紫ダルマを追い出したところで、今から何をしようか迷う。
俺はぶっちゃけISSキットをどうこうしようとは考えていない。それは主役のアイツらがどうこうする話だ。この加速世界において脇役の俺は、色々と整っている舞台を荒らすことしか考えていない。責任関係なしに荒らすのが楽しすぎてね、うん。まぁ、全く関係ないが、文化祭のときの雪ノ下とかを見るとなぁ……責任ある立場ってのは心底大変そうだったもんで。それで雪ノ下一度潰れたし。
「――――」
そう、さっきまでは単純に嫌がらせ目的で白の領地を荒らしただけだ。加速研究会に何かしらのダメージを与えればいいなと、そんな程度の考えしか持っていなかった。その目的はある意味達成した。目的を達成した以上、俺はもうここに留まる必要はない。
やることやったので一旦帰るかと迷ったが、このまま去るのはどうなのかと一旦立ち止まる。あぁもう、何だかんだでISSキットのことが気になってしまう。
ISSキット本体がある場所どこだっけか。えーっと、レイカーはミッドタウン・タワーなあると言っていた。……ミッドタウン・タワーってどこだ。東京の地理感覚がなさすぎて分からない。調べてみるとどうやら千代田区にあるらしい。ここから千代田区ってどう行くんだ……。ヤッベェ、マジ分かんねぇ。東京なんて単純な面積は小さいくせして、どうしてこんなに複雑なんだ!
「まぁ、そもそも……」
こっちにダイブしてから1日はとっくに過ぎている。そろそろ2日経つだろう。アイツらがメタトロンにいつ挑むかも分からないし、もう既にメタトロンと戦っているかもしれない。あぁいや、その前に青龍からカレントを救うんだったな? さすがに青龍から立て続けにメタトロンに挑むとは思えない。いくらか時間を空けるだろう。そんなピンポイントのタイミングで加勢に行けるとは考えにくい。まぁ、そもそも青龍からのカレント奪還が成功したのかどうかすら疑わしいが。
だったら、やはり俺の役割はここで終わりかな。今さら千代田区へ行ったところでという話だ。加速研究会への嫌がらせは完遂したし、まぁ充分だろ。別に黒チビたちを手伝ったわけではないんだけどね! 勘違いしないでよね! 男のツンデレは需要はあるのか……? いや、ない。
「……って」
ここまで来てはたと思う。そういえば、今さらだが紫ダルマ――――アイツはここで何しようとしていたんだ?
リアルの体が港区辺りにいてダイブしたからここにポップしたのは分かる。そのあと加速研究会の誰かと合流……待ち合わせでもしていたのだろう。そして、集合時間になってもダルマが来なかったもんで、何があったのか確認してみれば俺がPKしていたから手出しはしなかった。だから、加速研究会の誰かがダルマのニューロリンカーを引っこ抜いて助けた。
ここまでは分かる。まぁ、俺を視認したかどうかは別問題としてだ。向こうからしたら何かトラブルが発生したから、救出したのだろう。
ただ、紫ダルマが現れたタイミングからいって、黒チビたちの邪魔をしようとした可能性は大いにある。むしろ、それしかないまである。
普通、無制限フィールドでタイミング良くかち合わせすることなんてまず不可能だからな。いくら加速研究会の奴らが減速しようともだ。さすがに限度ってもんがあるだろう。いや、まぁその減速ってのがどこまでの程度のモノなのか知らないから、あくまで予測でしかないのだが。
加速研究会は単純にちょっかいをかけようとしただけなのか、何か大きな目的を果たそうとしたのか……ここまで来たら見極めないといけない。
「……んん~……」
ここまま放っておくと、どこかムズムズしてどうも歯切れが悪い。なんかこう、歯に何か挟まっているような気持ち悪いモヤモヤがあり、寝覚めが悪くなりそうだ。うん、安眠は大事だ。それに加え、俺に関係ないとはいえ、乗りかかった船とも言う。せっかく東京まで来たのだから、何かしら成果を残したい気持ちはある。
空振りってのもあり得るが、そこは成るように成れってか。
「しかしまぁ……どこ行けばいいんだか」
けっきょく、この問題に行き詰まるんだよなぁ。計画性がなさすぎる。やはり今からにでもどうにかミッドタウン・タワーに向かうべきだろうか。それとも、港区で何か大きなことをしようとしているのなら、ここに留まるべきか。うーん、かなり迷うが、どっちもどっちかなぁ……?
