ハジメのあったかもしれない可能性っていうのを題材にして書いていきたいと思ってます。最初の方は殆どありふれと同じですがどうぞ見てって下さい。
「初めましてだな、イレギュラー。」
光溢れる空間の中、眼前に立つ者。その神々しさに無意識に顔を顰めるも、その輝きは収まってくれそうにもない。激しくなった動悸を落ち着かせようとしながら、木下カイトはこれまでの人生で見たこと無いほどの美貌を備えたソレを睨みつけた。
カイトは現在、この世のものとは思えないような場所にいるのである。目の前の存在が放つ圧倒的なプレッシャーに鼓動を早くしながら走馬灯を見た。
日本人である自分が、ファンタジーという夢と希望の詰まった言葉で表すには些かハード過ぎるこの世界にやって来て味わった無力感と、現在進行形で味わってる未知との遭遇までの経緯を。
月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息をはき、前日までの天国を思ってしまう。
そして、それは木下カイトも例外ではなかった。
カイトは自分の席に座り、ライトノベルを読みながら登校してきたクラスメイトを見た。
「よぉ。キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ〜。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん」
始業チャイムが鳴るギリギリに登校してきた少年、南雲ハジメは何時ものように教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを頂戴していた。女子生徒も友好的な表情をする者はいない。
無関心の者もいるが、それは少人数であり、さっきのようにあからさまに侮蔑の表情を向け罵倒するような者もいる。
一体何が面白いのなゲラゲラと笑い出す男子生徒生徒達。声を掛けたのは檜山大介といい、毎日飽きもせず日課のようにハジメに絡む生徒の筆頭だ。近くでバカ笑いしているのは斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の三人で、大体この四人が頻繁にハジメに絡む。
ハジメの隣の席のカイトとしては近くでゲラゲラとバカ笑いされれば迷惑だし、落ち着いて本も読めない。何より美少女達が「うふふふふ」と可憐に笑ってくれるのならまだしも、所謂DQNが見せる表情は汚い。得にもならず、ヘイトが溜まっていくだけなのだ。
まぁ、鬱陶しいからといってそれに対して何か言えるほどの度胸はない。
檜山の言う通り、ハジメはオタクだ。と言ってもキモオタと罵られるほど「デュフフwwwコポォwww」みたいな言動をする訳でも無いし、身だしなみも整っている。コミュ障という訳でもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭だ。
カイトはそれほどハジメを嫌っている訳ではない。カイトもハジメと同じく創作物──漫画や小説、ゲームや映画といったものが好きだ。カイト自身態度が悪いといったようなことは無いし、見た目もそれなりに良いと自負している。……但し、隠してはいるがムッツリなので女子との会話となると途端にキョドるのがカイトだ。
そんなカイトより真面目……?いや、人付き合いの良い?……そんなカイトより会話ができるハジメが何故ここまでの敵愾心を持たれるのか。
その答えが彼女だ。
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。 もっと早く来ようよ」
ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒がハジメのもとへ歩み寄った。このクラスで、いや学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、この事態の原因でもある。
名を白崎香織という。学校で二代女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせずに真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の広さだ。
そんな香織は何故かよくハジメを構うのだ。徹夜のせいで居眠りの多いハジメは不真面目な生徒と思われており、生来の面倒見のよさから香織が気に掛けていると思われている。
一度カイトは香織に気にかけて貰いたいからという理由で定期テストの点を平均以下にしたのだが香織に構われる以前に「どうしたんですか木下くん!?今まで教科平均80点を下回らなかったのに!?」なんて事を学年の教師殆どに言われ、その目論見は失敗した。それからは真面目にテストを受けている。
話がズレたがこれでハジメの授業態度が改善したり、あるいはイケメンなら香織が構うのも許容できるのかもしれないが、生憎、ハジメの容姿は極々平凡であり、態度改善も見られない。そんなハジメが香織と親しくできることが、同じく平凡な男子生徒達には我慢ならないのだ。何故、あいつだけ! と。女子生徒は単純に、香織に面倒を掛けていることと、なお改善しようとしないことに不快さを感じているようだ。
「あ、ああ、おはよう白崎さん」
ハジメが挨拶を返した瞬間すわっ、これが殺気か!? と言いたくなるような眼光に晒される。香織がハジメとカイトの席の間に立ったためにそれはカイトにも向けられているような気もしてカイトとしては非常に居心地が悪い。移動しようにも一人じゃあまり目立ちたくないという生来の気性から動こうにも動けない。ひたすらに活字を見つめるしかないのだ。
そうやっていると三人の男女が近寄って来た。
「南雲君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気のないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
三人の中で唯一朝の挨拶をした女子生徒の名前は八重樫雫。香織の親友だ。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。
