学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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前回投稿から2か月弱。遅くなりましたが続きをどうぞ。



第三話 星脈世代の落ちこぼれ

「はあぁぁぁ!!」

 

 少年は手に持った木刀を目の前の相手に振り下ろす。

 星辰力で覆われたその一撃は、並みの相手なら反応出来ないほどだ。

 

 しかし、少年の目の前にいるのは老人は、半歩体をずらす事により紙一重で躱す。

 太刀筋を完璧に見切っている証拠である。

 

 だが、少年も躱されることを見越してか、振り下ろした木刀を切り替えし突きに移行する。

 狙いは老人の胴体。自分の体ごと相手にぶつかる感じで繰り出すが、それすらも当たらない。

 少年の一撃は、老人の手に持った木刀に流され、そのまま老人の後方に体が流される。

 

 間合いが開き、お互い振り向きあった所で老人は話しかけた。

 

「うん、今のはなかなか良かったぞ」

「まだまだ!!!」

 

 少年は言葉と同時に星辰力をさらに高める。

 それにより、さきほどの倍以上の星辰力が解放され、少年の力と速度が格段に跳ね上がる。

 

 何も知らない者がこの光景を見たら驚くだろう。

 少年から放たれている星辰力は、その年に見合わぬ量であった。

 少年はまだ幼く、年の頃4、5歳といった所だ。

 だが、その星辰力の量は余りにも多すぎる。

 100人余り星脈世代がいる門下生の中で少年が一番であると言えば、少しはその異常さが分かるだろう。

 

 そんな少年と相対している老人も、これまた異常であった。

 老人に星辰力は感じられない。星辰力を隠しているのではなく、老人は星脈世代ではないからだ。

 本来なら老人に勝ち目はないはずだが、今まで何十回と立ち合いをして少年が勝ったことは一度もなかった。

 

「さぁ、来なさい」

「行きます!!」

 

 老人の言葉に呼応するかのように、少年が飛び出す。

 先程の攻撃よりさらに早く鋭く、怒涛の攻撃を繰り出すも、受けられ、流され、避けられる。

 その後、幾度となく攻め続けるも当たる気配がない。

 

 やがて――――――

 

 老人の木刀が、少年の喉元の前で止まっていた。

 

 

「むうぅぅぅ………」

「ほっほっほ。惜しかったのう」

 

 頬を膨らませながら少年が悔しがる。

 目の前の老人は健闘を称えているが、少年の悔しい気持ちが収まらない。

 

「……先生って本当に星脈世代じゃないんですか?」

「見れば分かるじゃろう。儂は星辰力なぞ持ち合わせておらんぞ」

「……それは見れば分かりますけど」

 

 分かっていたことだが、それでも信じられない。

 少年が老人に挑み続けて数十回。いまだ勝つどころか一太刀すら浴びせられないのだから。

 しかし、悔しがってばかりではいられない。

 

「………どうすれば先生に勝てるんですか?」

「そうじゃのう。お主はまだ若い。今はひたすら鍛錬を積むのが一番じゃ」

「……分かってます」

 

 当たり前の事だった。だが、少年とて日々の鍛錬は欠かさず行っている。

 それでも足りないのなら、鍛錬の時間をさらに増やすかと考える。

 

「そうじゃのう。少し助言を与えるとすれば相手を見る事じゃ」

「………相手を見る?」

「うむ、お主の星辰力はとても多い。その星辰力を活かせば、大人とて倒せてしまうじゃろう」

 

 それは事実だ。少年が道場に入門して1年。

 技術的にはまだ大人には敵わないが、その豊富な星辰力のおかげで大人をもをなぎ倒してきた。

 だが、目の前の老人にはそれも通用しなかった。

 

「もちろん技も大事じゃ。日々の鍛錬をこなしてゆけば、自然と技術は向上する。

 お主は練習熱心じゃなからな。そこは心配しておらん。

 だが、今のお主は何も考えず、ただひたすら攻める事しか考えていないのではないか?」

 

 言われて少年ははっとする。老人の言う事が正しいと気付いたからだ。

 

「確かに、星辰力を高めて攻撃する事ばかり考えてました」

「それで勝ててしまうからまた問題なのじゃがな。だからこそ、儂はお主を引き取った」

 

 老人の言葉を聞いて思い出す。少年の本来の師は目の前の老人ではない。

 星脈世代を道場で預かる場合、教える人もまた星脈世代になるのが普通である。

 

 だが、少年の才能がそれを例外とした。

 勿論、星脈世代の師範代の中には少年に勝るものがいるが、ごく少数である。

 わずか一年でそこまで急成長を遂げた少年の才能に、老人は目を付けた。

 

