「ったく……お前らさぁ、何のために俺たち残ったのか分かってる? なんでそう突撃しか選択肢ないの? バカなの? お前らやっぱバカだろ」
【UI> まぁまぁ、なのです】
「そもそもお前らの上司どうなってんだ。領土戦参加しないはずだろ。なんでさも当然のようにいたんだっての」
「ニコがいたのは……そうね、私も驚いた」
「はぁ……もー……マジで疲れた」
あの激闘から時は無慈悲にも流れ、陽は落ち空は暗くなっている。
空を見渡すと辺り一面星が輝いている。東京でここまで綺麗な星空が見えるとは。この辺、駅前に比べたら民家も少ないが、それでも東京の都心という観点からいくと美しい星たちだ。
最寄り駅からここまでの道すがら、やたら薄暗くて人によっては怖いと感じる場所にいるためか。
「お手伝いさんがいると訊いたけど、いないの?」
【UI> 今日はお休みなのです】
「そう。お邪魔して大丈夫? 両親は?」
【UI> この土日は出張で両親共に不在なのです。忙しい人たちですから】
「能の巡業、大変なのね」
【UI> その代わり、平日の暇なときはダラダラと休んでいるのです】
謡と美早の会話を訊きながら現状を振り返る。
夕方の激闘から疲れ切った俺は今、謡の家にいる。
何度かお邪魔する機会はあり女子の家にいるもののこれといって緊張はない。和風の造りである立派な居間にこれまた高そうなソファーがあり、俺はそこに寝転んで休んでいる。
そして近くのテーブルには家主である謡と――なぜか付いてきた美早がいる。
まぁ、その、今この広い謡の家の中には俺たち3人だけだ。そういう意味合いでは緊張しています。
夜の同じ屋根の下に男1人、女子2人の構図。小町からは帰ってくるなと言われている。今日は帰ってきても家に入れないよとまで。
……どうしてこうなった。そんな疑問は尽きない。
まずは……加速研究会のブラック・バイスと戦った話だな。
心意で無制限中立フィールドに変えられるわ、地獄ステージに変化するわ、邪神級エネミーを操ってくるわで本当にしんどかった戦いはどうにか終わった。
終始イレギュラー続きで対応が後手後手になるから本当にキツかったな。こうして生き残れたとはいえギリギリの綱渡りもいいとこだ。
今まで実戦で使っていなかった、隠していた心意技をフルに発揮してどうにか乗り切ることができたのは幸いか。まぁ、引退してから編み出したので使う機会がなかっただけともいう。そもそも心意技なんざ大っぴらに使うもんでもないがな。
できる限り隠しておきたかったってのはある。手札なんてなるべく伏せておくものだ。
「――――」
第二段階の心意技《紫電水月黒百合華》と第三段階の心意技《惨禍ノ呪イ》を初めて実戦で使った。
練習段階で薄々察してはいたけど、まさかあそこまで消耗が激しいとはな。特に後者。ガチしんどかったぜ。息絶え絶えにもなるわ。
鉛筆から心意技には第三段階があると軽く教えてもらったことがある。千葉へと引っ越し引退している間、有り余っている時間と共に習得したが、所詮は身に付けただけ。やはり実戦だと勝手が違う。
とはいえ、邪神級エネミー7体相手にあそこまで抵抗できたし、けっこう頑張ったとは自分でも思う。しかし、美早に救出されなかったらあのまま倒れていただろう。
「…………」
もしも、あそこで殺されていたら果たして無制限中立フィールドから領土戦フィールドに戻った際にそのまま元に戻れたかは不明だな。今さらながら。
生きていたから無事帰ってこれたが、殺られていたらそのまま無制限中立フィールドに閉じ込められていた可能性も高いだろう。フェアリーもビヒモスも俺が殺してからステージの変遷が来たとき、本来の無制限中立フィールドならば完全に復活するはずだけど、なぜか変遷が終わっても俺が殺したままだったからな。
