夜調べ   作:ジト民逆脚屋

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なんと、メモ帳を漁っていたら、続きがあったよ。
なので、なんとか復元したものを投稿します。

ビータ欲しい。夜廻、もう一回やり直したいよ。
小説の夜廻も欲しい。


夜始

「あぁもう、早く帰らないと」

 

溜まっていた有給を消化していた筈なのに、以前に依頼された調査資料に不備が見付かり、急ぎ確認をする必要が出来てしまった。

幸い、調査内容を覆す様な不備ではなかったが、その時の依頼人に出会し今の今まで話し込んでいた。

と言うよりは、一方的に話されていた。あのオバサン、話長いし同じ話繰り返すし、次に来たら対応替わってもらおう。

 

もうすぐ、夜が来る。夜は〝ナニカ〟の時間だ。

奴らは、夜に出歩く生きた人間を見ると見境無く襲ってくる。

希に例外も居る様だが。

 

「まったく、明日は忙しいな」

 

今日だって本来なら、あの二人と一匹と一緒に過ごす筈だったのだ。

子供との約束を破るのは心苦しかったが、仕事では仕方ない。姉の説得で納得してくれたのはよかったが、明日は埋め合わせをしなければ。

しかし、今朝届いたあの手紙は一体、何だったのだ?

 

〝夜の怖さを覚えていますか〟

 

とだけ、子供が書いたにしてはちゃんとした、大人が書いたにしては幼い字で書かれていたが、夜の怖さなら今現在体験中だ。覚えていますかもなにも、体験中なら忘れる事も出来ない。

嗚呼、漸く家に着いた。

 

「せんせい」

「え? 何でここに」

 

この子が居るんだ。

確かに、私の自宅と二人の家は近い。この子の足でも五分も掛からず余裕で着く。と言うか、普通に見える位置にある。三軒隣だ。

そのせいもあってか、この子は休みの度にポロを連れて私の自宅にやって来る事がある。

この少女が私を〝せんせい〟と呼ぶのも、それに理由がある。

私は割りと読書が好きで、気になったものはジャンルを問わず何でも読む乱読家だ。

それで、児童文学や僅かだが絵本も自宅にはある。

自宅にある大量の本ともう一つ、少女が私を〝せんせい〟と呼ぶ理由がある。

 

「一体、何でこんな時間に? お姉ちゃんは?」

「おねえちゃん、ポロをさがしにいっていなくなっちゃった」

 

この子の姉に時々、勉強を教えているからだ。

学生時代の私は、まあまあ勉強が出来る方ではあったので、彼女に時々ではあるが勉強を教えていたのだ。

それで、この子は私を〝せんせい〟と呼ぶ。

 

「えっと、待って。あぁもう、兎に角中に入ろう」

「うん」

 

俯いて、何時もの快活さは微塵も見られない。

一体全体、何があったのか?

あの子がポロを探しに行って居なくなったと、この子は言ったが、この時間帯は〝ナニカ〟が蠢き出す時間だ。

私より長くこの町に住んでいるあの子が、それを知らないとは思えない。

 

それに

 

「ジュース、飲む?」

「ううん」

「そっか」

 

この子が持っていた赤いリード、ポロを繋いでいた赤い首輪の一部。そのどちらも、僅かに紅く濡れている。

これは、そういう事なのだろう。

あの子は、妹の自分の心を守る為に吐いた小さな嘘を本当にする為に、この夜にポロを探しに行ったのだ。

妹思いのあの子らしい。

 

だが、探しに行ったとこの子は言った。

そして、その上で居なくなったとも言った。

それが何を意味するのか、理解出来てしまう自分が恨めしい。

 

「おねえちゃんおいかけたら、あきちにいたの」

「空き地に?」

「それで、おねえちゃんよんだら、くさむらにかくれてなさいって」

「そして、草むらから出たら、お姉ちゃんが居なくなっていたか」

 

頷く少女に、私は何もしてやれない。

探偵事務所で働いているとはいえ、私はただの調査員に過ぎず、探偵が目覚ましい活躍をするのは創作の中だけだ。

現実は、地味で目立たない仕事ばかりで、一緒なのは人の嫌な部分を見る事があるという事だけ。探偵に憧れて、この業界に入ったとは言え虚しいものだ。

だから、私が今出来る事は一つだけ、警察に連絡して、この子の側に居る事だ。

 

「ん? これは・・・?!」

「せんせい、どうしたの?」

 

電話が繋がらない。

もう一度

 

 

プルルルル

プルルルル

プルルルル

 

お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。

お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。

お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。

ピーッという音の後に御用件をどうぞ。

ピーッという音の後に御用件をどうぞ。

ピーッという音の後に御用件をどうぞ。

 

 

どうなっている?

