学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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戦闘シーンが思ったより長くなったので、とりあえず切りのいい所までです。

しかし最近筆の進みがいい。私に何が起こっているんだろうか……



第二十四話 刀藤綺凛は奮闘する

 一足跳びで間合いを詰め刀を振るう。振るわれた刀は持ち主の意のままに虚空に軌跡を描く。

 しかし手応えはない。それどころか瞬時にその姿を消えている。前方を見れば、こちらの一撃を躱した相手が、愉快な表情でこちらを見ている。

 

 始める前から分かっていた事だが、改めて心に刻む。

 

 ―――この相手は尋常じゃないです。

 

 瞬時に追撃。地面を踏み込み更なる速度を持って相手に迫る。

 袈裟切りからの横薙ぎ、そして逆袈裟。一手一手を瞬時に、そして速く、相手を切り捨てる感覚で容赦なく襲い掛かる。

 

 しかし捉えること叶わず。こちらが剣を振るった直後、既に相手の姿は消えている。

 

 ―――相手の姿が捉えられない。動きが速すぎます! 

 

 幾度も繰り出した連撃は全て虚空に刀の軌跡を描く結果となった。

 綺凛はこのままでは無駄と感じ足を止めると、相手もまた足を止める。

 

 そして対戦相手―――范星露を見ると彼女は口を開く。

 

「うむ、実に真っすぐな剣じゃ。その齢でその剣技。正に天才と言っていいじゃろう」

「……ありがとうございます」

 

 星露からの称賛の言葉に、綺凛は礼を返す。しかし幼女に年の事を言われるのは妙な気分だ。

 

「しかし真っすぐ故に読むことは容易。並みの相手なら、その剣技を持って切り捨てることも可能であろうが―――さて、どうする?」

「…………」

 

 此方を試すかのように星露は笑みを深める。しかし彼女はまだ本気の一片すら出していない。そんな相手を捉えることすら出来ないのであれば、何のために此処に来たのか分からない。

 

 実力差は歴然。そんな事は始める前から分かっていたことだ。

 

 ならば―――現状の力でそれを乗り越えるのみ! 

 

 綺凛が目を見開く。彼女の優れた目はこの短時間である事実を捉えていた。

 

 ―――動きは見えない。だけど、こちらの攻撃を回避する際に僅かな星辰力の残滓を感じます。恐らくそれがあの動きに繋がる正体。だったらそれを読めば! 

 

 行動の指針は決まった。しかしその心の動きを読んだかのように、星露は口を開く。

 

「ふむ、実に良い目をしておる。さて、おぬしにそれが出来るかな?」

「―――やってみせます!」

 

 言葉を言い切ると同時に加速。先程と同様に星露へと迫る。そして右足で踏み込み彼女に対し一撃を放つ―――その瞬間に星露の姿が瞬時に消える。

 

 だが本当に消えているわけではない。方法は不明だが、星辰力を利用した歩法で高速移動しているに過ぎない。

 綺凛は極限まで集中する。視界内だけではなく己の周囲全体を捉えるように。

 

 そして――-捉えた。

 

 左後方! 

 

「―――そこっ!!」

 

 踏み込んだ右足の先を左へと動かし、その反動を持って後方へ回転。そして流れるように斬撃を繰り出す。

 

 そして渾身の力で放たれた一撃を―――星露は左手で受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと! あの師父の動きに付いていき、あまつさえ防御までさせるとは!」

「ああ、あの師父のあの動き。我らの時とは違い桁違いのスピードだ。それを捉えるなんて」

「……ああ、刀藤綺凛。やはりあの少女は只者ではない」

 

 木派の門下生たちからの驚愕の声が上がる。勿論、彼らが騒いでいるのには理由がある。

 

 范星露は界龍で弟子を取っているが、誰でも弟子になれるわけではない。彼女の弟子として入門するには、ある一つの条件があるのだ。

 

 ―――その条件は范星露に触れること。ただそれだけだ。

 

 通常、星露が弟子の入門試験を行う際は、百人余りの人間が同時に彼女に襲い掛かる。そして衣服でもいいので、少しでも触れることが出来れば合格となるのだ。だが相手は范星露。手加減していても、並みの実力では彼女に触ることすら出来ない。

 

