東方鵺行記   作:タリオン

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 うわぁぁぁあああ! すいませんでしたぁああああ! タリオンでございます!
 前回の投稿から約二ヶ月半、よくもまぁ顔を出せたものだと思われる方もいるでしょうが、実はこれには深い訳が……ありません! えぇ、ずっとのんべんだらりと過ごしておりました。
 絶対エタっただろこいつ、とか思って愛想つかされても仕方ないでしょう。が、とりあえずテストも終了したのでこの話は投稿しておきたいと思います。
 本当、穴があったら入りたいです。あぁ恥ずかしい恥ずかしい……。
 では、前置きはこれくらいにして、第二十三話、どうぞ。


第二十三話

 

 

 

 

 

 命蓮寺の朝は早い。

 

 

 寺の一日は座禅から始まる。

 四時に起床、三十分で朝の準備を済ませて本堂にて座禅を組むのだが……。

 

 

(なんで俺と他三人しかいねぇんだよ!)

 

 

 いや、俺も最初から真面目にする妖怪とかほぼいないだろうな、とか思ってたよ? でもさ、こんな少ないとか普通思わないでしょ?

 そんで、初心者の俺が、熟練者であろう寅丸さんと雲居さんの二人に挟まれて座禅組んでるのも何かおかしいと思う。

 結跏趺坐とか初めてやったわ! つうかそんな名前あるとか知らなかったわ!二十分くらいやり続けてるから痛いし、そろそろ限界ですしおすし! 

 あ、やべ、また眠くなって……。フラフラと揺れ始めた俺の体の後ろに誰かが立ったのが分かったが、姿勢を直そうとしたときにはもう遅かった。

 

 

「どうしました? 集中力が足りませんよ?」

 

 

 バシィッ! とむしろ清々しいほどに気持ちのいい音が本堂に鳴り響く。思わず、ぐぅ、と小さなうめき声が漏れてしまった。

 

 

(いでぇ……くそ、今日だけで何回目だ? 警策入ったの……)

 

 

 警策、とは長い木の板で「喝!」とか言われながら、肩を叩かれるイメージがあるであろうアレのことだ。本当は軽く肩を叩いて姿勢が崩れてたりするのを気がつかせるくらいのもんだって聞いてたんだけど、聖さんの頭の中からは、俺が初心者だという事実が欠落しているようだ。誰かなんとかしてくれ。

 

 

 というか、寅丸さん。あなた祀られる側なのに修行し続けるってどうなの? いや、熱心なのはいいことだけどさ、普通そういう立場じゃないんじゃね? うーん、初心忘るべからずってところか。

 

 

 まぁいいや、それから雲居さん……は元々修行僧だしいいか。

 

 

 それより、さっきも思ってたんだけど、人数が少なすぎだと思う。その辺りに誰も突っ込まないってのもおかしいと思うんだ。形だけでも整えようぜ。さもないと寺でさえ無くなってしまうんじゃあないか? 酒好きで修行もしないってあんた、それ唯の妖怪じゃねーか! って、全員妖怪だったか。これは失礼。

 とにかく、もっと強制するべきでしょ、などと命蓮寺の在り方についてぐぬぬと考え「剣二さん?」……何か幻聴g「肩の力が入り過ぎです。今一度雑念を振り払ってください」いやちょっと待って連発はさすがに不味いですッッッッ!!

 

 

 その時、言葉に表せないような叫び声が寺の中に木霊した……ような気がしたけど、早朝だったので気を遣って息が漏れる程度に収めた俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、いでぇ……これ絶対青アザできただろ……」

 

 

 こんなことを呟きながらも、まだほとんど人が見えない部屋に、既に用意されていた席へと腰を降ろした。

 さて、朝の修行が終わってから数時間が経ち、今現在時刻は朝少し遅めの午前8時。これから何があるかは想像に難くないだろう。

 そう、皆さん待望の朝飯である。

 それに伴い、のそのそと起きてくる妖怪達。凄く眠たそうだ。一体昨日何やってたんだ……? 因みに俺は色々あって疲れたので、昨日は直ぐに寝た。だから寺の人達が何をやっていたのか知る由もない。

 しばらく待っていると全員揃ったようで、いただきます、という声とともに、全員が朝飯をもそもそと食べ始めた。

 周りにいる人たちは、ボソボソと何か喋りながら食べてるように見えるが、自分の周りには知っている奴が一人もいないので、何か俺だけものすごくアウェーだ。すごく気まずいんだけど。どうする? どうすんのよ!? 俺!!

