〜シニガミ〜 アインクラッド最凶のPKプレイヤーと呼ばれた男 作:酒ノ神
「あと7分か…」
先程から何度も確認しているせいか大して進んでいない時間をとてもじれったく感じながら落ち着きなく部屋をグルグル回ったり、座ったりする。
しかしそんな俺の行動も仕方がないと言えば仕方ないことでもあった。
何故ならあと10分で完全なる仮想空間を開発した茅場明彦がリリースするナーヴギア専用ソフト≪SAO≫の正式サービスが始まるからである。
これは従来の画面を通してのゲームなどではなく直接、仮想空間上にステージを作り上げその中で自分が動くことによって成り立つゲームとなっており、この製品を知った時のゲーマー達は興奮のあまり狂喜乱舞したのだという。その興奮はほぼゲームをしない(というよりやる機会がないだけなのだが)俺にも十二分に伝わるほどなのだから相当だ。
とまぁ、そんなこんなで回想しているとついに、サービス開始1分前となったので俺はベッドに横たわり、予め電源をつけおいたヘルメット型のVRゲーム機器≪ナーヴギア≫をスッポリとかぶる。準備が全て完了したのを確認した途端、時計の針が13:00を指したので起動コマンドを唱える。
「リンクスタート!」
すると目を閉じつつもうっすらと見えていた部屋の光が完全に消えて真っ暗になった、かと思えば次の瞬間黒とは対照の白に視界が染め上げられ目の前で視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感をちゃんとナーヴギアに接続できたかを確認する青色の円が次々と端に揃っていく。
どうやら全て揃ったのちに緑色になり別れたところを見ると問題はなかったようである。次にログイン画面でアカウント名とパスワードの入力を求められるが事前にフルダイブ不適合者、通称≪FNC≫かチェックする際に同時にアカウントを作っておき次回からは自動入力するように設定していたので特に手を加えずとも認証成功。
最後に前の方から青色を基調とした線のトンネルが向きをこちらに視界の周りを通り過ぎていく。
俺、唐沢 佑都(からざわ ゆうと)の心ははち切れんばかりの興奮で暴れていた。
#####
青い光のトンネルが過ぎ去ると目の前の景色は白色から石を素材にした壁に四方を囲まれた部屋へと移り変わる。
内装は目の前の壁に扉、右には木製の長机に並べられた各種武器、その隣には身長大の鏡が立てられているといった具合の良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景な部屋だった。
まぁ最初の色々な設定のためだけの場所だろうし当たり前と言えば当たり前なのだが。
そんなことを思いつつ俺、≪krara≫はドキドキ☆ワクワクのキャラリメイクに取り掛かった。
30分後…
熟考しつつ己の理想に近いアバターが完成した。
髪は黒、体は細マッチョでスタイル抜群の八…はあまり好みではなかったので七頭身。極め付けにはリアル世界の美男美女もかくやというほどの整った顔。それは全体的に鋭く凛としたものを感じさせるが一転、笑うと柔らかさが増す、そんなギャップも持ち合わせた傾国の顔面である。
そんな鏡に映った自分の姿に満足しつつ、次は最初に選ぶ武器カテゴリの選択に移る。
種類は片手剣、両手剣、細剣、片手斧、両手斧、短剣、槍、曲刀、棍となっておりそれぞれに長所と短所があるので少し迷いつつもオーソドックスな片手剣にした。こいつの特徴は一言で言えば「万能」である。
というのも攻撃の属性が斬撃、刺突、打撃のうち前から二つの両方を持ち合わせていて、重さも適切なステータスがあれば動きが鈍るほどではなく、なおかつリーチも普通にある、と言った具合のオールラウンドっぷりなのである。故に先ほども「万能」と評したのであるが逆に言えば特に優れる要素があるわけでもなく、いわば俺のような初心者に優しい作りとなっているのだ。
もちろん、玄人が操ればそれはそれで強力無比な武器になるのであろうが。
まぁ、そんなこんなで選び終えて少し振ったり構えたりした後、特にやることもなくなったので扉の方へと向く。
「武器も決めたことだしさっそくプレイしますか!」
そう宣言してから目の前の扉を勢いよく開けた。
SAOは今、また一人のプレイヤーを呑み込んだ。
#####
目を開けると同時に五感に情報が伝わってくる。
頭上を照りつける太陽の熱や吹き抜けていくそよ風、周りで聞こえる喧騒、どこかの屋台からかおる香ばしい匂い、すこし埃を含んだ空気の味…それらが全て一緒くたになって押し寄せてくる感覚がよりSAOへの没入感を大きくし、ますます気が高ぶるのを感じられた。
「取り敢えず持ち物っと…」
はやる気持ちを抑えながら所持品を確認すべく人差し指と中指を揃えながら真下へ少し振り降ろすとチリリーンと鈴のような音がして、全体的に白色のメニューが左右二画面に分かれて目の前の空中に表示される。
そしてそれを操作していくと装備欄を見つけたのでタップして中を調べてみた結果どうやら今装備できるのは≪スモールソード≫という片手剣のみらしいという事が分かった。恐らくこれはスタートしたてのプレイヤーに対する運営の援助なのだろう。
ありがたく装備させてもらいつつ、他の項目もタップして調べてみると所持品は≪スモールソード≫を除くと無し、スキル枠は既に片手剣で埋まっているという感じだった。
取り敢えず確認すべき事は終えたので人々の間を縫うようにしながらフィールドへと向かっていった。
#####
「クッ…!」
遂に残りHPを示すカーソルの色が赤に突入し、焦る思いと共に眼前の敵を睨め付ける。
奴の名は≪Frenzy Boar≫。
ちょうど現実のイノシシを青色に着色したような格好をしてi…、これは向かってくる!