「だったら、移動が面倒だし、ここだな」
とりあえず加速研究会本拠地を見渡せる位置に陣取って待機しておこう。
――――ドゴオオオォォォン――!!!
あれから数時間、突如鳴り響いた騒音に、監視しながらもウトウトとしかけていた俺の意識は覚醒する。
何だ、ついに何か起きたのか? そう思いながら音の発信源を探ってみると、白の本拠地の学校に盛大に穴が空いていた。そこから、何人かB・Bプレイヤーが飛び出してきた。遠くてはっきりと全容は確認できないが、何となくは分かった。そのうちの1人は銀色の細身の奴……前にも会ったシルバー・クロウか。もう1人は……何だアイツ? 黒い板が多くくっついている。見たことないなぁ。
それからしばらく静観していると、レパードやパイル、ベルも現れた。なんでアイツらここにいるんだ? 千代田区にいるはずじゃないのか?
そして、他にも確認できた。あの紫頭は――――
「――――チッ」
思わず舌打ちをしてしまう。……うーっわ、紫ダルマいるじゃん。めんどくせぇ。ケッ、よくもまぁ、あれからよくダイブする気になったもんだ。心へし折ったと言うのに。
ただまぁ、遠目でも充分分かるくらい、かなり精神参っているな。レパードにかなり圧されている。防戦一方といった様子だ。いつもの飄々とした姿はどこにもない。ま、当たり前か。あそこまで心を折ったんだ。まだ精神は回復しきっていないだろう。
となると……状況から見るに、あの黒い板の集合体も加速研究会の一員か。ちょっかいかけたろ。どうせ今はハイドしていて俺の姿は視認されていない。システム的に見えないのだから、不意討ちし放題だ。盤面荒らせるだけ荒らしたろ。
と、上から様子を確認していたが、あらかた確認終えたのでビルから降りる。
まずは紫ダルマやるか。どうせ俺の姿見たら、ゼロフィルという何と言うか……抜け殻になる現象は起こると思うが、このまま残すのも正直鬱陶しいし? 遠距離キャラはさっさと潰すべしだな。
降りてから、さっさと駆け抜けアイツらに近付く。途中俺が崩したビル群は変遷で元に戻っている。だから、念のため気付かれないようにビルの影を通りつつ移動する。
近くまで移動すると、黒チビチームと加速研究会で睨み合いが起きている。まさに一触即発といった雰囲気だ。今は何が問題なのか、何が起こっているのか、他の面子はどうしたのか、外野の俺には全く理解できない。何やら色々と言い合っているが、どうでもいいので俺は聞く耳を持たない。嫌がらせさえできればそれでいいので、はい。
しかしまぁ、加速研究会の奴らもある意味バカよな。俺がここら近辺で紫ダルマをボコボコにしていたのは知っているだろう。正確な場所までは知らなくても、ダルマから報告は受けているはずだ。なのに、わざわざ律儀にこちらに帰ってくるとか。まだ俺が待機している可能性は考えなかったのだろうか。少しばかし呆れてしまう。
もちろん、たかが俺1人でっていう話もあるが、無制限フィールドにおいて俺のスキルによって初撃はほぼ必中なんだから、警戒くらいすればいいのだが。
そのようなことを考えつつ、足音を殺して紫ダルマに近付く――――
