ラブライブ! ジードサンシャイン!!   作:ベンジャー

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第10話 『Saint Snow』

「この前のPVが5万再生?」

 

浦の星学院、スクールアイドル部の部室にて千歌が団扇を扇いでいると、ノートパソコンを開き、以前撮影した「夢で夜空を照らしたい」のPV確認をしていた曜達がその動画がかなりの高評価を得ていることを彼女等は千歌に報告しており、それを受けて「マジで?」と言いたげな表情で反応する千歌。

 

さらに動画のランキングも99位と千歌達の予想を遥かに上回る結果となっており、そのことに梨子は信じられないと言わんばかりに驚愕し、花丸もランキングの順位を見て「ずら!?」と驚いているようだった。

 

これには善子の頭の上に乗っているモコも意味が分かっているのか分かっていないのかは不明だが、それでも善子も喜んでいるのを感じ取ってか「モコォ〜!!」と鳴き声をあげながら嬉しそうに尻尾を振り、無爪の影の中・・・・・・ダークゾーン内で話を聞いていたペガも「すごーい!!」と歓喜の声をあげていた。

 

「99位・・・・・・!?」

「来た・・・・・・! 来た来たぁ!! それって全国でってことでしょう!? 5000以上いるスクールアイドルの中で100位以内ってことでしょう!? そういうことだよね!? どうよなっちゃん!! 凄いでしょ!? 私達凄くない!?」

 

ランキングの順位を聞いた千歌は何故か無爪に対して胸を張りながらドヤ顔で99位になったことを自慢げに語り、それに対して無爪も確かにこの前全員スクールアイドルを始めたばかりの娘達だというのにも関わらず、5000以上あるスクールアイドルの中でランキングに100位以内に入るのは凄いことだと痛感し、流石に今回は何時ものような軽口や皮肉も叩くことが出来なかった。

 

「全員、まだスクールアイドルを始めて日が浅いって言うのに、確かにそれでこの順位は凄いかも・・・・・・」

 

なので、無爪は何時ものような軽口を千歌には叩かず、素直にAqoursのランキングが99位になったことを褒め称えるのだが、そんな無爪を見て千歌と曜は面喰らったかのような表情を浮かべながらお互いに顔を見合わせ、彼女等2人は無爪が珍しく素直に自分達のことを褒めてくれたことに驚きの声をあげたのだ。

 

「あ、あのなっちゃんが・・・・・・!! 私達のこと素直に褒めてくれた!?」

「てっきり、なっちゃんのことだから『べ、別に普通なんじゃないの?』とか言いながら実は浮き足立ってて内心凄く喜んでくれてるって感じの反応だと思ったのに・・・・・・! がっかりだよなっちゃんには!!」

「曜ねえは僕に何を期待してるの!? 僕だってちゃんと褒める時はちゃんと褒めるよ!?」

 

千歌も曜ももっと無爪がツンツンした態度で「あんまり調子乗るな」くらいは言ってくると思っていたものだから、彼女等2人は無爪の予想外の反応に心底驚き、動揺してしまい、特に曜に至っては何時ものツンデレを見せてくれなかった無爪にぶーぶーと文句を垂れていた。

 

「なっちゃんからツンデレを取ったら何が残るのさ? なっちゃんのツンデレは可愛いのに、特オタ要素しか残らないじゃん!」

「そもそも僕はツンデレじゃない!!」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 

そんな無爪のツンデレじゃない発言に対し、千歌、曜、梨子、ルビィ、花丸、善子の全員が一斉に無爪に注がれ、「それマジで言ってんの?」とでも言いたげな視線を向けられ、全員の視線を受け、それに「えっ?」となる無爪。

 

「いや、アンタはどう考えても言い逃れできないレベルのツンデレだから」

「なっちゃん、自覚無かったんだね・・・・・・」

 

善子からはもはや誰がどう見てもツンデレだと言われ、そのことに自覚無かったのかとどこか呆れたように呟く曜。

 

確かに自分は素直じゃない性格をしているなという自覚は多少はあるが、だかと言って「ツンデレ」と言われるような性格はしていないと思っていたので、千歌達からツンデレと言われてイマイチ納得がいかない無爪。

 

「まぁ、ツンデレって言ってもその『デレ』る時の相手に関しては何時も特定の1人が基本的に多いみたいだけどね・・・・・・」

 

ニマニマした顔をしながら、曜は千歌の顔を見つめると、千歌はそれに「ほへ?」と間の抜けた声を出しながら彼女の言っている意味が理解できず、小首を傾げるのだが・・・・・・逆に曜の言っている言葉の意味を理解した無爪は顔を真っ赤にして「コラァ!!?」と彼女を怒鳴りあげる。

 

「だ、だだ・・・・・誰が千歌ねえになんて・・・・・・」

「誰も千歌ちゃんなんて言ってないよなっちゃん?」

「ぐっ、この・・・・・・!!」

 

小声で何言ってくれてんだと文句を曜に垂れる無爪だったが、曜はニヤニヤした表情のまま誰も千歌のことだとは言っていないと誤魔化されてしまい、忌々しげに曜を睨む無爪であった。

 

(全く、曜ねえには一生敵う気がしないな・・・・・・)

 

取りあえず、今は無爪がツンデレなのかどうかよりも、ランキングの話の方が重要だ。

 

なので、梨子は「そろそろ話を戻さない?」と脱線しかけていたランキングについての話に軌道修正して戻し、改めてランキングの順位を確認すると、千歌達は「やっぱり何度見てもすごーい!!」と大はしゃぎ。

 

「一時的な盛り上がりってこともあるかもしれないけど、それでも凄いわね!」

「ランキング上昇率では1位!!」

「わぁー! 凄いずらぁ!!」

「なんかさ、このままいけばラブライブ優勝出来ちゃうかも!!」

 

動画の評判を聞いている内に、千歌はふっとこのままならラブライブに優勝できるかもしれないなんて、そんなことを言いだしたのだが・・・・・・。

 

流石にこれには先ほどとは違い、「それは幾ら何でも調子乗りすぎ」と無爪から注意される千歌。

 

「あんまり調子乗ってると、足下掬われるよ千歌ねえ?」

「無爪くんの言う通り、そんな簡単な訳ないでしょ?」

 

梨子も無爪の意見に同意し、そんな簡単に上手く行く筈が無いと言われる千歌だが、そんなこと千歌自身にも分かっていることだった。

 

だが、それでもこの状況だとどうしても考えてしまうのだ。

 

この勢いを維持し続ければ、もしかしたらラブライブにだって優勝出来てしまうのではないかと。

 

「分かってはいるけど、それでも可能性は0じゃないってことだよ!」

「そりゃまあ、もしかしたらってあるかもしれないけどさ・・・・・・」

 

すると、そんな時のことである。

 

彼女等の使うノートパソコンに、1通の電子メールが届いたのは。

 

「んっ? これ・・・・・・」

「『Aqoursのみなさん、東京スクールアイドルワールド運営委員会』」

 

ルビィがパソコンに届いたメールを開くと、差出人は「東京スクールアイドルワールド運営委員会」と呼ばれるところからであり、一体そんなところから自分達に一体なんの用だろうかと首を傾げる一同。

 

「東京って、あの東にある京の・・・・・・?」

「なんの説明にもなってないけど?」

「っていうかなんの説明だそれ?」

 

千歌の言葉に対し、梨子と無爪の2人からツッコミを入れられ、再びメールの内容に目を通すとそこには東京からスクールアイドルのイベントがあるのでそれに是非参加して欲しいというお誘いのメールがあり、千歌達は数秒間、そのメールの内容の意味を理解することが出来なかったが・・・・・・。

 

「「「「「「東京だぁ!!?」」」」」」

 

そして、数秒間の沈黙が流れた後、自分達は東京でライブが出来るということを理解し、彼女等は目を輝かせたのだ。

 

「えっ、つまりどういうこと?」

 

ただ無爪だけはあんまり理解していなかったようだったが。

 

『つまり、ラブライブほどではないけど東京の大きなスクールアイドルの一大イベントに、Aqoursがお呼ばれしたってことみたいだね』

「あっ、成程」

 

一応、ペガから説明を受けたことでメールの内容の意味を無爪もようやく理解することが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

黒澤家にて・・・・・・。

 

「東京?」

「うん、イベントで、一緒に歌いませんかって・・・・・・」

 

部活が終わり、家に帰宅したルビィは念のために報告しなくてはと思い、彼女は不安げな表情を浮かべつつも姉のダイヤにも東京のスクールアイドルイベントに自分達Aqoursが招待されたことを伝えていた。

 

「東京の・・・・・・スクールアイドルイベント・・・・・・」

 

それを受けて、ダイヤは何か思うところでもあるのか、どこか険しそうな顔を彼女は見せ、そんな険しい表情を見せるダイヤに、ルビィは不安な気持ちを抱くが・・・・・・それでも物怖じせず、しっかりと伝えるべきことは全て伝えようと彼女は口を開く。

 

「あ、あのね! ちゃんとしたイベントで・・・・・去年のラブライブで入賞したスクールアイドルも沢山出るみたいで・・・・・・」

 

東京からの誘いを受けて速攻で千歌がお小遣い前借りしてでも東京に「行きます!!」と決断したこともあり、出来ることならば自分も行きたいとルビィは東京で行われるスクールアイドルイベントへの参加の是非についてダイヤに尋ね、「やっぱり、ダメ?」と不安げな表情のまま問いかける。

 

「鞠莉さんはなんと仰ってるの?」

「みんなが良ければ理事長として許可を出すって・・・・・・」

 

それを受け、ダイヤは少しばかり考え込むと・・・・・・彼女は黙ったままその場を立ち去ろうとする。

 

「っ、お姉ちゃん!!」

 

しかし、立ち去ろうとするダイヤをルビィは呼び止め、それを受けてダイヤは思わずその場に立ち止まる。

 

「お姉ちゃんは、やっぱり嫌なの? ルビィがスクールアイドル続けること・・・・・・」

「・・・・・・ルビィ? ルビィは自分の意志でスクールアイドルを始めると決めたのですよね?」

 

ダイヤがルビィに背を向けたまま、彼女はそのような問いかけをルビィにすると、問いかけられたルビィは力強く「うん!」と頷き、彼女のその背中を向けたままでも分かる力強い返事にダイヤは満足したかのようにルビィの方へと振り返って微笑むと、そっと彼女の近くまで歩み寄る。

 

「だったら、誰がどう思おうと関係ありません。 でしょう?」

「でも・・・・・・」

「ごめんなさい。 混乱させてしまってますわよね? あなたは気にしなくて良いの・・・・・・」

 

ダイヤは昔スクールアイドルの雑誌を読んでいたルビィに対し、ダイヤは「それ仕舞って。 二度と見たくない」と発言したことがあった。

 

それを受けて、ルビィは自分自身に負い目のようなものを感じ、自分の姉がスクールアイドルを嫌いになったからという理由でルビィ自身もスクールアイドルへの興味を必死に無くそうとしたいたことにはダイヤも薄々気付いていた。

 

確かに、ダイヤはスクールアイドルに対して複雑な感情を抱いているのは間違い無かった。

 

しかし、だからと言って彼女は自分がそうだからと言ってルビィにまでそれを強要するつもりなんてない。

 

今のルビィは他の誰かなんて関係無く、自分自身の意志で自分が好きなスクールアイドルへの活動を行っているのならば、節度を持ってスクールアイドルをやってくれているのなら、自分が口を出すようなことは何も無かったのだ。

 

「私は、ただ・・・・・・」

「ただ・・・・・・?」

「いえ、もう遅いから今日は寝なさい」

 

そこで、何かを言いかけたダイヤだったが・・・・・・彼女はそれを最後まで言わず、ルビィに今日はもう早く寝るようにだけ言うと、彼女は部屋を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ルビィから東京でのイベントの話を聞いたダイヤは、鞠莉に確かめることが出来たために家を飛び出て彼女のいる淡島ホテルへと向かうことになった。

 

淡島ホテルに到着すると、ダイヤは鞠莉のいるであろう部屋に真っ直ぐ進み、彼女のいる部屋に訪れると彼女は自分が来ることを予想していたのか、「来ると思った」と開口一番にそう言葉を発してきたのだ。

 

最も、鞠莉なら自分が来ること予想しているだろうなということもダイヤは予想出来ていたので、ダイヤは特に驚きはしなかったが。

 

「・・・・・・どういうつもりですの? あの娘達を今、東京に行かせるのがどういうことか分かっているのでしょう?」

 

なので、ダイヤも特に前置きはなど無く、鞠莉に何故千歌達が東京に行くことを許可したのか、ストレートに疑問を彼女へとぶつけたのだ。

 

「なら止めれば良いのに。 ダイヤが本気で止めれば、あの娘達は諦めるかもしれないよ? ダイヤも期待してるんじゃない? 私達が乗り越えられなかった壁を、乗り越えてくれることを・・・・・・」