 それを木派の門下生は誰よりも理解している。彼らの中には星露の弟子もいるが、そうでない人も多い。それ故に、一対一の状況で范星露に触れるだけでなく、防御までさせたあの少女に誰もが感服しているのだ。

 

「ふむ、第一段階は合格じゃな。やはりこの程度は超えてくるか。しかもこの短時間でというのは大したものよ」

「…………」

 

 綺凛は受け止められた刀を戻し、改めて構える。相手を捉える事は出来た。次は相手の防御をどう抜くかだ。目の前の相手の一挙一動を逃さず観察する。

 

 その真っすぐな剣技と同様に、その瞳もどこまでも真っすぐだ。それを見た星露は思わず笑ってしまう。

 

「くくくっ、その様な目で儂を見るでない。そんな目で見られると思わず―――滾ってしまうではないか」

「っ!?」

 

 星露からの更なる圧力が綺凛を襲う。目の見えぬ圧力が綺凛の身体を捉える。そして圧力に捕らわれた綺凛は動きを止め、片膝を付きそうになる。

 

 しかし―――

 

「っ―――はぁぁっ!」

「―――ほう! 気合で跳ね除けるか。よいぞよいぞ、その調子じゃ」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、ふぅぅぅぅ。まだまだです!」

 

 綺凛は乱れた呼吸を整える。そして叫びながら自らを奮い立たせる。

 気合は充分。この程度でやられる訳にはいかない。

 

「よし、ではそろそろ準備運動は終わりにするとしよう。今度は―――」

 

 星露が獰猛な笑みで綺凛を見る。その笑みはまるで大型の肉食動物が獲物を見つけたかのようだ。

 

「―――こちらから行くぞ」

 

 范星露が―――動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 六人の集団が小走りに校内を走る。道行く人はその集団を見つけると皆、彼らに注目する。それは彼らが界龍に於いて有名な存在だからだ。しかし彼らは周囲の視線を気にせず、今はただひたすら目的地に向かって走っていた。

 

「いやーこんなに遅くなるとは思わなかったわ。虎峰、ちょっとやりすぎだよ」

「そうだよーこれも虎峰がしつこいからいけないんだよ」

「す、すいません。でも、しょうがないじゃないですか。盛り上がっちゃったんですから」

 

 雪ノ下陽乃とセシリー・ウォンが趙虎峰を責め立てる。しかし責められた本人も自覚があるのか、言い訳をしつつも素直に二人の言う事に反省する。

 

「しかし僕としては珍しいものが見れたから満足だけどね。ねぇ沈華」

「えぇ、趙師兄があんなにも負けず嫌いだとは思いもよりませんでした。で、そこの所どう思ってるの、八幡?」

 

 双子である黎沈雲と黎沈華は虎峰の行動に満足している。そして沈華は残り一人、范八幡に彼の行動を問う。

 

「……まあ俺としては一つだけだな。初勝利で最後を締めくくりたかったって気持ちはあるな、正直」

「だよねー趙師兄ってば空気読めないよねーそういうとこ」

「普通ありえないわ。百回以上闘ってやっと初めて勝ったのに、余韻も浸らせずすぐ再戦するなんて。相手を尊重する気持ちが足りないんじゃないかしら。ねぇ趙師兄?」

「うぅぅ、この双子に言われるのは屈辱ですが、今日ばかりは何も言えません」

 

 八幡が正直な気持ちを白状すると、双子がそれに便乗し虎峰を煽る。しかし自覚がある虎峰も今ばかりは何も言えない。双子の口撃をひたすら耐えていた。

 

「はい、そこまで。虎峰も反省してるんだからその辺にしときなさい、二人とも」

「まあ、もう少し言ってもよかったんだけど」

「雪ノ下大師姉の言われたら仕方ないわ。此処までにするわ」

 

 陽乃が双子に抑えるように言うと、二人は素直に言う事を聞いた。この二人は陽乃を相手にする際の引き際を誰よりも心得ている。

 

 そしてセシリーは八幡に向かって彼の偉業を称える。

 

「とりあえず虎峰に対して初勝利。おめでとー八幡」

「……一回勝っただけだ。残りはいつも通り全部負けたしな」

「あーそう言いつつ嬉しそうにしてるー。素直じゃないな―八幡は。私知ってるよ。そう言うの捻デレって言うんでしょ」

「おい、ちょっと待て。何処で知ったその単語」

「え、陽姉だよ。八幡にピッタリだよね。凄いしっくりくるもん」

 

