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ゆったりと、丁度いい温度の湯の中を漂う。全身が包まれ、心地の良い感覚に身を委ねたい衝動に駆られる。
「……。あぁ、」
意図せず、呻き声とも喘ぎ声ともとれない声を漏らす。
(なんだこれ……俺はどうなった?神獣は?倒せたのか?それとも俺は殺されちまったのか?……いや、もうそんな事はどうでもいいか。ここにいれば何もしなくていいんだから……)
突如、沼に沈んでいくような、足元から何かが絡みついてくるような感覚が走る。暖かい筈なのに、強い嫌悪感を覚える。
(くそ、やめろよ。俺はもっとここに浸っていたいんだ……邪魔をするな)
しかし、カイトの考えなど知らないとばかりにその感覚は身体を這い上がり、縛り付けるようなものへと変化する。
(やめろ、俺に入ってくるな、俺を縛るな、俺の自由を奪うな!)
ふわりと浮上するような気分と共に、意識が明瞭となってカイトは目を覚ました。
「ほう、流石にそう柔い精神はしていないか」
カイトの眼前には黄金が佇んでいた。
中性的な見た目をしたヒトガタ。眼球はどんな宝石よりも美しい黄金に彩られいるというのに、無感情な、まるで陶器を見ているような気分を沸き立たせる。
その身から放たれる圧は"神獣"の比では無く、超越者としての貫禄を身にまとっていた。
故にカイトは瞬時に理解した。
"ソレ"はカイト自身を深淵に引きずり込んだ張本人にしてカイトの憎むべき相手。カイトにとっては絶対悪とも言える程の存在。
「エヒトォッッ!!」
瞬間、カイトの右の拳に光が収縮する。"限界突破"と同時に真白の世界がカイトの"侵食"によって黒く染められ、空間そのものがエヒトを拘束するべく襲い掛かる。カイトは魔力の消費など顧みず、一撃に全てを掛けた。
轟ッッッ!!!
カイトの腕が振るわれ、神獣を一撃で消滅させてなお余りある極光がエヒトに襲いかかる。
しかし、
「温いな」
極光はエヒトが手を翳しただけで消失し、"侵食"した世界はとっくに塗り替えられていた。
「ふふ、随分な御挨拶では無いか。なぁ?イレギュラー」
「クソがッ!!」
魔力を全て消費したが、そんな事は関係ない。カイトは流れるようにしてエヒトに肉薄し、勇者の数十倍の速度で拳を振るう。
「無駄な行動は慎むべきだぞ?」
シャランと、刃と刃を軽く剃り合わせたような音が耳に届いた瞬間、カイトは両の手足を細身の剣で刺し貫かれ地面に縫い付けた。
「ッガァァァァアアアアアア!!!」
痛みなんてもはやどうでも良い事。カイトは雄叫びをあげ、気力を振り絞って剣を引き抜く。しかし拘束を解いた瞬間に黄金の鎖がカイトの身体を雁字搦めに縛り付ける。
たおやかな笑みを浮かべ、嗤うようにしてエヒトは話しかける。
「まるで狂犬だな。そう興奮するなよ、躾をしたくなってしまうだろう?」
「……巫山戯るなよドブゲロ。死んどけば良かったのに」
純然な殺意を以てカイトはそう吐き捨てた。しかしエヒトはそれに気を悪くするどころか、まるで愉快だと言わんばかりに笑みを深めた。
「やはりお前は面白いな。我に対面してそんな事を言った奴は初めてだ」
「ゴミボケが。気持ち悪ぃ面を晒すな」
「くくく、そのような態度はお前達の言葉でいう"嫌よ嫌よも好きのうち"というものか?フハハハッ!お前のような者が我に媚びてくるとなれば相当に面白いのであろうな!」
「クソカスが……」
カイトはエヒトの訳の分からない思考にイラつきを募らせる。
「フハハハハハハっ!そう怖い顔をするでない、可愛らしい顔が台無しだぞ?」
「はぁ?何だテメェ、ホモかよ気色悪ぃ」
「我に性別など関係ないのだがな。お前が好みであっただけだ。まぁ、世間一般に見てもお前の顔は中性的なものとして捉えられるだろうがな」
