学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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何か奇跡的に筆が進んだので投稿します。

多分過去最速で完成ですね。今後は無理だと思います。



第二十三話 界龍の見学。そして挑戦

「はい、皆さん。あちらに見えるのがシリウスドームのステージです。このシリウスドームは、アスタリスクの中でも一番大きな会場で、収容人数はおよそ十万人となっています。とっても大きいですねー。そしてこの会場は、星武祭では本選のメインスタジアムとして使用され、毎年激しい闘いを繰り広げています。テレビで見た事のある子達も多いんじゃないかな。見たことがある人は手を挙げてみて」

『はーい!』

 

 シリウスドーム舞台袖で案内人の女性が会場の説明をしている。最後の言葉の後に手を上げ、元気な声で答えているのは界龍第七学園 六花見学会の参加者である少年少女達だ。

 

「また、この会場は星武祭以外でも使用されています。六校の学園で行われる月に一度の序列戦。毎月、各校が持ち回りでこの会場を使用することになっています。一番の注目カードには、多くの観客で賑わいを見せるんですよ」

 

 女性が説明する度に子供たちの歓声が響きわたる。将来この舞台で活躍する自分の姿を想像しているのかもしれない。

 だが、そんな盛り上がる子供たちとは他所に、綺凛と留美は二人少し離れた所で会話をしていた。

 

「……大きい会場だね、留美ちゃん」

「うん。凄く大きい」

 

 綺凛の呟きに留美は頷く。

 

「留美ちゃんは星武祭に関して詳しいの? わたしはあんまり見たこと無いんだ」

「私も全然。クラスの皆は興味津々で見てて、星武祭の後とかも凄い盛り上がってたけど、私は興味なかった。それに闘うのって興味ないんだ、私」

 

 留美の答えに少し呆然とする綺凛。

 

「えーと、じゃあ留美ちゃんはどうしてこの見学会に来たの? アスタリスクに興味がなければ来ないと思うんだけど」

「それは…………」

 

 綺凛の問いに留美は言い淀む。そして留美は何かを思い出すかのように真剣な表情をする。

 

「あ、ごめん。聞いちゃいけなかったかな」

「ううん、そうじゃない……私の目的は知り合いに会うこと。ただそれだけ」

「知り合いって界龍の?」

「……うん」

 

 留美がコクリと頷いた。

 

「そういう綺凛こそ、どうして界龍の見学会に来たの? 女子の人気ならクインヴェールが断トツの一番人気だし、それ以外だと聖ガラードワースが多いって聞いたよ。両校とも制服が可愛いし」

「……わたしは知り合いの人に誘われたの。界龍には強い人が沢山いるからいい経験になるからって。一週間前に」

「えっ、一週間前? 本当、それ?」

 

 綺凛の言葉に留美は驚く。

 

「う、うん。本当だよ」

「……よく通ったね、この見学会。私は知り合いの人にこの見学会について教えてもらって申し込んだけど、そもそも申込期限は五月末までだよ。それに知り合いの人曰く、当選倍率は百倍以上って言ってた」

「えっ! そ、そうなの?」

 

 留美の言葉に今度は綺凛が驚く。

 

「うん。まあ世界中から子供が来るからそのぐらい行くんじゃないかな? 無料だから費用も掛からないし」

「あ、うん。そうだよね……」

 

 綺凛はあまりの驚きに言葉が止まってしまう。八幡からそんな話はまったく聞いていなかったからだ。

 

「……でも、それが本当なら綺凛はよっぽど優秀なんだね。刀も持ってたし剣士ってやつなのかな? その知り合いの人もそうだけど、界龍自体がよっぽど綺凛に来てほしかったんだね」

「そ、そんな事は、ないと思うけど」

 

 綺凛は突如八幡のことを思い出す。頭を撫でられながら沢山褒められ、熱心に綺凛のことを誘っていたことを。そしてそれを意識し顔が赤くなった。

 

