壊れた女の子   作:天城修慧/雨晴恋歌

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響と恋心1

これは夢、かな。

 

今度は何もない場所じゃないけれど、思考ははっきりしない。

 

手を動かそうとすると、左の手首に赤いリボンが2、3周巻きついているのに気付いた。

 

結び目は固く、肌に圧迫感こそ感じないものの、解ける気はしなかった。

 

ぱちり、と電気がついて、僕が今いるのは響の部屋なんだなとわかる。

 

同時に電気をつけたのは響だとわかった。

 

名前を呼ぼうとして、やっぱり声が出ないことに気づく。

 

僕に近づいてきた響に肩を強く押され、後ろにあったベッドに倒れこむ。

 

どこからか、薬品を入れておくビンが響の手の中に現れた。

 

ポケットの中のハンカチに中の液体を染み込ませてゆっくりと僕の顔に近付けてくる。

 

いけない、と強く感じた。

 

抵抗しようとすると、左手のリボンがしゅるしゅる伸びて、僕の全身を縛り上げる。

 

イヤだ。早く起きないと。

僕は強く、強く目を閉じる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目を開いて、目の前にあったのは僕を覗き込む響の顔と、響が手にした白いハンカチだった。

 

そこが響の部屋でないことにも、何かを叫んでいる口にも、体を縛り付けるリボンが無いことにも気づかずに響から離れて、そのまま後ろの壁に後頭部をぶつける。

 

「い…っ」

 

「だ、大丈夫かい…?」

 

伸びてきた響の手がぶつけた所を撫でてくれて、ようやく夢から覚めたんだと気付く。

 

響がもう一度ハンカチを近付けて、顔に出た汗を拭ってくれた。

 

「……うなされてたけど、大丈夫だった?」

 

「えっと、その…うん。」

 

目の前にいる響に何かされそうになったとは言いづらいな。

 

体を起こしたら、汗でべったりと張り付く服が気になった。

 

「響、僕おふろ行ってくるけど…一緒に来るかい?」

「行く」

 

響が自室に服を取りに行ったのを見送って、僕もタンスの中から着替えをひっぱり出す。

 

……そういえば、どうして響は僕の部屋にいたんだろう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

先に入っていて、と言われたのでシャワーで汗を流してから湯船に浸かる。

 

左手首をお湯につけた瞬間、じりじりとした傷が治る感覚があった気がした。

 

慌てて見てみると……なにかあるようなないような。

 

気のせい、ということにしてお湯の温もりに意識を向けた。

 

が、肩まで浸かった辺りで、またじりじりと感じた。

 

「……どうしたんだろ。…気が立ってるのかな?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私の理性は今、壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

私の手の中にあるのは……『時雨の汗を拭ったハンカチ』だ。

 

……なやんでいる、というかそういう考えが頭の中にある時点でアウトなんだろうけど、欲望というのはどうにも面倒なもので。

 

どんな匂いがするんだろうか。時雨に気づかれたらどうなるかな。そのままの関係を、少しギクシャクしながら続けるだろうか。

 

絶交なら良い。私が時雨を傷つけることが無くなる。

 

今日もギリギリのところで理性が勝ってくれたようで、自分の脱いだ服と一緒に脱衣かごの中にハンカチを放り込む。

 

そろそろなんとかしないと、限界だな。

 

……時雨を傷つける前になんとかしないと。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……さっきはどんな夢見てたんだい?」

 

「夢?」

 

シャワーを浴びてから隣へ入ってきた響が小さく呟いた。

 

「時雨が話してくれる夢の話は好きだ。…聞いてて面白いしね」

 

「うーん…話しても面白い話じゃないし、どっちかというと怖い夢だと思うんだけどね」

 

そう前置きしてから口を開く。

 

特に、今回のは怖かったな、と思った。

 

「今日のはね……僕は、響の部屋で目を覚ますんだ。…左手首には、赤いリボンが結んであった。……その後、響が入ってきてね、僕にゆっくり近づいてくる。……手首のリボンが僕を縛り上げて、…響が何かに浸したハンカチを僕に嗅がせようとして………って夢」

 

「そっ…か。」

 

ふるりと、隣で響の体が揺れる気がした。

 

「えっと、気にしないで。僕の夢、十中八九現実となんの関係もないし、僕も響のこと、」

 

嫌いなわけじゃない、と続けようとして、唐突に響が僕の目を覆った。

 

「ーー十中八九の、残りの1を引いたみたいだね」

 

「………え?」

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耳元まで口を近づけて放った言葉に、時雨は対応出来ていないみたいだ。

 

静かに目を覆っている手を払おうとしたので自分から手をどかす。

 

小刻みに揺れる目が愛おしかった。

 

小さく開いたままの口が欲しかった。

 

ほんのりそまった首元が美味しそうだった。

 

私と比べると大きな膨らみを食べてしまいたかった。

 

時雨のその綺麗な体を壊してしまいたかった。

 

ああダメだ。また変なことを考えている。

 

このまま噛み付いてしまおうか。

 

壊してしまえば夕立と半分こできるかな。

 

時雨の首に、しるりと指を這わす。

 

今回のは、抑えられる気がしない。

 

 

時雨の顔が、心配と恐怖が入り混じったように歪んだ。

 

そっと舌を這わせてみる。

 

絹のような肌はそんなはずないのに甘く感じた。

 

くにっと小さく噛んでみる。

 

嫌だという感情はどんどん薄れていった。

 

 

 

ごめんね。時雨より先に私が壊れちゃったみたいだ。

 

 

私は少しづつ力を込めていって、

 

 

 

「あれ、時雨と、響?………村雨、邪魔しちゃった?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

村雨の声がして、響の口と体がパッと離れる。

 

振り返ると制服を着たまま靴下だけ脱いだ村雨がいた。

 

「む、村雨…えと、君はどうしてそんな格好で?」

 

「ああ、ちょっと包丁で切っちゃったから、指だけ浸けにきたの。……そーれーよーりー!2人はさっき何してたの?」

 

村雨が、こう、ニヤッと笑った。いつものからかう時の笑みだ。

 

「心配しないで、夕立には黙っててあげるから」

 

「…君、夕立と以心伝心なんじゃなかったっけ、」

 

「あら?何も言わないでも言いたいコトほとんど伝わるし考えが分かったりする程度だから、伝えないコトもできるし知らないことはわからないのよ?」

 

村雨は浴槽まで来て人差し指でバシャバシャとお湯をかき回す。

 

「心配しないで。なんなら1度聞いてみればいいわ。夕立も多分気にしない…違うか、時雨と響が幸せなら喜ぶと思うわよ?もちろん、夕立もちゃんと愛してあげること前提だけど」

 

浸けていた指をちょっと眺めてから、村雨はそのまま自分の唇に当てる。

 

艶かしげに微笑むとそのまま何も言わずに出て行った。

 

 

ばしゃんと響がお湯から立ち上がる。

 

響から距離を取りかけた体を全力で押さえ込んで響の方を向いた。

 

「時雨。私にどう答えるにしても、早くしてくれると嬉しいな。……早くしないと、次何かあったら、今度こそ止まらないかもしれない」

 

悲しそうな顔で僕にそう告げて、響は先に出て行った。

 

 

 

 

 




今回の時雨ちゃんの夢は割と予知夢です。響に襲われるとかハンカチに染み込んだ液体とか、多分次作で出るけど手首のリボンとか。


時雨ちゃんの首なめてみたい
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