ラブライブ! ジードサンシャイン!!   作:ベンジャー

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第11話 『0から1へ』

「で~わ~!! トップバッターはこのグループ!! Saint Snow!!」

 

例のレポーターの女性がSaint Snowの名前を言い放つと、呼ばれた聖良と理亜の2人組のスクールアイドル、「Saint Snow」が会場へと現れ、舞台に立つと彼女等の曲が始まり、2人のライブが始まった。

 

そんな彼女等の歌う曲は・・・・・・「SELF CONTROL!!」という曲。

 

始まった聖良と理亜の2人の、彼女等2人のそのライブでのパフォーマンスは少なくとも千歌に取ってはとても圧巻されるものであり、彼女は素直に「凄い」と称えられるほどのものだったのだ。

 

そして気付けば、いつの間にかSaint Snowのパフォーマンスが終了しており、すっかりSaint Snowのライブに見入っていた千歌は今度は自分達Aqoursがレポーターに呼ばれていることに気付かず、曜に「千歌ちゃん!」と呼びかけられたことでようやく自分達の番が来たことに気付き、彼女は戸惑いながらも「う、うん!」と頷きながら、曜達と共に舞台へと上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、全ての出場スクールアイドル達のライブが終了し、イベントが終わると無爪達は残された時間を観光に回すこととなり、一同は今は東京タワーへと訪れているところだった。

 

「この街、1300万人の人達が住んでいるのよ」

「そうなんだ・・・・・・」

「って言われても、全然想像できないけどね・・・・・・」

「やっぱり、違うのかな? そういうところで暮らしていると・・・・・・」

 

結果から言えば、あのスクールアイドルでのイベントでAqoursがランキングで10位以内に入ることは無かった為、彼女等が入賞することは無かった。

 

その為か、Aqoursのメンバー達はどこか元気が無さそうで、梨子と曜は窓から見える街を見下ろしながら、少しばかり暗い表情と気分が沈んだような声のトーンで2人はそんな会話をしており、その横では花丸とルビィが双眼鏡を使いながら東京の街の光景を眺めていた。

 

「あれが富士山かなぁ?」

「ずら・・・・・・」

 

やはりと言うべきか、花丸やルビィもどこかテンションが低く、そんな元気のない曜達の姿を少し離れた場所で見つめていた無爪は彼女等をどうにかして励ますことは出来ないのだろうかと考えるのだが、その方法が全くと言って良い程彼には思いつかなかった。

 

「ペガは、みんなを励ます良い方法とか思いついたりしない?」

 

なので、無爪は自分の影の中、ダークゾーン内にいるペガにみんなを元気づける為のアドバイスなどが何か無いかと尋ねるのだが、ペガはひょこっと人に見られないように気をつけつつ、顔をだけを出しながら「全然」と言って首を横に振るのだった。

 

『それに、今はそっとしておいてあげようよ。 余計な励ましは、却って逆効果になると思うし』

「それは、そうなんだけど・・・・・・僕も余計なことだとは思うけど・・・・・・。 でも、僕は落ち込んでる時、何時もみんなに励まされて来たから、だから今度は僕が何かしてあげられることがあるんじゃないかって・・・・・・」

 

アドバイスを求める無爪に対し、ペガは無理にみんなを励まそうとしても、それは却ってみんなを傷つけかねない行為だと言って今は何もせず、ただ見守ってあげようと言うと、無爪自身も確かにペガの言う通り今はそっとしておくのが1番だとは思った。

 

ここで無理にみんなを元気づけようとしても、逆にそれはみんなを傷つける行為になりかねない。

 

それは無爪も理解している。

 

だが、サンダーキラーとの戦いでは彼女等の声援があったからこそ勝利することができ、前回のクラウドスとの戦いだって彼女等の協力があったからこそ、クラウドスを元の場所へと返すことが出来たのだ。

 

特に、千歌には何時も励まされ、何度も自分にとって心の支えとなってくれた。

 

それなのに、今の自分は彼女達に対して何も出来ないのか、彼女達が自分にしてくれたことを、今度は自分が返すことは出来ないのかと無爪は強く思い悩んだのだ。

 

だが、無爪がそんな風に思い悩んでいると、「フフフ」と不敵な笑い声をあげる善子の声が聞こえ、無爪達が声のした方へと振り返るとそこには何時ものように黒いケープを纏いながらポーズを決める善子の姿があったのだった。

 

「ふふふ、最終呪詛プロジェクト・・・・・・。 ルシファーを解放! 魔力1千万のリトルデーモンを召喚! 」

 

バサッとケープを広げながら、空中に飛ばした1つの黒い羽根をその手に掴み、決めポーズを決める善子。

 

「・・・・・・カッコイイ・・・・・・!」

「善子ちゃんは元気だね」

「善子じゃなくて、ヨ・ハ・ネ!」

「ライブは終わったのにヨハネのままずら」

 

そんな何時ものやり取りを見て、思わず苦笑いとなる無爪。

 

もしかして善子は場を和ませようとしたのだろうかと思い、多少なりとも善子のおかげで少しはマシな空気になったのではないだろうかと思った無爪は「僕にはこんな風には出来ないな」と彼女に少しばかり感心の声をあげながら小さく呟く。

 

最も、無爪の呟きは善子に聞こえていたようで「ヨハネ!!」とこれまた何時のように訂正を入れられるのであった。

 

するとそこでみんなのアイスを買いに行っていた千歌が「お待たせー!!」と元気な声をあげながら戻ってくると、彼女はみんなに「笑顔」を見せながら、無爪達にアイスを配っていく。

 

「なにこれすごーい! キラキラしてる~!! それにこれもすっごい美味しいよ!」

「千歌、ちゃん・・・・・・」

「千歌ねえ・・・・・・」

 

そのように、みんなに元気に笑顔を向ける千歌であったが、その表情は誰がどこからどう見ても無理にしているようにしか見えず、無爪達はそんな千歌に戸惑いながらもアイスを受け取っていくことしかできなかった。

 

それから一通りアイスを配り終えた千歌はみんなの元気があまり無いことを察してか、彼女はは今日のライブのことを振り返りながら、今までだってライブは全力で挑んでいたが、例え入賞出来なかったとしても、今日は特に今までで1番の全力を出し尽くしたのだから後悔は無いと語りだしたのだ。

 

「・・・・・・全力で頑張ったんだよ? 私ね、今日のライブ今まで歌ってきた中で出来は1番良かったって思った! 声も出てたし、 ミスも1番少なかったし・・・・・・」

「でも・・・・・・」

「それに、周りはみんなラブライブ本選に出場しているような人達でしょ? 入賞出来なくて当たり前だよ!」

「だけど、ラブライブの決勝に出ようと思ったら、今日出てた人達ぐらい、上手く無いといけないってことでしょ・・・・・・?」

 

元々、今日のイベントでライブを披露していたスクールアイドル達は元より実力の高い者達ばかりだった。

 