「……綺凛、大丈夫? 顔、赤いよ?」

「あ、う、うん。大丈夫! 何でもないから!」

「ならいいけど……」

 

 首を横に振り自身の考えを消す。今はそんな事を思い出してる場合ではない。

 

「はい。シリウスドームの説明は以上になります。将来、皆さんがこの舞台に立てるように頑張ってくださいね」

『はい!』

 

 そして二人が話し込んでいる間に案内人の説明が終わったようだ。少年少女の元気な声が聞こえる。

 

「それでは本日の見学は此処までになります。この後はバスで移動してホテルに泊まります。明日は皆さん、界龍第七学園に向かう事になりますので、早めの就寝を心がけて下さい。では、バスに戻りますので付いてきてください」

 

 案内人はそう締めくくり、外へ向かって歩き出した。そして少年少女達もそれに続き、最後尾に綺凛と留美も続いた。

 

 舞台袖から通路へと戻る手前で、綺凛は後ろを振り返る。アスタリスクを模して造られた六角形の舞台。星武祭での最終ステージ。そして綺凛は案内人の言葉を思い出し、決意を固める。

 

「―――必ずこの舞台に立ってみせます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、皆さん。おはようございます」

『おはようございまーす』

「はい。いい返事ですね。今日これから、皆さんは界龍第七学園に向かいます。到着まで30分ほど掛かりますので、それまでは席を立たないで下さいね」

 

 翌日、ホテルでの朝食を終えた後、見学会の一行は界龍第七学園に向かってバスで移動することになった。先日から引き続き、案内役のお姉さんが一行に挨拶をしている。

 

「しかし到着まで皆さん暇を持て余すと思います。そこでこれから界龍第七学園の解説をしたいと思いますので、興味のある子は聞いてください。興味のない子たちは―――」

 

 案内役のお姉さんが手元の空間ウィンドウを操作する。すると、バスの座席に座った子供たちの目の前に空間ウィンドウが出現した。

 

「今、皆さんの前に空間ウィンドウが開いたと思います。そのウィンドウで界龍第七学園の様々な情報を見ることが出来ます。生徒同士の決闘の映像は勿論、過去の星武祭の名勝負の数々も載ってるんですよ。他にも在名祭祀書の一覧を開くと、現時点での序列七十二位までの生徒の一覧が序列順に載っています。興味がある生徒のページを開いてください。そこには各生徒の過去の決闘や星武祭での活躍を見ることも出来ますので、お気に入りの生徒がいましたらそちらから探すと早いですよ」

 

 案内人の言葉を皮切りに子供達は手元のウィンドウを操作していく。綺凛も同様にウィンドウを操作していくが、情報が多すぎてどれを見ればいいか迷ってしまう。

 

「いっぱいあるね、留美ちゃん」

「…………」

 

 隣にいる留美に問いかけるも返事がない。綺凛が留美の方を向くと、彼女は在名祭祀書の一覧を開き、熱心にそれを見ていた。その様子を見た綺凛は、恐る恐る綺凛に話しかける。

 

「……あの、留美ちゃん?」

「あ、ご、ごめん。なに綺凛?」

「誰か探してるの?」

「……うん。知り合いの人がいるかなと思って見てた。この一覧にはいなかったけど」

「あ、そうなんだ。留美ちゃんにこの見学会を教えてくれた人?」

「ううん。その人とは別人。教えてくれた人ならもう見付けた……ほら、この人」

 

 留美が自身のウィンドウを横にずらし、綺凛にも見せる。

 

「雪ノ下陽乃さん……凄いね、この人。界龍の序列三位なんだ」

「うん、陽乃さんは凄い。強くて、格好良くて……私の憧れの人」

 

 留美が頬を少し染め、陽乃を褒めたたえる。折角なので、彼女の決闘シーンを見ることにした。空間ウィンドウを大きくして二人で見れるようにする。

 

