「おやハルユキ君。これはこれは……随分と面白い対戦カードだ。もしや今からアイツと戦うのか?」
「あ、先輩! はい、そうなんです。実はエンペラーさんが学校にいてですね……先輩はご存知でしたか?」
「まぁな。アイツに入校許可を出したのは私だ。とはいえ、直接顔は見てないがね」
ハルユキが八幡に戦いを挑んでからというものの、準備のために約5分互いに自由時間を設けた。互いに目の前で対戦が始まったため、普段できる準備ができないからだ。
その間、ハルユキは必殺技ゲージを貯めながら観戦に来ていた黒雪姫であるロータスに声をかけられた。
今回のステージは風化。ステージの物体は非常に脆く壊れやすい。そのため必殺技ゲージはかなり溜めやすい。ハルユキはチラッと相手の必殺技ゲージを見る。八幡もそれなりに溜めてるのが分かる。
「あれ、先輩は直接お会いしてないんですか?」
「まぁな。如何せん、私も私で生徒会での文化祭の片付けで忙しい。暇ができれば謡の方に顔を出そうとは思うが……別段エンペラー……アイツのリアルにはさほど興味もないしな。アイツも似たような気持ちだろう」
ふぅ、と嫌なことを思い出したのようにため息をつく黒雪に対してハルユキは昔色々とあったのだろうと空気を読み話を広げるのを止めた。
「まぁ、あれでもアイツはレベル7だ。実際問題、かなり強いぞ。ハルユキ君が勝つ確率はかなり低いと思う。私でも不覚を取る可能性は充分ある相手だ。――――と、いうのもあるが、アイツは東京から引っ越したこともあり、半ば引退している今のアイツと戦えるというのが貴重な経験だ。ハルユキ君の思うように戦いたまえ」
「は、はい。そうしてみます!」
意気揚々といった雰囲気のハルユキに黒雪は満足そうに頷く。
「それに、アイツもハルユキ君の情報はあまり知らないはずだなら初見殺しを上手く活用して頑張りたまえ」
と、ここで少しは何かアドバイスをしようと何かと過保護な黒雪は考える。しかし、全てを話すのも芸がないからと言葉を選ぶ。
「とりあえず、エンペラーから剣を引き出せたら上々だよ」
「剣を……ですか? エンペラーさんって剣持ちアバターじゃないんですか? それこそ、青の王みたいな。この前無制限で会ったときは剣を使ってましたよ。性能は分かりませんけど、めちゃくちゃ広い攻撃範囲でしたよ!」
そう興奮気味に話すハルユキ。
あの技に幾度か苦しめられた経験を持つ黒雪は思わず苦笑を交えつつ話を続ける。
「あぁ、あれはエンペラーの必殺技だ。射程、威力共に最高峰の必殺技だよ。本人からするとかなり扱いにくい代物らしいがね。……話が逸れたな。確かに何があるか分からない無制限フィールドでのエンペラーは剣を持っているが、通常対戦ではアイツ、基本的に素手で戦うんだよ」
「え、そうなんですか!? それはまたどうして……」
意外そうにハルユキ�訊ねる。
それも先日、ハルユキはあの剣の破壊力を直に見ていたからこその発言だった。あれだけ強い攻撃を兼ね備えた剣があれば普通は使いたくなるものだと考えてしまう。
「アイツ曰く、素手だと攻撃力は落ちてしまうが対応力は剣より優れている、とのことだ。これには私も同意見なところはある。格闘タイプのハルユキ君も何となくは分かるだろう」
「それはまぁ……。素手の方がいざってときに細かく動けたりできますし。武器って強力ですけど、武器があるからこそ行動が読めるって部分もあると思います」
「銃を使うタイプだとそれは顕著だな。そういうこともあり、アイツは通常対戦で基本的には武器を使わない。使うとしたら……まぁ、防御に優れる緑やメタルカラー、あまりにも素早いフーコや何でも斬る私といったところか。……そうそう、ハルユキ君はアイツの剣の性能は知っているか?」
ふと訊ねる黒雪。
「い、いえ。具体的な性能はさっぱりです。何か特殊な能力があるんですか?」
「ふむ、あるにはあるが……やはり、ここで全部教えるのはフェアじゃないな。まぁ、ざっくり言うが、あれは毛色が違うだけで私の剣と同様、何でも斬ってくる剣、とでも言っておこう。もし対峙したら充分気を付けたまえ」
ハルユキはその唐突な一言に身を引き締める。
