この加速する世界で   作:NowHunt

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ここは地獄か極楽か

「メイデン、レパードも。生きてる? 元気?」

 

 まるで意地の悪いような、それでいてやたら気さくに声をかける人がいる。

 

「エンペラー……どうして」

「なんでエンペラーさんが……ネガビュに?」

 

 絶体絶命に陥り全滅を覚悟した美早と謡はダークネス・エンペラー……八幡が彼女たちを助けてくれた。

 ただでさえその事実に驚愕しているのに加えて、その直後にネガ・ネビュラス所属と名乗りを上げた様子に対して同時に微かな声を上げる。

 嬉しさはありつつも先ほどの名乗りに対して少なからず驚愕さが勝っている様子だろう。

 

「じゃなきゃここにいるのムリだろうに。詳細は黒チビかレイカーへどうぞ。こちとら新参者なんでね。よろしくな先輩方」

 

 まぁ1日限定だが、と内心付け加える八幡はどこか呆れた口調で軽口を叩きつつも後方にいるネガ・ネビュラスのメンツに向き直る。

 全員HPがどれだけ残っているかは不明だが、誰一人とて殺られることなくいることに安堵する。

 離脱していったクロウとベルも無事であってくれと願いつつ、現状を確認するため近くにいる楓子に声をかける。

 

「おいレイカー、領土戦のはずなのになんで俺ら無制限フィールドにいるんだ。まさかとは思うがあのときの光」

「ですね。どうやら相手側の心意のようです。信じられませんが、強制的に無制限フィールドへと変貌させる心意技……ということでしょう」

「んだそれ。ムチャクチャ過ぎるだろうが。あっちは何でもありか」

 

 そう愚痴る八幡を横目に楓子も呆れたようにため意をつく。

 

「それは貴方もでしょうに。なんですか貴方の心意技は。充分反則レベルですよ」

「注文通りちゃぶ台ひっくり返したのになにその言い草。俺泣くよ? みっともなく泣くよ?」

「はいはい」

 

 冗談めいた口振りはさて置き、一応は真面目な口調で。

 

「さすがにこれは人前で使うの初めてだからな。なんならメイデンにも見せたことも教えたこともない。引退してから編み出した心意……まぁ、なんだ。想像力や妄想力に関しちゃボッチが最強ってことで」

「貴方がボッチ、ねぇ……? あれだけ侍らせ……いえ、深くはツッコミしないわ」

  

 何か責めたいことがあったのか色々と言いたげな様子だった楓子はこれ以上追求せずに脱線した話を戻す。

 

「それで貴方の心意技って、もしかして私たちも必殺技に心意技は使えないってこと?」

 

 エンペラーの周りに咲いている黒い輝きを放っている百合を一瞥しつつ問いかける。

 何度見ても鮮やかな光ではなく、ひたすらにドス黒いその百合の数々は美しさなど垣間見えず不気味さを醸し出している真っ只中だ。

 

「敵味方区別関係なく使えるのは俺だけですねはい。当然お前らも使えないよ? そんな味方だけ認識していません、なんて言い訳通るわけもなく」

「ちょっと……!」

「助かったんだから良いだろ。必殺技ゲージ消費しないアビリティや強化外装は使えるんだから大丈夫だって」

 

 戦力としては相手側同様削られていることに少しばかし憤慨しそうになる楓子だが、それに救われたことに変わりないのでこれ以上は何も言わない。

 

「ねぇエンペラー、貴方のこの心意技……心意を無効化と話していましたが、この無制限フィールドを解除することは可能ですか?」

「……これは俺が相手を認識しないと効果は出ない。誰がどこで発動しているかも不明な上、相手側の立場で考えるとバレたくないから隠しているだろ。もし場所が判明しても多分ここからだと距離があり過ぎる。現状ムリだ」

 

 冷静に分析を試みる八幡。その声色はどこか苦虫を噛み潰したようにも聞こえる。

 領土戦を無制限フィールドへと強制的に変化させた心意技、これを根本的に解決することは八幡――エンペラーにはできない。それが分かっただけでも充分だろうと楓子は思案する。

 

「では鴉さんたちに託しましょう。……ところで? もうちょっと早く現れても良かったのではないですか? 私、ちゃぁ――んと依頼しましたよね」

「圧、圧が強い。悪かったって。てか基本的に手出ししないって話したろ」

「それはそれ」

「ったく。まぁいい。一応ここまで駆け付ける途中、向こう側の戦力削いでいたんだよ」

「あちらの? 誰を?」

「さぁ? 俺は見たことなかったけど、俺らと同じ黒で見た目が忍者っぽい奴な。文字通り建物の影に忍んでいたから、ハイドでバレないうちに不意討ちで首を斬ったわ」

 