千歌はそんな人達ばかりいる中で、千歌や他のメンバー達も「もしかしたら」というちょっとした希望を期待こそしていたが、スクールアイドルを始めたばかりの自分達が入賞出来ないのは当然のことだと言うのだが・・・・・・。

 

そんな彼女に対し、梨子はラブライブの決勝を目指すなら、今日出場していた他のスクールアイドル達ぐらいの実力が必要で、そのことについて千歌も「それはそうだけど・・・・・・」と今日のイベントを通して、自分達ではまだまだ実力不足だということは頭では理解しているつもりだった。

 

「・・・・・・私ね、Saint Snowを見た時に思ったの。 これがトップアイドルのスクールアイドルなんだって。 このぐらい出来なきゃ、ダメなんだって。 なのに、入賞すらしていなかった」

 

そんな時、曜が千歌に対してSaint Snowのライブを見た時、彼女等が大会で入賞するのは間違い無いだろうというちょっとした確信を得るぐらいには十分なほど、Saint Snowの実力はかなり高いものだと感じたことを語りだし、それに続くように無爪もまた、素人目線ながらもSaint Snowへの評価を千歌へと語ったのだ。

 

「スクールアイドルについて疎い僕でも、ちょっと悔しいけど、正直Saint Snowのライブは凄いって思った。 高い実力の持ち主だって言うのが分かった。 なのに、あれで入賞出来ないって・・・・・・。 正直、『有り得ないだろ』って思ったよ。 スクールアイドルの世界って僕が思ってるよりも物凄く厳しいんだなって・・・・・・」

 

しかし、実際にはそう感じたSaint Snowすらも今回のイベントで自分達同様に入賞することが出来ていなかった。

 

それは、スクールアイドルについて全然詳しく無い無爪が見ても、Saint Snowの実力が相当なものであることは理解することができた。

 

なので無爪も曜と同じように少なくともSaint Snowは絶対に入賞しているだろうと思ったのだが、しかし、そんな無爪や曜の予想や確信を裏切り、Saint Snowの実力を持ってしても、今日のイベントで彼女等もまた入賞することは出来なかったのだ。

 

「・・・・・・あの人達のレベルでも、無理なんだって・・・・・・」

 

だが、そのSaint Snowの実力でも、イベントで入賞出来なかったことを考えると、自分達Aqoursがまだまだ実力不足であるということを痛感せざる得なかった。

 

「それは、ルビィもちょっと思った・・・・・・」

「マルも・・・・・・」

 

花丸やルビィもまた、曜と同じように自分達がまだまだ実力不足であるということを頭の片隅で考えていたようで・・・・・・。

 

そんな暗い表情で、弱気な発言をする花丸とルビィに対して善子は両腕を組みながら彼女はあれはただの偶然だと突然主張しだしたのだ。

 

「な、何言ってるのよ! あれはたまたまでしょ? 天界が放った魔力によって・・・・・・!」

「何がたまたまなの?」

「何が魔力ずら?」

「ふえっ!? いやぁ、それは・・・・・・」

「慰めるの下手すぎずら」

 

暗い雰囲気になりつつあった場の空気を和まそうと思って発言した善子であったが、花丸やルビィの指摘に思わずあたふたとした様子を見せ、そんな不器用な姿を見せる彼女に花丸やルビィは思わず笑ってしまうのだった。

 

「な、何よぅ! 人が気を効かせてあげたのにぃー!!」

「そうだよ・・・・・・」

「「「えっ?」」」

「今はそんなこと考えてもしょうがないしさ! それよりさ、折角の東京だしみんなで楽しもうよ!」

 

曜や無爪の言いたいことも分かる。

 

だが、今は気分転換をした方が良いだろうという考えからか、まだ帰るまでに時間もあることなので残された時間を使い、東京での観光を楽しもうとみんなに提案する千歌であったが・・・・・・。

 

その時、千歌の持つスマホから「プルルル」という着信音が聞こえ、彼女は「誰からだろう?」と思いつつスマホをポケットから取り出して通話に出ると、電話をかけてきたのはあのレポーターからであった。

 

「はい、高海です。 えっ? はい、まだ近くにいますけど・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、レポーターに呼び戻され、今日行われたライブ会場へと戻ってきた千歌達。

 

「ごめんなさいねぇ、呼び戻しちゃって。 これ、渡し忘れていたからって思って」

 

そう言いながらレポーターは1つの封筒を千歌へと差し出し、千歌はそれを不思議そうに見つめる。

 

「なんだろう?」

「もしかして、ギャラ?」

「そんな訳無いでしょ。 アイドルたって千歌ねえ達の活動はあくまで部活動なんだし」

「卑しいずら」

 

ルビィはレポーターの差し出した封筒がなんだろうと首を傾げ、善子はもしかして今日イベントに参加してくれたお礼として金銭的なものを渡されたのだろうかと考えたが、幾らイベントだからと言ってもこれは部活動の一環なのでそんなものが発生する訳が無いと言う無爪。

 

また、お金が貰えるのではと期待するそんな善子に対し、花丸は呆れたような視線を彼女へと向けるのだった。

 

「今回、お客さんの投票で入賞グループ決めたでしょ? その集計結果」

「わざわざ、ありがとうございます」

 

無爪、ルビィ、花丸、善子の1年組4人がなんの封筒だろうと話し合っていると、レポーターからこれは集計結果の紙の入った封筒であるということが説明され、千歌はお礼を言いながらレポーターから封筒を彼女は受け取った。

 

「正直、どうしようかなーってちょっと迷ったんだけど、出場して貰ったグループにはちゃんと渡すことにしてるから」

 

どことなく、気まずいような顔を浮かべるレポーターの言葉に何か引っかかる部分があるものの、それを聞く前に彼女はまだ作業も残ってるからか「じゃあ」とだけ言い残してその場を去って行ってしまい、曜が「見る?」と千歌に問いかけると彼女は「うん」と頷き、封筒を開封して中に入っていた紙を取り出すとみんなでその紙に書かれていた集計結果の内容を確認してみることに。

 

「あっ、上位入賞したグループだけじゃなくて、出場グループ全部の得票数が書いてある!」

「Aqoursはどこずら・・・・・・?」

「えーっと、あっ、Saint Snowだ」

 

千歌達がAqoursの名前を探していると、それよりも先にSaint Snowの名前が目に止まり、Saint Snowの順位は30組中9位であった。

 

「9位か、もう少しで入賞だったのね・・・・・・」

 

梨子がそう呟き、花丸が自分達Aqoursの名前はどこにあるのかと急かすと千歌は1枚目の紙にAqoursの名前が入っていなかった為、2枚目の紙を確認してみると、そこには1番最後に・・・・・・Aqoursの名前が書かれていたのだった。

 

「っ、30位・・・・・・」

「30組中、30位・・・・・・?」

「ビリってこと!?」

「わざわざ言わなくて良いずら!!」

 

