学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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アスタリスクにいよいよ突入です。

オリキャラがいますが苦手な方はご注意ください。

誤字、脱字、感想等あれば、よろしくお願いします。



第十四話 学戦都市アスタリスク

 前方にそびえ立つ巨大なドーム状の建物を眺める。

 資料によれば収容人数およそ十万人。星武祭の開催期間中はここがギャラリーで埋め尽くされるというのだから驚きだ。

 見通しの悪い一般席でさえ、販売価格二十倍以上の価格でオークションで取引されているという。まさに金の無駄使いとしか言いようがない。だが、世界がそれだけ星武祭に夢中という証でもあるのだろう。

 

「……まあ今日から俺もその一員か」

 

 昔ならアスタリスクに来るなんて考えもしなかった。態々世界中の見世物になるなんて、面倒くさいことする輩の気が知れないと思ったものだ。

 

 しかしこれも何かの因果関係か。はたまた運命とでも呼べばいいのだろうか。

 

 今、比企谷八幡は范八幡となってここに居る。

 

 ここはアスタリスク中央区の星武祭総合メインステージ前だ。時間は正午を少し過ぎた所。さすがに星武祭のメインスタジアムとあって開催期間中でもないにも関わらず周囲は観光客で溢れていた。皆、記念写真を撮っている姿があちこちで見受けられる。

 

「そういや端末壊したままだったな」

 

 元々持っていた端末は陽乃との戦闘中に壊れてしまった。それからは山奥で修行の日々だった為、そもそも必要なかったのだ。星露がいた頃は何かあれば彼女の端末を使用していたし、師匠は端末を所持していなかったのだ。

 

 できれば新しい端末が欲しい所だが

 

「……暇なときに見に行くか。今は案内人が来るのを待ってっ!」

 

 独り言を中断し前方へ跳躍。次の瞬間、今まで居た場所で空を蹴る音がした。

 体勢を整え、着地しながら後方を振り向く。だが既に相手に懐まで侵入されており、その拳が目の前まで迫っていた。その拳に手を添えそのまま後方へ受け流す。だが相手も只者ではない。体勢を流されながらしゃがみ込み下段蹴りを放ってくる。しかし後方へステップする事でそれを躱す。だが相手の攻撃は止まらない。そのまま追撃を仕掛けきた。

 その攻撃を受け止め、ときには流し、そして躱してゆく。最初は小手調べだったのだろうが、相手もムキになっているのだろう。徐々にスピードが速くなっていく。しかし八幡はそれを見事に対処していった。

 幾重にも続いていくそれは、見る人によっては演武のようにも見えたかもしれない。やがて相手が八幡の腕を手に取り―――-

 

「あら?」

 

 そのまま動きが止まった。

 

「……いきなりですね、陽乃さん」

 

 八幡は目の前の人物の名前を言う。襲撃者は雪ノ下陽乃だった。ここにいるという事は彼女が案内人なのだろう。

 

「う~ん。まさか外されるとは思わなかったわ。腕上げたね、八幡くん」

「まあ、それなりに鍛えてきましたから。しかし、いきなり攻撃される覚えはないんですが?」

「テストだよ、テスト。ここじゃ不意打ち、奇襲なんて当たり前なんだよ。特にレヴォルフの連中絡みだと」

「……物騒ですね、ここは。それで、テストの結果はどうですか?」

 

 八幡の言葉を聞き、陽乃は自身の右手を差し出す。

 

「勿論、合格だよ。ようこそアスタリスクへ。歓迎するよ!」

「お世話になります」

 

 八幡もまた右手を出し、二人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、あれからは主に剣術の修行だったんだ?」

「そうですね。ブランクが長かったので基礎から学び直しでした。半日ずっと打ち合いもしたりしてましたし……後は体術を習ったのと、星辰力のコントロール技術の練習をひたすらやっていましたね」

「へぇ~それで私の合気を外せたんだね」

「……以前、それで痛い目に遭いましたから」

 

 二人は再会を祝した後すぐその場を後にした。陽乃の襲撃により周りから注目の的になったからだ。

 丁度時刻が正午を回っていたので、近場にあるハンバーガショップへ移動し昼食を取っていた。

 

「あれから三ヶ月、か。結構かかったね。星露なんか待ちくたびれて、最近元気なかったんだよ」

「……そうですか。これでも結構急いだんですけどね」

 

 八幡と陽乃が最後に会ったのは今から三ヶ月前の出来事だ。暦の上では五月下旬となっており、日中の日差しは少しだけ暑く感じられる日々となっている。

 

「まあ、剣の道は一日にしてならず。星露だって理解してるよ」

「ところで星露はどうしたんですか?今日はアイツが迎えに来るって聞いてたので、てっきりそうだと思ってたんですけど」

「ああ~確かにその予定だったんだけどね」

 

 陽乃は苦笑する。

 

「どうしたんですか?何かトラブルでも?」

「いや、そういうのじゃないよ。八幡くんが来るって分かった星露が、ちょっとはりきりすぎちゃってね」

「?」

 

 陽乃は午前中に起こった出来事を話し始めた。

 

「なぁ、虎峰」

「駄目です」

「……まだ何も言っておらぬではないか」

「この書類を片付けるまで、何処にもいかせません」

 

 星露は目の前に積まれた書類の山を見て……視線をそこから外した。

 

「…………少しやり過ぎただけではないか」

「……門下生を問答無用で鍛錬と称した勝負に巻き込んで全員ノックアウト。挙句、道場を粉々に吹き飛ばしておいてそれですか?」

 

 虎峰の冷たい視線に耐えかねず、逃げるように視線が彷徨う。

 

「……陽乃も同じことをやっておったのだから、儂だっていいではないか?」

「大師姉とは状況が違います。あの人は希望者だけ相手にしただけですし、そもそも道場を破壊などしていません……違いますか?」

「それは……まあ……そうじゃな」

「それに明日は六花園会議です。この書類の中には会議の書類も含まれていますので、今日中に見てもらわないと困ります。いいですね?」

 

 有無を言わさない正論に、さすがの星露も反論できない。

 何を言っても説得は不可と判断し、溜息を付いて諦める。

 

「むぅぅぅぅ。しかたないのう」

 

 

「というわけで、星露は今も書類と格闘中。代わりに私が来たっていうわけ」

「……何やってんですか、アイツは?」

 

 しょうもない理由に思わず脱力する八幡。だが陽乃は優しい笑顔となり、次の言葉を述べた。

 

「それだけ君が来るのが楽しみだったんだよ」

「……………そう、ですか?」

「そうそう。君が来るのが分かってからの星露は本当にご機嫌だったんだから。だから嬉しくて嬉しくて、ついはしゃぎ過ぎちゃっただけだよ。ただそれだけ」

 

 陽乃は星露の様子を思い出す。

 八幡と別れて二ヶ月が過ぎた頃、星露の様子がおかしくなった。何をしても上の空となり元気がなくなった。そして戦っている最中も過激さが欠け、ちっとも楽しそうではなかった。自他ともに戦闘狂と誰もが認めるあの星露がだ。

 

