非戦闘職業で世界最強   作:むらやん

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ちゃうねん、今まで主人公が何もし過ぎて無かっただけやねん


なぜなに技能

カイト達がステータスを確認した日から二週間が経った。

現在、カイトは訓練場で寝転がり休憩中である。休憩時間だというのに、光輝や雫、香織、龍太郎の四人組の他に、意識高めの奴らは自主練をしている。カイト自身としては、こいつら休憩っていう意味を分かってないのか?なんて辛辣な事を考えたりしていた。

つい二週間前までは自分のステータスの歪さに未来への恐怖を抱いたものだが、自分が思っていた以上に弱くなかったのである。

それは技能の"廻操"と"加速"に基づいていた。"廻操"の詳細としては、自分が持って移動させる事の出来る物を自由に操作出来るというものだった。但し、乗り物に関しては体積、質量を無視して自由に操作可能という、そんな技能だった。聞くだけではショボく思えるかもしれないが小石一つとっても超高速で敵にぶつければそれだけで致命傷になり得るし、何より曲がり角の先なんかにいても、操作すれば当てれるし、相手が回避しても上に同じという回避不可の魔弾(誇張)を触れるだけで自由に打ち出せるのだ。考えの上では、音速で飛ばしたり、微振動させ熱を持たせて石を溶かして溶岩なんかも出来るんじゃないか!?と思ったのだが自分が明確に想像出来ない事は不可能らしい。確かにカイトは音速で石を飛ばしたら周囲にどんな影響があるかなど知らないし、溶岩の動く法則など知らない。仕方ないかー、と思う反面、少しショックだった。

そしてもう一つ試したのは操る物の数に限界があるのか、という事だ。だが、これについては何とも言えなかった。小石を大量に操作してみようとしたが、細かい動きをさせるとしたら四個が限界だった。それ以上を操作しようとすると頭痛が出るのである。同じ方向に飛ばすだけだったら三十個ほどまではいけた。次に自分が持てるギリギリの人の頭ほどの大きさである岩を操作したのだが、特に小石を操作したときと変わらなかった。持てさえすれば全て同じ括りに入るらしい。

次に"加速"だが、これは文字通りに加速させる技能だった。まず最初に試した事は"廻操"で動かした物を加速させる事だが、自分以外の物を加速させようとすると必要になる魔力が、桁違いに多くなるのである。一度操作した石を全力で加速させてみたのだが、あまりもの自分が知覚出来ない速さに達した瞬間"廻操"が効かなくなり、変な所へ飛んでいってしまった。その後魔力枯渇による倦怠感の中、メルド団長にしこたま怒られた。いくら小石でも、十分な速さを持っていればそれは凶器となりえるんだ!気を付けろ!と。速さ×重さ=威力 の法則は異世界でも健在らしい。これをやってからは自分の加速だけに魔力を使うようになった。そして自分の加速はどこまでいけるのだろうか、という事だがこれまた全力で自分を加速させてみたのだが、まず体の操作が出来ない。気がついたら壁に激突する寸前であり、そのときはちょうど近くにいたメルド団長に助けて貰ったのだが、そのまま行ったとしたらと考えると血の気が引いた。それから、カイトはメルド団長から問題児と認定されたようだ。ちなみに"加速"は全身のみならず体の部位に分けて発動する事も出来るらしく、腕だけに発動して某光の太刀のような事も出来た。……本家に及ぶとは分からないが。そして調子に乗って連発していると直ぐに魔力枯渇となった。尚、後々腕が有り得ないほどの激痛に見舞われた模様。

 

「こうして思い返すと、禄な事してねぇなぁ……」

 

カイトは溜息を吐くとおもむろにステータスプレートを取り出し、眺め始めた。

 

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木下カイト

17歳

レベル : 7

天職 : 操縦師

筋力 : 20

体力 : 20

耐性 : 20

敏捷 : 350

魔力 : 20

魔耐 : 50

技能 : 廻操・加速・限界突破・言語理解

 

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これが、二週間みっちり訓練したカイトの成果である。「極振り過ぎだろ!」と、内心ツッコミをいれたのは言うまでもない。ひたすら速さを追い求めた為か、敏捷が面白い事になっている。ちなみに光輝はというと、

