この加速する世界で   作:NowHunt

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遅れてすいません!!

あと今回、人によっては不快な描写があると思うのですが、目を瞑っていただければ……






悪意の塊

 アルゴン・アレイ。紫デカ頭のエセ関西弁。黒チビたちの情報によれば、コイツも加速研究会のメンバーだ。それも幹部クラスだろう。今俺がいるのは恐らく白のレギオンの本拠地、つまりは加速研究会の本拠地とも言える場所だ。こんなとこでコソコソしているんだ、それも黒チビたちが動いたであろうタイミングで。

 

「無関係とは言わないだろうなぁ」

 

 紫デカ頭に狙いを定めて俺の武器である溶解の剣を構える。

 

 必殺技ゲージ10割使う防御不能の必殺技を喰らわせてやる。対象との距離は恐らく500mは離れてる。普通に剣を振っても当然当たらない。しかし、どれだけ距離を取ろうとも関係ない。見えてさえいれば、俺の必殺技は届く。

 

「『エターナル・ブレイク』」

 

 必殺技のコマンドを言い、溶解の剣は蒼色に輝き始める。その状態を見届けてから、俺は横に軽く剣を振る。特に力は入れずに、撫でるように。それだけで――――

 

 

 ――――ガシャアァァァン! ドゴオオオォン!!

 

 

 目の前にあるビル郡は真っ二つにされ、耳がつんざくほどの巨大な音を放ちながら崩れ落ちていく。まるで何か爆発物が盛大に爆破したときのように、ひたすら崩れる。

 

 そして、アルゴン・アレイも何が何だか分からない、今何が起きたのか分からない――表情はここからでは見えないが――といった雰囲気で首と体と寸断される。一瞬でHPは尽きていき、無制限フィールドで全損したときに現れるマーカーだけになる。

 

 

 俺ことダークネス・エンペラーが所持している唯一無二の必殺技――エターナル・ブレイク。

 

 簡単に言えば、空間そのものもを斬る技。剣を振り、視界にあるその軌道上にあたる物体全てを斬る技だ。空間を斬る、即ち、遠くから全体を見渡すように放てばそこに写る風景さえも斬ることができる。ビルであれ、エネミーであれ、リンカーであれ全てを斬る。

 

 あくまで視界内だけであり、視界外までは狙うことができない。しかし、空間を斬るので、どんなに防御に優れたプレイヤーですら斬れる。どれだけ防御を固めようが、何をしようとしても関係ない。正に一撃必殺とでも呼ぶべき技だ。恐らく、単純な射程距離なら、この必殺技が最長じゃなかろうか。条件が整えばの話になるだろうが。

 

「……ま、現実はそんな甘くねぇけどな」

 

 ぶっちゃけこの必殺技、性能があまりにもピーキーすぎるんだよなぁ。確かに当たれば強いけど、まずそもそもとして早々当たらん。あくまで軌道上しか斬れないから避けようと思えば、容易く回避は可能だ。特に近接状態で使えば、軌道なんて簡単に読まれるので、ちょっと横にステップでも踏めばそれだけで回避される。当たる人には当たるんだけどね。

 

 弱い点その2、必殺技ゲージを全快にしないといけない。自由に貯めれる無制限フィールドなら未だしも、通常対戦ならそこまで貯まる前にだいたいは決着が付く。あくまで俺の場合だがな。

 

 弱い点その3、確かにこの必殺技は何でも斬れる。しかし、胴を分断するか、首を両断しないと即死判定にはならない。必殺技ゲージ全部使って削れたのが足や腕1本だけとか割に合わなさすぎる。それだけだと、痛みはそりゃあるだろうが、HPは削りきるのはできない。

 

 エネミーも弱点を斬らないと、一部位を欠損させただけでは効果は薄い。首を両断しても、動き続けるエネミーもざらにいる。とはいえ、俺が単独でエネミー狩りをできるのはこの必殺技のおかげだ。個人的にはエネミー全体を確認できる位置に移動して、必殺技を使うのが鉄板だな。

 

 

 ……とまぁ、使えるんだか使えないんだかよく分からん必殺技だ。強いんだけどなぁ、出番がないというか、だいたい溶解の剣で事足りるというか……。こんな感じに不意討ち狙いならかなりの効果を発揮するぞ! ハイドといい皇帝の名前のくせして暗殺向きの構成だよな……。

 

「それよりも……」

 

 ビルから移動して、紫デカ頭が死んだ場所まで移る。途中瓦礫があるが、そんなの適当に斬れば問題ない。

 

 周りを更地にしてからマーカーの近くで胡座をかく。

 

「よぉ、久しぶりだな。紫デカ頭」

 