 事前に黒雪姫から参加者のリストを貰っていた八幡は、隠れていたそのバーストリンカー――シャドウ・クローカーを見付け味方には該当しないことから奇襲をかけ一撃で倒していた。それもあり多少なりと遅れたというわけだ。

 

 その言葉を訊いたアイボリー・タワーとスノー・フェアリーはいつの間にか預かり知らぬところで味方が減っていたことにイラつきを覚える。

 

 予想もしていなかった者の登場、有利な盤面を綺麗にひっくり返される。

 ただでさえ兆候はなくまだネガ・ネビュラスはこちらに攻めてこないだろうと想定していなかった。しかし、事実としてハルユキたちはオシラトリ・ユニヴァースの領地へと攻め入れ、対応は少しずつ遅れてしまった。

 そこで心意技を用いて一度状況をリセットしようとしたところで、エンペラーが全てを無に帰した。これでイライラするなというのはムリがある。

 

 心意技も必殺技も封じられている今では取れる手段は少ない。2人は時折発動させようと試みるもエンペラーの言葉通り全く発動できない。

 とはいえ、他にも現状をどうにかできる手段は持ち合わせている。奥の手は当然所持しているモノだ。すぐに見せるかどうかはこれからの展開によるだろう。

 

 加えて他にも10人以上白のレギオンとしてのメンバーは潜ませている。しかし、今ノコノコとエンペラーの前に現れても何もできない木偶の坊へと成り下がる。

 だからこそ歯痒いことに一先ずレイカーたちの出方を伺い静観さぜるを得ない状態だ。

 

 八幡たちも白のレギオンの2人に気を配りつつこれからのことに思考を回す。

 

「グレウォの3人、お前らリアルでグランデと連絡手段はあるか?」

 

 臨時戦力として参加しているアッシュ・ローラーたちにそう疑問を投げかける。

 

「あ、あります! 緊急用のアドレスを貰っています!」

 

 ブッシュ・ウータンが緊張した面持ちで返事をすると八幡は頷く。しばし逡巡してから。

 

「レパードにカシス・ムース、メイデン、それと……シアン・パイルにブッシュ・ウータンだったな。お前らでポータル目指してここから脱出してくれ。そんでそれぞれの頭に現状報告を頼みたい。殿は俺らに任せてな」

 

 戦力を分散させるのはある意味賭けではあるなと八幡は考える。

 

 ここが今無制限中立フィールドである以上、どこまで再現しているか不明だがエネミーも当然いるだろうと推測する。どれだけ下級のエネミーでも強敵なことに変わりない。人数を別けたことによって不利になるかもしれない。

 故に確実に成功するとは言い難いだろう。しかし、いくらクロウたちが事態の解決を図っていようともいつになるか不明な現状、こちら側からも動く必要がある。

 

「エンペラーさん、私は……! 私もここで……!」

 

 その案に対してメイデン――――謡は不満を訴えかけるかのように、自分もここで戦いたいと自身の子である八幡を残して置いていけないという想いから残りたいと言いたげな様子を見せる。

 ただ、八幡が指定したメンバーのバランスの良さなど考慮すると妥当とも納得する。

 

「文句はあとでいくらでも訊くから」

「……絶対なのですよ」

 

 優しくかける声色に謡はどこか文句を隠し切れていなく、渋々ではあるが頷き行動を開始する。

 

「はいはい。レパードも頼んだ」

「任せて。……私もあとで言いたいことあるから」

 

 少し棘がある一言を美早も言い残しメイデンたちは急ぎ去っていく。彼らを追撃するのかフェアリーたちを見据えていたネガ・ネビュラスの面々だが、相手側2人は特にそんな動きは見せない。

 これは十中八九他にも味方が伏せているだろうと確信する八幡ではあるが、これ以上戦力を割くのは得策ではない。

 

「全くエンペラーは。いきなり現れた新人が指揮するのはどうかと思うわねぇ」

「別に誰だっていいだろ。てか我レベル7ぞ? なんなら今すぐ8に上げれるポイントあるぞ?」

「エンペラー、今貴方が現れた深い理由は訊かない。助けてくれてありがとう。ただこれだけ。あの人選の内訳はどういう?」

 

