非戦闘職業で世界最強   作:むらやん

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鈴は好きです。
なお今回の話は九割勢いで出来ています


七大迷宮攻略RTA
帰宅(大嘘)


 視界を埋めつくしていた光が収まり、直後に浮遊感が訪れる。しかしそれもすぐさま地に足が着いたことで収まった。景色にピントが合わさり、カイトは自らが何処にいるかを理解する。

 

 「……なるほど。流石に大聖堂の中、とはいかないようですね」

 

 背後を振り返れば豪奢な建物が。時刻は昼。どうやらカイトは【神山】の頂点、協会の前に降り立ったようである。

 

 「……人の気配は感じられませんね。王国の方にいるのでしょうか」

 

 協会の中に人の気配は感じられずカイトは怪訝な表情を浮かべる。そこでカイトは試すように"千里眼"を発動した。これは離れている場所に対してイメージさえすればその場の景色を視界に写すという技能である。深淵の景色ばかりが頭に残り、少々朧気なイメージであったが、それでもきちんと効果を発動した。

 見ているのに見ていないという矛盾により、頭に直接叩き込まれるようにして景色が写し出される。

 

 「イシュタルはいるようですね。勇者や主要な騎士達は……あぁ、居るみたいですね」

 

 どうやら今の時間はオルクス大迷宮に潜らず、城内で特訓をしているようだ。真の神の使徒としてエヒトから知識と力を貰った今、汗水垂らして"魔王"を妥当せんと修行を積む光輝らの行動のなんと無駄な事か、とカイトは鼻で笑った。

 

 「……いえ、彼等もエヒトルジュエ様の駒としての役目は果たしているのです。笑ってはいけませんね」

 

 自分を戒めるように軽く頬を叩き、意識を切り替える。

 

 「さて、久方振りの『ただいま』としましょうか」

 

 そう言ってカイトは、"天道"のロープウェイをガン無視し、助走をつけて【神山】の頂点から身を投げた。

 

 「よっと────っ!」

 

 空を飛ぶ(跳ぶ?)事は出来たがここまで重力に任せた安全なフライウェイは初めてだった為、カイトは笑みを浮かべ言葉になってない声を漏らす。

 何度か空を蹴り方向転換をしながらカイトは狙いを定め、王城の広場、つまり、光輝達がいる場所へと、ジェット機もかくやというスピードで突っ込んだ。勿論、"現象操作"や"法則操作"を使ってある程度の衝撃は殺してある。精々とんでもない量の粉塵が舞い上がるほどだ。

 

 「うぉぉぉおおおお!?」

 「なんだなんだ!?敵襲か!?」

 「皆、構えろ!直ぐに迎え撃つぞ!」

 

 上から龍太郎、浩介、光輝である。その声を聞いたカイトは、勇者パーティがどれだけ成長したかを確かめる為に動かなかった。しかし、三秒程度経っても"神威"どころか"天翔閃"すら飛んでこない。疑問に思ったカイトは、セルフで粉塵を吹き飛ばし、まるで「Hey、you何やってんの?」とでも言いたげに肩を竦め目を瞑りアメリカン系のwhyなポーズをとりながら光輝らに声をかける。

 

 「何故、敵襲だと思われる事態で攻撃を放たないのです? 相手の正体も分からないうちに近づいてバカ正直に斬り掛かるような真似をしなかったのは評価しますが、さっきのように詠唱時間があったのならば幾らでも魔法を打ち込めたのでは?」

 

 そう言い放ち、どんな反応をしているかと目を開ける。

 

 「ぁ、え? 木、下……?」

 「えぇ、『ただいま』と言っておきましょうか。お久しぶりですね、皆さん」

 

 

 光輝の危険への甘い考えは置いておいて、そう言ってからカイトは柔らかい笑みを浮かべた。

 突然過ぎることに、誰も口を開けない中、一人

 

 「凄い、凄いよシズシズ! カオリン! 木下くんがなんだか凄くエロくなってるよ!」

 

 などと鈴は言い放った。

 

 「……は?」

 

 これには温和な笑みを称えていたカイトもピクリ。カイト自身もクラスメイトとの再会に軽く感動していたというのに、イイ感じの雰囲気をぶち壊され少々眉根を寄せた。

 先に反応したのは香織。

 

 「な、何言ってるの鈴ちゃん!?」

 「だって、だってだよ香織ちゃん! 久しぶりにあったら髪色が変わってて、ましてや他人と喋れなかった(誇張)木下くんが私達に挨拶したんだよ!? 多分これはアレだよ! 真の愛に目覚めてその人以外はどうでもいいっていう気持ちの現れだよ! 多分その人は白色の髪が好きなんだろうね!」