 返事がない相手に話しかける。向こうも俺のことは見えている。

 

「斬られた瞬間は分かんなかっただろうが、時間が経てばこれをしたのが俺ってのは理解できるだろうな。お前には散々これ喰らわせたことがあったし、久しぶりだったとはいえ察しはつくかも。……あれ、剣で斬った方が多かったっけ?」

 

 どんな表情をしているのやら、見物だな。見れなくて残念だよ。

 

「用心深いお前のことだから、まぁ、無制限フィールドから出れるよう途中で切断できる設定にしているはずだが、お前ら今から黒の王たちにちょっかいかけるつもりだろ? アイツらがいつ仕掛けるか俺も分かんないけど、すぐにってわけじゃないよな。それに……何だっけ、お前ら加速世界の中で減速……どれだけここにいても苦にならないチートみたいなプログラムを使っているらしいな。それがあるから、1日2日じゃなくて、かなり長い期間潜伏するつもりだろ? その間付き合ってやるよ、せっかくだし全損させるか」

 

 適当に話ながら時間が過ぎるのを待つ。

 

「ここにいたら白の王とかが勘づくかもだし、場所は変えないとな。四肢が欠損してもすぐにはHP全部減らないだろ? それまでに離れるだけ離れとくか、いや、四肢より目障りな頭と目を斬っておくか。レーザー邪魔だし」

 

 

 

 

 ――――そして、1時間が経過した。アルゴン・アレイが復活した瞬間。

 

「――――ッ」

 

 即座に剣を振り抜き、頭、四肢を切り落とし、目を刺して潰す。そして、首を掴んで迅速に移動する。エネミーが来ないように心意を使っての移動は控える。

 

 紫デカ頭の特徴はでかいアフロみたいな頭や目を使ったレーザービームだ。それさえなきゃただの雑魚だ。手足もいでるから、反撃もできない。必殺技ゲージは貯まっているだろうが、頭や目がなければ、必殺技や心意は使えない。それに加え、無制限フィールドは痛みが通常よりも2倍になる特性がある。頭や四肢が溶解の剣で斬られている状況で、痛みを感じない奴なんてまずいない。誰でさえ、痛みは感じる。心意技を使おうにも多少なりと集中力はいる。

 

 こんな状態では、集中なんて大概できないだろう。もちろん、無制限フィールドに常時いる奴なら痛みにある程度は慣れているだろうが、まぁ、四肢欠損、視界は真っ暗、その上激痛、これらに慣れている奴は少ないだろう。

 

 

「ホント、堪忍してやぁ……」

 

 白のレギオンから数キロ離れたビル群の片隅。そこにアルゴンを投げつけてから、ようやくアルゴンは言葉を喋る。しかし、言葉はとても弱々しく今にも事切れそうだ。

 

「無惨な姿だな。ダルマかよ。だっせぇ」

「誰がこんなんにしたんやろか……グッ……!」

「はっ、ザマァないぜ。一方的に殺られる痛さと怖さってのがこれで少しは分かるんじゃねーか?」

 

 と、剣を少し目に刺す。熱は控えめにして。

 

「アアアアアァァァ――――!!」

 

 うるせ。HPあと3割くらいか、

 

「ハァ……ハァ……なんでこんなことするん……?」

「んー……何だろ、敢えて言うなら憂さ晴らし?」

 

 弱々しい声にそうケロッと答える。

 

「別に俺は加速研究会とやらに直接被害を受けたわけじゃないし、関わりがあるわけでもない。ただ、何て言うかな。お前らがひたすら見下そうとしてくるのが気に喰わなかったむてところだ。いやもうめっちゃムカつくよなぁ。……とまぁ、理由はそんなところか。いい加減、こちらを舐めるのも大概にしろよ? いつまでも好き放題にするんじゃねーぞってのを俺が黒の王の代わりに言いに来たんだよ」

「何やそれ……。皇帝ちゃん、そない黒の王と仲良くないやろ」

「まずそれで呼ぶな。気持ち悪い。話はそれからだ」

 

 それだけ吐き捨ててから、首を飛ばしてHPを全損させる。これで2回目か。レイカーならともかく、お前からそう呼ばれるのはひたすら不快だ。加速研究会の面子なのを差し引いても、そもそもお前のこと嫌いだし。

 

 レイカーの方がまだ可愛い……いや、うーん……どうだろ。どっちもどっち? Sっ気さえなければ良い奴とは思うよ、うん。

 

 

 

 また時間は経過し2回目の蘇生した――――瞬間にさっきと同じように斬り刻む。

 

「グッ………………ガッ……ハァ……全く、手厳しいなぁ、エンペラーは……。何にも見えへんわ。そういや、エンペラーも安全装置はつけてるんやろ? あんたが離脱している間に逃げることはできるはずやで」

