学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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作者のお盆休みを生け贄に捧げ次話を召喚!

という事で早めに更新できました。

尚、作者は遊戯王をGXまでしか見てないのであしからず。



第十二話 そして二人は家族となる

 あの夜から数日が過ぎ、修行が始まってちょうど一週間が過ぎた。

 

 二人の修行は毎日続いていたが今日は少し様子が違う。

 修行というのは毎日続けるのが望ましいが、肉体的負担も考慮しなければならない。

 

 本日は星露の取り決めにより一週間に一度の休息日だ。

 ただ、休みとはいえリング型煌式武装は取り付けたままであるが。

 

 今日は朝から村に行くこともない。休日分の食料は前日に多めに貰ってきているからだ。

 それ故、星露が作った朝食を食べた後の行動はいつもと大きく異なる。

 

 具体的に言うと、今日は朝から勉強漬けである。

 

「……意外だな」

「何がじゃ?」

 

 八幡の呟きに星露が疑問を返す。

 

「アスタリスクに入った生徒は鍛錬や修行ばっかりで、勉強なんて殆どしないと思っていた」

「ああ、そのことか」

 

 八幡が手元の参考書から目を離し、生じた疑問を隣にいる星露に問いかける。

 納得がいったのか星露が答える。

 

「アスタリスクには六つの学園があるのは知っておるな。それら六校は三年掛けて行われる星武祭、正確には星武祭の本選に出場した選手のポイントによって覇を競っておる。勿論、順位が高いほど貰えるポイントが高いぞ。そして三年毎に六校のポイント順による順位付けを行っておるわけじゃ」

「なるほど。だが星武祭と勉強はあんまり関係ないと思うが……もしかして星武祭以外でもポイントって入るのか」

「正解じゃ。定期試験の点数によって各学校にポイントが配布されておる。じゃが星武祭よりポイントが少ない故、重視しておる学園は少ないがな。実質アルルカントの独占状態よ」

 

 アルルカント・アカデミーは所属する生徒が実践クラスと研究クラスに分かれており、研究クラスの落星工学の技術は世界でもトップクラスである。徹底した成果主義を奉じる校風で、研究クラスの発言権が圧倒的に強く、他校の序列制度が特に重要視されていない学園だ。

 

「そこ、間違っておるぞ」

「……ええと、ここか?」

「そうじゃ。そこは使用する公式が――――」

 

 星露の指摘に従い間違いを直していく。

 

「……数学が苦手と聞いておったが、案外理解は早いではないか」

「そうなのか?」

「うむ、この分なら近いうちに平均点ぐらいはいけるじゃろう」

「……星露の教え方が上手いからな。俺でも普通に理解できる」

「ふふん、儂に感謝するがよいぞ♪」

「はいはい、ありがとな」

 

 胸を張る星露の頭を軽く撫でる。

 そこからしばらく勉強の時間が続いた。

 間違っている所や分からない所を星露が指摘し教えていき、八幡の勉強は進んでいく。

 

 朝から始まった勉強は昼食の時間を挟んでなお続き、気付けば時刻は夕方になっていた。

 

「さて、儂は夕飯の準備をしてくるぞ。準備が出来るまでは勉強しておれ」

 

 そう言うと立ち上がり台所に向かう星露。

 

「……星露」

「何じゃ?」

 

 その背中に八幡が話しかける。

 顔だけ振り向いた星露に八幡は言う。

 

「話がある……少し時間を貰えないか?」

「分かった……寝る前でよいか?」

「……ああ」

 

 軽い口調で話す二人。

 だが両者とも分かっていた。

 

 これから始まるのは一つの区切りであり……両者にとって大切な話であることを。

 

 

 

 

 

 

 その後の行動は普段と変わらない。

 二人でご飯を食べ、二人で食器を洗い、二人で温泉に入った。

 

 そして

 

「ほれ、お茶じゃ」

「ありがとう」

 

 星露から湯呑みを受取る。受取った湯呑みを口に含み一口飲む。

 

「……上手い。いいお茶だな」

「そうか?……ふむ、中々の出来じゃが暁彗には及ばぬな」

「暁彗?界龍序列二位の覇軍星君の事か?」

「そうじゃ。あやつの淹れる茶は上手いぞ。機会があれば飲んでみるとよい」

「そう……だな。その時は頼んでみる」

 

 始まりは穏やかに。

 

「さて、話があると聞いたがどんな要件じゃ?」

「……例の件だ」

「ふむ、では答えを聞かせてもらうとしようか」

 

 八幡は星露を見る。

 

「その前に一ついいか?」

「よいぞ。言うてみよ」

 

 少しだけ躊躇う。だが聞かない訳にはいかない。

 

「……俺にどれだけの価値があるか知りたい」

「価値とな?」

「ああ、今の俺の実力……そしてあの時の実力がどの程度で、それがどれだけの価値を生むか知りたい」

 

 星露は少し考え込む。

 

「……現状の実力はそれなりといった所じゃな。分かっているじゃろうが、今のおぬしの星辰力はあの時の一割にも満たぬ。それでも並みの星脈世代よりは遥かに多い星辰力を持っておるがな。能力はまだ未熟で剣術とてブランクがある……そうじゃなぁ、界龍では序列20から30といった所か。そして……」