 レイカーとエンペラーが言い合っていると、彼らの横にスッと移動したアクア・カレントは念のためではあるものの問いかける。

 リアルで会ったこともない2人ではあるが時折連絡を取り合っている仲でもある。わだかまりもなくすんなりと会話を開始する。

 

「まず機動力あるレパードは必須だろ。赤でありながら近接に特化しているし。あざと少女をずっと気にかけている奴だから早めに離脱させたい。で、遠距離を見れるムースにメイデン。グランデへの連絡手段としてウータン。もう1人近接できるタンク役ほしいからパイル。アイツなら黒チビにも簡潔に説明できそうだって予想もある」

 

 ネガ・ネビュラスの詳しい性格を知らない八幡からすれば以前出会ったときの印象と黒雪姫からもらった情報を思い出し、純粋なバーストリンカーとしての性能で内訳の詳細を語る。

 

「……理に適っている」

「人数増やしても足並みを揃えにくくなるだろ。最悪誰か1人でも脱出できたらそれでアイツらに伝わるからな」

「こちらに戦力を残した方がいいと思うの。良い折衷案」

「そりゃどうも」

 

 淡々と語る2人に割って入るように楓子は優しく笑う。

 

「それだけじゃないでしょ? ねぇエンペラー」

「…………」

「親であるメイデンを心配して、あの子に早く安全を確保してほしい……そんなところね。あと仲の良いレパードにも、ね。全くとんだ親バカ……いえ、子バカかしら」

「……私情は挟んでない」

「あらあら」

 

 フフッとからかうように八幡の狼狽える様子を楽しんでいる楓子。実際言い当てられており、これ以上話してもこちらが不利になるだけだと悟った八幡は軌道を戻す。

 

「まぁいい。俺たちは数の利を活かしてとりあえずあの2人を殺そうか。そんで向こうの戦力削りつつクロウたちかレパードたちに合流しよう。脱出するか原因を突き止めるかね」

「そうね」

 

 ふとダークネス・エンペラーはわざとらしく妖しくほんの少し大きな声でオシラトリ・ユニヴァース相手に聞こえるように嗤う。

 

「あぁごめん。そういや1つ訂正するわ。殺すのは2人じゃなかった――――あと1人だな」

 

 その言葉に全員戸惑う。

 一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかったように見える。

 

 突如としてエンペラーの持つ大剣《ブレード・オブ・フュージョン》が鮮やかな蒼い光に包まれる。これは今現在この場において彼だけが使える必殺技発動の発光現象。

 

 だが、それだけでは終わらない。

 

 同時にその蒼い光を覆うように、呑み込むように黒い輝きを放つ。今度のそれは心意技の過剰光。

 もう蒼い光はとてもではないが見えないほどに黒く黒く黒く――――!

 

 

 

 

「《エターナル・ブレイク――――白夜》」

 

 

 

 

 エンペラーは小さく呟く。必殺技と心意技を合わせた言葉を。

 

 その場にいた誰も眼では追えない速さでダークネス・エンペラーは剣を一閃。

 ひたすらに速く早く振り抜く。

 

 直後1秒にも満たないラグでオシラトリ・ユニヴァースのスノー・フェアリーにその衝撃の全てが襲いかかる。

 

 

 

 通常のエターナル・ブレイクはエンペラーが剣を振った軌道の空間上を全て斬るという離れ業だ。攻撃力や射程は加速世界において唯一無二の性能を誇るだろう。

 

 反面、攻撃範囲という話だけであれば剣の幅わずか数ミリという弱点がある。どれだけ攻撃範囲が広くとも攻撃力は高くても――――相手に当たらなければ意味はない。

 当然その数ミリのズレが絶大な破壊力を生むのだが、剣の軌道さえ分かれば避けやすいという話でもあるのだ。事実、真正面からこの必殺技を使われても実力者であれば回避できるバーストリンカーはいる。

 そして、胴体か首を両断しなければ余程体力が削られていない限りは体力ゲージは残る。

 

 という理由があり、ピーキーな性能をしている必殺技、それが《エターナル・ブレイク》である。

 

 

 

 スノー・フェアリーもエンペラーの必殺技は知識として知っていた。対戦経験は少ないけど、エンペラーが現役のときであれば彼の必殺技は非常に有名な話であったからだ。

 故に警戒していた。先ほど奇襲として使われた際にビヒモスに救われたこともあり、次が来れば避けれるよう神経を尖らせていた。

 