「世間一般をテメェが語ってんじゃねぇよ。それよりさっき、テメェは何をやったんだ」
「答える必要は無い、という事も面白いが特別だ。答えてやろう。此処を何処だと思っているのだ?お前が神獣を斃した先の力だが、あれは元々我のモノだぞ?」
「っ、あーそうかよ、確かにアレは【神域】を構成するエネルギーを圧縮して出来たやつだったな。クソ、全く頭が回らなかった」
「まぁそう悲観するな。アレがお前自身の純粋なエネルギーであればこの我でも傷を負っていたかもしれんぞ?」
「うるせぇよ、テメェをぶち殺せなきゃ意味がないんだ」
「叶えられないものは目標とも夢とも言わずに願望というのだよ」
「ドカスが……!」
こうしている間も、カイトの手足からはダクダクと血が溢れ死へと歩を進めて行っている。未だ魔力は回復せず、カイトは危機に陥っていた。
「そうだな、ここでお前を殺す事も訳無いが、それでは面白くない。ここは一つゲームをしようではないか」
大仰に両腕を広げ「いい提案をした!」というような表情を浮かべ、エヒトは歌うように言い放った。
「生死を賭けたサバイバルだ。時間は三日。我に触れるか三日間生き残るかでお前の勝利だ。ルールはない。好き放題にしろ」
「は?」
(突然なんなんだ。全く意図が読めない。いや、もしかすると何も考えていやしないのかもしれないな。コイツは多分自分の利益と愉悦だけで動くタイプだ。ただ単に暇つぶし程度としか思ってないのかもしれない。いや、だがそれは僥倖だ。コイツが俺の事を舐め腐っていてくれるのなら何時でも殺すチャンスがある)
カイトが思考を纏め終わった途端、エヒトは一つ指を鳴らした。するとカイトの全身を縛っていた鎖が解かれると共に身体が時を巻き戻したかのように再生し、魔力が回復した。
「さぁ、スタートだ。我は逃げも隠れもせず此処にいるぞ?」
「そうかよ」
言い終わるが早いか、カイトは先程のようにエヒトに肉薄し拳を振るう。しかしそれはまたエヒトに届くことはなく、分厚い鋼の板に阻まれ、少しその板を陥没させただけの結果に終わった。
「主に危害を加えようとしましたね?」
「テメェは……」
否。カイトの剛拳を防いだものは板なぞではなく、巨大な剣であった。
それを扱うは全身に銀色を纏い、双翼を担った女。
「貴方は未来で主の危機に値すると判断しました。これより排除します」
"神の使徒"ノイントがゆっくりと双大剣を構える。それに相対するカイトは頭を掻き毟って言葉を漏らす。
カイトはエヒトの方を睨みつけたが、エヒトはまるで「お前程度我が動く必要さえない」とでも言いたげに嘲りの表情を浮かべる。
「これも分かってたってか、下衆。あぁクソッ、気に入らねぇ。全部手のひらで踊らされてるように思えてきちまう。……いいや、まぁ、後で存在している事を苦痛に思うくらいに潰すとして、だ────」
そこで初めてカイトはノイントを目を合わせ、バキリと指を鳴らして口を開いた。
「────かかって来いよ、泥人形」
「ここで散りなさい。不敬者」
たった一歩。カイトとノイントの距離はそれだけだ。
ダンッ と、カイトは地面を陥没させるつもりなのかと思うほど強く踏み込んだ。ノイントの懐へと飛び込み、双大剣を封じるべくインファイトに持ち込む。それはまさに神速。トータスに存在する殆どの生物は反応出来ないだろう。
しかしそれで黙ってやられる程"神の使徒"は弱くない。
ノイントは焦らず冷静に大剣を横薙ぎにカイトの足に向かって振るう。
「身体能力と状況把握、身体の運用は優秀ですがそれに見合った技が無い。力任せでは脅威になり得ません」
「クソがっ」
