「月が綺麗ですね」   作:ステア(STER)

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「月が綺麗ですね」って告白じみたことを言われるけどその時は普通に返すんだけど言いよどんでたから何か意味があるのかもと別れた後に友達に尋ねたらめっちゃ相手を意識しだす千歌ちゃん下さい

 という旨のツイートが私のツイッターに流れてきたので、拙筆ながら妄想したまま書かせていただきました。

 少しシリアスです。


「月が綺麗ですね」

 千歌たちは何もやることなく、部屋でくつろいでいた。窓から見える海に、雲と雲の間隙(かんげき)から朧気(おぼろげ)に見える緋色の夕陽が今にも沈もうとしている。

 するとふいに、千歌の隣にいた、彼の唇が微かに動いた。

 

「月が…綺麗…ですね。」

 

 しかし…

 

 今日は朝から曇模様。学のない千歌には何を言ってるのか見当もつかなかった。

 

「ん…?何言ってるの?曇ってて月なんか見えないよ。」

 

 彼の顔からみるみる精気が抜けていった。肩を落とし、一瞬、唖然とした顔で抜け殻になったかと思うと、顔を窓から微かに見える夕陽のように紅潮させて、(きびす)を返して走り出した。

 

「ごめん…なんでもない、忘れて。」

 

 そう、捨て台詞を吐いて。

 

 

 

 

「というようなことがあったんだ。」

 

 放課後の帰りだ。今日は生憎、バケツをひっくり返したような雨が、ここ沼津の地に降り注ぐ。濁流のような水が長井崎の坂を流れ落ちていた。

 千歌の隣には同級生の桜内梨子と、後輩の国木田花丸。千歌からみて学のありそうな2人だ。

その2人に、昨日あったことを持ちかけていたのだった。

 

 「ち…千歌さん、それって…。」

 

 千歌の話を聞いた2人は途端に青ざめる。

 

「月が出てないのに、おかしなこと言う人だなーって思った。」

「ち、千歌ちゃん…。『月が綺麗ですね』っていう言葉はね…『愛してるよ』っていう意味が含まれているんだよ…?」

「えっ」

「それで、千歌さんの『雲に隠れて月なんか見えないよ』っていうお返事には…『あなたの気持ちには答えられないよ』っていう意味が含まれているずら!」

 

それを聞いた千歌の目から輝きが消えた。唇を微かに震わせ、立ち止まって微動だにしない。

 

「そんな…違うの。私、全然そういうつもりじゃなくって…」

 

全身の血潮(ちしお)が大きく脈打つにも関わらず、彼女の頬は青ざめきっている。

 

「ねえ…これって…告白、だよね………。」

 

「…そうずらね。」

 

 どうしようもない気持ちが、硬直する彼女の心身を襲う。

 彼に嫌われたのではないか。彼は…私のことが好きだったんだ。でも、もう私は彼の気持ちを受け入れる資格がないのではないか…。でも…でも、離れたくない。ずっと、一緒にいたい。また昨日のように、部屋でのんびりゴロゴロして、ゲームとかして、たまには…どこかに行けたらいいな…なんて。

 後悔と不安と微かな期待が入り交じった感情が、彼が遠ざかっていくような情景を千歌の脳内をよぎらせた。

 

 -あっ…行っちゃヤダ………。離れないで、離れたくないよぉ………。ねぇ…わたしぃ…もしかして…いや、もしかしなくても…。

 

 より強くなる雨に促されるように、彼女の目からも “雨” が零れ出た。

 

「ううっ…。どうしよ………私も、ホントは好きだったみたい、彼のこと…。ドキドキが止まらないの…。でも…私…。彼にあんなひどい言葉…かけちゃった…。ぐすん。」

 

 雨がより一層強くなるに連れて、彼女が流す涙もとめどなく、次から次へと下へ流れ落ちていく。

 

 同情した梨子が、千歌の肩を叩いた。

 

「今からでも『好き』って言うことを伝えたいなら…いい言葉があるわ。」

 

「…ホント?」

「いいですか?次会ったら彼にこう言ってください。」

 

 

 

 宵闇(よいやみ)だ。もう既に太陽は沈んでいるだろう。いつもは太陽のごとく明るさを振りまく千歌も、沈みきっていた。

 

 彼女は、家に帰った。しかし…家の扉が見えてきたかと思うと、そこに彼が立っていた。

 

 彼女に再び動悸が起こる。拍動は時を追うに早くなっていった。

 

 

「雨…止まないね。」

 

 まだ精気の失せた顔で、彼がふと口を開いた。

 

「えっ…ああうん。」

 

 咄嗟なことですこしたじろいだが、なんだか身が軽くなった気がした。その思いが彼女を思い切らせたのか、おもむろに口を動かした。

 

 

 

「ね…ねぇ…っ!」

「?」

「ごめんね…()()()()()()()()、全ッ然…気が付かなかったよ。」

「えっ………」

 

 たちどころに千歌は彼に抱きついた。陰鬱(いんうつ)な雨音とともに彼女の心にまとわりつく暗闇が一気に晴れた気がした。彼の顔もしだいに元気を取り戻し、彼も千歌の体に腕を回し、きつく抱いた。

 すると途端に雨がさっと止み、雲の間からはっきりとした綺麗な夕陽が射し込む。かろうじて、太陽は沈んでいなかったのだ。

 

 

 彼に抱かれ、にこやかな表情に戻った千歌は、彼の耳元でこう囁いた。

 

 

 

 

 「私…()()()()()()()。」




「月が綺麗ですね」という言葉は、英語教師をしていたころの夏目漱石が、「日本人がそんな台詞(我君を愛す)口にするか。『月が綺麗ですね』とでも訳しておけ。 それで伝わるものだ」と“I love you”を日本語訳したものだと言われています。

そして、最後に千歌ちゃんが言った「死んでもいいわ」は、ロシア文学を訳した「あひゞき」という作品のなかで、作者の二葉亭四迷がロシア語のВаша...(英語のYours、つまり『あなたのもの』に値する言葉)を訳したものです。

素敵ですね~。
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