 しかし三日前、八幡がアスタリスクに向かうと連絡があってからの星露は凄かった。途端に元気になり一気にテンションMAXになったのだ。その結果、道場は吹っ飛ぶ事になったのだが。

 

「……安心したよ、私は」

「何がですか?」

 

 安堵の笑みを浮かべ陽乃は言う。

 

「あの人が君と家族になるって言った時は正直不安しかなかったからね。千年以上生きているあの人が君を家族として迎える。最初聞いた時は耳を疑ったよ……でも、今の星露と君を見るとその必要はなかったかな?」

「…………まあ、命の恩人ですから」

 

 そっぽを向く八幡。だがその頬は赤く染まっている為、照れているのが丸分かりだ。

 そんな八幡を見て陽乃はクスリと笑った。

 

「よし。じゃあ食べ終わったら色々案内してあげるね」

「お願いします。ちなみに何処へ行くんですか?」

 

 八幡の疑問に、陽乃は手持ちの端末から空間ウィンドウを開く。そしてそれを指差しながら説明する。

 

「今いる場所が此処、中央区のメインステージ付近だね。とりあえず商業エリアと行政エリアを軽く回って、それから外縁居住区に向かうよ。そして外縁居住区のモノレールに乗って、アスタリスクを一周しながら界龍に向かおっか。モノレールに乗りながらでも、遠目で各学園を見る事が出来るからね」

「分かりました」

 

 因みに、中央区の主な移動手段は地下鉄が中心となっている。これは学生同士の決闘などが交通機関に影響しないように配慮した結果だ。

 

「じゃあ、行こっか」

「はい」

 

 そして二人は食事を終え、街へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 二人はその後まず商業エリアへと繰り出した。大きなデパートから小さな個人店まで、主に学生の人気店などを中心に、そして陽乃のお勧めの店などを歩きながら紹介していった。

 

 次に向かったのが行政エリアだ。此処には役所関係や統合企業財体のビルなどが立ち並んでいる。

 そして此処にアスタリスクに所属する学生にとって重要な施設が一つある。それが治療院だ。

 治癒系の能力者は極めて少ない。そのためどの学園の生徒でも平等に治療が受けられるよう、協定によってアスタリスク直轄の治療院に集められているのだ。

 

 それらの案内が終わり、気が付けば夕方より少し前の時刻になっていた。二人は外縁居住区へと向かいモノレールに乗り込んでいた。モノレールは環状線になっているため、ずっと乗っていればアスタリスクを一周することが出来る。

 

「さて、今日は軽く回ったけどアスタリスクはどうだった?」

「そうですね。テレビで見た事はありましたけど、やっぱり近未来的な街ですね。外とはえらい違いです」

「まあ確かに、インフラ関係は統合企業財体が力入れてるからね。技術者も世界中からトップクラスが集められているし」

 

 八幡の感想に陽乃は頷いた。

 

「後は観光客の多さでしょうか。星武祭以外でもこんなに人がいるとは思いませんでした」

「今日が祝日ってのもあるけどね。星武祭の時はもっと凄いよ。メインスタジアム付近は人で溢れて観光客が身動き取れなくなるんだから」

「それは凄いですね」

 

 二人が雑談をしている最中もモノレールは進んでいく。遠くには青く広がる湖の姿と正六角形の形をした各学園を見る事が出来た。

 

 話をしながらそれらをゆったりと見学し、再開発エリア付近を走行していた―――その時だった。

 

 

 遠くで発生した大きな星辰力を二人は感じとった。

 

 

「!陽乃さん」

「ええ、分かってるわ」

 

 二人はお互いを見て頷く。

 

「方角はあっちですか?」

「うん。距離は二kmから三kmって所かな?八幡くんはどう感じた?」

「俺も大体そのぐらいですね。しかしこの星辰力は……」

 

 八幡の口が途中で止まる。その理由は陽乃にはすぐ分かった。

 

「行ってみる?私の予想が正しければ見ておいた方がいいと思う」

「陽乃さんがそこまで言うほどですか……じゃあ、行ってみましょうか」

 

 陽乃の提案に八幡は頷く。先程の星辰力の正体が気になったからだ。

 感じ取れたのは一瞬だけだったが、その大きさは陽乃の星辰力をも遥かに超えているように感じられた。

 

「じゃあ、駅に着いたと同時に駆け出すよ。飛べるのは星露から聞いてるから全力で行くからね。遅れずついてくるように」

「……分かりました。まだ陽乃さん程ではないでしょうが、喰らいついて行きます」

「うん、よろしい」

 

 数分後、駅に到着し扉が開くと同時に二人は飛び出した。そして駅の外へ出ると直ぐに空へと翔けその場を後にする。その様子を見た周囲の人達が驚き、離れていく二人の様子を遠目に見ていたのは、まあ当然の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 空を翔け目的地へと急ぐ。上空から見る再開発エリアは、放棄された廃墟の数々というのが大半だ。古いボロボロのビルや潰れたお店が立ち並び、一部はスラムと化しているのが現状である。そしてスラム化している場所では、各学園の退学者や都市外の犯罪者が集まっており、一種の暗黒街と化していた。

 だが、再開発エリアの全部が犯罪者の温床というわけではない。外側に位置する歓楽街は比較的治安が安定している為、スラム化している一部に乗り込まなければそれほど危険ではないのだ。

 

「……そろそろですね」

「ええ、目的地にかなり近付いたわ。一旦地上に降りるよ。このままだと気付かれちゃうから」

「了解です」

 

 二人は地上へと降り立ち直に気配を消す。そして小走りに星辰力発生の中心地へと向かう。勿論、音は極力立てずにだ。

 此処までくると星辰力の感知も容易い。感じ取れたのは二種類の星辰力だ。一つは先程感じた巨大な星辰力で、もう一つはそれなりに大きな星辰力だ。

 

 そして目的地に到着し二人が目にしたのは

 

 

「……まだ諦めないの、ユリス?何度やっても結果は変わらないわ」

 

 純白の髪と紅玉の瞳を持ち圧倒的な星辰力を放っている少女と

 

「まだだっ!まだ終わっていない!」

 

 それに相対する碧色の瞳と鮮やかな薔薇色の髪を持った少女だった。

 

 

 八幡と陽乃は気配を消しながら二人から見えない位置へと移動し、遠目でその様子を眺める。

 そして陽乃が八幡に小声で話しかけた。

 

「………どうやら決闘中のようね」

「決闘?学生同士揉めた時にするというアレですか?」

「ええ、そうよ。しかし一人は予想通りだったけど、もう一人は誰だったかしら?冒頭の十二人ではないと思うんだけど、どっかで見た気がするのよね」

 

 陽乃は空間ウィンドウを開き検索を始めた。所属学園は胸元の校章を見ればすぐに分かる。それを対象に上位から検索を開始し、そしてすぐに発見した。

 

「お、あったあった。星導館 序列十七位、ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトか。ああ、なるほど。一時期話題になったあのお姫様か」

