サーヴァント達の家族になりたいだけの人生だった。 作:Fabulous
『妹よ、噂は本当でした。聖女がっ、聖女が現れたのです。我らの女神が!』
届けられた手紙の文面はいつもの冷静沈着な男とは思えないほど興奮が滲み出ていた。少女にとって手紙の送り主である男は自慢の兄であった。フランスでも有力な貴族の当主でありフランス軍で一軍を率いる立場として現在もイングランドと戦っている。
そんな時に届けられた手紙の内容は少女の住む地でも噂になっている聖女の事だった。
それから更に幾日か経った後また少女の下に兄から手紙が届いた。
『私はこれよりオルレアン包囲戦にジャンヌと共に向かいます。心配は無用です。私には最愛の貴方と救国の聖処女が付いているのですから。』
どうやら聖女の名はジャンヌ・ダルクと言い、彼女に兄は甚く心酔していることが手紙の文面から伝わってくる。
少女は兄の無事を祈る手紙をしたため送付した。もっとも、兄からの手紙がここに届いているということは書かれた日から既に何日も経過しているはずだがそれでも大好きな兄の無事を案じたかった。
それから更に幾日か経った後また少女の下に兄から手紙が届いた。
『やりました。遂に勝利しました。我ら聖女のお陰です!ですが戦いはまだ終わりません。これより私達はパテーへと進軍しイングランド軍を迎え撃ちます。』
少女は兄の無事と勝利に喜んだが同時に自身のお陰と記されていないことに不満だった。少女としては若干の聖女ジャンヌに対して嫉妬を抱いてしまっていた。
それから更に幾日か経った後また少女の下に兄から手紙が届いた。
『妹よ。まずはお詫びをさせてください。手紙を読みました。貴女も私の身を案じて下さっていたのに自分の事ばかり記してしまいましたね。貴女の思いもしっかりと私を守ってくれました。その証拠にパテーの戦いも勝利で飾ることが出来ました。巷では私の事を救国の英雄と持て囃していますがとんでもありません。真の英雄はジャンヌ・ダルクなのです。そもそも彼女は……』
そこから先はジャンヌ・ダルクについて何ページにも渡って記されているので少女は読むのを止めた。
少女は気づいた。兄がジャンヌに恋をしていることに。昔から女性にあまり興味が無い兄がこれほどまでに女性に熱を上げているのは単に心酔しているだけではないのだろうと女特有の感性で気づいたのだ。
少女は未だ見ぬ義姉に思いを馳せながら兄に祝勝の便りを出した。
それから更に幾日か経った後また少女の下に兄から手紙が届いた。
1430年5月23日
手紙の日付は何故か震えているようにのたくった文字で書かれていたが文面を見た少女は目を見開いた。
『ジャンヌが……ジャンヌが……あぁあぁああ!!!何故!何故!何故!私はジャンヌと別れてしまったんだ!!私があの場にいたならば!?どんな事をしても彼女を救い出したのに!!彼女はどうなってしまうのだ!!!イングランドは……彼女を……いったい……いったい……■■■■■■■■■』
そこから先は意味不明の文字の羅列が書き殴られていた。
少女はどんな返事を送ればいいのか分からなかった。いったいどんな言葉で兄を慰めればいいのか全く分からなかった。ただただ兄と一度も会ったことの無いジャンヌ・ダルクに起こった不幸に涙を流すほかなかった。
気づけば兄から最後の手紙が届いてから数か月経ってしまっていた。
兄は突然家に戻ってきた。
ようやく帰ってきた兄に早く会おうと駆け寄った少女はまたも言葉を失った。
兄は目はぎろりと見開き眼下にはどす黒い隈が浮き出て何日も寝ていないようだった。
元々痩せぎすな少女の兄だったが剣を振るう立派な騎士だった。だがそこに立っていたのはとても元帥の栄誉を賜った男ではなかった。
心配する少女を他所に少女の兄は自室へ引き籠り一切の接触を断ってしまった。
その日を境に少女の兄は人が変わったように奇行を繰り返すようになった。
自室で突如叫びだしたり急に何かを思い立ち家から飛び出し何日も経った後に傷だらけで戻り心配した少女を怒鳴り散らすなど正しく異常だった。
1431年5月30日を過ぎると少女の兄の異常性は遂にタガが外れた。
怪しげな集団を自宅に招き何かを行っているようになり益々少女は兄の精神状態を心配した。
中でもフランソワ・プレラーティと名乗った女?が少女は一番嫌いだった。彼女は兄に度々進言しその仲は只の友人とは言えないほど親密だった。少女は兄の変質が彼女のせいだと考え少女の兄の目の届かない所でプレラーティを呼び出しに二度と自分たち兄妹に会うなと啖呵を切った。
しかし少女にとっては一世一代の勝負事をフランソワ・プレラーティは一笑に付し告げた。
「フフフ♪大好きなお兄ちゃんに近寄る危ない女の子に嫉妬かな?可愛いね。でもでも、そういう余計なお節介が人を破滅させるって覚えた方がいいよ。……すぐに……たぁっぷりと分かるよ。」
その時のプレラーティの表情を少女は一生忘れなかった。