 老人はこの道場を立ち上げた張本人である。非星脈世代ではあるがその力量は道場一である。

 普段は息子が道場を統括している為、表に出てくることはない。

 

 が、目の前の少年の可能性を広げるために、自ら師匠の座を買って出たのだ。

 

「だからこそ相手をよく見ることが必要なのじゃ。

 相手の目線を、腕の位置を、足の運びを、それらを見る事で相手の狙いを読む事が出来る。

 さらに、それを極める事のより相手を誘導することもまた可能になる。

 儂がお主に勝てる理由の一つでもある」

「そんな事が出来るんですか!?」

 

 老人の言葉に驚く少年。そんな事が出来るとは今まで考えたこともなかった。

 

「出来るかどうかはお主次第じゃ、こればっかりは一朝一夕ではいかん。

 鍛錬時だけではなく、日常生活においても相手を観察する事から始めるとよいぞ」

「分かりました。やってみます」

 

 老人の助言に素直に頷く少年。この素直さが少年の強さの一つだ。

 そんな少年の姿を見て、老人は嬉しく思う。

 年が若く、練習熱心で才能もある。少年を育てる事が老人の数少ない楽しみだ。

 このまま育て上げる事が出来れば、どれほどの高みに到達できるか………

 

「おう、親父。もう時間だ。他の連中はもうほとんど帰ってるぞ」

「………おお、もうそんな時間か」

 

 考え込んでいた老人に、男が近づき声を掛けた。

 時計を確認すると、予定していた練習時間を大幅に過ぎている。

 これはいけないと老人は急ぎ足で部屋の外に出て、その場には少年と男が残された。

 

「よう、坊主。今日も頑張ってたか?」

「はい、師範代」

「そうかそうか。よし、そんな坊主にはこいつをやろう」

 

 少年の返事に男は上機嫌になり、少年の頭を撫でた。

 そして手に持った飲み物を手渡した。

 

「またこれですか、師範代」

「何だ、不満か。坊主」

「嫌いじゃないですけど、ちょっと甘すぎますよ。このMAXコーヒー」

「おめぇも分かってねぇなぁ~人生はつらく苦しいもんだ。だからこそ、コーヒーくらいは甘くていいんだよ」

「……よく意味が分かりません」

「おめぇも大人になればよく分かるさ。坊主」

 

 そう言って、男は再度少年の頭を撫でる。

 しばらく撫でられた後、老人が部屋に戻ってくる。

 

「これで終わりじゃな……何じゃお前、またそんな物を飲んでおったのか」

「いいじゃねぇか、美味いんだよ。こいつは」

「儂には甘すぎて飲めたもんじゃないがのう。さて、今日の稽古はこれで終了じゃ。

 気を付けて帰るのじゃぞ」

「分かりました。それでは、師匠・師範代、失礼します」

 少年は一礼をする。

 

「おう、またな。坊主」

「うむ、また明日よろしくのう。八幡君」

 

 少年は二人に背を向け歩き出す。

 その背を見つめる二人は、笑みを浮かべ少年を見送った。

 

 

 

 これは、比企谷八幡が道場に入門して一年後の出来事であり

 

 

 

 

 ―――――彼が剣を捨てる二年前の出来事であった。

 

 

 

 

 目の前には見慣れた天井が見える。

 時刻を確認した所、午前四時を回ったところ。いつも起きる時間より一時間早い。

 窓の外には、夜明け前の暗闇が広がっていた。

 

「………夢か。また懐かしい夢を見たもんだ」

 

 それはまだ幼いころの記憶。

 剣を習い始めて一年の月日が経ち、先生の弟子となり無我夢中で挑み続けたあの日々。

 

 道場で剣を習うのが楽しかった。才能があると言われて嬉しかった。

 まだ小さい妹はとても可愛く、両親からも愛されていた。

 毎日がとても楽しく、自らの目もまだ腐っておらず光り輝いていた。

 忘れたくても、忘れられない記憶だ。

 

 だが、それを捨てたのは彼自身だった。

 

「………後悔なんてするはずがない」

 

 自らに言い聞かせるように呟く。だが、その口調が弱々しい事に本人は気付いていない。

 

 立ち上がり、机の横に置いてある物を手に取る。それは木刀だった。今の彼には小さい子供用の木刀である。

 剣の道は捨てたが、使用していた木刀はどうしても捨てられなかった。

 

「……………未練だな」

 

 剣を習っていた最後の証が捨てられない事が、彼自身の未練を表していた。

 

 

 

 

「ふぁぁぁぁ~~」

 

