この加速する世界で   作:NowHunt

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せっかちな女性とあざと少女

久しぶりにケーキ屋訪れたら店員に覚えられてた。

 

「特徴的な見た目だったから覚えた」

「そうですか」

「敬語、外していい。あなたの方が多分年上」

「はいはい。なら聞くけど、客に向かってその言葉遣いはどうなの?」

「あなた以外には敬語使っている」

「……俺にも使って? 一応客だぞ」

 

 このメイド……じゃなくて店員さん、久しぶりに来たけどホント癖強いな。こんな感じの人スゴい見覚えっていうか、デジャヴがするんだけど。年齢的にも…………まさかな。

 

「そういえば、どうして来なくなったの?」

「あー、引っ越しただけ」

「どこに?」

「千葉」

「教えてくれたらよかったのに」

「引っ越しでバタバタしてたからな」

「……なら今日はどうしてここに?」

「知り合いと東京で会って、なんかここ思い出したから寄ろうかなって」

 

 嘘は言ってないぞ。

 

 さて、どれにしようかな……。

 話しながら考える。色々なケーキがあってかなり迷う。

 小町はフルーツ系かな。お袋は甘いのそこまで得意じゃないから他のに比べたらそこまで甘くないチーズケーキか。親父は……ザッハトルテでいいか。

 

「店員さんも何か作ってるのか?」

「……美早」

「ん?」

「名前、美早なの」

「……名前で呼べと?」

「えぇ」

 

 いきなり下の名前で呼べと? 女子を? 俺より年下の女子を? 難易度高いんですけど。謡やルミルミみたいに歳離れてるわけでもないし、せいぜい中学生だろう。お良くて高1くらいだろう。小学生相手にふざけで呼ぶのとは訳が違うんだよな。

 

「えーっと……美早さんは」

「美早」

「……美早も何かケーキ作ってるのか?」

 

 …………恥ずかしい!! 

 というより、この人訂正が早い。まだ言い終わってないのに食い気味で訂正された。あれなの? せっかちなの?

 

「この苺のラビリンスは私の担当」

 

 ショーケースへと目を向ける。

 それは贅沢に多くの苺がケーキの上に乗っており、とても綺麗に螺旋状に並んでいる。だからラビリンスか。

 

「1人で全部作ったのか」

「えぇ」

「へぇ……スゴいな」

 

 ふと視線を店員さん――美早に戻すと無表情な彼女だか、嬉しそうに僅かだか顔を綻ばせている。

 苺のラビリンスは残り1つ。

 

「じゃあ、それ1つくださ――――」

「いらっしゃいませ」

 

 注文しようとしたら新しく来た客への挨拶と被った。

 赤毛の小学生。ツインテールが特徴的な少女だ。

 

「あ、ラビリンス残ってる!」

 

 ……っと、そうきたか。

 もう一度美早の方を向く。微妙な雰囲気になる。彼女も申し訳なさそうにしているし。

 

「あれ、お客さんか。ごめんなさい、先にどうぞ」

 

 常連らしい赤毛の少女は後ろに下がったけど……やりにくい! え、これどうすればいいの?

 

「その、ニコ。ラビリンス、先に彼が注文を」

「あー、いいっすよ。また来ますんで。そのときにでもいただきます」

 

 さすがに小学生の目の前でお望みのものを奪うなんて性格はしていない。

 ん? この小学生と美早は知り合いか。だから常連になっているのか。どういう関係なのかと邪推してしまう気持ちを抑え、今どうするか考える。

 

「えっ、でも……その」

 

 美早は若干困っている様子。

 

「パッ……ミャア、タイミング悪かったか?」

「別に、そういうわけじゃ……」

 

 ミャア? 美早、みはやでミャアか。なるほど。可愛らしい呼び名だな。

 

「って、あまりここじゃ見ない人ですよね」

 

 そうコテンと首を傾げ、赤毛の少女は不思議そうに俺を見てくる。

 

「まあ、千葉の方に住んでるんで」

「そのわりにはさっきミャアと楽しく話してませんでしたぁ?」

「ちょ、ニコ、見てたの!? それは……」

 

 おお、スゴい。一色、喜べ。お前と同類がいるぞ。

 この少女、あざとい……! 