 気を引き締めようとしたが嬉しさが顔に出ており、それをセシリーに突っ込まれた。八幡は彼女に余計な事を吹き込んだ張本人を見るが、本人はどこ吹く風とばかりの表情だ。軽く睨むが、逆に微笑まれ追及する気力をなくす。

 

 そして集団はようやく目的地に近付いて来た。場所は界龍でも数ある木派の道場の一つ。此処では本日見学会の模擬戦が行われている。

 木派の責任者である虎峰と陽乃は、本来なら早めに到着している予定だった。しかし虎峰が八幡との模擬戦で初の敗北を喫したことでやる気に火が点き、その後も模擬戦が継続して行われたので、到着が遅れてしまったのだ。

 

 しかし道場に近付くにつれ一行の一人、沈華がある異変に気付いた。

 

「ねぇ、ちょっと変じゃない。やけに静かなんだけど」

「確かに。いつも暑苦しくて騒がしいのが取り柄の木派の連中が、こんなに静かだなんておかしすぎる」

「あの二人とも。こんな時まで木派をディするの止めてもらえませんか。とはいえ、この静けさは確かに異常ですね。見学会の時は盛り上がるのが普通なのに、声すら聞こえてこないとは」

「ねぇ、虎峰。場所間違えてない?」

「いえ、確かに此処のはずなんですが……」

 

 道場の様子を訝しむ四人。しかし残り二人。探知に長けた八幡と陽乃はその理由に気付いた。

 

「……陽乃さん」

「ええ、間違いないわ。我慢しきれなかったようね」

「ですよね。どうしますか? 今入ると邪魔になる可能性が」

「……正面から入るのは止めましょうか。皆、側面に回ってコッソリ覗くわよ」

 

 陽乃の言うままに側面に回る六人。道場には格子付きの窓が幾つも付いているので、覗くのは簡単だ。

 一同はそれぞれ窓から道場の中を窺い―――その光景を見ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれほれ、どうしたどうした! 守るばかりでは勝てぬぞ、刀藤綺凛!」

「くっ!」

 

 星露の掌打を辛うじて防ぐ。その年齢と体格からは信じられぬほど重い一撃を、両腕を交差し直撃を避ける。しかしその威力までは防ぎきれず、身体ごと吹き飛ばされる。両足で着地し体勢を立て直すも、星露は追撃に来ている。

 

 ―――守るだけではジリ貧です。だったら! 

 

「はっ!」

 

 綺凛が刀を振るう。鋭い斬撃が星露へと放たれ―――やはり躱される。しかしそれは問題ない。回避した星露の姿を綺凛の目は見事に捉えていた。

 

「はぁぁっ!」

 

 鋭い斬撃が連続で放たれる。その速度足るや正に神速。並みの相手どころか冒頭の十二人クラスでも避けられはしない。

 

 しかし――――

 

「甘い! 甘いぞ!」

 

 だが相手は万有天羅。一流を軽く超えた化物の彼女にとっては、神速の斬撃すら生ぬるい。すべてを紙一重で避けられていく。しかしそれも想定済み。回避で出来た隙に、綺凛は前傾姿勢で星露へと突っ込み、足元へ薙ぎ払いを仕掛ける。しかしその攻撃も星露は後方へ大きくジャンプすることで免れた。

 

 ―――これを待っていました! 

 

「そこです!」

 

 星辰力全開! 綺凛が星辰力を身体強化に使用。落ちる場所を予測し床を強く蹴る。一瞬でその地点へ到達し、落ちてくる星露に対し神速の一撃を放った。

 

 決まった! と綺凛は思った。相手は未だ空中から落下中だ。

 そして綺凛が放った神速の斬撃は、落ちてくる彼女の胴体へと吸い込まれるように接近し―――目標を捉えず空を切った。

 

「えっ!?」

 

 刀を振り切った状態で硬直する。確かに捉えた。空中では躱しようがないはず! 