 結局それから一睡もできなかった。

 日課のランニングをいつもより早めに行い、帰宅した後で急激に眠気が襲ってきた。

 

 だが、陽乃のとの約束がお昼の時間なので、今から寝直すとおそらく寝坊する。

 仕方ないので、ブラックコーヒーを飲み眠気を覚ました。

 

「さて、まずは洗濯して掃除だな」

 

 やるべき事はたくさんある。まずは、洗濯から取り掛かることにした。

 

 洗濯機を回している間、各部屋に掃除機を掛けていく。

 今、家には八幡以外誰もいないので音で誰か起こしてしまう心配はない。

 

「………親父たちは、小町の所に向かってる途中か」

 

 掃除の最中に、妹の応援に行った両親の事を思い出す。

 八幡がランニングから戻ってきたら、既に両親は家にはいなかった。

 妹の今回の合宿先である東京に向かったと思われる。

 

「こんなに朝早くから押し掛けてどうするんだか。

  あまりプレッシャーをかけない方がいいと思うんだがな」

 

 昔から両親はアスタリスクに拘っている節があった。

 非星脈世代である両親から生まれた二人の星脈世代。

 星脈世代同士の親から星脈世代が生まれる確率はそれなりに高いが、逆は恐ろしく低い。

 八幡と小町の両方が星脈世代だと判明したことにより両親は歓喜、いや狂喜した。

 

 学戦都市アスタリスク

 

 世界最大のエンターテイメントであるこの都市で活躍すれば、地位も名誉も手に入り

 巨額の金も手に入る。

 

 星脈世代は世間的に差別される存在だが、それでもなお星脈世代を求める親が多いのは全てアスタリスクが原因であるともいえる。

 

 星脈世代の子供たちはアスタリスクへ憧れそこを目指し、親もまたアスタリスクへ向かわせるために教育・あるいは武術を習わさせる。八幡が習っていた剣術道場も星脈世代の推奨プログラムの一つだった。

 

 妹の比企谷小町もまた、アスタリスクを目指す一人ではあるのだが

 

 

 長らく話をしていない妹の様子を思い出す。

 

 小学六年生になった妹に対する両親の教育は過剰の域に達していた。

 アスタリスクからのスカウトの目に留まるために、日本にある各大会への参加。

 今回のように合宿に勝手に応募する事も珍しくない。

 

 全ては妹をアスタリスクへ。

 

 その両親の勝手で過大な期待は妹に負担を強いていた。

 幼いころに浮かべていた純粋な笑顔は減り、口数は少なくなっていった。

 

 仕事の忙しい両親に代わり、二人でこなしていた家事は、必然と八幡だけがやらされるようになった。

 そして、妹が両親の期待に応えようとしていく中、何もしていない八幡に対して、妹は徐々に話す事をやめ敵意すら向けるようになった。

 

 だが、妹が親や周りにそれを悟らせることはない。対外的には仲の良い兄妹に見えていただろう。

 妹が何を思ってそう振舞っているかは分からないが、八幡がそれを指摘する事はなかった。

 

 

「………ままならないものだな」

 

 幼いころのあの日の選択が間違っていたとは思いたくない。

 だが、妹のためにと思い決断したことが、巡り廻って今妹の負担になっている。

 

 これでは何の意味があったか分からない。

 

 あの日、幼い妹が泣いていた。あの日、幼い妹が涙ながらに訴えた。

 そして、幼い兄は自らを犠牲にすることでそれを解決した。

 その選択は間違いだったのかもしれない。

 

 だが、今更戻るわけにはいかない。

 

 拳を握りしめ、星辰力を集中する。

 だが、そこからは微弱の星辰力しか発生していない。

 子供の頃の持ち合わせた膨大な星辰力は、今はもう見る影もなかった。

 

 

 比企谷八幡は落ちこぼれの星脈世代で、両親の期待に背いた。

 

 比企谷八幡は剣を捨て、星辰力も捨て、師匠たちの期待を裏切った。

 

「………そう、それでいいんだ」

 

 今はただ、この道を貫くしか選択肢はないのだから。

 

 

 

 

 一通りの家事を終え、気が付けば午前11時を回っていた。

 約束の時間が迫ってきているので、少し早いが出掛ける事にした。

 

 自転車に走らせ、しばらくすると街に入り目的地の喫茶店に向かう。

 

 その途中何かが聴こえた。

 気になったので、自転車を止め耳を傾けると歌が聴こえてきた。

 その歌には聞き覚えがある。

 

「シルヴィア・リューネハイムか」

 

 アスタリスクにある学園の一つ、クインヴェールでは学園の戦略の一つとして

 生徒にアイドル活動を兼業させている。

 その為、他学園と比べて所属の生徒は外部にも大きく知られている。

 