 そして彼女の決闘を見てみると―――

 

「……何というか、凄いね」

「うん、凄い。さすが陽乃さん」

 

 凄い以外の言葉が見つからなかった。近接では合気に格闘、中距離、遠距離では容赦なく炎が乱れ飛び、相手を蹂躙していた。ハッキリ言って隙が無い。

 

 ―――わたしならどう闘う? 近距離に持ち込もうにもあの炎を掻い潜れる? いや、仮に接近戦に持ち込めてもあの体術がある。今のわたしで通用するかどうか。

 

 陽乃の相手だって決して弱いようには見えない。だがその相手すら蹂躙する陽乃の強さに綺凛は驚愕した。そして思わず自身ならどう闘うか思考に耽る。

 

「……綺凛。随分一生懸命見てるね」

「あ、うん……わたしならどう闘うか考えてたの」

「この陽乃さんを見て、よくそんな事考えられるね。やっぱり綺凛って強いんだ」

「そ、そんな事ないよ」

 

 留美の言葉を否定する。それは綺凛の本心だ。今の自分は井戸の中の蛙。このアスタリスクには予想以上の猛者が蠢いてる。そう実感できた所だ。

 

「そんなに陽乃さんに興味があるなら、他にも動画がいっぱいあるよ。見てみる?」

「うん。お願い」

 

 留美の勧めのまま他の動画も見ることにした。留美がウィンドウを操作し別の動画を再生する。そしてそれは界龍第七学園に到着するまで続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、此処が界龍第七学園です。ご存知の方もいるかもしれませんが、この界龍第七学園はアスタリスクで唯一初等部がある学園です。だからこの敷地には、初等部から大学まで全ての学び舎が揃ってるんですよ。その為、校内の大きさはとてつもない広さになっているので、迷子にならないように付いてきてください」

 

 案内人が先導し界龍の入り口の門をくぐる。そして校内を案内すべく歩を進めた。見学者達も界龍のあまりの広さに驚きの声を上げつつ後に続く。

 

「……凄く広いね」

「うん。この広さだとすぐ迷子になっちゃいそう」

 

 留美の意見に綺凛も同意する。入口から校内を一瞥しただけでも、途方もない広さなのが分かる。案内人から離れたら、すぐに迷子になってしまうだろう。

 

 そのまま暫く歩いていると、巨大な広場が見えてきた。遠目から見ると生徒が沢山集まり何かを行っている。近付いていくと何をしているのか、綺凛にはすぐに分かった。案内人が足を止めてこちらに振り向く。

 

「はい皆さん、注目。あちらで行っているのが集団演武になります。この界龍第七学園は武術がとても盛んな学校です。様々な武術、様々な流派が存在していますので、もし皆さんがこの学園に入学したら、何処かで武術を習うのも選択肢の一つですね」

 

 広場では二十人ほどの集団が同時に動き、同じ型を披露している。その動作と流れるような演武は、見ている者を魅了する。それは子供たちも例外ではなく、皆が演武を一生懸命見ている。

 

「あんなに沢山の人がまったく同時に動いているのに、動きがまったく変わらない。あんな事が出来るんだ」

「うん。かなりの練度だよ、あの人達……やっぱりレベルが高いね、アスタリスクは」

 

 それは留美と綺凛も同様だ。特に武術を習ってきた綺凛は、身体を動かすということの難しさを知っている。その為、留美以上にその演武の凄さが理解できた。

 

 やがて演武が終わり集団の動きが止まる。そして同時にこちらに礼をする。それに対し、見学者の面々は一斉に拍手をしてその凄さを称えた。

 

「はい。というわけで、集団演武をご覧いただきました。凄かったですね。皆さんも鍛えれば、あのような演武も行うことも可能になるでしょう……さて、では次に行きましょうか」

 