 

 

 結局、一言も喋ることなく朝飯は綺麗にいただきました。ゴチになります。

 

 

 

 

 

 時刻は午前九時半。食事の後片付けが終わり寺の中の掃除が始まった。

 何処ぞの寺でみたような服を着ながら廊下を雑巾掛けする者たちや、境内を竹箒で掃き掃除する者たち、水場の掃除をする者たちなど、その役割は千差万別だ。皆かなり真面目にやっているようで、結構驚いた。その他、落ち葉を掃いて掃除してから、その落ち葉を燃やしてその中に芋を……って、ちょっと待てーいぃ!!

 

 

「おーい! そこ、何やってんだー! 俺も混ぜろー!!」

 

 

「うわぁ!! ……ってなんだ剣二か、驚いて損したよ」

 

 

 焚き火と焼き芋、という現代ではそうそう御目にかかれない行為をしていた人物は、皆さんのお察し通り、ぬえであった。

 

 

「割とひどいなその言い草。つーかお前は掃除しなくていいのか?」

 

 

 こんがりと焼きあがった芋を木の枝で作った串から外し、慣れた手つきで皮を取りながらその黄金色の身を頬張った。とっても熱そうに。すっげぇ美味そうだ。

 

 

「ハッフハフッ……ふー、いや、いつものことだし問題無い問題無い。あんたも食べる? もう一個あるけど」

 

 

「おぉ、じゃ遠慮なくいただこう……っと思ったけどやっぱやめとくわ。じゃ、俺はもう行くから。悪いことは言わん、とりあえず掃除しとけっていう忠告をしてみておこう」

 

 

 その言葉と同時に俺はぬえに背を向け全力疾走した。ぬえよ、達者でな。

 

「だから大丈夫だって……?」

 

 

 不思議そうな顔をするぬえが後ろを振り向いてから、その顔色が変わるまでにさほど時間はかからなかったようだ。

 それに対して、全力疾走中に一言。

 

 

「俺の予報によると雷に注意だ。拳骨も降ってくるかもね」

 

 

 ま、自業自得だな。こってり絞られてこいよ。

 

 

「ぬえ? あなたここで何やっているのですか?」

 

 

 全力疾走からジョギング程度の走りに移行したところで、遥か後方から悲鳴が聞こえてきた。南無。

 

 

 

 

 

 

 

 十時半頃になった辺りで、皆は掃除から農業へと仕事を変えた。

 成程、流石にお布施だけじゃ生活なんてしていけないから、買う物以外はこうやって自給自足で補ってるのか。納得だ。

 とはいったものの、時期が時期だからほとんど育てていたものは収穫を終えてしまったらしい。その代わりに冬野菜が植えられているから、今日やることはそれの世話ぐらいだろう。

 遠くから畑を傍観していると、見知らぬ妖怪一人に声をかけられた。

 

 

「よぉ兄ちゃん、あんた何やってるんだい? 傍目からにゃあ何かやりたくてウズウズしてるようにしか見えないが、どうだ?」

 

 

 声がかかってきた方向にある顔を見てみると、一つ目で、しかもやたら強面な妖怪がいた。なのに、喋り方が見た目によらず気さくだったもんだから、少々面食らってしまった。

 

 

「あ、あぁ、どうしようもなく暇だったもので、ちょっとボーっとしてただけです」

 

 

 別にやることも無かったので本当に農作業を見ていただけである。何も意味なんて無い。

 すると、俺に質問をしてきた妖怪は、今の俺にとっての致命的な部分を抉る爆弾発言をした。

 

 

「あー、外の世界ではそういうの何ていうんだっけか? 確かにーと、とか……」

 

 

 NEET(ニート:not in education employment or training )

 

 ニート、とは教育、労働、職業訓練のいずれにも参加していない状態を指した造語である。

 

 ~Wikipediaより引用~

 

 

 

「はうぅ!? やっべぇ、こうしちゃいられねぇぞ! 何かやることを見つけないと!」

 

 

 このままではいたたまれない気持ちになりそうなので、何か自分にもできることをを見つけにいくことにした。まずは調理場からだな! うおおおぉぉ!!