 

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天之河光輝

17歳

レベル : 10

天職 : 勇者

筋力 : 200

体力 : 200

耐性 : 200

敏捷 : 200

魔力 : 200

魔耐 : 200

技能 : 全属性適正・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

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やはりチートの権化だ。

しかも光輝は技能にある通り、魔法の全属性適正があるのだ。カイトも一応適正があったが、光輝のように高火力な魔法がバカスカ撃てる魔力がある訳でもないし、発動までの時間もかかる。これならひたすら"廻操"と"加速"をした方がいい。

トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。魔力を直接操作することは出来ず、どのような効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

そして詠唱の長さに比例して流し込める魔力は多くなり、魔力量に比例して威力や効果も上がっていく。また、効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる。それは必然的に魔法陣自体も大きくなるということに繋がる。

例えば、RPG等で定番の"火球"を直進で放つだけでも、一般に直径十センチほどの魔法陣が必要になる。基本は、属性、威力、射程、範囲、魔力吸収(体内から魔力を吸い取る)の式が必要で、後は誘導性や持続時間等付加要素が付く度に式を加えていき魔法陣が大きくなるということだ。

しかし、この原則にも例外がある。それが適正だ。

適正とは、言ってみれば体質によりどれくらい式を省略できるかという問題である。例えば、火属性の適正があれば、式に属性を書き込む必要はなく、その分式を小さくできるといった具合だ。この省略はイメージによって補完される。式を書き込む必要がない代わりに、詠唱時に火をイメージすることで魔法に火属性が付加されるのである。

ちなみに魔法陣は、一般には特殊な紙を使った使い捨てタイプか、鉱物に刻むタイプの二つがある。前者は、バリエーションは豊かになるが一回の使い捨てで威力も落ちる。後者は嵩張るので種類は持てないが何度でも使えて威力も十全というメリット、デメリットがある。イシュタル達神官が持っていた錫杖は後者だ。

談笑する相手なんかいないのでゴロゴロと転がりながらなんて事を考えているとハジメが訓練場に来た。

それを見た檜山大介率いる小悪党四人組がハジメにちょっかいを出し始めた。

 

「よぉ、南雲。何してんの?お前剣持っても意味を無いだろうが。マジ無能なんだしよ〜」

「ちょっ、檜山言い過ぎ!いくら本当だからってさ〜、ギャハハハ」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ?俺なら恥ずかしくて無理だわ!」

「なぁ、大介。こいつさぁ、何かもう哀れだから、俺等で稽古つけてやんね?」

「あぁ?おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね?まぁ、俺も優しいし?稽古つけてやってもいいけどさぁ〜」

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ〜。南雲〜感謝しろよ?」

 

そんなことを言いながら馴れ馴れしく肩を組み、ハジメを人目のつかない方へ連行していく檜山達。それにクラスメイト達は気がついたようだが見て見ぬふりをする。

 

「いや、一人でするから大丈夫だって。僕のことは放っておいてくれていいからさ」

「はぁ?俺らがわざわざ無能のお前を鍛えてやろうってのに何いってんの?マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

そう言って、脇腹を殴る檜山、ハジメは「ぐっ」と痛みに顔を顰めながら呻く。檜山達は段々暴力に躊躇いを覚えなくなってきているようだ。思春期男子がいきなり大きな力を得れば溺れるのは仕方ないこととはいえ、その矛先を向けられるハジメとしては、堪ったものではないだろう。

そのまま、檜山達は訓練施設からは死角になっている人気のない場所へハジメを連れていった。

 

「……さて、俺は自分が出来ることをしますか」

 

今更ながらカイトは友達がいない。

だが、この世界に来てから一番話した人間といえばハジメだし、カイト自身クラスメイトの中で一番信頼を寄せているのはハジメである。力を手にいてれウホウホしている奴らに比べれば、ハジメは力が無いなりに自分の出来る事をしようとしているし、何より力が無い分、一番本気で生きている。

カイトはその在り方に憧れた。頼りないかもしれないが、あんな優しくて強いのが一番友達として欲しかったのかもな、と思った。

だから、カイトはハジメを助ける。……ここまで引っ張っておいてなんだが、カイトがする事は檜山達に「おい、やめろよ!」と言うのとなんら変わりない。だが、常に小説を読んでいる陰キャとしては、DQNに意見する事だけでボーナスを全て宝くじにつぎ込むような決心が必要なのだ。だからカイトは"自分に出来るようなことをする"のだ。

