この加速する世界で   作:NowHunt

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楽しいと逃げたいは両立する

【UI> 皆さん、こんにちはなのです】

「謡ちゃん、やっはろー!」

「こんにちは謡さん。暑くなかったかしら?」

【UI> 大丈夫なのです】

 

 奉仕部で美早のいるケーキ屋に行く約束をし、それから時は流れ2日後。こうして俺たち奉仕部と謡は練馬駅で合流した。

 謡はこの前の土曜日授業参観やらで振替休日ではないが、授業短縮として午前までだったらしく、誠に残念ながら一緒に行くことになった。

 

「暑い……帰りたい……」

「ほらほらヒッキー、弱音言ってないで案内してよ」

 

 俺の怨嗟は由比ヶ浜によって封じられた。

 

「…………」

 

 俺たちはテストが終わり次第、一度帰宅し着替えたから私服だ。俺はシャツ1枚に薄めのジーンズという適当な格好。

 雪ノ下は白いシャツに紺色のジャケットを羽織り、スラックスを履いている。パット見はスマートと言えるだろう。由比ヶ浜は英字の入った、少し大きめのサイズのシャツを着ている。ベージュのチノパンもあって全体的にゆったりとしている。

 

【UI> 八幡さん、どうしたのですか。暑さにやられましたか】

「いや、何でもない」

 

 あまり凝視するわけにもいかず、謡に視線を移す。

 移すはシンプル、真っ白なワンピースに身を包んでいる。如何にも小学生らしい格好だが、大人びている雰囲気も相まって非常に似合っている。

 

【UI> ところで、ここから行くということは美早さんのとこですか?】

 

 そう謡からただの疑問といったように個人チャットが届く。諌めるわけでもなく、ただ不思議に感じての内容だった。

 まぁ、練馬を集合場所にしていることから、さすがに露骨というか察せるか。

 

『話の流れでそうなっただけだ。他意はない』

 

 とだけメッセージで返しておく。

 

 しかし……本当に暑い。さすが夏の容赦無い日差しだ。ここにいるだけで体のあらゆる水分が抜けてしまう錯覚に陥ってしまう。もうムリ、帰りたい……。

 

 首に付けているニューロリンカーを外したいくらいだ。正直かなり汗が溜まる。

 外したら謡と会話できなくなるから付けておくしかないんだけどな。

 

 このままだと練馬にいるBBプレイヤーから対戦を申し込まれる可能性がある。とりあえず練馬に着いた瞬間に既にいた謡とタッグを組んだから乱入されることはほぼないだろう。前みたいな突撃アンド空中バカみたいなタッグが来ない限りは安心だ。

 

【UI> 八幡さんが自らの意思で会いに行く、というのはなかなかなさそうなのです。久しぶりに私に会いに来たときもフーねぇから言われたそうですし】

「よく分かってるじゃねーか」

 

 実際、何かしらの理由を作ってもらわないと自分から行動に移すことはなかなかない。それが俺だ。

 なんて自慢することではないのだが……。というより、千葉から東京に行くのが面倒というのもある。用事があっても尚更だ。あんな人が多いところボッチの敵地だ。

 

 そろそろ美早がいるかもしれない店に移動するにあたって、1つ嫌なことに思い当たる。思い出すのは先日のこと。謡、美早と揃うと次は……。

 

『そういや倉崎には今日のこと伝えてないよな?』

 

 これまた個別チャットで謡に呼びかける。

 謡は目を閉じどこか疲れた様子で首を振る。

 

【UI> 今日は声をかけていないのです。たしかフーねぇはテストがまだであり、今も学校のはずです。それにこの前の一件で少し忙しいので、さすがに来ないとは思いますが…】

 

 この前の一件……あっちでのゴタゴタか。加速研究会、ISSキット、それらの問題の解決やらがあるみたいだ。

 

 まぁ、それなら良かった。倉崎の勘の良さは異常だからいつ突撃されてもおかしくはない。けれど、物理的に来るのが不可能なら安心できる。

 個人的な感覚になるが、倉崎はどうも雪ノ下さんと近いんだよな。何かこう、雰囲気やら俺にとっての立ち位置やら。

 まだ倉崎の方が可愛げあると思うけど。苦手意識とまではいかないけど……それに似た感情は持ち合わせている。雪ノ下さんは魔王だからね。どちらも美人なのが余計にな。

 