「お姫様?」

「ええ、そうよ。ヨーロッパにあるリーゼルタニアって国の第一王女よ、彼女」

「……何でそんなお偉いさんがアスタリスクに?」

「別に珍しくないよ。ガラードワースやクインヴェールなんかは、貴族のご子息やご令嬢なんかがいっぱいいるし、確か他にも王族はいたはずよ」

「なるほど」

 

 そう言うと、次はお姫様の対戦相手に注目する。

 

「あっちの方は言わなくても分かるよね?」

「はい。オーフェリア・ランドルーフェン。前回の王竜星武祭の覇者ですね」

「そう。孤毒の魔女の二つ名で呼ばれる史上最強の魔女。オーフェリア・ランドルーフェン。アスタリスクでも最強格の一人よ。勿論、もう一人は星露だけどね」

「……どっちが強いんですか?」

 

 興味本位に尋ねてみる。その質問に陽乃は深く考えた。

 

「……どうだろう?個人的には星露の方が強いと言いたいけど何とも言えないね。少なくとも、私にはどっちが強いのかは分からない」

「そうですか……」

 

 話し込む二人。だがその間にも二人の少女の決闘は続いていた。しかし、どちらが優勢かは日の目を見るよりも明らかだった。

 

「咲き誇れ―――九輪の舞焔花!」

 

 ユリスの掛け声と同時に九個の火炎が生まれ、それぞれ異なった軌道で相手に襲い掛かる。

 

 しかし

 

「あらら、これまた凄いわね」

「防御する素振りすらなしですか。しかも無傷とは……星露と一緒ですね」

「あれ?八幡くんも身に覚えがあるの?」

「ええ、修行中に同じ事がありましたよ。アレは精神的ダメージが大きいですね」

「同感。アレをやられると凄い敗北感があるのよね」

 

 オーフェリアはただ立っているだけで特に何もしていない。しかし、その身に纏う星辰力と毒素がユリスの攻撃を完全に防いでいた。

 

「……無駄よ、ユリス。あなたでは私の運命は覆せないわ。もう終わりにしましょう」

 

 オーフェリアがどこか悲し気に言葉を放つと同時に、強大な星辰力が膨れ上がった。その膨れ上がった星辰力は何処までも高まり―――それこそ無限に湧き出てくるかのように感じられる。

 そして万応素が荒れ狂い、オーフェリアの足元から無数の腕が出現していた。毒々しい黒褐色の色を持ったその腕は、ゆらゆらと陽炎のように揺れている。

 

 それらを見たユリスは一瞬だけたじろぐ。しかし気丈を保ち彼女は叫ぶ。

 

「私は諦めない!お前が戻ってくるまではな!」

 

 その叫びには何者にも屈しない心の強さが込められていた。八幡と陽乃は思わず感心する。

 

「強いですね、彼女」

「ええ、戦力差は本人が一番分かっているでしょうに。それでも心は屈していない。大した精神力よ」

「でも……」

「そうね……これで終わりよ」

 

 決着はその後すぐだった。

 

「咲き誇れ「―――塵と化せ」

 

 ユリスの能力発動前に、オーフェリアの能力が発動し黒褐色の腕がユリスに襲い掛かる。

 

 そしてそれを防ぐ手段を、ユリスは持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「彼女の具合はどうですか、陽乃さん?」

「う~ん、顔色は悪いけど症状としては星辰力切れで間違いないと思うわ。どちらにせよ治療院に連れて行く必要があるわね」

 

 決闘が終了した後、一人残されたユリスの状態を陽乃は確認していた。流石に放っておくわけにはいかなかったからだ。そして状態を確認した陽乃はユリスを抱きかかえ立ち上がる。

 

「さて、じゃあ治療院へ向かいましょうか」

「分かりました」

 

 行きと同様に、二人は空を翔け治療院へと向かう。その道中、二人は先程の出来事について話し合っていた。

 

「しかし、あれがオーフェリア・ランドルーフェンですか。流石の強さでしたね」

「まあね。今年行われる王竜星武祭でもぶっちぎりの優勝候補よ。私も一応出る予定だけど、今のままだとまともに戦う事すら出来ないわね。能力もそうだけど星辰力の差が多すぎるわ……八幡くんの能力ならいける?」

 

 陽乃が八幡に尋ねる。

 あの時自身が体感した能力を思い出したからだ。相手を拘束してからの能力無効化に星辰力吸収。八幡の能力なら相性はかなりいいはずだ。

 

 しかし

 

「……無理ですね。陽乃さんには話してませんでしたが、俺自身の能力もあの時と比べて大分弱体化してるんですよ」

「え!そうなの?」

「はい。今の俺には、闇を使用して相手の能力を防ぐぐらいしかできません。使用できたとしても多分勝てないでしょうね。俺の能力だって無敵じゃありません。星辰力差で押し切られますよ」

「そっか。結局は其処に行きついちゃう、か。どんなに強い能力を持っていても、星辰力に差があったら意味ないもんね」

 

 そんな話をしながら移動する二人。そして十分後、二人は治療院へと到着した二人はユリスを引き渡した。患者の様子が酷かったので事情を聞かれたが、オーフェリア・ランドルーフェンの仕業と答えたらすぐに納得した。彼女の被害者はいつもこんな感じと言っていた。

 

 ユリスの治療には一日以上掛かるそうだ。これ以上此処に居てもやる事がなくなった二人は治療院を後にした。すると治療院を出てすぐ陽乃の目の前にウィンドウが開く。

 

「あら、通話か。宛先は……水派の子か。八幡くん、ちょっと待ってね」

「はい」

 

 陽乃は少し離れてウィンドウを開き通話を始めた。

 

「はい、もしもし。どうしたの?………うん、なるほど。分かった。すぐに向かうわ」

 

 ウィンドウを閉じ陽乃は八幡の方を向く。

 

「ふぅっ、ちょっとトラブルが発生したみたい」

「何かあったんですか?」

「ええ、ちょっとうちの子たちがレヴォルフの連中と揉め事を起こしたらしくてね」

「大丈夫なんですか?」

「とりあえずうちの方が優勢みたい。ただ、トラブルの場所が歓楽街ってのがちょっと問題でね。あそこはレヴォルフの根城みたいなものだから、相手の援軍が続々と到着してるみたい。放っておくとちょっと不味いかな」

 

 陽乃は少しだけ困ったように言う。

 

「じゃあ、早く行きましょうか」

「いいの?八幡くんは先に界龍に行ってもらってもいいんだよ?」

「まあ、此処まで来たら付き合いますよ」

「そっか。ありがとね。じゃあ、行こっか」

「了解です」

 

 二人は陽乃を先頭に歓楽街へ向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくるね。八幡くんはその辺で観光しながら待っててね」

「俺は行かなくてもいいんですか?」

「大丈夫、大丈夫。感じた限りでは強い奴はいないみたいだから、私だけで充分だよ。あ、そうだ。八幡くん。これ渡しておくね」

 

 陽乃は懐から何かを取り出し八幡に渡してきた。

 

「携帯端末ですか」

「そう。私からのプレゼント。何かあったら連絡して。私の連絡先は登録してあるから」

「はい。ありがとうございます」

「うん。じゃあ、ちゃっちゃと終わらせてくるね~」

 