千歌、曜、善子、花丸の順にそれぞれそう言うと、梨子は得票数はどれぐらいあったのかと千歌に尋ね、千歌はAqoursの得票数を確認してみるのだが・・・・・・。

 

「えっと・・・・・・」

 

そこには、「0」とただ無情に紙に書かれており、その数字を目撃した瞬間、千歌や他のメンバーはそのことに目を見開き、ただ彼女等はその結果に驚愕することしかできなかった。

 

「0・・・・・・?」

「そんな・・・・・・」

「私達に入れた人、1人もいなかったってこと?」

 

尚、ここでペガは投票が出来ないのは仕方が無いとして、無爪は投票しなかったのかと思うかもしれないが、あらかじめ千歌が「なんかそれちょっとズルい気もするから」と言ってあらかじめ彼には自分達に投票しないようにと釘を刺していたのだ。

 

そのため、無爪は今回のイベントでAqoursには票を入れておらず、他のスクールアイドルに投票するのも嫌だったのでAqours以外のグループにも票は入れてはいなかった。

 

「1人もいないって、嘘だろ・・・・・・?」

 

この結果に、無爪は会場に何人もの多くの人達がいたんだから流石に1人ぐらい誰かが投票してくれていても良いだろうと思わずにはいられなかったが、現実は非情である。

 

無爪や他の誰かがどう思おうが、どう言おうが、結果は変わらない。

 

「お疲れ様でした」

 

そんな時、投票結果に千歌達がショックを受けていると、不意に聞き覚えのあった声が聞こえ、千歌が顔をあげるとその視線の先には聖良と理亜のSaint Snowの2人が立っていたのだ。

 

「Saint Snowさん・・・・・・」

「素敵な歌で、とても良いパフォーマンスだったと思います」

 

それは別に、最下位で、0票のAqoursに対する皮肉などではない。

 

聖良は今日のAqoursのライブを見て素直にそう感じ、本心からAqoursのことをそう称えたのだ。

 

「ただ、もしμ'sのように、ラブライブを目指しているのだとしたら・・・・・・諦めたほうがいいかもしれません」

『っ・・・・・・!!』

 

聖良の言う言葉には嘘偽りは無い。

 

千歌達のライブ自体は悪いものではなかった。

 

だが、もしラブライブを目指すのだとすれば・・・・・・今日ぐらいのAqoursのパフォーマンスでは全く通用しないということを聖良は非情にも言い放ち、それに千歌達は何も言い返すことができなかった。

 

「っ、なんだよ、それ! 勝手なこと言うな! なんでアンタにそんなこと言われないと・・・・・・!!」

 

ただ1人、無爪はだけはそんな聖良の言葉に苛立ち、言い返そうとしたが、無爪の影の中からペガが彼の足をガシッと掴んだことで無爪は言葉を遮られ、「なにするんだ!?」とでも言うような視線をペガの方へと向ける。

 

『ごめん、でもここは君が間に入って良いところじゃないと思うから・・・・・・』

「っ・・・・・・」

 

ダークゾーンから小声で無爪にだけ聞こえるようにペガがそう言うと、無爪もすぐにこれはスクールアイドル同士の問題だということを理解し、冷静となって自分は口を挟むべき問題ではないと思い、唇を噛み締めながらも、彼は悔しそうに黙り込むのだった。

 

「・・・・・・」

「んっ・・・・・・?」

「バカにしないで・・・・・・」

 

そこで、千歌はジッとこちらを鋭い目つきで見つめてきている理亜の視線に気付くと彼女は目尻に涙を浮かべつつ、そう言ってきたのだ。

 

「ラブライブは、遊びじゃない・・・・・・!!」

「っ・・・・・・!?」

 

理亜は千歌達に強くそう言い放つと、彼女等は聖良と共にその場を去って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、もはや観光なんてする気分になれなかった無爪達はそのまま真っ直ぐ駅へと向かって電車が来るのをただ待ち続け、帰りの電車が来ると一同は未だに暗い雰囲気を纏ったまま、それに乗り込み帰路へと付くのであった。

 

「・・・・・・泣いてたね、あの娘・・・・・・。 きっと、悔しかったんだね。 入賞できなくて・・・・・・」

「ずら・・・・・・」

 

電車に揺られながら、ふっとルビィが口を開くと泣いていた理亜の顔を思い出しながら、その時の彼女の心情を理解し、そんなルビィの言葉に花丸が頷いて同意すると、後ろの席に座っていた善子が顔を覗かせながらだからと言ってあの言い草は無いのではないかと言い始める。

 

「だからって、ラブライブをバカにしないでなんて・・・・・・!!」

「だよね、千歌ねえ達が何時ラブライブをバカになんて・・・・・・、何年何月何日何時何分何十秒、いつ、どこで! 地球が何回廻った時にしたんだよ! 一瞬たりともしてないだろ!」

 

無爪もまた善子と同意見なのか、ずっと千歌達の活動を見守ってきた彼は千歌も、梨子も、曜も、善子や花丸、ルビィだってラブライブをバカにしたことなんて一瞬たりともないことを知っている。

 

それは例え、無爪やダークゾーンの中にいるペガを含めたとしてもだ。

 

「でも、そう見えたのかも」

 

しかし、曜は客観的に見て理亜にはそう見えてしまったのではないかと予想し、考えてしまう。

 

「・・・・・・私は良かったと思うけどな」

 

そこで電車の窓の外を見つめながら不意に千歌がそう呟くと、全員が一斉に彼女の方へと視線を向け、そんな彼女に曜は「千歌ちゃん?」と不思議そうに首を傾げる。

 

「精一杯やったんだもん。 努力して頑張って、東京に呼ばれたんだよ? それだけで凄いことだと思う! でしょ?」

「それは・・・・・・」

「だから、胸張って良いと思う!! 今の私達の、精一杯が出来たんだから!」

 

東京のイベントで、誰1人としてAqoursに票を入れて貰えず、聖良からは「ラブライブを目指すなら諦めた方が良い」とまで言われて、所謂「完全敗北」とでも呼べるような結果に終わってしまったというのに、それでも東京に呼ばれるまでになったのだから、それだけでも今は十分だとみんなに笑いかけながら気丈に振る舞う千歌。

 

「千歌ちゃん・・・・・・」

「んっ?」

「千歌ちゃんは、悔しくないの?」

「・・・・・・えっ?」

 

それは、今日1日無理に明るく振る舞う千歌を見てみんなが思っていたことだった。

 

しかし、今の今まで誰1人としてそんな千歌を気遣ってからか誰もそれを中々言い出すことができず、指摘することが出来なかった。

 

だが、遂にこのまま黙っていることが出来なくなった曜は全員が千歌に対して抱いていたであろう疑問を率直に彼女へとぶつけ、それに一瞬戸惑いの色を千歌は見せる。

 

「・・・・・・くやしくないの?」

 