 ……そう、これが通常対戦であれば回避はできた。ただの必殺技であったなら対応できた。もしくは自分も必殺技か心意技を使えたならば、きっと。

 しかし、既に叶わない願いだ。現在はエンペラーの心意技によって彼が認識している全員、それらは封じられている。

 

「…………ぇ」

 

 

 だからこそ、反応できなかった。回避できなかった。スノー・フェアリーの体力が尽きるまで――――何が起きたのか分からなかった。

 

 

 レイカーたちを救出するためエンペラーは一度《エターナル・ブレイク》を使用し、ビヒモスが使用した心意の氷柱を破壊した。

 だが、それはあくまで心意に対抗するのは心意が必要という原則に従ったに過ぎない。

 通常の効果となんら変わらない。発動させると同時にただただ心意を乗せた一撃であっただけ。

 

 だが、スノー・フェアリーを屠った今の一撃は違う。

 エンペラーは自身の必殺技《エターナル・ブレイク》に乗せた心意は攻撃範囲の拡張である。

 本来剣の幅だけが攻撃判定である数ミリ程度の攻撃範囲だった部分を大幅に増加した。その幅は1mほどにまで増大させた――――巨大な斬撃にまで強化する心意技《白夜》を合わせた《エターナル・ブレイク》をエンペラーは使った。

 

 空間を一閃、なぞった箇所の全部を斬る必殺技。

 加え、その斬撃の幅は心意技よって遥か巨大に。それは人1人など容易に呑み込めるほど大きく。

 

 皇帝は必殺技も心意技も自由に使え、しかして周りは使えず。通常であれば対処できたかもしれない攻撃。ただ皇帝が支配している現在、誰もそれを赦さない一撃。

 まるで横暴な暴君。ただただひたすらに、自身の有利なルールを押し付けてくる。

 その理不尽さについぞ抗えずにオシラトリ・ユニヴァースの一角スノー・フェアリーは呆気なく、その命を散らす。

 

 

「さて、どうせ追加の戦力やって来るだろうが一先ずあと1人。さっさと終わらせるか」

 

 死亡したフェアリーには目もくれず、どこか呆気ない口調で残ったアイボリー・タワーを見据える。

 

「さっきの一撃で必殺技の再チャージは間に合わなかったんで俺もしばらく必殺技は使えないわ。悪い」

 

 確実にフェアリーを倒すため、先ほどの八幡は剣を横に振るのではなく縦に振るった。そのため広範囲の攻撃にはならずに必殺技ゲージは再度完全には溜まっていない。

 

「今は何割あるの?」

「6割程度。背後にビル群少なかったししゃーない。お前らの体力削るわけなもいかないしな。とりあえず体力は余裕ある俺が雑に突っ込む。カレントたちは全体確認しつつ隙を見て援護してくれ。あと残りの奴らを落ち着かせたり?」

 

 2人にそれだけ伝えるとそれぞれ楓子たちは返事をする。

 

「私も行くわ」

「分かった。気を付けて」

 

 返事を受け取った八幡と楓子は同時に駆ける。

 

「とりあえずビヒモスたちが復活するまでの約1時間、それまでに片付けるぞ」 

「お釣りがくるわ」

 

 近接戦特化のエンペラーとレイカーのタッグでアイボリー・タワーの距離を詰める。

 

 まだ心意技と必殺技を封じる心意技は解除していない。そのため自前のアビリティと腕前だけで屠る必要がある。

 走りながらレイカーは問う。

 

「貴方の心意、あとどのくらい保てるの?」

「俺の頑張り次第。自分の意思で好きにできるが、やられすぎたら必然心意に使う意識がおざなりになる」

「なら死ぬ気で頑張ってちょうだい」

「今も充分してるよね?」

 

 軽口を叩きつつアイボリー・タワーまで2人は接近する。

 

「まずは俺から」

 

 とだけエンペラーは言い残し剣を握り一気にアイボリー・タワーの懐へと飛び込む。

 

「よう、久しぶりだな」

 

 まずは挨拶変わりへと一振り、威嚇がてら襲うがアイボリー・タワーは余裕を持って回避する。いや誰でも余裕を持って回避できる一撃だった。

 

「はて……久しぶりとは? 貴方が現役時の際にも会ったことはなかったはずでは?」

 

 たしかにエンペラーは数年前の現役時代、白のレギオンとの対戦経験は少なく、特に表舞台に出てこないアイボリー・タワーとは直接面識はない。

 

