ジャンヌオルタと恋の花   作:gtrh

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恋の花

 私は召喚に応じ、参上しました。それはつまり、彼が私を求めたという事に他なりません。それは分かっているのですが、しかし、何故求めるのか。

 贋作で、竜の魔女で、復讐者たる私に、彼は何を抱いていたのでしょうか。

 同情でしょうか。哀憫でしょうか。憐憫でしょうか。共感――という事は無いでしょう。

 結局私は、召喚に応じる際に、戦力として期待しているのだろうと考えたのです。人理を救う上では、紛い物(ジャンヌダルク・オルタ)さえ必要だと考えるのは全うです。

 晴れて彼の前に参上すると、考えていた言葉を口にする事にしました。

 

「サーヴァント・復讐者(アヴェンジャー)。召喚に応じ、参上しました」

 

 そうして面を上げ、彼の表情を目にします。

 涙を堪えているような、それでいて笑おうとしているような表情。嬉しいとも悲しいとも取れず、苦しい事だけは確かな、そんな表情。

 

「どうしました? その顔は」

 

 私と会うのはそんなに苦痛ですか。そう思うと酷く動揺しましたが、予定通り続ける事にしました。それが、動揺を隠す最大の方法だと思いましたから。

 

「さぁ、契約書です」

 

 彼は声を出せずに頷き、契約書にサインしました。

 私は、いるだけで苦しめますか。

 私はただ――。

 

 

 

 

 

 

 藤丸立花は普通の人間である。

 数多の英霊の教授を受けて、普通とは一線を画す何かを持っていたとしても、その根本には普通がある。自らが無理を通しても救えないものは救えないし、絶対に助からないと分かれば諦める。

 人類最後のマスターの称されても、彼にはその責任を果たすというような考え方は無かった。自分しかいないのなら、自分がやるしかない。彼の頭にあるのはそれだけだった。

 地を駆け、海を越え、特異点を渡り歩いた稀有なマスターは普通で、だからこそ当たり前のように恋をする。

 

 

 

 

 

 自室のドアが開くと、室内にオレンジ色の髪が見えた。室内にいた少女は振り返り、立花を見ると笑顔で手を振る。彼はその様を、誰かと見間違えた。

 見間違いだと気付くと、もう会えないという喪失感が襲い掛かる。そうして彼は予期せぬ焦燥に、涙を零す。

 

「えっ!?」

 

 少女は慌てて立花に駆け寄り、心配そうに見つめる。慌てたからか、サイドテールが揺れた。

 

「大丈夫?」

「うん、大丈夫」

 

 立花は手を挙げ、笑ってみせた。

 

「あ、えっと、そう……?」

 

 大丈夫と言われてしまえばそれ以上追及する事も出来ない。少女は結局、立花を見守る他無かった。

 

 

 

 

 

 立花は涙の跡を残しつつも、紅茶を飲んで落ち着く。向かいには少女が座っており、背筋を正すと少女見る。

 

「それで、相談なんだけど」

「うん」

「好きな人がいて……ですね」

「へぇ!」

 

 少女は目を輝かせる。やはり少女も女の子で色恋沙汰が好きだった。

 

「それで、誰なの?」

 

 少女は緊張して、唾を飲み込む。

 立花は緊張しつつも、精一杯に声を絞り出す。

 

「ジャンヌ・オルタ……です」

「サー……ヴァント?」

 

 少女の問いに、立花は頷く。

 少女にはその恋が、とても遠いものに思えた。

 英霊との恋。それは普通では無い。だが立花は普通の人間だ。少女は立花が普通の範疇に留まらない事は理解していたが、それは意識して普通の範疇から抜け出す事を得意としているという認識では無い。藤丸立花は周囲と協力し、自分を通す事で普通の範疇を超えた結果を為す。それが少女を認識で、つまり立花が単独で意識して普通の範疇を抜け出すのは難しいように思えた。

 加えて、相手はただの英霊では無い。

 

「それで、ジャンヌ・オルタさんをなんで好きになったの?」

「初めて会った時は、怖かったんだ。あの時のジャンヌ・オルタは、自分をジャンヌだと思っていたし、その憎悪をまき散らしていたから。オレはその憎悪に焼かれるのかと思った」

 

 第一特異点ではジャンヌ・オルタは確かに殺意を持っていたし、邪悪で、非道だった。彼女自身もその罪が消えない事を理解している。立花もその邪悪さを理解しており、彼女の持つ罪を忘れた訳では無い。

 けれども、罪を持つ女性に恋をしてはいけないというルールがある訳では無く、あったとしてもやはり彼は恋に落ちていたのだろう。恋に理屈は効かないし、彼はどんなルールも守る訳では無い。

 

「でも、ジャンヌ・オルタは劣等感があって、誰かに認められたいと思っている女の子だった。まあジャンヌ・オルタは贋作英霊(あの時)の事は覚えていないんだけどね」

 

 確かな発露、それを立花は覚えていた。あの時、ジャンヌ・オルタ自身も未来の私は忘れているだろうと言っており、現実その通りになっている。その事を伝えればジャンヌ・オルタは悶えるに違いない。そう思うと立花は思わず笑みを浮かべた。

 少女は立花の楽しそうな様に、ああ、本当に恋をしているんだなと思った。

 

「それで、オレもジャンヌ・オルタに認めて欲しいと思って、話していて、その内にそれだけじゃ足りなくなって……好きだなって思った」

 

 彼がジャンヌ・オルタに嫌がられても構ったのは、彼女の誰かに認められたいという願望を知っているからだった。贋作英霊(あの時)のジャンヌ・オルタの時に出来なかったからこそ、仲良くしたいと考えた。それがいつの間にか、地獄の底まで付き合う事さえ厭わないほどになっていた。種は育てるつもりも無いのに花を咲かせていた。

 

「そっか」

 

 少女は話の結びに、羨ましそうに相槌を打った。

 

「マシュはどう思ってるの?」

「マシュは、大切な後輩だ。誰より幸せになって欲しいと思う」

「誰よりって、ジャンヌ・オルタさんより?」

「それは……分からない」

 

 立花が顔を曇らせると、少女は頬をかく。

 

「ごめん、意地悪だったね。どっちが一番大切かを聞きたかったんじゃないんだ。単純に、マシュも好きなんじゃないかと思って」

「好き……だけど、多分種類が違う」

「恋愛と、隣人愛の差ってこと?」

 

 立花が頷くと、少女は笑みを浮かべる。

 

「そっか。頑張ってね、立花」

「うん。ありがとう、聞いてくれて」

「どういたしまして。きっと出来るよ、立花なら」

「ああ」




少女はぐだ子です。カルデア職員という設定。違和感があったらオレンジ髪でサイドテールでぐだ男と仲が良い職員Aでも構いません。
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