もう1度、改めて曜が千歌へと問うと彼女は動揺しながらも「そ、そりゃちょっとは・・・・・・」とどうにか言葉を絞り出すようにして応える。

 

「でも満足だよ! みんなであそこで立てて、私は、嬉しかった」

「・・・・・・そっか」

 

それ以上、曜は特に千歌に問い詰めるようなことせず、以降電車が沼津駅に到着するまでしばらくの沈黙が続いたのだった。

 

(全く、人のこと何時も『素直じゃない』とか言う癖に、自分だってそうじゃないか・・・・・・)

 

また、そんな千歌に視線を向けながら、心の中で自分のことを何時も千歌は素直じゃないだの言う癖に自分もそうではないかと呟く無爪であった。

 

 

 

 

その後、既に日も殆ど暮れた頃、無爪達は沼津駅に到着。

 

「ふいぃぃ、戻ってきたぁ・・・・・・」

「やっと『ずら』って言えるずらぁ」

「ずっと言ってたじゃ無い!!」

「ずらあぁぁ!?」

 

ルビィと花丸はようやく帰ってこれたことに、ほっと胸を撫で下ろし、そんな花丸の言葉にツッコミを入れる善子。

 

「おーい!! お帰り~!!」

 

するとそこへ自分達に向かって呼びかける声が聞こえ、声のした方へと千歌が顔を向けるとそこにはよしみ、いつき、むつの3人を始めとした多くのクラスメイト達や、それに加えてレイジや、彼の頭に乗るモコもわざわざ迎えに来てくれたのか、こちらに手を振っている姿が見えたのだ。

 

「モコ~!」

「わっ!? モコ!? わざわざみんなと一緒に迎えに来てくれたの?」

「モコ!」

 

レイジの頭に乗っていたモコが善子に飛びつくと、彼女はモコを抱き留め、モコの頭を優しく撫でながら彼女はほっこりとした表情を浮かべた。

 

「はぁ~、今モコに会えて良かったわ。 癒される・・・・・・。 でもこの時間帯は学校にいないとダメだったんじゃ・・・・・・」

「どうしても善子ちゃんに会いに迎えに行きたかったみたいだったから、学校に許可取って連れてきたんだ」

 

モコまで迎えに来てくれたこと自体は嬉しいが、幾らモコが自分に会いたかったからと言って既に日も殆ど暮れてモコは学校にいないとダメな決まりだった筈なのに、なぜここにいるのだろうかと善子が疑問に思っていると、それをレイジがモコが善子を迎えに行くことを学校側に許可を取ってくれたそうで、善子はそのことにレイジに頭を下げながらお礼を言うのだった。

 

「えっ? そうなの? あ、ありがとうございます、先生・・・・・・。 ただ私は善子じゃなくてヨハネです」

「モコ!」

 

善子とモコは頭を下げながらレイジにお礼を述べ、そこへ今度はよしみ、いつき、むつの3人が代表するように千歌達の元へと駆け寄ると彼女等は早速千歌達に東京での感想を尋ね、それを受けて無爪は心配げに視線を千歌の方へと向けると、やはりと言うべきか千歌はそれに内心若干の気まずさを感じつつ、平静を装いながらも彼女はどうにかその問いに応える。

 

「どうだった東京は?」

「あぁ、うん。 凄かったよ! なんか、ステージもキラキラしてて・・・・・・」

「んっ?」

 

そんな千歌の姿を見て、レイジは彼女がどうにも妙によそよそしく感じてしまい、よく見れば千歌以外のメンバーもどこか複雑そうな顔をしていることに気づき、レイジは「無爪くん」と彼を呼ぶとボソボソと小さな声で「なにかあったの?」と東京であったことを尋ね、それに無爪もどう応えて良いのか一瞬迷ったものの、よしみ達や千歌達にも聞かれないように彼女等と少し距離を取ると、東京であったことの大まかな内容をレイジへと話したのだった。

 

「それで・・・・・・みんなちょっと、いや、大分落ち込んでるみたいで・・・・・・。 今は少しは落ち着いてきたみたいなんですけど、それでも・・・・・・」

「そっか。 曜ちゃん達の活動ってかなり調子良さそうなイメージだったのに、それは確かに結構なダメージかもね・・・・・・」

『・・・・・・0票か。 なんだろうな、俺は別に何もしていないのに、妙に罪悪感を感じちまう』

 

東京での出来事を無爪があらかたレイジに話し終えると、レイジはAqoursがイベントで入賞どころか誰も票を入れてくれなかったことを残念がり、彼と一体化しているゼロも無爪の話を聞いて自分の名前が『ウルトラマンゼロ』だからか、妙な罪悪感を抱いてしまうのだった。

 

「いや、流石にゼロさんが責任を感じることは・・・・・・」

『まぁ、そうなんだが、それでもやっぱりちょっと気にしちまうな』

 

レイジはこのことにゼロが責任を感じることはないとフォローを入れるものの、それでも少しばかりどうしても気にしてしまうと語るゼロ。

 

「ちゃんと歌えた!?」

「緊張して間違えたりしなかった!?」

 

そこで、レイジと無爪が千歌達の方へと視線を向けると、今度はむつとよしみからライブでミスをしなかったかと心配される千歌達の姿があり、それに対しては先ほど千歌が述べていたように今日のライブではミスらしいミスは殆ど無かったのでそこは素直に正直に千歌は応える。

 

「それは、なんとか・・・・・・ねっ?」

「そうね! ダンスのミスも無かったし・・・・・・」

「そうそう、今まで1番のパフォーマンスだったねってみんなで話していたところだったんだ!」

 

未だに気まずそうな顔のまま、むつ達の問いかけに応える曜、梨子、千歌。

 

「なぁ~んだ。 心配して損した~!」

(アイタタタ・・・・・・! なんだろう、見てて胃が痛くなってきた・・・・・・)

 

それを聞いてか、クラスメイトの面々はほっと一安心した様子を見せ、そんな光景を見ていたレイジは胃が痛くなって来るのを感じてお腹を押さえ、無爪の方も千歌達の表情を見て「お願いだからもう少し察して!」と思わずにはいられなかった。

 

「じゃあじゃあ! もしかして本気でラブライブ決勝狙えちゃうかもってこと!?」

「・・・・・・えっ?」

 

むつがその発言をした瞬間、無理に笑顔を作っていた千歌の表情が一瞬強張ったものへと変化したのだが、そんな彼女の表情に変化には気付かず、話がますます盛り上がるクラスメイト達。

 

「そうだよね! 東京のイベント、呼ばれるぐらいだもんね!」

「あー、そうだね。 だと、良いけど・・・・・・」

「だぁー!! もう我慢できない!! 千歌ねえも、言い辛いのも分かるけど、これ以上黙ってたら余計にみんなに言いにくくなるだけだよ!! あと、よしみさん達も盛り上がらないで、ちゃんと話聞いて!!」

 

