「いやー、この状況懐かしいな」
赤色のマントを翻し、ギャラリーのいるステージを見渡しながら呟く。
八幡が東京から千葉に引っ越してからは対戦はしていなかった。理由は単純、千葉に相手がいなかったからだ。
事情により対戦ステージに潜ることは何回かあっても、戦うのは久しぶりだった。
今回のステージは黄昏。景色は開けていて、必殺技ゲージを溜めるための建物等の障害物が少ないのが特徴だ。
対戦者と10m以上離れていると、そこに向けて指す矢印があるので、八幡とサーベラスはまだそれなりの距離があるのが分かる。
八幡は少ないとはいえど、障害物を破壊しながらゲージを3割程溜める。そのままサーベラスとの距離を詰めるためにのんびり歩いている。
その際ギャラリーは、対戦カードを確認していた。
ここにいるギャラリーのほとんどはサーベラスを観戦登録している人たちだ。
だから、サーベラスの連勝記録を伸ばすのを楽しみにしていたが、対戦相手の名前を見つけると、その反応は劇的に変わった。
「嘘だろ!マジか!」
「まさかエンペラーだと!?あいつ引退してなかったんか!」
「えっ……誰?その人」
「そうか、お前は知らないんだな。あいつはダークネス・エンペラーつってな。かなり強いぜ。青の王と黒の王が同レベルの時はバリバリに戦ってたからな」
「そ、そんなに!?」
「でも、グラファイトには勝率低かったよな」
「それはあいつが強すぎるだけだって。黒の王の師匠だろ?そりゃ強いわけだよ」
「だな」
「おお!マジであいついるじゃねーか。久しぶりに帰ってきたと思ったら、レベル5を倒したこともあるルーキーとぶつかるのか!」
「それにしても、あのマントいつ見てもカッケーよな」
「それにあいつの見た目もな。中二心をくすぐられるわ」
「俺も俺も。そのこと話したらエンペラーは恥ずかしがってたぞ」
「まあ、気持ちは分からんでもない!」
「エンペラーの見た目の話は置いといて………さーて、こりゃどっちが勝つか?」
「やっぱハイランカーの皇帝だろ」
「いやいや、サーベラスのあの物理無効を突破できるか?」
「お前こそ皇帝の武器を忘れたのか?」
「そっか!あれなら……イケるのか?」
「分かんないけどな!」
「その武器ってどんなの?」
「見てりゃ分かる。あいつが使わなかったら後で教えるけどな」
「サーベラスを観戦登録してて良かったぜ。こんな珍しいカードが見れるとはな」
「でも、いいのか?レベル7がレベル1に乱入って」
「それはあの2人が決めることだろ。もしかしたら引き分けにするかもな。俺としては面白いと思うぞ。片やレベル5を倒したルーキー、片や今まで鳴りを潜めてた皇帝だ」
「まあ、マナー違反だとは思うけど、個人的には楽しみだわ」
「それな!」
などとテンションが上がっている。盛り上がりがスゴい。
その様子は八幡には聞こえていない。
5分後。開けた場所でダークネス・エンペラーである八幡とウルフラム・サーベラスは出会う。
「いきなり乱入して悪いな」
先ず八幡はマナー違反を詫びる。
「いえ、僕がレベル7と戦う機会があるのはありがたいですよ。……それにギャラリーの反応を見るとあなたは戦うのは久しぶりなんですよね?」
爽やかな口調でサーベラスは返答する。
「まぁ、引っ越して東京から離れてたからな。なんか、久々に来たら、スゴいルーキーがいるって聞いてよ。気になってな」
「それは光栄です」
チラッと八幡はサーベラスの必殺技ゲージの割合を見る。サーベラスは必殺技ゲージを5割ほど溜めている。
「じゃ、行くぞ」
「よろしくお願いします」
八幡は素手で構える。対するサーベラスも同様。
「ふっ!」
先手はサーベラス。八幡との距離を初心者とは思えないスピードで一気に詰め、顎に狙いを定めて殴りにかかる。
「……っと」
少し下がりながら、サーベラスの手首を八幡は片手で掴む。避けられないように強く握りしめ、思いっきり、ヤクザキックの要領でそのまま腹を蹴る――――が、
「いって!……かってーな」
サーベラスのHPの1%ほどしか削れなかった。八幡のHPは3%も削れた。
防御が得意な緑アバターですら、当たりが良ければ、5から6%は削れる攻撃を受けてもこのくらいしか削れない。おまけに蹴った足も痛い。
――――いやいや、反動でかくね?