首を斬ろうと剣を振りかぶった瞬間、紫ダルマはつい数時間前に味わった恐怖を思い出したのか、それとも単純にその可能性を忘れていただけなのか、突如慌てふためく。
「――ッ。ヤバいヤバい、バーやん! ここはアカ――――」
直前に勘づいたダルマは隣にいる……なに? なんか黒い板の奴に忠告をしたが、時既に遅し。台詞の途中でダルマの首が見事に飛び跳ねた。……あれ、そもそもダルマに首なんてなかったか。いや、どうでもいいな。心底どうでもいい。
そして、もう何度も見たマーカーがその場に出現すると同時に、紫ダルマのHPを減らしてしまったせいで俺のハイドの効果は切れ、全員の前で姿を現すことになる。
「あなたは――!?」
黒い板がいきなりの登場に驚いているが、そんな反応は気にも留めない。間髪入れずにすぐ斬りかかる。
「チッ……」
剣が当たる直前になんか消えたと思ったら、黒い板は少し離れた場所に移動していた。なんだあれ、瞬間移動? ではなさそうだが……。にしちゃラグがあったからな。瞬間ではない移動技。高速移動の類いだろうか。
それにしても、近くで確認してもこんな黒い板の奴には見覚えはない。まぁ、何年も前に離れていたし、俺が離れている間に生まれた奴だろうな。時期的にもそうなる。さすがに全員というわけでもないが、戦った奴らはだいたい記憶している。コイツは見覚えがない。
「…………?」
――――そう個人的には確信しているのだが、どことなく引っかかる違和感。会ったことはないが、どこかで相対した覚えがある……そんな違和感。この雰囲気、やはり一度は会ったことがありそうだが……うーん。分からん!
「まぁいいや。レパード、今どういう状況?」
今考えても答えが出ないのは明白なので、これ以上は思考しないでおく。とりあえず、いきなりの俺の登場に唖然としている4人の中でも付き合いの長いレパードに話しかける。
「……エンペラー、あなたどうしてここに? 私たちの話断ったくせに」
真っ先に反応したレパードは軽く文句をぶつけてくる。
「そうツンケンするな。勉強の息抜きがてら、ストレス発散に紫ダルマをボコボコにしていただけだぞ。正直完膚なきまでに心をへし折ったから、しばらくはダイブできないと思ったんだが……アイツだいぶタフだな」
「ダルマ……? それは置いといて、道理で覇気がなかった。いつも以上に逃げ腰だったし、心意も使ってこなかった。はっきり言って今のアルゴンに負ける気はしない。……エンペラーが倒したけど」
「そりゃ不意討ちは最大限頂かないと勿体ないだろ」
それなら、黒い板狙った方が良かったか?
「あ、あの――!」
俺とレパードの会話にクロウが割って入る。
「ど、どうしてエンペラーさんがここに!?」
適当にクロウをいなそうとしたが、黒い板を見てあることに気付く。え、何をしてんだアイツ。
「そういうのいいから。さっきレパードに言ったしな。……で、これどういう状況? なんか今気付いたけど、あの黒い板に捕まっている奴……あざといチンチクリンじゃねーか」
赤の王が黒い板に抱き抱えられているこの状況。年齢的に中学生か高校生が小学生を抱き抱えているってことだろ? 絵面から犯罪臭がする。通報しよ!