 

 

「……行っちまった。いきなり叫んで走っていったが、一体何だったんだ? 変な奴もいたもんだな。フゥー、さぁて、一休みしたところで仕事の続きでもやるとすっかな」

 

 

 

 

 

 

 

「という訳なので、俺にも仕事をください! ニートは嫌なのでござる! 働きたいでござる!」

 

 

 と、聖さんに物凄い剣幕でまくし立てた。

 見て分かるとは思うが、只今聖さんに仕事を得るための交渉中である。というのも、行く先々で俺からの申し出がことごとく断られてしまったからだ。

 ちょっと皆、俺に対して遠慮し過ぎだと思う。でも、俺って一応客人扱いだから、向こうの立場になって考えてみると仕事をさせたくないっていう気持ちも分からなくは無いんだけどね……。

 

 

 少々強く言い過ぎたのか、聖さんは困ったような顔をしながらも俺の質問にはしっかと答えてくれた。

 

 

「は、はぁ……仕事ですか。無いことも無いですが……あれは出来ますか?」

 

 

 聖さんが手のひらを向けた先に見えたのは、十数本の木材を一気に運んでいく雲山の姿だった。何に使うのかは知らないが、並大抵の重さではなさそうなことは確かだった。

 だから、

 

 

「無理です」

 

 

 即答した。

 ただでさえ非力な俺にあんなのできるわけ無いだろ! 自分で言ってて悲しくなってきたが、事実なのだからどうしようもない。でなければ白玉楼で貰った武器はもっと普通の刀になっていただろう。今の刀も便利だから、それはそれでいいのだが。

 

 

「そうですか……ではもう仕事はありませんねぇ。では、瞑想なんてどうですか? やるのであれば御一緒でも構いませんが」

 

 

「もう座禅は勘弁してください……あの後しばらく足が動かなかったんですよ」

 

 

「別に半跏趺坐でも構いませんよ? 初心者ならそうであると言ってくだされば良かったのに」

 

 

「いやどうみても初心者でしょ! そこは察してくださいよ! というか何で仕事はしなくていいのに座禅は組まなきゃいけないんですか!?」

 

 

 しかし聖さんは俺の声が聞こえていないのか、しゃべり続けた。あれだな、自分に都合のいい話以外は耳に入ってこないんだな。うん。

 

 

「騙されたと思ってやり続けてくださいね、きっとあなたの役に立つはずですから。それに、どうせ今から自由時間に入るので仕事はもうありませんよ? それでも、どうしてもやりたいのであれば、明日から掃除に混じるぐらいであれば好きなようにしていただいて構いませんが、他の妖怪の邪魔はしないであげてくださいね?」

 

 

 おぉ、やっと俺の仕事ライフに光が!

 

 

「合点承知! 明日から本気出します!」

 

 

 あれ、自分で言っててなんだけど、これダメなやつじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正午。今から待望の自由時間である。

 とはいっても、妖怪達は何故か元気がないようで、毛布に包まって眠る姿が多々見られている。俺もやることないし、俺も昼寝してしまおうかなー。ちょうどお日様もいい感じに照ってきたことだし……。

 と一人で考えていると、一陣の風がヒュウと吹き抜けた。

 

 

「さっぶぅ!! ……うぅ、流石に十一月に外で昼寝は馬鹿だったか。というかそもそもこの着物が薄すぎるんだよな。貰い物だから贅沢言えないけど、下に着るものぐらいは欲しいよねぇ……」

 

 

 冬の寒さには慣れちゃいるけど、この薄着じゃ体が冷えて堪らん。着替えが二着しかないから早急に買いに行かねば、と密かに人里に行く予定をたてていると、この寒さにも関わらず寝落ちをしてしまう俺なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶへぇっくしょいぃ!! ズズ……あぁ、こりゃ風邪ひいちまったかもしんねぇな……」

 

 

 起きた時間は午後三時。驚くべきことに十二時半ぐらいから今の今までずっと寝ていたのである。

 しかもこのクソ寒い外で、である。自分でも驚いたわ。

 体も芯から冷え切って、ものすごい鳥肌も立っているので、とりあえず中に入ってあったまろうと思う。どっかに火鉢とかないかな、と暖房器具を捜索することにした。

 

 

 結論を言おう。灰一つ見つからなかった。

 どこの部屋を探しても妖怪が寝ているという何の面白みもない光景が広がっているだけだったのだ。皆寒くないのだろうか。うっすい毛布一枚で寝てたし。暖房くらいあってもいいと思うんだけどなー。

 さて、これはいよいよ不味くなってきたぞ……。体を温める手段がないと、マジで凍死しそうなくらい寒くなってるんだけど。

 仕方ない、少々古典的だが走るしかないか。ウォーミングアップと言わずに本格的に走れば少しは体も温まるだろう。まずは寺の周りを十周ぐらいから始めるか。おっしゃ、締まってこうぜ! ッフゥー!!