具体的な性能は教えてくれなかったが、あの黒雪がそこまで伝える相手なのだ。何でも斬る剣、ロータスと同等の力がある――――そうハルユキに伝えたように思えた。
その言葉だけでダークネス・エンペラーが脅威なのだと充分すぎるほど伝わった。
「……っと、そろそろ行きますね、先輩」
「あぁ、応援しているとも」
▽▽▽▽▽
「さてと、そういやメイデ――――別にここでは謡でいいか。クロウってどういう戦闘スタイルなの?」
試合が始まり、5分は互いに必殺技ゲージを貯めるために自由時間を設けて適当にステージの建造物を破壊してゲージを貯めている最中に謡に訊ねる。
「それ普通聞きますか? バカなのですか?」
「えー、だって事前情報は欲しいし。この前は別行動でレパードとしか組んでねぇからなぁ。空を飛べるのは知っているけど、戦闘スタイルはさっぱりなんだよ。近接メインってのは知っているけど……クロウって遠距離攻撃ある? それともやっぱり徒手空拳だけか? 武器は?」
「教えないのです。そんなことしたら詰まらないのです」
ったく、吊れないな。どうせ黒チビも俺の情報ある程度クロウに教えているから少しは教えてくれていいのにと思う。
……いや、曲がったことが大嫌いな黒チビの場合、公平を重んじるところあるから、多少教えたとしてもあまり核心的な部分は伏せているかもしれない。具体的には俺の必殺技やスキルとかの性能をフワッとした言葉では伝えるが、詳細は伝えないといったところか。
まぁ、なるようになれ。最初は素手で戦うけど、もし空中から遠距離攻撃されたら…………素直に剣を使うか。いやでも空中にいられたらあのクソ必殺技で狙うの難しい気もする。空を飛べる相手にあれ当てるのムリだろ。
そう考えているところで謡がポツリと話し出す。
「順当に事が進めば八幡さんが勝つと思いますが、有田さんは意外性の塊、みたいな部分があるのです。もし流れを有田さんが持っていけば八幡さんが負けるかもしれない、とだけ言っておくのです」
「…………」
なるほど。流れ、か。謡の言葉を反芻しながら考える。
そういうのは格闘ゲームにおいて――――いや、ゲームに限らずスポーツや仕事、何もかもにおいて重要な事柄だ。実力差があれば流れなんて関係ないけど、心に隙が生まれればそこを突かれて負けるなんてことはある。
それに極端な話、クロウが俺のHPをそれなりに減らしてから制限時間まで飛んで逃げれば普通に負けるしな。そうならないよう気を付けなければいけない。
……っと、もう時間か。集合場所は校庭だったな。
「そろそろ行ってくるわ」
「はい、行ってらっしゃいなのです。遠くから見てますね」
「すまん、待たせたか」
校庭にはもうクロウがいた。
「いえ、全然大丈夫です。僕が早く来ただけですので!」
「よし。――――じゃあ、さっさとやるか」
その言葉を合図にその場を駆け出す俺。クロウはファイティングポーズを取りこちらを迎撃する構えだ。まずは一発こちらから仕掛けて主導権を頂く。
「……ッ!」
大きく踏み込んでからの跳び蹴りを繰り出す。単純な動きだが、これでもかなり早い自負がある。クロウは咄嗟に腕をクロスさせこれを防御する。
少し後退するだけで耐えきったクロウは俺が着地した瞬間を狙い殴打で攻撃を仕掛けてくる。鋭い突きだ。よく訓練していることが分かるくらい洗練されている。
これは防御からのカウンターが間に合わない――――そう悟った俺は大きな隙ができるのを飲み込んだ上でしゃがみ込み回避に成功する。そして、その隙をなくすためしゃがんですぐ立ち上がりその勢いで顎を狙ったアッパーカットを放つ。
「……うおっ」
しかし、俺の攻撃も当たらず。それもいきなりクロウがバク宙をして俺の攻撃を避けたからだ。しかもその流れと勢いで放ったクロウの返しの蹴りが俺の腕に命中した。
地味に痛いな……。
どうやらバク宙に飛行アビリティを用いたらしい。道理でそれなりの攻撃力があるわけだ。その証拠にクロウの背中には唯一ある輝かしい翼が展開されている。なるほど、ただ飛ぶだけではなく、こういう動きにも飛行を利用できるのか。
