多分これからも不定期で上げます
「くぅー……」
椅子から降りて思いきり背伸びをする。
ずっと座ってると肩やら腰やらけっこう凝るな。
留美の襲撃があった週の土曜日の昼。ただ今自宅で勉強中。受験勉強だ。
正直に言うと飽きてきたけど、今の段階でこれじゃ夏休みどうするつもりだ。こういうのは飽きる飽きないの話じゃない。無理矢理机に向かわないといけないだろう。たまには気分転換も必要だが、そればかりだとダメだろう。こういうのはメリハリをつけないと。
そういや、留美が突撃したあの日はなんかもう何だかんだで騒がしかったです。けっきょく留美が俺に抱き着いた写真を謡に送ってそれから……ううっ、もうあまり思い出したくない。
「お兄ちゃーん。お昼置いておくねー。私ちょっと出かけてるからー」
「おーう。後で行くわー」
ドアの向こうからは小町の声が聞こえる。
もう少し勉強してからリビングで昼飯食うか。背伸ばして中断したはいいけど、まだ微妙にキリが悪いし。せめてこの問は終わらせよう。
「……ん?」
もう一度椅子に座った途端に連絡がきた。これはテレビ通話か。こんな真っ昼間から誰だ。一番可能性があるのは由比ヶ浜辺りか。たまに雑談することあるし。由比ヶ浜から一方的がほとんどだけど。名前を確認してみると――――はぁ、マジか。相手はレイカー……じゃなくて倉崎じゃないか。
……無視しようかな。いや、後で絶対面倒なことになりそうだ。いやもう、今受け取っても面倒なことに巻き込まれることは確定しているけど。
「……もしもし」
『倉崎です。比企谷さん、今お時間よろしいですか?』
「……お前本当に倉崎か? 随分と丁寧な挨拶だな」
『もう! きちんと挨拶したらそれですか! 全く皇帝ちゃんは……』
と、俺の視界には綺麗なストレートで茶髪の女子校生が映っている。……コイツ、由比ヶ浜並にでかいよな。何がとは言わないけど。雪ノ下が悔しがりそうだ。
「で、何か用なのか?」
『そうでした。ちょっと皇帝ちゃんに頼みがあるのです』
「断る」
『話を訊いてください!』
「はいはい。それで?」
『私たちと一緒に四神を吹っ飛ばしてISSキットを破壊しましょう!』
「…………は?」
――――話を簡単に纏めると。
まず倉崎たちはネガビュの連中はクロウや黒ちびが在席している中学校の文化祭に遊びに来ている。
そこに倉崎の子であるアッシュ・ローラーとあざと少女の上月と美早も遊びに来た。……アイツらと接点あったんだ。
しかし、アッシュ・ローラーがISSキットに感染していると判明。
呪いなどを浄化できる俺の親こと謡もどうやらアッシュ・ローラーの強化外装に感染したキットは浄化できないらしい。
だったらISSキット本体を破壊しよう!
しかし、ISSキットがあるミッドナイトタワーにはくそ強いエネミー、メタトロンが守っている。人数不足だ。
そうだ、ネガビュには最近復帰したアクア・カレントがいるじゃん。
しかし、またまた問題がある。アクア・カレントは上の世界に出現した瞬間にエネミーに殺されるという無限EKに囚われており、身動きが取れない。しかも相手であるエネミーがゲロ強いと噂の四神とのこと。
よっしゃあ! だったら四神を吹っ飛ばすぞと意気揚々と決めた←イマココ
――――うん、一先ずあれだ。
「…………お前らバカなの?」
『至って大真面目です』
「いや四神に挑む段階でアホだけど、ミッドナイトタワーにいるのがメタトロンだって? ……あれ、アイツ普段はあんなとこにいないよな。代々木公園とかじゃなかったか? そもそもああいうエネミーってテイムてきたっけ。……それは置いておいて、アイツ地獄ステージじゃないと倒せないクソエネミーじゃないか」