 

「"加速"」

 

速度を上げ走る。勇者パーティ───光輝、香織、雫、龍太郎の四人組の所へ。……まぁ、せいぜい数百メートルの距離なので、十秒も掛からないのだが。

そこへ着くと、四人は目をぱちくりとさせていた。当然である。今まで殆ど喋った事のないような奴が突然現れたのだから。

 

「し、しら、白崎さん、天之河、坂上、や、や、や、八重樫さ、さん、────南雲が檜山達に連れてかれた。多分リンチ紛いの事をされると思う。場所は西側の花壇、その奥の角を曲がったところだ」

 

強く意気込んだカイトだったが、それで生来の気性が消える訳でもなく、女子の名前を呼ぶ時は盛大に吃ってしまった。その恥ずかしさに言い終えたあと、カイトは居ても立ってもいられなくなり、返事を聞く前に超スピードで駆け出してしまった。

 

「あ……」

「言うだけ言って行っちゃったわね、彼。で?香織はどうするの?」

「────助けなきゃ。南雲くんが酷い事をされてるなら……私は……」

「はいはい、そういうのは香織には似合わないから、行くわよ?ほら、二人も!」

「あ、あぁ」

「……木下って、あんな胆力あったんだな。誤解してたぜ。……それと、喋れたんだな、あいつ」

 

そう言って四人は走り出した。

その頃カイトは……

 

(ああああああ!!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!!なんで吃っちまうんだよ!どう考えてもあそこはバシッと決めてキャーカッコイーってなる所だろ!いや、解決を他人任せにしてる時点でかっこよく無いんですけどね!!!)

 

そうやって木に頭を打ち付けていた。

周りのクラスメイトからしてみれば、突然走りだして一分もしないうちに帰ってきたと思えば木に頭を打ち付けるのだ。イカれているとしか思えない。

「やっぱり残念くん……」だとか「文武両道でイケメンでもコミュ力がなければああなるのか……」と何処かで聞いたようなセリフが聞こえてきた。

 

「ぐぁ!?」

 

そんな巫山戯た真似をしているとハジメの悲鳴が聞こえた。なかなかに切羽詰まっているようだ。四人が来るまでの時間稼ぎ、と思いそこを覗く。そこで見たのは……

 

「ほら、なに寝てんだよ?焦げるぞ〜。ここに焼撃を望む、"火球"」

 

中野が火属性魔法"火球"を放つところだった。ハジメはゴロゴロと必死に転がりなんとか避ける。だがそれを見計らっていたように、今度は斉藤が魔法を放った。

 

「ここに風撃を望む、"風球"」

「"廻操"」

 

風の塊が、立ち上がりかけたハジメの腹部に直撃────しなかった。

高速で飛んできた石が魔法ぶつかったからだ。「いやそんなんで防げる訳ねぇじゃん!」と、思う人も多いだろう。だが、ここはファンタジーの世界だ。現実世界で先ほどのような赤い火の玉を飛ばしても、相手に当たった途端爆発などしないのだ。現実なら火の中でも走り抜ければ火傷を負うだけで済む。当たった途端爆発して吹っ飛ぶ火など、物理法則に喧嘩を売ってるとしか思えない。そもそも火と風は現象なのに水と地は物質なのかとかツッコミたいところは沢山あるがそこは置いておく。つまりカイトは、異世界の謎法則を逆手に取ったという訳だ。サスガオニイサマ!

