影と重なる。

 

 「いつもいつも危険な事ばかり! 毎日傷だらけになって帰ってくる貴方を見て、私がどんな思いしてたのか分かる? ……お願いよ、パーシヴァル……もう……こんな事……」

 

 吐き出す言葉が弱っていく。

 ボロボロと涙を流す母を、パーシヴァルは胸が締め付けられるような痛みに襲われながら見ていた。

 そして、自問自答を始める。

 

(このまま説得を続けても良いのか? 母さんの気持ちを無視して、俺は……)

 

 揺れ動く心。

 自分を思う母を無視して進む事は容易い、だが進みながらいつかはそれが、罪悪感や後悔となって自分を襲うだろう。

 前世(過去)の自分がそうだったように。

 

 「全くお前達家族は……」

 

 横から、自分やアンナとは違う第三者の声が聞こえた。

 見ればそこには、老婆がいる。

 

 「……婆ちゃんか」

 

 それだけを確認すると、パーシヴァルは空を仰いぐ。

 先程まで晴れていたのに、いつの間にか暗い雲が空を覆い隠す、曇天となっていた。

 

 「なぁに泣きそうなツラしてんだい、ほら家に入んな雨が降るよ。アンナ、アンタも何時迄もメソメソ泣いてんじゃないよ、親ならシャキッとしな!」

 

 彼らの今の気持ちなど知らんとばかりに、ズバスバとものを言うお婆。

 言われた通り、パーシヴァルは家に入るがその足取りには力がない。

 

 「大方の予想はつくけど、話しな。何があった?」

 

 パーシヴァルがお婆に説明をはじめる。

 

 「はぁ……。アンタらは全く。━━それでパーシヴァル、アンナの気持ちを聞いた上で、それでも行く気かい?」

 「っ……俺は」

 

 答えられなかった。

 母親の気持ち、マーリンとの約束、己が力をつけた理由、その目標。

 複雑な思いが、パーシヴァルの中で絡み合う。

 

 「パーシヴァル、明日だ。明日の朝またここに来るよ、その時までに、自分の選択を決めな」

 「……」

 「アンナ、アンタは私の家に行くよ。話したい事があるさね」

 「……はい」

 

 こうして、パーシヴァルは一人家に残された。

 その晩、自室の窓の外から星空をパーシヴァルは眺めていた。

 

(何やってんだろ俺)

 

 振り返ってみれば、母の困る事ばかり。

 駄目と言われたのに行い、もうするなと言われたのに繰り返す。

 ましてや一人息子が危険に突っ込む真似をしているのだ、親ならああなって当たり前であった。

 

(強くなったってのにこれじゃあなぁ。━━そう言えば、なんで俺は強くなりたかったんだっけ?)

 

 答えは単純だ。

 子供が、テレビに出てくる仮面ライダーに憧れるように、自分も英雄譚に語られる強さを持った英雄(ヒーロー)に憧れたのだ。

 その強さが欲しいと。

 

(━━そっか、そういう事か)

 

 自分自身の思いに気が付いたパーシヴァルは、何処か吹っ切れたような顔をして、眠りについた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 草木が眠りから覚め、鳥の囀りと昇る朝日が眩しい早朝。

 パーシヴァルの家で、パーシヴァルは母親と向かい合っていた。

 

 「それでパーシヴァル、アンタ決めたのかい?」

 「あぁ、婆ちゃん」

 

 視線をアンナに向けたまま、声だけで答える。

 向かいに座るアンナも、決意を宿した瞳をしていた。

 昨夜、決意の選択をしたのはパーシヴァルだけではなかったようだ。

 

 「母さん……俺は、やっぱり旅に出たい」

 「そう」

 「初めて剣を持った時は、好奇心とこれで皆を守るんだっていう餓鬼の小さな正義感だけだった。でもさ、よく考えるとそんな正義感よりも、嬉しさの方があって、そっちの方が大きかったんだ」

 「……」

 

 パーシヴァルの独白に、静かに耳を傾ける。

 

 「これで俺も、物語の中の英雄みたいになれるって。カッコイイ主人公みたいにって。だから、辛い修行も耐えられたんだと思う。そして俺はまだまだ強くなりたいって思ってる。━━だからさ、頼む行かせてくれ!」

 

 頭を下げる。

 親の気持ちを無視する行為だと分かっている、それでも自分の目標を取った。

 最低だと罵られてもいい、実際それだけの事をしているのだから。

 

 「そう、それが貴方の選択なのね?」

 「ああ!」

 「━━これも何かの運命なのかしらね。パーシヴァル貴方には話しておくべき事があるわ」

 「……?」

 「貴方の父親の事よ」

 「え!?」

 

 初めて聞く己の父の事。

 パーシヴァルは一度も見た事ない父を疑問に思いながらも、ままならぬ事情があると一人で納得し母に聞かないでいた。

 そして今日、母親から自らの父『ぺリノア』の事を聞かされた。

 

 「━━だから、私は貴方を騎士にしないように決めたのよ」

 「……そう、だったのか……」

 

 母の決意、パーシヴァルを思っての決断を聞かされ驚く。

 それ程迄の覚悟を、自分は無視して進むのだと再度認識させられる。

 

 「それでも俺は!」

 「分かってるわ。ええ分かってる。貴方がどれだけ旅に出たいか」

 

 アンナは目を伏せ、一拍置いて目を見開く。

 

 「━━━━行ってきなさい。貴方の満足する迄」

 「ほ、本当に!?」

 「但し! 無事に帰ってきなさい。それだけが条件よ」

 「勿論! 俺は、絶対に帰ってくる!」

 

 自分が許可を出した途端に、嬉々として支度を始めるパーシヴァルを見て、嬉しい事があると目に見えて喜ぶ所は変わっていないと、嬉しく感じるアンナ。

 パーシヴァルは、その胸中にこれからの旅路への期待を膨らませ、絶対に生きて帰るという覚悟を決めた。

 

 

 

 

 




今回の話は原典でのお話にある、パーシヴァルの母が、騎士になりたいと言うパーシヴァルを母が観念して送り出すと言う話、それをベースに少しこの作品風に変えたお話でした。

どうでした?
ちゃんとアンナの心情とか伝わってるといいんですけど……

と言うか徐々に原典と掛け離れてくなぁ。
まぁ態とですけど……。


駆け足駆け足。

次からは日記形式にて飛ばしていくつもりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。