「勉強道具に……っと、よし」
3連休前夜、勇は自室にて翌日に控えている合宿の準備を進めていた。旅行用のボストンバックに全て詰め、工程の確認もし終えるとひと伸びをする。後は明日に備えて寝るだけとなった。
「い~さ~み~」
「……ん?」
が、外から勇を呼ぶ声が聞こえ、自室の窓を開ける。
「おいっす」
すると、銀が三ノ輪家2階の窓から顔を覗かせていた。勇の自室も紺野家の2階にあり、互いに向き合う形となっている。
「……こうして話すのも久しぶりだね」
「うん」
6年前もこうしてお話してた事を思い出す。話す内容はその日あった出来事やら相談。その時の気分や体験した出来事によって変わる。夜が更けるまで話し込んで怒られたこともしばしばあったりもする。
「明日が楽しみで寝付けないよ」
「お役目あってこその合宿だから夜更かしは駄目だよ」
「勇は真面目だな~。須美みたいだ」
「かもね。だけど、楽しみなのは同意だよ。息抜きも大事、よく学び、よく遊ぶって言うし」
ふと室内の置時計を見ると、寝ないといけない時間となってしまったので、話を切り上げることした。
「……っと、そろそろ寝よっか。明日はこの時間にそっちに行くね」
「……早くない?」
「三ノ輪家の銀さんは、道中にお約束があるからね」
「……うっ」
銀のトラブル体質に対して釘をさすのを忘れない。昔から変わらず、トラブルが寄ってくるのを知っている。
「それじゃ銀、おやすみ」
「おぅ。勇、おやすみ~」
三ノ輪家側の窓が閉じられると、銀が床に入ったのか部屋の灯りが落ちた。勇も自室の窓を閉めると、スマホのアラーム機能が有効になっているのを確認、電気を消して眠りについた。
――――――――――
「スヤァZZZ……」
翌朝、合宿に向かうためのバスの中にて、須美は心地よく眠る園子に寄りかかられながら出発するのを待っていた。
「……遅い」
須美本人は集合時間よりかなり早く、園子も乃木家の使用人に引っ張られながらも集合時間前に到着していた。しかし、未だに来ていない2人に対し少し苛立ちを見せている。
「勇が遅れてくるなんて珍しいな」
「銀はともかく、勇君まで遅くなるなんて」
「その口ぶりだと勇より三ノ輪がいつもこうなのか?」
「そうなんですよ。前々から遅刻が多くって、本人も理由を語ってくれなくって」
守人側の引率者として祝織もこの合宿に同行するため同じバスに搭乗していた。祝織は苛立つ須美を宥め、まるで年上のお姉さんらしく振舞う。
「そうなのか?」
「むにゃ……」
園子が目覚めると同時に乗車口のドアが開かれる。荷物を抱えて勇と銀が駆け込んできた。
「ま、間に合った」
「や、悪い悪い。遅くなった?」
「お~ミノさん。いーさー……わっしーもおはよ~」
「もう、あれだけ張り切ってたのに集合時間に到着だなんて!」
間の抜けたのんびりした口調で挨拶をする園子。須美は規律に厳しく、集合時間ギリギリの到着に少し不満ではあったが、
「ちょっと、色々あって。とにかくゴメンよ」
「同じく……余裕もって到着できなかったよ」
「間に合ったから遅くなりかけたのは問わないけど、 2人とも5分前行動が大事よ!」
「そこまでにしといたらどうだ。そろそろ出発だぞ」
祝織が納め、勇と銀が集合時間には遅刻していたないという事で須美は深くは追及しないことにした。
(見通しが甘かったなぁ)
(勇がいなかったら須美、もっと激おこだったかも)
「それじゃ、またおやすみ~Zzz」
(銀や乃木さんがこの調子だし、勇君は……普段はしっかりとしているのにどういうことなのかしら。ともかく、私がしっかりとしないと)
勇の普段の授業態度は真面目で時間もギリギリになるものの遅れたことはないのに疑問をもつ。彼がギリギリで来るときは決まって銀と一緒に来るときだけだ。思案する須美であったがバスが動き出した事で中断されてしまう。変わりに自分がもっとしっかりしないといけないと心に決める。
――――――――――
バスに揺られ、一同は大赦管轄する旅館へと到着した。合宿中過ごすことになる部屋に案内された小学生組は驚きと興奮を隠せなかったが、安芸はそれを納めると4人は荷物を置き、着替えると今日の訓練場所である浜辺へと集まった。
「あなたたちに足りないのは連携よ。この強化合宿ではそころ補うための訓練を行っていきます」
ジャージ姿の安芸から訓練概要の説明を受ける。