 一同の興奮さめやらぬ中、次へと進む。様々な施設の紹介を聞いていると、お昼の時間になったので一行は食堂を訪れた。巨大な食堂のため、百人が入っても座る場所に困る事はない。この日の為に貸切をしているのか、学園の生徒の姿はない。見学者は好きな物を頼み、その美味しさに舌鼓を打った。

 

 食事が終わればまた見学の続きだ。建物と建物の間を移動し風雅な庭園に目を見張る。そして先程とは別の巨大な広場も幾つか通るのだが、その全ての広場で演武や鍛錬が行われていた。それらの様子は、流石に武に力を入れている学園だと一同を納得させるものだった。

 

 そして最後に訪れたのは―――大きな建物だった。

 

「はい。それでは此処が本日最後の見学する場所です。中は大きな道場となっていますので、この人数でも入ることが出来ます。では、行きましょう」

 

 一同は道場の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道場の中には沢山の生徒がいた。素振りをする者。型の稽古をする者。二人で勝負をする者。様々な生徒が各自の鍛錬を行っている。その熱気と真剣さに、見学者は自然と気を引き締め口が閉じていく。

 

「皆さん。此処は界龍第七学園の流派の一つ、木派の道場です。木派は界龍の中でも有数の実力者が揃う最大派閥の一つになります」

 

 案内人の言葉に見学者は目を輝かせる。

 

「此処では木派の門下生の鍛錬を見学します。ただ、見ているだけでは退屈する人達もいるかもしれません。そこで―――」

 

 一呼吸置き案内人は言う。

 

「―――希望者を募り門下生と模擬戦を行いたいと思います。この後10分間時間を取りますので、その間に希望する方の受付をします。自分の実力に自信がある者は是非名乗り出て下さい」

 

 その言葉に見学者達からざわめきが起こる。そしてそれを聞いた綺凛も拳を握り力が入る。

 

「では、これより10分間を受付時間とします。私はあちらにいますので、希望者はそちらに来てください」

 

 そこまで言うと案内人は壁際に移動する。そして残された見学者達が騒ぎ出した。

 

「おい! どうする?」

「やろうよ! こんなチャンス滅多にないよ!」

「わたしはどうしよう! 挑戦した方がいいかな?」

「えーでも皆強そうだから勝てっこないよ。止めた方がいいって」

 

 挑戦しようとする者。迷う者。諦める者。見学者の反応は様々だ。

 

 そして―――

 

「……留美ちゃんはどうする?」

「私はいいや。此処には人に会いに来ただけだから闘いたいとは思わないし。綺凛は?」

「わたしは―――行くよ。それが目的の一つだから」

「そっか。頑張ってね」

「うん。ありがとう」

 

 綺凛は一人で前に出る。他にも挑戦しようとする子供たちが続々と前に出て受付に並びだす。希望者は見学者のおよそ半分のようだ。

 受付を済ませた子供は、門下生の元に案内され模擬戦が始まっていく。だが、やはり木派の門下生相手では分が悪いのか、勝てる挑戦者は一人もいない。それどころか明らかに相手から手加減されている状況だ。綺凛も受付に並びながらその様子を遠目で確認していく。

 

 そして綺凛の番がやって来た。

 

「あなたも挑戦するの?」

「はい。お願いします」

「模擬戦はアスタリスクの形式に合わせていますので、こちらを胸に付けて下さい」

 

 綺凛は龍の校章を渡されたので、それを胸に付ける。

 

「模擬戦は相手を気絶させるか、もしくは相手の校章を先に破損させれば勝利になります」

「はい」

「ちなみに、使用する武器は持っていますか? 煌式武装を持っていなければ貸出も可能ですよ」

「いえ、わたしにはこの刀があるので大丈夫です」

 

 綺凛は持っている刀を見せる。

 

「了解です……全力で掛かっていっても大丈夫よ。此処の人達は強い人ばかりだから。頑張ってね」

「はいっありがとうございます」

「では、あちらの方が空いているようなので、そちらへ移動してください」

「分かりました」

 

