第1話 帰郷-ききょう-
神樹様に選ばれた、と聞いた時は、どんなものか実感が湧いてこなかった。
だけど、敵がやってきて、大切な家族や友達が住む世界を壊そうとする。
それ聞いたら、戦わなくてはいけないと思った。
できるかわからなかったけど、あたしだけじゃなく後に『ともだち』になる仲間がいた。
きっとできると思っていた。
だけど、この時は■を■■にして戦わなくてはいけないなんて、
夢にも思ってなかったんだ。
――――――――――
「ありがとうございましたっ~!」
ここは大赦が所有する修練場の一つ。灰色の髪が特徴の少女が指導者と思わしき大人に礼をしその日の修練を終えると外へと出る。
「ん~終わったぁ~本日の訓練終わりっ!」
やっと終わったという感じで少女は一伸びすると家路へと歩みだす。あれから6年の時が流れ、三ノ輪銀は11歳…小学6年生となっている。髪は少し伸びた事でそれを後ろで束ね、前髪には花びらをあしらったヘアピンを付け『ボーイッシュな女の子』という雰囲気を醸し出している。
どうして銀がこんな所にいるかというと、大赦の一族『三ノ輪』家の息女として大赦から大事な『御役目』を授かったのだ。未だに御役目の時がきていないが、それに備え訓練することを義務付けられたのである。
(明日から合同訓練だったっけ?)
御役目に選ばれ訓練をしているのは銀だけでなく他に2人の少女がいる。同年代かつ同じクラスの子だが、1人は真面目でお堅い優等生タイプで、もう1人はなんというか独特な感性をもった天然タイプである。さらに担任の先生からはもう1人御役目に加わると聞いたが未だに会った事はないためどういう人物かは知らない。
(う~ん。もっと仲良くなりたいんだよなあ)
クラス内では会話することはあってもそれ以上に親しくなった事はないし、さらに訓練も個人メニューだけなので合わせた事もない。供に御役目に望む以上、銀としては彼女達と仲良くなりたいと考えていた。
「あ…」
家路の途中、銀は近くにある公園で歩みを止め、敷地内の一角にあるベンチが視線に送る。
「……もう6年か」
6年前、公園で出会った少年の事を思い出す。あの時、なぜかいた銀の両親は少年の親戚の人とは大赦で親交のある一族の人たちで少年が急にいなくなっていたのという連絡を受け探すのを協力していたらしい。
抱え込んでいた心情を銀に吐露した少年は自分を探しにきた親戚の人たちにその思いを告げれたそうだ。
その後、近所付き合いに近い形で銀と少年は日常を供にした。銀の底抜けたような明るさもプラスに働き、日が経つにつれ少年も落ち着きを取り戻し、両親がいなくなった事を徐々に受け入れていった。
ある日、少年の後見人として正式に引き取った親戚の一族の人たちが仕事の都合で越してしまう事になった。少年と銀が仲良くなっていた事もありの銀の両親は少年を引き取ってもいいと名乗り出ていたが、
【銀にも話したけど、僕はおじさんたちについていくよ。だって……おじさんも大事な妹である母さんを失ったし1人にはできないよ】
と決意していた。銀も別れることを寂しいと思っていた。
【さよならは言わないよ銀。『またね』】
【あぁ。『またね』、勇】
それを選んだ少年の意を汲んで、一時の別れの言葉を紡いだのである。
「あれからあいつはどうしたのかな。またメソメソしているような事はないよな…っと」
銀はその事に物思いを更けているとスマートフォンの着信音が鳴り端末を取り出す。画面を見ると銀の母親からの着信ようだ。
「もしもし、どったの?」
《あ、銀。御役目の訓練は終わったのかしら?》
「終わったよ。これから帰るとこ」
《そう。悪いんだけど、うどん出汁切らしちゃってね。帰りに買ってきてもらってくれないかしら。お礼にオヤツ一つだけならあとでお駄賃として渡すから》
「いいの? やった、やるやる!」