 

「おいおい斉藤、魔法失敗してんじゃねぇよ。あ〜萎えるなぁ……」

「ちっ、違えって!ちゃんと魔法は発動したし打ち出されたろ!?偶然なんか当たっただけだって!」

(ついやってしまったけど……俺とバレなくてよかった……)

「はぁ?ったく、次はちゃんとやれよ?」

「あぁ、分かってるよ!ここに風撃を望む、"風球"!」

(ちょ、また撃つのかよ!)「"廻操"」

 

小声で唱え、足元の石を蹴って操作する。またもや斉藤の魔法はハジメに当たる前に霧散する。

 

「おい斉藤ォ!またしくってんじゃねぇぞ!」

「ち、違えって!誰かなんかしてんだって!そ、そうだよ!チート持ちの俺が失敗する訳ないって!」

「あぁ?ちっ、誰かいんのかゴラァ!」

 

近藤がそう言って辺りを見渡すが、誰の姿も見えない。

 

「くそっ、おい南雲ォ!てめえがやったのか!?」

「し、知らないよ!僕はこんな事が出来る天職じゃないしやろうともしてない!」

「あぁ?使えねぇ奴だなオイ!」

 

そう言って檜山はハジメの胸ぐらを掴んで殴り飛ばす。そのまま二発目をしようと手を振りかぶった時、突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。

 

「何やってるの!?」

 

その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん!」

 

檜山の弁明を無視して、香織は、頬を抑えて蹲るハジメに駆け寄る。ハジメの様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは……」

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない。」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

苦笑いするハジメに香織はブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの?それなら、私が……」

 

何やら怒りの形相で檜山達かわ去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから!大丈夫たから、ホント気にしないで!」

「でも……」

 

それでも納得できそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメ。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう?聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬に充てるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

何をどう解釈すればそうなるのか。ハジメは半ば呆然としながら、ああ確かに天之河くんは基本的に性善説で人の行動を解釈する奴だったと苦笑いする。

光輝の思考パターンは、「基本的に人間はそう悪いことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない!」という過程を経るのである。

しかも、光輝の言葉には本気で悪意がない。真剣にハジメを思って忠告しているのだ。ハジメは既に誤解を解く気力が萎えている。ここまで自分の思考というか正義感に疑問を抱かない人間には何を言っても無駄だろうと

それが分かっているのか雫が手で顔を覆いながら溜息を吐き、ハジメに小さく謝罪する。

「ごめんなさいね?光輝も悪気があるわけじゃないのよ」

「アハハ、うん、分かってるから大丈夫」

 

やはり笑顔で大丈夫と返事をするハジメ。汚れた服を叩きながら起き上がる。雫が遠くを見つめて何かをしていたのが気になったが無視した。

 

「ほら、もう訓練が始まるよ。行こう?」

 

ハジメに促され一行は訓練施設に戻る。一方カイトは……

 

(あっぶねぇ〜。よかった見つからなくて。それにしてもあいつらは凄ぇな。ただ出てくるだけで檜山達を止めるなんて。俺には真似出来そうにないな……)

 

見つかりそうになったカイトは異世界に来てから上がったステータスを駆使して王城の窓枠にぶら下がっていた。咄嗟に逃げれた場所がそこしか無かったのだ。カイト自身一か八かの賭けだったのだが、手が届き掴めて、さらに見つからなかったのは奇跡に近い。しかも数歩だけだが壁を走れたのだ。これには引くのと同時に着々と強くなっていけている事に喜びを感じた。

去り際に雫がこっちを見て何か言っていたような気がしたが、見つかった事への恐怖に何を言っていたのか全く分からなかった。聞きに行けば早いのだろうが、そんな勇気今日で使い果たした。やはり根本はチキンでコミュ障なのだ。

 

「ありがとう、って言った事、分かったかしら?」

「え?なんか言った雫ちゃん?」

「ふふっ、何でも無いわよ」

「え〜?」

 

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実践訓練の一環として 【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実践訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合い入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾でハジメと同時にカイトは天を仰ぐ。

 

(迷宮とか絶対狭いじゃん。俺の唯一の速さが……)

 

 

【オルクス大迷宮】

それは、前百階層からなると言われている大迷宮である。七代迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石。体内に抱えているからだ。

魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな魔石。備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると効果は三分の一程度まで減退する。要するに魔石を使う方が魔力の通りが良く効率的だということだ。その他にも、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、魔力はあっても詠唱や魔法陣が使えないため多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法のなしに放つ事ができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。

カイト達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者のための宿場町 【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

カイトは、久しぶりに普通の部屋を見た気がする……と、小市民としてはとても落ち着く素朴な灰色をしたベット飛び込んだ。

 

「あぁ〜……癒される〜」

 