 綺凛は言われた方へ移動する。するとそこには、高校生もしくは大学生と思わしき大柄な男性が待ち構えていた。もう既に何人も挑んでいるようだが、未だ彼は敗北していないようだ。

 

「次の相手は君か?」

「はい。お願いします」

「分かった。構えるといい」

 

 男が両拳を握り構える。すると、綺凛の目には男の両拳に星辰力が集まっていくのが感じられた。そして両拳に星辰力が収束し塊となった。界龍の拳士特有の星辰力コントロール技術だ。

 

 初めて見る現象に内心驚きつつ、綺凛も自身の刀『千羽切』を抜いて正眼に構える。

 

 そして―――綺凛の気配が変わる。

 

 普段の大人しい気配から一人の剣士へと。自身の星辰力を解放し刀に練り込む。そして剣気とも言うべき鋭く冷たい圧力が相手を襲った。すると相手はその圧力に押され、顔から一滴の冷や汗を掻いた。

 

「っ! なるほどっ! どうやら挑戦するのはこちらのようだな」

「…………」

 

 綺凛は何も喋らない。油断なく相手を見据え、そして倒すべく隙を探る。

 

「行くぞっ!」

「……はい」

 

 刀藤綺凛の挑戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道場中の視線がそこに集結していた。そこで行われている模擬戦の、過程と結果の全てを見逃すまいと、たくさんの熱い視線が送られている。

 見学者による模擬戦の挑戦は、一人を残して全滅という結果に終わっている。だが後一人残っている。

 

 そしてその残った挑戦者はと言うと―――

 

 振り下ろされる右拳。星辰力が込められたその拳が直撃すれば、いかに綺凛とてダメージを免れない。だがそれを素直に受ける綺凛ではない。振り下ろされる拳を下から刀で掬い上げ、弾き上げる。すると右拳と一緒に相手の身体も体勢を大きく崩れた。そしてその隙を綺凛は逃さない。掬い上げた反動を利用し、右の袈裟切りで相手の校章を断ち切った。

 

 ―――刀藤綺凛の勝利である。

 

「す、凄げぇ。あの子。また勝った」

「誰よ、あの子? あんな子今まで見たことないわよ」

 

 見学者から驚きの声が上がる。無名の剣士が木派の門下生を次々と撃破してくのだ。驚かない方が無理がある。

 

 何しろ―――

 

「これで五連勝だぜ! 信じられない!」

 

 刀藤綺凛は界龍の門下生相手に五連勝していた。最初は偶然と思って見ていた見学者も、此処まで連勝を重ねられると、偶然で片付けるのは無理がある。

 

 試合を終えた綺凛と相手の男が、お互いに礼をする。

 

「ありがとうございました」

「ありがとうございます……強いな、君は」

「いえ、そんな」

「……私では君の本気を引き出せないようだ。悔しいことだがな」

 

 男は綺凛の強さに称賛を送る。彼らにとって敗北は決して負けではない。だが年上である自分たちが、この小さな少女の本気すら引き出せない。その事が男にとっては悔しかった。

 

「さて、まだ体力の方は大丈夫かい?」

「はい。大丈夫です」

「そうか……次の相手が決まるまで少し時間が掛かりそうだ。少し休んでいるといい」

「……分かりました」

 

 男がある一角に視線を送り、その様子から時間が掛かると判断する。

 綺凛もそこに視線を送ってみると―――

 

「おお! あそこまで強いとは。よし! 次は俺が彼女に挑戦しよう!」

「待て! 貴公では荷が重い。此処は私が行こう!」

「何言ってんの! アンタは先週、私に負けたじゃない。彼女の相手には役者不足よ。私が行くわ!」

「待て待て! 序列下位の貴君らでは彼女の相手にならん。此処は俺が!」

「アンタだって実力はそんなに変わらないじゃない! アタシ達と一緒よ!」

 