カイトは後ろに飛び退きノイントの斬撃を回避する。しかしすぐさま弐ノ太刀が襲い掛かり、カイトに攻撃のタイミングを掴ませない。
カイトは左腕で刃を撫でるように触れて、軌道をずらす。
しかし、刃に触れる直前。
「かかりましたね、イレギュラー」
ノイントがそう言葉を発した瞬間、大剣に淡い白銀の輝きが灯る。
ヤバい、とカイトが思ってももう遅い。既にカイトは大剣に触れてしまっていた。
大剣と接触している部分から、カイトの指が少しずつ消滅してゆく。サラサラと砂が流れるように。
「な、ぁっ!?」
「少々甘く見ていましたね?幾ら主が傍に置いているとはいえ、かの"神獣"程ではないだろう、と」
図星であった。カイトは所詮人間だと高を括っていた。だがその認識は間違っていたのだ。ノイント、"神の使徒"は元々のステータスが四桁を超え、無限の魔力を保有したバケモノだ。さらに全ての個体が固有魔法として"分解"を取得している。そんな相手に舐めプが出来るカイトも相当だが、それよりもノイントは洗練されていた。
カイトは一つ溜息を吐き、"加速"と"現象操作"の応用で消え去った指先の傷を埋める。
「はぁ、クソが。今のはなんだ、消去?いや、そんな強力な固有魔法があればいちいち俺に近づく必要もねぇか。そうだな……テメェの固有魔法は"分解"ってところか?」
「ご名答です、イレギュラー。たかだか一撃……いえ、先程のものは攻撃とも言えませんね。少々干渉されただけでそこまで理解出来るとはやはり貴方は危険です。時期が時期なら主の存在をも脅かすものとなっていた事でしょう」
惜しみない賞賛。なにか裏があるのではと考えてしまう程、ノイントはカイトの事を強く評価した。しかし、今は悪い方向にそれが向いてしまっている。
「ハッ、随分と高い評価を付けてくれるんだな。死ぬ程気に入らねぇが、俺は
「はい、なので『時期が時期なら』と言ったのです。もし貴方が神代魔法でも手に入れた時には相当に厄介、いえ、そんな甘い存在ではありませんね。確実に危険な存在になることでしょう」
「あん?今お前面白い事を言ったな。なんだ、神代魔法は手に入れれるものなのか?」
「……失言でしたね。聞き出したいのなら一度私を服従させてみては如何でしょうか。もしかすると何かが分かるかも知れませんよ」
「テメェも面倒臭い奴だな。テメェに構ってる時間は結構惜しいんだ。本当なら今すぐにでもゴミボケをぶち殺してぇんだよ。相手して欲しいのならもっと俺好みの女になることだな」
「……生憎ですが、私に感情というものは存在しませんので」
「そうかよ」
会話が途切れる。カイトもノイントも、示し合わせたように構えた。カイトは全身に魔力を回し、足に力を込める。もう治癒の為に魔力は使ってしまった。カイトは手を抜くのを辞めて、ノイントを無力化することに決める。ノイントは双大剣をしっかりと握り込み、何が起こっても対応出来るようにと意識を鋭くさせる。
「らァっ!」
「ッ!?」
ノイントが認識した時には、既にカイトは眼前までに迫っていた。先程のように何の変哲もない陳腐な攻撃ではない。"加速"と"衝撃変換"の乗った凄まじい一撃である。
ノイントは咄嗟に双大剣をクロスさせ盾にした。体と着弾寸前の拳との間に大剣を割り込ませる。その試みはギリギリのところで間に合い、カイトの剛拳をせき止めた。
しかし、その威力までは止められず、ガァアアン! という鋼をぶつけ合ったような凄まじい音を轟かせながら、ノイントは猛烈な勢いで吹き飛ばされた。
そしてカイトはそれに追随する。
ノイントが体勢を立て直し顔をあげるが既にカイトはノイントに追いついており、固く拳を握りこんでいた。
「ぶっ飛べ」
ゴドンッ!! と、凡そ人間が起こした物理攻撃とは思えない轟音が鳴り響く。