 

壁に寄りかかりながら、千歌達に何かを期待しているかのような不敵な笑みを浮かべる鞠莉。

 

「もし乗り越えられなかったらどうなるか、十分知ってるでしょう!? 取り返しがつかないことになるかもしれないのですよ!?」

 

そんな鞠莉に、ダイヤは鋭い視線を鞠莉に向けながら、彼女がそう鞠莉に問い詰めるものの、鞠莉は笑みを崩さない。

 

「だからと言って、避ける訳にはいかないの。 本気でスクールアイドルとして、学校を救おうと考えているなら・・・・・・」

 

次の瞬間、ダイヤが鞠莉に素早く近寄ると、彼女の顔のすぐ真横にある壁に「パン!!」と手を突くと、彼女はジッと鞠莉を睨み付ける。

 

「変わっていませんのね? あの頃と・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、Aqoursの6人+無爪+彼のダークゾーン内にいるペガは早速東京で開催されるスクールアイドルのイベントに参加するため、曜と善子は一足先に駅で待つこととなり、千歌、梨子、花丸、無爪、ルビィは十千万の前で合流することになったのだが・・・・・・。

 

「東京トップス!! 東京スカート!! 東京シューズ!! そして〜!! 東京バッグ!! えへ♪」

「一体、何がどうしたの?」

 

そこでは最初に家が近いということもあって、千歌、無爪、梨子の3人が合流することになったのだが無爪より少し遅れて旅館から出てきた千歌の格好は・・・・・・なんと言えば良いのか、兎に角奇抜と言うべきか、かなりド派手なものとなっていた。

 

それに膝を抱えながら千歌を待っていた梨子は、呆れたような視線を千歌へと向け、無爪は目をまん丸にして唖然としていたのだ。

 

「どうしたの? その格好・・・・・・?」

「バカさ全開じゃん・・・・・・」

「むぅ、誰がバカだってなっちゃん!? っていうか、なっちゃんこそ何それ!? Tシャツにドンシャインのイラストがプリントされてるじゃん!! なっちゃんだって特オタ丸出しじゃん!!」

 

千歌の言う通り、無爪の着ている服はドンシャインのイラストがプリントされてあるTシャツであり、千歌的には無爪こそ「そのTシャツはなんだ!? そのドンシャインのイラストは!? その痛シャツなんだ!?」と言いたくなるようなおかしな服装だと訴えるが、彼女に比べたら無爪の服装の方が全然マシである。

 

梨子の方もこういう服着てる人は比較的割とそこそこ多かったりするので、彼女的には無爪の服装について特に言及するようなこともなく、むしろ無爪がこういう服持っているであろうことくらいは予想出来ていたので咎めるようなこともしなかった。

 

尚、よく見れば旅館の扉からそっと千歌を見つめつつ、クスクス笑っている美渡の姿があり、それを見た無爪は美渡が何かあること無いことを千歌に吹き込んだんだなということを即座に理解し、なんの疑問も持たずにこんな格好をして騙されてしまう千歌も千歌だが、これには関しては千歌だけが悪い訳ではないなと思い、後で美渡のことも注意しておこうと思う無爪だった。

 

「東京行くからってそんなに構えなくても・・・・・」

「梨子ちゃんは良いよ〜。 内浦から東京行くなんて、一大イベントなんだよ!!」

「内心舞い上がってるのは分かるんだけどさぁ・・・・・・」

 

梨子も無爪も、千歌のテンションが上がる気持ちが分からない訳では無いが、それでもこれは美渡に色々と吹き込まれたからと言えどズレにズレまくってるな思い、取りあえず普通の服装に着替え直して来いと無爪が言おうとした時・・・・・・。

 

「「おはようございます!!」」

 

不意に、花丸とルビィの声が聞こえ、無爪や梨子もおはようの挨拶をしてきた2人に自分達も「おはよう」と挨拶を返そうとするのだが・・・・・・2人の姿を見た瞬間、梨子と無爪は固まってしまった。

 

「「おは・・・・・・え゛っ!!?」」

「ど、どうでしょう・・・・・・? ちゃんとしてますか?」

「こ、これで・・・・・・渋谷の険しい谷も大丈夫ずらか?」

 

そんなルビィと花丸の格好はと言うと、ルビィは服の真ん中に熊のようなイラストが描かれ、色々と派手に着飾った格好をしており、花丸はツルハシを手に持ちながら何故か探検家のような格好をしており、千歌に負けじと奇抜な服を身に纏っていたのだ。

 

「なに・・・・・・その、仰々しい格好は・・・・・・?」

 

梨子に「仰々しい」と言われ、口を揃えて2人は「ガーン!!」と言いながらショックを受け、互いに顔を見合わせて涙目になる花丸とルビィ。

 

「それに、渋谷は険しくない」

「2人とも地方間丸出しだよ!」

 

そんな2人を見て、千歌はクスクスと笑うが・・・・・・そんな千歌に、無爪はどこからか取り出した柔軟性の柔らかいブーメランを手に持つと、それをコトンッと軽く千歌の頭に角を押しつける。

 

「えっ、ちょっ、何なっちゃん!?」

「千歌ねえ、ブーメランって知ってる?」

「・・・・・・? ??」

「お前が言うなって意味よ、千歌ちゃん」

「えっ? えぇー!!!!?」

 

取りあえず、梨子に言われて花丸とルビィ、千歌は一旦家に戻して着替えさせ、彼女等が着替えて終えてまた集合するまで、無爪と梨子は2人で待つことになるのだった。

 

「・・・・・・というかさ、僕まで一緒について行って良かったのかなぁ・・・・・・。 僕、部員じゃないんだけど」

『まぁ、もう無爪も部員の1人みたいなものだし。 それに千歌ちゃんも一緒に来て欲しそうにしてたし良いんじゃない?』

「半ば強引だったけどね」

 

無爪はAqoursのみんなとよく一緒に行動しているとは言え、明確には部員ではないのでそんな自分が一緒に東京に行っても良いのだろうかとそのことについて無爪は梨子に気付かれないように自分の影の中にいるペガに相談するのだが、そもそもAqoursのリーダーである千歌が「一緒に行こう行こう」と無爪を強引に誘ってきたのだから、無爪はそこまで気にすることはないと思うよとペガは言い、それを受けて無爪も「それもそうか」と納得するのだった。

 

ペガが一緒にいるとは言え、決して女の子6人と一緒に旅行が出来るからとか、だから断れなかったとか、決してそんなのではない、多分・・・・・・。

 

ちなみに、怪獣が街に現れた場合にはレムに星雲荘のあのどこで〇ドアならぬどこでもエレベーターを出して貰って駆けつけるつもりなのでその辺の心配は特には無い。

 

それに先日・・・・・・。

 

『無爪くんは、千歌ちゃん達と旅行楽しんでおいでよ。 君はまだ学生なんだから、そういうイベントは楽しんだ方が良い』

『あぁ、こっちは俺達に任せな』

 

東京に行くことを星雲荘でレイジやゼロに話すと、そんな心強い言葉を発しながらレイジもゼロもいざという時には自分達に任せろと言って来たので、無爪はそういった意味でも安心だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、千歌、花丸、ルビィは一度家に帰らせて普通の格好に着替えさせ、旅館に再集結してから志満に全員車に乗せて貰い、曜と善子の待つ沼津駅まで送って行って貰うことに。

 

「結局、何時もの服になってしまった・・・・・・」

「そっちの方が可愛いと思うけど?」

 

何時も通りの服装で良いと言われたとは言え、もっと気合いの入った服装に本当にしなくて良かったのかという不安を口にする花丸だが、むしろ変に気合いの入った格好をするよりも、今のような格好の方がずっと可愛いと梨子に言われたことで花丸は「本当ずら!?」と気持ちを持ち直すことができた。

 

「えぇ。 でもその『ずら』は気をつけた方が良いかも・・・・・」

「ずらぁ!!?」

「・・・・・・」

 

また、花丸や千歌と同じく、普通の服装に着替えたルビィはというと・・・・・・先ほどからずっと窓の外を見つめており、彼女は家を出る際に、玄関でダイヤに言われたことを思い返していた。

 

『ルビィ・・・・・・』

『んっ?』

『気持ちを、強く持つのですよ・・・・・・?』

 

優しくそんな風に微笑みながら、ダイヤに気を強く持つようにと言われて、ルビィは「あれはどういう意味なのだろう?」と彼女が一体何を言いたかったのか、窓を見つめつつ、先ほどからずっとそのことを考え込んでいると、不意に隣に座る花丸に「ルビィちゃん」と呼びかけられたことで、彼女はそこで考え事を一度中断し、自分の名を呼んだ花丸の方へと顔を向ける。

 

「マルが『ずら』って言いそうになったら、止めてね?」

「あっ・・・・・・うん!」

 

「ずら」と言いそうになったら、ルビィに止めて欲しいと花丸は彼女に頼むと、ルビィは花丸の頼みを快く受け入れ、彼女は笑みを浮かべながらコクリと首を縦に振って頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沼津駅にて。

 

「みんな遅いなぁ」

 

スマホに表示された時間を見つめながら、善子と一緒に千歌達が来るのを待っていた曜。

 

「フフフ、フフフ・・・・・・!」

 

またそんな彼女の隣には・・・・・・背中に黒い羽根をつけ、赤く長い爪を装着し、ピエロのようなメイクを施した何時も以上に力を入れまくった堕天使ファッションの善子が隣に立っており、曜はそんな善子にジトッとした視線を向けるのだが、善子はそんな彼女の視線に気付かない。

 

「天都雲居の彼方から堕天使たるこの私が、魔都にて冥府より数多にリトルデーモンを召喚しましょう・・・・・・」

 

無論、人だかりの多い駅でそんな格好をしていれば注目されない筈も無く、多くの人々からスマホでパシャパシャと写真を撮られまくり、子供には「ねね、あれなに?」と指を指される善子。

 

「物凄く、注目されてるんですけど・・・・・・」

 

しかし、善子自身注目されていることに関しては特に気にしていないようで、一体どんなメンタルしてるのか物凄く堂々としており、全く気にしている様子は無かった。

 

「こ れ は 酷 い」

「あっ、なっちゃん! みんな遅いよー!」

 

そこで、ようやく沼津駅に到着した無爪達がやってきたのだが、善子のそのあまりにも奇抜過ぎる格好を見て無爪は少しばかり引いてしまうのだった。

 

「「「くっくっくっ・・・・・・」」」

 

また、そんな善子の格好を見て物凄くニタニタと笑う花丸、千歌、ルビィ。

 

「善子ちゃんも・・・・・・」

「やってしまいましたねぇ」

「善子ちゃんもすっかり堕天使ずら」

「・・・・・・善子じゃなくてぇ・・・・・・!」

 

そんな3人のニヤついた視線を受けて、善子は一瞬肩を震わせるが・・・・・・すぐさま彼女は不気味に怪しい笑みを浮かべながら低音ボイスを発すると、それを受けた千歌達は一瞬小声で「うわ!?」と少しばかり驚いた声をあげ、次の瞬間・・・・・・善子は両手を挙げてビシッと決めポーズを決める。

 

「ヨハネ!! 折角のステージ!! 溜まりに溜まった堕天使キャラを解放しまくるの!!」

「「「「「お、おう・・・・・・」」」」」

 

そんなノリノリな様子の善子を見て、無爪も千歌も、花丸もルビィも曜も何も言えなくなってしまい、「際ですか、頑張ってください」くらいしか返事をすることが出来なかったのだった。

 

尚、今ここにはいない梨子は一体何をしているのかというと・・・・・・車からキャリーバックを降ろし、みんなに合流しようとした梨子を志満が呼び止められていたのだ。

 

「梨子ちゃん」

「あっ、はい?」

「みんな、あんまり東京に慣れてないから、よろしくね?」

 

梨子は志満にそうお願いされ、確かに千歌、花丸、ルビィ、善子のあの奇抜な格好を見た後では曜や比較的まともな格好をしていた無爪もいるとは言え自分がしっかりしなくてはいけないなと思い、彼女は「はい!」と頷いて志満の頼みを快く引き受けるのだった。

 

「千歌ー!!」

「あっ、むっちゃん!」

 

その頃、梨子が来るのを千歌達が待っていると、彼女と同じクラスのむつ、いつき、よしみという3人の少女が駆けつけ、明日東京で行われるイベントをどうか頑張って来て欲しいと千歌達にエールを送りに来たのだ。

 

「イベント、頑張ってきてね!」

「これ、クラスみんなから!!」

 

するとよしみから袋にギュウギュウに詰まったのっぽぱんがクラスメイト達からの差し入れだとして千歌に差し出され、それを喜んで受け取る千歌。

 

「うわあ、ありがとう!」

「それ食べて浦の星の凄いところを見せつけてやって!!」

「うん、頑張る!!」

 