 綺凛の相手を巡り、木派の門下生同士が争いをしていた。誰も彼もが綺凛の相手を求めており、次の相手が決まるのは難航しそうだ。

 

 その様子を見ていた綺凛は、助言に従い少し下がって休憩を取ることにした。そんな彼女に一人の少女が近付く。

 

「……綺凛。はい、これ」

「あ、留美ちゃん。ありがとう」

 

 鶴見留美からスポーツドリンクとタオルを受取る。タオルで汗を拭き、ドリンクを飲んで水分補給を取る。

 

「ふぅっ」

「……本当に凄い強いね、綺凛。私、同級生でこんなに強い人初めて見た」

 

 留美も驚きを隠せない。年上ならまだしも、同学年で此処まで強い人を見るのは、留美にとっては初めてだ。

 

「わたしなんてまだまだだよ。ホントに」

「充分強いと思うけど……でも、次の相手。まだ決まりそうにないね」

 

 留美は言い争いをしている集団を見る。大声を上げながら自分こそが闘うと主張している。下手をすれば彼ら同士で闘いが発生しそうだ。

 

「皆、綺凛に勝てないのに挑むんだ。変なの」

「……わたしは嬉しいよ。油断できる人なんて一人もいないから」

「そういうもんかな?」

 

 留美の疑問に綺凛は軽く頷く。実際、綺凛の中では嬉しい気持ちでいっぱいだ。何しろ実家の道場では、自身の相手をしてくれる人はそんなに多くない。年下の少女に負けると分かって挑む人は中々いないのだ。

 

 そんな話をしながらリラックスしていた二人。

 

 その時だった―――

 

 

「―――おぬしが刀藤綺凛じゃな?」

 

 

 真後ろから声がした。

 

「っ!?」

「え?」

 

 慌てて振り向く綺凛と留美。するとそこには一人の少女、否、幼女がいた。こちらの驚きを他所に幼女は綺凛に近付き、彼女の目を見る。

 

「ほう……! なるほどなるほど。玉の石。それも最上級と来たか。くくくっ、これはたまらんのう!」

 

 愉快に笑いながら綺凛の瞳を覗き込む。覗かれた綺凛は得も言えぬ感覚に陥る。己の全てが覗かれる、そんな奇妙な感覚を―――

 

「し、師父! どうしてこちらに!」

 

 木派の門下生の一人が気付き声を上げる。その声を筆頭に全ての門下生が彼女に気付き、構えを取る。

 

「楽にしてよいぞ。少しばかり様子を見に来ただけじゃ」

「そ、そうですか。分かりました」

 

 驚く門下生達。しかし彼らが驚くのも無理はない。万有天羅が見学会を訪れる事なぞ今まで一度もなかったからだ。

 

「さて、今の戦績はどうなっておる?」

「……我らの五連敗となっております」

「ふむ、普段ならふがいないと叱る所であるが―――こやつが相手では仕方がない。恥じることはないぞ」

「そこまで、ですか」

「うむ、現時点で冒頭の十二人の下位、いや、下手をすれば中位まで喰われるな。そこまでの逸材よ」

「! な、なるほど。我らでは相手になりませぬな、それは」

 

 男は星露の見立てに納得する。彼女の見立ては外れることがないからだ。

 しかし綺凛はそんな二人の話を聞く余裕すらなかった。

 

「綺凛、大丈夫? 顔色悪いよ」

「…………うん。大丈夫」

 

 綺凛の口調が固い。彼女は先程の出来事が信じられず、混乱していた。気配も、動きも、そして星辰力すら感知できなかった。そんな事は彼女にとって初めての経験だ。

 

「さて、刀藤綺凛。此処に居る儂の弟子達ではおぬしの相手は務まらん。よって儂が相手をしよう。受けてはくれぬか?」

「し、師父! それは!」

 

 弟子達の驚きの声が上がる。問いかけられた綺凛は、己の疑問を星露へと投げかける。

 