 

 

 

 

 うん、走ろうと思った俺が馬鹿だった。素直にちょっとした体操程度にとどめとけばよかった。何が悲しくて一時間もぶっ通しで息が切れるまで走らなきゃならんのだ。

 しかも、走った後に焚き火にでもあたろうかなと考えてたのに、終わってから火種がないことに気がついた。ぬえが普通に火を焚いていたのですっかり失念していたが、今の自分はライターすら持っていない。この寒さで頭もおかしくなってしまったか。ハァー……。

 まぁ、過ぎたことをグチグチ言っても仕方が無い。もう寺の中でおとなしくしておこうと、ゼェゼェ息を切らしながら、全力で走ったからなのかズキズキと痛む頭と筋肉痛寸前の足で、俺はゆっくりと歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一時間と少し、俺に割り当ててもらった部屋の中で一人寂しく詰将棋なんかをして時間を潰していると、部屋の外からドタドタと大勢の足音が耳に入ってきた。

 なんだなんだとふすまを開けて見てみると、本堂へと足を進める妖怪達の姿を見たので不思議に思い、最後の一人の後をつけてみると、聖さんと一緒に座禅を組んでいる妖怪達が所狭し……って程ではないけど、かなりの人数並んでいた。

 成る程、朝に俺と三人以外に妖怪の姿を見かけなかったのは、なんのことはない、活動的な時間帯が夜だったからなのか。そう言われれば今まで疑問だったところにも合点がいく。昼から眠り始めたこと、朝の座禅にほとんどの妖怪が参加してなかったこと、エトセトラエトセトラ。

 覗き見を続けていると、皆真剣にやっていることが伺える。こりゃ朝は悪いこと言っちまったなぁ。前言撤回しとくよ。済まなかった。……うん、ぬえがこの場にいないことには目をつむっておこう。本当に何処に身を潜ませてるんだ?

 ずっとここにいるのもアレだったので、もうしばらく座禅の風景を見てから、俺は自室に戻ることにした。

 

 

 

 その後、座禅が終わってから唐突に姿を現したぬえが夕飯ができたと告げに来たので、そのあとについて行って、メンバーが集まり次第、全員で飯をペロリと平らげた。ちなみに、今回も精進料理でありました。精進料理も別に悪くはない、というかむしろかなり美味い方なんだけど、如何せん量が少ないので育ち盛りの俺としては少し物足りないというのが、命蓮寺の飯に対しての感想だ。でも戒律とかもあるだろうし、そこは割り切ってるからいいけどね。

 夕飯を食べ終わって、洗い物をしようとして誰かに止められるという、もはや恒例となってしまった行事を済ませ、もうやることも無くなったから歯磨きして寝るかなーとか考えていると、キャプテンに声をかけられた。

 

 

「そういえば、お風呂あるけど貴方は入るの?」

 

 

「え? お風呂あんの?」

 

 

 俺としては当然の疑問である。てっきり水でも浴びてるのかと。

 キャプテンは俺の考えを察したのか、大きな声で答えてくれた。

 

 

「あるに決まってるでしょ! 水は無駄遣いできないけどね」

 

 

 寺に風呂が装備されてるとか初耳なんだが。もう住居みたいになってるじゃねぇか。料理できるし布団あるし、畑あるし。

 

 

「もし入れるのであればいただこうかな。最近バタバタしてて入れないときもあったし」

 

 

 とはいっても昨日は入ったんだけどね。確か、一昨日は橙が酔い潰れるまで眠れなかったし、その前は忙しくって入れなかった覚えがある。

 ま、最近はその程度の頻度でしか入れていないということだ。冬場だからまだいいが、夏だったらやばかったかもしれないな。

 

 

「じゃあ沸かしとくから、呼びにくるまで待っててー。すぐできると思うから」

 

 

「あぁ、ありがとう、よろしく頼むよ」

 

 

 水場担当がムラサなことに若干の不安を覚えないでもないが、冷えた体を温めるにはうってつけなので、素直に向こうの好意に甘えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 支度が終わった、とムラサが言ったので、早速風呂場に行ってみたのだが……。

 

 

「ご、五右衛門風呂とか初めて見たぜ……」

 

 

