「誰とは? 先ほど女豹から私の名前を聞いていたでしょう?」
「ブラック・バイス――確かにそう聞いた」
「えぇ、それが私の名前ですよ」
俺が斬った腕を抑えながら、そう告げるバイスを俺は観察する。減速とやらで色々と誤魔化せても、さすがに痛みは誤魔化せたりはできないようだ。斬り口が熱いだろうし、継続的にHPは減らなくても痛みはある程度残り続けているだろう。
まぁいいや。反撃に気を付けて今は話の続きだ。
「……それ、ホントにか?」
「何が言いたいんです?」
「いやさ、単純に偽名じゃねーの? って話だ。そもそもブラックはもう黒チビがいるだろ。その時点で胡散臭さが半端ないんだが」
「前列がないだけでは? 残念ながら、ここは無制限フィールドですので私の名前を直接確認する方法はありませんがね」
「そう言われると反論しようがないが……。ただ確認しようと思えばできるぞ。もちろん、お前も分かってると思うが、ここでHP吹っ飛ばせば名前は分からなくても色は確認できるだろ。そこから、白のレギオン……は紫ダルマがあれだし、所属しているかは確定ではないか。まぁ、色さえ分かればそこからある程度絞り込める」
そう言って剣を突き付ける。しかし、バイスは微動だにしない。俺が斬るのが速いかバイスが影から逃げるのが速いかの勝負だが……一旦俺は剣を引っ込める。
「……おや、どうしました?」
「ちょっとしばらく俺のくだらん話に付き合ってくれよ。話している間は戦線復帰しなくていいしな。ここらで適当に時間潰してお互いサボろうじゃないか。訊いてほしい話があんだよ」
「ほう……?」
俺が今から話すのは、黒チビやレイカー、カレントたちからの話を総合して、あやふやだらけの確たる証拠なんてこれっぽっちもない俺の仮説……というより、単なる妄想の与太話をだ。
「単純にお前が誰なのかって話だ。お前がホントは別のリンカーだが、ブラック・バイスを名乗っているというのを前提とした話だ。だからまぁ、荒唐無稽な世間話として聞き流してくれ」
と、前置きしてから話し始める。
「これは黒チビたちから聞いた話だが、加速研究会の党首……白の王は死人を蘇らせることができるそうだ。あ、この際白の王がお前らの頭ってことにしておくぞ。いずれバレるだろうし、遅いか早いかの話だ。
でだ、蘇生方法は正直これっぽっちも予想つかないが、システムの中央サーバーから死人のB・Bに関する記憶をどうにか抜き取って、あれこれ弄くっているとのことらしい。ISSキットなんかは先代赤の王のアビリティを使っている意見も出たくらいだからな。つっても、それ出したの俺なんだが……。クロム・ディザスター――災禍の鎧が過去のリンカーのアビリティや必殺技を使えることからシステム的には可能と見ていい」
実際、俺は災禍の鎧と戦ったことはないので、見聞からの推測になる。というが、黒チビやクロウが嘘をつく性格には思えんし、そこは深く考えないでおく。それ言い出したらキリないしね。
「で、えーっと、何だっけ……そうそう。災禍の鎧やらで色んな奴のスキルを使えることは判明している。ただ、復活させたはいいけど、死人のスキルとかを使うための体はどうすんだって話になるわけだ。さすがに死人のデータだけの……なに、思念体? みたいのだけじゃ無理あるだろうし、データだけでは意味がない。災禍の鎧みたいに誰かの体は必要になると俺は思う」
長々と喋っているわりには、バイスは無反応だな。なんかスッゲぇ恥ずかしいんだけど。これ加速世界じゃなかったら、黒歴史確定だな……。リアルとこっちではキャラがガラッと変わる奴もいるし、これくらいセーフ。
「とまぁ、これらを前提に進むが、もしかしたらお前も似たような状態なのかもしれない。まとめると、今のその姿であるブラック・バイスが正しい本名なのかは分からないが、お前は死人であるブラック・バイスの皮を着ているのだろう。……というのが俺の仮説だ」
「なかなか面白い仮説ですね。しかし、そもそもとして加速研究会のトップがあの白の王と断言するのはどうなんでしょうね?」
「それはまぁ、状況証拠からしてほぼほぼアイツだろ。というか、逆にアイツじゃなかったら、お前らみたいなの従わせられないだろうが。消去法から言ってもコスモスしかいないんだよな」