流石に、もう見ていられないと我慢の限界だった無爪は千歌にこれ以上東京での出来事を話さなければより一層言いにくくなるだけだと言い放ち、よしみ達にも勝手にあんまり話を盛り上げないでちゃんと千歌達の話を聞いてくれと彼女等に頼みこむ無爪。

 

「あっ、ちょっと、なっちゃん!?」

「えっ? なに? なにか、あったの・・・・・・?」

 

無爪のその様子に、よしみ達は驚き、東京で何かあったのだろうかと頭に疑問符を浮かべていると・・・・・・。

 

「お帰りなさい」

「っ、お姉ちゃん・・・・・・?」

 

唐突に、ルビィに対して誰かが声をかけ、彼女が後ろを振り返るとそこには自分の姉であるダイヤが立っており、ダイヤはルビィに対して慈愛に満ちた優しい笑みを向けると、それを受けたルビィは徐々に目に涙を溜めていき・・・・・・。

 

「うっ、うぅ・・・・・・! うっぐ・・・・・・!」

 

彼女は涙を溢れさせながらダイヤへと抱きついたのだ。

 

「よく頑張ったわね」

「あ、ああ、うわあああああ!!」

 

ダイヤはそんなルビィの頭を優しく撫でながら、彼女を抱きしめ、同時に、よしみ達はそこで千歌が暗く顔を俯かせている姿に気付き、先ほどの無爪の様子もあってそこでクラスメイト達は東京で何があったのかをある程度察することが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

その後、千歌達はクラスメイトと一旦別れ、ダイヤや無爪、レイジ等と共に近くの川辺まで一同はやってきた。

 

「得票、0・・・・・・ですか・・・・・・」

「っ、はい・・・・・・」

 

全員はそこに設置してあった階段に腰かけ、ダイヤは自分の膝の上に頭を乗せながら甘えるような仕草をするルビィの頭を優しく撫でながら、彼女は東京であった出来事の詳しい詳細を千歌達から聞くと、ダイヤはこの結果をおおよそ予想していことだったのか「やはりか」とでも言いたげな表情を浮かべていた。

 

「やっぱりそういうことになってしまったのですね。 今のスクールアイドルの中では・・・・・・。 先に言っておきますけど、あなた達は決してダメだった訳ではないのです。 スクールアイドルとして十分練習を積み、観てくれる人を楽しませるに足りるパフォーマンスもしている」

「あれ? なんか、さっきも同じようなことを聞いたような・・・・・・あの聖良って人が確か同じようなことを・・・・・・」

 

千歌達と共にダイヤの話を聞き、先ほども似たような話を聞いたような気がした無爪は、今日一日の記憶を思い返してみると聖良がAqoursに対して言っていた言葉と殆ど同じ、言い方の問題なだけで少なくとも意味合い自体は同じことを言っていることに気付き、聖良は確かに「ラブライブを目指すなら諦めた方が良い」と厳しめの言葉を残したものの、歌とパフォーマンスについては確かにAqoursのことを本心から評価してくれていた。

 

だが、スクールアイドルについてそこまで詳しくないと言うのもあるのかもしれないが、ダイヤの言うように観てくれる人も楽しませられるくらいの実力があると言うのならば、千歌達の一体何がいけなかったのかと無爪は疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「でも、それだけではダメなのです。 もう、それだけでは・・・・・・」

「どういうことです?」

 

観てくれる人を楽しませられるパフォーマンスだけでは足りない、それだけでは足りない、それは一体どういうことなのかと曜がダイヤに尋ねると、彼女は唐突に「7236」と何かの数字を呟き、それが何を現わした数字なのかと千歌達へと問いかけた。

 

「7236、なんの数字か分かります?」

「ヨハネのリト「違うずら!」ツッコミ早っ!?」

 

善子が答えるよりも早く、鋭いツッコミが花丸に入れられ、そんな2人のやり取りを見て「ふふ」と微笑ましく少しだけ笑うと、ダイヤはその数字が何を意味しているのかを説明しだす。

 

「去年最終的にラブライブにエントリーしたスクールアイドルの数ですわ。 第一回の十倍以上」

「・・・・・・そんなに・・・・・・」

「スクールアイドルは確かに以前から人気がありました。 しかし、ラブライブの大会の開催によって、それは爆発的なものになった。 A-RISEとμ'sによってその人気は揺るぎないものになり、アキバドームで決勝が行われるまでになった。 そして、レベルの向上を生んだのですわ」

 

つまり、厳しめの言い方となってしまうが、シンプルに言えば現在のAqoursのパフォーマンスでは幾ら完璧であろうが、他のスクールアイドル達と比べるとやはり純粋な実力不足ということを意味しており、Aqoursが投票して貰えなかったのも、仕方のないことだとダイヤは言う。

 

「じゃあ・・・・・・」

「そう、あなた達が誰にも支持されなかったのも、『わたくし達』が歌えなかったのも・・・・・・仕方のないことなのです」

「・・・・・・えっ?」

 

さも当然のことのように言うので、危うく聞き逃しそうになってしまったが、先ほどダイヤは確かに『わたくし達』と発言したことに千歌は気づき、「どういうこと?」とでも言いたげな表情でダイヤの方へと彼女は視線を向ける。

 

「2年前、既に浦の星には統合になるかもという噂がありましてね・・・・・・」

 

それは2年前、ダイヤがまだ浦の星学院の1年生だった頃の話・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

『School idol?』

 

当時、浦の星学院の高校1年生だった頃のダイヤは千歌や無爪、曜もよく知っている人物でもある幼馴染みの果南と共に学校を廃校の危機から救うため、一緒にスクールアイドルを始めようと同じく自分の幼馴染みである鞠莉を誘い、学校の教室で勧誘していた。

 

『そうですわ!! 学校を廃校の危機から救うにはそれしかありませんの!!』

『鞠莉スタイル良いし、一緒にやったら絶対注目浴びるって!!』

 

しかし、当時の鞠莉はスクールアイドルについて疎かったこともあり、ダイヤと果南の勧誘を申し訳なく思いながらも謝罪して断ってしまい、彼女は自分の席を立つとそのままどこかに歩き去ろうとしてしまう。

 

『Sorry、そういうの、興味ないの・・・・・・』

 

だが、そんな鞠莉を果南は逃がすまいとペロッと舌を出しながら悪戯っ子のような表情を浮かべると、果南は後ろから飛びつくようにして鞠莉に抱きついて来たのだ。

 

『ハグ!!』

『わっ!? なにするの!?』

『『うん』って言うまでハグする!!』

『ふふ、わたくしも仲間に入れてください!』

 

そんな風に、果南が本当に中々に離してくれなかった上、さらにはダイヤも参加してきた為に、鞠莉はダイヤや果南の熱意に根負けしてしまい、結果、最終的には3人でスクールアイドルを結成することとなったのだった。

 

そして、ダイヤ、鞠莉、果南の3人がスクールアイドルとして活動を始めてしばらくが経った時。

 