いやもう、声色からして自分を可愛く見せようとするための演技と分かってしまう。まだまだ甘いな、少女よ。そこいらの中学生くらいならある程度騙せても、俺には効果ないぞ。なにせあざとマスターの一色と話したことあるからな。熟練度はあちらの方が上だ。

 

「……ミャア、何かトラブルあったの?」

 

 と、店の奥から新たな人がやってきた。

 

「いえ、伯母さん、大丈夫です」

「そう? ……あら、八幡君じゃない」

「あ、どうも」

 

 確かこのおばさんは店主じゃなかったよな。パティシエでここのケーキの大部分を作っている人。そういや、店主って誰なんだろ。

 

「久しぶりじゃない。どうしたの?」

「たまたま近く寄ったんで、ついでにと」

「そうなの。あ、ニコちゃんもいらっしゃい」

「こんにちは~」

 

 お、ここでもあざとさを忘れない。

 

「で、どうかしたの?」

「いやー、苺のラビリンスが残り1つで……」

 

 赤毛の少女――もとい、あざと少女が説明している。

 

「あー、なるほどね。そういうこと。んー、ニコちゃん、今回は譲ってくれないかな?」

「いや、別に大丈夫ですけど。そっちの少女に譲りますよ。俺はまた来ますんで」

「そうじゃなくて……。ミャアね、八幡君に自分のケーキ食べてほしくてずっと頑張ってたの。私も厳しく育てて」

「ちょっと伯母さん……やめて。大丈夫だから」

「せっかくの機会なのよ。食べてもらいなさいな」

 

 美早とおばさんは小声で何か言い合いを始めた。内容は……あまり深く聞かないでおこう。何言っているかイマイチ聞き取れない。

 

 それも、あざと少女が隣でブツブツと「そうか、コイツが言っていた……そうか……なるほど。だから……」と呟いていて、なんかそっちに気を取られてしまったからだ。あら、素はこんな感じなんだ。言い方が若干男勝りだな。

さてどうするかと迷っていたら、あざと少女がクルリとこちらに向き直る。

 

「苺のラビリンスはお兄さんにお譲りしますね。私は何回も食べてますし、家も近いので」

「あ、そう? ならありがたく」

「その代わり、1つお願いいいですか?」

「ん? まあ、どうぞ」

「私とちょっと一緒に食べませんか?」

 

 え? 変な展開になってきたぞ。あざと少女とは初対面だぞ。そのはず……だよな? これが逆ナンというやつか。初めて体感した。

 

「八幡君、ミャアも休憩にしたから久しぶりにのんびりしなさい」

「あ、はい」

 

 と、押し切られるようにここで食べることになった。

 ってか、訳分からん部屋に入れられたんだけど。何ここ? スタッフルームか?

 机とソファーだけある個室に小学生といる。その傍らには自称腐った目のした受験生。……謡といたときも思ったが、何ともまあ、絵面がヤバい。

 

 って、あれ? ここグローバル接続切れてるんだけど。VIPルーツなの、ここ?

 

「お待たせ」

 

 と、メイド服の美早が入ってきた。

 

「おせーぞ、ミャア」

「伯母さんに色々と聞かれた。……はい、どうぞ」

 

 テーブルにケーキや紅茶などを並べる美早。そういや、名字なんなんだろう。

 そして、あざとさ解けてるぞ、あざと少女。

 

「……それで、これどういう状況?」

 

 いきなり死地に放り込まれた兵士の気分だ。周りに敵しかいない……いや、敵ではないけど、それに近いような気がしてならない。

 

 美早に関しては前々から見たことはあっても多分そこまで話したことのない人。店のおばさんとは話しても、基本無口だったはずだから挨拶を少しだけ交わすような関係だった。

 

 そしてあざと少女に関しては……マジで初対面だよな? なんでいきなりお茶してるの? どうして俺がいるこの空間で優雅にミルクティーを傾けてるんだよ。適応能力スゴいな、おい。

 

「ん? ああ、私とミャアは昔からの仲でな。ミャアはあんたのこと気に入ってるようだから話聞きてぇなって思っただけだ」

「そう。てか、あざと少女。さっきまでの猫かぶりはどうした」

「あざと少女って……あたしのことか!?」

「他に誰がいる」

「ちゃんと名前だってあるっての。上月由仁子だ。ニコと呼べ」

「分かった。よろしく、上月」

「ニコで呼べって言ったよな!?」

「で、さっきまでのあざとさどこいった?」

「無視すんな! って、あ? んなの疲れるだけだろ。なんかあんたには見抜かれてたっぽいしな」

 

 勘が鋭いことで。

 

「つーか、ミャアのことは美早って呼んでたじゃねぇか」

「コイツの――」

「美早」

「……美早の名字知らないし。俺は基本人のことは名字で呼ぶ派だ」

「ケッ……そうかよ。それで、あんたの名前は八幡……だっけか。それででいいのか?」

「比企谷八幡だ」

「ひき……八幡でいいか」

 

 大胆だな。というより、大ざっぱ?

 比企谷ってそこまで言いにくいか?