何故、警察の番号が使われていないなんて・・・

それに、かけ直しが出来ない。何処を押しても、通話待機中になったままだ。

何がどうなっているんだ。

 

 

お掛けになった電話番号はお掛けになった電話番号は

現在現在使われておりません使われておりません

お掛けになった電話番号はお掛けになった電話番号は

現在現在使われておりません使われておりません

ピーッという音のののあとととにににににに

ようようよう御用件をどうぞぞぞぞぞぞぞぞぞ

 

お掛けににににににににににににににハハハハハハハははははハハハハハハハハハははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハははははハハハハハハハははははハハハハハハハハははははハハハハハハハハひひひハハハハハははははハハハハハハハハハハはははは!

 

 

 

 

私は思わず、携帯を放り捨てた。

電話口から聞こえてきたのは、警察官の声ではなくノイズ混じりの子供のけたたましい笑い声だった。

放り捨てた携帯は、先にあったソファーに置いてあったクッションに落ちると、待受画面へと戻っていた。

あれは、一体・・・?

 

「せんせい?」

「ん、ああ、携帯が壊れちゃったみたいだ」

 

この子をあまり不安にさせる訳にはいかない。家族が二人も居なくなって、崖っぷちなのに携帯電話からよく解らない声が聞こえたなんて、聞かせちゃいけない。

 

「せんせい、とけいへんだよ」

「時計?」

 

この子が指差す先にある置時計を見ると、時針が止まっていた。電池が切れたのかと思ったが、違うと直感が告げてくる。

恐る恐る、放り捨てた携帯の画面を見る。

 

・・・ああ、くそったれ。何が起きてるか知らないが、これは無いだろう。

携帯電話の時間表示まで止まっている。しかも、出鱈目な時間でだ。

 

念の為、テレビを点けてみる。

 

「せんせい、テレビもへんだよ・・・」

「・・・一体、何が、どうなって・・・」

 

同じ番組の同じシーンの繰り返し、どのチャンネルでも同じ繰り返しが放送されている。

電源を切り少女にジュースを渡して、台所へ

 

「せんせい?」

「大丈夫、顔洗うだけだから」

 

あまり不安にさせたくないが、これは無理だ。私もおかしくなりそうだ。今まで生きて培ってきた常識が崩れる音が聞こえる。

蛇口を捻ると、水が出てきた。当たり前だが、あんなものを見聞きすれば、水ではないものが出てきても驚かない。

質感も温度もちゃんと水だ。蛇口を捻ったら、出るのは水だ。

 

「よし」

 

覚悟を決めよう。警察は無理、外部への連絡も無理。恐らくだが、外に助けを求めに出ても、あの〝ナニカ〟共に襲われて死んでしまうだろう。

それに

 

「せんせい?」

 

こんな小さな子を、この訳の解らない空間に置いておく訳にはいかない。

一人ではなく二人で行動、助けを求めに出ても無理なら、

 

「よし、お姉ちゃんとポロを探しに行こう!」

「え?」

 

こっちから探しに行ってやる。

私は探偵に憧れて、探偵事務所に入った現役調査員、探し物は専門分野の一つだ。

 

「せんせい、いっしょにきてくれるの?」

「任せなさい。今だけ私は探偵さ」

 

でも、その前に

 

「お腹空いたでしょ? 何か食べよう」

「でも、はやくおねえちゃんとポロさがさないと・・・」

「大丈夫さ。食べながら準備しよう」

 

愛用のランタンとこの子の懐中電灯の電池を新品に入れ換えながら、買い置きの菓子パンを口に放り込む。

すると、少女も私の真似をして小さな口でメロンパンにかじりついた。

ショルダーバッグの中身を確認、

 

メモ帳

ペン

キーケース

十徳ナイフ

煙草

ライター

絆創膏

 

これに、予備の電池と買い置きの水と携帯食料、この子のウサギリュックにも同じ様に、予備の電池と水と食べ物を入れて、動きやすい格好に着替える。

 

「行こう」

「うん」

 

靴を履いて、二人一緒にドアを開ける。

暗い夜道が少ない街灯に照らされている。

息を一息、ショルダーバッグを帯を掴み、ランタンのスイッチを入れる。

弱い街灯とは違う、強い灯りが夜を照らす。

少女も同じ様に懐中電灯で照らしている。

 

夜が私達を見詰めてくる。

さあ、行こう。

私達の大切な人達は、この夜の先に居る。




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