何かしらのバグでも起きていたのだろう。それもそうか。そもそも心意技で無制限中立フィールドにしたのだ。どこかでシステムがおかしくなっても不思議ではない。
アイツらに助けられてバーストリンカーとしての命を繋いでくれた。これに間違いはないだろう。ぶっちゃけ無制限になるとは思わなかったからニューロリンカー強制切断の設定はしていなかったし。
まぁ、ここまではいい。俺が全員を逃がして単独で時間を稼ぐ。どれだけイレギュラーが起きてもどうにか対応ができた。
たださぁ……。
「黒チビもあざと少女も猪突猛進過ぎるだろ。アイツらアホか。アホなのか?」
「否定はしない」
【UI> ……あれは私も想定外でしたね】
問題は今回の領土戦にレベル9の2人、新生ネガ・ネビュラスの王2人が参加したことだ。
本来の作戦ならオシラトリ・ユニヴァースの領置に攻め込む際、レベル9は白の引きこもりと戦うと加速世界から退場の危機がある。そのためレイカーたちに任せるというのが大前提だった。
当たり前だ。出張ってくるか不明とはいえ白の穴熊がどんな罠を仕掛けるか分かったもんじゃない。実際今回の顛末は予測不能だったからな。
だというのに、時間ギリギリになってこっそり領土戦フィールドに入り込んだのだ。ホンマアイツら……。
黒チビは何かしらの事情があったからムリを通して押し切ったとのことだが、俺らの敗北条件考えたらあまりにも無謀もいいとこだ。
猪突猛進極まれり。さては猪だなオメー。ネガビュこんなのばっか。もう少しこう、リスク・リターンの管理しっかりしようぜ? 俺の苦労が水の泡になって消えるとこだったよ。リスクヘッジ、大事。
「まぁ、それを言ったらさっさと逃げろつったのにノコノコ戻ってきたお前らも同罪だかんな」
いや助けてくれたことには感謝するよ? あのままだと下手すれば無限EKでポイント全損したかもしれないし? それを差し引いても。
「何のために俺が残ったんだよ……マジでさ」
どうやら謡たち一行がポータルへ目指しているとき、遠くで戦況を観察していた黒チビとあざと少女と合流したとのこと。
で、王の協力もあり先遣隊の大半は無事ポータルまで逃げおおせ脱出できた。しかしながら、一番逃げるべき王2人は残り護衛のために俺を助けてくれたメイデン、レパード、パイルは残った。
「まぁあれだ、パイルにも礼を言っといてくれ。リアル知らんしよろしく」
【UI> 分かりました】
にしても……やっぱパイルバンカーってカッコいいよな。ロマンあるよな。俺も使ってみてぇ。とっつきたい。燃え残った全てに火を点けたい。俺も使ってみたいけど、あれ腕がパイルバンカーになっている感じか? 貸し借りできなさそうで残念。
――――と、俺の願望はさて置き。
謡たちの流れとしては、ポータルで脱出を目指すも黒チビたちと合流。大半は脱出したが、俺含むレイカーたちを救出するために再度死地へと赴いた。
次にレイカーたちは黒チビ一行と合流することなく地獄ステージを駆け抜けた。誰一人欠けることなくこれまた全員無事に脱出できたとあとから報告を受けた。
心の底から良かった、とこれには本気で一安心。
そして、ヘロヘロで出涸らしの俺が救出されたときと同タイミングでクロウたちが、無制限中立フィールドへと変貌させた心意技の使い手を発見し解決へと導いた。
あれはナイスタイミング。素晴らしい。スピード解決だったな。
なんでもその心意の使い手は黒チビとリアルで友だちらしい。おまけに過去既に加速世界から退場したバーストリンカーでもあるとのこと。うん? 情報量多いよ???