「おーい、ヒッキー。案内してよー!」

 

 由比ヶ浜に呼ばれ会話を中断する。

 

「おう。……行くか」

【UI> はいなのです!】

 

 

 練馬駅からしばらく歩き、目的地のパティスリー・ラ・プラージュという店に着いた。

 

 その道中、謡は雪ノ下たちと楽しそうに話していた。

 どうやら一昨日見せたホウについての話題が中心だった。まだ小学生の身であって1つの命を育てているのは本当にスゴいことだと、真正面から褒められていた謡はどこか面映い表情を浮かべていたな。可愛らしい一面もあるんだな。

 

 俺はそんな彼女らの後ろをひたすら付いていっただけだ。複数人で出かけると必ず1人はあぶれて後ろをコソコソする現象に名前付けません?

 

「へぇ、ここなのね。平日なのに賑わってるわ」

「オシャレな外観だね!」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜が各々感想を言いながら店内に入る。エアコンの涼しい風が出迎えてくれる。生き返る……。素晴らしい、人類史上最大の発明だ。もうエアコンなしでは生きれない!

 そんなことを考えているうちに店員が案内してくれる。どうやら雪ノ下がさっさと動いてくれている。4人テーブルは空いていたようで俺たちはそこに座る。

 

 何か大事なことを忘れているような…………そうだ、美早だ。まずアイツがいるかの確認をしなければいけない。

 

 イスに座ったと同時に思い出し、俺はさっと店内を見渡す。

 とりあえず見える範囲にはいない。店員は若い女性が3人ほどホールにいるだけだ。若いといっても恐らく大学生以上の年齢だろう。

 たしかパティシエ見習いらしいから、ホールではなく厨房にいる可能性はあるが、今はまだ14時過ぎ。恐らく学校だろう。

 

 一先ずいないことに安堵し、ケーキの注文に向かう。

 俺は苺のラビリンス――――美早が作ったかもしれないケーキを頼む。前に食べたとき非常に美味しかったからまた食べたいと思っていた。

 他の皆もそれぞれ注文が済み、再度テーブルに集まる。雪ノ下がコホンと咳払いをして。

 

「じゃあ、改めて本日は……いえ、音頭とる必要はないわね」

「飲み会じゃねぇしな。どっちかっつーと女子会だろ」

 

 俺という異物がいるけど。

 

【UI> ではいただきます、にしますか?】

「そうだね! いただきます! ほら、ヒッキーとゆきのんも」

「えぇ、いただきます」

「いただきます」

 

 全員でそう言い、皆して最初は静かにケーキを食べる。数口ほど食べてから由比ヶ浜は称賛の声を上げる。

 

「スゴい美味し〜い」

「ホントね。さすが比企谷くんのオススメかしら。由比ヶ浜さん、一口交換しましょ?」

「うん!」

 

 笑顔で互いのケーキを食べる姿を見て、コイツら本当に仲良いなと思う。雪ノ下からさらっと交換の申し出するのが意外なまである。

 そんな様子を見ながらケーキを食べていると、俺の袖口がちょいちょいと引っ張られる。……隣にいる謡からだ。表情は2人を見てどこか目を輝かせている。

 

【UI> 八幡さん、私たちも交換するのです】

 

 提案は案の定だった。

 

「俺はいいよ」

【UI> えー、なのです】

 

 わざわざ小学生の分を貰うつもりはないから。そこまで畜生になるつもりはない。

 

「俺のやるから、好きなだけ取りな」

【UI> いいのですか! 前からその苺のラビリンス気になっていたのです。今日はザッハトルテの気分だったのですが。あ、だったら食べさせてください!】

 

 ……ん? 今この子何と言った?

 

「食べさせ?」

【UI> あーん、なのです】

 

 こちらの有無を言わせず、俺の方を向き目を閉じ口を大きく開ける謡。そんな女の子らしい可愛い仕草に目を背けたくなるっていうか、実際背けた。

 チラッと謡から視線を逸らすと、俺の目の前にはそれを凝視する奉仕部の2人がいる。まるで何か咎めるかのように俺を見つめている。

 

 なにこれ詰んでる?