千歌達も招待されたあの東京でのイベントに、ダイヤ達もお呼びがかかったのだ。

 

『東京?』

『そうですの! わたくし達が呼ばれたんですのよ!』

 

アイドル部の部室にて、ダイヤが興奮気味に自分達が東京のイベントに呼ばれたことを果南や鞠莉に話していると鞠莉はそんなダイヤに呆れた視線を向け、鼻息が荒くなってしまっていることを指摘した。

 

『ダイヤ、随分鼻息がBerry hot』

『っ! 兎に角チャンスですわ! このイベントで有名になれば、ラブライブが一気に近づきますわ!!』

 

鞠莉に指摘されたからか、自分の鼻を両手で押さえながら恥ずかしそうにしつつも、彼女は東京でのイベントに前向きな姿勢を見せ、3人は東京でのイベントに参加することとなったのだった。

 

しかし・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、歌えなかったのですわ」

 

ダイヤの言うように、彼女達は歌うことが出来なかったのだ。

 

「他のグループのパフォーマンスの凄さと、巨大な会場の空気に圧倒され・・・・・・」

 

他のスクールアイドル達のレベルの高さと、その巨大なライブ会場から感じる空気による強いプレッシャーにより、ダイヤ、鞠莉、果南の3人はライブを行うこと、歌うことすら出来なかったのだ。

 

「何も歌えなかった・・・・・・。 あなた達は歌えただけ立派ですわ」

 

だから、ダイヤは何も出来なかった自分達に比べれば千歌達は歌えてライブを最後までやり切っただけでも十分だと称え、曜はそんなダイヤを見て今まで彼女が自分達の活動を反対していた理由を察することが出来たのだった。

 

「じゃあ、反対してたのは・・・・・・」

「いつかこうなると思っていたから」

 

曜の問いかけに、ダイヤがそう応えると、千歌はファーストライブの時ダイヤに言われたことを思い出した。

 

『これは今までのスクールアイドルの努力と、町の人達の善意があっての成功ですわ! 勘違いしないように!!』

 

あれはきっと、いずれはこういう事態になることが分かっていたから、千歌達に対して言い放った言葉だったのだろう。

 

あの時のダイヤの言葉の意味を、真に理解した千歌は暗い表情を落とし、そんな彼女の表情の変化に気付いた無爪は、何か声をかけようとしたが、何も思い浮かばず、ただ見ていることしかできなかった。

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、海辺の近くで果南は鞠莉の2人は対峙するかのようにお互いに向き合いながら、果南は鞠莉からスクールアイドルを再びやろうと彼女からの勧誘を受けている様子であった。

 

しかし、果南は過去の失敗からか、頑なに鞠莉の誘いを断って撥ね除けてしまい、決して彼女は首を縦に振ろうとはしなかったのだ。

 

「外の人にも観て貰うとか、ラブライブに優勝して学校を救うとか、そんなのは絶対に無理なんだよ!!」

「だから諦めろって言うの?」

「私はそうすべきだと思う」

 

険しい表情を見せながら、果南は千歌達の前では見せなかったスクールアイドル活動に対しての否定的な考えを鞠莉に言い放ち、全て諦めるべきだと主張するが、それでも、鞠莉としては全てを諦めるなんてことは出来はしないと反論。

 

だからか、彼女はかつて果南にハグされてスクールアイドルに勧誘された時の意趣返しなのか、鞠莉は両手を広げて果南に、彼女の名を呟き微笑みながら、ハグを求めてきたのだ。

 

「果南・・・・・・」

「っ」

 

だが、果南の険しい表情は変わることはなく、彼女は鞠莉の横を素通りしてしまう。

 

「誰かが、傷つく前に」

 

そう言葉を言い残して。

 

「っ、私は諦めない・・・・・・! 必ず取り戻すの!! あの時を!!」

 

そのまま立ち去ろうとする果南の背中を、振り返って身体を振るわせて見つめながら、それでも自分は諦めないことを言い放ち、かつてスクールアイドルとして「輝いていた」時の時間を取り戻すのだと、彼女は果南へと宣言するのだった。

 

「果南とダイヤと失ったあの時を!! 私にとって、宝物だった時のあの時を・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

それから、ダイヤの話を聞き終えた千歌達は美渡に車でそれぞれの家に送って貰い、最後に無爪、千歌、梨子が自分達の家の前まで帰宅すると、千歌はしいたけの顎を撫でながら戯れていたのだが、やはり後ろを向いていても千歌に元気がないのは一目瞭然であった。

 

「早くお風呂入っちゃいなよー!」

「うん・・・・・・」

 

美渡に風呂に早く入れと言われ、返事を返してもやはり声に元気はなく、そんな千歌に、梨子は心配げな様子で「大丈夫?」と千歌に尋ねと、彼女は梨子に「うん」と返事を返し、顔だけを梨子の方へと振り向かせる。

 

「うん、少し、考えてみるね! 私がちゃんとしないと、みんな困っちゃうもんね!」

 

そう言いながら、笑顔を梨子や無爪に見せるのだが、やはりというべきか、今の千歌はどうにも空元気といった感じが拭えなかった。

 

「あの、さ、無理しないで千歌ねえ。 僕に出来ることあるなら、言って欲しい」

「えっ、なんか何時もよりなっちゃんが私に優しい!? 変なものでも食べたのなっちゃん!?」

「普段僕が優しくないみたいに言うなよ!?」

 

無爪は少しでも千歌が元気になって貰えるなら、自分に出来ることはなんだってやろうと思い、今の言葉を言ったのだが千歌からは何時もより優しく接してくる無爪に驚き、彼は普段自分のことをどんな風に思ってるんだと少しばかり怒ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

その後、それぞれが自分達の家に帰宅したAqoursの面々。

 

花丸は自分用に買ってきたお土産の饅頭を食べ、ルビィは部屋でダンスの練習、善子は動画配信、梨子はベランダで夜空を眺め・・・・・・それぞれの時間を過ごしていたのだが、やはりと言うべきか彼女等の表情はどこか暗く、その中でも曜は特に何かを思い詰めたような顔をしていた。

 

「・・・・・・」

 

彼女は自分の部屋で、幼い頃の自分と千歌や無爪にしいたけと一緒に映った写真を見つめながら、曜は千歌が美渡の車に乗り込む際、彼女に後ろから問いかけた時のことを思い出していたのだ。

 

『千歌ちゃん・・・・・・』

『んっ・・・・・・?』

『やめる? スクールアイドル?』

 

ダイヤの話を聞いたからか、曜は千歌もかつてのダイヤ達と同じようにスクールアイドルを辞めてしまうのではないかという不安があった。

 

だからか、曜は思わず千歌に対してあんなことを聞いてしまったのかもしれない。

 

結局、千歌は曜の問いかけには応えなかった、というよりも応えられなかったのかもしれないが、今思い返しても自分は親友で幼馴染みでも千歌になんて嫌な質問をしてしまったのだろうかと後悔し、彼女は机の上で項垂れるのだった。