八幡はサーベラスの手首を放しながら毒づく。
「ないわー……」
このまま殴りあったら、アクア・カレントの言う通りダメージを与えるのは難しいだろうと、この攻防で八幡は判断する。
2人は一旦、互いに距離を取る。すると、八幡はサーベラスに声をかけ、率直な感想を言う。
「噂通り硬いな。動きもレベル1とは思えないほど速い」
「レベル7に言ってもらえるとは恐縮です」
「………なら、ちょっと真面目にするわ」
「真面目……?」
一呼吸置き、八幡は呟く。
「着装――ブレード・オブ・フュージョン」
その途端、八幡の右手に漆黒の剣が現れる。
刃は1,5mほど、幅は15cm。柄は20cm、鍔はない真っ直ぐな大剣。
それを見たサーベラスは驚く。
「………剣の強化外装、ですか。何故使わなかったのですか?」
「いや、殴って勝てるかなーとか思ってたけど、普通に無理だわ。そんなことしたら俺が先に死ぬ」
「ということは、この姿があなたの本領?」
「おう。基本は近接によくある剣持ちアバターが俺だ」
その言葉に嘘はない。が、語弊はある。
確かに八幡のメイン武器は剣だが、八幡は割りと素手だったり、極たまに相手の武器を奪ったりとその日の気分で戦っている。
しかもどの戦法もそれなりに強い。………その道のスペシャリストには敵わないが。
それでも、対策が立てにくく、対戦する相手はかなり嫌がっている戦法である。
もちろん、それをサーベラスは知らない。
「なるほど。そうでしたか」
サーベラスはゆっくり呼吸する。
「では……僕も本気でいきます」
サーベラスの顔にあるバイザーが閉まり、必殺技ゲージが徐々に減り始める。ウルフラム・サーベラス最大のアビリティ――物理無効だ。
「………来たか」
八幡は警戒を高め、右手で握った剣を前に突きだし、中段で構える。
――――いくらレベル7の剣での攻撃でも斬撃は物理攻撃にカウントされる。僕には効かない。
サーベラスは八幡の姿――特に剣を見て純粋にそう思っている。慢心ではなく、事実として。
「……ふっ!」
今度は八幡が一直線に飛びかかる。
けれど、八幡が迫ってきても避けようとせず、八幡が横一閃に斬ろうとする剣を自分の片腕で受けようとする。
「――!?」
しかし、サーベラスはあることに疑問に思った。それは一瞬だが八幡の剣の周りの空気が歪んで見えたこと。
――――ま、まずい!
嫌な予感がし、瞬時に飛び退き、後退する。けれど間に合わず、物理無効を発動しているのに腕を少しだけ『斬られて』しまう。
「……なっ!!」
しかし、ここでも違和感がする。
普通ならここで感じる痛みは斬られて『痛い』はずなのに、一番感じたのは――――
「あ、熱い……」
サーベラスが傷口を確認すると、
「どうだ、溶けてるだろ?」
その様子を八幡が面白そうにしている。
確かにサーベラスの傷口は斬られているというより、溶けている。
「この剣は切れ味の高い剣だが、他に特殊能力があってなー、表面の温度が最高5000度に熱せることができる。例えるならあれだ、ヒートホーク」
そんなに熱くて剣の原型を保っているのは八幡自身も不思議な話だがこの際置いておく。
少し触ってみるか?と剣をサーベラスに突き出す。
サーベラスは恐る恐る人指し指で剣の表面を触ろうとするが、途中で熱くて指を離してしまう。
「アツッ!」
八幡は剣の温度の設定を1500度にする。が、それだけで軽くサーベラスの2%HPが削られる。
「ハハッ」
笑いながら八幡は話を続ける。しかし、八幡は余裕そう。
ブレード・オブ・フュージョンの持ち主には例えどんなに熱くてもダメージは受けないように設定されている。
「ウルフラム………ダングステンの融点は3422度だよな。昨日ググったわ。そうそう、フュージョンってよくある『融合』だけじゃなく『溶解』って意味もあるんだわ。金属を溶かすってことな」
「………『溶解の剣』」
サーベラスが八幡の剣を訳す。
