入渠といっても、普通のお風呂とそれほど変わらない。艤装は別の場所で修理するし、怪我をしていない状態で入るならもはや差などない。
ドックは広くて、十数人程度なら一緒に入れる広さだ。それを3人で使っている今はなおさら広く感じた。
「時雨、先に上がってるね」
夕立がぱしゃり、とお湯を散らしながら立ち上がる。
それと同時に、ある箇所が大きく揺れた。
どうして僕は、こんな事が気になってしまうのだろうか。
普通のおんなのこなら、何も感じないだろうに。
やっぱり僕は異常なんだろうか。
夕立が扉を開けて、脱衣所に出ていった。
夕立と自分自身の思考に気を取られていると、不意に背中に柔らかさを感じた。
「時雨、邪魔者はいなくなったよ。愛を語り合おうじゃないか」
「僕は響とそんな関係になったつもりはないんだけど」
少しわざとらしい声がして、背後から回された白い腕が首に絡みついた。
「別に私との事じゃなくても…愛の事じゃなくてもいいさ」
「っ、…どうして、」
絡みついた腕が、軽く締まる。
「私と、時雨の仲だろう。いつもみたいに私に話してくれればいいさ」
「…響に相談なんて、数えるくらいしかした覚えないけど」
「…時雨はノリがわるい」
響の右腕だけがするりと解けて、僕の顔をほぐすように優しく撫でた。
「残念だけど、私には時雨が悩んでるだろうってことはわかっても、まだ何を悩んでるかはわからないから」
だから、話してほしい。
響の声につられて、僕は口を動かした。
響なら、僕が何を言ってもいつも通りつつみ込んでくれる気がして、
響になら、言っても許されるのではないかなんて思ってしまった。
「僕、ね。……女の子を好きになっちゃったみたいなんだ」
少しの空白の後、響の腕が緩むのを感じた。
僕はその腕をすり抜けて、逃げるように立ち上がる。
「ごめんね、変なこと言って。忘れて、いいから」
今更ながらに後悔が重くのしかかる。
感じた寒さを誤魔化そうとてのひらで肌を擦る。
「ごめん、僕どうかしてるよ。少ししたら、またいつもの時雨に戻れるから、少しだけ…」
ぎゅうぎゅうする胸を押さえながら、響から逃げようとして、
もう1度、柔らかさに包まれた。
「大丈夫だよ、時雨。おかしくなんてないさ」
胸の下に回された手が、少しづつ僕の苦しみを忘れさせてくれた。
「多分、夕立だろう?…別に、人を好きになるのにおかしい事なんてないよ。相手なんて関係ない。」
本当に正しいのかなんてわからない。それでも響がそう言ってくれるなら、僕は少し、楽になれる気がした。
「それに、好きって気付いてるのに、その気持ちを抑え込むことほど、苦しいことはない。……そんな思い、時雨にはしてほしくないよ。」
小さいけども、はっきりと、響の声が聞こえた。
「大丈夫。私はどんな時雨でも嫌いになったりなんてしないから。」
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時雨が、私の事を好いてくれたら、どれほど嬉しかっただろうか。
それでも、時雨には苦しんで欲しくはない。
時雨が夕立と結ばれて、私の入る余地がなくなってしまっても、
こんな苦しい思いをするのは私だけでいい。
苦しいよ。
たすけて、時雨。
あー時雨とお風呂入りたい