 

「…………」

「――――」

 

 2人の視線が痛い。が、やるしかないだろう。こう見えて謡は強情だ。納得するまで引き下がらないのは理解している。

 

「はいどーぞ」

 

 ひたすら感情を籠めず棒読みで一口食べさせる。できる限り謡の顔を見ないよう。いくら謡が相手でも気恥ずかしいからね。多分小町なら恥ずかしがらずにできる。

 

【UI> と――っても美味しいのです】

「そりゃ店の人に言ってあげてくれ」

 

 謡は手を頬に当て満足そうな表情を浮かべる。なにこれ可愛い。

 どこか呆れた目を向ける雪ノ下は。

 

「貴方たち本当に仲が良いわね……」

「お前らほどではないな」

 

 その俺の適当な返答に対し、由比ヶ浜はなぜかえへへと照れたように頰をかく。雪ノ下も雪ノ下で顔を若干赤らめ逸らしている。百合のんなの? 百合ヶ浜なの?

 なんてくだらないことを思いながらブラックのコーヒーをチビチビ飲む。

 

 それからしばらく世間話を挟みつつ談笑は続く。

 

 主に由比ヶ浜か謡が話を切り出し、俺と雪ノ下が答えるといういかにもコミュ力の差が如実に出ている流れだ。主に奉仕部がしてきたことの話や俺と謡の話やらだ。

 話しかけられたら受け答えはできるが、自ら話を振るのが苦手という人見知りにありがちなやつ。これも何か現象付けない? ただのコミュ力不足? それはそう。悲しいねバナージ。

 

【UI> 八幡さんって進学で東京には来ないのですか?】

 

 今度の話題は俺の進学の話になる。

 謡と俺では年齢がそれなりに離れているのに気になるのだろうか……。中学生にもなっていない謡が大学気になるもんなのか疑問だ。身近な奴がどんな道を進むのか気になるのかって問われたら俺の回答は多分イエスだろう。それと似た感覚かな。

 まぁ、とりあえず回答はするけど。

 

「滑り止めっていうか、いくつかは受ける予定だけど基本的に志望するとこは県内……千葉の予定だ。まぁ、千葉つっても館山とかの千葉の端の端に行くなら東京行きたいけど」

 

 館山辺りがどこっていうとチーバくんの足の方ね。決して馬鹿にするつもりはない。海とか綺麗だし観光で遊びに行くならいい選択肢かもしれないけど、あの辺りに進学となったら大変かもしれない。今住んでいる場所とは距離がかなりあるから一人暮らし確定だろうし。

 

【UI> もし東京へ進学となったら私の家に住みますか? 部屋かなり余っていますので】

「謡んちかなり広いけどな……さすがに遠慮する。世間体やらで俺が死ぬ」

 

 フフッと笑いながら冗談交じりで告げる謡に対してマジレスする俺。

 まぁ、場所にもよるけど東京の大学なら千葉から通えないこともない。できるかぎり実家に居座りたいマンです。

 

【UI> でも小町さんたちに話を通せばきっとイケそうなのです】

「お前マジで暗躍するなよ? やりそうだから」

「なーんか小町ちゃんならノリノリでヒッキー送りそう」

「否定できないわね……きっと親御さんが止めるでしょうけれど」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜からの小町評。

 よくお分かりで。ぶっちゃけ俺も小町なら悪ノリしそだなとひしひし感じる。

 そして残念なことに両親もその提案を受け入れる可能性がある。お袋も親父も一度はどこかのタイミングで一人暮らしを経験した方がいいと話していたことがあるからなぁ。

 

「だから謡ちゃん、そんなことしないでね!」

「そもそもこの男が都内の大学に受かったらの話でしょう」

「まぁ、どこにしろ大学受からないとそんな話意味ないしな……ハッ」

 

 自分で言いつつ思わず鼻で笑ってしまう。果たして受かることはできるのだろうか……。第一志望の大学の模試判定はそこそこといったところ。うーん、お先真っ暗だわ……。

 

「て、ていうか! せっかくケーキ食べているんだしそういう暗い話やめにしよ」

 