切っ先をサーベラスに向けながら八幡は言う。
「物理無効なんて関係ない。俺の剣ならお前を斬れる」
………内心本当に斬れて八幡は安心しているのはナイショ。
「だからといって、僕も負けません」
好戦的な口調でそれに応えるサーベラス。
「じゃ、始めるか」
再び構える両者。
「はい!」
サーベラスは八幡に向かって駆け出していく。
――――――――――――――
…………まあ、サーベラスとの対戦は普通に俺が勝ったわ。
戦闘時間は15分。
途中、サーベラスは俺の剣の間合いの内側に入ろうと色々と試してたが、そこはきっちり防いだ。完封。
マントを使って目隠ししたり、水泳のターンみたいにサーベラスの腹を蹴って後退したりとその都度避けた。
その後はただただ斬って終わった。
さすがにレベル1だと体力差が大きかったな。ステータス差もな。サーベラスがこの先レベル上げたらエグいことになりそうだ。
それと経験の少なさかな。終盤は俺にダメージ与えられなかったのか、焦って単調な動きだった。まあ、それはこれから積むか。
それで、カレントからの依頼――ウルフラム・サーベラスの印象か…………。
スゴい爽やかな青年だよな。このゲームしてる奴とは思えないほど礼儀正しい。
研究会の奴らとは会ったことないから特に言えないが、ぶっちゃけ関わってなさそうな雰囲気。
しかし、気になる点はある。それはあいつの動きだ。
レベル1にしては、洗練されている。終盤は崩れていたが、あまりにも戦い慣れしている。その技術は誰から教わったのか分からない。
他には………サーベラスの戦績を聞いたけど、余裕でレベルを上げれるのに1で留まっていることだな。確かにレベル1のままならポイント稼ぎやすいけどよ。そこから一気に4まで上げる感じか?
色々と親から教わったのかと思って親が誰かと聞いても、カレントでもサーベラスの親は不明らしい。
そのような事を纏めてカレントに送った。
それで……予備校まで2時間はある。
自習をするか。いや、別に千葉にはすぐに戻れるし………よっしゃ!銀座に行って暴れまくるか。
せっかくだし、もっと戦いたい。できれば紫のヒステリックなババア(笑)を出すまで戦うか!
そうそう、銀座は紫のレギオンの領土な。
でもレギオンの領地だと乱入できないな。ま、誰かいるだろ。紫から俺に乱入してくれるかもしれないし。
と、浮かれ気味で電車に乗り込み銀座に向かうのだった。
そして、夜。
予備校の授業を終えて現在帰宅中。
銀座では紫の王(笑)は出てこなかったけど、副官のアスターさんは出てきた。ギリギリ勝てた。残りHPは2割切ってた。………これじゃ紫さんと戦ったら普通に負けてたな。
さすがに腕が鈍っている。エネミー相手だとやっぱり勝手が違うからな。また感覚取り戻さないと。
けっこう勝てて気分が良く、予備校の授業は集中できた。あとは寝る前と起きた時に復習しよう。
そんなことを考えていると、ちょうど家に着いた。
腹減った。早く飯食いたい。
「ただい………うん?」
ドアを開けたら、見慣れない靴が1足ある。
サイズやデザインからして恐らく女子。あ、小町の友達か。前もって連絡してくれよ。俺とそのお友だちの空気が気まずくなるでしょうが。
でも、どっかでこの靴見たことあるな………と思考を巡らせていると視界にあるメッセージが写る。
【アドボック接続を許可しますか?】
……ちょっと待て。これってもしかして…………マジかよ。
いつもの癖でイエスを押す。そのままリビングに入る。
そこには――――
「あ、お帰りー、お兄ちゃん」
【UI> お帰りなのです。八幡さん】
小町と謡が一緒に酢豚を食べていた。
「………謡、何でいるの?」
すると、謡は満面の笑みでこう言い切った。
【UI> 泊まりに来ました、のです!】
戦闘描写書くといいながら、けっこう少ないな。三人称で書くの苦手。
何か不明な点、可笑しな点があれば教えてください。