クリス先輩がこんなに可愛いわけがない! 作:TearDrop
ーーー私立リディアン音楽院。
そこは簡単に言えば、音楽を学ぶ為に設立された女子校である。その名の通り、女子しかいない。
男からしたらリディアンは秘密の花園。そんな秘密の花園に、一人の少年が通う事になってしまった。
少年の名は佐倉律。
そこら辺に居る平凡で普通の男子高校生。何故、律がリディアンに通う事になってしまったのか。それには深い訳があった。
律が通う高校はここ最近で経営難に陥ってしまい、このままでは高校は潰れてしまうと懸念したリディアンが統合を持ち掛けたのだ。
三ヶ月の試験期間ではあるが、お互いの学校から生徒を一人ずつ交換し、上手く行けば統合。上手く行かなかったら律の高校は潰れる。
そして、何故律が選ばれたのか。理由はとてもシンプルなものだった。
ーーーーたまたま校長室を通りがかったのが律だったからだ。
そんな理由で交換留学生に選ばれてしまった律は、今日から三ヶ月間、リディアンに通う事になった。
初っ端からとてつもない不安に押しつぶされそうな律は、何とかリディアンの門を潜り、職員室へと向かうのだった。
◇◇◇◇◇
「佐倉律君ね。話は聞いてるわ、これから三ヶ月よろしく頼むわね」
「は、はい。よろしくお願いします」
簡単な挨拶を済ませ、女性教諭に連れられて律はこれから三ヶ月間お世話になるクラスへと赴く。
きっと虐められて仲間外れにされ、財布ごとカツアゲされるだろう。そんな嫌な事ばかり考えていると、廊下で待っててと女性教諭から言われ、女性教諭は教室へと入って行った。それから大人しく待つ事三分ほど。
律は落ち着く為、深呼吸する。
しかし中々落ち着かない。こんな時は掌に人と書いて飲み込めばリラックス出来ると誰かが言っているのを思い出し、試してみるもこれもダメ。
さてどうしようかと考えていた時、ふと自分を見送ってくれた母親の言葉を思い出した。
『ほらアンタ!何時迄もクヨクヨしてないでシャキッとしな!シャキッとっ!そんなんだから碌に彼女も出来やしないんだよ!』
(母さん……いや、誰だ今の。僕の母さんは田舎の母ちゃんみたいな人じゃない……!)
「佐倉君、入って来ていいわよ〜」
女性教諭の合図を聞き、教室へと足を踏み入れる。
入った瞬間、自分に突き刺さる視線。
珍しい動物を見ているかのような視線。様々な視線が律に突き刺さる中で教壇の横に立つと、女性教諭は黒板に律の名前を書き始める。
「今日から三ヶ月の間、このクラスでみんなと共に学ぶ事になった佐倉律君です。それでは佐倉君、自己紹介をお願いします」
「は、はい……佐倉律です。これから三ヶ月という短い時間ですが……皆さんと仲良くなれたらいいなと思ってます。これからよろしくお願いします」
深々と頭を下げる律。まばらだが、教室に拍手が響き、律は一安心する。
「それでは佐倉君は、暁さんの隣の席に座ってちょうだい」
「えっ、あっ、は、はい……」
律は視線が集まる中、女性教諭に指示された席に座ると左隣の席の金髪の少女に声を掛けられた。
「私は暁切歌。よろしくデース」
「う、うん、よろしくね……」
「ところで、リディアンに何しに来たデスか?」
「えっ……?」
「切ちゃん、話をちゃんと聞こう」
律の右横の席に座る黒髪の少女ーーー月読調が切歌に声を掛ける。切歌を〝切ちゃん〟と呼ぶという事は仲が良いのだろう。
「あれ、何でしたっけ?」
「今日から三ヶ月の間、リディアンと彼の学校が統合する為のテストケースとして彼は来たんだよ。話をちゃんと聞いておかないと、また先生に怒られるよ」
「ご、ごめんなさいデース……」
律を挟んで会話する二人。
切実に席を代わってほしいと願う律。しかしそんな願いが届く筈も無く、授業が開始した。
授業は何処の高校でも行なっているものばかり。しかし音楽院だからか、時間割は音楽の授業が意外と多かった。
それから休み時間になると、女子生徒が律に話を聞きに来たりなど、律が通っていた高校ではありえない事ばかりだった。
事あるごとに休み時間に話を聞きに来る生徒が多くなり、次第に他のクラスに行き渡り、他の生徒が見に来る始末。
(なんだろう……動物園の動物達もこんな感じなのかな……少しだけ動物の気持ちが分かったような分からないような……)
そんなどうでもいい考えをしていると、次の授業の予鈴が鳴り響き、他の生徒も急いで自分のクラスに戻っていった。一気に解放された律は、机に項垂れる事も出来ないまま次の授業が始まるのだった。
それから時は過ぎ、昼休み。
一人寂しく母親お手製の弁当を食べる律。誰か誘ってくれるかなと期待しつつも、誰一人誘ってこない。
暁切歌と月読調に声を掛けようと思ったが姿が無かった為、中庭で食べる事にしたのだった。
(母さん、のっけから悪いスタートを切っちゃったよ……。友達百人どころか、友達0人で三ヶ月過ごす事になりそうです)
律が卵焼きを口にしようとした時だった。中庭に続く廊下の方から声がした。振り向くとそこに居たのは暁切歌と月読調。
そして、薄い紫色の髪の少女が2人と共に中庭にやって来た。恐らく先輩だろう。しかし、今の律にそんな事関係なかった。
律は手に持っていた箸を落としてしまった。
何故ならば視線の先の少女ーーー雪音クリスに見惚れていたからだ。制服越しからでも分かる非常にナイスバディな身体つき。特に豊かに実った二つの果実。
恐らく、友人にリディアンは可愛い子が沢山いると言えば発狂するだろう。実際、リディアンに行く事になったと言った時も発狂していた程だ。
しかし、友人の事は今はどうでもいい。律がクリスに見惚れている事に気付いていない切歌と調。
「律、どうかしたデスか?」
「お箸、落としたよ?」
「…………えっ、あっ、ありがとう……!」
「なぁ、コイツがお前らのクラスに来た交換留学生か?」
「そうなんです。三ヶ月の間、リディアンに在籍する事になったみたいで」
「ふぅ〜ん……雪音クリスだ、よろしくな」
「あっ、は、はい!佐倉律です、よろしくお願いします」
握手を交わす二人。
律は心の中で、家でのんびりと過ごしている母親に向かって叫んだ。
(母さん……僕は今、モーレツに感動している!これから幸せな一日を過ごせる気がするよ!!)
幸せな気持ちになりながら、これから三ヶ月は幸せな日々を過ごせる気がした律であった。