俺の体力は5%削れてクロウは3%ほど削れている。
「今度はこちらから行きます!」
そう宣言したクロウは翼を展開させたまま俺の方へと跳びながら突っ込んで来る。
突進か? なら俺へ接触した瞬間にカウンターを喰らわ――――いやこれ全然違うわ。俺へと近付いてきたクロウはただ単純な突進攻撃をするわけでもなく、空中を活かした文字通り縦横無尽な立体的の格闘をしてくる。
翼を揺らして完璧に軌道を操り上から下から右から左からはたまた斜めから――――様々な角度から殴打や蹴りが飛んでくる。捉えようにもずっと同じ高さにいるわけでもなく、ちょくちょく高さを変えてくるから攻撃の軌道が読みにくいし、なんなら視界外からも飛んでくる。
「チッ」
ヤバいな、これはかなり厄介な攻撃だ。距離を取ろうにも俺の脚よりクロウの飛行速度の方が速いからすぐに追い付かれる。対応も早い。一連の動きを含めて一朝一夕では身に付かない練度を感じる。
普通に何発も攻撃を喰らっている。ちょいちょい防御はしているけど、それ以上に攻撃の回転数が多い。全部を捌くのはキツい。頼むからここで『未来推定』発動するなよ。そこに意識取られたら一気に体力が削られる。
うーん、これは予想以上に後手後手だな。俺に攻撃を当てるってことは微量ずつながらもクロウの必殺技ゲージが貯まる。つまり、飛行アビリティに使っているもののゲージが空になるまで時間がかかる。
この空中攻撃を何回もしてきたのか対応も手慣れている。適当な動きだと俺の首を絞めるだけだ。ならば、俺しかできない、そしてクロウの意識を緩める行動をする必要がある。
何がある――――考えながらクロウの攻撃を捌く。少しずつ当たる回数は減ってきたがじり貧だな……。こうも密着されると取れる行動が限られる――――そうだ。
▽▽▽▽▽
――――イケる。僕のエアリアル・コンボは……この攻撃は通じている!
ハルユキはそう思いながら八幡へと攻撃を続けている。
この一連の攻撃はハルユキの師匠でありレベル9の黒の王、黒雪姫でさえ初見の際は防御に徹するしかなかった技だ。
エアリアル・コンボは翼のフィンの動きを細かくランダムに動かすことで、両手両足全てを駆使した切れ間ないラッシュを生み出すことができる。翼の動きからクロウの攻撃まで全てがランダムで先の攻撃を読むことができない。
ただでさえ慣れた相手ですら苦戦するこの技に、今までクロウの戦いを見たことがない八幡なら尚更この動きには付いていけない――――そう確信したハルユキはここで勝負を決めるべく、ラッシュを加速させる。
「――――ッ!」
「いって……」
エアリアル・コンボの勢いが付いた蹴りが八幡の腹部に命中する。八幡の体力も悪態付いた声と共に5割を切り大きく後退する。そのことで体勢も今まで以上に崩れ、チャンスと感じたハルユキはそのまま距離を詰める。
そのままもっとより強い攻撃を繰り出そうとした瞬間――――
「へ? ――――うわっ!」
いきなりハルユキの視界が真っ暗になる。と、同時に今度はハルユキの腹部に衝撃が走る。どうやらお返しに蹴られららしいと悟る。
一体何が起こったのか原因を探るが、それはすぐに分かった。八幡の返しの一撃ですぐに視界が開けたのだ。ハルユキの視界を奪ったその原因は――――
「布……って、これマントか!」
下に落ちたマントをチラッと見たハルユキ。
八幡のアバター、ダークネス・エンペラーには漆黒のマントが付いている。今回はそれを外し、ハルユキの追撃のタイミングに合わせて被せたらしいと察する。シビアなタイミングをさることながら……。
――――ていうか、それ着脱可能なんだ……。
一瞬そう思い気が抜けたが、すぐに思考を切り替える。確かにマントを用いた反撃はされたが、これは一度しか使えない猫だましみたいなものだ。
――――大丈夫、僕の優位性が損なわれたわけじゃない。
そのように判断したハルユキはエアリアル・コンボを再開する。縦横無尽さを売りとした、ランダムで強力な攻撃を。八幡は少しずつこの攻撃に慣れてはいるが、まだ全てに対応し切れていない。現に半分以上の攻撃には当たっている。
――――このまま押し切る!!!