訓練の最終的な目標として定められた廃バスに近接型で最も攻撃力のある銀を送り届けるというものだが、浜辺には球技に使うボール射出マシンがいくつも設置されておりこれらが敵の攻撃という想定である。
また、各自に制限と役割が定められており、須美は特定の地点からの狙撃のみで敵の攻撃の撃退、園子は部隊の盾として攻撃を防ぐのみである。
一方で勇の役目は、
「黄色のボールのみですか」
「えぇ、ボールと落とす手段は問わないけど。制限は多めよ」
特定のボールのみの撃退であった。制限は他の勇者よりも多めで
・ボウガンは1マガジンのみ。
・盾を手放すことは禁止。
・白色のボールを撃ち抜いたらやり直し。
自分だけ制限が厳しいのではと首を傾げるが、
「勇君の役目は勇者の補助と……不意な事態の対応よ」
「不意な事態ですか」
「すぐに分かることになります。あなたの働きで勇者たちが大きく左右されることになるのよ。それでは、始め!」
安芸先生の言葉に勇は気を引き締める。合図とともに3人は目標へ駆け出す。
「なんの! こんなボール、バーテックスの攻撃に比べたら…」
「あら、それじゃもっと増やそうかしら……ボールに当たったらやり直しですよ」
楽勝と考えていた銀であったが、安芸先生はいわゆる『悪い顔』でにたりとすると、ボールの雨あられが降り注いだ。
「わあああ! そんなのアリ!!」
「ミノさん、どいて~~!! どぉ~~~う!!」
「園子!! サンキュー!」
(いいタイミングだわ、乃木さん! 私も負けてられない!)
園子が刃を傘状に展開し盾として防御。須美も取りこぼしを正確な狙撃で落としていく。若干、前進は鈍ったものの順調に目標までの距離を詰めていく。
(……こんなものなのか?)
そんな中、勇は冷静に色の付いたボールを見極めていた。だが、先ほどから射出されているのは白いボールのみだ。
(安芸先生、なんか企んでいるようだったけど。まさかね……)
脳裏に浮かぶ安芸先生の言葉と先ほどからいない人物に気づいたが、そんな矢先、風を切り裂く耳鳴りの音と共にそれは飛んできた。
「うわっ!」
「……ふぇ!」
ドーン! という大きな音と衝撃と共に砂が舞い上がった。思わず足が止まってしまう銀と園子。
「(!?)銀、園子、止まっちゃだめだ!」
「へ、へぶっ!!!」
「あ゛! 三ノ輪さーん!」
須美も突如として起こった事態に矢を外してしまい、銀の顔面にボールがどストライクしてしまう。
「ご、ごめん銀!」
「あぅ……いつつ。いったい何が」
事態に対応できなかったと思った勇は銀に謝る。銀は顔をさすりながら、音と衝撃した方を振り向くと衝撃的な光景が広がっていた。
「なんだよこれ……」
「……砂浜に突如として目ん玉が……」
黄色のボールがまるで隕石が着弾したかのように浜辺に深々と突き刺さっていた。
「外したか……。威力も少しばかり高すぎたな」
「い、祝織さん!」
祝織がボールマシンの陰からボールを片手でいじっていた。銀が驚きを隠せない様子に勇はそっと肩を叩く。
「……やはり、祝織さんだったんですね」
「勇、気づいたようだが遅いぞ。戦場では僅かな遅れが命に係わる」
「最初からやり直しね」
びしっと指差しでダメ出しをする祝織。そして、勇は悟ってしまった様子で3人に告げることにした。
「みんな、この特訓只では終わらないかもしれない」
「えぇ!?」
「それよりも一体、どんなマシン使ったらあんな球撃てるんだよ」
「どんなマシンって…私のスパイクでだが何か?」
「ワッツ!?」
須美も銀も明らかに動揺した様子で思わず声をあげる。砂浜に大穴をあけたのは祝織本人がぶっちゃけた。
「祝織さんは、僕のお師匠さんなんだ……。多分、難易度がハードからルナティックくらいには上がるかも……」
「この訓練の目的は連携を補うのと、即断力を磨いてもらいます」
「そういうことだ。この3日間で半人前が殻を破れるくらいになれるよう。私も心を鬼にして鍛えよう。……勇、それに勇者たちよ。覚悟はできたか。私はできている」
イイ笑顔を4人に向ける大人2人。一同の顔が真っ青になる。
体育会系を通り越し、某バトル漫画のような特訓じゃない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった。……と、4人が断言できるような合宿はこうして始まったのである。
リメイク版にて準メインに抜擢された祝織さんのはっちゃけ回。某司令顔負けの武力を誇っていたりします()
次回は合宿温泉回予定。