 

「ううぅぅぅん・・・・・・!」

 

そんな後悔の入り交じった唸り声をあげながら。

 

しかし、そのように曜が頭を抱え、悩み混んでいると不意に彼女のスマホから着信音が鳴り響き、彼女はそれに一瞬驚いてビクッとしてしまうものの、こんな時間に誰だろうと思いつつ、スマホをポケットから取り出して画面を見るとそこには「なっちゃん」と名前が表示されており、それは無爪からの着信だったのだ。

 

「なっちゃん? なんだろう、こんな時間に・・・・・・? もしもし?」

 

不思議に思いながらも、曜が通話に出ると「曜ねえ、大丈夫?」どことなく心配げな声色の無爪の声が聞こえてきた。

 

「んっ? なにが? どうしたのなっちゃん?」

『曜ねえ、さっき千歌ねえに言ったこと、後悔して今頃『うーんうーん!』って言いながら唸ってるんじゃないかなって思って電話したんだけど』

「えっ? あははは。 なっちゃんにはお見通しかぁ。 流石私の弟でもあるね」

 

一瞬、今の自分の状況をほぼピタリと言い当てられたことで少しばかり困惑した曜だったが、流石は昔から自分達と一緒にいる弟分の無爪だと考えることで納得。

 

「それで心配してわざわざ電話してきてくれたの?」

『まぁ、そんなところ。 でさ、曜ねえが千歌ねえに言ったことなんだけど・・・・・・。 曜ねえはさ、千歌ねえにただ『辞めない!』って言って欲しかっただけなんでしょ?』

「それは・・・・・・」

 

それはダイヤにスクールアイドル部を認めて貰えなかった時やAqoursのファーストライブの時で体育館を満員にしなければいけないという鞠莉の難題を押しつけられた時、曜は無爪と共に「じゃあやめる?」「諦める?」と問いかけたことがあった。

 

しかし、その都度千歌は「やめない!」「諦めない!」と応えて最後までやり遂げてくれた。

 

だから、今回も曜はその時と同じように思わずあんなことを聞いてしまったのかもしれない。

 

結局、彼女は今回は何も応えてはくれはしなかったが。

 

『僕も曜ねえと同じ気持ちだから、分かるよ。 きっと曜ねえが言わなかったら、僕が言ってたと思うし。 僕もあの時、千歌ねえには『辞めない!』って言って欲しかった。 結局、千歌ねえは黙ったままだったけど・・・・・・』

「うん・・・・・・」

『『気にしないで』なんて曜ねえに気安く言えないけど、1人で抱え込まないで。 僕やペガもいるから』

「うん、ありがとう。 なっちゃん。 心配してくれて。 そう言って貰えて、ちょっと気は楽になったかも」

 

曜は自分を心配し、わざわざ電話してきてくれた無爪に「ありがとう」とお礼を述べると、2人はもう遅い時間だからということもあり、互いに「おやすみ」とだけ言い合うと、スマホの画面の終了ボタンを押し、通話を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

『えぇ、話しましたわ。 きちんと』

 

その頃、ダイヤは東京でのAqoursに起こった出来事を果南へと報告しており、また自分達がかつてスクールアイドルとして活動し、東京で挫折を味わった時のことを千歌達に話したことを彼女は電話で果南に伝えていた。

 

「そう」

『良かったんですわよね、これで?』

 

果南はダイヤの問いかけに「うん」と頷くと、彼女はダイヤに「ありがとう」とお礼を述べた後、スマホの通話を切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌朝、パジャマにも着替えず、ピアノの上でついうたた寝してしまっていたらしい梨子。

 

しかし、空は曇っているとは言え、僅かに部屋に朝の光が差し込んだことで彼女は目を覚まし、何気なくベランダの外に出てみると梨子は千歌が海の方に向かって歩いているのが見えた。

 

「んっ? 千歌、ちゃん・・・・・・?」

 

千歌の姿を発見した梨子は、彼女の姿を不思議そうに見つめていると・・・・・・なんと、千歌は突然海に向かって走り出し、海の中へと潜って行ったのだ。

 

「千歌ちゃん!!?」

 

それを目撃した梨子は急いでスマホを持って無爪に連絡を入れながら、外へと飛び出し、それと同時に通話に無爪が出たので彼女は慌てた様子で千歌が海に飛び込んだことを報告した。

 

『ふわぁ。 どうしたの梨子さん? こんな朝早く』

「無爪くん!! 千歌ちゃんが、海に飛び込んで・・・・・・!!」

『えっ!?』

 

梨子からの報告を受けた無爪はスマホをベッドへと放り出して部屋を飛び出すと、急いで道をショートカットする為に2階から飛び降りて着地し、2階から飛び降りてきた無爪に梨子は驚きながらも彼女は「無爪くんならこれくくらい出来るか」と即座に納得し、梨子と無爪は互いに頷き合って一緒に海の方へと走っていくのだった。

 

「全く、何してんだよあのバカ千歌ねえは!」

「千歌ちゃーん!!」

「千歌ねえーーー!!」

 

砂浜に到着すると梨子と無爪は必死になって千歌の名を叫び、辺りを見回していると不意に海から「ぷはっ!」と声をあげながら千歌が顔を出し、彼女の姿を見た梨子と無爪はほっと一安心し、胸を撫で下ろしたのだった。

 

「あれ? なっちゃんに、梨子ちゃん?」

「一体何してるの!?」

「なんで海に入ったのかは分からないけど、溺れたのかと思ったわ!! 紛らわしい!! せめて水着着て海入れよ!」

「「・・・・・・」」

 

自分達に心配かけたことを千歌に怒る梨子と無爪だったが、今の発言に対し、千歌と梨子から冷ややかな視線を無爪は送られてしまい、そんな彼女等の視線に気付いた無爪は「今回ばかりはその目は心外なんだけど!?」と反論するのだった。

 

「それよりも! 結局何してたわけ?」

「えっ? あー、うん。 何か見えないかなって」

 

無爪が結局千歌は海に潜って何をしていたのかと尋ねると、千歌曰く、「梨子ちゃんと同じことをしていた」とのことだった。

 

「ほら、梨子ちゃん海の音を探して潜ってたでしょ? だから私も何か見えないかなって」

「それで?」

「うん・・・・・・!」

 

だから、昔自分がやっていたことを真似て海に潜っていたのかと梨子が尋ねると、千歌は梨子の方へと顔を振り向かせて笑みを向けながら頷き、そんな彼女の表情に釣られて、梨子も思わず笑ってしまったのだ。

 

「それで、見えたの?」

「ううん。 何も」

「何も・・・・・・?」

「うん、何も見えなかった」

 

しかし、海に潜ってみたはいいものの以前とは違い海の中に潜っても、今回は何も見えなかったという千歌。

 

「その割に、なんか吹っ切れた感じが見えるけど・・・・・・?」

 