地獄ステージ以外だったら即死のビームを放つ奴。喰らえば緑の王ですら普通に死ぬ。もうちょいエネミー弱く設定してもいい気がするんだけど。一番弱い分類のエネミーでさえ一人だと危ねえしな。まだ、こんなゲーム作った開発者にそういうの言っても無駄どころかそもそも開発者誰だよ。
『そこは鴉さんが何とかします』
「……やり方は知らないけど、勝率低すぎだろ。四神の相手してメタトロンとか……いくら赤の王たちが助っ人にいるからといって」
『だからこそ、貴方に頼んでいるのです。皇帝ちゃんの必殺技はエネミーキラーとして名高いですので』
あぁ、そういやそう知られていたな。俺のキャラの必殺技は対人にはめちゃくちゃ使いにくいが、エネミー相手ならわりと有効な技だからな。実際、上の世界でたまにエネミー狩りできるのもその技のおかげということもある。
しかし、返答は――――
「……悪いがお断りだ」
『どうしてですか?』
「前に言ったよな。俺はリアルを蔑ろにするわけなはいかないって。今受験勉強中なんだわ」
『そうですか……。困りましたね』
そう落胆した倉崎の様子が映った瞬間――――倉崎が映っている画面に新たな人物が飛び出した。
『八幡。私からもお願い』
「…………美早か」
そこには先日ケーキ屋で知り合った美早がいた。メイド服ではなく、当たり前だが私服だ。いつもメイド服しか見てなかったからちょっと新鮮。というより、あれライダースーツか。しかも赤色。君ら着ている服とゲームの色に影響されすぎだろ。
『ちょっと、パド? あなたいきなり……って、皇帝ちゃんとリアルで知り合いなの!?』
『イエス』
『しかも名前で呼び合う関係!? ちょっと皇帝ちゃん……いえ比企谷さん、ではなく、八幡さん、私のこと楓子って呼んでもらえますか?』
「切るぞ。さよなら」
『待ってください! いいじゃないですか名前で呼んでくれたって。もっと距離縮めましょうよ。ういういだってあなたのこと名前呼びですし、私だけ置いてかれているような。奉仕部の方々みたいにすぐ会えるわけでもないのに……。ハッ、そうじゃありません。というより、2人はどういう関係なんですか!?』
「店員と客」
『……何その言い方』
美早は不満そうだが。
「実際そうだろ」
『もっと色々ある』
「例えば?」
『……密室で話した仲とか』
「いかがわしい言い方止めろ」
あのとき上月もいただろ。……って、余計にいかがわしく思える。目の腐った高校生と小学生とJK――――あの絵面は普通に事案だよな。俺でもそう思う。
『なら私の手料理を食べてくれる関係』
「お前それラビリンス買った客全員に当てはまるだろ」
『美味しかった?』
「おう、めちゃくちゃ旨かった。ごちそうさん」
『お粗末様なの』
「また暇あればそっち行くかも」
『八幡が来なくても私がデリバリーするけど?』
「住所教えたくないので丁重にお断りします」
『むぅ……』
プクーッと頬を膨らます美早に若干ドキッとしたけど……あれ? これ何の話?
『何だか親しげっ……! ちゃんと説明してください。じゃないとほら、見てください皇帝ちゃん、ういういもこーんな納得いかない表情してますよ』
と、倉崎は謡をだっこしてテレビ通話の画面に映した。つーか、謡さん、貴女近くにいたのかよ。全然気付かなかったんだけど。倉崎は背が高い方だからな。謡なんてアイツにとってはぬいぐるみ扱いだろう。オプションだし。
謡は謡で頬を膨らまし、いかにも『私、不満なのです!』とでも言いたげな表情だ。多分、それ倉崎にだっこされてる状況も踏まえてのその表情だよな? 加えて留実がやらかした分の私怨も含まれているよな?
まぁ、謡は失語症で喋れないから何思ってるかは分からない。チャットしようにも倉崎に抱きかかえられていて身動き取れなさそうだ。
『オホン。……では話を一旦戻しまして』
一旦てことはまたこの話するつもり? しかも謡を抱えたまま?