 その中でも、シルヴィア・リューネハイムの名は特別である。

 世界の歌姫と称される彼女は、文字通り世界中に人々知られており熱狂的なファンも多い。

 

「……そういえば、新曲が出てたな」

 

 少し前に新曲が発売されていたのを思い出す。

 ここ最近はトラブル続きだったので、すっかり忘れていた。

 

「後で買ってみるか」

 再び自転車を走らせ目的地に向かう。

 

 

 

 

 

 

 目の前に喫茶店が見えてきた。時間を確認すると時刻は午前11時30分。

 昼前にもかかわらず、駐車場には車が一台も止まっていない。

 珍しいなと思いつつ、自転車を止め店の前に立つ。

 ひょっとしたら店が休みかと思ったが営業はしてるようだ。その事に安心しつつ店の扉を開ける。

 

「いらっしゃいませ」

 

 スタッフの挨拶を受けた後、店の中に視線を向け陽乃を探す。

 店自体は狭いため、探せばすぐに見つかった。というか、客が陽乃一人だけだった。

 

「待ち合わせをしてますので」

 

 スタッフに断り陽乃の方へ足を進める。

 近くまで来たその時、陽乃が振り向かい話しかけてくる。

 

「やっほ~~!比企谷くん~」

 

 その声を聴いた瞬間、足を止める。

 

 

 ――――あれは何だ?

 

 

「どうしたの?私はここだよ~~」

 

 目の前にいるのは雪ノ下の陽乃のはずだ。

 その喋り方も、声も、姿も、星辰力ですら全て雪ノ下陽乃を表している。

 

 だが、何かが違う。

 

「こら!お姉さんを無視すると後が怖いぞ~~」

 

 目の前の何かが喋る度に違和感が酷くなっていく。

 まるで、作られた偽物が喋っているかのようにすら感じる。

 

 もう一度店内を見回す。

 だが、先程探したのと同じく他に客の姿は見えないが、別の違和感を見つけた。

 それを見つけた瞬間そこに向かい歩き出し、空白の席の前に立つ。

 

「お待たせしました。雪ノ下さん」

 

 その言葉を発した瞬間、目の前の空間が揺らぎはじめる。

 後ろで話していた何かは姿を消し、目の前に見慣れた人物が浮かび上がる。

 

 そして僅かな時間が経ち―――

 

「見つけてくれると信じてたよ。比企谷くん」

 

 先日と同じく、穏やかな笑みを浮かべた雪ノ下陽乃が八幡を迎えた。

 

「ぼっちは視線に敏感ですから。いくら隠してもこちらを見てれば分かります」

「なるほど。私の星仙術もまだまだだね~」

 苦笑する陽乃。

 

「さて、いろいろ言いたいことはあると思うけど、まずは食事にしようか?」

 その言葉に素直に頷いた。

 

 

 

 食事を終え二人は飲み物に飲んでいた。飲んでいるものは先日と同じ物。

 八幡はホットコーヒーで陽乃は紅茶である。

 

「さて、まずは呼び出した要件から話そうか。これを見て」

 

 目の前に置かれたのは一枚の封筒だった。

 中を見るように促されて封筒を開ける。入っていたのは幾つかの紙の書類。

 携帯端末が普及した現在において、通常の書類はデータ化される事が多い。

 わざわざ紙の書類で持ってくるということは、この書類がそれなりに重要な書類だという事だ。

 

 八幡は封筒の中身を取り出し、その項目を読み上げた。

 

「特待生推薦状?」

「そう……比企谷八幡くん」

 

 困惑する八幡に陽乃は告げる。その胸にある龍の校章を誇るかのように

 

 

 

「私たち界龍第七学院は、あなたを特待生として推薦します」

 

 

 

 

 この日、この時、この瞬間より、比企谷八幡の運命は大きく動き出す。

 

 

 それは本人だけではなく、周りの人も運命もまた変化する事になる。

 

 

 それがどのような結果になるのかは、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 




基本的に、この小説は序盤暗い話になっています。
アスタリスクは、アニメ、二次創作、原作の順に拝見しましたが、原作を読むと設定が結構重い。

星脈世代と非星脈世代。アスタリスクを目指すことを望む両親とそれを拒む子供。
外から見たアスタリスクというのが、この小説で書きたかったことの一つ。

こんな小説ですが、楽しんでくださる方がいれば幸いです。

展開は大体決まっていますが、文章に起こすのに苦労している為
恐らく次回も時間がかかるかもしれません。

それではまた次回もよろしくお願いします。

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