壊れた女の子   作:天城修慧/雨晴恋歌

3 / 17

時間は前回の入渠と同日の夜です。


時雨の恋心3

これは夢だ。

僕は暗くて何もない、暖かさも冷たさも感じない空間を漂っていた。

 

手足を動かそうとしても思うように動かず、頭もはっきりしない。

 

夢だ、と分かっても目が覚めないのは珍しかった。

 

珍しいといっても、こんな何もない空間に閉じ込められるのは嬉しくないんだけれど。

 

何もない黒の中、何かが光った。

 

眩しくて反射的に目を閉じ、次に目を開くとそこは執務室だった。

 

提督と、夕立。

 

声を出そうとしても出ない。

 

となりにいるのに、気づかれることは無かった。

 

提督とじゃれあっていた夕立が、不意を打つように口付けをする。

 

よほど信頼しているのだろうか、夕立は何も考えずに笑う。

 

1度驚いたようにした提督も、すぐに笑顔になって夕立の頭をわしゃわしゃと撫でる。

……大好きな夕立の笑顔なのに、それを見たくは無かった。

 

大好きなはずの夕立の笑顔なのに、どうしてこんなにも、この空間を こわしたい と思ってしまうのか。

 

こんなもの見たくはないのに、目を瞑ることは出来ない。

 

今まで無音だったのに、夕立の声が聞こえた。

 

『夕立は、提督さんがだいすきっぽい』

耳をふさぐこともできない。

 

『いっぱい褒めて、もっと撫でて』

 

『おてて握ってもいい?』

『提督さんいい匂いするの』

『もっとそっち行っていい?』

『提督さん、大好き!

 

 

時雨なんかよりずっと』

 

僕は跳ね起きる。

夢に沈んだ意識が現実に引き戻された。

荒い息を落ち着かせるように、何度も深呼吸をする。

 

いつの間にか僕のベッドの中に潜り込んでいた夕立が目をこすりながら起き上がった。

 

「しぐれ……どうしたの?だいじょうぶ?」

「…ああ。うん。…………大丈夫さ」

 

秋になって、暑さもおさまってきたというのに、汗でぐっしょりと濡れた服が肌に張り付いている。

 

こてんとそのまま倒れ込んだ夕立に布団をかぶせて、僕は立ち上がった。

 

ふらふらと歩き、部屋の扉を開けて、廊下に出る。

 

秋の冷たい風が、汗で濡れた肌を撫でて行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

どうしてだろうか、提督の部屋に来てしまった。

 

ドアノブに手をかけると、音を立てずに、何の抵抗もなく回った。

ゆっくりと扉を開く。

 

提督が寝ているベッドに近づいて、静かにその上に登った。

 

仰向けに寝ている提督にまたがって、提督の首を撫でる。

両手を、添えた。

 

このまま力を込めたらどうなるだろうか。

起きたら、抵抗される。

艤装がない今でも提督に勝つことはできるだろうか。

バレたら、どうなるんだろう。

反逆罪。軽い罪ではない。

でもいいや。

そっと、両手をに力を籠めようとして、

 

 

『夕立はね、提督さんも、時雨も大好きだよ。みんなといるのがたのしいっぽい。』

 

 

ダメだ、凄く眠い。 ここで寝たら、ていとくに迷惑がかかっちゃうのに。

 

だめ、なのに、

 

 

不思議なことに、抗おうという気持ちは無かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

うおっぉぉぉ怖ええぇぇぇぇえ!白露が入って来たのかと思ったら時雨だし、いきなりベッドに登ってくるわ恥じらいもなくまたがってくるわ首に手をかけられるわ……

時雨、凄い汗じゃねえか。

タオルで拭くぐらい……いや、風邪を引いたらいけないし脱がしてあげるのが正解なのでは?

うん。……冗談は抜きにしても、このまま放っておく気にはなれない。

 

俺の上に倒れこんだ時雨をベッドに寝かせて、箪笥の中のタオルを取りに行く。

 

それにしてもこんなに汗をかくなんて、何があったのだろうか。

秋になって冷えてきたのにこれは寒いだろ。

 

顔に浮かんだ汗をぬぐって、首の汗を拭おうとして、時雨の胸元に手を伸ばす。

 

時雨が律儀に入ってきた後にちゃんと閉めた扉が、もう1度開く音がした。

 

「…………ねえ提督…それ、時雨だよね?…何、しようとしてるの?」

 

もう秋だというのに、大量の汗が吹き出るのを感じた。

 

 

 




夕立の体温は高めらしいです(村雨談)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。