 そう言うと陽乃は争いの地へと駆け出して行った。

 一人残された八幡は周辺を見渡してみる。

 

 今いる場所は歓楽街だが、その印象は夜の街といった感じだ。日は落ちているが、まるでこれからが本番とばかりに、ビルや店からの照明が辺りを照らしている。周りにはカジノや飲み屋などが立ち並び、従業員が呼び込みを行っていた。

 

 更に周辺に視線を巡らすと一つの店を発見した。

 

「コンビニか……そういやマッ缶が欲しいな。見てくるか」

 

 ここ数ヶ月飲んでいなかった愛用の飲み物が急に欲しくなった。

 此処にあるかは分からないが、暇つぶしに見てみるのも悪くはないだろう。

 

 そう決めると、八幡はコンビニに向かって歩き出した。視界の範囲内にあるその場所に到着するのにはそう時間は掛からない。入口に立ち自動ドアが開いたので中に入ろうとして―――

 

 感じた事のある星辰力が少し離れた場所で膨れ上がった。

 

「……元気だな。陽乃さん」

 

 八幡は特に気にせずコンビニに入っていった。

 奥の飲料売り場のケースを見て回る。

 

「……ない」

 

 コーヒーは売っているもののMAXコーヒーは一つもない。

 しかし一度欲しがると欲求は止まらない。コンビニを出て次の店に向かう。

 

「…………ない」

 

 だが見つからない。店に限らず、通りすがりの自販機も見てみるが全く見つからない。

 

「おい、まじか?全く見つからないぞ。まさか一つもないとかないよな?」

 

 マッ缶がないというのは死活問題だ。通販で仕入れるという手もあるが、外部からの通販は税関を通る影響か時間が掛かる。出来ればアスタリスク内で仕入れる場所を確保したい。

 

「……………って、ここ何処だ?」

 

 ひたすら歩きまわっていた所為か、現在地がどこか分からなくなった。店が少なくなったので、自販機を探し回っていたら大通りを外れ、裏路地に紛れ込んでいた。

 

「とりあえず戻るか。大通りにいけば何とかなるだろう」

 

 明かりの強い大通りへ向かって足を進める。

 

 

 細い裏路地を抜け、光が強い大通りへと抜けた所で―――

 

 

 前方から女の子が飛び込んできた。

 

「おっと」

 

 ぶつかりそうになったので慌てて受け止める。

 

「すまん。大丈夫か?」

「は、はい。こちらこそ申し訳ありません」

 

 目の前の女の子が頭を下げてきた。外国人だろうか。金色の髪が特徴で、幼い顔立ちから年は八幡より下だと思われる。

 

 しかし一番印象に残ったのは別の事だった。

 

「!失礼します」

 

 よほど慌てているのだろう。こちらに謝罪した後、すぐ八幡が出てきた裏路地へと走り去ってしまった。

 

 そんな少女の様子を見て八幡は疑問を感じた。

 

 

 ―――少女が何かから逃亡しているように感じたからだ。

 

 

「あの校章。クインヴェールか?見た感じ、いい所のお嬢様っぽかったが」

 

 立ち振る舞いの良さから一般家庭の出身とは思えなかった。少し見ただけでも気品らしきものを感じ取れたからだ。

 しかしそれ以上に気になるのは、そんなお嬢様がこんな場所にいる事だ。歓楽街が再開発地区の中で比較的治安がいいといっても限度がある。クインヴェールのお嬢様がこんな場所にいるなど、他者から絡んでくれと言っているようなものだろう。

 

「おい!いたか?」

「いねぇ!どこ行きやがった!」

「もっとよく探せ!」

 

 周囲に人が集まってきた。レヴォルフと思わしき学生や、それより少し年上のガラの悪い輩。チンピラ集団と言っていいだろう。そららが複数集まってきては、お互いに叫びながら走り回っている。

 彼らの会話を耳にし八幡はぽつりと呟く。

 

「……あの子目当てか」

 

 目的が先程の少女だと推測した。理由は分からないが、連中から逃亡しているのは間違いないだろう。

 しかしあの少女も星脈世代だ。動きから察するに、目の前の連中程度に捕まるとは思えないので大丈夫だとは思うが。

 

「なぁ、兄ちゃん」

 

 突如、声を掛けられた。

 

「……何ですか?」

 

 振り向きながら声を掛けてきた男を観察する。

 

「ここら辺でこんな子見なかったか?」

 

 目の前に写真が差し出された。そこに写っていたのは幼い顔立ちで金髪の少女の姿。紛れもなく先程の少女だった。

 

「……見ましたよ」

「お!どっち行った分かるか?」

 

 武術をやっていると色々と分かる事がある。相手の立ち振る舞いを見れば素人かどうかの判断は容易いし、ある程度の実力を察することもできる。

 

 目の前の男は強者だ。少なくともあの少女が勝てないほどの。

 

 だから

 

「あっちの大通りを走っていきましたよ。何だか凄い勢いでしたけど」

 

 しれっと嘘を付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 少女は今日の出来事を後悔しながら走っていた。

 気分転換に妹と一緒に二人で中央区へ遊びに来た。そこまでは問題はなかった。

 しかし、暫くするとレヴォルフの連中に絡まれたのだ。ただのナンパかとも思ったがすぐに違うと判断した。

 

 目的は自分達姉妹の身柄だ。

 

 それを理解すると同時に二人で逃げ出した。しかししつこく追いかけられるうちに歓楽街へと追い立てられ、妹とは逸れてしまった。そして今、自身も追い詰められつつあった。

 

「はぁっはぁっはぁっ」

 

 歓楽街はレヴォルフやマフィアの根城だ。どれだけの人数が追手として来ているか分からない上、道にも迷ってしまった。

 

「……行き止まりですか」

 

 入り組んだ通路の先は廃ビルに囲まれた広場が広がっていた。しかもその先に繋がる道はなく袋小路になっている。背後から複数の足音が迫る。

 

 ここまでかと戦闘の準備に入ろうとするが

 

 

 いきなり後ろから口を塞がれた。

 

 

「っ!うぅっ!!?」

「静かに」

 

 耳元で男の小さな声が響く。と同時に何らかの札が周囲に置かれた。

 

「……じっとしてろ」

「…………」

 

 その声に有無を言わさないものを感じ、思わずこくりと少女は頷く。

 

 そして後方から複数の男たちが姿を表す。

 

 だが

 

「おい!いねぇじゃなえか。本当に見たのか!」

「間違いねぇよ!こっちに走ったのを見たんだって!」

「けどいねぇじゃなぇか!出鱈目ばっかり言いやがって!」

 

 目の前で男たちが喋っている。だがこちらに気付いていない。こちらは姿を隠していないのに存在だけが男達から消えているようだ。

 

「おい。目標の一人を別グループが確保したってよ」

「マジかよ!?こっちも早く探すぞ!」

「ああ!一人頭数千万なんて美味しい仕事だからな!」

 

 そして男達は再び何処かへと走り去っていった。

 