 綺凛の思考は予想外の事態に直面し停止する。

 

「―――惜しかったのう」

 

 背後からの声。姿は見えずとも誰かは言うまでもない。

 

「っ!!」

 

 硬直した身体を無理やり動かし、背後へと振り返る。そして振り向きざま刀を一閃―――だが既に姿はない。いや、違う。綺凛は目線を上へ上げると、范星露は空中に浮いた状態でこちらを見下ろしていた。

 

「……空中に浮かんで」

「さよう。おぬしにとっては少々反則やも知れぬがな。界龍にはこういう術もある。そして―――」

 

 星露が虚空を蹴り加速。刹那の間に綺凛の間合いを侵し、懐へ侵入していた。そして綺凛の腹部に彼女の手が置かれた。その行為に綺凛は反応すら出来なかった。

 

「―――あ」

「今のは少しばかり分かりやすくしたつもりじゃが、儂が何をしたか分かるか? 刀藤綺凛よ」

 

 腹部に手を置かれたまま問われる。確かに今の行動を見て、綺凛は星露の動きの秘密が理解できた。

 

「……星辰力を脚部に集中し虚空を蹴っていました。それが高速で移動する正体、ですね」

「―――正解じゃ」

 

 星露の発勁が綺凛を吹き飛ばし、壁へと激突させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「容赦ないわね、星露。星仙術まで使うなんて。いや、使わざるをえなかったかな? まあ、あれだけ強ければ無理もないか」

「いやーわたしでもマトモに相手をするとちょっと危ないねー。でも、あの子大丈夫かな? 思いっきり壁にぶつかったけど」

「……あの強さであの動き。あれで小6? 嘘でしょ?」

「師父自ら相手にするぐらいだからね。並大抵の強さじゃないよ、彼女」

「いや、皆さん。何冷静に分析してるんですか! 早く彼女の手当てをしないと」

 

 星脈世代らしく強者の分析をする四人に対し、一人慌てる虎峰。しかしそれを八幡が止める。

 

「いや、虎峰。大丈夫だ」

「しかし八幡! 入学前の見学者に怪我を負わせたとあっては大問題です!」

「本来の発勁は浸透する技だから、あれで星露も手加減している。慌てる必要はない」

「ですが……」

 

 八幡の言い分にも虎峰は納得しない。

 

「そうよ虎峰。発勁を一番喰らってる八幡くんが言うんだから間違いないわよ」

「一番って。まあ確かによく喰らってますけどね、発勁」

「暁彗は手加減が苦手だからねー。彼の相手をするならそれも必要経費よ。諦めなさい」

「別に喰らいたくて喰らってるわけじゃないんですけどね」

 

 八幡は溜め息を付く。大師兄と対戦した場合、密着してからの発勁が八幡の負けパターンの一つとなっているのだ。

 

「それに虎峰。お前が行くのはまだ早い」

「どういう事ですか?」

「なに、簡単なことだ」

 

 それはとてもシンプルな答えだ。

 

「―――勝負はまだ付いていない」

 

 八幡の視線の先で、刀藤綺凛は再び立ち上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、多少手心を加えたとはいえ、直に起き上がるとは―――なるほど。咄嗟に星辰力で防いだか」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 星露は先程の手応えと目の前の光景に差異を感じた。そして少し考えその原因に辿り着く。発勁を打ち込む瞬間に合わせ、星辰力で集中防御をした。そんな所だろう。

 

「しかしその様子では立っておるのがやっとのようじゃな。どうじゃ、降参するか?」

「はぁっ、はぁっ、降参は、しません」

 

 綺凛は星露の提案を拒否する。息遣いは荒く、その身体はふらついている。どう見ても起き上がるのがやっとの状態だ。次の攻撃を受ければ、間違いなく倒れるだろう。

 

 しかし星露は油断しない。

 

 ―――こやつ、まだ目が死んでおらん。

 

 此方を見る瞳の輝きは前と変わらず。瞳から感じる強い意志は未だ折れていないのだ。

 星露がそのまま綺凛の様子を窺うと、綺凛はゆっくりと動き出した。

 

「―――居合か」

 

 綺凛が自らの刀を納刀し、居合の構えを取ったのだ。

 

 その選択は間違っていない。連続で攻撃が出来ない状態ならば、一撃に賭ける他ないだろう。

 躱すのは容易い―――だが。

 

「無粋よな―――よかろう。来るがよい」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、ふぅぅぅぅぅっ―――参ります」

 

 始まりの時と台詞は同じ。そして行動も同じく綺凛が駆け出した。しかしそのスピードは見るも無残。明らかに衰えたスピードで、綺凛は星露へと接近していく。

 

 残り十m。綺凛の動きに変化はない。真正面から小細工なしに星露へと突っ込んでいく。観戦する殆どの人達は思った。最後のやぶれかぶれだと。

 

 だが残る少数の考えは違った。あれだけの実力者が何の策もなく突っ込むはずがない。何か企んでいると。勿論、范星露もその一人だ。

 

 そして後者の考えが正解だった。残り五mになった所で―――刀藤綺凛が叫ぶ! 