 「あの……」

 

 色々訂正しようにも鈴のあまりもの勢いにたじろぐカイト。ましてや敬愛するエヒトが白系統の色が好きなことはなまじ否定する事が出来ない。カイトが若干の冷や汗をかいていると鈴は続けて

 

 「それに木下くんの顔をよく見てみてよ! 鈴には分かる。アレは完全にメスの顔だね!!!」

 「いや、ちょっ」

 「そ、そう……なのかしら? いやでも、愛の形は人それぞれだって言うし……」

 「そっ、か。なら仕方ないね。おめでとう木下くん! 私たちは木下君を祝福するよ!」

 

 髪の色素が抜けたことにより、ただ女顔に見えるだけなのにメス顔などと言われさらにカイトは顔を引き攣らせる。

 雫は迷った挙句、カイトにとって一番損な考えに落ち着き、香織に至っては祝福の言葉を送ってくる始末。騎士団の団員は腕を組んで感動したように頷き、いつの間にか集まっていたリリアーナなど女子共は顔を赤らめてキャーキャー言いながらチラチラとカイトを見ていた。

 

 「まぁ、なんだ、鈴が暴走するのは今に始まった事じゃない。諦めるんだ」

 「強く生きろよ」

 

 龍太郎と光輝がカイトの肩を軽く叩き、慰めの言葉をかける。

 カイトは全員ぶち殺した方が身のためになるのでは? と真面目に思考したりするのであった。

 

 

 

 十数分後、カイトが誤解を解き終わり、皆が落ち着いたた頃に光輝が口を開いた。

 

 「それで……なんで木下は突然姿を消したんだ?」

 

 それを待っていた! とばかりにクラスメイトと騎士団のメンバー達が集まってくる。それに対し、カイトは至極真面目な顔をして言った。

 

 「王の話をするとしよう。星の内海、物見の台。楽園の端から君に聞かせよう……君達の物語は祝福に満ちていると────罪無き者のみ通るがいい────」

 「そんな無駄な話は求めてない。巫山戯ずに話してくれ」

 

 ネタにマジレスされた為、カイトは少し不機嫌な表情を浮かべるが、深く息を吐いて気持ちを切り替える。

 

 「……まぁ、いいでしょう。長くなるので先に用を済ましておくことをオススメしますよ」

 「構わない。今すぐ聞かせてくれ」

 「えぇ、ならオルクス大迷宮から帰ってきた次の日、俺が見た夢の話から始めましょう────」

 

 そうしてカイトは小一時間程現在に至るまでの経緯を話した。所々にエヒトを讃頌する言葉を入れていくことにより長くなったが、光輝達にはきちんと伝わったようである。

 

 「なるほど……じゃあ木下はこれから迷宮攻略に混ざるんだな」

 「いえ、そのつもりはありません」

 「……なんでだ?」

 

 カイトの返事が光輝は気に入らなかったらしく、二人の間に剣呑な雰囲気が立ち込める。

 

 「そうですね。まず理由の一つとして、俺と貴方達の技量に隔絶とした差があること。二つ、俺は大人数で戦うことに向いていないこと。三つ、効率が悪いこと。まぁ、後ろ二つは一つ目に纏められんでもないですが、きちんと言った方がわかりやすいでしょう?」

 「それなら心配しないでくれ。俺達は木下が弱くたってフォロー出来るだけの余裕はあるから」

 

 光輝は、カイトが勇者パーティのメンバーよりも弱いことを気にしていると思ったのだろう。しかしそれはとんだ思い違いである。

 

 「逆です。貴方達が弱すぎるんですよ。俺がここから居なくなってから二三ヶ月程度は経過してますが、それだけの時間があっても真のオルクス大迷宮にすら到達していないなんて言語道断です。エヒト様に選ばれ力を与えられているというのに……それでも勇者なんですか?」

 「なっ……!!」

 「落ち着いて下さい。木下様はエヒト様に認められた真なる"神の使徒"なのです。未だ成長中である勇者様が敵わないことは仕方がないことなのです」

 「それでも、もっと言い方があるんじゃ……」

 「オイオイ木下ァ! お前が何してきたのかは知らねぇが、ちょっと強くなったからって調子のってンじゃねェよ!」

 「「「「えっ」」」」

 

 突然話に割り込んできたのは檜山。オラオラと両のポケットに手を突っ込みながらカイトにガニ股で距離を詰めてくる。『神の決定』というこの世界で最も重要視される事実に「知らない」などとほざき、真の"神の使徒"に「調子に乗るな」などという世迷いごとを言い放ってみせた。「話聞いてたのかコイツ?」とばかりに皆が疑問の声をハモらせる。

 