ある日の事だった。数年ぶりに少女の兄が少女の自室に訪れた。最近の少女の兄はますます狂気を帯びその風貌も次第におぞましさを感じる程だったが久しぶりに自分から兄が話しかけてくれることに少女は感激し扉を開けた。
開けてしまった。
「やあ我が最愛の妹よ。我が盟友がこう言っていましてね。『近くの存在に目を向けろ』とね。流石フランソワ、確かにその通りでした。貴女は……貴女は……彼女に似てますね……少し……ほら……まるで少年のようだ……ねぇ……妹よ?」
その瞬間少女の世界は地獄に変わった。
少女は自室のベットに拘束されていた。何度も声を振り絞り兄に止めるよう縋ったが聞く素振りすら少女の兄は見せなかった。
「何故泣くのです。私は貴女を愛しているのですよ。これは私の愛です。しっかりと受け取りなさい。」
兄がゆっくりと近づきこれからされることを想像し青ざめていると窓の向こうに人影が見えた。少女は助けを求める為悲鳴を上げると人影がこちらに近づいてきた。
助かった―――
そう思ったのも束の間、少女の瞳は絶望に染まった。
窓の向こう側にいたのはフランソワ・プレラーティだった。
彼女は少女の事を笑顔でじっと見つめていた。
少女はようやく気付いた。あの女に嵌められたと。しかし最早全てが遅かった。
少女はそこから考えるのを辞めた。
「ああ血が出ていますね。必然とはいえ痛々しい。......ふむ......妹の血とは言えそれほど味は変わりませんね。おや......これは何ですか?血ではありませんね。我が妹ながらなんと浅ましい......市井の女ならば今ので火あぶりですよ。」
「よい光景ですよ。私の愛が貴女の中に満ちている。快楽と苦痛は鏡のようなものです。願わくば貴女も私のところに来てください。私達兄妹で聖女を迎えましょう。」
「おはようございます。今日も私の愛を、彼女への愛の証明を見届けてください。プレラーティが言うには貴女も立派な素質を持っているそうで。喜ばしいことです。貴女も聖女の血肉の一部となるのですから。」
「え?もうやめてほしい?......いけませんね実にいけないいけないいけないいけないいけないっいけませんね!!!」
「痛いですか!...それはいい!彼女もあなたのように苦しみながら死んだのです。彼女の苦役を共に体験することはとても幸運なのです!!幸運なのです!!!!」
「やあジル♪調子はどうだい。」
「おおフランソワ!未だ聖女は降臨なさらぬが最近は実に充実していますよ。」
「それって妹さんのお陰かな?かな?かな?」
「ええその通りです。しかし、そろそろあまり好き放題は出来ませんね。全ての指は潰しましたし四肢は既に捥ぎ取りました。両目もくり抜き全身余すところ無くむち打ち切り刻み焼き尽くしましたので流石に死んでしまいますね。はてさて、次はどうすべきか。いっそ腹を裂いて閉じるなど、あるいは他の体を接合させてみますかね。ご安心なさい。いづれも無垢な肉ですので貴女にピッタリだと思いますよ。材料は腐るほどありますからね……おお!神よ!どうかこの哀れな我が妹をお救いたまへ!お救いたまへ!」
「アハハ流石ジル!貴方のそういうところ私好きだよ。ならさぁ私から提案なんだけどさ、新しい魔導書を作って君にプレゼントしようと思ったんだけど急に作っちゃったから表紙が無いんだよね。だからさぁ......ね?」
「なんと!なんとなんとなんとなんとぉ!それは素晴らしい。フランソワからの贈り物を我が妹で包み込む。これ程ロマンチックで冒涜的な行為は無いぃ!是非!早速今すぐに取り掛かりましょう!!!」
「マスター、私は救われてはいけない人間なのです。決して赦されてはいけない。例え聖女が、主が自らが慈悲をくれようとも、私と言う魂は永遠に、最後の審判が来ようとも過ぎようとも煉獄で焼かれ続けるべきなのです。
本来なら何かを願うことすら厚かましい私の願いは......救済です。無論私ではありません。私の最愛の妹......いえ、今の私は彼女を妹と言う資格すらありません。それでも私は彼女を救いたいのです。この手で地獄に突き落としたものとして、私は妹に安らぎを与えるのです。そしてそのあと、私は死ぬのです。」
「マスターどの、我が妹に是非お会いしていただきたい。彼女も貴方に会いたがっておりますゆえ。何処にいるのかと?これはこれは申し訳ありません。妹は内気ですのでいつも私の陰に隠れてしまうので困ってしまいます。此方ですよ。我が妹です。ほら、貴女もご挨拶なさい。……失礼、脳は帽子に舌はボタンにしましたので上手く喋れないのですよ。普段はローブの中に仕舞い肌身離さず持ち歩いております。おやおや、吐いてしまわれましたか。大丈夫ですか?聖女にもお見せしたら貴女のように粗相をされましてね。そうです良いことを思い付きました。これからもう一人の私にも見せに行くつもりです。着いてきますか?」
プレラーティに激励されたい人生だった。