フレンジーボアが足に力を入れる≪溜め≫の体勢に入ったことからそう判断するや否や、ようやっと身についてきたステップによる回避技術を駆使して、飛び込んでくるちょうどそのタイミングに避ける!するとそいつが風をたてながら真横を通り過ぎ、背後の…つまるところケツの部分がガラ空きになったので好機と見て剣を腰の左側あたりに、切っ先を地面に斜めに向けた状態で構える。これはソードアートオンラインの目玉の一つ、≪ソードスキル≫と呼ばれる必殺技を放つための予備動作である。
次の瞬間、やいばの部分がキイィーン…という音と共に半透明の黄緑色に光り出し見えざる力に叩かれるように体が動く。それは通常攻撃とは比にならないくらいの威力を持ってモンスターに迫りそのまま切り抜いた、と不意にモンスターはその姿を停止させ歪ませたかと思うと無数のガラス片に爆散し宙を漂ってそのまま消えてしまった。後には半透明のリザルト画面に取得経験値とコルが表示されるのみである。しかし俺にはそんなものアウトオブ眼中だ。
なぜなら「勝った」のだ!HPは残り僅かと言えども戦いに勝利してここに立っているーーこれが愉悦というやつか…
「クックックッ…」
思わず小さく笑ってしまう。そう、何度も言うがーー
「こいつはスライム相当だぞ?」
…聞こえない、俺は何も聞こえてないし知らない。
近くで同じフレンジーボアと戦っていた赤髪のプレイヤーが何とかヤツを撃破しガッツポーズしたがそれを見ていた黒髪のプレイヤーがスライム相当、なんて言っているのは聞こえないったら聞こえない!
うん!よし!じゃあ張り切って次のモンスター狩りに出かけよう!
#####
青イノシシ狩りに夢中になっているうちに気付けば夕方になっていた。
ステージの奥には無数に円盤のようなものが浮いておりそれぞれ湖のようになっていて下の方から滝が流れている。それが大空に浮かぶ夕日にキラキラと反射していてとても幻想的な風景だった。
安全地帯が近くにあったので入り、中で腰を落ち着けてから改めて景色を眺めていたが案外、SAOをこういう用途で楽しむのもいいかもしれない。こんなの現実じゃ絶対にお目にかかれないしな。
「ゴーン…ゴーン…」
俺が癒されているとふと、遠くから鐘特有の重い音が鳴り響いた。
あれだろうか、「五時になりました。良い子はみんな帰りましょう」的な。
そんな馬鹿げたことを考えていると突然自分の体が青色の光に包まれる。
「うわっ、ちょっ…なんだこれ!」
未知の感覚に思わずパニくってしまうがそんな気持ちとは裏腹に光はどんどん視界を染め上げていき…それが晴れる頃には始まりの街、中央広場へと転移していた。
「…?」
いきなひなぜこんなことが起きたのか分からずとりあえず状況を確認するために周りを見渡してみると、どうやら自分と同じく他のプレイヤーたちも次々とここに転移させられているらしいという事が分かった。
と、するとこれは誰か…いや、運営の意図的な行動なのだろうか。
「まぁ、時間が来ればわかるか」
そこで、初めて余裕が出てきてこれから何が起きるのだろうかと少しワクワクする。
それから数十秒後、広場にはもう人が入りきらなくなるというところで転移の光が消え少し間を置いて空に「Warning」という赤色の横長六角形パネルが表示されそれが上空いっぱいに広がり始めたと思うとその一つ一つのパネルの間から赤い液体が流れ出しみるみるうちに大きなローブ姿の人?をかたどっていった。
フードの奥は暗闇になっており顔は確認できない。そんな風に分析していると突然そいつは喋り始めた。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」
まじか…こりゃたまげたな、まさかこのゲームの開発者が直接出てくるとは…。
しかし、次の瞬間そんな驚きはさらなる驚きによって上書きされるのであった。
「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である」
…は?いや、前半の部分まではもしかしたら不具合についての謝罪とかなのかなって思ったよ?でも聞き捨てならないのが後半だ。”SAO本来の仕様”だって…?