《ありがと。それじゃ任せるわね》
二つ返事で引き受けた銀は母親との通話を終えスマホをしまう。
「そうと決まれば、目指すは『イネス』~♪」
銀は公園を後にし、足先は大型ショッピングモール『イネス』の方へと向く。ウキウキとした気分で歩みを進めていった。
――――――――――
「よっと、ようやく終わったかな」
銀が公園で6年前の事を思い出していた頃。ところ変わって、大橋市内の住宅街。品の良い日本家屋の一室で少年は開けたダンボールを壁際に纏め、すべての荷ほどきを終えた。
銀が出会った少年『紺野勇』である。育ての親となった後見人について行き四国中をまわり、6年ぶりに生まれ故郷である大橋市へと戻ってきたのである。荷物を片付け終えた勇は自分の部屋を出て階段を降り居間へと向かう。
「おじさん、荷解き終わったよ」
「ご苦労様、勇」
壮年の男性『
「少し遅くなったが昼食にしたいところだけど、何もないようなものだからなあ」
「買い物にも行ってないからねえ……」
遅い昼食にしようとしたが、引っ越してきたばかりで買い物にも行っていないため食材がない。外にでも食べに行こうかと始が告げようとしたときインターフォンが鳴り応対のため家主である始が玄関先へと赴きドアを開けるとそこに1人の女性が立っていた。
「こんにちは。始さんお久しぶりですね」
「これはこれは、『三ノ輪』さん。落ち着いたら挨拶に伺おうと思っていたのですが」
「今日は仕事が早くに終わりましたし、今日こちらに越してくると聞いていたので。帰り際に寄ってしまいました。あぁ~、勇君もお久しぶりね。大きくなったわね~♪」
「こんにちは。……お久しぶりです。
勇はぺこりと頭を下げる。紺野家は三ノ輪家のお隣りへと引っ越してきたのだ。
「積もる話もあるけど、お二人はご昼食は? 私はまっすぐ戻ってきてしまったのでこれから作ろうかと。…その様子じゃ買い物もまだですよね?」
「はは、仰る通りです。勇、どうしようか?」
「僕は構いませんよ」
「勇もこう言ってますしお言葉に甘えましょうかな」
勇と始は錫のお誘いを甘んじて受けることにし、近所の三ノ輪家へと向かう。紺野家と同じような品のよい日本家屋という佇まいだ。
「うどんでいいかしら?」
「はい。お願いします」
「ん、いい返事♪ 勇君も香川から離れたし、本格的な讃岐うどんを味合わせようかしら。
楽しみにしてて…ってあら?」
「どうかしましたか?」
「大変、うどんの出汁がないわね~」
「あの、それでしたら買ってきましょうか?」
どうしようかと首を傾げる錫。彼女自身、手を煩わせないようにと思っていたが勇の申し出を受けることにした。
「それじゃお願いしようかしら。もう少しで主人や子供たちも戻ってくると思うからそっちの対応もしなきゃだし。道分かる?」
「『イネス』に行ってきますので、昔と道は変わってないようですし」
「気を付けるんだよ。勇」
「行ってらっしゃい。勇君。ふふ」
錫からお金を受け取ると2人に見送られ勇は三ノ輪家を出た。
「ありがと。それじゃ任せるわね」
勇がお使いに出掛けて行ったあと、意味深な笑みを浮かべていた錫が誰かに電話しているのを始は見た。なんとなく錫の考えの予想は読めそうだが、
「錫さん、もしかして銀ちゃんには」
「そ、実は子供達には言ってないの。サプライズって感じでね」
その言葉で確信をもった。勇がどういう反応をして帰ってくるのか。始は錫の狙いに少し便乗する事に決めた。
こうして、少年『紺野勇』の大橋市への帰郷により物語は動き出す事となる。
原作前の話を1話で終わらせるつもりでしたが、分けての投稿。
銀の両親は…まあ、公式でも名前ついてるの見受けられなかったし、子供たちに倣って金属名縛りのオリジナルで。
原作開始前の話をあと1話投稿予定です。原作開始&介入は第3話辺りからとなります。