 

 星露が言葉を一旦区切る。

 

「……あの時のおぬしなら序列一位クラスで間違いないぞ。儂とあれだけ渡り合える者はアスタリスクとてそうはおらん。儂以外となると『時律の魔女』と『孤毒の魔女』ぐらいじゃろう」

 

 二人の魔女の名が挙げられた。その中の一人の名は聞き覚えがあった。

 

「孤毒の魔女というと前回の王竜星武祭の優勝者だったか。確か名前は……」

「……オーフェリア・ランドルーフェン。無尽蔵の星辰力と瘴気を操る能力を持っておる。ただ、その制御が出来ず常に毒素を周囲にまき散らしておるがな。アスタリスクで儂と互角に渡り合えるのは彼奴ぐらいじゃ」

「制御できないのか?」

「おぬしとある意味似ておる。強すぎる能力はその制御が難しいからの。まあ、孤毒の魔女の場合はおぬしと違い制御できぬじゃろうがな」

 

 それは気になる物言いであった。

 

「制御……できないのか?俺の場合は修行すれば制御できるんだろう。ならそいつだって」

「アレは通常の星脈世代とは違う存在じゃからの。詳しく話してもよいが聞きたいか?」

 

 その問いに八幡は首を横に振る。

 

「……いや、止めておく。本人の問題を他の人から聞くのは違う気がする」

「そうか……話が逸れたが、あの時のおぬしをスカウト共が知ったら間違いなく欲しがるじゃろう。例えおぬしがどんな条件を出そうともな。それだけの価値がおぬしにはある……これで満足か?」

「ああ……」

 

 八幡は深呼吸をする。

 深く、深く、呼吸を行い、人生の岐路に対して決断を下す。

 

「星露。君の家族になろう……ただ」

「ただ、何じゃ?」

「……条件というか、お願いがあるんだ」

「ほう。詳しく聞かせてみよ」

 

 八幡は考えた。自分がいなくなるのはいい。いなくなった所で悲しむ人などいないのだから。

 ただ、残してきた妹の事は心配だ。例え憎くても最愛の妹のなのだから。

 

 だから、兄として妹への最後の贈り物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 八幡は己の望みを言う。それは大きく分けると以下の内容になる。

 

 一つ、比企谷八幡を引き取る代わりに、比企谷家に金銭を授受すること。

 二つ、比企谷小町をアスタリスクの推薦対象から外すこと。

 三つ、比企谷小町が界龍第七学園に入学することを希望してもこれを拒否すること。

 

 上記の三つだった。

 星露は呆れながら八幡に言う。

 

「優しいの、おぬしは。己のためではなく全て家族のためとは。儂はおぬしが家族のことを憎んでいると思っておったぞ」

「……そういう気持ちがないといえば嘘になるな。だけど、あの人達もある意味被害者だと思うんだ」

「ほう」

 

 八幡は思う。この世の中の風潮にこそ根本的な原因があるのではないかと。

 

「今の世の中は統合企業財体の思うがままだ。利益が最優先でそれ以外は蚊帳の外。企業の大半はブラック会社で、世の中の人達は安い給料に少ない休日で働いている人達ばかり。俺の両親だってそうだ」

 

 星露は頷く。

 

「だから、両親があんな行動に出るのはある意味正解だと思う。子供の為を思えば、アスタリスクに行かせるのは必ずしも間違ってはいない。そう思うんだ」

 

 確かにそれは間違っていない。アスタリスクに行き良い成績を挙げれば将来は安泰だ。だからこそ、世の中の星脈世代の大半はアスタリスクを目指す。

 

「それは理屈の上での話じゃな……八幡よ、おぬしはそれで納得できるのか?」

「世の中には星脈世代というだけで捨てられる子供も多いと聞く。その子たちに比べれば俺はマシな方さ。違うか?」

「……確かに間違ってはおらんの。アスタリスクには捨てられた者や居場所のなくなった者も多い」

「憎い気持ちもある。やるせない気持ちもある……だけど家族なんだ。愛情を注いでもらった時期もあるし、育ててもらった恩もある……だから頼む」

 

 八幡が深々と頭を下げる。星露は少し考え返事を返す。

 

「……条件を飲む前に幾つか質問させてもらってよいか?」

「ああ」

 

 星露が右手の人差し指を挙げる。

 

「金額が幾らかは後で決めればよいが、界龍傘下の企業におぬしの両親を紹介してもよいぞ」

「紹介?」

「そうじゃ。俗にいうコネというやつじゃな。仕事が楽で給料がよい会社は幾らか紹介できよう。どうじゃ?」

「……いいのか?」

「構わんよ。先程申したであろう。どんな条件でも出すと。その方がおぬしも安心するじゃろう?」

 

 八幡は考える。

 

「…………分かった。両親さえよければそれで頼む」

「では、そのように手配しておくぞ。さて次じゃ」

 

 星露が右手の中指を挙げる。

 