ノイントの腹には深々とカイトの剛拳が突き刺さり、少しの猶予を以てノイントを吹き飛ばした。
「ふぅ、死んだか?」
プラプラと手首を振りながらカイトは軽く息を吐く。あくまでカイトの目的はエヒトを殺す事で、決してノイントに長い時間を掛ける程の余裕は持ってないのだ。
確実にする為に追い打ちをかけて殺す事も可能だったが、カイトはそれを選ばなかった。
利己的な考えだったが、カイトは初めて敵対した生物を殺さなかったのだ。
しかし、それは今は"甘さ"となる。
倒れ、微動だにしていたかったノイントが突如銀の双翼を振るう。そこから放たれるは銀の弾丸。固有魔法"分解"が付与されている殺意をたっぷりと乗せた銀羽が飛来する。
「まぁ、そんな訳無いよな」
カイトは焦らず思考速度を加速。コンマ数秒の内に回避可能なルートを導く。
カイトは地面を強く踏みしめ自ら突撃した。
ノイントは腹部を抑え大剣を支えにしながらも立ち上がるも、も既に目の前にはカイトが迫っていた。
ノイントがカイトを認識する。だかそれはもう遅く、カイトはノイントの顔を掴み地面に叩きつけた。
「がっ、は……!」
「さっきので分かった事がある。生殖器官は見つかんなかったがそれ以外は結構人間の身体と変わんねぇ」
「っ!」
ノイントは力任せに大剣を振るう。技術はなくとも触れれば必ず分解されるということは強い凶悪さを持つ。
カイトはノイントから手を離し後退した。
「それが……どうしたというのです……!」
「話す義理はねぇが、こうして相手をネチネチと潰すことは好きなのでね、話してやるよ」
カイトは効率よりも愉悦をとった。
ノイントが全身に銀の光を灯し、身体を回復させる。しかしカイトはそれを無視して言葉を続ける。両腕を広げ、ミュージカルの登場人物のように。
「元々俺のいた世界にはあらゆる情報が手に入れられてな、中学生の時……と言っても分かんねぇか。ほんの二、三年前の話だ。格闘漫画にハマってね、よくあるように武術を模範的に練習してみた。普通は憧れは憧れで終わるんだろうが、何故か俺は才能があったみたいでね、素で出来ちまったんだよな。よくある死角を縫っての意識外からの攻撃とか、縮地だとか、弾道予測線を予測するだとか。いや、最後のは流石に嘘だが。どうやら俺は人と関わるのは苦手だが人を観察するのは得意だったらしくてね。とまぁそんな感じで人間の急所的なのは記憶してるんだよ。まぁ、終ぞ使うことはなかったがな」
因みにその時は非攻撃的技術の練習となってくれた友人が存在していて、高校が分かれて会うことが無くなったという裏話もある。
「能力だけではなく思想も危険と来ましたか。ここで確実に貴方を排除しなくてはいけない理由が増えました」
「そう褒めるな」
次に先に動くはノイント。双大剣を以てカイトに肉薄する。
「はぁぁぁあああっ!」
ノイントが同時に両の大剣を振るう。しかし刃が当たると思われたその瞬間、カイトが消滅する。
その後突如ノイントの全身に衝撃が走り、ノーバウンドで十メートル以上吹き飛んだ。
「こんな感じだ。意識外からの攻撃ってのは」
ノイントが目を向けるとカイトが足を振り上げて立っていた。カイトは軽く身体を動かしながら何かを確かめるように呟く。
「そうだよ、これだ。今まで戦ってきたのは物理的に人外なバケモノばっかだっただけなんだ。同じ人体という既知なら何の恐怖も抱く必要もない」
カイトは犬歯を剥き出しにするように凶悪に笑う。
「感謝するぜ。やっと自分を思い出した」
「っ、何をっ!"劫火浪"!」
ノイントが銀翼をはばたかせ、銀羽を宙にばら撒く。その銀羽はノイントの前方に一瞬で集まると魔法陣となりて強大な魔法を顕現させる。
発動された魔法は天空を焦がす津波の如き大火。
カイトに向かい、うねりを上げて頭上より覆い尽くすように熱量・展開規模共に桁外れの大火が迫る。