「バイスに捉えられている」
「いや、んなのさっさと抜け出せよ……。って、意識あるの?」
「ゼロフィルに近い状況」
「あぁー、なるほど。なるほど?」
レパードが歯ぎしりして、黒い板を睨んでいる。うん、過程が分からん。あとで謡に聞こう。
「とりあえず、あざと幼女のHP全部吹っ飛ばそうか?」
「いえ、それだと最低1時間はここにいなければいけない。それは危険」
「それもそうか」
はてさて、加速研究会は赤の王をどうするつもりだろう。白の王に献上して加速世界から退場させるつもりか、それとも別の目的があるのか……。そういえば、前にカレントと話したとき、何か核心に触れたようなことを話したはずだ――――
「アルゴンが倒されたのは計算外でしたが、皇帝が彼女をめちゃくちゃにしましたからね。致し方なしでしょう」
なんか黒い板が喋り始めた。って、何言ってやがる。
「おい、その言い方止めろ。人聞きの悪い」
「事実でしょう。どうにか彼女を救出しましたが、酷く怯え泣いていましたよ」
レパードが怪訝な目付きで俺を睨む。
「……あなた、具体的には何をしたの?」
「ノーコメントだ」
あんなの人に聞かせるもんじゃないよな。
「でだ、それは置いといてさっさとあざと幼女返してくれよ。いくらお前……なぁレパード、ごめん、アイツの名前何?」
「相変わらず締まらない。ブラック・バイス」
「やっかましい。え、ブラック? 黒チビいるじゃん。同系色とか……まぁいいや。バイスとやらが加速研究会でいくら強かろうが、こんな大人数に囲まれてんだ。勝てると思う?」
バイスが例えレベルが8だろうと、ぶっちゃけ人数でゴリ押しできるだろ。こっちにヒーラーいるんだし。やだ、この中でベルが一番頼もしい。
「確かにダークネス・エンペラー……皇帝の言う通り、これだけ相手するのに1人では厳しいでしょうね」
「って、言うことは……そりゃ誰かいるよは」
バイスの背後から新たな参加者が現れる。予想通りだ。伏兵を仕込ませていたらしい。しかし、現れたのは見たところ1人だけみたいだ。俺のように隠蔽スキルを持った奴がいる可能性は捨てきれないが、ぶっちゃけ今まで同系統のスキルを持った奴は見たことないないから、気にしなくていいだろう。
そして、この場に現れた人物は俺も見覚えのある奴だった。だが、ソイツに真っ先に反応したのはクロウだ。
「ウルフラム・サーベラス……」
メタルカラーの中でも最高硬度を誇るタングステンを身に纏うB・Bプレイヤー。コイツ、加速研究会と関わりあったんだな。うーん、予想外した。
サーベラスはメタルカラーであるタングステンのせいでただでさえ非常に硬いのに加えて、最大の特徴は物理無効のスキルを有することだ。小細工なしの単純な殴り合いなら、恐らく一番強いと言ってもいいだろう。そのくらいのポテンシャルは秘めている。前回はレベル1だったが、ここにいるということは最低でも4だ。物理無効のスキルも相当強化されているだろうな。
そんなのマトモに相手してられっか。
「『エターナル・ブレイク』」
先手必勝。空間全てを断つ必殺技で殺しにかかる。首の両断を狙ったが――――
「――――ッ」
寸でのところでサーベラスはしゃがみ、俺の攻撃はただ背後のビルをぶった斬っただけに終わった。今の動きは知っていたな。どうやら俺の情報行き渡っていたかみたいだ。そりゃ、伝える機会はいくらでもあっただろう。かなり警戒されていたし。
はー、ホントこの必殺技つっかえねぇなぁ……。不意討ち気味に撃っても避けられるとか何なん? しかもいくら事前に情報があったとは言え、初めて使う相手にだぞ? せっかく貯めた必殺技ゲージ全部使ったのに。今のビルを破壊したので、再チャージされたけど6割程度だしよぉ。もうちょい距離取れてたら、必殺技撃っても全部貯まったかもしれないのになぁ。
「えぇ、ビルが……あんな簡単に……」
「うひゃー。スゴいね!」