「…………行ったか。すまんな、急に押さえたりして」

「……いえ、助かりました」

 

 男が少女から手を放し話しかけてきた。少女は振り返り男の顔を見る。

 

「あなたは先程の……」

 

 男は先程大通りでぶつかりそうになった相手だった。

 

「………どうして助けてくださったのですか?」

 

 少女は警戒を怠らない。少なくとも目の前の男が連中とは違うのは分かる。けど理解できない。

 

「あなたが悪い人でないのは分かります。けど、初対面の人を信じる事も出来ません」

 

 今は周囲が敵だらけだ。目の前の男を信じたいが、完全に信じ切るのも危険だ。

 この男が連中の仲間の可能性を捨てきれないからだ。

 

 それに対し男の答えは

 

「…………気まぐれだ」

「……え?」

 

 適当だった。

 

「単なる気まぐれ、親切の押し売り、困ってそうだった、放っておけなかったから。好きな理由を選んでいいぞ」

「えぇ、と」

 

 少女は困った。助けられた理由をこちらに振られるとは思いもしなかった。

 

「こっちが勝手に助けただけだ。恩に着せるつもりもないし、別に気にしなくてもいい。それに……」

「それに?」

 

 男は言葉を一区切りし、そして断言する。

 

「人から信用されない事に関して、俺以上に秀でたものはいない。だから信用なんてしなくていいぞ」

 

 妙に捻くれた結論だった。

 

「何ですか、それ?」

 

 こちらを信用させるどころか、信用なんてしなくてもいいと断言するその物言いに、少女は思わず苦笑する。だが少女は理解する。

 

 目の前の男の人は不器用だけどとてもいい人だ。本当に善意だけでこちらを助けてくれたのだと。

 

「……あなたは優しい人なのですね」

「そうか?そんな事言われたことないが」

 

 少女は男を信用することにした。その言葉に嘘がないと判断できたからだ。

 

「改めて、助けてくださりありがとうございます。私、グリューエル・ノワール・フォン・リースフェルトと申します。グリューエルとお呼びください」

 

 少女は一礼し男に挨拶する。

 

「范八幡だ。こちらは、まあ好きに呼んでくれ。リースフェルト」

 

 男、八幡もまた少女に挨拶をする。

 

「グリューエル、です」

「…………分かった。分かったからそんなに詰め寄らないでくれ、グリューエル」

「はい!」

 

 詰め寄るグリューエルに押し切られ、名前で呼ぶことになった。

 

「はぁ、それでこれからどうする。あいつらの話だと一人捕まったと言っていたが、誰だか分かるか?」

「……妹です」

「…………そうか。なら絶対に助けなくちゃいけないな」

 

 八幡の口調が固くなる。同じ妹がいる身としては色んな意味で見過ごすことが出来ない。

 

「ですが、妹のいる場所が分かりません。どうすれば……」

「そうだな。とりあえず逸れた場所に行って、それから――――」

「どうかなさいましたか?」

 

 八幡は口を噤み通路の方へと首を向ける。すると程なくして人が二人侵入してきた。

 

「八幡様!」

「下がってろ」

 

 グリューエルを後ろに隠す。

 

「探したぜお嬢ちゃん。それにそこに居るのはさっきの兄ちゃんか。よくも騙してくれたな」

「こんなとこまで逃げるとはなぁ。追いかけるほうの身にもなれってんだよぉ」

 

 現れたのは二人の男だ。年は両者ともに三十くらいだろうか。

 一人は黒色のスーツを着た金髪の男。先程八幡が会った男だ。口調は丁寧だが相当お怒りのようだ。

 もう一人は浅黒い肌に無精ひげ。カーゴパンツにTシャツのラフな格好をした男だ。気だるそうにこちらを見据えている。

 

 二人とも身のこなしは鍛錬を積んだ者特有の動きで、かなりの使い手と思われる。

 

「……八幡様」

 

 八幡の服の裾を掴み不安な瞳でこちらを見上げる。

 

「大丈夫だ。何とかなるさ」

 

 そんなグリューエルの頭をそっと撫で、八幡は前に出る。

 

「兄ちゃん一人か。騙してくれたケジメはとってもらうぜ」

「二対一なんて全然楽しめねぇなぁー」

 

 八幡の抵抗の意志を感じ男二人は煌式武装を起動する。一人は洋風の片手剣。もう一人は大振りのナイフだ。

 

 二人が煌式武装を構え、戦闘に入ろうとした。

 

 

 その時だった。

 

 

「大変そうだね。手、貸そうか?」

 

 一人の少女の声が侵入者たちの後ろから聞こえた。

 

「何!」

「!」

 

 男たちの驚ろき後ろを振り向く。無理もない。戦闘態勢に入った自分達に気付かれず、背後を取られたのだから。これが実践なら成す術もなくやられていた。警戒するのは当然の事だ。相手が少女だからといって油断出来るわけがない。

 

 そしてそれは八幡も同様だ。

 

「…………必要ない」

「あれ?そんなに警戒しなくてもいいんじゃないかな?一応、助けに来たつもりなんだけど」

「……美人局には気を付けろというの親の教えなものでな」

「う~ん。それは困ったな~」

 

 少女は大きめの帽子を深く被っている。栗色の髪を無造作に束ね、服装はジーンズにゆるめのブラウスと少し地味目な印象だ。

 

 しかし八幡は警戒を緩めない。何しろ声を掛けられるまでその存在にまったく気付かなかったのだ。自分以上の実力者が都合よく助けに来てくれる展開を信じるほど、八幡は子供ではない。

 

 しかし、そこにグリューエルが八幡に声を掛ける。

 

「八幡様。あの方は味方です」

「知り合いか?」

「……はい。私の予想が間違っていなければ」

「……そうか。分かった」

 

 グリューエルの言い方に疑問が残るが、とりあえず信じることにする。

 

「すまんが、一人任せてもいいか?」

「お、やっと信じてくれたね。いいよ~」

「……頼む」

 

 不安は残るが正直助かる。二人同時に相手をしても負けない自信はあるが、目的はグリューエルを守る事だ。戦力は多い方がいい。

 

「……話はついたようだな」

 

 八幡達の話が終わるのを見計らって、金髪の男が声を出す。

 

「どっちをやる?」

「俺は女の方をやる。そっちの方がやる気が出るからなぁ」

「じゃあ俺の相手は兄ちゃんだな」

 

 八幡の相手は金髪のスーツの男。栗色の髪の少女の相手は浅黒い肌の男と決まった。

 

「……王竜星武祭の本選出場者二人が、マフィアの使い走りにまで身を落としているとはね」

「へぇ……お嬢ちゃん。オレたちのこと知ってるのかい?そいつは嬉しいねぇ」 

「王竜星武祭セミファイナリスト、元界龍第七学園序列七位、《双蛇》のグエンさんに、同じく王竜星武祭ベスト8、元レヴォルフ黒学院序列九位、《瞬剣》のラインさんでしょ。まさかこんな所で会うとは思わなかったわ」

 

 少女はため息を吐く。

 

「なぁに、昔の話さぁ」

「懐かしい話だな」

 