普通に意味分からんが、黒チビの事情にさして興味あるわけではないし謎が全て判明したらまた教えてもらおう。過去退場した奴が復活するパターンは以前あったらしいので恐らくその流れだろう。
俺が必死で粘っている間に何が起きていたかはざっとこのくらいだ。
「…………はぁ」
再び大きいため息がもれる。
まぁ、文句不平不満は多数あれど助けられたことに変わりはないのだ。
とりあえず現実世界へ帰還した俺はあまりの疲弊にダウンした。頭がマジで働かなかったのだ。近くのベンチでひたすらボーッとしていた。
そこから少しは回復し、形はどうあれ領土戦が終わったのだからさっさと家に帰るつもりだったけど、現実へ戻った瞬間から謡と美早からの鬼電。
いや別れ際に事情説明しろとは言われたけども。休ませて? 休みながら適当に返事していました。
すると謡が勝手に小町へと連絡をし俺を謡の家まで引っ張ってきたのだ。
いや小町も『お兄ちゃんファイト! 男見せるんだよ!』じゃないのよ。お兄ちゃんもう疲れまくっているのよ。何もする気なんて起きないほど疲労しているのよ。それと妹の脳内が心配だ……。
謡からは有無を言わせず『来い』だったからな。あれよという間に飲み込まれってやつだ。
【UI> というより、そもそもの話なんですが、どうして八幡さんがいたのですか!】
「私も詳しく訊きたい」
つーか、なんで謡の家に美早がいるんだか。
「黒チビと倉崎からの依頼だ。伏せ札として来てくれってな。普通の領土戦なら手を出さなくていいが、何かヤバい事態になったらちゃぶ台ひっくり返してくれってよ」
包み隠さず告げる。実際この言葉通りなのだ。
明日黒チビにあってレギオン脱退しないと。まだネガビュに所属しているという。さすがに今日はお互いにムリ。俺はもう動く気力ないし、黒チビは白にいた友だちが気がかりだったろうしな。
「あくまで俺は伏せ札ではあるから情報を知っている奴は少ない方が良いだろってことで全員黙っていたんだよ。普通の領土戦なら当然手出しするつもりはなかったからな」
その辺の裁量は俺に任せられていた。まぁ、白の連中が心意を使ってきたらさすがに介入するつもりだったが、まさかその心意で無制限中立フィールドにするとは思いもしなかった。
【UI> 話は分かりましたが、八幡さんがフーねぇの言うことに従うとは驚きなのです。いつもなら絶対動かないですのに】
「文化祭では見事なまでに断った。なんで今回は来たの?」
拒否したが結果的に盤面荒しただろ。尚、好きに荒しただけでその後の責任は取らない模様。
「全滅寸前のお前らをどうにか救出した俺になんという言い草。あのままだとお前ら確実にフェアリーに殺られていたろ」
【UI> まぁまぁ】
「それで、なんで?」
ホントこの2人……。
「そりゃまぁ今回はこっちも条件出したからな」
「条件?」
「別に大したことじゃないけどな。面倒だし教えないわ」
隠すほどでもない内容だ。あれは別に俺が折れるために必要な儀式みないたモノだから条件自体は何でもいいって話はあったのだけれども。
【UI> えー、なのです。なら何なのですか】
「まさかフーコとデート……?」
【UI> そうなのですか!?】
まーた面倒なこと言い始めるよ。2人して迫ってくるなよ。
「なぜそうなる。その条件なら断るってか断ったことあるだろ。文化祭でのときお前ら訊いてたろ」
「あれは私たちの手前という可能性」
【UI> あの豊満な体で迫られたら断れないのでは?】
「同性の私から見てもあれは強い」
まぁ……その、うん。否定はしない。あれは理性削られる。
色気だけで見れば正直俺の知り合いで一番あるかもしれない。もしかしたらあの雪ノ下さんと拮抗するだろう。由比ヶ浜のような演技のない純粋なあざとさではなく、緻密に計算された妖艶な雰囲気というか自然に湧き出る色香というか……いや何考えているんだ。