もしコスモスじゃないとしたら、この組織はこんな綺麗に纏まらないだろう。癖強すぎな面子ばかりだし……。我が強い奴は良くも悪くも1つの群れに収まることは難しい。群れるためには、それらを上回るほどの圧倒な我が必要になる。現時点では、それがコスモスだという話だ。
「とまぁ、ここまでくっだらない仮説を述べたが……その姿への変身そのものが心意とかだったら普通にお手上げなんだけどな。それか誰かに化けれる強化外装の効果だったり、細かい可能性上げればキリがなさすぎるから、一旦さっきの仮説を前提に話を進めるぞ。いや、別に他の可能性でもいいんだけどね。ムリヤリ話進めれるし」
「――――」
反応なし。表情は読めない。とりあえず、バイスは俺の話待ちか。
「この際、バイスへの変身の過程は置いとくとして、そんな強力な力を持っている奴が無名というのは、まぁほぼほぼ有り得ない。もしどれだけ加速研究会が秘匿しようにも、さすがに限度ってもんがあるだろう。
俺はこれでも顔は広い奴だ。ムダに多くの奴らから恨まれてきたもんでな。そんな俺だが、今までお前は見たことも聞いたこともない。俺が実質的に引退してから新しく現れた点は否定できないが、そんな短期間でバイスの力を任せられるほどの地位を築けるとも思わない」
特にコスモスなら手駒は信用できる奴しか手元に置かないだろう。バイスの力……がどんなモノだろうと、相当の役職持ちでないと渡さないだろう。誰だってそうする。俺だってそうする。
「ここまで来れば、話はかなり絞られる。つまり、お前はコスモスにかなり近い存在だ。それも裏表問わず。でないと、こんな昼間から堂々と暗躍……暗躍? 堂々と暗躍って言葉変だな……。じゃなくて、堂々と動くことはできないからな。こんな大っぴらに動いてるのはバレない自信があるという裏返しとも取れる」
さて、ようやく話のまとめだ。
「話をまとめると、お前の正体は白のレギオンの幹部の誰か……ということだ。バイスの力がどんなモノにしろだ。俺は死人の力を使っている線を推したいがな。それで、白のレギオンの幹部のうち誰かと言うと…………」
「そこで言葉を切って、どうしたのですか?」
「……ヤッベぇな、あんまアイツらと関わりないから分かんねーな。白の奴らとは戦闘経験わりかし少ないし。声からしてまず男だろ。だから、えーっと……」
なんかバイスの困惑した雰囲気が何となく見て取れる。段取り悪くてごめんなさいね? さっきは顔が広い云々言ったが、如何せん加速世界にいたのが数年前の話だから記憶が薄れてしまうのもムリはない。特に白のレギオンとは関わり薄かったし、多少はね?
もし、紫ダルマみたいにレギオンに所属してない可能性も考えたが、レギオンの頭にはレギオンのメンバーを強制的に退場させる方法がある。何か謀反みたいなのを企てた際、手っ取り早く退場させるためにもレギオンのメンバーに持たせたいと考えてもいい。まぁ、コスモスならそんなのに頼らなくても大丈夫な気はするが。
「えーっと、白のレギオンで男の奴と言えば、アイボリー・タワーにグレイシャー・ビヒモスに……サイプレス・リーパーはどっちだっけか? だから、そのうちの誰かだろうとは思う。――――もっとも、お前の本当の姿がそれであり、ただただこっちを惑わすために偽名を使っているだけなら、話は違うがな。以上、俺のくだらん妄想話は終わりだ」
「――――」
暫しの沈黙が流れる。いくら荒唐無稽な話だとしても即座に否定しないんだな。違うものにはすぐに否定したがるのが人間の心理というものだと思う。でなければ、余計に疑いは加速して取り返しがつかなくなる可能性があるからだ。そして、バイスはすぐには違うとは言わない。ということは、6割くらいは当たっていると見ていいだろう。
そこは俺より年下の部分が出てきたな――そう思っていたところ、10秒ほど経ってからバイスは口を開く。
「そうですか。面白い話ですが、皇帝の話の推論からすると、穴が多すぎる気がしますが……。証拠が何一つありませんしね」
「そりゃ仕方ないだろ。推論つーか、こんなの妄想だからな? ただの与太話だっての。証拠なんてモノは全くと言っていいほどないんだからな。だから――――とりあえずお前をブッ飛ばして色だけでも確認するわ」
改めて剣を振りかぶった瞬間、バイスの板のうち数枚が左右から襲ってくるが――――
「心意ですかっ……」
さっき見せた幻影の心意技を使って俺はバイスの背後に移る。焦った囁きを漏らしたその背中にもう一発叩き込んでやろうと思ったが――――