「これは……マスターたちに話は聞いていましたが……」
クロウ、ベル、パイルは俺がビルを斬ったことでかなり驚いた様子を見せている。いや、君らのギルマスもあれくらいできるよね? しかも必殺技使わずに。
「仕留められなきゃ意味ないだろ。で、サーベラスは貰っていいか? 相性良いし」
「いえ……彼は……僕に、やらせてください」
俺が前に出ようとしたところをクロウに止められる。そういえば、謡がクロウとサーベラスは戦ったことがあると言っていたな。何かしらの因縁があるのか、同じメタルカラー同士。男の戦いに水を差すのは不粋だろう。
「なら任せた」
「エンペラーさんはパドさんとバイスをお願いします! パイルはベルの護衛と全体的な援護を。ベルはいつでも必殺技撃てる位置で待機」
「合点承知!」
「最近そんな言葉聞かないね……。了解!」
パイルのツッコミに同意。今日日聞かねぇな。
それぞれ別れたところで、俺は黒い板――改めてバイスを見据えながらレパードと会話する。
「んじゃ、レパード。適応に前突っ込むから隙見てあざと幼女救出しろよ」
「OK。けど、あなた、バイスの攻撃方法知らないでしょ」
「何とでもなるはずだ。俺のスキル忘れたか?」
「いいえ。任せた」
雑な作戦会議を済ませたところで、その場を駆け抜け一気に距離を詰める。
「――――ん?」
……なんかバイスの体の一部が離れたんだけど。2つの板がまるでファンネルのように自由な軌道を描き、こちらの両側から迫ってくる。コイツ、まさかの遠隔攻撃が基本なのか。黒チビは近接だから、てっきり近接系かと思ったが。いや、光り方的にこれ心意か?
とりあえず迎撃するため、俺はタイミングを合わせて剣を振るう。
左右からくるうち、左はレパードがぶん殴り、俺に命中しそうであった黒い板の軌道を逸らす。俺の剣は黒い板を捉えるが、恐らくバイスは不利と感じたのだろう。当たった瞬間に引いた。完全に斬れはできなかったが、多少なりと有効と考えて良いだろう。うん、さすがは溶解の剣だ。初見の相手でも問題なく戦える……はずだ。
あれが例え心意だろうと、システム的にはこちらに分がある。あの黒い板はどうやらバイスの体の一部。ダメージ判定はあるだろう。攻撃する度にHPが減るのはあっちだ。ただ、心意だからな、こちらが予想できない力もあるだろう。ただ、突っ込まないことには始まらない。
「――――」
黒い板を体に戻した瞬間に距離をゼロに詰め、剣の射程圏内に捉える――――直前、不意に明確なイメージが頭に響いた。上下左右から、バイスの板が俺を閉じ込める未来を。
「――――ッ」
距離を詰めて斬ろうとした寸前――――どうにか踏み留まり、すぐさま3歩ほど急いで後退する。そして、きっかり5秒後には、バイスの腕から生成したであろう黒い立方体が俺を閉じ込めようと現れていた。
「あっぶな……」
しかし、距離を詰めたのにまた離されてしまった。
「ほう、あれを避けますか。完全に死角だと思いましたが。……そういえば、こんな噂を聞いたことがあります。闇の皇帝には――――未来が見えるとか」
「あー、普通にスキルであるぞ。一応は見えるには見えるが、いちいち使うタイミングとかは指定とかはできないし、必殺技ゲージ2割いきなり減るからな。任意で発動できないってのがネックだよなぁ」
先ほどの会話から出てきたように、俺は未来を見ることができるスキルを持っている。スキル名は『
具体的には5秒後の未来を見ることができる。見れるには見れるが、どちらかと言えば危機察知といった方が正しいだろうか。必殺技ゲージが2割以上ある段階で、このままだと敵からの攻撃を受ける――とシステムが認識したら勝手に発動するスキルだ。
イメージとしては、5秒後に自分に訪れる光景の一枚絵が頭に現れる。体感で一枚絵が頭に留まる時間は最大で2秒。つまり、スキルが発動した瞬間に何かしらのアクションをとらなければ、うん、何の意味もないよねぇ~。最近カワサキとカミーユの声優さんが同じことを知り、非常に驚きました。