 「あくまで天之河光輝の召喚に巻き込まれただけの没個性の勇者風情が……」

 「ぁあ゛!? イキってんじゃねぇぞ! 俺ぁ元々テメェのの事が嫌いだったんだよ! それがなんだ!? スカしたツラしやがって、なんだァその口調は! キャラ付けのつもりかァ!?」

 「よろしい。俺も同郷の人間を殺すのは余りしたくなかったのですが貴方が望むなら仕方ありません」

 

 一触即発。その言葉がピッタリな雰囲気となり、カイトは軽〜く、本当に軽〜く"威圧"を発動した。その結果、檜山はガタガタと震え出す。周りから見れば、自ら挑発した挙句、勝手に恐れているように見えるだろう。

 

 「お、おいなんだよ、そんな怖ぇ目をするんじゃねェよ、俺達クラスメイトだろ?」

 「クラスメイトだとしても俺の史上の存在はエヒトルジュエ様なので」

 

 カイトが檜山を殺すことで生まれるメリットとデメリットを演算しているとそこに光輝が割って入った。

 

 「まぁまぁ二人とも。俺たちはクラスメイトなんだ。普通は助け合うモノだろう? 檜山も、怖がるくらいなら木下を挑発しなければいいのに。木下も。冗談でも人を殺すなんて言っちゃ駄目だ」

 「チッ、分かったよ」

 

 檜山が渋々と言ったように光輝の言葉を了承する。

 

 「ところでさ、木下はエヒト様に選ばれた?認められた?とか言ってたけど、実際どのくらい強くなったんだ?」

 「そうですね、じっさいに目で見てもらった方が早いでしょう」

 

 そうしてカイトはステータスプレートを光輝に手渡した。

 クラスメイト達がわらわらと集まり、思い思いの反応をみせる。

 その反応の大体は恐れを抱いたものだったが。

 

 「木下。何処でこんな力を手に入れたんだ?」

 「魔物の肉を喰って運良く死ななければ貴方もこうなれますよ。勿論、ここまでのステータスにするにはヘビモスの数百倍は強い魔物を狩らなければいけませんが」

 「魔物は食べたら死ぬんじゃないのか?」

 「だから言ったでしょう。"運良く"死ななければ、と」

 「そうか……。でもさ、ここまで強いのならやっぱり攻略パーティに混ざったほうが」

 

 カイトがクラスの為に協力しないのが不満なのか、それでも後期は食い下がってくる。

 

 「貴方は目的と手段を履き違えてはいませんか? あくまで目標は魔王討伐でしょう」

 「でも! こんなに強いのなら木下は今すぐにでも世界を救えるだろう!」

 「(一応魔王とされているアルヴヘイト様は普通に俺より強いのですが……まぁ、知らぬが仏ということもありましょう)いえ、やはり俺も死にたくないので全ての大迷宮を攻略した後に挑む事にします」

 「ならっ!」

 「効率が悪い、そう言ったでしょう?俺の戦い方は中々荒いのでね、狭い場所なら巻き込んでしまうのです。なら先に他の大迷宮を攻略しに行く方が得でしょう」

 「………………そうか、ちゃんとした理由があるのなら俺には止めれないよ。俺たちで世界を救って、皆で日本に帰ろう」

 「そうですね」

 

 そう言ってもう用事は済ましたとばかりにカイトは背を向ける。

 

 「またな!俺達も絶対追いついてみせるから!」

 「えぇ、期待して待っておきますよ」

 

 そう言い残してカイトは地を離れた。

 

 もし、勇者達が"神水"も使わずにステータス五桁に至ったとしたならば、天変地異どころの騒ぎではないのだが。

 

 カイトは空を漂いながら口を零す。

 

 「あぁ、そういえば愛子先生や優花達が何故いないのか聞き忘れましたね。まぁいいでしょう。今更帰るのはカッコ悪いですしね」

 

 そしてカイトは、光輝が言った一言について考えていた。

 

 「(日本に帰る、ですか。考えてもいませんでしたね。そもそも、【神域】を攻略していたとき、俺は何を信念に突き進んでいたのでしょうか)」

 

 その時、カイトの頭に軽く頭痛が走った。

 

 「痛ッ。いえ、考えるのは止しておきましょう。沼に嵌りそうですしね」

 

 次に向かうはグリューエン火山。忌まわしき解放者達の遺産、その一つである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そういえば木下くんさぁ、ずっと敬語で話してたけどどうしたのかな?」

 「さぁ、イメチェンじゃないかしら?」

 「そっかー」

 




(ホモでは)ないです。
因みに勢いだけで書いた檜山がうんたら言うところですが、もし檜山がエヒトを罵倒していればハイリヒ王国は滅んでいたことでしょう。

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