むつ達にそう力強く言われたことで、千歌の方も気合いが入ったようで彼女もまた「任せて!」とでも言うように力尽く頷くと、彼女等はよいつむトリオの「いってらっしゃーい!!」という見送りの言葉を背に受けながら、東京を目指して駅の方へと歩いて行くのだった。

 

「いってきまーす!!」

 

 

 

 

 

 

それから、電車を乗り換えたりなどをしつつ無爪達は特に問題もなく東京へと辿り着き・・・・・・。

 

「ここがあまねく魔の者が闊歩すると言い伝えられる約束の地。 魔都、東京!!」

「あー! 見て見て!! ほらあれスクールアイドルの広告だよね!!」

 

東京の秋葉原駅から出て来ると、千歌達は早速東京の街にキラキラと目を輝かせ、大はしゃぎ。

 

「はしゃいでると、地方から来たって思われちゃうよ?」

 

しかし、そんな千歌達に曜はあんまりはしゃぎすぎると東京の人達に地方から来たと思われ、変な目で見られてしまうのではないかという懸念を呟くと、彼女の隣にいたルビィも「そ、そうですよね!」と同意し、これは気をつけなければいけないなと考えるのだった。

 

「慣れてます〜って感じにしないと!」

 

ルビィにそう言われ、「そっか!」と何かを納得する千歌。

 

すると彼女はルビィの言う「慣れてます」アピールを自分なりに考えた結果、それをすぐさま実行することに。

 

「こほん! ホント原宿って何時もこれだからマジヤバくなーい? ホーッホッホッホ!」

「ここ秋葉だぞ、バカ千歌ねえ」

 

そんな千歌を、街行く人々は微笑ましそうにクスクスと笑い、梨子と無爪は呆れた視線を彼女へと向け、地方感どころかバカっぽさ丸出しな千歌に無爪は「見てるこっちが恥ずかしい」と両手で顔を覆って隠してしまうのだった。

 

「てへぺろ!」

「それで誤魔化せると思うなよ千歌ねえ!?」

 

舌を出して笑って何か誤魔化そうとする千歌だったが、無爪からの視線は冷たいままである。

 

「あれぇ?」

 

その時、ルビィは先ほどまで隣にいた筈の花丸がいないことに気づき、辺りを見回してみるとそこには秋葉原の街を見つめながら「うわぁ〜!!」と目を輝かせている花丸の姿を発見し、秋葉の街を見て何やら歓喜に打ち震えているようだった。

 

「未来ずら・・・・・・! 未来ず・・・・・・!!」

 

そこへ、ルビィが彼女は車の中で花丸と交わした約束を守る為に、彼女の肩に手を「ポンッ」と置くと、花丸はつい「ずら」と自分が言ってしまっていることに気づき、彼女は慌てて両手で自分の口を塞ぐ。

 

花丸との約束を守ったルビィは千歌達の元に戻ろうと視線を千歌達の方へと向けるのだが・・・・・・。

 

「あれ?」

 

そこには先ほどまでいた千歌達の姿がいつの間にかいなくなっていたのだった。

 

「輝く〜!!」

 

そして、その千歌達はというと・・・・・・スクールアイドルの専門店に訪れており、千歌はうっとした目でμ'sのグッズを興奮した様子で眺めており、また曜もそこで売られている衣装に興味があるようで彼女も千歌と同じくそこで売られている商品を手に取ったりなどして注目していた。

 

ちなみに、ペガも影の中に潜みながら、外の出入り口付近で待機している梨子達や他の客に見られないよう上手く立ち回りながら千歌と同じくμ'sのグッズに目を輝かせており、両腕を組みながら買おうかどうか悩んでいる姿がそこにあった。

 

「缶バッジもこんなに種類がある〜!! あっ、このポスター見るの初めて!!」

『ホントに凄いね! うぅ、どれも欲しくなっちゃって迷うなぁ』

「わぁ〜、可愛い〜!!」

「時間無くなるわよ?」

 

そこで梨子はあんまり長居してしまうと、色々と時間が無くなってしまうと千歌や曜に呼びかけるのだが、彼女等は「あともう少しだけ!!」と言って店から出ようとはせず、そこで今になって善子が花丸とルビィがいないことに気が付いたのだが・・・・・・。

 

「あれ? 花丸とルビィは? んっ?」

 

その時、「黒魔術ショップ堕天使」と書かれた看板が善子の目に入ると、彼女は「堕天使・・・・・・!」と呟きながらゴクリと固唾を飲み込んだのだ。

 

また、同じ頃で鼻歌を歌いながらスクールアイドルショップに売られている衣装を物色していた曜はというと・・・・・・。

 

「んっ?」

 

彼女は「秋葉原版制服専門店」と書かれたチラシを発見。

 

「制服・・・・・・100種類以上!?」

 

それを見た曜は、興味津々といった様子で善子の時と同じようにゴクリと固唾を飲み込む。

 

「まぁ、はしゃぐ気持ちも分かるんだけどさ。 もうちょっと落ち着いても・・・・・・んっ?」

 

また、外で待機しながらこんなにも自分の好きなもので溢れかえっている店なら、興奮してはしゃいでしまう千歌達の気持ちも理解できるもののもう少し落ち着きを持って欲しいとボソッと千歌達に向けて呟く無爪だったが・・・・・・。

 

そんな時、スクールアイドルショップから少々離れた位置にて・・・・・・「爆裂戦記 ドンシャイン専門店」と書かれた店があるのを発見。

 

その店を見た瞬間、無爪もまた善子や曜と同様にゴクリと固唾を飲み込み・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ! じゃあみんなで明日の成功を祈って神社の方に・・・・・・! あれ?」

 

μ'sのグッズを幾つか買った千歌は、グッズの入った袋を手に持ちながらようやくダークゾーンに隠れたペガと一緒に店から出てきたのだが、既にその場には梨子しかおらず、そのことに彼女は困惑して「あれ?」と首を傾げるのだった。

 

ちなみにペガは自分のお金を千歌に渡して自分の分を彼女に買って貰うことで、μ'sのグッズをゲットした模様。

 

その後、そこでようやく千歌や梨子も花丸とルビィがいないことに気づいた2人は、千歌が花丸とルビィに電話をしてなんとかスクールアイドルショップの前で合流することができたのだが・・・・・・。

 

「善子ちゃんに曜ちゃん、それになっちゃんは?」

「3人とも場所は分かるから・・・・・・。 もう少ししたら行くって」

「もう少しって・・・・・・?」

 

千歌は梨子に曜、善子、無爪の居場所を尋ねると、梨子は大体あの3人が行きそうな場所なら把握しているとのことで、曜は制服専門店、善子は黒魔術ショップ、無爪はドンシャインの専門店にそれぞれ自分の好きなものが売られている店に行っているとのことだった。

 

「もう! みんな勝手なんだから!」

 

そのように、それぞれが勝手な単独行動を行うことに不満を口にする千歌だったが、正直、スクールアイドルショップに夢中になっていた彼女自身も人のことを言えないだろう。

 

「それに、今日はこれから少しの間雨が降るって天気予報で言ってたから、早めに色々と見て回りたかったのに・・・・・・。 みんな早く戻って来ないかぁ」

 

スマホの画面で今日の天気予報を確認しながら、そんなことをぶつくさと呟く千歌。

 

「しょうがないわねぇ・・・・・・。 んっ?」

 

結局、無爪、曜、善子の3人の単独行動っぷりにどこか呆れつつも梨子はここで大人しく待っているしかないと待機することになったのだが・・・・・・ふっと彼女の視界に「新作同人誌 乙女のキュンキュン壁クイ」と書かれた看板を見つけると、それを見た瞬間、彼女はゴクリと固唾を飲み込む。

 

おいこれ4回目だぞ。

 

「壁・・・・・クイ!?」

「梨子ちゃん?」

 

そんな梨子の様子に、一体どうしたのだろうかと千歌が尋ねると、梨子は両手をパタパタと振って「なんでもない!」と言うのだが、千歌からすれば一体何がなんでもないのだろうかと疑問を口にするが、梨子はそれには応えず、徐々に千歌達から距離を取りつつ後退る。

 

「い、いえ! わ、私ちょっとお手洗いに行ってくるねー!!」

「えぇー!!?」

 

梨子はそう言ってその場を走り去ると、すぐそこにあった「女性同人誌専門店 オトメアン」と書かれた看板のある店に突入し、千歌はそんな梨子に彼女までもが単独行動するのかと不満げな声をあげるのだった。

 

『ぼ、僕もドンシャインの専門店には興味があるし、無爪の様子を伺う目的も兼ねてちょっと行ってくるね! ごめん千歌ちゃん!!』

「えっ、ちょっ、ペガくんも!?」

 

ペガも影の中からこっそりと花丸とルビィに気付かれないように千歌に自分もドンシャインの専門店に行ってくるということを伝えると彼もまた無爪がいると思われるドンシャインの店へと向かうこととなり、それに千歌は「ハアアァァ〜!」と大きな溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『もう! ドンシャインのお店行くなら僕も誘ってくれれば良かったのに!』

「ごめんごめん! だけど、ペガはスクールアイドルのお店の方に夢中だったみたいだったし・・・・・・。 それに、ドンシャインの店を見たら頭の中真っ白になってつい」

 

ペガと店の中で合流した無爪は彼と共にドンシャインのグッズを幾つか購入した後、満足げな表情でペガとそんな言い争いをしながら店を出て、ペガと共に千歌達と合流しようと思ったのだが・・・・・・。

 

「って、あれ? ねえペガ・・・・・・なんか、外、やけに暗くなってない?」

『あれ? 本当だ。 夜になるにはまだ早すぎる時間帯の筈だけど・・・・・・』

 

店の外を無爪達が出ると、先ほどまで晴天で明るかった空がまるで夜のように暗くなっており、仮に雨が降るとしてもいきなりこんなに暗くなるのは普通ではあり得ない事態だった。

 

そのことに、無爪やペガの2人が少しばかり天気が突然暗くなったことに疑問を抱いていると、そんな時、血相を変えて青ざめた様子で何やら物凄く慌てた様子の千歌達(梨子、曜、善子は合流済み)がこちらに向かって駆け寄って来るのを視界に捉え、無爪は一体どうしたのだろうかと首を傾げる。

 

尚、ペガは千歌が梨子やルビィ、花丸を引き連れて来た為彼は慌てて無爪の影の中に隠れた。

 

「なっちゃんなっちゃん!! 大変!! 大変なの!!」

「えっ、ちょっと待って。 一体どうしたの千歌ねえ? みんなもそんな血の気の引いたような顔を浮かべて・・・・・・」

「あれ!! 無爪くんあれよ!! あれ見て!!」

 

千歌や他のみんなと同じように、顔を青ざめたさせた梨子が空を指差しながら「アレを見て!!」と無爪に空を見上げるように促すと、彼は梨子に言われた通り、顔を上に向け、空を見上げる。

 

すると、そこには一言で言うなら「ゴツい」という言葉がよく似合う巨大な怪獣、「亜空間怪獣 クラウドス」が気持ち良さそうにグースカスピスピ、スヤスヤと空中を浮遊し、いびきをかきながら爆睡していたのだ。

 

「ZZZzzz・・・・・・(スヤァ」

「・・・・・・なんじゃありゃあ!!!?」

 

そしてクラウドスの姿を見た無爪も、目をまん丸にして驚き、驚愕の声をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、ほんの数分前の出来事だった。

 

太陽黒点の異常活動による強烈な太陽風によって、地球電離層に巨大なプラズマ空域が発生。

 

それによってプラズマ空域に亜空間トンネルが開き、そのトンネルを通って1体の巨大な怪獣が出現したのだ。

 

そして、その亜空間トンネルから出てきたのが、本来はその亜空間を住み処とし、現在、無爪達のいる東京秋葉原上空に出現したのがこの亜空間怪獣 クラウドスなのである。

 

当然、亜空間から怪獣が出て来るなんて異常事態はAIB案件であり、クラウドスの出現はすぐさまAIB本部所属のエージェント達にも伝わり、対応に追われる形となった。

 

今日は非番だった美渡にも緊急事態として招集をかけ、AIB内本部ではモニター越しに空中を漂うクラウドスを怪訝な顔でゼナが見つめており、デスクの上に置かれた「スカルゴモラ」や「ドレンゲラン」「ジラース」に「バーニング・ベムストラ」、そして「サンダーキラー」などの怪獣達の資料を一瞬視界の隅に入れると、彼は「ハァ」と小さな溜め息を吐くのだった。

 

『全く、まだこちらの捜査が終わっていないというのに・・・・・・』

「すいませんゼナ先輩!! 遅れました!!」

『右に同じくすいません先輩!!』

 