つまり、『あ、スキルが発動したー』といったようにボーッとしていたらすぐに死ぬよね。死ぬとまでは行かなくても大ダメージを受けること間違いなし。未来を視た瞬間に動ける反射神経が必要なのである。実際、このスキルを取った当初は全然扱いきれずに、メタクソにやられたからな。
しかも、このダメージを受けるとシステムが認識する――――というのがかなり曖昧である。発動しないときと発動するときの基準がイマイチはっきりしない。明らかこれ攻撃当たるだろってタイミングで発動しなかったり、逆にこれ余裕だろってタイミングで発動して拍子を何度も狂わされたこともある。レベル6のときに取ったから、何だかんだ長い付き合いだが、このスキルの全てを未だに分かってない。
使えるスキルなんだけど……俺のスキルたち癖がありすぎなんだよなぁ。
「噂は本当でしたか。何分、こうやって……かの悪名高き皇帝と合間見えるのは初めてでしてね」
「うん? 悪名?」
「皇帝とはマトモにやりあいたくない。女豹も相手ではこちらの分が悪い。では、こうしましょうか」
「おい、無視すんじゃねぇ――って」
先ほど、俺を閉じ込めようとした黒い立方体は形を変え――――今度はバイスの手から離れたあざと幼女を閉じ込めた。目的が分からない以上、救出は素早く済ますべきだが、時間を稼がれるのは不味い。
「レイン!」
「テメッ――!」
咄嗟にまた距離を詰めようとする。バイスめがけてではなく、その隣にあるあざと幼女がいる黒い箱に向かって。走りながら剣を前に突き刺し一点突破を狙う。
「おっと、近寄らないで頂きたい」
しかし、また直前でバイスから何枚か板が出てきて、複数の板は盾のように俺の目の前に並び立ちふさがる。俺はもう踏み出し、勢いをつけ剣を突き刺そうとしているので、回避行動は取れない。
「おっ……らぁ――――!」
バイスが重ねた盾ごと黒い立方体を壊そうと剣を突き刺し続けるが――――
「……ッ。クッソが」
厚さ10cmほどの盾を3枚程度突き刺したが、途中で勢いが止まってしまう。黒い立方体までは思いの外全然届かない。
「おっと、危ない危ない。あなたの能力はある程度把握しています。近付かれると厄介極まりない相手ですのでね、もっと離れてください」
「くっ――!」
バイスの一言と共に、黒い盾は急にかなりの勢いで動き出し、こちらを押し返してくる。前に体重をかけていたため、バイスの動きに対して踏ん張りがきかずに、俺はそのまま吹っ飛ばされる。
「エンペラー!」
「……大丈夫だ」
わりと勢いよく吹っ飛ばされて校舎の壁に激突する。が、まぁ受け身は取れたからHPは1割減らした程度で済んだ。ただ押し出されただけだが、威力が意外にも高いな。
体勢が崩れていたので追撃が来るかと身構えたが、どうやら追撃はしてこなさそうだ。すぐさま板がバイスに戻ったところを見るに、これは時間稼ぎか防御に徹する動き方だな。
「…………」
俺の攻撃も受けきれる防御性能に加えて、自身の体を自由に加工、一定範囲はファンネルのように操れるみたいだ。かなり自由度の高い相手だ。それも今はその能力を防御に使っている。かなり厄介だ。
いくら俺がバイスの装甲を斬れる攻撃力があるとはいえ、近付けなければ意味がない。恐らくあの手数でさっきのように途中で止められてしまう。それどころか手痛い反撃を受けることになる。ムカつくが、真正面から崩せる相手ではなさそうだ。さすがは加速研究会のメンバーといったところか。
「普通に強いな」
「どうする?」
「うーん、ゲージあったら話が早いけど、アイツのいる位置……下手したらあざと幼女も斬っちゃうかもだから、それは避けないとな」