 二人がそう言うと、場の空気が張り詰める。

 

 それぞれが互いの相手に向き合い―――そして男たちが飛び出した。

 

 

 戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 グエンが牽制するように両手のナイフを放つ。正面から当たるとは思っていない。回避させ相手の隙を作るためだ。

 案の定、少女は放たれたナイフを華麗に回避する。しかしその隙にグエンは少女の間合いに侵入。両手に別のナイフを煌めかせ、少女に襲い掛かる。

 

「しゃぁぁぁっ!」

 

 気合一閃。左右から繰り出される猛攻が少女を襲う。

 

 ――――が。

 

「ふぅん、こんなものか」

 

 少女はその猛攻を、片手で軽々と捌いていた。

 

「なぁ―――!?」

 

 グエンの顔が驚愕に歪む。

 

「う~ん。やっぱり見たことないよね、彼」

 

 少女は、グエンの猛攻を捌きながら八幡の方に視線を向けていた。

 そんな少女の態度にグエンは怒りの感情を爆発させる。

 

「どこ向いてやがる!」

 

 怒りの感情に身を任せ、再度グエンが少女に襲い掛かる。

 

 だが

 

「只者じゃないのは間違いないね。動きから察するにかなりの使い手。最低でも冒頭の十二人クラスの実力なのは間違いないかな」

 

 その攻撃を回避しながら、それでも少女は八幡の観察を止めなかった。それだけの余裕が彼女にはある。

 

 グエンにとってはこれ以上ないほどの屈辱だ。

 

「は、はははは!やるじゃねぇか、お嬢ちゃん!こうなったらオレも本気でぇ!」

「―――ううん、もう十分だよ」

 

 怒りの感情に支配されていたグエンは冷静さを欠いていた。回避に専念していた少女が突如攻撃に転じたのに対し、虚を突かれ反応出来なかったのだ。

 

 一瞬の間に背後に回り込まれ、背中から蹴りを叩きこまれる。

 

「っ!?」

 

 声も出せないまま吹き飛ばされたグエンは廃ビルの壁に激突し、ビルに無数のひびが刻まれた。そしてグエンは己の状態を理解できぬまま気絶した。

 

「……全盛期のあなたが相手だったら、こんなに簡単にはいかなかったでしょうね」

 

 残念そうに少女は呟く。しかしすぐに八幡の方に向き直る。

 

「さて、じっくり見させてもらいますか」

 

 少女の興味は范八幡に注がれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 金髪の男、ラインが掲げた剣を振り下ろす。その太刀筋は真っすぐだがスピードは遅い。八幡はその太刀筋を完全に見切っていた。余裕をもってそれを回避しようとし―――

 

「!」

 

 突如嫌な予感を感じ、それに従い反射的に身体を動かす。そしてその予感は正しかった。

 

「ほう。よく躱したな、兄ちゃん」

 

 ラインの剣を八幡はギリギリ躱していた。剣が振り下ろされる途中で瞬時に加速したのだ。通常の太刀筋では起こりえない、明らかにおかしな現象だった。何らかのトリックがあるのは明白だ。

 

「……瞬剣か。なるほどな」

 

 少女が言った男の二つ名を思い出す。瞬間的に剣が加速し相手を倒す剣。二つ名の由来はそんな所だろう。

 ラインは楽しそうに八幡に話しかける。

 

「俺の剣を躱す相手は久しぶりだ。楽しませてくれよ!」

 

 ラインが八幡に再び襲い掛かる。八幡はそれに対し回避行動に専念し相手を観察する。剣の初動はよく見える。だが軌道の途中で不自然な加速が行われている。剣の軌道を予測し大きめの回避でそれらを躱す。

 振り下ろしにはサイドステップ、横薙ぎの一撃にはバックステップ。相手の動きを、特に剣を振るう腕周辺を念入りに観察する。

 

 そして気付いた。

 

「星辰力を一瞬だけ腕に集中してるのか」

「!見抜くか。ただもんじゃねぇな」

 

 ラインの動きが止まる。

 

「剣を振るう途中でほんの一瞬だけ腕の星辰力が増えている。初動の遅さに対応しようと動かした身体に、瞬間的に加速した剣がそれを襲う。そのスピードの落差で相手の反応が遅れる。そんな感じですか?」

「………正解だ。初見で見抜かれるのは初めてだよ」

 

 どうやら推測は当たっていたようだ。

 

「だが、タネが分かった所で問題はねぇ。これを攻略できなければ勝ち目はないからな。さて、どうする?」

「…………」

 

 ラインの言葉を受け考える八幡。手がない訳ではない。

 だが今は自身の戦闘よりも気になる事があり、そちらに注目していた。

 

 そこで辺りに轟音が響き渡る。

 栗色の髪の少女の相手、グエンが廃棄ビルへと激突した音だ。これ以上戦闘を続けるのは不可能と思われる。

 

「おいおい、グエンの奴がもうやられたってのか!何者だよ、あのお嬢ちゃん!?」

 

 八幡も同意見だ。突如現れた少女だがその実力は圧倒的だった。何しろ王竜星武祭の元セミファイナリストを歯牙にもかけないのだ。しかもまだ全然本気を出していないと思われる。

 

 相手の猛攻を片手だけで捌く技量。背後に回り込んだときの俊敏な動き。そして軽い蹴りに込められた星辰力の量。

 

 八幡は星露との修行中に座学も行っていた。その内容は一般教養の他に、星仙術や戦闘に関する事も含まれる。そしてその中には、各学園の冒頭の十二人の戦闘データのチェックというのもあったのだ。

 

 八幡と年の近い少女。年頃から考えるとどこかの学園の生徒だろう。自身の感覚を信じるなら、最低でも雪ノ下陽乃クラスか、下手をしたらそれ以上の実力者。動きも戦闘データの中で類似する人物がいた。

 

 そこまで条件が揃えば推理するのは簡単だ。

 

「……何でこんな所にいるのやら」

 

 ぽつりと呟く。少女の正体に見当がついたのだ。

 髪の色は違えどその声には聞き覚えがある、否、ありすぎた。

 

 

 ―――――彼女の歌声は八幡にとって数少ない癒しだったのだから。

 

 

 その件の少女がこちらに歩み寄り声を掛けてくる。

 

「こっちは終わったよ。そちらはどうかな?」

「……もうすぐ終わる」

 

 八幡が返事を返す。だがその物言いはラインには挑発に聞こえた。

 

「言ってくれるな、兄ちゃんよ。なら見せてくれや!」

 

 ラインが八幡に斬りかかる。グエンを倒した少女が乱入する前に八幡を倒す必要があるからだ。速攻でケリを着けるべく、一気に距離を詰め確実に仕留めようとしてきた。

 

 男の剣が加速し八幡へと振り下ろされる。

 

 だが

 

「!?」

 

 剣が八幡の頭上10cmの距離で動かなくなり、ラインの動きも硬直し一瞬だけ止まった。

 そして、その隙に間合いを詰めた八幡の拳がラインの鳩尾にめり込んでいた。

 

「ぐぅっ!?……やっぱ……ただもんじゃ……ねぇな……兄ちゃんは」

 