落ち着け煩悩退散。
「ていうかその倉崎はいないんだな。今さらだけど」
こんな内心言えるわけもなく適当に誤魔化しつつ気になっていたことを訊く。
【UI> さっちんとニコさんと今後の話し合いだそうで】
「あー……なるほど、ガチで色々あったもんな。反省会、話し合いは必須だろうな。てか美早、お前は上月といなくていいのか」
「ニコとはちゃんと話した。今は貴方を問い詰める方が重要」
「さいで。って今後のこと……あっ」
ヤベッ、重要なこと忘れてた。
「ちょいと失礼。……バースト・リンク」
加速状態になってとある確認。
「んー……あったあった」
えーっと。たしかあそこに……。
お、大丈夫そうだな。よし解除。
リアルでは1秒も経たず戻ってから。
「悪い戻った。謡、ケーブルある?」
2人共、俺が何をしたいのか分からず少しだけ呆けた表情でこちらを見つめる。
【UI> 充電切れそうなのですか?】
「いやそっちじゃなくて直結の方。今日持ってない。あっちで渡したいもんがある」
【UI> 分かりました。ふふふ、久しぶりに八幡さんのデータ丸裸にしますか】
やたら楽しそうに手をワキワキさせる謡。こういうときのノリはやたらいい。年相応だ。
「甘いな。マックスコーヒーにコーラぶち込んだよりも甘いな。そんな危ないデータとっくに避難済みだ。外付けのメモリって便利よね」
【UI> では小町さんに部屋の捜索を頼みましょうか】
「お願いだから止めてください」
死んでしまいます。ねぇねぇ、そのルート使うのズルくない?
「不味そう」
小さい声で呟く美早。マックスコーヒーとコーラの話か。それはそう。
【UI> では失礼しますね】
「おう」
ソファーの隣に座った謡が取り出した長さ20cmほどのケーブルを互いに刺す。いや短いな。まぁいいや。謡とするときは毎度こんなもんだ。
ほぼぴったりくっつきながら再び加速状態へと2人同時に入る。若干鼓動が加速しそうになるのを堪えながら。
そこからさらに現実では1秒後。
「よし完了だな。ショコラ・パペッターに謝っといてください。お前の活躍奪ってしまって悪かったってな」
【UI> 分かりました。しかし別に彼女も怒らないと思いますけどね。救われたのは事実ですので。しかし手癖悪いですね八幡さん】
「あれ持ってなかったからな。ショコラがバレないようこっそり持っていたのが見えたし丁度いいやって」
近距離で謡と会話していると、ふと俺らに影が重なる。
「……」
なんて話していると美早が勢いよくドスンと割って入る。文字通り俺と謡の間に割り込んでソファーに座る。
「うおっ」
【UI> キャッ】
この行為にうんともすんとも言わない。え、なに。怖い。あと地味に謡が器用。
いやだから君も近いって……。緊張するから止めてね? なんでさも当然のようにいるの?
「何したの?」
……何ごともなかったように話す美早。マイペース。
「あー、ショコラから奪ったアイテム返しただけ」
「あの子から? 何を?」
「リプレイカード。アイボリー・タワーからブラック・バイスに変身した瞬間の録画したから好きに使ってくれ」
「なっ……!? えっ……! うそっ」
おぉ、珍しく美早が表情を崩して驚いている。目を丸くさせているのを見ると、普段落ち着きあまり感情を表に出さないで美早がここまで意外なことなのだと再認識する。
別にこれは俺の手柄などではなく、所詮はショコラの代役ではあるんだけどなぁ。褒めるのならあちらでお願いします。
黒チビたちにリプレイカードあれば証拠得られる云々話したことはあれど、正直俺には関係ないと思っていたため、わざわざ用意するという発想すらなかったまである。千葉周辺のショップとか知らないし……。
【UI> なんでもショコラさんが大事そうに抱えていたのを確認したのでどさくさ紛れに奪ったとか】