レパードと同時に左右から攻めても、あの板の自由度からすると防がれる可能性が高い。だったら、あの盾を破る威力の攻撃が必要だが――――いや待て。他にも突破口はある。
「あの自爆技使える?」
「NP。でも、恐らく途中で止められる」
「そんじゃまぁ、どうにかするわ。タイミングは任せる」
「K」
――――
――
私の大切な人、ニコが……レインは現在囚われている。加速研究会のブラック・バイスによって。とても堅牢な檻……とでも言うべき箇所に。距離はおおよそ15mほど。しかし、その距離があまりにも長い。先ほど近接キラーと呼ばれているエンペラーの強力な攻撃すらも防ぎきったあの盾を突破しないとレインの救出は困難だ。
エンペラーはどうにかすると、私に『ブラッドシェッド・カノン』――――当てるとだいたいの相手は倒せるが、こちらが外すと自損してしまう必殺技を使えと言う。確かにあの技は強力だ。当たれば大抵の相手は倒せる。しかし、エンペラーにも言ったように途中でブラック・バイスに止められる可能性がある。エンペラーの攻撃でさえ防がれたのだ
メタトロンとの戦闘続きであまりHPは多くない。ベルに頼めば回復してくれるだろうが、彼女の必殺技はレインのために取っておきたい。今頼むわけにはいかない。その状態で必殺技を撃てとエンペラーは言う。
いつもは飄々とした態度を取り、すぐふざけたことを言う。でも、彼は強い。それは私が知っている。そうだ、私にとってエンペラーは、まだ一度も勝てたことのない相手だ。――――彼の強さは私が知っている。ならば信じよう。私は失敗してもいい。全力でレインを助ける。
「『ブラッドシェッド・カノン』!!」
この必殺技は、私自身の周りに砲台を生成し、自ら砲弾となって敵に突っ込む大技だ。自身の装甲を割り砕くほどの威力を届かせる。届かせてみせる。
「――――ッ!」
絶対助ける。その気持ちだけを胸に秘めてバイスに突っ込む。正確には、バイスの隣にある黒い立方体に。レインがいる場所に――!
バイスも私の動きを察してか先ほどのエンペラー同様、アイツの体を使った盾を展開させる。恐らく先ほどのエンペラーのときより多く、分厚い黒い盾を。
これにぶつかったら、私はひとたまりもなく、装甲が砕け散るだろう。だが、それでいい。この盾はバイスの体。HP全てを削り取れなくても打撃は与えられるはずだ。
そして、あと1秒あればあの黒い盾にぶつかる――その直前、私はあり得ないモノを見た。
「…………ッ!?」
いつの間にかバイスの背後に、エンペラーがいる。先ほどまで、私の背後にいたはずなのに。どういうこと? どうして私の必殺技より速く移動しているの? そんな疑問を置き去るように――彼は嫌がっているが、私からすればカッコいい黒いマントをたなびかせて、今、正に、防御の薄くなったバイスを斬ろうとしている。
しかし、バイスは備えていたのだろう。まだバイスの近くには黒い板があった。その板は鋭利な形状に変化し、死角である上空からエンペラーを刺そうとしている。彼はもう攻撃態勢に入っている。いくら未来が見えようと、このタイミングでは回避は不可能だ。絶対に当たる。
バイスもそう思っただろう。だが、そうはならなかった。
「なっ――!?」
「――――えっ」
バイスの驚愕の声と私の呟きが重なると同時に、彼はその場から消えた。
――――ユラユラと。まるで、実体のない煙や水面に写る月にを触れたかのように。そして、彼が消えたと思った次の瞬間、バイスの真正面に彼は現れる。私の必殺技の軌道には被らない位置に。
「まず一発」
小さく聞こえたエンペラーの言葉と共にバイスは咄嗟に影へと逃げようとしたが、間に合わず片腕がエンペラーの攻撃によって切断される。と、同じタイミングで目の前まで迫っていたバイスの盾は消えて、私はそのままレインのいる黒い立方体へ突撃をする。
「くっ……」
このままでは破れたかどうか確認する前にHPが尽きてしまう――そう思ったが。