「……聞いてもよろしいでしょうか?」

「何じゃ。遠慮なく申してみよ」

「あなたの、お名前を教えてください」

「お、そう言えばまだ言っておらんかったの」

 

 星露は今気付いたとばかりの態度を取り、そして彼女は自身の名を明かす。

 

「――-儂の名前は范星露。界龍第七学園 序列一位。万有天羅とも呼ばれておる。よろしく頼むぞ、若き剣士よ」

 

 ―――うちの序列一位。ちなみに今年八歳になるがべらぼうに強い。多分オーフェリア・ランドルーフェンと同じぐらいの強さだ。本人曰くだが。

 

 綺凛は、目の前にいるこの幼女が、彼の妹だと確信した。

 

「界龍の、序列一位!? う、嘘だろ? あんなちっちゃい子が、そんな」

「で、でもデータでもそうなってるよ。本当なんじゃ」

「そ、そうだよ。彼女が来たの、誰か見たか?」

「いや、でも…………」

 

 混乱の真っただ中に陥った見学者達。

 それに対し、留美と綺凛は周囲に比べればまだ混乱が少ない。

 

「……范星露? 陽乃さんの師匠?」

「その通りじゃ、鶴見留美よ。ふむ、おぬしも中々の研鑽を重ねてきたようじゃな、褒めてやるぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 相手は幼女だと言うのに敬語で話す留美。周りの彼女に対する態度もそうだが、彼女の存在感とも言うべきものが、彼女に対して敬語を使わせる理由となっていた。

 

「あなたに……」

「うん?」

 

 留美と話していた星露に対し、綺凛が更に問いかける。

 

「あなたに勝てれば、星武祭を制することは出来ますか?」

「ふむ、そうじゃな……儂に勝てれば王竜星武祭を制することも可能じゃろう。保証してやるぞ」

「! ……だったらその勝負、お受けします」

 

 刀藤綺凛は范星露からの勝負を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺凛、止めた方がいい。絶対勝てないよ」

 

 隣にいる留美が綺凛を止めようと必死に説得する。彼女は確信している。あの陽乃ですら敗北したあの時の彼を、この幼女が止めたことを知っているからだ。

 

「……分かってる。でも、それでも挑みたい。いや、挑まなくちゃいけないんだよ、留美ちゃん」

「綺凛……」

 

 しかし綺凛は意志を曲げない。己の目的の為、最強と同格に称される彼女に挑む価値は十分にある。

 

「安心せよ、鶴見留美。流石に本気は出さぬ故、それなりにいい勝負になるじゃろう」

「で、でも……」

「ふむ、まあこやつの実力を知らぬと、そう思うのは無理もないか……そうじゃな、これでどうじゃ!!」

 

 最後の言葉を放つ瞬間。星露は己の圧力と殺気を綺凛へ叩きつける。

 

「っ!」

 

 そして次の瞬間に―――綺凛が反射的に大きく距離を取っていた。

 

 己の身体が、否、細胞が反射的に反応したようだった。当然その動きはとても鋭く、そしてとても速かった。一瞬だけのスピードなら界龍序列上位にも匹敵しただろう。そしてそれを視認できたのは―――この場では范星露のみだ。

 

「え? き、綺凛。凄い。一瞬であんな所に」

「刀藤綺凛は強い。その辺の凡百の人間とは比べ物にならぬよ。これで安心したか」

「は、はい。少しは」

「では、下がっておれ。巻き添えを食らうぞ」

 

 星露に下がるように言われた留美は、指示通りに壁際まで下がる。

 

 

 そして道場中央に残された星露と綺凛。

 

 

 両者の目的のために―――二人はぶつかり合う!

 

 

「―――来るがよい」

「―――参ります!」

 




綺凛ちゃんの快進撃が続いたお話でした。

次回は 刀藤綺凛 VS 范星露(手加減)となります。

誤字、脱字、感想等あれば、よろしくお願いします。
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