あれから特に問題なく謡と過ごした。
お袋がやたら謡を溺愛していたのは気になった。息子でもあれはさすがに引くわ…………。
で、今は金曜の放課後。部室で勉強中だ。
期末テストもあと3週間くらいで始まるからな。
ぶっちゃけ受験には関係ないが、解けて損はない。一応はここって進学校だし、テスト内容は受験に沿って出される。
勉強の途中、俺のニューロリンカーのメールの通知音が鳴る。
何だろうと思うが、とりあえずメールを読む。
って、これは、
「……マジかよ」
「どうしたの?ヒッキー」
俺の呟きに由比ヶ浜が反応する。
「いや、明日から1週間予備校が点検だの工事だので休講になるって連絡」
予想外だった。前から告知しといてくれよ。ん?メールを読むと緊急で決まったのか。なら仕方ない。
「へー、そうなんだ。あ、じゃあさ、ヒッキー明日暇?」
「暇ではないぞ。普通に勉強はするからな」
そうだな……あんまり紙の本を置いていない図書館とかで。
「で、でも、特に用事はないんだよね?」
「まぁ、そうだな」
土曜の授業潰れたし。といっても、夜からだけど。
「だったらさ、久しぶりに出かけようよ。ゆきのんも」
「……あら、私も?」
と、ここでシャーペンを走らせていた雪ノ下も話に加わる。
「うん!」
「別にいいけれど……そうね、ここにある紅茶がもうすぐなくなることだし、それを買いにでも行きましょうか」
「やった!」
喜ぶ由比ヶ浜に対し、
「その代わり由比ヶ浜さん、買い物が終わったら私の家で勉強会よ」
雪ノ下の容赦ない一撃。由比ヶ浜の顔面蒼白。
そんなにスパルタなのかね、雪ノ下の指導は。俺?俺は受けたくありませんよ?死に急ぎはしませんから。
「では、午前中にでも集まりましょうか」
それだけ言うと、雪ノ下は勉強を再開する。
俺も倣って勉強に戻る。
由比ヶ浜も分からない箇所は俺や雪ノ下に質問しながら勉強していた。
その日の夕食にて。
途中、コンビニのイートインとかで寄り道したから帰ってきた時間はかなり遅いけど。もう10時か。
「なあ、小町」
「ん、なーに?」
「明日少し出かけるわ」
「お?予備校どうしたの?」
「なんかしばらく休講。なんか雪ノ下たちと買い物に行ってくる」
「ほう!何かお土産よろしくね」
「分かった。適当におやつでも買っておくわ」
ふと、気になる点が1つ。
「謡どこいった?」
「もう寝てるよ。まだういちゃん小学生だもん」
それもそうか。
「その割りには大人びてるけどな」
「そうだねー……。結衣さんより大人っぽいかな?」
「そこで由比ヶ浜を引き合いに出すか。つーか、謡は小町より大人びてるぞ」
「……それは言わないでよ。小町も自覚してるから」
………そうですか。それはすいません。
「じゃ、そういうことで。あ、謡は明日帰るのか?」
「ううん。日曜だよ」
へー……まだいるんだ。
そうそう、一応は謡の親から宿泊費的な金を俺が貰っている。お袋に渡したけど。その金でお袋がいるときは夕食が豪華になっていたこともあったな。
そうこうしている内に夕食を食べ終える。
「あ、お兄ちゃん、部屋に入るときはういちゃん起こさないようにね?」
「了解」
その後、こっそり謡の寝顔を撮り、我が家(親父除く)に拡散しました。
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――――――
翌日。
駅前に集合した奉仕部一同は雪ノ下行きつけの場所で紅茶を買ったり、色々とショッピングもした。
割りと楽しく、勉強の息抜きにもなった。先週は謡の家に行ったし、けっこう休んでるな。
ふむ、週に1回は全くじゃないけど、勉強しない日を作るのは………無しだな。そこまで成績良くねーし。
時間は昼頃になる。
「さて、どこでお昼を食べようかしら?」
雪ノ下が尋ねる。
「もう目当ての物買ったし各自解散で良くね?」
「えー!ヒッキー、それだとつまんないじゃん。もっと遊ぼうよ」
「そうね。せっかくの機会だもの。もう少しいてもバチは当たらないでしょ」
俺の提案は却下された。
「はいよ。どこに行く?ファミレスか?」
サイゼなら尚良し。
「駅前に新しくカフェできたんだって。そこにしようよ」
由比ヶ浜が目を輝かせて喋ると同時に――――
「こんにちは」
という声が俺たちに届く。
「えっ!」
「あなたは……」
「ゲッ」
由比ヶ浜、雪ノ下、俺とそれぞれ反応する。
「倉崎さん、こんにちは」
「楓子ちゃん!こんな所でどうしたの?」
ドSのスカイ・レイカーこと倉崎楓子が立っていた。お上品な白色のワンピースを着ている。
由比ヶ浜は普通に名前呼びなんだ。前みたいに変なアダ名で呼んではないんだ。八幡、安心。
「…………」
そして、目を逸らしたいが無理だ。もう1人、倉崎の隣にいる。………お前、何でいるの?