『本当にダメでしょうか?』
「……手を貸すにしてもリスクがあまりにもデカすぎだろ。俺にメリットなさすぎる。別にお前の子と関わりがあるわけでもないしな」
赤の他人じゃなかったら多少は手伝うこともあるかもだが、顔すら知らない奴のことを助ける気にはどうもなれない。
「言っとくが、俺は誰彼構わず助ける善人なんかない。そこのところ勘違いするなよ」
『でしたら、バーストポイントを』
「いらない。充分にある。ていうかそもそもそんなポイント使わん」
『むう……。でしたら私とデートする権利でも!』
「いらない」
『ちょっと失礼じゃないですか!? ……ううっ、そうですよね、皇帝ちゃんの周りには可愛い子いっぱいいますもんね』
『レイカー、それ詳しく』
『言葉通りです。皇帝ちゃんある部活に所属しているんですけど、その人たちがとても美人なんです。1人は美人、1人は可愛い系で、もうそれだけで皇帝ちゃんの需要を満たしてそうで……ねぇ謡?』
倉崎は謡に振るけど、抱き抱えているからチャットできない状態続いているんですけど。頷くことしかできないんですけど。頷きながらもこちらを睨むのは止めなさい。
「とにかく、俺は行かねぇぞ」
『強情ですね』
「それ以前の問題だからな? つか、いっそのことISSキットで苦しむくらいならBB消せばいいじゃねぇか」
『ちょ、そんな簡単に言わないでください!』
『八幡、今のはない』
倉崎に続き、美早も俺の提案とも言えない言葉に文句を言ってくる。謡も表情で怒っているのが分かる。
「そうか? まぁ、確かにBBがアンインストールされて記憶がどこまで消えるか俺は知らない。BBでしか繋がりがないならあれだが、お前らこうやってリアルで顔合わせて遊んでるんだろ? その繋がりが全部消えるわけでもあるまいし。それでも、ダメなら最初からやり直せばいいだろ。これから先――時間はたくさんあるからな」
『……ですが、もう打つ手なしならまだしも、解決策はあるのです』
「随分薄い解決策だな。……あとあれだ、そっちまで移動するのが怠すぎる」
ていうか、お前ら東京にいるよな。BBの本拠地だし。俺今いるの千葉だぞ。リアルにしろ加速世界にしろ移動が面倒なんだよなぁ。
リアルなら電車があるが、金かかるし何より時間もかかる。その時間で加速世界は下手すりゃ何ヶ月、何年ほどの時間が過ぎるだろうか。
そして、加速世界から直接東京に行くなら走るしかないわけだ。エネミーに引っかかるかもしれないし、何より東京まで走るとか絶対に迷う。頑張れば行けないこともないが、線路沿いに走ればなんとか。しかし、けっこうデメリットが大きいのも確かだ。他のプレイヤーに出くわす可能性もある。
クロウなら飛びながら移動できるか。いいなぁ、俺も飛んでみたい。
『むむっ。確かにそうですね。ここから走るとなると、無制限なら電車ありましたよね。ポイント使って』
「あの電車ステージによっては動かないだろ。極端な例を言えば大海ステージとか。あと、千葉でも使えるのか知らないし」
『でも、そういうステージの数は少ない』
「ていうか別に俺行かないからな。ぶっちゃけ王2人ならどうにかなんだろ。じゃ」
『ちょっと、皇帝ちゃ――――』
ムリヤリ通話を切る。これ以上関わったら絶対巻き込まれる。誰が好き好んでBBで一番強いと称されるエネミーと戦わなくてはいけないのか。しかもそれが2体。命がいくつあっても足りない。他のMMOで例えるとアイツらエンドコンテンツみたいなもんだろ。俺はガチ勢じゃなくてエンジョイ勢だっての。
アイツらの相手した疲れでベッドに寝転ぶ。
俺はそんなエネミーなど到底相手にしたくない。絶対勝てない相手には挑まない性格だし、そんな無駄な時間は費やしたくない。リアルの――主に人間関係だったら負けることに関しては俺が最強だ。負けないために勝負すらしないようにすることもある。
別に加速研究会が加速世界で何をしようが今ここにいる俺には関係ない。加速世界を変えるほどの変革が起きようが、俺は恐らく知らない振りを通すだろう。別にあっちがどうなろうが、俺の知ったことではない。
「…………」
しかし、こちらを散々弄び、今までロクに痛い目に遇わず、のらりくらりと好き放題場を乱し悦に浸り、腐った現実をひたすら押し付けてくる加速研究会よ――――
――――いい加減舐めてんじゃねぇぞ。
だからISSはあの猪突猛進たちに任せるとして、俺は大元を叩きにいくとしよう。
「全く、損な役回りだな……」
上の世界から出られなくなる事態を防ぐためにタイマー設定して――――
「アンリミテッド・バースト」
いつものBBとは全く違う別の世界へ潜りに行こう。