 由比ヶ浜の一言はたしかにと納得できる。なんなら納得しかしないまである。

 こういう時間くらい現実逃避したい。サボっているという罪悪感はあるけど、そこは帰ってから取り返せばいいだろう。

 

【UI> ではそうですね】

 

 何やら思案顔になる謡。次の話題を探そうとしているのか指を空中にクルクルさせている。

 

【UI> さっきまでお互いの出来事を話していたわけですし、ここらで趣向を変えて今度は恋バナでもしてみますか?】

 

 と、いたずら心満載の微笑みを浮かべ俺たちに伝えてくる。

 

「こ、恋バナ!? えぇ!? それは、え、えーっと……」

 

 それに過剰に反応するのは由比ヶ浜。頰を赤らめアタフタしている様子がよく分かる。小学生に手玉取られる高校生ってどうなの……。

 

【UI> もちろん恋バナと言っても……例えば、自分の憧れるシチュエーションとかそういう話題中心なのです】

「実際に好きな人を話すとかそういうんじゃなくてか」

「そのくらいなら……」

 

 あまり乗り気じゃない俺と雪ノ下。お互い黒歴史まみれだなこの人選……。黒歴史と言えば月光蝶でも使いたいな。記憶どころか文明まっさらになってしまうけどね。

 

【UI> 周りでそういうこと話す機会少ないのでしてみたかったのです。憧れというやつですね】

「小学生同士ならそうだわな」

 

 そのわりにはこの前ここで似たような話、美早たちとしなかった? 忘れちゃったの?

 いやあれは恋バナだろうか? そう会話を思い出してみたが、まぁ恋バナの部類に入るだろう。恋バナっていうか俺への尋問のような形だったのは気のせいかな。

 

「じゃあ、それぞれお題を出す感じにする? もちろん答えれる範囲でムリせずに!」

 

 こういうときの由比ヶ浜は頼もしい。流れに便乗してできるかぎり詰まらない答えを出して存在感を消そう。

 

【UI> 了解なのです!】

「誰から話す? 比企谷くんから?」

「雑に押し付けんな。世の中レディーファーストだろ。ほらいけ雪ノ下」

「ここぞとばかりにそういう言葉使わないでもらえる? まぁいいけれど……そうね」

 

 すんなりと了承したな雪ノ下……。いつもならもう少し粘って俺に押し付けるところだが……。

 指を顎に当て雪ノ下は早速お題になるものを考えている。

 

 その仕草を見てふと思った。

 最初のお題ならどれだけハードルが低くても自分で空気を作れるのだから誰にも文句は恐らく言われない。自ら率先と動く人に対していきなり避難する人はかなり少ない。もちろん、この中にはいないだろう。

 だとするならば、俺がするべき行動は最初に無難なお題を出してあとは適当に回答するという流れだった。

 

 しかし、雪ノ下がそこまで考えていたかは不明だ――――いや、こちらを見てニヤッと微笑を浮かべている。コイツ……! 全部分かっていて自分が最初になるように誘導した!?

 

 涼しい笑みから一転、普段と変わりない表情に戻った雪ノ下は口を開く。

 

「憧れるシチュエーション関係よね。最初だから簡単に……異性と行きたいデート場所は?」

 

 ふむ、無難と言えば無難。

 

「デート場所かぁ。これって発案者……今回だとゆきのんも答えるの?」

「そこは流れでいいだろ。答える流れなら言う。別に必ず答える必要もないってことで」

「そうしましょう。ではまず謡さん……いえ、小学生がトップバッターというのも……由比ヶ浜さんからどうぞ」

 

 まぁ、俺か由比ヶ浜になるよな。雪ノ下なら気を遣うと思った。俺なら気にせず謡に振る自信はある。そんな気を遣う間柄でもないし。

 

「あたしかぁ……うーん、どこかモールでウィンドウショッピングしたり映画館で映画見たりとか? 時間があるなら泊まりで観光地とかもいいよねぇ」

 

 いかにも由比ヶ浜らしいというか、ごくごく普通の女子高生らしい回答だと思う。勝手な主観になるけれど。

 