そこへ少し遅れて美渡と宇宙人状態のザルドがやってくるとゼナは「遅い」と送れて来た2人、特に非番でもないのに遅刻したザルドに苦言を零すと、ゼナは再びモニターに視線をやり、美渡とザルドにもモニターを見るようにと指示し、ゼナからの指示を受けた2人は言われた通り、モニターに視線をやる。

 

「それで、ゼナ先輩・・・・・・この怪獣は?」

『あぁ、まだ少々調査班が調べただけだが・・・・・・この怪獣、見た目はこんなのだが、特に際だった攻撃特性は無いらしい』

 

さらにゼナが言うにはクラウドスは睡眠中にたまたま開いた亜空間トンネルから飛び出してしまっただけで、地球に来たのはたまたまの全くの偶然らしいのだ。

 

つまり、地球に来たのはクラウドスの意志などではなく、それどころか爆睡しているクラウドスは今自分がどこにいるのかさえも分からない状況なのだという。

 

『それは・・・・・・なんか可哀想だな。 家で寝てて、目が覚めたら自分が全然知らない場所にいたってことでしょ? なんとか家に帰してやることはできないんですか先輩!』

『確かに、あの怪獣にとってそれが1番のベストだろう。 そのことに関しても今調査班が調べている』

 

ザルドはクラウドスの今の境遇に同情し、殆ど事故のようなもので来たのだからなんとか元の場所に帰してあげられないのだろうかとゼナに相談するが、ゼナも元いた場所に帰すのが1番だろうという考え自体はザルドと同じであるものの今はクラウドスをどう家である亜空間に帰せば良いのかは彼にも分からなかった。

 

「あれ・・・・・・、あの、ゼナ先輩。 この怪獣のいる場所って・・・・・・東京の、秋葉原・・・・・・ですか?」

 

そんな時、美渡がモニターに映る街並みを見てクラウドスが今いる場所・・・・・・それは東京の秋葉原ではないのかとゼナに尋ねると、ゼナは「あぁ、そうだが?」と応え、それを聞いた瞬間・・・・・・。

 

美渡は血の気の引いた顔を浮かべ、慌ててAIBの本部から出て行こうとする。

 

『おい美渡! どこに行くつもりだ!?』

「今日!! 千歌となっちゃん・・・・・・私の妹と弟同然の子が、友達と一緒に秋葉原に行ってるんです!!」

『えっ、マジで!?』

『なに?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、東京秋葉原にて・・・・・・。

 

取りあえずはクラウドスは今でこそ空中に浮いているものの何時、どんな時に落下してくるか分からない以上、なるべく距離を取るべきだと判断した千歌達は現在、クラウドスから逃げるようにしてせっせと指定された避難場所に一同は移動していたのだ。

 

「つまりアイツは、寝ている間は身体が風船みたいに軽くなって空に浮かんでるってこと?」

『その通りです。 逆にあの怪獣が目覚めた場合、自身の動きが活発化することによって体内に亜空間プラズマが発生。 それにより体重が大きく変化することによって怪獣は重力に逆らうことが出来ず、真っ逆さまに地上に落下するものと予想されます』

 

無爪は千歌達と一緒に避難所に向かいながら梨子達に気付かれぬように装填ナックルに手で触れながらクラウドスについての情報をレムから聞いていた。

 

「どうするのなっちゃんあの怪獣?」

「アイツは、事故でここにやってきただけなんでしょ? 荒井の使役してる怪獣って訳でもないみたいだし・・・・・・出来ることなら、元のいたところに帰してやりたい」

 

この状況をもし、どうにかできるとすればそれは無爪しかいないと思った千歌は、彼にクラウドスに対してどう対処しようと思っているのかを尋ね、レムから教えられた情報で彼もまたクラウドスがただの偶然でここにやって来たことを知った為、無爪もザルドと同じように出来ることなら元いた場所に帰してやりたいと千歌の質問にそう応えた。

 

「でも、元の場所に帰すってどうやって・・・・・・」

「それなんだよね。 教えてレム先生! 何か方法はないの?」

『無いと言えばありませんし、あると言えばあります』

 

元いた場所に帰すと言っても、方法が分からない以上様々なことに精通しているレムに頼らざる得ない無爪はクラウドスをどうにかして帰す方法は無いかと尋ねるのだが、返って来たレムの返答の意味が分からず、無爪と千歌は不思議そうに首を傾げる。

 

『理論上、ジードは『ウルトラマンティガ』と、『ルナミラクルゼロ』のカプセルを使用すればそれらの力を兼ね備えた『ムゲンクロッサー』と呼ばれる形態にフュージョンライズすることが可能です。 そのムゲンクロッサーに備え足られたルナミラクルゼロの超能力パワーを駆使すれば、亜空間を開いて怪獣を元の亜空間に戻すことも可能だと思われますが・・・・・・』

「そんな・・・・・どうしよう・・・・・! どっちも持って無い・・・・・・!」

 

そう、理論上・・・・・・クラウドスをジードの力で亜空間に戻すことは可能なのだ。

 

ムゲンクロッサーに使うためのティガとルナミラクルゼロ、2つのカプセルがあれば・・・・・・。

 

しかし、無爪の所持しているカプセルは現状ウルトラマン、ベリアル、オーブ・エメリウムスラッガー、セブン、レオ、アストラ、ヒカリ、コスモス、シャイニングゼロ、そしてウルトラマンヒカリに直接託されたメビウスとゾフィーのカプセルのみ。

 

無爪はルナミラクルかティガ、どちらか片方のカプセルすら持っていなかったのだ。

 

「い、今からリトルスターを保有する人を探しに行くしか・・・・・・!」

「手当たり次第探せって言うの!?」

「んっ〜? アンタ達さっきから何ぶつぶつ言ってんの?」

 

千歌はこうなれば手当たり次第に探すしかないと提案するものの、そんな時間は無いと言い返す無爪。

 

すると、あの後すぐに(何故か巫女服を着た)曜と共に合流した善子がそんな風に言い合う千歌と無爪に向けて一体何を話してるんだと怪訝そうな表情を見せ、無爪と千歌は両手をぶんぶん振って慌てて「なんでもない!!」と誤魔化すのだった。

 

「っていうか曜ちゃんはなんで巫女服着てるの? さっきから思ってたけどさ」

「いやだって、神社に行くって言ってたから。 似合いますでしょうか!?」

「敬礼は違うと思う」

 

てかあの巫女服曜ちゃんめっちゃ可愛いよね!

 

まぁ、それは兎も角、千歌はそんな巫女服姿で敬礼してくる曜にジト目な視線を向けつつ、取りあえずあの怪獣が目を覚まさない内になんとか解決法をみんなで考えるのだが・・・・・・結局何も良い案が浮かばず、歩きながら途方に暮れていると・・・・・・。

 

「ZZZzz・・・・・・」

 

ふっと、少しばかり強い風が吹くとその風に乗って未だに眠ったままのクラウドスがふわふわと移動を開始したのだ。

 

「うわっ!? あの怪獣、こっち来たわよ!?」

 

しかも運の悪いことにクラウドスは無爪達のいる方向に向かって来ており、さらに最悪なのはこのまま真っ直ぐクラウドスがこちらに向かって来たとすれば、クラウドスは間違い無くビルとビルの間に激突してしまうということだった。

 

もし、このままクラウドスがビルに激突すれば、ビルは破壊され多くの人が避難するために通っているその道に、瓦礫が降り注ぐこととなるだろう。

 

もっと言えば、ビルに激突すればほぼ間違い無くクラウドスも目を覚ます可能性が高いため、クラウドスが目を覚ませば、さらに多くの被害が広がることはまず間違い無かった。

 

幸い、無爪達はそのビルの間は既に通り過ぎていた為、彼等に瓦礫が降り注いだりすることはないだろうが、未だにビルの間にある道を通って避難をしていた人々は怪獣がこちらに向かって来ていることに混乱し、パニックに陥っているのが遠目からでも無爪達には分かった。

 

「うわああ!!? 怪獣がこっちに来たー!!?」

「退け!! 退けぇ!! 俺が先だ!!」

「ふざけんな俺だ!!」

「ZZZzz・・・・・・」

 

しかし、そんな人々の混乱の中でも、クラウドスは気持ち良さそうにスヤスヤ眠っており、先ほどまでクラウドスに同情していた無爪ではあったが、そのように呑気に眠るクラウドスに少しばかりイラッとせずにはいられなかった。

 

「呑気に寝やがってあの野郎・・・・・・。 でも、マズいな・・・・・・。 僕、ちょっとあのパニック状態をどうにかしてくる!!」

「えっ!? なっちゃん!!?」

「どうにかって、どうするずら!?」

 

しかも徐々に徐々にだが、混乱の並が段々とこちらにまで押し寄せて来ているのを感じ、無爪はあの混乱をどうにか抑えてくると言って曜や花丸の声を振り切って人混みの中をかき分けながら避難していた方向とは逆方向には進み始める。

 

(ごめんね。 お願い、なっちゃん・・・・・・)

 

そんな人混みに消えて行く無爪の背中を見つめながら、千歌はこの状況を無爪がなんとかしてくれるのだと信じ、彼女は無爪を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはあ!」

 

そして、人混みの中に消えた無爪はなんとか途中から人混みの中を抜け出すことに成功し、人気のない場所に移動してジードライザーを取り出す。

 

「取りあえず、アイツをここから遠ざけないと!! ジーッとしてても、ドーにもならねえ!!」

 

無爪はそう言い放つと、カプセルホルダー腰のカプセルホルダーから「ウルトラマンヒカリ」のカプセルを起動させる。

 

「融合!!」

 

起動させたヒカリカプセルを、無爪は装填ナックルに差し込む。

 

「アイ、ゴー!!」

 

続いて無爪はコスモスカプセルを起動させ、ナックルに装填。

 

そこからジードライザーで装填ナックルをスキャン。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

『フュージョンライズ!!』

「見せるぜ、衝撃!!」

 

そして最後に、ジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すと、ウルトラマンヒカリとウルトラマンコスモスの姿が無爪の前で重なり合い、2人の力を融合させた青い姿の「ウルトラマンジード アクロスマッシャー」へと無爪は変身する。

 

『ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!』

「あっ、ウルトラマンジード!!」

「ここまで来てくれたのね・・・・・・」

 

ジードが現れると、彼の姿を見た曜や梨子がジードが来てくれたことにホッと胸を撫で下ろして一安心し、クラウドスの目の前に現れたジードは両腕を回しながらエネルギーを貯めると左手を右腕の関節に乗せて十字を組み、大気中のエネルギーをスパークさせて収束させた青い光輪状の波動光線「アトモスインパクト」をクラウドスに向けて発射。

 

『アトモス・・・・・・インパクト!』

 

ジードから放たれたその衝撃波により、クラウドスは吹き飛ばされてビルから遠ざけることに成功したのだが・・・・・・現状、クラウドスを傷つけず、人々を守る為にはこれしか手が無かったとは言え衝撃波を受けたことによってクラウドスはパッチリと目を覚ましてしまったのだ。

 

「グオオオオオ・・・・・・!!」

 

目を覚ましたクラウドスはそのまま地上にまで落下してしまうのだが、そこは特に建物なども無い広場であった為、特に被害が出るようなことはなかった。

 

『よし、狙い通りだ!』

「グルルルル・・・・・・!!」

 

ジードは被害が出にくいであろう狙い通りの場所にクラウドスが落下したのを見ると、ジードは大ジャンプしてクラウドスのいる場所まで移動し、鼻息を荒くするクラウドスを大人しくさせる為に興奮抑制の効果を持つ「スマッシュムーンヒーリング」を放つ体勢に入る。

 

『スマッシュムーン・・・・・・!』

 

しかし、それよりも素早くクラウドスが突進をジードに向かって繰り出して来たのだ。

 

『ウアアアッ!!?』

 

突進を喰らったジードは空中を一回転しながら吹き飛ばされて倒れ込み、さらにクラウドスは倒れ込んだジードに向かって覆い被さるようにジャンプし、踏みつけて来た。

 

『ウアアッ!?』

「グオオオオオオオオ!!!!!」

 

クラウドスは前足でばんばんジードの身体を叩いて攻撃を炸裂させ、さらにクラウドスは身体全体をジードに覆い被さるように乗せることで、自前の体重を使いジードを押し潰そうとしてくる。

 

『グアアアア!!? おも、重い・・・・・・!! 退けええええ・・・・・・!! この野郎おおぉ・・・・・・!』

 

ジードはクラウドスの身体をペチペチと叩くものの、自分にのし掛かるクラウドスのあまりの体重の重さのせいでジードには力が入らず、そんなしょぼい抵抗しかすることが出来なかった。

 

「グルルルル!! グアアアア!!!!」

 

どうやらクラウドスは、ジードに睡眠を邪魔されたのを怒っているようで甲高い雄叫びをあげるとクラウドスは前足でジードを蹴り飛ばし、それによって地面を転がり、クラウドスはジードに起き上がる隙を与えないように、すかさず倒れ込んでいるジードに向かって覆い被さるようにボディプレスを仕掛ける。