「んなのすぐ戻ってくるっての。再スポーンここになるわけだからな。つか、分かりきった質問すんじゃねぇ。時間の無駄だ」

「それで……うちに何するん?」

 

 息絶え絶えに紫デカ頭……あ、今は頭なかったな。紫ダルマがそう質問する。目は俺が潰したし、四肢もない。ダルマって言い得て妙だな。

 

「いやゆーて、ただの嫌がらせだぞ。まぁ、黒チビに貸しを作るのも悪くはないかなって。ここにいるのアイツらに言ってないもんで。だから、やるのは単純な嫌がらせだ。つっても、ただただお前をとことん痛め付けるだけだけど。いつもヘラヘラしている顔のお前が泣き叫ぶのは興味がある。どんな声で泣くのかなぁ……ハッ」

 

 最後には鼻で笑う。まぁ、コイツが切断されて逃げるまでポイント削っておこう。行きの電車代稼げればいいなー。

 

 他にも目的はあるにはある。

 

「他にも誰か釣れたら美味しい展開だが……打撃与えるだけ与えたいし。ただなぁ、そうはならないだろうなぁ。だって所詮、被害受けてるのたかがダルマだし、こんなの救う価値ないだろ」

「な、何やと……?」

「だって、お前の救出に戦力割くほどお前に魅力ないでしょ。……え、もしかして、自分には特別な価値があると思ってるのか? だとしたら、頭お花畑だな。それはそれは綺麗な……ね。あるわけねーだろ。たかだか、お前程度の奴によ」

 

 剣で肩をぶっ刺す。痛みで反論しない間にも俺は言葉を続ける。

 

「わざわざそんな勿体ないことしないだろ。貴重な戦力使ってなぁ。何か向こうにもバレたくないような重大な秘密がバレるかもしれないのに。それに向こうからしたら、今ここに誰が潜んでるか分からないだろうし、ここに来るのは危険なことだろう。……あれ、加速研究会にメリットなさすぎじゃね?」

 

 実際には俺の独断専行なので、伏兵がいるとかまぁないけど。それでも、メリットとデメリットを考えれば……俺ならデメリットの方が高いと思う。拷問みたいなことをして口が割れてしまうみたいなこともない。放っておいたら、いずれ切断されるわけだし。だったら、無理に助ける必要なんてどこにもない。

 

「リスクリターンの管理ができているなら、まずお前はいらない奴だ。俺ならお前は真っ先に見捨てる。もうちょい、それこそ黒チビやグランデみたいな価値ある人物なら、助けようと思うんだけど……考えてみろよ、お前だぞ? まさか王と同等の価値があると思うのか? ま、当たり前だが、ないだろ。絶対に」

 

 語気を強めて断言する。俺が今からすることは嫌がらせだ。ただまぁ、やるからには徹底的にだ。目には目を、歯には歯を、悪意には徹底的な悪意を、だ。

 

「なぁ? 今まで気持ち良かったか? 弱者をいたぶって。自分の思い通りに物事運ばせて。お前の手の平の上でアイツら転がせて。……調子乗ってんじゃねぇぞ」

「――――ッ」

 

 目を潰しているから表情は見えないけど、息を呑む音は聞こえる。見えないことも相まって、かなりの恐怖を感じているだろう。真っ暗な闇から浴びせられる無数の罵詈雑言だ。1つ1つが確実に心を抉るモノだ。それらを浴びせられてなお、気にしない、なんて言える奴はいない。

 

「それにほら、わりと派手にビル崩してからけっこう時間経ったのに誰も助けに来てないな。お前らの使う減速とやらだったら、すぐ異常に気付きそうなもんだが。お前コソコソしてたんだし、どうせ誰かと待ち合わせしていたんだろ? それでも、探しに来ないし……やっぱりお前見捨てられたんじゃね? どうでもいいけど。お前はその程度だったって話になるだけだ」

「ちがっ……違う違う……違う違う違う!」

 

 さっきも思ったが、基本的にこういう奴を助けるメリットってないんだよな。情報を吐くわけでもないし、却って近付いたら何か秘密がバレるかもしれない。まぁ、放っておくよね。

 

 紫ダルマはかなり参ってる様子だが、そんなの気にしない。というより、誰が構うかっての。どんどん続けるぞ。

 

「B・Bをインストールしているってことは、多かれ少なかれ現実で迫害……とまではいかなくても、何となく日常とのズレってものを感じて生きてきたんだろうな。そんなお前がここに来たら、力に酔って弱者をいたぶるってか。オモチャ買ってもらったガキかよ。所詮、お前なんて現実ではちっぽけで、誰からも必要とされずに、ひっそりと生きている、独りのくせして独りでは何もできない――――空虚なガキのくせして」