「いえ、私の主治医が千葉にいまして、足の定期検診に行ってたんですよ。その帰りです」
「そうなんだー。あのー……それで楓子ちゃん、隣にいる子は誰なの?」
そうだよ、謡………よりにもよって今じゃくていいだろ。朝ごはん一緒に食べたでしょ。
それより、奉仕部のメンバーと遊ぶって謡には言ってないぞ。………うん、もしかしなくても小町か。
しかし、何故こうもタイミング良く倉崎といるんだ。示し合わせたのか?
と、ここで恐らく雪ノ下たちにアドボック接続の許可の画面が出ているだろう。俺は謡が家に来てから解除してないから出てないけど。
【UI> こんにちは。私は四埜宮謡と言います。私は失語症ですので、タイピングで会話させていただきます。もちろん、皆さんは普通に話してもらって大丈夫なのです】
謡は2秒くらいで打ち終える。そのスピードに2人は驚いている。
本当にこのタイピングスピードはエグい。俺だってタイピングに自信はあるけど、謡には到底敵わない。
「なるほど、四埜宮さんは運動性ということなのね」
状況を飲み込んだ雪ノ下が謡に話しかけている。
【UI> はい。よくご存じで】
俺が倉崎たちから離れると、ススッと由比ヶ浜が俺に近づき耳打ちしてくる。
「ヒッキー、ゆきのんの言っている運動性ってどゆことなの?」
ちょ、近いって………チラッとこっちを見た謡の視線が怖いから止めて。
少し由比ヶ浜と距離を取ってから答える。
「えーっとだな、失語症ってのは文字通り言葉を話せなくなる病気なんだが、失語症にも2種類あるんだ。1つは感覚性といって、言語そのものを理解することが出来ない病気。で、もう1つが運動性。これは言語は理解できるけど、話せない病気」
「はぁ………だからこの子、謡ちゃんはチャットで会話しているってこと?」
「………多分そういうことじゃね?」
「何その間?」
敢えて知らない振りをして答える。しかし、由比ヶ浜に怪しまれた。変に鋭いぜ。
間違っても俺と謡が知り合いってバレたらダメだ。絶対面倒事になる。
「ところで倉崎さん」
「どうしました?」
「あなたは病院に行ってのよね?」
「そうですよ」
こいつ、本当にリアルとキャラ違うよな。ドS全開のレイカーとは似ても似つかない。都庁に双子剣士を吊り下げる奴とは思えない!
「と言うことは、四埜宮さんも同じ病院に行ってたのかしら?」
ゆきのn……雪ノ下の言う通りだ。何で一緒にいる?あいつの通っている病院は東京の方だぞ。
【UI> 八幡さんが美人さん2人とお出かけすると小町さんが言っていたので、フーねえに頼んで付いてきました】
「はい、解散!」
戦略的撤退を試みる俺。………が、両手首をガッと掴まれる。
力ずくなら逃げれるが、そうはさせてくれない圧力が後ろから漂ってくる。
この感情に名前を付けるなら――――恐怖。
「比企谷君」「ヒッキー」
「「話、聞かせてね?」」
はいごめんなさい。
【UI> では、行きましょうか】
「何だか面白くなってきたわね」
レイカーよ……全く面白くないわ!
場所は変わり、由比ヶ浜が言っていた駅前のカフェとやらに来た。
俺の隣に謡、その隣に倉崎。向かいには雪ノ下と由比ヶ浜。ねぇ、俺もそっちに行かせて?
空気が重い。
「それで」
ようやく雪ノ下が口を開く。
「比企谷君と四埜宮さんはどんな関係かしら?」
………仕方ないな。
「俺は生まれは千葉だが、一時期東京の練馬の方に引っ越してたことがあったんだよ。その時に知り合った」
「でも、ヒッキーと謡ちゃんは歳離れているよね?今いくつ?」
【UI> 10歳なのです】
「ヒッキーとはどんな経緯で知り合ったの?」
これはネガビュの奴らにも言われたな。由比ヶ浜の疑問も当然だ。
「小町さんも四埜宮さんのこと知っているみたいだし、家族ぐるみの付き合いなのかしら?」
雪ノ下の声が怖いです、はい。どんな被告人でもすぐに白状しちゃいそう。
「……ま、そうだな。簡単に言えば、俺らが初めて会った時と同じ状況、かな」
「………それって事故ったってこと?ヒッキー、よく生きてるね」
「俺って悪運強いよな」
「冗談言ってる場合ですか。これからは気を付けてください」
レイカーからのお小言を貰う。このご時世で事故る俺が珍しいんだけどね。
「なるほど。それで小町さんのことも知っていたという訳ね」
【UI> そういうことになるのです】
それから頼んだメニューが届き、何やらガールズトークが進んでいる。
とうやらこのまま遊ぼうという話になっているみたいだ。
マジかよ。それはただただ気まずい。もう食い終わったら帰ろうかな……。
そういや今日って土曜か。うん?土曜って言えば、俺には関係ない出来事があるよな。
倉崎に個人メッセを送る。
『領土戦はいいのか?』
『遠隔コードを使うとロータスに連絡しました。ういういも同様です』
それなら、いっか。
別に俺にとっては領土戦なんてどうでもいいし。
このゲーム始めてからレギオンには所属したことないから。でも、練馬にいた時に赤に誘われたことがあったな。豹だか猫だけ元気にしてるのかね?