 その台詞を最後に、ラインはその場に崩れ落ち気を失った。

 

「お見事。いい闘いだったよ」

 

 少女が感心したように手を叩く。

 

「……どうも」

「近接戦闘もさることながら、それ以上に能力の使い方が良かったね」

「……何のことだ?」

「……ま、惚けるならそういうことにしといてあげる」

 

 少女には最後のやり取りはお見通しだったようだ。

 ラインが剣を振り下ろす際に、一瞬だけ能力を使用し相手の動きを止めた。ほんの一瞬だった為バレないと踏んだが、どうやら考えが甘かったようだ。

 

「八幡様!」

 

 グリューエルがこちらに駆け寄ってきた。

 

「ご無事ですか?お怪我はありませんか?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 心配するグリューエルに無事を伝える。するとその言葉にグリューエルも安堵し、笑みを見せた。

 

「さてお二人さん。ちょっといいかな?」

 

 そんな二人に少女が声を掛ける。そして悪戯っぽく微笑み、そのしなやかな指を上に向けた。

 

「色々聞きたいことがあるんだけど、ここじゃ何だし――――ちょっと場所を変えよっか?」

 

 

 

 

 

 

 

 三人はその後、近くにある廃ビルの屋上へと上がっていた。

 頭上には満天の星。地上は周囲に廃墟が多いため暗闇が広がっている。

 

「ごめんね。急いでるっぽいのに時間を取らせちゃって」

「それは、こちらにご協力して下さると受取ってもよろしいのでしょうか?」

「詳しい内容を聞かせてもらえればね。出来るだけの協力はするよ」

「……分かりました」

 

 グリューエルは話し始めた。

 自分と妹が見知らぬ連中に襲われ狙われていること。そして妹とは逸れ、自身も危ない所を八幡に助けられたことを。

 

「……そっか。そんなことになってたんだね」

「お願いします。妹を助けるのに協力してください」

 

 グリューエルは頭を下げ、目の前の少女に協力を求める。

 

「いいよ。ただ、一つだけ約束してほしいんだけど……いい?」

「約束ですか?」

 

 少女が何を要求してくるか、八幡には分かる気がした。

 

「俺たちは君とここで会わなかった。当然、これからの起こる事は秘密で誰にも喋らないこと。そんな所か?」

「!」

「……驚いた。その通りだよ」

「そのぐらいならいくらでも約束する。だから頼む」

「八幡様……」

 

 八幡も頭を下げて少女に頼み込む。

 

「八幡くん、だっけ……君にも聞いてもいいかな?」

「何だ?」

 

 少女には気になる事があった。

 

「八幡くんはこの子の知り合い?」

「いや、さっき初めて会った」

「ならどうしてこの子を助けるの?初対面の、言ってみれば赤の他人のためにそこまでする理由は何?」

 

 少女は真剣な表情で八幡に尋ねた。紫の瞳が強い視線となって八幡を見詰める。

 その言葉にはグリューエルを気遣うものが感じられ、八幡も真面目に答えることにした。

 

「……俺にも妹がいる。いや、この場合いたと言うべきかな。ああ、言っておくが死んだわけじゃないぞ。いわゆる家庭の事情というやつだ」

 

 脳裏に浮かぶ一つの姿。自分の所為で傷つけてしまった最愛の妹。

 

「妹を守るのは当然のことだ。その為だったらいくらでも協力するさ」

「……八幡様」

「……そっか。うん、分かった。ごめんね、余計なこと聞いて」

「気にするな。知り合いなら心配するのは当然のことだ」

「話すのは初めてだけどね。この子。ううん、この子たち姉妹は色々と特殊な事情があるから」

「……そうか」

 

 気にはなるが問うことはしない。

 リースフェルトという名字からある程度事情も察せられるし、他にも色々とありそうだから。

 

「さて、探すのはグリューエルちゃんの妹、グリュンヒルデちゃんでいいんだね?」

「はい」

「なら大丈夫かな。あの子のこともそれなりに知ってるから。じゃあ始めるから地図を用意して。歓楽街のできるだけ大きいものを」

 

 八幡は携帯端末を取り出し地図を表示させる。そして空間ウィンドウを操作し画面を最大まで大きくした。

 

「よし、じゃあいくよ―――」

 

 少女は帽子を脱ぎ、まとめていた髪を解く。そしてヘッドフォン型の髪飾りに触れると、その髪の色がゆっくりと変化していった。

 

 

 栗色から瞳と同じ色――――鮮やかな紫へと

 

 

「……やっぱりか」

「気付いてらっしゃったのですか?」

「何となく、な」

 

 気付かないわけがない。顔を見るまでもない。その声を、その歌声を、忘れたことなど一度もないのだから。

 彼女のことはデビュー当時から知っていた。その歌声に魅了され、少ない小遣いで買いに行った覚えがある。

 

 照れくさくて本人には絶対に言えないが。

 

「……シルヴィア・リューネハイム」

 

 その名を呟く。呼ばれたシルヴィアは八幡とグリューエルへ微笑む。そして羽を広げるように大きく両手を開いた。

 

 

 ―――――歌が響く

 

 

 シルヴィア・リューネハイム

 

 クインヴェール女学園生徒会長にして、序列一位。

 《戦律の魔女》の二つ名を冠する、前《王竜星武祭》準優勝者。

 

 世間には至高の歌姫、または世界最高のアイドルと等と呼ばれており、知名度の面に於いては《孤毒の魔女》よりも有名である。

 

 その能力は―――万能。

 

 歌を媒介することにより、自身のイメージを様々に変化させることが可能だという。ただ、唯一の例外として治癒能力は扱えないらしい。

 

 星露も彼女の実力は高く評価していた。

 

 

「思考と記憶の黒き御使いよ、我が前に舞い降りて疾く示せ――――」

 

 シルヴィアの歌が終わる。すると地図の上に二枚の黒い羽が旋回し漂い始める。二枚の羽はそのままくるくると回転をしていたが、その円が徐々に狭まっていく。

 

「ここは―――最悪ね!」

「あの、ヒルデはどこに?」

「………私の記憶が正しければ、この辺り一帯はマフィアの支配地域よ。それもこの歓楽街でもかなり大きな勢力の」

「そんな!何とかならないのですか!?」

 

 グリューエルが叫ぶ。それに対しシルヴィアは苦しげな表情で答える。

 

「……難しいわね。確たる証拠がなければ警備隊も踏み込めないし、私の能力ではそもそも証拠にならないわ」

「じゃあどうしたら!!」

「なあ、リューネハイム。一ついいか?」

 

 話し合う二人に八幡が口を挟む。

 

「例えばだが、そのマフィアのいる場所で騒動が起こったらどうだ?外部から見て明らかに異常事態が起こったら。そうすれば警備隊は踏み込めないか?」

「それは……そんな事態になったら踏み込めると思うけど」

「ならいい。だったら手はある」

 

 八幡は断言した。

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、やっと繋がった!八幡くんどこにいるの?何度掛けても繋がらないし、あちこち探したんだから!』