更に話は続けられる。その内容をまとめると以下のような感じだ。
『頂上の第100層ラスボスを倒さないと君たちはログアウトできないよー、あとその間ヒットポイントがゼロになったら現実世界の脳みそはナーヴギアでチンッ♪だからねー!あっ、もちろん外部の手で無理やりナーヴギア引っ剥がすのもやめといた方がいいよー?その場合も同じくチンッ♪やっちゃうからー!」
あ、やばい、なんか殺意湧いてきた。
そんな風に俺が静かにブチ切れていると
「それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え」
とか言われた。
ムカついていたので無視している間も周りのプレイヤーたちはメニューウィンドウを操作してあるものを取り出していく。それは≪手鏡≫だった。
少し訝しみながら反応待ちしてると次々と青い光にプレイヤーたちが包まれすわっ、転移か!?などと思ったが何事もなくまた光が薄れて本人が出てくる。
…いや、よくみると何事もないということもなかったようだ。具体的に何があったかというというとズバリ”顔の変化”である。広場にいた美男美女達がリアルで見るような普通の日本人顔になっている。まさか、まさかとは思うが…。
でも、悲しいかな。大体こんな時の嫌な予感は現実のものとなってしまうものだ。そう、俺の顔もリアルのものに…
(青い光に包まれ中…)
はい、戻ってしまいました。
これでカヤバカへのヘイトも更に膨れ上がりましたよ、え”え”!”!”
だって…だってそこそこ時間かけてメイキングしたんだよ!?それを数秒で全て水の泡に返したヤツを断じて許してはならない!
「......以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る」
そう言い終わるやいなや赤ローブのアバターは中身がなくなるように崩れ落ちていき…消えた途端空が夕方の黄昏色へパッと戻る。
しかし声をあげるものは誰一人いない、今この状態を少しでも崩せばその瞬間先ほどの宣告が本物になってしまうかとでもいうように。だか、思いに反して静寂の均衡はいともたやすく崩れ去った。
「い、やぁ…!」
一人の少女が耐えかねたのかバランスを崩し後ろの男に当たる。それは静かな中ひどく大きな音となって広間に響き渡り…
「ふ、ふざけんなぁっ!!!」
「ここから出せよ!!」
「このあと予定があるんだログアウトさせろォォッ!!!」
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
その様子はまさに阿鼻叫喚。
先ほどとは打って変わった状況に戸惑い、怯える者。
怒りに震え、感情のまま叫ぶ者。
耐えきれず泣き出す者。
何も考えられずに呆然としている者。
それぞれの様子は違うが全員、負の感情で心が埋め尽くされているのは共通していた。
「茅場晶彦ぶっ殺す!!!」
俺もその阿鼻叫喚に便乗して一声、そう叫んだあとおもむろにフィールドに向かって走り出す。あいつを倒すためには強くならなければいけない、そして強くなるためにはレベルとテクニックがなければいけない、その為には戦わなければいけない!怒りのままにそう結論を出したのだ。
そしてやがて町の門を抜け目の前に広がる草原の中続く一本の道を駆けて抜けていく。すると突然、目の前に狼のモンスターがポップする、がそんなものは俺を止める障害にすらならず俺は足を動かしながらシャリンッ、と音を立てつつ剣を滑り抜き片手剣ソードスキル≪レイジスパイク≫の構えを取った後、スキル発動時に合わせて前に踏み込む。するとその刃はより強力なモノとなってモンスターの頭部を貫き、無数のガラス片へと変えた。その後表示される取得経験値とコルを表示したウィンドウに目も向けずひたすら、只ひたすらに前へと進んだ。
そう全てはーーー、
ーーー茅場晶彦をぶっ殺す為にッ‼︎‼︎
読んでいただきありがとうございます。
本当は他の作品(黒歴史)の反省を踏まえて最後までストーリーを考えるべきかと思っていたのですがどうしても衝動に耐えきれず投稿しちゃいました。
自分の忍耐力はあてにならない(確信)
まぁ、それでも完結だけはさせようと思っているので(フラグじゃないよ!)これからも付き合っていただければ嬉しく思います。
それではこのへんで。