 

 溶解の剣で刺しているのに、何とか紫ダルマは声を振り絞って反論しようとする。

 

「…………ッ。そ、そんなの……あんたも同じちゃうんかい!? 今も私にこうして……同じ穴の狢ってやつやろうが……!」

「否定はしないが、これでも現実にもかけ替えのない大切なものくらいあるもんでな。お前みたいな他人を傷付けることでしか欲求を満たせないクズと一緒にしないでほしいな。つーか、そもそもの話さ、お前と俺の立場が同じってなぜそう思うんだよ」

 

 全然違うだろ。お前はただただ因果応報なだけだろ。誰かに向けた悪意は、いつか自分にも帰ってくる。それこそ、独りでは止められないほど強大になって。悪意は連鎖する。時間が経つにつれ、どんどん膨れ上がる。そんな強大な悪意が、全部1人に押しかかってくる。さぞや、恐ろしいものだろう。

 

 俺も今まで加速研究会に被害を受けた奴らの悪意をコイツにぶつけている点では紫ダルマの言うことも当たっているかもな。いつか、紫ダルマに向けた悪意が俺に帰ってくるかもしれないが、別にどうでもいいな。他人の悪意で心が折れる奴もいれば、俺みたいに昔から様々なことを経験して折り合いをつけている奴もいる。

 

 要するに、どう向き合うか、向き合えるかだ。

 

 ……まぁ、今のコイツが悪意と向き合えるとは到底思えないがな。

 

「……ほら、こうしている間にも助けがくる気配はない。やーっぱり簡単に切り捨てられる駒なんだな、紫ダルマ。良かったじゃないか、自分はどうせこんな程度の奴なんだって再認識できて。……ハァ、だるっ。もう面倒だし、さっさと現実世界に帰れよ。どうせこっちでは、お前の居場所ないんだから。……ん? あぁごめんごめん。現実世界でも似たようなものか」

「あ……あ…………あっ………………」

 

 耳元に近付き一言囁く。

 

 

 

「なぁ――――お前なんで生きてるの?」

 

 

 

 たっぷりと悪意を込めた言葉を送る。

 

 

「あ……あ、あ……アアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 巨大な悪意に耐えきれず、絶叫する。思いかけず、ドス黒いナニカに呑み込まれたかのように、嫌々と駄々っ子みたいに首を横に振る。目の前の現実を直視したくないのだろう。それほどまでにたっぷりと俺は悪意をぶつけた。……しかし、そんな光景を見ても、手足がないからジタバタ暴れているようにしか見えない。魚が陸上げされたときみたいだ、なんて感想しか持てない。

 

 だいぶ薄情だな、俺も。同情なんてするわけない。むしろ、今の紫ダルマは非常に滑稽と思えるまである。

 

 それから紫ダルマは心がポキッと折られたようにひたすら叫びわめく。

 

「うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさ――――」

 

 途中で言葉は切られる。首を両断して、再びHPは削れマーカーだけになる。

 

「……お前がな」

 

 

 

 

 それから紫ダルマは会話せず何も自由にさせずに、15回ほど痛めて殺した辺りで急に無制限フィールドからいなくなった。途中でセーフティが働いて回線が切れたのかと思ったが、どうやら誰かがニューロリンカーを引っこ抜いたみたいだ。

 

「チッ、あんまポイント稼げなかったな。つまんねーの」

 

 といっても、誰がニューロリンカー引っこ抜いたのやら。まぁ十中八九、加速研究会の奴らだろうが、にしてはかなりラグがあった。近くにいたならもうちょい早く抜いてやればいいのにな――なんて、他人事のように思う。

 

 にしても、どうしたんだ俺は。マジで心とか傷んでいないぞ。ここまで人を追い込んだと言うのに。自分でもどうかと思うくらいにはイカれていた。謡や倉崎、美早のため? アイツらに頼まれたから? 違う。アイツらはそんなこと、誰かの心を徹底的に折れなんてことは頼まない。何だかんだで優しいからな。

 

 だったら、俺がそうしたかったからだろう。人が人に罰を与えるなんてことは、ただのエゴだ。しかし、そうでもしなければ、過ちを犯していることにすら気付かない人が多い。加速研究会の奴らだって、どうせしょうもない大義だなんだを掲げているのだろう。そんなモノのために大勢が迷惑を被っているんだよ。あぁ鬱陶しいことこの上ない。

 

「……俺のエゴだな」

 

 やはり結論はそうなる。

 

「ま、わりと嫌がらせにはなっただろ。さて、今からどう動くべきかな……」

 

 

 

 

 

 

 

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