「陽乃さん……すみません」

 

 大声を上げる陽乃。だが八幡の顔を見た途端に、彼女は冷静さを取り戻す。彼の表情から異常事態を察したからだ。

 

『何があったの?』

「陽乃さん。俺に力を貸してくれませんか?」

 

 そして二人は合流することにした。詳しい状況を知らなければならない以上、その方が都合がいいからだ。

 最初に別れた歓楽街の入り口に八幡は戻り陽乃と合流した。そして裏路地へと入り二人は話し合う。

 

「さて、詳しい話を聞かせてちょうだい」

「はい」

 

 八幡を説明した。

 クインヴェールの女の子を助け、マフィアの追手と戦闘になった事。そして、彼女の妹の場所が判明し助けたいという事を。

 

「……君はトラブルに愛されてるのかな、八幡くん?」

「言わないでください……考えないようにしてるんですから」

 

 呆れる陽乃に苦笑しかできない。

 

「いいよ。力を貸してあげる……どうやって妹さんの場所が分かったとか、色々と突っ込み所はあるけど、聞かないであげる」

「……助かります」

 

 陽乃は自身の携帯端末を取り出し通信を始めた。

 

「ただ、一人だけ話を付けなきゃいけない人がいるよ。まずはそこからだね」

「分かってます」

 

 そして通信先の相手へと繋がり、空間ウィンドウが表示された。

 

『おお、陽乃よ。待っておったぞ』

「仕事は終わった、星露?」

『うむ、さきほど終わったぞ。まったく虎峰のやつめ。師に対して遠慮をというものをしらん』

「ははは、自業自得じゃないの……待ち人に代わるね」

 

 空間ウィンドウがこちらに移動してくる。

 

『……久しいの八幡。三日ぶりか?』

「……ああ」

『うむ、アスタリスクはどうじゃ?と言いたい所じゃが、それ所ではないようじゃの……何があった?」

「分かるか?」

『儂を誰と思うておる?そのぐらいは一目で分かるわ。いいから言うてみい』

 

 一目で看破された。相変わらずこの新しい妹は察しが良すぎる。

 

「………女の子を一人助けたいんだ。その子はマフィアの連中に追われていたけど、何とか助けることができた。だけど、その子の妹がマフィアに捕まってる……力を貸してほしい」

『なるほどの。陽乃!』

「聞こえてるよ~」

『応援はどれだけいる?もし人手がいるのなら儂が行ってもよいぞ?ちょうど暴れたかった所じゃ』

「いらない、いらない。私一人で充分だよ」

『うむ、そうか。なら任せる。思う存分暴れてよいぞ。あ、ただ死者だけは出すなよ。揉み消すのが面倒じゃからの』

「了解!」

 

 話がトントン拍子に進む。口を挟む隙すらないほどに。

 

「……いいのか?その子はクインヴェールの所属だ。他所の学園の子を助けて界龍に支障はないのか?」

『構わんよ。女子(おなご)を捕まえるような性根の腐った組織なぞ潰れた方が世の為じゃろう。それに……』

 

 星露の言葉が一瞬途切れる。そして柔らかな笑みを浮かべ彼女を言った。

 

『……おぬしが初めて儂に頼みごとをした。叶えるのは家族として当然じゃ』

「…………ありがとう、星露」

『うむ。行ってこい、二人とも!界龍の力を見せつけてくるのじゃ!!』

 

 そして通信が途切れた。

 

「ま、予想通りの展開かな」

「助かります」

 

 陽乃の身体から星辰力が湧き出る。

 

「じゃあ、私が正面から突撃して暴れるから、八幡くんはその間に建物の中に侵入。目的の女の子を探し出して救出するように」

「了解です」

 

 逆に八幡は自身の星辰力を押さえていく。侵入するのに邪魔だからだ。封印が解かれる前までとはいかないが、ある程度は抑える事は出来る。

 

「……あら?」

「どうしました?」

 

 陽乃は八幡の状態の変化に気付く。

 

「八幡くん、その目……」

「目が、何でしょう?」

「いや、星辰力が減少するのと連動して、以前の目に戻っていってるよ」

「……マジすか?」

 

 そして八幡の星辰力の減少が止まった。

 

「何か昔の八幡くんに戻ったみたいだね」

「まあ、腐り目は俺の個性みたいなものですから」

「多分、星辰力を戻したら薄れるんじゃない?その目」

「そうですか?どちらでもいいですよ」

 

 長年付き合ってきた目だ。今更戻った所でどうという事はない。

 

「じゃあ行くよ」

「はい」

 

 そして二人は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「あの、シルヴィアさん。大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ。八幡くんもかなりの実力だし、それに彼が言っていた協力者の実力はあなたもよく知ってるでしょう?」

「…………はい」

「ごめんね。私も動ければよかったんだけど……それはできない」

「いえ、あなたがいなければ妹の場所は分かりませんでした。それだけでも本当に助かりました……後は信じます」

「……ありがとう」

 

 シルヴィア・リューネハイムは有名すぎる。彼女が歓楽街にいるという事実が明るみになれば、それだけでスキャンダルだ。自身の立場が脅かされるだけならまだいいが、バレた場合それだけでは済まない。統合企業財体の手によって姉妹の立場も危うくなるだろう。

 

 だからこそシルヴィアは動けないのだ。

 

 

 遠方から爆発する音が聞こえてきた。

 

「……始まったわね」

「……はい」

 

 爆発はさらに連続して続く。途切れない爆発はさらなる爆音を辺りに響かせ、目を凝らせば遠くに赤い炎が立ち昇っているのが見てとれる。

 

「頼むわね。八幡くん。魔王さん」

 

 

 

 その日の夜、歓楽街にあるマフィア組織が複数壊滅する事態が発生した。

 

 立ち昇る炎と大爆発が連続で起こり組織は大混乱。そして何者かの奇襲を受けたそうだ。

 ただ、そこら中で混乱が巻き起こる中では、相手の人数を把握できるものはいなかったという。

 

 そしてこの異常事態を重く見たのか、ヘルガ・リンドヴァルが率いる警備隊がマフィア組織に突入。脱出してきたマフィアは、人目をはばからず警備隊に助けを求めた。

 

 結果、アスタリスク始まって以来の大捕り物となったが、不思議と死者は一人もいなかったそうだ。

 後日の調査結果で、マフィア同士の抗争という形で決着がついた。だが、不審な点も多く何者かが圧力を掛けたと見る人もいる。

 

 

 そして、この舞台裏で一人の少女が救出された事実を知るものは、殆どいない。

 




風邪が中々治らなかったため、投稿が遅れました。

皆様も体調管理にはご注意ください。

最初の話から色々詰め込み過ぎた気がしますが、ヒロインは早めに登場させたいのでしょうがない。

というわけで、読んでくださった方は大体分かると思いますが、シルヴィアさんはヒロインです。以前からの歌に関しての記述で読めていた人もいましたね。

因みに、オリキャラ姉妹はユリスの親戚という設定です。

……ユリスはヒロインじゃないですよ。一応言っておきますが。

では、次回もよろしくお願いします。

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