 しかしながら、前提が違う。

 

「いや、前に会って俺とのくだらない推測訊いてくれたろ。……てか、こうして見るとお前やたら威圧感あるくせに戦闘力はそこまでなさそうだな。早く別の姿になった方がいいだろ。あっちのが多彩な攻撃できるんじゃないの?」

「……何のことやら」

「何だったらブラック・バイスになって影に消えて撤退してくれてもいいぞ。そしたら俺らも安全に動けるし」

 

 その何気ない一言で、ほんの一瞬アイボリー・タワーの動きがブレる。

 

「随分と決め付けますね。これで間違っていたらどうするのです」

「別にどうもこうも……なんで傍迷惑な奴らに配慮する必然あるんだよ。お前、俺の、敵。オーケー? 誹謗中傷とでも言うのか。ブーメラン過ぎない? つーわけで、さっさと退場願おうか」

 

 心意技も必殺技も封じている現在、エンペラーの一挙一動が確実にアイボリー・タワーを追い詰めている。

 

 彼の見立て通りなのか戦闘力が低いためか反撃はしてこない。する隙がないという方が正しいかもしれない。

 しかしながら、アイボリー・タワーのレベルはエンペラーよりも高い8である。身のこなし、回避、防御は格段に上手く攻撃を捌いている。レイカーもエンペラーの攻撃の隙間を縫い援護しようとするが、彼女の立ち位置を見据え回避に徹している。

 時折攻撃は命中しているもののどれも軽傷程度。致命傷にはなり得ていない。

 

 とはいえエンペラーが本気を出し攻撃していないのもまた事実。口では手早く倒そうとしているが、こうやって普段表に出ないアイボリー・タワーが出張っている今だからこそ、明確な証拠を得たい。

 十中八九、この男が以前戦ったブラック・バイスだとエンペラーは確信しているが、その変身に対する手段を知りたいと考えている。領土戦から無制限中立フィールドに変化したため、どうあっても今は撤退戦ではあるものの、それならそれで些細な変化であれ打撃を与えてから帰りたい。

 やるからには徹底的に、追い詰める証拠を欲している。

 

 以前に黒雪姫と楓子へと語った『無茶して全部得ようとするか。生きているのが一番大事』といった意味合いの内容と矛盾した思考に内心苦笑しそうになる。

 

 だがすぐに気を引き締めアイボリー・タワーを観察する。

 

 

 ――――逃げながらも余裕綽々といった態度は崩していないか。不利になっただけで詰んではいない。当たり前ではある。

 

 ――――そのわりには反撃してこない? それともできない? 俺の心意技のせい? にしては大人しい気もする。

 

 ――――ここから逆転の手段がある? 必殺技ゲージを消費しない強化外装で仕掛けてくる? コイツ、表に出ることないから情報知らないのが厄介だな。それとも何か準備が終わるのを待っている?

 

 ――――バイスにはまだ変身しない。俺らに見せたくないから? いや、もしくは心意技だからできないか。さすがに必殺技ゲージ使うってことはないよな。

 

 

 エンペラー……八幡は攻撃しながらも様々な可能性が平行して頭に過ってくるのを抑えられない。一度距離を取り思考を回す。

 のらりくらりとしたい八幡の思惑に乗ってくれる。時間稼ぎしたい狙いがあちらにもある。簡潔に考えるのであれば。

 

「合図か増援を待っている」

 

 ふと呟きがもれる。

 

「つーと紫ダルマ……いや、そもそもこれは領土戦。無所属のアイツはいない? いや、俺のように隠れて入った? ないか。別にあの程度が乱入したところでたかが知れている。とすると他の幹部たちか?」

 

 考える。

 

「俺が認識していない相手の攻撃は俺の心意技で防げない。狙撃、奇襲。あり得る。射線が通らない場所を選んでいるが強力な技なら関係ない。心意技であるなら特に」

 

 思考を回す。

 

「あっちが潜んでいるかどうかはカレントたちが警戒しているとはいえ限度はある。気配は感じないが来るとすれば遠距離攻撃? あっちの心意技は知らないし、うん。なくはない」

 

 最悪の可能性は何か。

 

「まさか穴熊の引きこもりが出張ってくることはないだろうが……現状それが一番困る。あれに勝てるイメージ湧かないし、そうなったら全力で撤退するしかないな」

 

 一度退く。

 距離を取る。

 睨み合いが続く。

 