【UI> そういう場所だと相手に気負わず、のんびりできそうなのです】

「同感ね。もし会話など詰まっても、話題は尽きそうもないし色々とアドリブも効きそうだわ。そのような場所に多くのカップルがいるからこそ、間違いはないでしょうね。ま、学生という立場、金がかかりすぎるというのも難しいもの」

「相手を知るって意味合いでも丁度良さそうだと思う。ゲームやアニメでも定番だもんな。定番に外れはないだろ」

 

 だいたいゲーム序盤や個人ルート入ってからよくある流れだ。ショッピングモールでヒロインの悩み事聞いたり主人公が相談したり……と、。

 

【UI> 八幡さんの言っているゲームって……】

「エr……ギャルゲとかのノベルゲームとかだな」

「…………貴方、小学生の前では自重しなさい」

「ごめんなさい」

 

 ジト目の雪ノ下に諌められる。

 

 思いきりエロゲーって言いそうになったわ。

 いやまぁ、謡にそういうゲームしているって知られているけど。たまに直結されたときがっつりデータ見られましたはい……。あれはめちゃくちゃ恥ずかしかった。今どき思い出しても死にたくなるな!

 

 コホン……と咳払いした雪ノ下は俺に視線を移す。

 

「では、気を取り直して次に比企谷くん」

  

 あ、指名制なのね?

 まぁ、多少は真面目に考えるか。

 

「俺はそうだな……人が少ない場所? なおかつ静かな場所がいい。人混みは苦手だしな」

【UI> 八幡さんならそう言うでしょうね】

「でも、今どき人が少ないデートスポットなんて珍しくない? どこがありそう? 大きい公園とか? ピクニックでもする?」

「デートで公園……比企谷くんのコミュ力で大丈夫? 時間潰せる?」

「自信ないな!」

「豪語するわね……」

 

 沈黙になったとしても平気と言える相手でもそういう場所はキツいかもしれない。10分と保たなさそう。となると、由比ヶ浜が挙げたモールなどは会話に困らなさそうではある。歩けば店などがあるからな。

 

【UI> 他には美術館は博物館などは静かでしょうね】

「渋いね謡ちゃん……。あたしは芸術とか分からないし選ばないかなぁ。あ、でもプラネタリウムとかいいかも! 他にはうーん、郊外の自然が多めの観光地とか? 場所によると思うけど」

「由比ヶ浜さんの意見に近いけれど、もし車があればドライブという選択肢があるわね。田舎の観光地にもアクセスしやすそうだわ。それこそ今どきほとんど自動運転で風情がないかもしれないけれどね。ま、そこは体力温存でトレードオフかしら。私はあれね、カルスト見てみたいわ」

「四国の?」

「行けるならどこでも」

 

 最近の車なんて音声入力したら目的地まで自動運転だしな。敢えて運転する人もいるが、半分以上は機械がアシストしてくれる。

 便利な世の中になったもんだ。こんな便利なものが多くあるのに働かなくてはいけないとはやっぱり社会が間違っているのでは? 早く誰かこのバグ修正してほしい。

 

【UI> 東京だと人が少ないデートスポットというのはあまり思い浮かびませんね。都市部はどこへ行ってもだいたい人が多いですし。となると……お家デートも一応八幡さんの言うことに含まれますかね?】

「あー、外じゃダメってこともないもんねー。デートって感じがあんまりしないけど、通話とかVRスペースで話すのもいいのかな?」 

「比企谷くん出不精だものね」

「喧しい。その通りだけど」

 

 理由もなく外へ行きたくないですね。

 というか、皆してわりと真面目に考えていることに驚いた。こういう俗な話題はどんな女子にしろ大好物というものということか。

 まぁ、ここらで一区切り付いたと感じた俺は次の人へと話を振る。

 

「んじゃ、俺の回答はこれくらいにして、次は謡か?」

【UI> むむっ、私ですか。……そうですね、私がどこへというより、相手をより知るという意味で、相手の行きたい場所を事前にそれとなくリサーチしておくのです】

 

 その回答はどこか小学生離れした達観した内容だった。君、ホントに10歳なの? 実年齢と実際に過ごした時間はBBのせいで一致してないけど。

 