「……チッ」
今の攻撃は影に潜るまでの時間稼ぎだったみたいだ。剣を振り抜いた頃にはもう影に消えていた。確かに、あの心意技は消えてから攻撃するまでいくらかラグがある。相手に幻影を見せている間は攻撃できない。攻撃しようとシステムが認識するか相手が幻影に向けて攻撃しないと、あの幻影は消えない。ハイドみたいに上手くいかないもんだ。
バイスは最初に見せたときに全部とは言わないけど、ある程度見抜いていたのか。
そして、影へと姿を消しつつその場から完全に離脱する直前、バイスの声が響いた。
「――――サーベラス・ナンバー・スリー、アクティベート」
そう告げてからバイスは完全に姿を消した。もう気配もしない。
「何だったんだ、今の……?」
バイスを取り逃がし、1人取り残された俺はポツリと呟く。
何かのコマンドだろうというのは分かるが、何に対してかはサッパリだ。恐らくバイスの仲間……サーベラスか他にいるかもしれない伏兵に向けてのコマンドだとは思う。いや、そもそも他人のアビリティとか操るとかムリじゃね? いやでもコスモスが死人を操ることができたら……ワンチャンあるかぁ。
「コマンドっていうより、暗号か何かか?」
疑問に残ることだらけだが、正直疲れた……。何だかんだでダイブしてからもう2日は経とうとしている。こんなに長時間ダイブしたのは久しぶりだ。入っている間は半ば意識失いかけていたが、わりかし神経使っていた。加えて、短い時間だったが、久しぶりに心意技も使った。思いの外疲労が蓄積されている。
このままレパードたちのところへ戻ってもいいだろうが、ぶっちゃけもう家に帰りたい。ハイドで観察するのも面倒だし帰るか。誰かに見付からないようにハイドを使ってポータルへ行くか。
ここまで盤面荒らしておいて途中退場は無責任だとは思う。しかし、元々俺は部外者だ。部外者が何をしようと別に問題ないだろ。いや、問題ありまくりだけどね? そうではなくて、あざと幼女の救出は成功したのだから、もういなくても大丈夫だろという意味なので。
「じゃ、あとは頑張れ」
「お兄ちゃーん」
「おう、お帰り」
あれから、無制限フィールドから離脱して、昼休憩をとり数時間ほど勉強をしていると、外出していた小町が帰ってきた。リビングでMAXコーヒーで糖分補給しているところで、小町は少しバツが悪そうな表情で俺に話しかけてきた。
「ねぇねぇお兄ちゃん。今、休憩中?」
「ちょっと一段落したからな。晩飯まではとりあえず休むつもり」
「だったらさー、ちょっと買い物頼んでいい?」
「別にいいけど、小町今出かけてたんだろ。ついでにしとけば効率的じゃないか」
小町はわりと段取り組んで行動する性格のはずだが。あとで面倒なことしたくなーい、とか言って。
「そんなこと言われてもー、扉空ける直前にお母さんから連絡来たんだもーん。今日お母さんも晩ごはんほしいって。冷蔵庫の残っているもの有り合わせで作ろうかと思ってたから、それしゃ材料足りないよ」
「オケオケ。で、何買えばいい?」
「あとでメモ送るから、先にスーパー行っといて」
「おう」
そして、近所のスーパーで小町のメモを見ながら売り場を歩き回っている。冷蔵庫の有り合わせで作ると言っていたから、適当に野菜やら豚肉! としか書いていないのは正直ツッコミたいところだが。それなら口頭でいいじゃん。わざわざメモにする必要ないだろ。まぁ、お袋1人分のはずだからそれ目安に――――
「あら、比企谷君?」
「ん、雪ノ下か」
背後から綺麗な透き通る声がした。その声は俺の名を呼んでいたので、振り返るといつか由比ヶ浜の誕プレを買いに行ったときの同じ私服を着ていた雪ノ下に出くわした。
「貴方も夕御飯の買い物かしら?」
「そんなとこだ。勉強の合間にちょうどいいしな」
「そうね。私も似たようなものよ。いい気分転換になるわ」
ふぅー、とため息をつく雪ノ下はやけに疲れきった表情だ。
「なに、お前そんな集中して勉強してたの?」
「私というより、由比ヶ浜さんね。今一緒に勉強しているの。ここ最近土日は私の部屋で合宿よ」
「あぁそれで。てか、それお前の勉強になんの? 部活でも由比ヶ浜の勉強見てるし、毎度毎度って大丈夫なのか、それ」
「由比ヶ浜さんは地頭いいけれど、基本的にはバ……あまり成績は良くないからね」
「今バカって言おうとした?」