「せめて片腕くらい獲りたかったが……さすがにレベル8。甘くはないか」

 

 合わせて楓子も下がる。

 

「位置取り上手いわね。なかなか後ろを取らせてくれない」

「だな。攻めっけが少ない」

「何を狙っているのかしら?」

「分からん。何かの合図待ちか増援か」

「それとも貴方の心意が切れるまで耐久……」

「なくはない。ただそれなら全力で俺を殺しにかかった方が早いだろ」

「必殺技も心意技も封じられているのに? 誰がやっているのよ全く」

「強化外装かアビリティあるだろ。つってもアイツの手段知らんが」

 

 2人は小声で話しつつアイボリー・タワーの様子を確認する。特に雰囲気が変わった様子はない。息が乱れることもなく平然と落ち着きを保っている。

 

「なぁブラック・バイス」

「……その名前でむざむざと返事はしたくありませんが」

「まぁまぁ。別に良いじゃねぇか」

「はぁ……それで?」

 

 そんなため息つかんでも……と八幡が呟いてから。

 

「ここいらで解散ってのはアリ? ナシ?」

「正気ですか……」

「おう。俺らはこの状況をなるべす無傷で切り抜けたい、お前らはこれ以上白のレギオン=加速研究会っていう証拠を渡したくない。利害は一致しているだろ」

「…………」

「なにせ明確な証拠がないのだから、いくら領土戦から無制限中立フィールドになろうと、こうやって追い詰められようと俺たちネガビュはお前ら糾弾できない。つーか、この世界って客観的な状況証拠を得ようってなるとわりかし手段少ないしな」

 

 何気ない口調で話を続ける。

 

「こっちから仕掛けておいてなんだが、ここいらで手打ちってわけにはできない? いやよくよく考えれば普段被害受けているのこっちだな。あー、別に断ってもいいが、お前らに打撃与えたいしフェアリーかビヒモスをPKでもしてポイント削るぞ。俺ならできる。殺し尽くせる」

 

 事実として語る。彼の持つ心意技と必殺技を無効とする心意を用いれば容易いことだと告げる。

 

「どうする?」

「もちろん、続けますとも。やられっぱなしで引き下がれませんし、私が退散したとして2人をこれ以上殺されるわけにもいきませんしね」

 

 そのまま臨戦態勢に入るエンペラーとレイカー。対しアイボリー・タワーは彼らから視線を逸らし何かを待っている様子。

 

 その意識を突こうとした刹那、無制限中立フィールドにまた新たな声が響く。

 

 

 

 

《パラダイム・レボリューション》――と。

 

 

 

 

 その言葉と共に光のカーテンが現れる。それは彼らがいるフィールドを包み込めるほどの大きさ。無制限中立フィールドで活動したことのある人たちは一度は見たことある光景。

 つまるところ、これは。

 

「……ステージの変遷」

 

 レイカーの呟きに全員が警戒する。前に出ていたエンペラーとレイカーは急ぎ後退しカレントたちと合流する。

 

 無制限中立フィールドでは一定時間が経過するとステージか変化する。それはランダムに都度変わる。

 だが今回、この場において、領土戦からムリヤリ無制限中立フィールドへと変貌させた状態で変貌することはまずないだろう。だからこそ、それをネガ・ネビュラスの知らない誰かが強制的に引き起こしたことを全員察する。

 

 そして、変遷によって発生する光のカーテンは全員を通り過ぎる。魔都ステージは終わり、別のステージへと変化は完了した。 

 本来であれば死亡したバーストリンカーも復活するが、どうやらこの無理に引き起こしたフィールドにおいては適用されないのか、はたまたバグなのかビヒモスとフェアリーはまだ死亡マークが並んでいる。

 それをさっと確認したエンペラーは改めて周りの風景を見る。

 

「これは……」

「うそっ」

「まさか」

 

 各々が現在のステージに反応する。

 

 無制限中立フィールドに限らず、ブレイン・バーストの対戦ステージは様々な系統や属性に別れている。例えば自然系、暗黒系、神聖系など多彩。それぞれ特色がある。

 

 その中でも暗黒系はバーストリンカーを苦しめる様々なギミックが存在する。ここはそんな暗黒系ステージの中でも最も邪悪なステージ。

 あらゆるステージの中でも最凶最悪と呼ばれることはあり、数々の危険なギミックが存在することで有名である。

 

「地獄ステージ……えっマジで?」

 

 

 

 

 

 




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