 

『ソリッドバーニング!!』

 

しかし、間一髪ジードは「ウルトラセブン」と「ウルトラマンレオ」のカプセルを使い、赤い鎧を身に纏ったような姿の「ソリッドバーニング」になると、ジードは片膝を突きながらも素早く立ち上がり、ボディプレスを仕掛けて来たクラウドスを両手で受け止める。

 

『ウアッ!!? ぐうう、うぅ・・・・・・。 ソリッドバーニングでも重いなんて・・・・・・』

「グルルル!! グルルル!!」

 

クラウドスを受け止めたは良いものの、パワーに優れたソリッドバーニングでもジードはクラウドスの重さに完全に耐えきることが出来ず、クラウドスがジタバタ暴れることもあり、徐々に徐々にだが、腕の力が抜けて行くのを感じた。

 

『グウウウ・・・・・・シュア!!』

 

だが、そこはどうにか気合いでクラウドスをジードは投げ飛ばすことに成功し、少しばかり痺れた腕をぶんぶん振りつつ、立ち上がってファイティングポーズで構える。

 

「グルアアアアア!!!!」

 

そこでクラウドスはまたジードに向かって突進を繰り出してきたが、それに対してジードは額のビームランプから放つ必殺光線「エメリウムブーストビーム」をクラウドスの足下に放つことでクラウドスの目の前を爆発させ、思わず立ち止まったところにジャンプしてクラウドスの背中に飛び乗る。

 

『シュア!!』

「ガアアアアア!!!!」

 

クラウドスの背中に飛び乗ったジードは多少のダメージを与えなくてはクラウドスは大人しくならないと判断し、背中にチョップを何度か叩きこむが、クラウドスはジードを背中から振り落とそうと激しく身体を揺らす。

 

『うわっ!!? だから大人しくしろって・・・・・・!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと着いたぁ」

 

その頃、ザルドが自身が所持している宇宙船を使い、東京の秋葉原にゼナや美渡と共にやってきたAIBの3人。

 

本来なら、文明に影響が出ることを考慮してAIBの方針的に宇宙船なんて使わないのだが、ザルドの宇宙船にはステルス機能が付いているとは言え、今回は緊急事態ということもあり、使用が許可されたのだ。

 

宇宙船を林の多い場所に隠して降り立った3人は、クラウドスを亜空間に帰すための目処が立ったためにやってきており、ザルドはAIBの科学班が制作してくれたクラウドスを亜空間に送り返せるというレーザー銃のようなものを持っていた。

 

『今のところ、あの怪獣による人的被害はウルトラマンジードによる活躍もあって特に出ていないようだ』

「そうなんですか!? 良かったぁ・・・・・・」

 

端末を見ながら、ゼナがまだクラウドスによる被害が出ていないことを美渡に説明すると、ならば千歌達もきっと無事なのだろうということに安堵するが・・・・・・まだクラウドスのことが解決した訳ではないため、ゼナはそんな美渡に「まだ安心するには早い」と叱責する。

 

『取りあえず、美渡、お前は妹達の安否を念のために確認してこい。 あとのことは我々がやる』

「りょ、了解です! 任せましたゼナ先輩! ザルド!!」

 

ゼナは美渡のことを気遣ってか、彼女に千歌達の元に行くように言うと彼女はすぐさまその場を離れていき、美渡が千歌達の元に行くのを見送ったザルドは、レーザー銃を構える。

 

「おう、気をつけて行って来いよー! よーし、それじゃあとはこいつで・・・・・・」

 

ザルドがAIBの科学班から渡された、レーザー銃を未だにジードと戦うクラウドスに向けて照準を合わせる。

 

尚、そのレーザー銃は、亜空間トンネルを再び開くためのアイテムであり、そもそも亜空間トンネルが開いたのは太陽風のプラズマと電磁荘のプラズマの相互作用が原因。

 

なので科学班はクラウドスの亜空間プラズマと雷の膨大なプラズマを相互作用させることで再び亜空間トンネルを開こうと考えたのだ。

 

そのために彼等は急いで亜空間トンネルを再び作り出すためのレーザー銃を大急ぎで開発。

 

このレーザー銃から放たれるレーザーによって、雷をクラウドスに誘導させることで亜空間を再び発生させようという作戦に彼等は出たのだ。

 

「おっ、丁度空が曇って来たな」

 

さらに天気予報を確認したところ、運の良いことにこれから少しの間雨が降り始めるようで・・・・・・ザルドの言うように、空が曇って来ると同時に、ゴロゴロと雷の音が鳴り響いていた。

 

「ジードォ!!」

 

クラウドスをレーザー銃で狙いながら、ザルドはクラウドスと戦うジードに大声を上げて呼びかけ、彼の声が耳に届いたジードは、クラウドスに馬乗りになりつつ視線をザルドの方へと移す。

 

『あれは・・・・・・ザルドさんに、それにゼナさん!? なんでここに・・・・・・』

「ジード!! この銃を使えば、その怪獣を元いた場所に送り返すことが可能だ!! だから、なんとかその怪獣を動かないように押さえ付けといてくれ!!」

『えっ、なにその銃・・・・・・。 うわあ!!?』

 

なんで美渡と同じ、生命保険の人がそんなアイテムを持ってるんだと疑問に思い、考え込むジードだったが、ジードはそこでクラウドスに遂に振り落とされてしまい、地面に倒れ込むとクラウドスはジードを踏みつけようとしてくる。

 

間一髪、地面を転がることでクラウドスの攻撃を避け、立ち上がったジードだが・・・・・・兎に角、今はザルドを信じるしかないかと判断し、彼は言われた通り、クラウドスに掴みかかって動きを封じようとする。

 

「グアアアアア!!!!」

『ぐう・・・・・・ウウ・・・・・・! ちょっとで良いから、動きを止めてくれ・・・・・・!!』

 

それでも中々動きを止めようとしないクラウドスに、ジードは止むなしとしてクラウドスの顎に膝蹴りを叩き込み、それによって一瞬動きが止まるとザルドは「今だ!!」と判断し、レーザー銃から光弾を発射。

 

その光弾がクラウドスの頭上に放たれると、その光弾を通して雷がクラウドスに降り注ぐのだが、クラウドスが素早く後退した為に降り注いだ雷は不発となり、逆にジードに直撃してしまう。

 

『ウアアア!!?』

『バカ! 何をやっている!!』

「いや、そう言われてもアイツが動くから・・・・・・! すまないジード!! 悪いけど、もう1度頼む!!」

 

ザルドはジードに謝罪しつつ、もう1度ジードにクラウドスの動きを封じるように頼み、ジードは一瞬ザルドのことを睨み付けたが、一応は彼の頼みを引き受け、もう1度クラウドスに掴みかかろうとするが、クラウドスはそれをひょいっと避けてしまった。

 

『こ の 野 郎・・・・・・!!』

 

こちらはクラウドスを家に帰してやろうと必死にやってるだけなのに、全然こちらの意志がクラウドスに伝わらないことに両手で握り拳を作りながら若干苛立つジード。

 

(いや、ダメダメ。 こんなことで怒っちゃダメだ)

 

なんとか怒りを抑えようとするジードだが、既にカラータイマーは赤く激しく点滅しており、もう時間がない。

 

そのため、ジードは急いでクラウドスを押さえ付けようとするのだが、クラウドスは躱したり、掴んだら掴んだで暴れて振り払ったと中々動きを止めてくれなかった。

 

そして、そんなどこか煮え切らない戦い方をするジードに、梨子達も気づいたようで・・・・・・。

 

「なんでジードは、怪獣を押さえ付けようとしてるんだろう・・・・・・?」

 

何時もなら怪獣を倒すために、果敢に立ち向かうのがジードだった筈。

 

それなのにも関わらず、今回は妙に消極的な戦いを行うことに梨子は疑問に感じ、それを口にするのだが・・・・・・そこでフォローを入れるように言葉を発したのが、千歌だった。

 

「え、えっと・・・・・・ほら! あれじゃないかな? あの怪獣、特に悪い奴じゃないから・・・・・・。 だからジードは、倒さないように大人しくさせようとしてるんじゃないかなーって」

 

クラウドスの事情を無爪を通してレムから聞いていた千歌は、ジードがクラウドスを倒さないように立ち回っているのを知っていた。

 

しかし、ジードの正体が無爪だとは教える訳にはいかないので、彼女はそのことをかなりボカしつつ、梨子の疑問に応える形で千歌はみんなにそう教えたのだ。

 

それに、ジードは以前にもジラースという怪獣を大人しくさせたことがある。

 

ジラースの件を考えると、ジードも無闇やたらに怪獣を倒す訳ではないんじゃないだろうかと千歌は自分の考えを梨子達に伝え、それを聞いた梨子達・・・・・・特にジードとジラースの戦いを千歌やモコと一緒に目撃していた善子はそうかもしれないと納得するのだった。

 

「でも、全然大人しくなる気配がないんだけど・・・・・・。噂だと、ジードって3分しか活動できないって時間制限があるんでしょ? それをこんなにモタモタやってたら・・・・・・」

 

だが、仮に千歌の言っている通りだとしとしても善子はジードには3分の時間制限があると言うのに、大人しくさせるなんて悠長なことを言っていられないのではないかと考え、善子の言うことにも一理あると思った千歌は「うっ、確かに」と頭を悩ませた。

 

(うーん、確かに善子ちゃんの言う通りかも。 こうなったらここはゼロに来て貰った方が・・・・・・)

 

こうなれば、千歌はゼロに救援を頼むしか無いかと思い、レイジに電話をかけるため、スマホを取り出そうとするのだが・・・・・・そんな時、突然ルビィの「あっ!」という声が聞こえ、一瞬ビクリとしたものの、千歌はすぐに首を傾げつついきなり声をあげたルビィに「どうしたの?」と問いかける。

 

「大人しくさせるなら、もう1度眠らせれば良いんじゃないでしょうか!?」

「眠らせるって・・・・・・どうするつもりよ? 見た感じ、アイツめっちゃ興奮してるみたいだけど」

 

ルビィはクラウドスを大人しくさせるつもりなら、最初にクラウドスが現れた時のように、眠らせてしまえば良いのではないかと考えたのだが・・・・・・眠らせると言っても今のところ、クラウドスは睡眠を邪魔されたことでかなり怒って興奮しているようで・・・・・・。

 

そんなクラウドスをもう1度眠らせるなんて、簡単に出来るのだろうかと善子は思ったが・・・・・・そこで、そんなルビィの考えを聞いた花丸が「あぁ、そうか!」と何かを閃いたかのような表情を浮かべた。

 

「な、なによずら丸まで・・・・・・」

「つまり、眠らせるなら子守歌を聴かせれば良いんだよ!」

「そうか! 成程! 要するに、あの怪獣に子守歌を聴かせてまた眠らせる! そういうことだね!」

 

花丸の考え、それはクラウドスに「子守歌を聴かせることで眠らせ、大人しくさせる」というものであり、彼女の考えを理解した曜は、ならばそれを行うには、スクールアイドルで合唱力を常日頃鍛えている自分達の出番なのではないかと思い、「よーし!」とガッツポーズをする曜だが・・・・・・。

 

そのように気合いを入れる曜に、梨子は「待った待った!!」とストップをかけたのだ。

 

「ちょっと待って曜ちゃん! 私達で子守歌を怪獣に聴かせるってこと!? そもそもここから怪獣の耳に私達の声が聞こえるの!?」

 

梨子は自分達の歌声で怪獣を眠らそうと意気込む曜に、流石に少しばかり危険・・・・・・何より、ここから自分達の歌声が聞こえるのだろうかと思い、不安げな表情を浮かべる梨子。

 

そんな時、彼女の目の前にひょいっと花丸があるものを差し出し、それを見て梨子は目を丸くした。

 

「メガホンがあるずら。 ちゃんと人数分」

「なんであるの!? っていうかどこから取り出したの!?」

 

どこからともなく何故か人数分あったメガホンを取り出した花丸に、梨子は驚くものの、彼女以外はそれを特に気にすることもなく、千歌は「花丸ちゃんナイス!!」とサムズアップし、花丸からメガホンを受け取る。

 

「えっ、みんな割と乗り気!?」

「ジードには、何時も助けて貰ってるからね」

「うん、ルビィも、ジードさんに助けて貰ったから。 だから今度はルビィが!」

「私も、モコのことで借りがある。 今こそ! 我が堕天使 ヨハネの歌声を持ってして、巨大なる獣を永遠の眠りへと誘いましょう・・・・・・!」

「永眠させたらダメずら、善子ちゃん」

 

曜やルビィ、善子は、ジードに助けて貰ったお礼が出来るならと迷わず花丸からメガホンを受け取り、善子の「ヨハネよ!!」という言葉を聞き流しつつ、彼女は梨子にもメガホンを手渡す。