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 以後、道場内にいる観戦者達が確認できたのは三つの出来事だけだった。

 

 

 ―――刀藤綺凛が叫ぶと同時にその場で踏み込み、大きく前傾姿勢を取ったこと。

 

 ―――彼女が最後の力を振り絞り、星辰力が吹き荒れると同時に、その姿が掻き消えたこと。

 

 そして―――

 

 ―――次の瞬間には范星露を追い越し、彼女の後方で刀を納刀する刀藤綺凛の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道場内の誰もが声を出さず、静寂が辺りを包み込んだ。刀藤綺凛は納刀し片膝を付いたまま動かない。肩で息をし、俯いているその様子から、動く事もままならないのかもしれない。

 

 そして范星露。彼女もまた動かない。だがある者達は気付いた。星露が顔を左へと傾けていることに。恐らく回避行動をとったのだろう。

 

 勝敗の行方は? まさか刀藤綺凛が勝利したのか? それとも師父が回避したのか? そんな疑問が周囲に浮かんで来た頃、范星露が綺凛の方へと振り向き口を開いた。

 

「随分と無茶をする。おぬし、自分が何をしたのか分かっておるのか? 下手をすれば自爆していた所じゃぞ」

 

 綺凛も振り向きその問いかけに答える。

 

「……そうしなければ、あなたに届かないと思ったからです」

 

 その答えに星露は満足する。実に彼女好みの回答だ。

 

「なるほど。あやつが太鼓判を押す訳じゃ―――刀藤綺凛よ」

「…………はい」

 

 綺凛が返事をする。

 

「―――疾く吹く風にようにその身を動かし、雷が一瞬で落ちるが如く相手を切り捨てる。『疾風刃雷』。汝の二つ名はそれこそが相応しい」

 

 星露は綺凛を称える。彼女が出来る最大限の言葉を以って。

 

 そして綺凛と観戦者達が気付く。

 

 

「見事じゃ、綺凛よ―――その刃、確とこの身に届いたぞ」

 

 

 綺凛の攻撃を躱しきれたなかった星露の頬には、うっすらと傷が付いていた。

 

『うぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

 次の瞬間には道場中から歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさかこんな結果になるとはね」

「……私は信じられないわ。まさか師父が傷を負うなんて」

 

 双子は二人とも、ただその結果を信じきれず呆然としている。

 

「ねぇ、虎峰。あれって」

「間違いありません。僕たちが使用している、脚部に星辰力を集中して加速する技法です」

「やっぱりそうだよね。でも、虎峰のとは大分違うよね」

「ええ、無茶苦茶な方法ですよ。脚部に全星辰力を集中し強引に加速してました。試合序盤は使用してない所を見ると、恐らく見様見真似でしょう。信じられません」

「……普通は見ただけで出来るもんじゃないよね?」

「当たり前です。集める星辰力が多ければ多いほど制御が難しく、少しでも制御を誤れば自爆確定ですよ。一瞬しか使用しなかったのもそれが原因なんでしょうけど……彼女は元々、星辰力コントロールが優れているんでしょうね。大したものです」

「いやー天才っているもんだねー」

 

 セシリーと虎峰はお互いの見解を話し合う。

 

「見たわね。八幡くん」

「はい、陽乃さん。この目で確かに」

「凄いわね、あの子。あの加速。星露のを見て真似たんでしょ」

「多分そうです。今の自分では届かないと判断し、思いついた手段を試したんでしょう」

「……呆れたわ。それで成功してるんだから尚更ね」

 

 流石の陽乃も驚いた様子だ。見た目と裏腹にとんだ度胸の持ち主だ。

 