「『シトロン・コール』!」
ベルの声が聞こえた。彼女の代名詞である回復技を私に使ってくれた。HPがみるみる回復する。使ってくれてありがたいけれど、貴重な必殺技ゲージが……。
「大丈夫ですかー? と、とりあえずまたゲージ貯めてきますんでー!」
――――
――
……ふぅ、何とかなったな。まだバイスは倒しきれていないが、とりあえず腕は1本貰った。というか、アイツ影に潜ったな? さっきもそんな感じに俺の不意討ちを避けたのか。影への移動……まるで吸血鬼みたいだな。
レパードはこのまま一旦やられるかと思ったが、ベルの必殺技で一命は取り留めたようだ。やっぱりスゴいなぁ。回復スキル。ヒーラーが1人いるだけで安定度が違う。
「立てるか?」
地面にうずくまっているレパードに声をかける。反動がデカい技だからな。まだ意識はハッキリしないか。
「NP。それよりも、今の何?」
今の? あぁ、俺がバイスの後ろに現れたり、確実に当たるタイミングの攻撃を避けたあれか。
「単純に心意技だぞ。1つ目はただ高速移動しただけ。それくらいなら、他にも使える奴いそうだが……。一応はお前が必殺技撃つ前に走り出したから、お前より先に着いただけだというね。お前がヘイト稼いでくれたからな」
そりゃ、当たれば即死させられる必殺技とか警戒するよな。さっきの俺がサーベラスに使ったときみたいに。
ぶっちゃけ心意を使えば高速移動はできるが、見切ろうと思えばできる程度の速さでしかない。だからこそ、レパードに視線を集める必要があった。というか、そもそも普通に使ったら、まずレパードの必殺技の速度には勝てないぞ。そんな程度の技だ。
「そのあとは?」
「あれも心意。ざっくり説明すると幻覚系の心意技だ。黄色系統だったら、必殺技とかで似たようなもん使えそうなんだがなー」
システム的にはまだ俺がバイスの背後に映っていただろうが、あのとき実際には俺はそこにはいなかった。あの場にいた、バイスが攻撃したモノはいわゆる俺の抜け殻……とでも呼ぶべきモノだ。それが破壊されれば幻覚も解けて、俺が本当にいる場所がバレてしまう。
普段エネミー狩りしているときはそもそもとして心意は使わないし、何なら数年振りに使ったまであるが、どうにか上手くいって安堵した。さっさと使えと言われればその通りなんですが、心意を使うスパンが空きすぎていたから渋っていたというね。つーか、必殺技決まっていれば終わってた話なんだよな、これ。
まぁいいや。一先ずは。
「さてと、アイツが離れている間にこれぶっ壊すか」
「お願い」
「りょ――――かい!」
ただただ力任せに豪快に叩き斬る。これは……かなり硬い。正攻法で壊そうとすれば、かなり手間を要するだろう。だが、俺の剣はその手間を省けるモノだ。例えどんな相手だろうと、相手が熱無効とかそんなスキルを持っていない限り、大抵は押し通せる。
「レイン!」
無事バイスの黒い立方体を壊せた。レパードは直ぐ様あざと幼女を抱き抱える。まだ意識はなさそうだ。とりあえず、あざと幼女もクロウもどんな状況が分からないけど。
「レパード、ベルのとこへ後退しておいてくれ。俺はバイスを仕留める」
「K」
レパードが下がるのを見届けずに、こちらも手早く移動する。まだバイスは逃げていなかった。斬られた腕を抑え、こちらを待っていたかのように。
「やってくれましたね。赤の王まで奪われるとは……」
「いや元々俺のもんだろ。……俺のじゃないな、うん。レパードたちのな。言い間違えた」
端から聞けば、思いっきり誤解されそうなことを口走ってしまった。危ない危ない。
「ところでさ、訊きたいことあんだけど」
「おや、何でしょう? もっとも、どんな内容であれ返答するつもりはありませんが」
初めて会ったときから拭えなかった違和感。ようやく落ち着いたし、確かに答えてくれるとは思わないが、一応訊いておこう。
「お前ってさ――――誰?」