と、エアリアル・コンボを続ける中、左斜め下から繰り出した鋭い蹴りは――――
「なっ……!?」
八幡の……いや、闇のごとき真っ黒なエンペラーの両腕でしっかりと掴まれていた。
なぜこうピンポイントで掴まれた? 黒雪姫ですら反撃できず防御に徹するしかなかったこのエアリアル・コンボをまさか初見で? もしかして完全に見抜かれたのか? そうハルユキの疑問が尽きない間にも、八幡は口を開く。
「そろそろこっちの攻撃も喰らっとけ」
空中にいるハルユキの片足を両腕で振り抜き、ひたすら力任せに地面へ叩き付ける。
「クッ――――!」
その衝撃は凄まじく、たったこれだけの攻撃でハルユキの体力は半分を切ってしまう。たった1発の攻撃、これだけで今までエアリアル・コンボで削ってきた八幡の体力と並んでしまった。
「もう1発……」
地面に叩き付けられたハルユキへ追撃を行う八幡。サッカーボールを蹴る要領で蹴ろうとするが、もうすでに意識を回復させたハルユキは地面を転がり、追撃を回避する。
「って、さすがに喰らわないか……」
「え、えぇ、あれは予想外でしたがこれ以上はやられません」
一度仕切り直しなのか軽く会話を続ける。
「ところで、どうやって僕の攻撃を見切ったんですか?」
「あ? あれか? あの空中の攻撃だろ? いや全然見切ってないけど。ていうか、あんなの早々見切れるわねねぇだろ。スゴすぎだわあれ」
「え……じゃあどうして?」
「あれは単純に狙いを付けてただけだぞ。あの角度の攻撃だけを防ぐ……つーか、掴むことだけを考えてた。マントで目隠ししてから少し一息付けて余裕できたからな」
呆気からんと言う八幡にハルユキは戦々恐々と驚く。
あのエアリアル・コンボは基本的にランダム。1歩間違えれば、狙った角度が来ないまま体力が尽きてしまっては元も子もないというのに……。
「そんじゃまぁ、そろそろ再開するか。とはいえ、素晴らしい技を魅せてくれたお礼に……せっかくだ、着装――――ブレード・オブ・フュージョン」
そう告げた直後、突如として八幡の手に漆黒の剣が現れる。
「これが……」
――――先輩の言っていた、エンペラーさんの本気……! 確かに、剣を握っただけなのにとてつもないプレッシャーだ!
八幡の握った剣の迫力に圧され、ジリッと少し後ずさる。
「エンペラーさんは、どうして最初から剣を使わないんですか……?」
不意に訊ねるハルユキ。理由の一部は黒雪から訊いていたが、それでも訊ねてしまう。
「ん……あぁ。そこまで特別な意味合いないけども。素手の方が自由に動けるし、わりかし身軽だからな。コイツけっこう重いし。それに、黒チビから訊いているかもだが、これは黒チビと系統は全然違うけど何でも斬れる剣だ。だからまぁ、剣を当てることを重視しすぎて動きがどうも単調になりがちだったんだよ」
「単調に……?」
「そうそう。今でこそマシだが、最初の方は色々となぁ、そのせいでかなり負けたりしたから基礎の動きができるようになろうとできる限り剣を使わないようにしたってだけだ。まぁ、思いの外性に合ったんだがな」
それだけ言うと八幡は剣を構える。
「つーわけだ、クロウ。コイツに――――当たるなよ」
これが、ハルユキがこの対戦で訊いた最後の言葉だった。
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