 

「まぁ、確かにここだと人混み多くて声が聞こえないかもだし。 ちょっと移動したところで、みんなで子守歌を怪獣に聴かせよう!」

 

千歌のその言葉を受けて、曜達は右手を掲げて「おー!!」と叫び、そんな彼女等を見て梨子は「はぁ」とどこか呆れたような溜め息を吐く。

 

「流石に花丸ちゃんの考えは驚いたけど、勿論私も一緒に行くわよ! 私だって、ジードに助けられた1人なんだもの!」

 

そしてまた、梨子も千歌達と同じように意を決して怪獣に子守歌を聴かせて眠らせる作戦に参加する意志を表明すると、一同はもう少し歌声がクラウドスに届きそうな場所を目指し、少しばかり、けれども急いで人混みをかき分けながら移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラウドスは背中に乗るジードを振り落として倒れ込ませると、クラウドスは棍棒型の尻尾で倒れ込んだ状態のジードの身体に何度も叩きつけて攻撃する。

 

『グッ、ウゥ・・・・・!』

「全く、あの暴れん坊め・・・・・・!」

『早くしろ・・・・・・!』

 

ザルドは再びレーザー銃を構えるが、クラウドスが暴れるせいで上手く照準が合わず、ジードはどうにかクラウドスの攻撃から抜け出すが、これまでに蓄積されたダメージとエネルギーが残り少ないこともあり、片膝を突いた状態で上手く立ち上がることが出来ずにいた。

 

『ハァ、ハァ・・・・・』

 

しかし、そんな時だった・・・・・・ジードの耳に、誰かの歌声が聞こえて来たのは。

 

「「「「「「〜♪」」」」」」

 

ジードが歌声のする方に視線を向けると、そこには「シューベルトの子守唄」を歌う千歌達6人の、Aqoursの姿があったのだ。

 

無論、花丸がクラウドスにも歌声が届くようにと何故か複数個所持していたメガホンを全員で使用して。

 

(千歌ねえ! みんな・・・・・・ってあのメガホンどこから手に入れて来たんだ?)

 

すると、クラウドスの尻尾がピクピクと反応すると、クラウドスもまた千歌達の視線を向け、彼女等の子守歌に聴き入っているようだった。

 

「グウウウ・・・・・・」

 

すると・・・・・・ジーッと歌を聴いていたクラウドスはやがて、ウトウトとし始めると、それを見たジードはクラウドスの動きがほぼ完全に止まったことを確認し、ザルドの方を見て「今だ」と頷く。

 

「よし、今度こそ!」

 

それを受けたザルドもレーザー銃を構え、クラウドスの頭上に光弾を発射。

 

クラウドスの頭上でその光弾が光ると、その光弾を通して雷が再びクラウドスに降り注ぎ、それに眠りかけていたクラウドスは雷の音に驚いてまた目を覚ますが、空を見上げれば体内の亜空間プラズマと雷のプラズマで相互反応が起こった事でプラズマトンネルが開放される。

 

「グウウウ・・・・・・」

 

その時に発生した巨大な音のせいで、又もや目をパチリとさせるクラウドスだったが・・・・・・。

 

「グギャア!?」

 

ジードはプラズマトンネルを指差すことで、クラウドスに元いた場所に帰るように促すと、クラウドスはそれが自分の元いた場所に帰るためのトンネルであると察知したらしく、お礼を言うように首を上下に動かすと、クラウドスは空中へと浮かび上がってプラズマトンネルを通って元の亜空間へと帰って行くのだった。

 

クラウドスが帰るのを見届けると、ジードも空を飛んでその場を去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「づっがっれだぁ!!」

 

ダミ声を吐き出しながら、変身を解いた無爪はクラウドスと戦った疲労感からとある公園のベンチに腰かけ、少しばかりここで休んでから千歌達と合流しようと考えて、そこで休憩していたのだが・・・・・・。

 

そんな時、彼の頬にピトッと冷たい感触が伝わり、「おわああ!!?」と悲鳴をあげて思わず立ち上がり、背後を振り返るとそこには缶ジュースを手に持ちながら悪戯っ子のように「にしし」と笑う千歌の姿があったのだった。

 

「えへへ、なっちゃんへのイタズラ成功〜♪ お疲れ、なっちゃん!」

「千歌ねえ・・・・・・。 全く、下らない真似しないでよ」

 

千歌は手に持っていた缶ジュースを労いの言葉を無爪に送りながら投げ渡すと、無爪は子供がやるようなイタズラをしてくる千歌に呆れつつも投げられた缶ジュースを見事にキャッチし、受け取る。

 

「まぁ、でも、ありがと。 さっきも・・・・・・」

「うん? あぁ、そっか。 子守歌のこと?」

 

無爪は缶ジュースの蓋を開けて、中に入っているジュースを飲みながら、飲み物を渡しに来てくれたことや、先ほどクラウドスに苦戦する自分を千歌達が子守歌を唄うことで助けてくれたことに対してお礼を述べるのだが、そんな無爪に千歌は「別に大したことはしてないよ」と言葉を返すのだった。

 

「みんななっちゃんに、ウルトラマンジードに何時も助けて貰ってるからって、守ってくれてるからって、だから今度は私達が助けようと思った。 ただ、ジードへの恩返しがしたかった。 それだけのことだよ?」

「それでも、だよ。 ここで千歌ねえにしかお礼が言えないのがもどかしいけど」

 

ジードが何時も自分達を助け、守ってくれることへの恩返しだとしても、危ないところを千歌達に助けられたのは事実。

 

だから無爪は、そうだとしても千歌達に感謝せずにはいられなかったのだ。

 

ただ本当ならば千歌だけでなく、お礼を言うのならば曜達や、何故かへんてこな銃を持っていたザルド達などにもお礼を言いたかったのだが、流石にジードの正体を明かす訳にもいかないため、それが言えない状況に少しばかり胸の中に凝りが残ったような感覚を無爪は覚えずにはいられなかったが。

 

「曜ちゃん達に、別にもうジードの正体がなっちゃんだって明かしても良いような気もするけど」

 

梨子も、曜も、花丸もルビィも善子も、ジードのことを信じてくれている。

 

ならば、もどかしいと言うのならばAqoursのメンバーにぐらいジードの正体を明かしても良いのでは無いだろうかと千歌は提案するのだが、無爪としてはまだみんなに正体を明かすつもりにはなれないようだった。

 

「今でこそ、みんなはジードのこと信じてくれてるかもしれない。 でも、正体を明かしたら、みんなの僕を見る目が変わってしまうかも・・・・・・。 そう考えてしまうと、やっぱり正体を明かすに明かせられないんだよ」

「・・・・・・」

 

曜達なら、ジードの正体を明かしたとしても以前と変わらず無爪と接してくれそうな気もするが・・・・・・それはただの千歌の憶測にしかすぎない。

 

それに、無爪が正体を明かすことへの不安があるのも理解できる。

 

そのため、千歌はそれ以上無理強いしてまで曜達に無爪が自分こそがウルトラマンジードだと、言う必要はないと判断し、彼女は「分かったよ」と頷くと彼女は無爪の隣に座り込む。

 

「これ飲んだら、曜ねえ達と合流しよう」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、千歌達を探しに行っていた美渡はというと・・・・・・。

 

彼女は公園のベンチで休んでいる千歌と無爪の姿を遠目からではあるが発見し、声をかけようとしたのだが、何を話しているのかは聞こえはしなかったが、なんだか無爪と千歌がいい雰囲気に見えたため声をかけるのを野暮と思った美渡は空気を読んでその場を離れることにしたのだ。

 

(なっちゃんと千歌がなんかいい雰囲気のようだし、空気を読んで私はかっこ良く去るぜ! てか、思わず声をかけようとしたけど私がここにいる理由を説明しないといけなくなるから声をかけなくて良かったー!!)

 

あと思わず声をかけそうになったが、その後はどうして自分がこんなところにいるのかという疑問を無爪も千歌も当然抱いてそのことについて説明しなくてはならなくなる為、むしろここで声をかけなかったのは正解だったと思い、見つかる前に急いで美渡はこの場から離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ〜、やっぱり時間無くなっちゃったなぁ。 折角じっくり見ようと思ったのに」

 

その後、曜達と遅れて合流した千歌と無爪。

 

しかし中々来る機会のない秋葉原で、それもμ'sが主に活動していた聖地ならば色々と巡礼しようと思っていた千歌は、怪獣騒ぎなどもあったことからすっかり空は赤く染まって夕方となってしまい、もう神社ぐらいしか寄れないことを千歌はボヤいていた。

 

そんな千歌の呟きを聞いて、確かにこんな時間になってしまった主な原因は怪獣騒ぎのせいなのだが、自分達の勝手な行動にも一因があると思ったのか梨子は慌てて自分の買った本が入った袋を後ろに隠し、善子は「な、なによぅ!」と千歌に反論する。

 

「だから言ってるでしょ!? これはライブのための道具なの!」

「千歌ねえだって1人だけスクールアイドルのグッズ買い漁ってた癖に。 1人だけ買い物楽しもうだなんてそうは問屋が卸さない!!」

 

無爪にそう指摘され、実際自分だけ買い物を楽しんでいた千歌はぐうの音も出ないという感じで何も言うことが出来ずに黙り込んでしまい、何も言い返すことが出来なかったのだった。

 

そして、そうこうとしている内に、一同は目的の場所である「神田明神」の階段前にまで辿り着くことができた。

 

「ここだ・・・・・・!」

「これが、μ'sが何時も練習していたって言う階段!」

 

そのμ'sが練習に使っていたというその階段を見て、μ'sが駆け上っている姿を想像し、感慨深そうに見つめて思いを馳せる千歌達。

 

「登って、みない?」

 

少しばかり、遠慮がちに、けれどもどこかワクワクを隠せない様子の千歌が梨子達に折角なのだから階段を登ってみないかと提案すると、みんなを代表して梨子が「そうね」と頷くと、千歌は満面の笑みを浮かべて「よーし!!」と声をあげながらいきなり階段を走って駆け上がる。

 

「ええっ!?」

「ちょっ、待ちなさいよ!?」

 

突然走り出す千歌を梨子達は慌てて追いかけ、彼女と同じように階段を一同は駆け上がる。

 

ただ、無爪だけは普通に歩いて階段を登っていたが。

 

(μ'sが登ってたんだ・・・・・! ここを! ラブライブを目指して!!)

 

憧れの存在と、同じ場所で、同じように階段を駆け上がっていくことが嬉しいのか、千歌は先ほどよりも興奮した様子で、上を目指し、最後の一段を一際大きく飛んで階段を最後まで登り切ったのだ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」

 

汗を垂らし流し、息を切らす千歌だが、彼女の表情からはしんどさなどが感じられず、それどころか彼女の表情はどこか満足そうで、とても楽しげな顔をしていた。

 

「「〜♪」」

「んっ?」

 

そんな時、息を整えた千歌の耳に、どこからか誰かの歌声が聞こえ・・・・・・。

 

歌声のする方に視線を向けると、そこにはどこかの学校の制服を着た2人の少女が神社の前で歌を口ずさんでいたのだ。

 

その歌声はどこか、人を魅了するように美しく、思わず彼女等2人の歌声に聞き入ってしまった千歌は、その歌声に吸い寄せられるかのように彼女等の傍に近寄ると、次の瞬間一際大きな風が千歌に吹いて来たのだ。

 

まるで今目の前にいる2人の少女の歌声に、千歌が衝撃を感じたのを現わすように。

 

「千歌ちゃん?」

「どうしたの千歌ねえ?」

 

そこへ、遅れて無爪や曜達がやってくると同時に、千歌の目の前にいた2人も丁度歌い終わり、彼女等は歌が終わると同時にゆっくりと千歌の方へと振り返り、彼女に向かって微笑んできたのだ。

 

(よく似ているな。 姉妹かな?)