「しっかし、八幡くんもよくあんな子を見付けてきたわね」

「刀藤流本家に行ったら偶然会っただけです。別に意図して見付けたわけじゃありませんよ」

「でも、彼女が此処にいるのは君が動いたからでしょ……星導館には取られたくないわ、色んな意味で」

 

 八幡は陽乃の発言が少し気になった。

 

「闘いたいからですか、綺凛と?」

「それもあるけど……今の星導館では彼女の才能を持て余すわ。彼女が強くなりたいならこの学園が一番よ」

「前にある程度は聞きましたけど、そこまでですか? 今の星導館は」

「綺凛ちゃんの相手になるのは、序列二位の千見の盟主くらいじゃないかしら? 他は駄目ね。相手にならないわ」

「千見の盟主。星導館の生徒会長 クローディア・エンフィールドでしたね。純星煌式武装 《パン=ドラ》の使い手の」

「ええ、そうよ。保有者に先の未来を見せると言われている純星煌式武装よ。能力としては最強クラスだけど、その代償の酷さから、今まで彼女以外の使い手はいなかったそうよ」

「それまた凄いチートですね。未来が見えるだなんて。でも、使い手が今までいなかったという事はよっぽど酷い代償なんでしょうね。俺なら使いたくありません」

「私だってそうよ。でも、大丈夫よ。もし闘うことがあっても、ある程度弱点は分かってるから」

 

 陽乃は気楽にそう言った。

 

「どんな弱点ですか?」

「彼女が獅鷲星武祭にだけ出場したという事よ。ついでに言うと、今年の王竜星武祭には出る予定がないわ。さて、八幡くんには分かる?」

「……もしかして、一人だけでは勝てないと?」

「正解。能力の発動条件がよっぽど厳しいか、もしくは能力の発動時間が極端に短いか。そんな所ね。獅鷲星武祭に出たという事は一人で勝てないと公言したようなものよ」

「なるほど。でも一対一だと危ないですよね。その時はどうするんですか?」

「遠距離からの広範囲攻撃でズドンといくわ。そうすれば未来を読んでも関係ないもの」

「まあ、強引ですけど正論ですね」

 

 陽乃の理論は力づくではあるが筋が通っていた。

 

「それにしても中は凄い盛り上がりようね。邪魔するのも悪いし、少し時間を置いた方がいいかしら?」

「いえ、俺はすぐに入った方がいいと思いますよ」

「あら、どうして?」

 

 八幡だけは気付いていた。星露の様子が変化している事に。

 

「星露のスイッチが入ってます。アレは危険な兆候ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 木派の道場は大変な盛り上がりを見せていた。界龍の序列一位 万有天羅に対して一撃を与えるという偉業を達成したのだ。盛り上がるのも無理はない。

 

 その盛り上がりの原因である綺凛は、途轍もない疲れと途方もない達成感を同時に味わっていた。

 其処に星露が近くへとやって来た。

 

「立てるか?」

「あ、はい」

 

 星露の手を借りて綺凛が立ち上がる。しかし綺凛は其処である事に気付いた。

 

「あの、それで勝負って結局どうなるんでしょうか? 二人とも、まだバッジ壊れてないですよね?」

「ああ、そうじゃったな。しかしこの雰囲気の中で続きというのはのう―――儂の負けでよいぞ。良いものを見せてもらったからな」

 

 星露は勝利を綺凛へと譲った。周囲の雰囲気は彼女の栄誉を称える雰囲気になっているし、態々それを壊そうとは思わない。

 

「しかし一つ忠告しておく―――アレは二度と使うな。今のおぬしが次使えば確実に自爆する。一度使って無事だったのは奇跡みたいなものよ」

「―――はい。分かりました」

 

 綺凛は素直に言う事を聞く。追い詰められ、咄嗟に思いついた手段が偶々上手くいっただけの代物だ。彼女自身も進んで使用しようとは思わない。

 

「まあ、ウチに入学して鍛錬を積めば、その内制御可能になるやも知れぬがな―――ところで、綺凛よ」

「は、はい。何でしょうか?」

 

 名前を呼ばれただけなのに、妙に嫌な予感がした。

 

「―――次はいつ闘う?」

「……え?」

 

 ニヤリと星露が笑いながら綺凛に詰め寄ってきた。

 

「今すぐというのは無理じゃろう。しかしおぬしも星脈世代。回復は早かろう。それにおぬしが滞在するのは明日までと聞いている。だとしたら後一戦ぐらいは「―――はい。そこまで」