 

「ま、話は後だ。まずはケーキ食えよ」

「ニコ、それ私のセリフ」

「それもそうだな。ま、いただきます」

「……いただきます」

 

 噂の苺のラビリンスに手をつける。

 あ、美味しい。甘さも程よく、苺の味を際立たせているようだ。淹れてくれた紅茶も美味しい。種類は分からないが、雪ノ下が淹れる紅茶と同等の美味しさだ。

 

「……どう?」

「美味しい」

「……良かった…………」

 

 美早はそれだけ呟き、こちらに嬉しそうに微笑みかけてくれる。

それだけの仕草に、ちょっと胸がときめいた。やだ……俺、チョロすぎ?

 

「やっぱここのケーキは美味しいな」

「同感だ」

 

 上月も幸せそうに呟く。

 これだけはあざと少女と同意見だ。

 

「それで、八幡とミャアってどんな関係なんだ?」

 

 互いに飲み物を飲んでいるとき上月が尋ねる。

 

「関係って言っても……昔の常連ってところだ」

「ん? さっき千葉に住んでるって言ってたよな?」

「昔数年間だけ親の仕事の関係でこの近辺に住んでたからな」

「ほー……ミャアとは本当に何もなかったのか?」

「何その言い方。言っておくが、美早の名前さっき知ったところだからな。残念ながらませた小学生の望むような答えは返ってこないぞ」

「おい、それマジなのか、ミャア」

「……そう」

「かーっ、情けねーな。その割には……いや、これはいいか」

 

 なぜか俺と美早を交互に見ながら、何かを面白がりニヤニヤするあざと少女。

 これは小町が俺と話すときと近しいものを感じる。つまりからかっているのか。小学生のくせに生意気だぞ、と、某スネなんちゃらのように言ってみる。いや、言ってないな。心の中で思ってみる。

 

「にしてもよー」

 

 いきなり話題を変える上月。

 俺と美早の話はもういいのか。これ以上突っ込まれても特に話すことないけど。

 

「八幡ってさ、どっかであたしと会ってないか?」

「は? いや、普通に初対面だろ」

「だよなー。でもな、なーんか既視感あるんだよなぁ」

 

 足をブラブラさせつつそんなことを言う。

 

 俺だってこんなませた小学生と会ったらさすがに忘れないな。あるとすれば千葉村のときのあれか? しかし、ルミルミ以外仲良くなった小学生はいない。というか、絶対嫌われている。実行したのか葉山たちだが、あれを考えたのは俺だからな。

 やはり思い返してみても会った記憶はない。

 ないけど、俺もどことなーく知っているような気がする。あざと少女はともかく、特に美早は。このケーキ屋関係なく。

 

「気のせいだろ」

「そうかなー。ミャアはどうだ?」

「ニコの言いたいことは分かる」

「だろ? やっぱどっかで……」

「はちまっ……んんっ。えーっと……彼は鈍いから多分私たちにも気付いていない」

「あ? てことはあっちの?」

「そう」

「お前ら何の話を…………って、もしかして……」

 

 あ、やっぱりそっちの話になります?

 えーっと……言い訳をするとだな、俺は現実とあっちと割り切っているから正体がどうのって考えたことないし、リアルを割ろうだなんて思ったことがない。不注意でバレたことがあっても、自分からは割ろうとしない。

 

 ネトゲなんて普通そんなもんだろ。第一俺にメリットがない。知ったところで仲良くなるわけでもあるまし、微妙な雰囲気になることの方が多い。

 そして、いくらBBのプレイヤーが子供だけとはいえ、東京の人口多すぎるからいちいち誰が誰とか考えない。

 

 あ、レイカーのときに関しちゃ俺から聞いたけど、既にバレてたからノーカンで。

 

「彼はレベル7。ダークネス・エンペラー」

「はぁ!? あの皇帝か!?」

「ちょっと声大きいぞ」

 

 止めろ! 大声でその名を呼ぶな!

 

「NP。ここは防音」

「ちょっと待て。その言い方……薄々そんな気はしてたが、レパードか」

「イエス。もう隠す必要もない」

 

 プロミネンスのブラッド・レパードかよ。レイカーとしょっちゅうバトってた赤のくせに近接タイプのやつ。

 てことは……このあざと少女、直接会ったことはないけど。

 

「コイツ……頭か」

「そうだよ。いやー、驚いたぜ。あの悪名高いと噂の皇帝がまさかパドの――――」

「レイン」

「悪い悪い」

 

 アハハと笑うこのちんちくりんが2代目赤の王――――スカーレット・レインかよ。イメージ壊れるな。巨大な強化外装を操ると聞いていたからてっきり巨漢かと思ってたぞ。ストフリみたいな。

 道理で歳の離れている2人が仲いいわけだ。これで1つの謎が解けた。

 

 さてと、改めて……ここからどうしよう。普通に気まずい。

 

 




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