「まぁ……アイツら撤退させる流れだったからな。どんな結果になろうと客観的な証拠ほしかったもんで。多分あれにはバレてないはずだぞ。リプレイカード使用中のときの光、こっちの過剰光で誤魔化したし、バイスもいちいち気にする余裕なかったろうしな」
録画していたから攻撃避けるのちょい遅れたりしたけども。
その観点でいくと無限EKに陥る可能性から助けてもらえたのは不幸中の幸いか。ポイント全損する前にニューロリンカー抜いてもらえたら無制限からは離れられるしちゃんと渡せたろうけど、絶対じゃないので。
「黒チビたちに連絡よろしく。今後の作戦の糧にでもしてくれるとショコラも浮かばれるだろうよ」
「彼女は死んでない」
「リプレイカード用意したのあっちだからな。俺は活躍横取りしただけだし」
【UI> 素直じゃないのです】
これで謡と美早に伝えることは全部か、忘れていることがないかを考えていると隣から美早が「というか」と呟く。
「2人共流れるように直結するのね。いきなりで驚いた」
「……ん」
直結。
ニューロリンカーは基本的無線で完結しているデバイスだ。しかし、特定のアプリケーションや機密性の高い操作は有線で直接通信で行うことがある。
ケーブルで繋げている間は各セキュリティソフトの防壁などはほぼ無効となる。それこそ技術のある人ならウイルスとかバックドアとか仕込み放題。
つまり、普通は家族や恋人ほど信頼している関係性でしか直結はしない。世間一般では「公共の場で直結する男女は99%までが付き合っている」や「ケーブルの長さが親密度を表す」とかいうアホらしい俗信まであるほどだ。
だからこそ美早の一言があるわけだが、毅然としている謡は冷静に返す。
【UI> 親子ですから何回もしてますので、今さらですね。こちらのデータが見られるという羞恥心があるかと問われると特にないのです。今までで全部見せてますし】
謡の重要なデータはニューロリンカーより脳内にある医療用BICに入っているからな。そっちも見ることできるけど、直結なら基本的にニューロリンカーのデータを見ることになるし。
ちなみにホウのデータでいっぱいでした。あとでまた見たい。雪ノ下や由比ヶ浜にも俺の親の勇姿を見てほしい。うーん、字面が通報モノだ。
「どうせお前も上月とやることあるだろ」
「なくはない。でも貴方たち異性同士じゃない」
【UI> 最初はお互い照れてましたけどね。今ではドンと来い、なのです】
「俺は謡と直結やるってなってからデータ整理すること増えたけどな」
自嘲気味に笑う。
【UI> これは本格的に八幡さんの部屋を捜索するときが来ましたね。以前泊まったときは怪しい箇所はありませんでしたが】
「んなことしてたのかよ……」
思わず呆れる。
恐ろしい親だな。文字通り母親がする行為だろそれ。
【UI> 八幡さんが塾へ行っている間に】
「おいこら」
【UI> あ、そうなのです。今度は美早さんもしますか?】
「そのときはお願い。八幡の部屋、面白そう」
「止めて? てか家に入れねぇからな。居留守使ってやるわ」
【UI> 小町さんルートを使えば容易なのです】
その裏道ズルくない? 俺防ぎようないじゃねーか。てか小町って美早のこと知らね……いや覚えている可能性はあるか?
「妹さんよね。お店で見たことある」
「よく覚えているな。小町もちょいちょい通ってたしさもありなんか。あ、この前ケーキ持って帰ったら喜んでたよ」
「ならデリバリーしてあげる。もしくは家で作ってあげる」
「来ないで?」
よく数年前に来てた客の顔覚えているもんだ。接客業はやはりそういう物覚えが必要なのだろうか。俺にはできそうもない。そもそも働きたくねぇな。ニューロリンカー含めてAI発達しているんだし仕事なんて任せれば良くない?
