それから半年の事は、記憶にボヤがかかった様にあまり覚えていない。
ただ、修行にのめり込み、引き取ると言ってくれた水影さまの申し出を断わり、孤児の為の支給金を貰って生活していた。
「なんか…野菜しか食べてないからお金が貯まるな…」
『そりゃあ、食費が殆どかかってねぇしな。…特に、この半年は買い物する間も惜しんで修行に明け暮れて水影が心配してたぞ。』
この半年、度々訪ねて来ていた水影さま。
何かに取り憑かれたように修行する私を、泣きそうな目で見ていた事は覚えている。
「まぁ、そのお陰で家にある巻物の術は全部覚えた。
次は…螺旋丸か飛雷神かな?やっぱあると便利そうだし。」
『お前…昨日徹夜で幻術無効のお守りと無限収納作ってたろ?
いいかげん少し休め。』
「でも、趣味みたいなものだし…」
『いいから休め。尾獣命令だ。』
「分かった…」
私は、あのカオスな木の下に座り、鱗粉で梨を取った。
「ん、やっぱり美味しいね。」
一口含むと、水分と共に爽やかな香りが鼻に抜ける。
シャリシャリとした果肉も楽しく、自覚が無いうちに疲れて余計な力が入っていた体から力が抜けていく。
「レナちゃん、此処にいたのか。」
話しかけてきたのは、3代目水影様。
水影の衣装を来て、ゆったりとした動きで私の方へとやって来た。
…後ろに誰かいるのが気になるが。
背丈や足の細さからして子供が2人だろうが…。
「水影さま、お久しぶりです。」
と言っても、1週間程だが。
「あぁ、久しぶりだね。
…今日は、お友達を連れてきたんだ。ほら、出ておいで?」
水影さまの後ろから出てきたのは、私と同じ歳頃の男の子2人。
1人は水色の着物を着た切れ長の目をした長い茶髪の男の子。
もう1人は、アッシュの髪と紫の目、左目下の傷が特徴の背が小さめの男の子。
…ウタカタと、やぐらだ。
「ウタカタです。」
「…やぐらだ。」
「うずまきレナです。」
「では、儂は執務があるでな。3人、仲良くな。」
そう言い残し、水影さまは立ち去った。
「「「……。」」」
『お前ら…全員人見知りってどういうことだ。』
重明からツッコミが入るが、私達は喋れないでいる。
いや、硬直していると言った方が正しいだろう。
『あ、全員コミュ障だ。だめだこいつら…。』
「…リンゴ、食べる?」
「食べる。」
「うん。」
私は羽根を広げ、リンゴの収穫へと向かった。
このリンゴを食べた2人が人が変わったように喋るようになり重明から驚かれたことから、この日の出来事はリンゴ事件と言われている。