 

そんな彼女等の存在に、無爪達も気付いたようで無爪は少女2人の容姿が身長差こそあるもののよく似ていて髪の色も2人とも紫系だった為、姉妹なのだろうかと予想する。

 

もし姉妹だとすれば見た感じ髪をサイドテールにしていて背が高い方が姉で、髪をツインテールにしていて姉っぽい人に比べると背が低くツリ目になってる方が恐らくは妹なのだろうとなんとなく無爪は考察。

 

「こんにちわ!」

「こ、こんにちわ・・・・・・!」

 

サイドテールの方の少女が、千歌に挨拶をしてくると、千歌は戸惑いつつも同じように挨拶を返す。

 

「千歌ちゃん?」

「まさか、天界直視!?」

「はっ? ってか善子ちゃん割と人見知りだよね」

 

狛犬の像に隠れながら、よく分からないことを言う善子に無爪は「いや、何言ってんの?」とでも言いたげな視線を送るが、善子は視線自体は特に気にせず、取りあえず「ヨハネよ!!」と彼女は無爪に訂正するように言うのだった。

 

(そして何故かツインテちゃんの視線が鋭いのはなんででしょうか。 僕達何かやらかしましたっけ? 会って20秒ぐらいだと思うんですけど)

 

それと無爪は気のせいかもしれないが、何故かやたらと睨んでくるツインテール少女の視線が少し気になったが、特に彼女を怒らせるようなことはしていない筈なので睨まれてる理由が分からず、彼は困惑してしまう。

 

強いて何かやらかしている人物がいるとすれば神社に巫女服のコスプレしてる曜ぐらいだろうか。

 

神社に偽者の巫女が来てんじゃねえ!! とかそんな感じで怒ってるんだろうかと思ったが、どうにも誰か1人を睨み付けているという訳でもないようで・・・・・どちらかと言えば、曜だけでなく、千歌達全員を睨み付けているような感じだった。

 

「あら、あなた達もしかして・・・・・・Aqoursの皆さん?」

「嘘!? どうして・・・・・・」

「この娘、脳内に直接・・・・・・!?」

「いや、普通に言葉を発してたよ」

 

サイドテールの少女が、Aqoursのことを言うと千歌や善子はまさか知って貰えるとは思っていなかったのか驚きの声をあげ、花丸はもう自分達はそんなに有名になったのかと呟き、そのことにルビィは「ピギィ!」と歓喜の感情の籠もった悲鳴をあげるのだった。

 

「PV、観ました。 素晴らしかったです!」

「あ、ありがとうございます!」

 

街のみんなと一緒に作ったこともあり、サイドテールの少女にPVの出来を褒められて嬉しそうにはにかむ千歌。

 

「もしかして・・・・・・明日のイベントで、いらしたんですか?」

「えっ? はい・・・・・・」

 

サイドテールの少女の問いかけに、千歌がその通りだと頷くと、サイドテールの少女は口元に薄らとした笑みを浮かべる。

 

「そうですか。 楽しみにしています」

 

サイドテールの少女は、それだけを言い残すとそのまま彼女は歩き去って行き、次いで・・・・・・彼女の隣に立っていたツインテールの少女も一度だけペコリと千歌達に頭を下げると、彼女は唐突にこちらに向かって走り出して来たのだ。

 

いきなり走り込んできたツインテールの少女の行動に、無爪達は驚くが・・・・・次の瞬間、彼女は空高く跳び上がり、側方倒立回転を披露。

 

その際不敵な笑みを浮かべながら・・・・・・まるで千歌達に自分の身体能力の高さを見つけるようにして・・・・・・地面に着地するのだった。

 

(あの娘すっげードヤ顔するじゃん!! あと・・・・・・)

 

そのままツインテールの少女は、サイドテールの少女の隣に並ぶと、彼女はサイドテールの少女と共にその場を去って行こうとするのだが・・・・・・。

 

「あのさ、ツインテの娘、あんまり人前でバク宙みたいなのやらない方が良いと思うよ? だってほら、あんな風に跳び上がったらスカートの中がちょっと・・・・・・」

 

ついつい先ほどのツインテールの少女が行った側方倒立回転に対し、無爪はスカートを履いているのならば人前でやるのは辞めた方が良いのではと忠告すると、それを受けたツインテの少女は無爪が何を言いたいのかを察し、彼女は顔を真っ赤にして自身のスカートの丈をバッと押さえ付けた。

 

「っ~!!」

 

恥ずかしそうに自分のスカートを抑えつつ、先ほど以上に無爪にのみ強く睨み付けるツインテの少女。

 

「なっちゃんってばやらし~」

「なっちゃんさぁ・・・・・・」

 

曜はそんな無爪にニヤニヤした笑みを向け、千歌を始めとした他のAqoursメンバー達は呆れたような視線を向け、それに無爪は納得出来ず千歌達に反論。

 

「いやでも、誰かが教えるべきでしょ! ああいうの! 僕以外言う気配無かったし!!」

「まぁ、彼の言うことも一理ありますね。 殿方もいるのにスカート履いてるにも関わらずあんな動きすればそりゃ下着くらい見えても仕方ないと思いますし・・・・・・」

「姉様ぁ!?」

 

まさかの自分の隣に立つ姉が無爪の方をフォローしてきたことに驚き、ツインテ少女の姉と思われるサイドテールの少女は「私からも後でしっかり注意しておきます」とペコリと頭を下げた後、彼女等は今度こそその場を去って行くのだった。

 

ただツインテ少女にはもう1回無爪は睨まれてしまったりしたが。

 

「えっと、スカート云々は兎も角、あんな動きができるなんて東京の女子校生って、みんなこんなに凄いずら?」

「あったり前でしょ! 東京よ、東京!!」

 

ツインテールの少女の先ほどのアクロバティックな動きを見て、花丸はμ'sの存在などもあることからか東京の女子校生はこんなにも凄い人達ばかりなのだろうかと驚き、そんな花丸に善子は東京なのだからあれぐらい出来て当然だと断言した。

 

しかし、多分だが恐らく東京は関係ない。

 

「いやでも、みんな驚いてるみたいだけど梨子さんもあれぐらい出来るじゃん。 ほら、しいたけに追いかけられた時」

「そこで私を引き合いに出すのおかしくない無爪くん!? それに、それを言うなら無爪くんだって身体能力高いじゃない!」

 

ドヤ顔されたのが少しばかりムッとしたからか、無爪は以前梨子がしいたけに追いかけられた時、千歌の部屋から自分の部屋へと空中で回転しながらダイナミック帰宅した時のことを引き合いに出すが、あの時は逃げるのに必死だったからたまたま出来た偶然で、あのツインテ少女のようにやろうと思ってやれる芸当ではないと梨子は言うのだった。

 

「歌、綺麗だったな・・・・・・」

 

また、そんな風に周りがやいのやいの言う中、去って行くあの2人の少女の背中を見送りながら、千歌は彼女等の歌声の綺麗さを褒め、小さくそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無爪達は今日泊まる予定の旅館へと向かうこととなり、全員が温泉に浸かって今はみんな浴衣に着替えて部屋でくつろいでいた。

 

「ふぅ〜、落ち着くずらぁ・・・・・」

「気に入ってくれたみたいで、嬉しいわ」

 

団扇を扇ぎながら、リラックスして旅館をご満悦の花丸を見て、喜んでくれたのならここを選んで良かったと嬉しそうにする梨子。

 

ちなみに同室にはペガの例を覗けば唯一の男性である無爪もいたが、他に部屋が空いていなかったこともあり、彼女等と同じ部屋で泊まることになっている。

 

最も、寝る際には隅っこの方に寄って寂しく寝て貰うこととなるのだが。

 

(・・・・・・お風呂上がりの女の子の浴衣姿ってなんかエロいよね・・・・・・)

『無爪ェ・・・・・・』

 

尚、無爪は風呂上がりで浴衣姿の梨子達を見て、少しばかり彼女等のことをそういう視線で見てしまったが、ウルトラマンとは言え彼もまた年頃の男の子なのでこれは仕方のないことだろう。

 

そしてペガはそんな無爪の考えを彼の表情から読み取り、呆れ気味な声を出すのだった。

 

とは言っても、全員が全員浴衣という訳では無く・・・・・・。

 

「なんか、修学旅行みたいで楽しいね!」

「曜ねえ、もしかしてそれも買ったの?」

 

曜は何故か巫女服の次はCAのコスプレをしており、善子は私服で堕天使ショップで購入したと思われるマントを装着してテーブルの上に乗り、みんなに自慢するかのようにバサッと広げてポーズを決めていた。

 

「堕天使ヨハネ、降臨!! ヤバイ、カッコイイ!!」

「ご満悦ずら」

「アンタだって東京のお菓子でご満悦の癖に!!」

 

直後、テーブルの上に乗る善子を行事が悪いとして梨子が「降りなさい!!」と叱ったことで、怒鳴られた彼女はしょんぼり顔で渋々テーブルの上から降りるのだった。

 

「お土産用にも買ったけど、夜食用にもまだ別に取ってある・・・・・・」

 

旅館のお土産コーナーで買ったと思われる「バックトゥザぴよこ万十」というお菓子の箱を取り出しながら、それとはまた別に購入したという夜食用の饅頭をキョロキョロと探す花丸だったが、何故か見当たらず、確かに置いてあったのにと首を傾げる。

 

「あれぇ?」

「旅館のじゃなかったの!?」

「マルのバックトゥザぴよこ万十ーーーー!!?」

 

見れば花丸が買っていた饅頭を旅館の物と勘違いした曜と梨子がモグモグと食べており、それを見た花丸は悲痛な叫び声が響き渡るのだった。

 

「なにその車型のタイムマシンが出て来る映画のタイトルみたいな名前の饅頭・・・・・・」

『やっぱりバック・トゥ・ザ・フュ〇チャーはデタラメなのかなぁ?』

 

無爪が饅頭の名前についてツッコミを入れると、ペガは某タイムトラベル映画のことを思い出し、某スーパーヒーロー映画で言っていたタイムトラベル系はやはりデタラメなのだろうかと疑問を抱きながら小さく呟いていた。

 

「花丸ちゃん、夜食べると太るよ?」

 

またルビィはそんな花丸に対し、夜にお菓子なんて食べたら太ってしまうと(何やら夜空に向けて祈りを捧げていた善子に「静かにして! 集中できないでしょ!?」と怒られつつ)注意するが、自暴自棄になった花丸はそれを聞き入れず、お土産用に買った筈のお菓子を開封して自分で食べ始めてしまうのであった。

 

「もういいずら! 食べちゃうずら!! はむ!!」

「それより、そろそろ布団敷かなきゃ・・・・・」

 

明日には大切なライブがあるのだから、そろそろ寝なくてはいけないとルビィが布団を取り出して敷こうとするのだが、小柄な彼女が持つには少々布団の量が多すぎたようで、バランスを崩したルビィは無爪達を巻き込んで布団ごと倒れ込んでしまうのだった。

 

「うわっとと・・・・・・! ぴぎいいい!!!!?」

『わあああああ!!!!?』

「ねえ! 今、旅館の人から聞いたんだけど・・・・・・あれ?」

 

そこへ丁度、どこかへ出ていた千歌が戻って来たのだが、彼女の目の前には布団や饅頭が散乱し、倒れ込む無爪達という地味にカオスな光景が広がっており、それに千歌は一体何があったのだろうかと不思議に思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「音ノ木坂って、μ'sの?」

 

散乱した布団や饅頭を片付け、一同が千歌が旅館の人から聞いてきた話とやらに耳を傾けると、どうやらなんでもこの旅館の近くにμ'sがかつて通っていた高校、「音ノ木坂学院」があるとのことで、音ノ木坂の名前を聞いた瞬間、梨子は一瞬複雑そうな表情を見せるが・・・・・・。

 

「梨子ちゃん! 今から行ってみない? みんなで!!」

 

しかし、千歌はそれに気付かず、今からみんなで行ってみないかと誘って来たのだ。

 

「私、一回行ってみたいって思ってたんだ〜! μ'sが頑張って守った高校、μ'sが練習していた学校!!」

 

千歌は目をキラキラと輝かせながら、今すぐにでも自分が憧れ、尊敬するμ'sが通っていたという学校に行きたい気持ちを抑えきれない様子を見せ、これにはルビィや曜も「ルビィも行ってみたい!!」「私も賛成!!」と彼女に同意する姿勢を見せ、今からみんなで音ノ木坂に行く流れとなっていた。

 

「でも、東京の夜は物騒じゃないずら?」

「なっ、なっ、なに? 怖いの!?」

 

しかし、既に夜も遅い時間である為、花丸は不安がり、そんな花丸に対し、怖いのかと善子が言ってくるが・・・・・・どう見ても怖がっているのは声が震えている上に、身体も地味に小刻みに震えている善子の方であり、当然ながらそのことは花丸にも見透かされていた。

 

「善子ちゃん震えてるずら〜」

「でも花丸ちゃんの言う通り、もう遅い時間だし。 僕がみんなと一緒について行くとしてももしもってことがあるかもしれないんだから、明日朝早くとか、ライブ終わってからとかでもいいんじゃないの?」

 

最後に憧れの対象がμ'sかドンシャインかの違いなだけで、千歌の今すぐ音ノ木坂に行きたいという気持ちは分かるからか「千歌ねえの気持ちは痛いほど分かるけど」と付け足しつつ、無爪も流石にこんな夜中に出歩くのは物騒だと言って音ノ木坂に行くのを反対する意志を見せ、それに「えー!?」と項垂れてみせる千歌。

 

「行こうよ行こうよー!! みんなで行けば大丈夫だよ〜! それになっちゃんがいればそんじょそこらのただの不審者なんて出てきても簡単に叩きのめせるじゃん!」

「僕が一緒にいたとしてももしもってことがあるでしょ!? さっきも言ったけど、明日もあるし、ライブだってあるでしょ!?」

 