 モノホンの五右衛門風呂だった。水は無駄遣いできないと言っていたせいか、確かに水の量は少ない。座ってへそが隠れる程度の深さだ。

 いやー、なんというか、某映画のとなりのなんとかで出てくる感じの風呂を想定していただけに、鉄の鍋みたいな感じのそれには、一瞬来た時代を間違ったかと思ってしまった。

 鉄製の風呂からは濛々と湯気がでていて、温度は申し分なさそうなので、とりあえず入ってみる。

 

 

「ちょっ、あっづ……ふはぁー、これはいい気持ちだわー」

 

 

 入るときに風呂の淵をがっちり掴んでしまった時はかなり熱かったものの、入ってしまえばどうということはなかった。もたれられないけど。

 体の芯から温まっていくのが分かる。今日ずっと体が冷え切っていた俺にとってはかなり嬉しい。この後湯冷めしないか心配なのを除けば、正に極楽だ。たまにはこういう風呂もいいものだね。

 ……しかし、女性陣はどこで風呂に入っているんだ? まさかこの五右衛門風呂に全員が順番に入るということは無いだろうし、どこか別の場所を使っているのだろうか。

と考えていると、非常に小さなものだったが、どこからともなく女性……これは星さんの声か? が聞こえてきた。

 内容からすると……ビンゴォ! やはりこことは別の場所だったか! ということは、男性陣はいつもその浴場を使っているということに……ぬぅう、うらやまけしから……ゲフンゲフン、べ、別に羨ましくなんかないぞ! 俺は紳士だからな!!

 その後、色々と考え事をしては悶々としていたのだが、男の妖怪達は五右衛門風呂をたまに使うくらいであまり風呂に入らないという事実を、その時の俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がると、長風呂し過ぎて火照ってしまった体を、心地よい冷気が包んだ。かなり薄着だから、湯冷めしないうちにさっさと寝てしまおうか。

 着替えているうちに一瞬で冷えてしまった足で外の廊下を急ぎ気味で歩いていると、やけに外が明るいことに気がついた。

 

 

「あぁ、そうか、今日は満月だったのか」

 

 

 道理で外が明るいわけだ。しかしこれは……。

 廊下から外に足を出して、廊下に腰を下ろして上を見上げた。大きく、丸く、何より綺麗な月だ。澄み切った空気の影響なのか、月の模様までよく見える。

 そういや、月には綿月姉妹が住んでるんだっけか。できれば月にも行ってみてぇな。もし行ければ民間人初の快挙になるんじゃね? ロマンが……こらそこ、絶対不可能とか夢のないこと言わない。

 しばらく眺めて、そろそろ部屋に戻ろうかと思った時に、後ろから声がかかった。

 

 

「ほーう、月見酒か。ふむ、雪が降っていればもっと良かったんじゃがのぅ。ま、ええじゃろ、ちと隣いいかの?」

 

 

「あぁ、別に構いませんよ、マ……失礼、貴方は?」

 

 

 あっぶねぇぇぇぇぇえええ!! 紹介されてないのに名前言いかけちまったよ!! き、気づかれたか!?

 

 

「儂は佐渡から来た二ツ岩マミゾウという者じゃ。君のことはぬえから聞いておる。今後宜しゅうな」

 

 

 ……っふぅー、危ない危ない。大丈夫だったようだな。次からは気をつけないと。

 

 

「そうですか、でも一応自己紹介をば。私は夜鳥剣ニという者です。最近幻想郷に来ました。半強制的に、ですがね。それはそうと佐渡から、ということは東北の方からですよね? どうやってここまで?」

 

 

「何、ぬえの奴に連れてこられただけじゃ。もう通ってきた道は忘れてしまったから戻れはせんが、しかしここは良い場所じゃのぅ。力が漲ってくるし、空気が綺麗だし、何より将来有望な妖怪狸が多い。外の腑抜けと違って育てがいがあるわ」

 

 

 腑抜けって……やっぱ狸とかにも現代っ子とかあるのか? まったく想像できないんだが。

 

 

「お前さんはどうなんじゃ? 此処には住まないのかい?」

 

 

 む…………。

 

 

「……確かに、ここの月は綺麗です。外の何処で見る月よりも綺麗でしょうね。でも、私はここの月よりは美しさが劣っていても、賑やかな中で見る月の方が好き……それだけのことです」

 

 

「……ふむ、ま、それもよかろうて。帰る場所があるというのはいいことじゃ」

 

 

 そう言って、マミゾウさんは徳利と御猪口を取り出し、酒を注いだ。……寺なのに。

 

 

「どうじゃ、お前さんも一杯やるか?」

 

 

「そ、そうですねー、どうしましょうか」

 

 