【UI> 軽く事情を話せば小町さんならあっさり通しそうではあるのです。最初は美人局と疑うかもしれませんが】
「……」
あのさぁ。
「さらっと小学生がそんな単語口にするな」
【UI> はーい、なのです】
びっくりするわ。
と、しばらく談笑してから謡が夕食を作ってくれ3人でのんびりと食べる。謡お手製肉じゃがは非常に丁寧な味付けで美味しかった。
食後に淹れてくれた緑茶で一息ついている最中に美早は思い出したように話を切り出す。
「訊くの忘れてたけど八幡」
「うん?」
「私が助けたときの貴方、邪神級エネミーと戦っていたいたけど。しかも7体も。バイスもいて」
「まぁな。バイスは途中で体力がっつり削ったし死なないためにエネミーに任せて攻めてこなかったけど」
腕がないと板を操れないのか防御に使っていたのか俺が《惨禍ノ呪イ》を発動させてからは全然攻撃はせず防御に専念していたようだ。
体力に余裕あれば追撃や援護はあったろうが、さすがに保身に走らないといけない状態だった。ある意味助かったな。あそこでバイスを削った俺のファインプレー。いやあそこで倒せていれば楽だったんだけどなぁ。レベル8は甘くないな。ビヒモスも勘がスゲぇ良かったし。手強い。
「なんで無事なの?」
素朴な一言。
「無事なのはいいことだろ。ボロボロだったとはいえ」
「生きていることが不思議。エネミー7体も、しかも地獄ステージだから邪神級。普通生き残ることは不可能。ニコ……レインですら厳しい」
【UI> ローねぇもでしょうね。それくらい絶望的な状況なのです】
妥当というか当たり前な評価か。それほどまでに邪神はイカれている。もう一度やれと言われてもムリなくらい綱渡りだった。
「つっても……防御と回避に徹したからとしか言いようがないな」
「それでもムリ。グランデすら耐えれるか怪しい」
「やたら褒めてくれるな。照れる」
「言ってる場合?」
謡と美早、両方からひたすらジトッとした視線をぶつけられる。誤魔化せはしないか。まぁ誤魔化すけど。
【UI> 何か心意技を使ったのですか? 私たちを助けてくれた必殺技と心意技を封印する心意技はエネミーに対して効果薄いでしょうし】
「あれはバーストリンカー相手だと破格の性能。ただエネミー相手では厳しそう」
「ノーコメントで。無闇矢鱈に手の内晒すのは趣味じゃない」
正直あれは味方にすら伝えたくない。
俺の最後の手段でもある。切り札は伏せておきたいってのもあるし、心意技の効果を説明して引かれるのも嫌だしな。その自覚はある技だ。
別にバイスにはある程度知られてしまったわけなので教えるくらいなら大丈夫なのだろうが……。
いやゆーて《惨禍ノ呪イ》を見せたバイスもその性能全てを理解できたわけでもないだろう。因果を無視し結果だけを残す焔――――俺が死んでも燃やし尽くすまで焔が残り続けるとか知りようないだろう。
【UI> 親命令なのです。ほらほら八幡さん、教えてください】
「断る」
【UI> あらこの子ったら反抗期なのです。こんなワガママな子に育って】
「ふふっ」
何言ってんだか。美早も笑ってるし。
「まぁあれだ。今日は疲れたから教えるにしてもまた今度ってことで」
「……たしかに私が駆け付けたころにはボロボロだった」
「あれだけ邪神に襲われたんだぞ。そりやあぁなるわ」
【UI> 生き残っただけでも奇跡、ですものね】
「だな。またやれって言われても拒否するぞあれは」
絶対したくない。思い出しただけで冷や汗流れるわ。あの心意使っている間はアドレナリンとは違うがやたらハイになっていたのは否めない。
ただこうして落ち着いてから振り返ると自分でもアホみたいなことしでかしたな……と冷静になる。あっち潜っていると調子に乗ること多いというか普段よりテンションが上がるというか……。
「駆け付けたときフーコたちもいると思っていたけど八幡独りだったのね」
「ざっくり話したけど地獄ステージに変遷してからエネミー来てな。全滅するくらいなら人柱必要だろってことで俺が残っただけ」