「おぬしの妹である比企谷小町はそれほどの実力者か?」

「いや、今のアイツの実力は大したことはない。それは俺が一番よく知っている……だけどあいつは今後伸びる。そんな気がするんだ」

「それは根拠あっての事か?」

「……ただの勘だ。だけど不思議と外す気がしない」

「ふむ、よかろう。ただし儂が干渉するのは界龍のみじゃ。他の五校に関しても出来ぬことはないが、儂が動きすぎると余計な注目が集まりかねない。その結果、比企谷小町に注目が集まるのはおぬしの望む所ではないじゃろうからの」

「ああ、分かった」

「そして最後……」

 

 星露が右手の薬指を挙げる。

 

「よいのか?そこまで拒絶しなくてもいいと思うがの」

「……いいんだ。あいつは闘うのが嫌いだからアスタリスクに来ることはない思うが、念のためだ……俺がいない方がアイツは幸せになれる」

 

 自分の所為で妹には苦労を掛けた。それに幸せになれるというのも嘘ではない。普通の人生を送るのなら今後の自分には近づかない方がいい。そう八幡は確信している。

 星露は溜息を一つつく。

 

「ふぅ、三つ目の条件も受けよう。では、準備をしてくるので暫し待っておれ」

 

 そう言い残すと星露は席を外した。

 壁に掛けられた古時計の針の音だけが響く部屋の中、一人残された八幡は呟く。

 

「……………これでいいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 八幡の目の前に一つの書類が置かれた。長々と文章が綴られているが主な内容は先の条件通りだ。

 文章の最後に二か所名前を記入する箇所がある。一つは八幡の名前を書く所。もう一つは両親が名前を書く所だ。

 両親のサインは八幡がサインした後に代理人が貰いに行くという。実質、八幡がサインをした瞬間に効力を発揮するといっていいだろう。

 つまりこのサインがされたとき、比企谷八幡の名はこの世から消える。

 そして、范星露の家族になることが公式の記録として残ることになるのだ。

 

 八幡はペンを取りサインする場所へと腕を近付ける。その動きに淀みはない。

 自身の心が落ち着いているのを八幡は感じた。自身の心に乱れがないことが不思議なほどだ。書類の少し上空で動きを止める。

 

 目を閉じ思い出す。

 たった一人の妹のことを。

 

 ―――――おにいちゃんばっかりずるいよ。

 

 あの日泣いていた妹を。

 

 

 ―――――おにいちゃ~~ん

 

 満面の笑みでこちらに駆け寄る妹を。

 

 

 ―――――お兄ちゃんが推薦されるのに相応しいか、私が確かめてあげる!!

 

 泣きながらこちらに襲い掛かる妹を。

 

 

 ―――――おに……い……ちゃ……ん

 

 自らが傷付けてしまった妹の姿を。

 

 

 愛している。憎んでいる。その両方の気持ちがせめぎ合う。

 二つの気持ちは拮抗しており、天秤がどちらに傾くのかは今でも不明なままだ。

 分かっているのは、これ以上妹の傍にいれば傷つけてしまう事。それだけは間違いない。

 

 だから

 

「……幸せになれよ、小町」

 

 比企谷八幡は自らのサインを書類に記入した。

 そして書類を星露に渡す。

 

「確かに受取った。契約内容は万有天羅の名に懸けて必ず果たそう」

「……ああ、頼む」

 

 星露は八幡の前に右手を差し出す。

 

「まあ、その、何じゃ……これからよろしく頼むぞ、八幡よ」

 

 頬を少し染め照れながら話しかける星露。そんな彼女の右手を握り返しながら軽い感じで八幡は言った。

 

「ああ、よろしく頼むぞ。妹」

 

 八幡の返事にきょとんとした表情を浮かべる星露。

 しかし徐々に実感が込み上げてきたのか、満面の笑みを八幡に見せる。

 

「……そうか、妹になるのか。この儂が。ふむ、悪くないの……ではおぬしの事は兄上と呼ぶべきか?」

「まあ、好きに呼ぶといいさ。八幡でも兄上でも好きに呼んでいいぞ」

「ふふっ、ならばよい呼び方を考えねばならんのう」

 

 笑い合う二人。

 その様子はとても仲が良く、しかしまだ何処かぎこちない。

 

 これからの二人が、どのような歩みを見せるかまだ誰にも分からない。

 

 しかし賽は投げられた。

 

 万有天羅に家族が出来た事がばれれば混乱は必須。

 

 アスタリスクに衝撃が走ることは間違いない。

 

 

 范星露は比企谷八幡を欲し彼を求めた。

 

 比企谷八幡はそれに応え比企谷の姓を捨てた。

 

 

 そして比企谷八幡は范八幡となり

 

 

 

 二人は家族となった。

 

 

 

 




多分、賛否両論になるであろう今回の話をお届けしました。

范八幡になることはプロット段階で決まっていたので予定通り。
八幡が比企谷の姓を捨てる理由付けが納得出来てもらえればよいのですが……

しかし今回の話は5000文字でしたが、凄く少ない感じてしまう作者は何か基準が狂っている気がする。文字数が少ないため今回は早く更新できたんですけどね。

修行編は後一、二話ぐらいになる予定。

では次回もよろしくお願いします。

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