「駄目だな。遅いし何より既存の法則に頼っているってのがダメだ」
襲い来る大火に向かってカイトは右手を翳す。ニヒルな笑みを浮かべてカイトは棒立ちでいる。
それがカイトを呑み込む寸前、翳されたカイトの手の平に触れた瞬間、炎の津波は元々存在していなかったかのように霧散した。
「……これも凌ぐのですか」
「炎ってのはただの燃焼っていう現象だ。俺は技能としてその現象を自由に操れてね、もっと理解不可で説明不能な謎攻撃じゃねぇと俺には通用しねぇよ」
「吠えますね、イレギュラー!」
「事実だからな」
ノイントは銀の光を身体に纏う。さらに大量の、凡そ百を超える数の魔法陣を展開し、銀羽をカイトに打ち込みながら双大剣を構えてカイトに飛翔する。
魔法陣から幾条もの雷撃が放たれる。その一つ一つは限りなく最上級魔法に近いレベルであり、放たれた銀羽は全てが地球のアンチマテリアルライフルを越えようかという威力である。
「おいおい、まだ本気を出してなかったとかマジかよ」
カイトは気を引き締め直し、"加速"を全身に付与させて応戦する。振るわれたカイトの腕から自然では起こり得ない暴風が唸り、銀羽を散らしてノイントに襲いかかる。既にカイトに魔法は通用しない。カイトの魔力が切れるまで、全ての魔法は打ち消されるか跳ね返されるかの結果に終わる。よってカイトは雷撃を取るに足らないモノだと判断した。
しかし銀の光を纏ったノイントの動きは、先程までとは比べ物にならなかった。
お互い、残像を残し、身体を何重にもブレさせながら戦う。その速度は音速に迫ろうかという程で、周囲にばら撒かれる衝撃だけで並の人間なら死に至る。
「はぁぁあああっ!」
ノイントは手に持つ双大剣を振り上げ、十字に斬撃を放つ。
神速で振り抜かれた大剣は、空気を裂きながらカイトに迫る。"分解"の付与された触れれば必ず切り裂かれる攻撃。幾らカイトといえども、理解しきれていない固有魔法を使った攻撃には手を焼く。流石に危険と感じたのか最小限の動きで斬撃を躱し、"衝撃変換"の込められた拳を打つ。
「っ!」
ノイントはそれを翼で身体を覆うようにして防ぐ。しかし、幾ら"分解"が付与されていようと衝撃までは殺しきれず、ノイントは少し弾き飛ばされる。その隙を逃すカイトではない。その間にカイトは"限界突破"を発動した。
「らぁああああっ!」
「はぁああっ!」
お互いに一歩踏み込み、殆ど距離ゼロの状態となる。
超接近戦の幕が上がった。
カイトは何度も拳撃を放ち、ラッシュをかける。
それに対するノイントは一之大剣による幹竹割りの斬撃を放つ。カイトはそれを半身になってかわすが、直後、弐之大剣が逆袈裟に振るわれる。
カイトは、"侵食"により空間を固め弐之大剣の動きを止める。バカみたいな量の魔力を食うためカイトとしてはとりたくなかった手段だが防御は出来ず回避も間に合わないとなれば使うしかなかった。
一瞬大剣の動きが止まった瞬間、カイトはノイントの腕を折ろうと手を振り下ろす。ノイントは武器に拘っていては不味いと判断したしたのか手を離しカイトの剛拳を回避する。
互いに至近距離で、相手の攻撃の為にあらゆる算段を演算し、動きを潰し、攻撃をかわし、弾きながら致命の一撃を与えんと全身全霊の武技を振るう。
生命活動に必要な最低限の行動も今は捨て、互いを殺すべく行動する。
黒と銀の魔力が混ざり合い、美しい輝きを辺りに放つ。
(……ヤベェな。このままじゃジリ貧だ。)
"限界突破"には膨大な魔力を必要とする。幾らカイトの魔力が大量にあるとはいえ、無限に発動させれる訳では無いのだ。魔力が尽きれば自動的に強化は解除され、その後幾分か弱体化してしまう。それに対してノイントには無限の魔力炉が存在している。その事をカイトは先程ノイントを殴り飛ばした時に理解していた。故に、カイトは出し惜しみをすることを辞める決意をする。