百七十二センチという女子にしては高い身長と引き締まったからだ、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。事実、彼女の実家は八重樫琉という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒からは熱を孕んだ目で"お姉さま"と慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。
次に、些か臭いセリフで香織に声を掛けたのが天之河光輝。如何にも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。
これは余談だがカイトは『劣化版天之河』と言われている。成績こそ光輝よりも優秀であり運動神経も容姿も良いのだが、体育の授業では壊滅的にチームプレイが出来ず、女子と話せばすぐキョドるので『残念くん』や『劣化版天之河』と裏で呼ばれている。因みに本人はこの事を知らない。
最後に投げやり気味な発言をきた男子生徒は坂上龍太郎といい、光輝の親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。
龍太郎は努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、ハジメのように学校に来ても寝てばかりのやる気がなさそうな人間は嫌いなタイプらしい。現に今もハジメを一瞥した後フンッと鼻で笑い興味ないとばかりに無視している。
ちなみにこの話はカイトの席を挟んで行われている。(毎回毎回挟むように立ってくるのは嫌がらせかなにかか!?ああんもうやああああだあああああ!!!)なんて事を考えながらさらにカイトは活字の世界へと没頭していく。
「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」
雫達に挨拶を返し、苦笑いするハジメ。「てめぇ、なに勝手に八重樫さんと話してんだ?アァ!?」という言葉より明瞭な視線がグサグサ刺さる。雫も、香織に負けないくらい人気が高い。
「それが分かっているなら直すべきじゃないか? 何時までも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。 香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」
「いや〜、あはは……」
ハジメが笑ってやり過ごそうとする。が、今日も我等が女神は無自覚に爆弾を落とす。
「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるのだけだよ?」
ざわっと教室が騒がしくなる。男子達はギリッと歯を鳴らし呪い殺さんばかりにハジメをにらみ、檜山達四人組に至っては昼休みにハジメを連れて行く場所の検討をはじめている。
「え? ……ああ、ほんと、香織は優しいよな」
どうやら光輝の中で香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。完璧超人なのだが、そのせいか少々自分の正しさを疑わなさすぎるという欠点が彼にはある。
「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」
この場で最も人間関係や各人の心情を把握している雫が、こっそりハジメに謝罪する。ハジメはやはり「仕方ない」と肩を竦めて苦笑いするのだった。
そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。
席に戻る時、雫に「貴方も、ごめんなさいね。毎日大変でしょ?私もどうにかするように言っておくから」と耳打ちされ「えっ、いやっ、そのっ、」と、またちゃんとした返事を返せずいた自分にカイトは嫌気がさしたのであった。
四時限目が終わり、にわかに教室がざわめき始める。カイトは惣菜パンを幾つか取り出すともしゃもしゃと食べ始めた。
(そういえば今日は南雲がいるな。 ……あれ?じゃあ俺ここにいたらやばいんじゃ……)
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? 良かったら一緒にどうかな?」
(ああああああああああああああああくぁw背drftgyふじこlp;@:「」)
危惧していた事が起こって思わず心の中で叫ぶカイト。どうにかしてくれ!と隣の南雲を見る。
「あ〜、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河くん達と食べたらどうかな?」
そういってハジメはミイラのように中身を吸い取られたお昼のパッケージをヒラヒラと見せる。
しかし、その程度の抵抗など意味をなさないと言わんばかりに女神は追撃をかける。
「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理をねぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
「え? 何で、光輝くんの許しがいるの?」
素で聞き返す香織に思わず雫が「ブフッ」と吹き出した。光輝は困ったように笑いながらあれこれ話しているが、結局、ハジメの席に学校一有名な四人組が集まっている事実に変わりはなく視線の圧力は弱まらない。
そしてカイトは死んだ目をして虚空を見つめることにした。
すると
足元、教室の地面に白銀に光り輝く円環と幾何学模様が現れたのだ。
その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様、俗に言う魔法陣らしきものを注視する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。自分の足元まで異常が迫ってきたことでようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。
数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。
この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。