【UI> よくあれを相手に残ろうとしましたね……】
心なしか君ら随分引いた表情を俺に向けるね。
「こちとらネガビュの下っ端だしな。それに俺の心意見せたろ? 他の奴ら残っても十二分に戦えないだろってことで」
【UI> フーねぇ、八幡さんが助かったと訊いて涙目でしたよ。あの指示をしたのが心苦しかったようで】
「あき……カレントも涙ぐんでいた」
「アイツらも気にしなくていいのに。あれが最善だったんだからよ」
「あのとき貴方に死ねとしか言えなかったからって。嬉しいのは当然の反応」
暖かいお茶を頂きながらのんびり話す。お茶請けに出してくれたどら焼き美味しい。あとさらっと美早さんや、カレントのおそらくリアル名言わないようにな。知ったら気まずいっつーの。
「今回の結果としては一先ず全員無事だし加速研究会を問い詰める証拠も手に入れたし上々じゃねーの? もちろん領土は奪えなかったし全て予定通りってわけじゃないが」
【UI> ですね。先ほどさっちんにリプレイカードを報告しましたが、とても驚いていたのです。加えて感謝の一言も】
「あそう? だからショコラを存分に褒めてやれよって言っとけ。俺が用意したんならともかく、わざわざ準備したのはあっちだからな」
「謙遜?」
「事実。他の人の功績ひけらかすつもりはない」
そこは謙虚さ大事にしましょう。
【UI> 一先ず皆様お疲れ様でした、ということであちらの話題は一旦終わりにしましょうか。何かあればまた後ほどということで】
「訊きたいことも訊いたしそうね」
賛成。文字通りのお疲れなんでね。
「謡、コーヒーはある?」
【UI> ないのです。お茶のお代わりいりますか?】
「さっき淹れてくれたし今度は自分で淹れるけど」
ここで淹れたことは何度かあるし茶器とか場所も把握している。
【UI> お気になさらず。八幡さんはゆっくりしてください。本日の功労者へのご褒美なのです。それに私の方が上手です。せっかくの茶葉ですから】
「そう言われたら何も言えねぇ……」
お言葉に甘えてボーッとさせていただく。ありがてぇ。
テキパキとお茶を用意してくれる謡をぼんやり眺める。テーブルを挟んで真正面にいる美早も謡に視線をやっておりポツリと漏らす。
「……雰囲気あるわね」
「分かる」
「将来は割烹着似合いそう」
「分かる」
「私は? 割烹着似合う?」
「あのメイド服のイメージ強くて想像できん」
「……いずれ着るわ」
「なんで?」
「そんな言い方は癪。まるで似合わないと言いたげ」
「否定はしてないんだが。つかそのために用意せんでも……」
すんごい気の抜けた脳死な会話だ。何も考えず適当に話している。ほぼ反射。
居間から外をチラッと視線をやる。
もう夜の8時か。かなり暗くなってきたな。謡んちは街灯も少なくて窓の外は随分不気……って、あれ?
「なぁ美早」
「なに?」
「お前いつまでいるんだ? 帰るなら駅まで送るけど」
「泊まる」
「えっ」
「貴方と同じ」
「この時間までいるのだから察して」
「……んなムチャな」
普通に帰ると思うじゃん? 俺に事情を訊いたり文句つけたりするために来たのだよね?
用事がある程度終わったのなら、なおさらその思考に行き着くのは自然だ。俺は悪くない。
「でなきゃ夕食までお世話にならない」
【UI> お茶どうぞ。全く、八幡さん……貴方は変なとこで鈍いですね。あ、どうせなら3人一緒のお部屋で寝ますか? お布団用意しますよ】
「ふふっ、楽しそう」
【UI> ですよね! 寝落ちするまで語り合いますか】
「帰っていい?」
【UI> 小町さんを説得できるのならどうぞ】
「ぐぅ……」
「リアルにぐうの音が出るんだ……」
【UI> これから楽しい夜になりそうなのです】
…………助けて小町ちゃん! いやこの状況だと小町がっつり敵だわ。助けて戸塚!
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