そんな千歌に、無爪は何も見えなかったのになぜそんな色々と吹っ切れたかのような表情をしているのかと問いかけると、彼女は「だからだよ」と無爪に応えたのだ。

 

「だから、思った。 続けなきゃって! 私、まだ何も見えてないんだって。 先にあるものが何なのか。 このまま続けても、0なのか。 それとも1になるのか、10になるのか・・・・・・」

 

右の手の平に組んだ海の水を見つめながら、無爪や梨子に何も見えないからこそ、思ったことを口にしていき、今の自分の考えを無爪や梨子に打ち明ける千歌。

 

「ここで辞めたら全部分からないままだって!」

「千歌ちゃん・・・・・・」

「だから私は続けるよ! スクールアイドル! だってまだ0だもん!!」

 

そう言いながら千歌は右手を胸の前で拳にすると、彼女は「0なんだよ・・・・・・」と小さく呟き、次の瞬間、彼女は僅かに肩を振わせ始めたのだ。

 

それは別に、海で濡れた寒さからでは無い。

 

「あれだけみんなで練習して、みんなで歌を作って、衣装も作ってPVも作って! 頑張って頑張ってみんなに良い歌聴いて欲しいって! スクールアイドルとして輝きたいって・・・・・・!!」

 

そう言いながら、千歌がさらに肩を震わせると彼女は両手で自分の頭を殴るように抑えると、千歌はそこで今まで仲間達に直隠しにしていた本心をようやく吐き出したのだ。

 

「なのに『0』だったんだよ!! 悔しいじゃん!! 差が凄いあるとか、昔とは違うとか、そんなのどうでもいい!! 悔しい・・・・・・!! やっぱり私、悔しいんだよ・・・・・・!!」

 

そう言い放ちながら千歌は一筋涙を流すと、それと同時に雨が降り始め、彼女は本当に、本当に悔しそうに歯を噛み締めていると、そんな千歌を梨子がそっと後ろから優しく抱きしめ、そんな彼女の肩に、無爪が優しく静かに右手を置いたのだ。

 

「良かったぁ。 やっと素直になれたね・・・・・・?」

「人のこと素直じゃないだのなんだの言っといて、自分も人のこと言えないんだから、全く」

「だって私が泣いたら、みんな落ち込むでしょ? 今まで頑張ってきたのに、折角スクールアイドルやってくれたのに、悲しくなっちゃうでしょ? だから、だからぁ・・・・・・!!」

 

涙を流しながら、千歌がこれまでなぜ本心を誰にも言わず隠し続けていたのか、その理由を語ると無爪と梨子は思わず苦笑し、一度2人は千歌から離れる。

 

「バカね? みんな千歌ちゃんの為にやってるんじゃないの!」

「そうだよ。 僕だってそれは分かる。 第一、みんなが何時、どこで! 何年何月何時何十分何十秒、地球が何回廻った時、千歌ねえの為にスクールアイドルやったのさ?」

 

確かに、スクールアイドルをやり始めた切っ掛けを作ったのは千歌だったかもしれない。

 

だが、梨子や無爪が言うようにそれは決して千歌の為に曜も、善子も、ルビィも、花丸も、そして梨子もこれまでスクールアイドルをやってきた訳では無いのだ。

 

「そう、私も・・・・・・」

 

その時、梨子が砂浜の方に顔を向けると、そこには曜、ルビィ、花丸、善子の4人がいつの間にか来ており、彼女等の存在に千歌も気付く。

 

「曜ちゃんも、ルビィちゃんも、花丸ちゃんも、勿論善子ちゃんも!」

「でも・・・・・・」

 

すると、梨子は千歌の両手を握りしめる。

 

「だから良いの! 千歌ちゃんは、感じたことを素直にぶつけて、声に出して!」

「千歌ちゃん!!」

 

そこへ曜、ルビィ、花丸、善子の4人も服が濡れるのもお構い無しに海へと入って千歌、梨子、無爪の元へと集まると(その際善子が足を滑れらせていたりしたが)、梨子は「みんなで一緒に!」と千歌へと声をかけたのだ。

 

「みんなで一緒に行こう! みんなで一緒に・・・・・・!」

「うう、うぅ、うわあああああああん!!」

 

その瞬間、大きな声で泣き始めてしまう千歌。

 

「今から、0を100にするのは無理だと思う。 でも、もしかしたら『1』にすることは出来るかも。 私も知りたいの。 それが出来るか・・・・・・」

「諦めろって言われて、諦めるバカがいるかって見返してやろうよ千歌ねえ。 ジーッとしてても、ドーにもならないからね・・・・・・」

 

梨子と無爪にそう言われ、千歌は未だに目尻に涙ながらも、笑顔を向けて力強く「うん!!」と頷いたのだ。

 

それと同時に、先ほどまで振っていた雨が止み・・・・・・太陽の光が辺り一面に差し込み、こうして

Aqoursは0から、1へとするための新たなスタートラインに立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ、ぐすっ、い゛い゛ばな゛じでずね゛~!! ゼロ゛ざ~ん゛!!」

『確かにそうだけど、お前なぁ』

『ティッシュ、使う?』

 

一方、物陰に体育座りで隠れながら曜に誘われる形で一応ついてきて、様子をこっそりと伺っていたレイジは涙や鼻水を垂らしながら号泣しており、そんなレイジにゼロは呆れ、彼の影を借りて隠れながらペガがティッシュをレイジに差し出していたのだった。

 

『折角来たんだからお前もあそこに加われば良いのに』

「いやぁ、ああいうのは少年少女だけの青春ってやつだと思いますし、僕が出る幕じゃないかなって。  あ、あとありがとペガくん。 ティッシュ使わせて貰います!」

『そういうもんか・・・・・・? んっ?』

 

レイジの中でゼロが彼の言い分に首を傾げていると、その時ゼロは何かに気付いたようでレイジが突然メガネを外すと人格がゼロと入れ替わって立ち上がると、彼はある一定の方向を突然見つめ始めたのだ。

 

『ど、どうしたのゼロ?』

『なぁ、お前あれ見えるか?』

『えっ?』

 

ゼロに言われ、ペガがゼロの指差す方向を見てみるとそこには山の奥の方からただジッと立っているだけの怪獣の姿がいつの間にかあり、それにペガは「うわあ!?」と驚きの声をあげる。

 

『か、怪獣!? 無爪に知らせないと・・・・・・!』

『いや、だが・・・・・・あの怪獣・・・・・・』

 

しかし、不自然なことにその怪獣の身体は半透明となっており、ペガが無爪に連絡を取ろうとした瞬間、怪獣は煙のようにまるで最初からそこにいなかったかのように忽然と消えてしまったのだった。

 

『消えた・・・・・・? なんだったの? あの怪獣・・・・・・?』

『分からねえ。 まるで蜃気楼。 蜃気楼の・・・・・・怪獣、か・・・・・・?』

 

 

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