全員が最低でも二人部屋なのにカイトとハジメだけは、何故か一人部屋なのだ。まぁ、誰かと同じ部屋でも喋るようなネタなんて持って無いのだが。

 

「あ〜……そうだ……南雲に話をしにいかねぇと……明日の事について〜……」

 

だがしかし如何せん眠い。三十分だけ、と思い、カイトは寝息をたて始めた。

 

落下する感覚と同時に、カイトは目を覚ます。「ビクッ」として起きるあれだ。

 

「あー……いま何時だ……?って異世界に時計なんかないか……あー……」

 

グーっと伸びをしてベットから起き上がる。そのままハジメの部屋へ向かう。寝ていなければ良いが……。

 

ハジメの部屋の前に着くとコンコンコンと、三回ノックして返事を待つ。

だが、待てども返事はない。バタバタとした音は聞こえるのだが。

 

「あー……俺だ、木下だ。南雲、起きてるかー?」

「ちょ、ちょっと待って!すぐ開けるから!」

 

どうやら寝てはいなかったらしい。声が寝ぼけてない。

 

「ご、ごめんね、すぐ開けれなくて。それで?どうしたの?」

「いや、俺も夜分遅くにごめんな、それで用事だが……中で話せないか?頼みがあるんだ」

「あ、あぁ……た、頼み……ね?分かったよ、入って」

 

随分と歯切れが悪いがどうかしたのだろうか?まさか自分はハジメのオナ(ryの真っ最中に来てしまったのではないかと申し訳なくなる。

 

「ってあれ?し、し、白崎……さん?何故ここに?」

「えっと……私も……南雲くんと話がしたくて」

「い、いや木下くん!別に変な事をしてたとかじゃないからね!?そこは勘違いしないでね!?」

「あー……おーけーおーけー」

「だ、大丈夫だよ南雲くん!木下くんは他の人に話したりしないって!南雲くんが檜山くん達に連れ去られたときに私たちを呼びに来てくれたのは木下くんだから!」

「あっ、おい待てぃ、そんな事実は一切ないのでございまする候」

 

思わず謎言語になってしまったが香織が突然言った事にマジかよこいつ、と、驚愕する。

 

「え?じゃあ斉藤くんの魔法を打ち消してたのも木下くん?」

「黙秘権を行使します」

「ちゃんと言ったほうがいいよ?他の人達も気づいてたのに言いに来てくれたのは木下くんだけだから……ありがとうね?」

「えっ、いや、白崎さんがなん、え?」

「ありがとう、木下くん。あのままだったら相当酷いことになってたと思う。本当に、ありがとう……」

「いや、あー……うん、じゃあ貸し一つということで俺の頼みを聞いてくれ」

「僕に出来ることならなんでも」

「木下くん、変な事は駄目なんだからね?」

「いやっ、そそそそそんなことするはずないじゃないですか」

「で、僕に頼みって何かな」

 

このままじゃ話が進まないと感じたのかハジメが話を切り出す。

 

「あぁ、頼みってのは迷宮で石を、出来れば人の頭くらいの大きさのやつを作って欲しい、って事なんだが……おっと南雲、そんな目をしないでくれ。ふざけてるわけなんかじゃなくてだな、俺の技能は少しでも触れれば自分の力で物理的に動かせるものを自由に操作出来るってものなんだ。あ、知ってる?そう。……で、そのくらいの大きな石なら生身の俺でも持てるんだよ。やっぱり質量のデカいほうが威力が上がるからさ、でもそんな都合のいい岩なんて早々ない。だから作ってくれ、そんな感じだよ」

「うん、話は分かった。任せてよ」

「あぁ、ありがとう」

「木下くんってそんな事考える人だったんだね。意外!」

「えっ、」

 

それから暫く雑談した後(カイトと香織との話は殆ど出来てない)、カイトは自分の部屋に帰った。

ボフリとベットに飛び込んで考える。

 

(そういえば、こんなに長く同年代のやつと話したのって……いつぶりだろ……)

 

そしてカイトは目を瞑り意識を闇に落とした。




ちなみに"廻操"の乗り物ならどんなものでも操れる、というところですが、自分が乗り物だと感じていれば何でもいけます。ですが元々乗り物だった物が欠損などでその形をなくした場合は操作不可になります。
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