「握りつぶせ!」
「ッ!?」
空間を"侵食"。先程エヒトにしたように空間を固定し動きをとめさせる。止めていられる間はせいぜい数十秒だろう。しかし、その数十秒は今のカイトにとって十分過ぎる時間だ。
(必要最小限に、狙いを定めて)
カイトは右拳を握り込み、混沌とした光を灯す。
威力を調節した神獣殺し。最小の魔力であってもその威力は絶大だ。
「ぉぉぁぁあああっ!」
腕を振りかぶり極光を放つ、その瞬間。極光が突如爆発を起こした。
「それをやられては面白くないのでな、勝手に止めさせて貰ったぞ」
エヒトがそう口に出す。モロに爆発を喰らったカイトは少なくない怪我を負い、吹き飛ぶ。
「やっぱテメェはとんでもねぇカスだな。あぁ、読んでたさ」
カイトが吹き飛ばされた方向にはエヒトが佇んでいる。
「ほう?そうやってノイントから逃げ、我に触れようというのか。だが、それは随分と甘い考えだぞ」
「俺でもまどろっこしい方法だとは思うがな────」
カイトは空中で体勢を整え、"加速"を発動して音速を超えてエヒトに向かう。
「これは評価に下方修正が必要かもしれんな。そんな単純な方法しか思い浮かばんとはな」
エヒトが指を鳴らす。すると空間に裂け、ギャリィィ! と黄金の鎖が飛び出してくる。それはカイトを補足し、先程のようにカイトを縛りつけんと一直線に進む。しかし着弾する寸前、突如カイトの姿が掻き消える。
「何ッ!?」
「────"幻影"」
カイトはエヒトの背後に姿を現す。カイトの拳はしっかりと握りこまれ、拳撃を放っていた。
「らぁああああっ!」
「おのれぇぇぇえええ!」
カイトの身体の真下から黄金の鎖が幾条も飛び出し、カイトの全身を縛る。
しかし────
「くははっ、ほら、触れたぞ。ゴミボケ」
「……、」
カイトの拳は確かにエヒトに届いていた。威力も何も無い一撃、いや、攻撃とも言えない代物であったが、確かに『触れる』ということには成功していた。
「主よっ!」
丁度そこにノイントが到着する。その状態を見てノイントは激昂し、カイトに大剣を突きつけた。
「やはり貴方は危険だイレギュラー!絶対に始末を付けなければいけない!主よ、ご命令を!」
「……フ、フハハハハ……フハハハハハハハハ!!面白ぞイレギュラー!まさかお前がそんな小細工を練ってくるとはな!今のはお前を理解していなかった我の落ち度だな!フハハハハハハ!よい、ノイント。お前は勇者の方にでも出向くが良い」
「ですが主よ……」
「命令だ。行け」
「……承知しました」
そう言って空間の波紋に飛び込んでいった。
「さて、では話をしようかイレギュラー」
エヒトは指を鳴らし、カイトを縛り付けていた黄金の鎖を消滅させる。
「……おいおいエヒトさんよぉ、何勝手にアイツをどっかにやってんだ。『あっれー???貴方感情無いんですよねー???なんで怒っちゃってるんですかー???』っておちょくるの忘れたじゃねぇか」
「我という至高の存在と共に時を過ごしているのだぞ?それが最上の悦びであろう?」
「は?死ねよ」
そんなカイトの言葉にもエヒトは笑みを深める。その事にカイトは「エヒトって実はドMなんじゃね……?」と疑問を持ち始めた。
「まぁそう怒るな。それにしてもお前がここまで早く条件を達成するとは思わなかったぞ」
「そうかよ。で?それがどうした」
「会話とはもっと楽しむものだぞ?」
「うるせぇテメェが一般論を語んな死ね」
「ふむ、では結論を言おう。欲しいものを言ってみろ」
「は?」
「願うものだ。思っていたよりお前は面白かったのでな、我が特別に施しを与えてやろうというわけだ」