「黙らっしゃい。で、そういう人に教えるのは私自身の復習にもなるのよ。インプットした知識をどのように言葉を使えば相手に伝わるか。そうやってアウトプットできるから、当然私にもメリットがあるのよ。いくら由比ヶ浜さんのためであっても、私に利点がないとさすがにこの時期はキツいわよ……」
一旦理解しても果たしてホントに理解できているのかは別問題だからな。そういう点は雪ノ下らしいと言えるだろう。
「ていうか、由比ヶ浜と泊まりってことは……キッチンには立たすなよ」
「言われなくても分かっているわよ。はぁ、何度キッチンから追い返したことか……。一度時間をゆっくりとって料理の基礎の基礎から教えるしかないのかしら、今時ニューロリンカーで誰でも分かりやすいように教えてくれるというのに」
「聞いた話だが、あれだろ。料理下手な奴はだいたいレシピ通りに作らないって。変にアレンジしたがるんだよな」
「そういう型破りな行動はしっかりと型を作ってから行うべきなのに」
「それだとただの型無しだよ……ん?」
なんか画面の端に通知のアイコンが。
「どうしたの?」
「いや、メールだわ」
「貴方に? それは妙な話ね。誰からかしら。由比ヶ浜さん? 小町さん? 戸塚君?」
「なんでその三択限定なんだよ。他にもいるわ」
「例えば?」
「あー、まず一色だろ。それと前に部室きたとき連絡先交換した留実。あと漏らした覚えがないのになぜかくる雪ノ下さん。他には……あれだ、前にも会っただろ、謡だ」
「腹立たしいことに女子ばかりね……。というより、姉さんはなぜ比企谷君の連絡先知っているのかしらね」
「どうせ平塚先生辺りだろうが」
それも違うとなったらホントに恐ろしいんですけど。あれ、雪ノ下的には戸塚は女子判定なの? 気持ちは分かる。やはり戸塚だ。戸塚は全てを解決する。材木……なに? 知らない子ですねぇ。
「それで誰からなの?」
「ん? えーっとだな……うーわっ」
「え、なに、姉さんなの?」
「いや雪ノ下さんじゃないけど。つーか、実の姉にその反応どうなんだ。雪ノ下さんじゃなくて……倉崎だ」
くっそめんどくせぇ相手だ。要件はだいたい分かっている。どうせ美早辺りがチクったんだろうよ。別に俺がどこで何しようがどうでもいいだろう……!
「倉崎さん…………彼女が?」
「うちのアホの子代表が俺の連絡先渡してな。たまーにメールがくる」
「そうだったの。まったく、由比ヶ浜さんは。……………………ちなみに、どんな、内容、なのかしら?」
え、なに、ここ極寒なの? 寒すぎなんですけど。ちょっとー、冷房かけすぎじゃない?
「……いやー、別にただの世間話だぞ」
世間話(加速世界での)だ。嘘は言っていない。めっちゃ正しい返答と自負できる。しかし、そんな内容では雪ノ下は納得せず、俺を訝しむ視線は収まらない。むしろ、余計に冷えきっているように思える。
「そういえば、謡さんと遊んだときも仲は良好だったわね」
「気のせいだ。あっちが面白がっているだけだろ」
真性のドSだからな、アイツは。
「直結して確かめていいかしら?」
「おい止めろ」
直結というのは互いにニューロリンカー用のケーブルを刺すことだ。こうすることで互いのニューロリンカーのデータが丸裸になるので余程のとこがない限り基本的に行わない。かなり信頼関係を築いていないと、普通はできない。外で男女が直結なんてしたら、8割は恋人関係と言っていいほどた。
「あら、こんな美少女と直結できるなんてご褒美じゃないかしら。ほら、やるわよ。差し出しなさい」
「だって、勘違いされるの恥ずかしいし……」
「それどちかと言えば私のセリフじゃない?」
「今迫っているの誰だよ。つーか、ケーブル短っ」
そんな押し問答を何度も繰り返し、ようやく雪ノ下は諦めたスタミナは俺の方が多かったのが幸いしたな。俺の勝ち!
「……まぁいいわ。月曜日詳しく教えてもらうからね。由比ヶ浜さんと一色さんも呼ぼうかしら」
「勘弁してくれ」
物騒なことを言うだけ言って雪ノ下とは別れた。雪ノ下を見送ってから改めて倉崎からのメールを見る。
『聞きたいことがあります。明日の14時、時間を空けておいてください。VRスペースかリアルかどちらでも構いませんが、もし遅刻したらと――――――――っても恐ろしいことをしちゃいますね。返信、1時間以内にお願いしますね、皇帝ちゃん♡』
うわ、うっぜぇ。何だその♡マークは。