 

 綺凛に詰め寄った星露が早口で捲し立てていると、いつの間にか誰かがその後ろに立っていた。その誰かは、星露の背中から両腕の脇を通しその身を持ち上げる。結果、持ち上げられた星露は宙ぶらりんの状態になった。

 

 その人物を綺凛はよく知っていた。

 

「―――八幡先輩?」

「お疲れ、綺凛」

 

 八幡が范星露を持ち上げていた。自身の状態に気付いた星露は、顔を後ろに向けそのまま話しかける。

 

「ぬぅ、何をする八幡。折角人が再戦の約束を取り付けようとした所に水を差しおって」

「あのな、見学会の日程を少しは考えろ。綺凛の状態からして今日はもう無理だし、明日も午前中の商業エリアの見学で終了だ。そんな暇はないぞ」

 

 理論的に説得する八幡。しかしそれで彼女は納得しない。

 

「しかしじゃな、八幡。これほどの逸材と闘えないというのは、ご馳走をお預けにされるのと同じ気持ちよ。とても我慢出来るものではないぞ」

「その気持ちが分からんわけではないがな―――じゃあ、こうすればいい」

 

 綺凛の行動はよほど星露を滾らせたのだろう。普段は冷静沈着な星露を抑えきれそうにない。仕方ないので、彼女の行動を誘導すべく提案する。

 

「綺凛をウチへ入学させればいい。そうすれば何時でも闘えるぞ」

「―――なるほど。それもそうじゃな」

 

 八幡の言葉に星露はあっさりと手の平を返した。落ち着いたと判断した八幡は、星露の身体から手を離すと、彼女は地面へと着地する。

 

 そして―――

 

「のう、綺凛。儂はおぬしともっと闘いたいのじゃ。是非界龍に入学してくれんかのう?」

 

 幼女らしくキラキラ目を輝かせながら、年相応の口調で説得を開始した。

 その姿は先程までのカリスマ溢れた姿とは程遠く、幼い幼女そのものだ。綺凛はそのギャップに戸惑ってしまう。

 

「あ、あの。えーと」

「何じゃ? 駄目なのか? おぬしが入学してくれれば、これ程嬉しいことはないというのに」

「えーと、そういう訳ではないんですけど、あの、八幡先輩! わ、わたしどうしたら!?」

 

 幼女に詰め寄られ混乱する綺凛。八幡は一瞬助けるか悩んだが―――

 

「……俺も綺凛に入学してほしいからな。大人しく説得を受けてくれ」

「は、八幡せんぱーい!?」

 

 問答無用で闘わされるよりはマシと思い、綺凛を星露の生け贄へと差し出した。

 

「はーい。失礼するわよ」

「皆さん。お疲れ様です」

「はーい。皆、お疲れー」

 

 そんなやり取りをしていたら、陽乃たちが道場に入ってきた。近くにいた木派の門下生達を労い、声を掛けていく。

 

 星露は綺凛の説得を続けている。そちらは放っておいて、陽乃たちに合流しようと思った―――その時だった。

 

「―――八幡」

 

 少女の声が聞こえた。

 

 聞き覚えのある声に、慌てて振り向いた八幡が見たのは―――

 

「―――お前、ルミルミ?」

「ルミルミ違う。留美」

 

 范八幡と鶴見留美。それは約九か月振りの再会だった。

 




刀藤綺凛 VS 范星露(手加減)いかがでしたでしょうか?

とりあえず、綺凛ちゃんは星露に対して一矢報いました。
千里眼を予想された方もいましたが、残念ながら外れです。

原作前なので、綺凛ちゃんの経験値が足りないのが原因ですね。
開眼はもう少しレベルアップしてからです。

ただ、今回別の進化を遂げる可能性が出てきましたので、更に強くなるかもです。
どうなるかは今後をお楽しみに。

そして最後に再会した八幡と留美。
次回はちょっとした修羅場が発生するかも……


星露の弟子入りに関しての補足事項。

アニメ勢の方に説明すると、13話で界龍の生徒が一斉に星露に襲い掛かったアレです。
初見の時は、あんなの触れる奴がいるのか!と作者は思いました。

誤字、脱字、感想等あれば、よろしくお願いします。
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