「何だテメェ……怪し過ぎんだろ」
(また訳の分からねぇ事を言い始めたぞこいつは。何が目的なんだ?全く思考が読めない)
「人の親切は大人しく受け取る事が吉だ」
「非人間がほざくな」
「成程。お前は我が信用出来ないと」
「何言ってんだ。当たり前だろ?」
「仕方ない……これはサービスだ」
そう言ってエヒトは指を鳴らす。またあの鎖が飛び出してくるのではないかとカイトは身を強ばらせる。だがそんなことは起きず。
「何だこれ……」
カイトの全身を淡い黄金の光が覆う。すると深淵で負った傷跡が綺麗に無くなり、カイトのボロボロだった服が地球にいた頃着ていた制服へと変貌していた。
「何だ……テメェ、何をしやがった?」
「おや、気に入らなかったのか?一応貴様の心に一番強く残っていた服装であったのだがな」
「そういうことじゃねぇ!こんな事をしてテメェは何を求めてやがるんだ?」
「……面白さ、だな。我は退屈なのだよ。今回お前達を召喚したのも暇潰しの為だ。その中でもお前は我の気に止まったからな、こうやって施しを与えてやろうというわけだ。それで?何か求めるモノは決まったか?」
「ッチ、気に入らねぇな……何よりその透かしたような目が気に入らねぇ。そうだ、テメェの目を寄越せ。それが俺の願う事だ」
「やはり、面白い事を願うな」
エヒトはカイトに手を翳す。するとエヒトの手に光が灯り、段々と輝いていく。それは爛々と輝きを増し、光の爆発を起こした。
「ッ!?テメェッ!」
カイトがエヒトの居る方法へ踏み込もうとした瞬間、光が収まった。
「それ、終わったぞ」
「はぁ?何も変わってねぇじゃねぇか」
「それはお前がまだ"神眼"の扱い方を理解してないからだ。その内に分かる」
「胡散臭ぇ……」
カイトは自身を見る事が出来ないから分かっていないが、カイトのその両目は元々黒目だった部分が黄金色に染まっていた。
「あぁ、忘れるところであったな。これもプレゼントだ」
エヒトは空間から何かを取り出し、カイトに放り投げる。
それは神獣の肉であった。
「あぁ?」
「神獣の肉だ。魔物を喰えば強くなれるのであろう?喰え」
「なんで持ってる……はどうでもいいな。テメェの言いなりになるのは癪だがこいつは純粋に欲しかったんだ。殺すのは変わりねぇがほんの少しだけ評価をあげといてやる」
「フハハハッ!それはそれは有難い。フハハハハハハッ!」
ガブリ、と一口。既に魔物の肉の味なぞ
「ガッ……!?」
(痛てぇ、なんだこれエヒトの仕業か……?いや、この感じは……最初に四つ目狼を喰ったのと同じ……魔力の侵食か!)
そう結論づけたカイトは逆に"侵食"を発動し、自らの糧としていく。身体の痛みが引いていくと同時に力が滾る。数分後には完全に神獣の力を己のモノにしていた。
「……はぁ、痛ってぇな」
「ふむ、魔物を捕食することで固有魔法を手に入れられるのか。興味深いな」
「テメェの意見なんざ誰も聞いちゃいねぇよ」
そう言いながらカイトはステータスプレートを取り出し、ステータスを確認する────
「無防備過ぎるぞ」
────瞬間、カイトの胸をエヒトの腕が貫いた。
「……は?」
「安心しろ。起きた時には我の傀儡となっているだけだ。それ程自由をする奪う気もない。普段は自由にしておいてやる」
「テメェ!ッ、ガハッ…ゴボッ…」
カイトは口から大量の血を吐き出した。意識か霞み、視界が揺らいでいく。
「まぁ、我に目をつけられた事が運の尽きだと思え」
「絶対に……殺してやるからな……!」
「楽しみにしておこう」
そうしてカイトの意識は途切れた。
いままで辛勝しか無かったから少しは強いぜって所を見させたかっただけなんだ……決してノイントが嫌いとかそんなんじゃないんだ……相性って思って下さい……