そのように、千歌と無爪が何時ものようにギャーギャーと言い争いを始めるのだが、そんな2人の口論を割って入るように、梨子が「ごめん!」と口を開き、謝罪の言葉を発すると口論していた千歌と無爪はいきなり謝りだした梨子に驚き、何事かと思い黙り込んだ。

 

「私は、いい・・・・・・」

『えっ?』

「今行くなら私は先に寝てるから、みんなで行ってきて? 今日じゃなくて明日行くとしても、私は置いて行って来て良いから」

 

梨子は今行くにせよ、明日行くにせよ、音ノ木坂に行くのなら自分は遠慮しておくと言いだし、彼女は立ち上がって一度部屋を出て行くと、その時にチラリと見えた彼女の表情はどこか不安げに見え・・・・・・その表情を見ると、千歌はなんとなくではあるが、彼女が音ノ木坂に対し、どこか複雑な心境を抱いているのを察することが出来た。

 

そのため、千歌はこれ以上音ノ木坂の話題を出すことが出来ず、同時に梨子を置いて音ノ木坂に行く気にもなることができなかった。

 

それは他のメンバーも同じ考えなようで・・・・・・。

 

「やっぱり、寝ようか?」

「そうですね、明日ライブですし」

「・・・・・・」

 

千歌に次いでノリ気だった曜とルビィも、梨子に気を遣って明日はライブもあるから寝ようと言うと、全員特に反対することもなく、それぞれの布団を敷いて今日はもう寝ることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、みんなが布団を敷いて寝静まった頃・・・・・・。

 

眠れなかったのか梨子は1人、窓の傍で夜空を眺めており、そんな梨子を気にしてか、彼女と同じようになんだか寝ることが出来なかった千歌が「眠れないの?」と尋ねながら起き上がると、それに対して梨子は「千歌ちゃんも?」と聞き返してきたのだ。

 

「うん、なんとなく・・・・・・」

「っ・・・・・・。 ごめんね? なんか、空気悪くしちゃって・・・・・・」

 

梨子は先ほど自分のせいで変な空気を漂わせたことを反省し、そのことについて千歌に謝罪するが、彼女はそんなことはないと首を横に振る。

 

「ううん。 こっちこそ、ごめん」

 

梨子が音ノ木坂にどこか複雑な感情を抱いていたのは、薄々感じていた。

 

それなのに、自分ばかりはしゃいで梨子への配慮が欠けていたことを千歌は反省し、自分の方こそ申し訳ないことをしたと謝ると、梨子はそんな千歌に苦笑しつつ、彼女は再び夜空を見上げながら自分の知る音ノ木坂について千歌へと語り始める。

 

「音ノ木坂って、伝統的に音楽で有名な高校なの。 私、中学の頃ピアノの全国大会行ったせいか、高校では結構期待されてて・・・・・・」

「そうだったんだ・・・・・・」

「音ノ木坂が嫌いな訳じゃないの。 ただ、期待に応えなきゃって・・・・・・何時も、練習ばかりしてて・・・・・・でも結局、上手くいかなくて・・・・・・」

 

しかし、梨子が言うにはいざ大会が始めると、上手くピアノを弾くこと出来ず、彼女は周りの期待に応えることはできなかった。

 

それが音ノ木坂に対して抱いていた複雑な感情の正体・・・・・・、だから梨子は、音ノ木坂に行くことを拒んだのだ。

 

「期待されるって、どういう気持ちなんだろうね?」

「えっ?」

 

梨子の話を聞いて、不意に千歌が期待されるのはどんな気持ちなのだろうかという質問をぶつけられ、そんな千歌に「いきなりどうしたの?」とでも言いたげな様子で梨子は首を傾げる。

 

「沼津出る時、みんな見送りに来てくれたでしょ? みんなが来てくれて、すごい嬉しかったけど、実はちょっぴり怖かった。 『期待に応えなくきゃって』『失敗できないぞ』って」

「千歌ちゃん・・・・・・」

 

千歌はクラスメイトの3人が見送りに来て送り出した時のことを思い出した為か、その時に感じた「期待に応えなくてはいけない」という気持ちが蘇り、彼女は不安げな表情を見せる。

 

「ごめんね? 全然関係ない話して」

「ううん、ありがとう」

「へっ?」

 

千歌は梨子に関係ない話をしてしまったと謝ったが、きっと千歌は千歌なりに、自分のことを励まそうとしてくれたんだろうと、梨子には分かっていた。

 

だから彼女は、千歌に対して「ありがとう」とお礼を述べたのだ。

 

「さっ、寝よ! 明日のために!」

 

梨子にお礼を言われて、なんでありがとうと言われたのか分からず一瞬キョトンッとする千歌だったが、笑顔を取り戻した梨子の顔を見て、一応の吹っ切れを感じ取った千歌は彼女の言葉に「うん!」と頷き、2人は明日のライブの為に眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

その翌日の、早朝、まだ朝も早い時間。

 

千歌はふっと自分だけが目を覚ますと、みんなを起こさないように静かに練習着に着替え、みんなに黙ったまま旅館を飛び出し、彼女は1人、走り込みを行う。

 

「よし!」

 

しばらく1人で走り込みをしていると、いつの間にかかつて、自分が以前修学旅行で訪れ、自分がスクールアイドルを始める切っ掛けになった場所。

 

巨大なモニターが設置された建物、「UTX学園」の前まで来ていたことに気付いた。

 

そのことに気付いた千歌は一度息を切らしつつ立ち止まり、モニターを見上げると彼女はここでスクールアイドルを初めて知った時のことを思い返す。

 

「ここで初めて見たんだ! スクールアイドルを・・・・・μ’sを!」

「千歌ちゃん!」

 

以前、ここに訪れた時のことを思い返していると、不意に後ろから自分を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り返るとそこには自分と同じように練習着に着替え、息を切らす曜達の姿があったのだった。

 

「やっぱり、ここだったんだね!」

「みんな・・・・・・? あれ? なっちゃんは?」

 

しかし、唯一無爪だけがいなかったことに疑問を感じた千歌は、無爪はどうしたのかと曜に問いかけると、曜が言うには無爪はまだ眠っているらしく、曜曰く「マネージャーでもない上に、無理言ってついて来て貰ったのだからなっちゃんまで朝練付き合わせるのは申し訳ない」とのことで、起こさなかったそうだ。

 

「でももう無爪くんマネージャーで良くない? まぁ、それよりも、練習するなら声かけてよ、千歌ちゃん!」

「そうよ! 1人で抜け駆けなんてしないでよね!」

「帰りに神社でお祈りするずらー!!」

 

梨子と善子、花丸がそれぞれ上から順番に千歌にそう言っていくと、その時・・・・・・。

 

突如、UTXのモニターの画面から音楽が流れ、千歌達がモニターの画面を見上げると、画面にある映像が映り始め、そこには「LoveLive」と書かれた文字が表示されたのだ。

 

「ラブ・・・・・・ライブ・・・・・・!?」

「ラブライブ! 今年のラブライブが発表になりました!」

 

千歌とルビィは目を見開きながら、そこのモニターでラブライブのエントリーが始まったという告知が流れ、梨子は千歌に「どうするの?」と尋ねると、当然エントリーすると千歌は言い放ったのだ。

 

「勿論出るよ! μ’sがそうだったように、学校を救ったように! さあ、行こう! 今、全力で輝こう!!」

 

そして、千歌、梨子、曜、花丸、ルビィ、善子の6人がそれぞれ手を重ね合わせる。

 

『Aqours!! サーンシャイーーーーン!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

そしてその後、本日のライブ会場に到着した千歌達は、1つの作品を除いて3作ラブライブシリーズ皆勤賞みたいな顔したレポーターっぽい感じの人から今回のイベントについての説明を今は受けていた。

 

「ランキング?」

「ええ、会場のお客さんの投票で出場するスクールアイドルのランキングを決めることになったの!」

「上位に入れば、一気に有名になるチャンスってことですか!?」

 

曜はそのランキングでもしも上位に入ることが出来れば、自分達は一気に有名になれるのかと尋ねると、レポーターの人は「まぁ、そういうこと」と彼女の言葉を肯定した。

 

「Aqoursの出番は2番目、元気にはっちゃけちゃってね!!」

「2番・・・・・・?」

「前座ってことね」

 

自分達の順番的に考えると、Aqoursは言うなれば前座。

 

そのことについて梨子は少しばかり怪訝な顔をするものの、ルビィ曰く、他のスクールアイドル達は誰もみんなラブライブの決勝に出たことがあるグループばかりなのだという。

 

「でも、前座が後座の人達より目立っちゃいけないなんてルール無いし、むしろ喰うぐらいの勢いが良いとは僕は思う」

 

例え、周りがラブライブ決勝に進出したグループばかりだとしても、むしろ臆することなく前座がメインを喰ってやるぐらいの気構えでいる方が良いだろうと無爪が千歌達に言うと、それに千歌も「そうだね」と同意するように頷く。

 

「そうだ、チャンスなんだ! 頑張らなきゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから千歌達6人は無爪と一旦別れ、無爪は客席に向かい、千歌達は控え室でライブのため着替えをすることに。

 

「千歌ねえ!」

 

しかし、控え室に行く直前、無爪に呼び止められた千歌は「んっ?」と立ち止まり、彼の方へと振り返る。

 

「えぇっと、その・・・・・・頑張って」

「んっ・・・・・・? うん! 勿論!」

 

無爪からのエールの言葉を受け取り、今度こそ千歌は梨子達と共に控え室へと向かうのだった。

 

そして、控え室に辿り着くと、彼女等はすぐに6人全員が余裕で入るくらいの更衣室に入って着替えを済ませるのだが・・・・・・。

 

「緊張してる?」

「そりゃね」

 

曜はどこか強張った表情をしている梨子を見て、ならその緊張をほぐす為にと彼女は敬礼のポーズを取る。

 

「なら、私と一緒に敬礼!! おはヨーソロー!!」

「お、おは・・・・・・ヨーソロー・・・・・・!」

 

曜に言われたように、梨子も敬礼しながら「おはヨーソロー」を言うと、曜はそんな梨子に「よく出来ました!」と笑いかける。

 

「緊張が解けるおまじないだよ♪」

 

と言いながら、曜は梨子の緊張を自分なりにほぐしてみたのだが・・・・・しかし、緊張しているのは梨子だけではないようで・・・・・・。

 

「やっぱり無理ですぅ・・・・・・」

 

ここに来て、相当のプレッシャーが自分に降りかかったのだろうか、見れば膝を抱えながら自分には無理だと、顔を俯かせているルビィがそこにおり、そんな彼女の肩に花丸はそっと自分の両手を乗せる。

 

「ルビィちゃん・・・・・・」

「っ」

「ふんばルビィずら!」

 

花丸が、ルビィの口癖を真似て彼女を励ますと、それを受けたルビィもどうやら緊張が解けたようで彼女は花丸に「うん!」と元気よく頷き、お互いに笑い合う。

 

「ダメダメ! 弱気になっきゃ!!」

 

そして千歌は、自分の頬を両手でパンッと叩いて気合いを入れると、レポーターの人から「Aqoursのみなさーん! よろしくお願いしまーす!!」という声が聞こえ、千歌達は気を引き締め、先ずはステージの裏で1番最初のグループが終わるまで待機することに。

 

ちなみに善子は変な呪文を唱えていて何時も通りの様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてステージ裏に到着した千歌達。

 

善子、花丸、ルビィはこっそりと客席を伺うと、その訪れた来場客の数に若干圧倒され、緊張がぶり返しそうになってしまう。

 

「す、凄い人です・・・・・・」

「だ、だ、だ! 大丈夫よ!?」

 

緊張するルビィに善子は客が大勢だろうが平気だと強がりを見せ、そんな1年組の様子を、千歌達が微笑ましく見守っていると、不意に後ろから誰かがこちらに向かって歩いて来る足音が聞こえ、音のした方へと振り返ると・・・・・・。

 

そこには神社で出会った、アイドルの衣装と思われる服を身に纏ったあの2人の少女がこちらに向かって歩いて来ているのが見えたのだ。

 

「よろしくお願いしますね!」

「スクールアイドル・・・・・・だったんですか?」

「あれ? 言ってませんでしたっけ? 私は、『鹿角 聖良』」

 

神社で出会ったサイドテールの少女は、「鹿角 聖良」と千歌達に不敵な笑みを浮かべながら名乗り、ツインテールにしている方の少女、妹の「鹿角 理亞」の名を聖良が呼ぶと、呼ばれた理亜は一瞬千歌達を睨んだ後、聖良に続くように、2人、スクールアイドル「Saint Snow」はステージへと上がるのだった。

 

「見てて、私達・・・・・・『Saint Snow』のステージを!』

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