「なんだか大人な回答ね。自分本位でないところとか特に」

「同感」

「謡ちゃん、やる〜」

 

 謡は俺らの反応にどこか面白そうに上品な笑みを浮かべる。

 

【UI> やはりデートに行くなら少しは印象よくしたいですしね。と……私の話はここまでにして、次の話題は誰にします? 八幡さんにしますか?】

「別に構わないが。つってもなぁ……雪ノ下みたいにパッと出てこないなぁ」

 

 すぐには思い浮かばず、しばし逡巡する。

 謡曰く憧れるシチュエーション。雪ノ下は異性と行くデート場所はどこがいいかだった。その内容と似た傾向となると……。

 

「じゃあ……将来付き合いたいであろうパートナーに何を求めるか」

「というと?」

 

 少し分かりにくかったのか雪ノ下が問い返す。

 

「要するに見た目だったり性格だったり……これさえあれば一緒にいれるぜって意味合いに近いかな」

「なるほど。……何となくニュアンスは伝わったわ。ちなみに比企谷くんは何を求めるの?」

「金」

「殴られたいの?」

「冗談だって」

 

 だから皆して俺をゴミを見る目で見るのは止めてくれ……泣きたくなる。

 

「俺はそうだな……お互い気負わない関係性で」

 

 一応真面目に答える。

 ずっといるならその辺りが必須条件だろう。

 

【UI> たしかにそれは重要ですね。いくら顔や性格が良くても、どこかで馬が合わず一緒にいることが苦痛だったら大変なのです】

「逆にそこさえ大丈夫だったら他のことはある程度飲み込めそうね……」

「一緒にいながら、ずっと気を遣うのってキツいもんねぇ」 

 

 グループの中心にいながら人間関係に悩んでいた由比ヶ浜だからこそ説得力ある言葉だ。雪ノ下も雪ノ下で妬みなどから排他されてきた経験がある。そのためか深いため息を吐いている。

 この辺りの過去話は謡には話していない。暗い話題だからなぁ。小学生に言う内容でない。

 

「謡はなんかあるか?」

【UI> そうですね……色々とありますが、突き詰めれば八幡さんの近い内容になってしまいそうなのです】

 

 と空中をタイプしながら――――ふと何かに気付いたように俺たちから視線を別の場所へ移す。何を見ているのか気になり俺も謡と同じ方向を見る。

 レジスターの方? いや、その近くにあるバッグヤードへと続いている扉の方だ。どうやらその扉が開いたから何となく視線を追っていたみたいだ。つられてそのまま俺も見る。

 

 誰か出てきたらしい。遠目でも分かるくらい特徴的な朱色を基調としたメイド服のようなこの店のユニフォームを着ている女性店員。長めの髪を三つ編みにしており、どこか無表情な顔をしている――――美早だった。

 

「…………」

 

 しまった。今日はシフトの日だったのか。入ったときにはいなかったこともあって油断していた。

 でもまだ学校にいるはずなのでは? そう疑問に感じ時間を確認するも、既に夕方もいい時間だった。まぁ、学校も終わりここにいてもおかしくない時間帯だ。ケーキを食べ話し始めてからわりと時間が経っていたらしい。

 

 俺はすぐさま視線を雪ノ下たちの方へ戻し会話を続けようとする。

 

 しかし現実はあまりにも非情である。起きてほしくないということが起きる。起きてほしいことは起きない。世の中上手いこと進まない。得てして社会はそんな無慈悲なことが連続して成り立っている。

 つまり――――俺の望みは叶わない。

 目は合っていないけど、向こうは恐らく気付いただろう。平日の夕方……客が女性ばかりのイートインスペースに男がいることに。そしてその男の雰囲気は異様に暗く腐っており、圧倒的なまでに異質だということに。おいコラ止めろそこまで言うな泣くぞ。

 

 ……うわ、こっちへ近付く足音がコツコツと響いている……。なんなら隣にいる謡が美早に会釈しているまである。目線は合わせない……合わせない。他人の振りを貫き通せ。

 

「八幡、何してるの」

「……見りゃ分かるだろ。ケーキ食べてるだけだ。働け無愛想店員」

 

 うん、ムリ!

 誰か助けて…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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