「そういえばさ」
まだ全員が食べてる最中の時に由比ヶ浜が、
「ヒッキーって年下の女の子知り合い多いよね?」
「そうかしら?」
その言葉に雪ノ下が反応する。
「だって、まずいろはちゃんがいるでしょ?林間学校やクリスマスに会った留美ちゃん、サキサキの妹もいるし。楓子ちゃんに謡ちゃん……ほら!」
「その理屈なら、そいつら全員俺ら共通の知り合いだろ」
いきなり何を言い出すのかと思えば。
「でも、私たちよりあなたの方が四埜宮さんや川崎さんの妹さんに鶴見さんと仲が良いはずよ。………さすがロリコンね」
雪ノ下め、失礼だな。
「俺はシスコンだぞ」
「そこは胸を張って豪語する場面ではないと思いますよ」
笑って返す倉崎。
と、ここで謡が、
【UI> 皆さん、留美姉さんを知っているのですか?】
「え、謡こそルミルミ知ってるの?」
【UI> 私の親戚なのです】
へー、そうなんだ。謡が俺の話を聞いてた時には留美の名前は出してないから知る機会なかった。従姉妹辺りかな?
【UI> 留美姉さんからこの前の林間学校の話を聞いたのですが、その話に出てきた腐った男の人が八幡さんなのですね。確かに八幡さんからその事について話してくれた時と似ていたような気がしました】
いや、腐ったって………俺はゾンビか。もう神の時代は終わったぞ。内海さんのあれは神と似てたけど。
「そういえば、四埜宮さんはどこに住んでいるのかしら?」
【UI> 東京なのです】
「私が渋谷で、ういういは杉並の方ですよ」
「ありがとう、倉崎さん。……さっき四埜宮さんは小町さんが私たちについてを聞いたと言ってたわよね?」
雪ノ下の疑問に謡は首を縦に振る。
「そこが分からないのだけれど、今日は最初から千葉にいたの?」
………………ヤッベ、変な汗が流れるわ流れるわ。お泊まりバレたらアウトだ。
倉崎は謡からもう教えられているのか、めっちゃニコニコしている。お前後で斬ったろうか。ダメだ、返り討ちにされる未来しか見えない。
「別に東京にいても電車使えばすぐに移動できるだろ」
つい口を出してしまう。
「まぁ、それもそうね」
せ、セーフ?
謡と目を合わせると、視線で分かっていると伝えている。さすがに俺の立場を考えてくれているのか。でしたら、最初から黙っておいてくださいよ。
それから、ララポートにて。
「その程度ですか?比企谷さん」
「お前上手すぎだろ!」
「ちょっと、楓子ちゃん速いよ!」
由比ヶ浜と一緒にレースゲームで倉崎にぼろ負けしたり、
【UI> 八幡さん、あれ取ってください】
「この前はパンさんのぬいぐるみ取れたものね。もう1度頼むわ」
「UFOキャッチャーあれ沼だからな?ただの金溶かす機械だぞ………」
謡と雪ノ下にぬいぐるみをねだられたり、
「ここに5人は多いって………」
「まぁまぁ、せっかくですし」
【UI> フーねえの言う通りなのです!】
「わがまま言わないの」
「早くしなさい」
プリクラを5人で撮ったりした。
4時に謡たちは領土戦に参加してて何故か笑顔だった。その後カレントからメールが来たが、どうやらネガビュに復帰したと。なるほどね。
そして、解散したはいいんだ。由比ヶ浜はドナドナされて雪ノ下に連れていかれた。謡は倉崎が俺の家の近くまで送るって言ってくれたから、ありがたくそれに従った。
だが、まさか………
「お兄ちゃん、この美人さん誰?」
「いや、帰れよお前」
「へー………ここが比企谷さんのお家ですか」
「話を聞こうか」
【UI> ………ごめんなさい、フーねえを止めれませんでした】
「うん、謡は悪くないよ」
後から帰ってきた俺がリビングに入ると、普通に倉崎居座ってたんですけど……………。
小町は小町で「嫁候補……?ういちゃんがいるのに?」と俺に尋ねてくる。
……………知るか!!
実際に遠隔コード使って領土戦に参加できるかは知りませんが、そこはご愛敬で……w