 多分言ってなかったと思うが、実は白玉楼で初めて酒を飲んだとき、しばらくしてからリバースしてしまったのだ。胃の中身が少なかったからまだマシだったものの、もう酒は飲まないでおこうとあの時誓ってしまっている。下手に飲んでリバースしてしまうことは避けたいのだが……。

 どうしたものか。

 

 

「かか、そんなことでは幻想郷でやっていけんぞ? 例え下戸でも少しは飲んでおくのがスジってもんじゃろう」

 

 

 マミゾウさんは歯を見せて笑いながらそう言ったのだが、実際そうなんだよな。幻想郷じゃ宴会があいさつみたいなもんだしなぁ。万が一鬼とかに会ってしまったら、強制的に飲まされかねないし、やっぱりここは少しでも慣れておくべきなのかな、未成年だけど。

 

 

「ほれ、少しだけじゃ。外から来たもの同士、これから仲良くやっていこうじゃないか」

 

 

「結局飲まされるんですね……。分かりました、呑みましょうか」

 

 

 受け取った御猪口に口をつけようとしたとき、マミゾウさんに少し待ってくれ、と言われた。

 

 

「すまんが、お前さんに少し頼みごとがある。他でもない、ぬえのことじゃ。儂もそうじゃが、この寺では浮いてしまっていてのう、連中とは距離があるんじゃ。そのことについて気にかけてやってはくれんか? 今回のお前さんの件で少しは良くなったようじゃが、もっと深めておくことに越したことはない。本人はあまり気にしていないがのぅ、仲間は大切なもんだと儂は知っとる。だから、頼まれてはくれんか?」

 

 

「……分かりました。力になれるかどうかは分かりませんが、手伝わさせていただきます」

 

 

「そうか、それは重畳じゃ。では、乾杯といくか」

 

 

「ですね」

 

 

 小さく乾杯、と言って月を見ながらグイっと酒を煽った。辛口の日本酒だったようで、飲み干したときに喉がヒリヒリしたが、量が少なかったせいか、心地よく感じられた。

 体も温まってきたので、しばらく無言で星空を見上げていると、大部屋の方からワイワイガヤガヤと話し声が聞こえてきた。話の内容から察するに、妖怪達が酒盛りを始めたらしい。念のためもう一度言っておくが、ここ、寺だぜ?

 夜から……いや、妖怪からしたら朝からってとこか。そんなときから宴会って……。満月だから気が大きくなっていたりするのだろうか。

 しばらく耳を傾けていると、一際大きな唸り声……というより、何かの鳴き声か? と、それを囃し立てるような声が聞こえた。

 

 

 ―――また寅丸の奴が飲み過ぎで変化しやがったぞー!

 

 ―――惨事になる前に宝塔を奪えーッ! 後は誰か後ろに回って気絶させろ!

 

 ―――任された!!

 

 ―――いいぞもっとやれー!

 

 

 ……もう俺は何も突っ込まんぞ。色々おかしいが、俺は突っ込まない。絶対にだ。

 俺は持っていた御猪口を脇に置いて、すっかり冷えてしまった体を震わせながら立ち上がって言った。

 

 

「マミゾウさん、今日はもう疲れたので寝ますね」

 

 

「そうかい、儂はまだ飲み足りないから、まだここに残ろうか。それじゃぁ、また明日」

 

 

「はい、また明日」

 

 

 妖怪達のバカ騒ぎが聞こえる廊下を歩いて、自分に割り当ててもらった部屋へと向かった。話の内容からすると、どうやら星さんは無事に取り押さえられたようだ。本当に何やってんだよあんたは……。

 

 

 自分の部屋に着いたので、備え付けの布団を敷いた。一応蝋燭もあったが、月明かりだけで十分よく見えるので、特に支障はなかった。

 俺は楽しそうな話し声を聞きながら、布団に潜って眠り始めた。今日あった出来事が、頭の中を駆け巡る。……あんまり何をしたという記憶がないな。鮮明に覚えているのは坐禅が辛かったことくらいだろうか。そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちていった。

 

 

 

 騒がしい妖怪達の夜は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 




 今更になりますが、心綺楼発売ですね。だけど自分のPCの糞スペでは到底遊べないというね……。新キャラも物語に組み込んでいきたいところですが、どうしましょうかねぇ。
 まぁとりあえず、自分の中では話は続く予定なので、今回の件でも私に愛想をつかさなかった方は読んでくだされば幸いであります。次は一ヶ月以内に投稿したいところですが……。
 それでは、また。

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